ガルヴォルスBlade 第9話「力の混乱」
寮に帰る途中、華音の前に秀樹が現れた。憤りを募らせた2人は、ともに異形の怪物へと変身する。
「ここで切り刻んでやるよ・・その姿になっていいのはつばきさんだけだ・・・!」
「つばきさんの命を奪ったお前を、僕は絶対に許さない・・・!」
同時に刃を構えて飛びかかる秀樹と華音。2つの刃が空を切り、ぶつかり合って火花を散らす。
「どうしたの?・・つばきさんとは全然程遠い・・・」
余裕を見せる秀樹と、徐々に焦りを見せるようになる華音。秀樹の力に押されて、華音が突き飛ばされて木の幹に叩き付けられる。
「そんな・・強くなっているはずなのに、思うように動けない・・・!」
「力はあっても、うまく使えてないみたいだね・・人間のときよりはマシになったけど、それでも僕には全然敵わない・・」
苦痛を覚えてうめく華音に、秀樹が悠然と語りかける。
「説教なんて僕らしくないから、すぐに始末させてもらうよ・・」
秀樹が華音に向けて刃を振りかざす。華音はとっさに動いて、秀樹の刃をかわす。
華音が即座に刃を振りかざすが、秀樹が構えた刃に防がれる。先ほど切り裂かれた木が倒れて轟音を響かせる。
「やるようになったね・・でもまだまだだ・・・!」
秀樹が華音の刃を払い、彼女の体に右手を突き出す。その爪に体を突き刺さられて、華音が顔を歪める。
秀樹を突き放そうとする華音だが、喉元に刃を突き立てられて動きを止める。
「悪あがきは見苦しいよ・・・」
笑みを強める秀樹の前で、華音が怒りを膨らませていく。
「僕は負けない・・お前を倒さないと、僕の心は晴れない!」
激情に駆り立てられた華音が力任せに秀樹を突き飛ばす。彼の刃がかすめ、華音の頬に傷がつく。
痛みと傷を顧みずに、華音は秀樹に攻撃を仕掛けていく。さらに彼女は左手からも刃を伸ばして、秀樹を攻め立てる。
「お前だけは・・お前だけは!」
華音が2本の刃を突き出す。秀樹が刃を受け止めきれずに突き飛ばされる。
「力が上がっている・・ここに来て力をうまく使えるようになってきたか・・・!」
追い詰められていく秀樹が余裕を消して危機感を募らせていく。だが彼は危機感よりも苛立ちのほうがまだ強かった。
「でもこのくらいでやられる僕じゃない・・つばきさんの姿と力を利用するヤツを、僕は認めな・・・!」
秀樹が声を振り絞ったときだった。華音が振りかざした刃からいくつものかまいたちが放たれた。
「おあっ!」
真空の刃を受けて、秀樹が全身を切り裂かれていく。彼は自分の刃を振りかざして、華音の攻撃をかいくぐった。
「僕がまた、尻尾を巻いて逃げることになるとは!」
「待て!逃げるな!」
遠ざかっていく秀樹を追いかけようとする華音。
だがそのとき、華音は自分の体に違和感を覚えて足を止めた。力を消耗した彼女の姿が人間へと戻っていった。
「あ、あれ?・・僕は・・・?」
自我を取り戻した華音が当惑する。自分が何をしていたのかおぼろげにしか思い出せず、彼女は体を震わせて自分の両手を見つめていた。
「僕・・何を考えて・・・!?」
自分が狂気に駆られていたと思い、華音が恐怖する。彼女は押し寄せる恐怖を振り払おうとしながら、女子寮に戻っていくのだった。
森の中を逃げ惑う1人の女子。彼女が走り抜けている森には、視界をさえぎるほどの霧が広がっていた。
周りがよく見えないため一目散に逃げることができず、女子は恐怖を膨らませる一方だった。
だが女子が本当に直面する恐怖はここからだった。
注意しながら森を進んでいたため、走る速さが遅くなっていた女子。その最中、彼女は体に寒さを感じた。
彼女の体に氷が張りついてきていた。手で払おうとするが、氷はさらに体に張り付いてくる。
「ムダだ、ムダだ・・もうお前は氷の虜だ・・」
霧から不気味な声が響く。だが氷に包まれていく女子には、その声を気にする余裕もなかった。
「イヤ!やめて!どうなってるの、コレ!?」
悲鳴を上げる女子だが、氷から抜け出ることができなくなり、動きを止められていく。
「やめて・・・たすけ・・・て・・・」
ついに声を出すこともできなくなり、女子は完全に氷に包まれた。
「いいぞ、いいぞ・・こうして美少女がじっくりと凍っていくのを見るのは気持ちがいい・・・」
霧からの不気味な声に喜びが混じってくる。女子は森の中で、霧によって氷付けにされてしまった。
ここ数日、彼女のように何人もの美女が森の中で凍らされていた。だがその誰もが発見されておらず、行方不明として扱われていた。
異形の姿となって戦う華音。だが彼女の両手も、手から伸ばしている刃も血まみれになっていた。
紅くなっていた自分の両手を見つめて、華音は震えていた。
「僕が・・切り裂いて・・殺したのか・・・!?」
自分がしたことに困惑するばかりの華音。彼女はさらに驚愕を覚えて目を見開く。
彼女の眼下にいたのは怪物ではなく人。自分の親しい人たちの無残な姿だった。
「もしかして・・・僕が・・みんなを・・・!?」
さらに体を震わせる華音がその場に膝をつく。
「違う・・・僕は・・僕は・・・うわあっ!」
絶望が頂点に達し、華音が絶叫を上げた。
「うわあっ!」
「キャッ!」
悲鳴を上げて華音が飛び起きて、麻子が驚いてしりもちをついた。
「えっ?・・・夢、だったのか・・・」
「ビックリしたよ〜・・華音ちゃん、うなされてるから何かあったんじゃないかって思っちゃって・・・」
動揺を覚える華音に、麻子が心配の声を上げる。彼女の言葉を聞いて、華音が作り笑顔を見せる。
「ゴメン、麻子ちゃん・・・イヤな夢を見ちゃって・・・」
「夢・・・ふぅ〜・・夢だったのね、よかった〜・・・」
華音の答えを聞いて、麻子が安心の吐息をついた。
「心配かけてゴメン、麻子・・さて、今日も大学に行かないと・・」
華音が立ち上がろうとしたときだった。彼女は突然倒れそうになり、麻子に支えられる。
「大丈夫、華音ちゃん・・!?」
「う、うん・・ちょっとふらついただけ・・・」
再び心配の声をかける麻子に、華音が微笑みかける。だが彼女が平気でないことは麻子にもわかることだった。
「華音ちゃん、今日は休もう。レストランのほうにもあたしが連絡しておくから・・」
「大丈夫だって、麻子ちゃん・・僕は・・・」
「きっと疲れたんじゃないかな・・ここのところ、華音ちゃん、一生懸命だったからね・・・」
「でも、それだとみんなに迷惑が・・・」
「店長もみんなも許してくれるよ。華音ちゃん、真面目だし。」
「あ、ありがとう・・アハハ・・・」
(失敗ばかりなんだけど・・・)
励ましてくれる麻子に苦笑いを見せるも、華音は心の中で落ち込んでいた。結局華音は麻子の言うことを聞いて、寮の部屋で休むことになった。
その後、1人で大学に来た麻子。2時限目の講義が終わったとき、彼女は流星に声をかけられた。
「今日は華音ちゃんは来ていないみたいだね・・」
「か、かっこいい・・・か、華音ちゃんは今日は休みですけど・・・」
流星の顔を見て惚れながら、麻子が質問に答える。
「どうしたのかな?・・何か用事でも・・?」
「えっと・・ちょっと疲れちゃって・・寮で休んでいるだけですよ・・・」
心配する流星に、麻子が苦笑いを見せて事情を説明する。すると流星が安堵の吐息をつく。
「そうか・・何かあったんじゃないかって思ってしまったよ・・・」
「あ、あの・・あなたは・・・?」
「あ、自己紹介してなかったね・・僕は桂流星。この前この大学で華音ちゃんと会ってね・・」
「そうだったんですか・・・あたし、佐倉麻子。華音ちゃんのルームメイトです。」
流星と麻子が互いに自己紹介をする。しかし華音が心配で、2人とも空元気を見せることになった。
「何か伝えておくことはありますか?あたし、伝えておきますよ。」
「いや、大丈夫だよ。急ぎの用事はないから・・」
麻子が声をかけると、流星が気遣いを見せる。
「それじゃ僕は行くよ。華音ちゃんにお大事にって、それだけ伝えておいて・・」
「はい。あたしこそ、これからもよろしくお願いします♪」
麻子と挨拶を交わすと、流星は講義室を出ていった。
「う〜・・あんなかっこいい人と知り合いだったなんて、華音ちゃんったら〜・・・」
流星への憧れから、麻子はその場で落ち込んでしまった。
麻子に寮で休むように言われた華音。だが彼女は体を休めるためとはいえ、じっとしているのが苦手だった。
「ハァ・・やっぱり体を動かさないと、かえって体が悪くなる気がする・・・何か食べるものを買いに行くって理由をつければ、麻子も許してくれるよね・・・」
自分で勝手に判断して、華音は私服に着替えて寮を出た。彼女は何か食べ物を買おうと、近くのコンビニエンスストアに向かった。
だがその途中の道で、華音は寒気を感じるようになっていた。
「寒くなってきたな・・やっぱりムリに体を動かしたから、体調不良がぶり返してきたのかな・・・」
華音が自分の体を抱きしめながらつぶやく。彼女は自分がまた体調を崩したものと思っていた。
だが彼女はこの寒気が自分の体調のためでないことをすぐに気付いた。彼女の周りには冷たい空気が立ち込めていた。
「違う・・ホントに周りが冷たいんだ・・・!」
この冷たい空気に緊張を覚えて、華音が走り出す。しかし彼女が走っても、冷たい空気が離れない。
(もしかして、これもあの怪物の仕業だっていうの・・・!?)
さらに緊張を膨らませていく華音。彼女は人のいる場所を避けて、自分を狙う敵をおびき出していった。
だが冷たい空気はさらに温度が低くなり、華音はさらなる悪寒を募らせていく。
「わざわざ1人になるとは・・ホントにバカだね・・・」
華音に向けて不気味な声が発せられる。華音はその声が敵であると直感した。
(このままじゃ寒さでやられる・・あの姿になって・・・!)
思い立った華音の頬に異様な紋様か浮かび上がる。だが彼女は怪物に変身することをためらう。
「ダメ・・もしも怪物になって、凶暴になったら・・・!」
自分を見失ってしまうと不安がり、華音が怪物にならない。だがその気持ちを気に留めないかのように、冷たい空気は霧のように白くなっていき、視界をさえぎっていく。
「このまま動きを止めてしまうんだ・・そしてそのまま凍ってしまうといい・・・」
さらに不気味な声が響き渡る。足を止めた華音の体に氷が付着していく。
「このままじゃ氷付けになる・・だけど、怪物になったら・・・!」
危機と暴走の狭間で苦悩する華音。思考と苦悩を繰り返していくうちに、彼女の体が氷に包まれていく。
「そうだ・・このまま凍れ・・きれいに氷付けされるんだ・・・」
不気味な声に寒気が混ざってくる。窮地に追い込まれて、華音は考えをまとめることができなくなる。
「僕は・・僕はこんなところで死ぬわけにはいかない・・・!」
感情を一気に膨らませて、華音が怪物へと変身し、体を包もうとしていた氷を吹き飛ばした。
殺気と狂気を発する華音。立ち込める冷たい霧も、異形の姿となっている彼女には効いていない。
右手から刃を発する華音が、背後の木々を切り裂いた。直前にその木陰からひとつの影が飛び出した。
木陰から現れたのは白い体毛で覆われた怪物だった。切られて倒れる木々を横目に、華音が怪物に振り向く。
「あなたたちのような人たちに、みんなをムチャクチャにはさせない・・・!」
「まぁいいや・・お前もしっかり凍らせてやる・・・」
目つき鋭くする華音に向けて、怪物が口から吹雪を吐き出す。華音は刃を振りかざして旋風を巻き起こし、吹雪をかき消した。
「こんなのに、つばきさんが・・・!」
秀樹の手にかかったつばきを思い出して、華音が怒りを募らせていく。彼女は刃を構えて、怪物に向かって飛びかかる。
華音の素早い動きに驚いて、怪物がとっさに突風を吐き出す。その衝撃に襲われて、華音が吹き飛ばされる。
だが華音は空中ですぐに体制を整えて刃を振りかざす。刃からかまいたちが飛んで、怪物の左腕を切り付けた。
「うあっ!」
左腕から鮮血をまき散らして、怪物がうめく。着地した華音が刃の切っ先を怪物に向ける。
「あなたたちの好き勝手にさせない・・自分のために関係ないみんなを苦しめるなんて、絶対に許せない!」
華音が刃を構えて怪物に飛びかかる。苦痛に耐えながら、怪物が口から全力で吹雪を放つ。
華音の動きが止まり、直後に彼女の体が氷に包まれていった。彼女は一瞬にして凍らされて、動かなくなっていた。
「・・もったいないけど・・放っておいたら危ないから・・・ひと思いにバラバラにしておく・・・!」
怪物が氷の刃を作り出して、華音を串刺しにして粉々にしようとする。
「僕は・・僕は負けるわけにはいかない!」
だが華音が氷を打ち破って外に飛び出してきた。怪物がたまらず氷の刃を投げつけるが、華音が振りかざした刃に真っ二つにされる。
「そんな!?この氷が効かないなんて・・ぐあっ!」
驚愕する怪物が、華音の刃に体を貫かれる。苦痛を覚える怪物が、華音に押されて倒れる。
刃を引き抜いた華音がさらに怪物を切り付けていく。怪物の体から血しぶきが飛び散り、華音の体を紅く染めていく。
既に怪物の息の根は止まり、体が崩壊を始めていた。だが華音は構わずに刃を振り下ろしていた。
華音が我に返ったのは、刃が体を切る感触を感じなくなってからだった。
「あ・・・ぼ・・僕は・・・!?」
自分がしたことを実感して、華音が恐怖を覚える。人間の姿に戻った彼女が震えながら、血にあふれた自分の両手を見つめる。
「僕・・また自分を見失って、怪物を・・・!?」
自分が狂気に駆られて戦ったことに、華音は絶望する。
「僕は戦わないほうがいいかもしれない・・戦ったら、また自分を見失って・・・」
殺人鬼になってしまうという不安を膨らませて、華音は逃げるように走り出していった。
戦えば殺人鬼と化してしまう。そうなれば無関係な人間まで命を奪ってしまうかもしれない。華音は力を求めたことを後悔し始めていた。
力を暴走させた華音に手傷を負わされて、秀樹はいら立ちを募らせていた。
「このままでは済まさないよ・・あの小娘は必ずこの手で八つ裂きにしてやる・・・」
華音への憎悪を募らせる秀樹。
「僕は認めたりしないよ・・認めたら、つばきさんのすばらしさを否定することになる・・そんなのはどうしても我慢がならない・・・」
憤っていく秀樹の頬に紋様が走る。
「必ず切り刻む・・わずかでも僕の目に入ってこないように・・・!」
絶叫を上げるとともに怪物の姿となる秀樹。悠然とした雰囲気は一切なくなり、彼は憎悪と狂気をむき出しにした獣の一面を見せていた。
次回
「オレは女を信じない・・」
「女はお前が言うような気のいいヤツらではない・・」
「見つけたぞ・・・小娘・・・!」
「何が正しくて、何が間違っているのか、分かんなくなってくる・・・」