ガルヴォルスBlade 第11話「戦慄の鮮血」
麻子と千佳を追いかけていた華音だったが、怪物の伸ばしてきた触手に捕まってしまう。
「あなたのその美しさ、いただかせてもらうわよ・・・」
怪物が血を吸おうと、華音に触手を伸ばす。危機感を覚えた華音が異形の怪物へと変貌する。
「ぐっ!」
だが華音は触手から抜け出ることができず、触手に体を刺されてしまう。痛みを感じて彼女が顔を歪める。
「あなたも私と同じだったのね・・でも美しくて若々しいことに変わりはない・・・」
怪物が華音から血を吸い取っていく。血を吸われる苦痛にさいなまれて、華音がうめく。
「おいしい・・私と同じ存在だけど、おいしい血を持っているのね・・」
華音の血を味を感じて、怪物が喜びを膨らませていく。
そのとき、華音は痛みに耐えて力を振り絞り、触手を引きちぎって脱出した。彼女の体や触手から血が飛び散り、地面を紅くぬらす。
「すごい力の持ち主のようね・・私の触手を引きちぎるなんて・・・」
1度触手を戻した怪物が、呼吸を整える華音を見据えて笑みをこぼす。
「でもせっかくのこのおいしくて若々しい血、逃すわけにはいかないわ・・・!」
笑みを強めた怪物が再び触手を伸ばす。だが華音が右手から伸ばした刃に触手が切り裂かれる。
「そうやって・・そうやってみんなを食い物にしているのか、あなたは!?」
怒りをあらわにした華音が、怪物に向かって飛びかかる。彼女が振りかざす刃を、怪物は後ろに下がってかわす。
「これだけすごいと厄介だけど、それでも血がほしいって気持ちが強いわ・・」
怪物が喜びの笑みをこぼしながら、華音に向けて触手を伸ばす。だがこれも華音が振りかざした刃に切り裂かれる。
「今回はちょっと相手が悪かったようね・・今回は尻尾を巻くけど、絶対に諦めないから・・・!」
怪物は捨て台詞を口にすると、華音から逃げ出していく。追いかけようとした華音だが、怪物の逃げ足は速く見逃してしまった。
「逃げられた・・力では勝ててるって実感があったのに・・・」
人間の姿に戻った華音が毒づく。彼女は自分自身の力に振り回されることなく、安定した心理状態にあった。
「大丈夫・・僕は自分で力を使って戦っていた・・・」
無自覚でないことを言い聞かせていく華音。彼女は異形の力のために自分を見失っていなかった。
「麻子ちゃんと千佳さんと合流しないと・・」
華音は麻子と千佳を追いかけようと駆け出して行った。
寮から出かけた麻子と千佳は街に繰り出していた。2人は街中のファーストフード店で小休止していた。
「華音ちゃん、変わり者だけどいい子ね。いろいろと悩みを抱えているところは正直者って感じで・・」
「はい・・でも華音ちゃん、あたしにも何を悩んでいるのか教えてくれないんです・・確かに自分のことは自分で解決したほうがいいって、あたしも思うんですけど・・」
千佳が切り出した言葉を聞いて、麻子が表情を曇らせる。
「でも華音ちゃん、自分のことより周りのみんなをって感じなんですよね・・自分以外の人のために頑張れるのはすごいですよね・・?」
「それは私も思うよ・・でもそのために自分が犠牲になるのは逆にどうかとも思う・・」
麻子が口にする言葉に、千佳が答えていく。
「こういうことで周りがサポートできればいいんだけど、自分で何とかしないと解決しないことだから・・」
千佳の言葉に反論できず、麻子は沈痛の面持ちを浮かべたまま小さく頷いた。
「あれ?あそこにいるの、華音ちゃん・・」
「えっ?」
麻子が口にした言葉に千佳が疑問符を浮かべる。麻子が指差す先に、人ごみの中にいる華音の姿があった。
「華音ちゃん、こっちー!」
麻子が華音に向かって声を上げた。窓越しのために声は伝わらなかったが、麻子の姿に華音は気付いた。
華音の血の味に好感を抱いていた女性。今狙っても返り討ちにされるとも考えていた女性は、別の女性を捕まえて生き血を吸い、力を蓄えていた。
数人の女性をいっぺんに捕まえていた怪物。その触手から次々に血を吸われて、彼女たちは若々しさを失ってミイラと化していった。
「あの子の血を全部吸い切るには、もっと強くならないといけない・・私が血を吸うことで得られるのは若さや美しさだけじゃないのよ・・」
女性たちから全て血を吸い切った怪物が呟いていく。
「血を吸えばパワーアップにもなる・・こうしていけば、いつかあの子の力を超えられる・・あの味をじっくりたっぷり味わえるときが・・・」
歓喜と期待を募らせていく怪物が、触手を引っ込めて人間の姿に戻る。崖下にはミイラ化した女性たちの亡骸が転がっていた。
麻子と千佳と合流した華音は、落ち着きを取り戻しつつあった。
「華音ちゃん、休んでいなくてもう平気・・?」
「うん・・元気になったかどうか分かんないけど、じっとしているより体を動かしたほうがいいかなって・・」
心配の声をかける麻子に、華音が照れ笑いを見せる。
「まぁ、吹っ切れたってことでいいのかな・・?」
「どうでしょうか・・自分のことなのに、自分でもよく分かんなくなるんですよね・・」
千佳が笑みを見せると、華音が戸惑いを浮かべる。
自分のことで悩んできたことは、華音もなかったわけではなかった。だが今自分が抱えている悩みは、あまりにも自分に余ることだと彼女は感じていた。
「さて、ちょっと華音ちゃんが働いているレストランにでも行ってみようか。」
「さんせーい♪なんだかんだ言って、あたしも華音ちゃんのバイト先、1度も言ってなかったんだよね♪」
千佳が打ち明けた提案に、麻子が明るく賛成する。
「ち、ちょっと待ってって!来られちゃ困るって!恥ずかしいって!」
すると華音が赤面して反対してきた。しかし千佳も麻子も彼女ににやけてきた。
「心配しなくていいって。普通のお客さんのフリするから。」
「邪魔しないから、邪魔しないから♪」
「でもあそこにはアイツが、双真もいるから!」
からかってくる千佳と麻子だが、華音のこの言葉を聞いて麻子が息をのむ。
「えっ!?あの女殺しもいるの!?あんなのに接客なんてできるわけないって!」
「うん・・だから皿洗いや、閉店時の清掃とかやっているんだよ・・」
驚きの声を上げる麻子に、華音が説明していく。
「女殺し・・相当の女嫌いなんでしょうね・・」
華音の話を聞いて、千佳が興味津々の素振りを見せる。断りきれないと思い、華音が肩を落とした。
その翌日の午後、華音がレストランでの仕事をしている中、麻子と千佳が訪れた。厨房で双真が皿洗いをしているのを目にして、麻子が冷や汗を浮かべる。
「いやぁ、ホントに働いてたなんて・・信じられないよ・・・」
「あれが問題の彼か・・ああして見ると真面目そうなんだけどね・・」
千佳が双真の働きぶりを見て呟きかける。彼女たちに注文を取るために、華音がやってきた。
「か、華音ちゃん・・・!?」
「ウェイトレスじゃなくて、ウェイター・・・!?」
華音のウェイター姿に、麻子も千佳も驚きを隠せなくなっていた。
「だからイヤだったんです・・・ご注文をどうぞ・・」
華音が呟きかけると、麻子と千佳に注文を取った。その間にも、双真は厨房にて黙々と皿洗いを続けていた。
その日の仕事が終わり、華音がレストランから出てきた。外で待っていた麻子と千佳が、華音を迎えた。
「いやぁ、ホントにビックリだったよ〜・・華音ちゃん、仕事でも男っぽいんだから・・」
「僕、こんな性格だから、逆に女の子らしくするのが苦手になっちゃって・・・」
再び驚きの言葉をかける麻子に、華音が照れながら答える。
「でも仕事はしっかりやれていたじゃない。私も感心したよ・・」
すると千佳が華音の仕事ぶりを褒めてきた。
「そんなことないですよ・・今は何とかやれていますけど、最初は失敗ばかりで、本当だったら大目玉くらうところですよ・・」
「そうかい・・まぁ、誰だって最初は失敗ばかりで、そこから学んで一人前になっていくものだからね・・しっかりしていっているなら、そんなに気にすることはないんじゃないかな・・」
参っている華音に千佳が励ましの言葉を投げかけていく。
「他の店員も店長もいい人ばかりで・・華音ちゃん、恵まれているって思うよ・・」
「・・確かにそうですね・・翔太さんやみなさんが親切にしてくれなかったら、僕はああして仕事することもできなかったと思います・・」
「まぁ私は、そういうところが恵まれなくて、あの有様になっちゃったんだけどね・・」
互いに苦笑いを見せ合う華音と千佳。華音は千佳とも意気投合して、気分を和ませていた。
「あっ!いけない!買わないといけないものがあった!」
そのとき、麻子が突然大声を上げてきた。その声に華音が驚きを見せる。
「おどかさないでよ、麻子ちゃん・・何かあったのかってビックリしたじゃないか・・」
「いやぁ、ゴメンゴメン、エヘヘへ・・・」
肩を落とす華音に、麻子が照れ笑いを見せる。
「買い物だったら僕も付き合うよ。」
「ううん、大丈夫、大丈夫♪華音ちゃんと千佳先輩は先に寮に戻ってて♪」
声をかけようとした華音に答えてから、麻子が慌ただしく駆け出して行った。
「お言葉に甘えて、私たちは先に戻っていようよ。待っていると、逆に麻子に悪いし・・」
「千佳さん・・・はい・・」
千佳の言葉を聞き入れて、華音は彼女と一緒に先に女子寮に戻ることにした。
麻子の言葉に甘えて、華音と千佳は先に女子寮に向かっていた。その途中で、千佳が華音に声をかけた。
「少しは元気になったかな、華音ちゃん?」
「えっ?・・・まぁ、少し前よりは・・」
千佳の問いかけに、華音が当惑を見せながら答える。華音は素直に笑顔を見せることができないでいた。
「千佳さん・・どうしていけば、もっとげんきになれるのでしょうか・・・?」
今度は華音が千佳に質問を投げかけた。
「僕、自分の分からない間に何かとんでもないことをしてしまうんじゃないかって思うようになっているんです。僕自身の知らないところで、誰かを、麻子ちゃんやみんなを傷つけてしまうんじゃないかって・・」
「華音ちゃん・・・」
「千佳さん、僕、どうしていけばいいんでしょうか?・・何をしたら、僕自身やみんなのためになるのでしょうか・・・?」
不安を浮かべる華音に、千佳が戸惑いを見せる。だがすぐに千佳は笑みを取り戻した。
「それは、華音ちゃんが納得するようにしていけばいいんじゃないかな?」
「僕が、納得するように・・・?」
千佳の答えを聞いて、華音が戸惑いを見せる。
「華音ちゃん、もしかしたらいろいろと頭で考えて失敗するタイプじゃないかな?ヘンに考えて、いつもの調子が出なくなるタイプじゃないかな・・?」
「うぅ・・確かに、そんな気が・・・」
「そんなタイプは、あまり考え込まないで、自分の気持ちのままにやっていけばいいと思うよ。頭より体を動かして、ガムシャラにいくのがいいんじゃいかな?」
「ガムシャラに・・ガムシャラに・・・」
千佳からの励ましの言葉を受けて、華音が動揺を募らせていく。
(そうだ・・僕は力や、力に振り回されて自分を見失うことを怖がっていた・・自分が心から望んでいた、つばきさんが反対していても求め続けていた力なのに・・・)
華音が心の中で自分の気持ちと決心を確かめていく。
(もう僕が思うようにやっていけばいいんだよね・・自分を見失わなければ、何の問題もない・・力に振り回されることもなくなる・・・)
華音の中で勇気と安らぎが湧いてきた。彼女は無意識に自分の両手を握りしめていた。
「ありがとうございます、千佳さん・・僕、何だかやれそうな気がしてきました・・・」
「私は大したことはしていないよ。やる気を出したのはあくまで華音ちゃん自身なんだから・・」
感謝の言葉をかける華音に、千佳が気さくな笑みを見せる。千佳に支えられて、華音は揺らいでいた気持ちを落ち着かせることができるようになっていた。
「それにしても麻子、遅いね。どこまで買い物にいったっていうの?」
千佳が麻子を心配して足を止めた。
「本当に遅いですね・・やっぱり引き返して、迎えに行ったほうがいいんじゃないでしょうか・・・?」
華音が千佳に同意して、麻子のところに戻ろうとした。
そのとき、幾本もの触手が華音と千佳のそばの茂みから飛び出してきた。触手は千佳の体を縛りつけて茂みの中へ引き込んだ。
「千佳さん!」
華音が慌てて千佳を追いかけて、茂みの中に飛び込む。
(今の・・まさか、あの怪物がまた・・・!)
心の中で緊迫する華音。女性の血を吸う怪物が、次の獲物を狙って千佳を襲ってきた。
茂みを必死に駆け抜けて、華音は広場へと飛び出した。
「もらうわよ・・あなたの血・・・」
だが華音が千佳を発見したときには、千佳の体に触手が突き刺さっていた。
「千佳、さん・・・!?」
華音はこの瞬間に目を疑った。千佳の体が血を吸われて干からびていっていた。
「華音ちゃん・・・逃げ・・・て・・・」
声を振り絞る千佳が全ての血を吸い取られてミイラと化してしまった。華音の目の前で、千佳の体がバラバラになって崩れていった。
「その人の血をなかなかだったわ・・でも、あなたほどじゃなかったかも・・」
華音の前に怪物が姿を現した。千佳の血を吸って、怪物は喜びを募らせていた。
「今までで大分血を吸ったはずよ。若さ、美しさ、力、全てたくさん手に入れることができたわ・・」
怪物が淡々と華音に向けて声をかけていく。
「これであなたを超えることができたはず・・そうでなくてもかなり近い力にはなっている・・・」
怪物が華音にゆっくりと近づく。怪物の体から触手が伸びてきていた。
「今度はあなたの血をもらうわ。あなたのおいしい血、私がじっくりと味わってあげる・・・」
「どうして・・・どうして千佳さんを・・・!?」
笑みをこぼす怪物に対し、華音が声を振り絞る。彼女の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「どうして千佳さんを!?」
怒号を上げた華音が異形の姿に変貌する。彼女は怪物への怒りと憎悪を一気に膨らませていた。
「こ、これって・・・!?」
怪物が驚きを感じて思わず後ずさりする。今の華音には殺気と狂気が満ちていた。
「どうして・・どうして千佳さんを・・・!?」
華音が再び声を振り絞ると、右手から刃を伸ばして振りかざした。この一閃が速く、怪物は反応することもままならなかった。
「うあっ!」
体を切り付けられて、怪物が悲鳴を上げる。血をあふれさせて苦しむ怪物に向けて、華音がさらに刃を振りかざす。
「許さない・・お前だけは許さない!」
怒りの声を上げる華音。千佳を失った彼女は、怒りのために自分をも見失っていた。
次回
「僕は・・僕はもう・・・」
「どういうことなの・・どういうことなの、華音ちゃん!?」
「まさか、こんな形で理想の形に近づいていくなんてね・・・」
「華音、ちゃん・・・!?」
「抑えられない・・自分の中にあるこの怒りを・・・!」