悠久の歌
第3話「崩壊の序曲〜前編〜」

 

 

深夜

 

黒龍国が見える丘

 

そこにはユア・ユイアにルナ、それと多数の兵士の姿が有った

闇に浮かぶ明かりを見ながら口を開くユイア

「いよいよね。」

そう言うユイア

「えぇ、そうね。」

それに答えるルナ

「月の民の力を地球の奴らに見せる時が。」

最後に言うユア

「ユア・ユイア、行きましょう。地球の国家全ての崩壊の序曲を奏でましょう。」

ルナの言葉に頷くと後ろの森に消えていく兵士達

 

黒龍国城内のテラス

 

そこにはカヤキスとカルナ、それに紅の姿が有った

「今宵の月は満月か。…綺麗だな。」

夜空を見上げ、そう語るカヤキス

「だが、同時に何か起きそうな気がする。」

そう言うと城下を見るカヤキス

「気のせいだと思います、カヤキス様。」

ふと口を開くカルナ

「カルナ。…そうだな、気のせいで有って欲しい。だが、何か不吉な予感がする。カ

ルナ、父上を頼めるか?」

「はい、解りました。」

カヤキスの命に答えるとテラスから去っていくカルナ

カルナが去るのを見送り、再度口を開くカヤキス

「紅。」

「どうされました?カヤキス様。」

「予感が的中した。…敵襲だ。」

カヤキスの言葉に驚く紅

「紅、お前は皆を起こせ!城内の大階段を第一次防衛戦とするぞ!」

「ハッ!」

カヤキスの命に答えるとテラスから去る紅

一方カヤキスはテラスから飛び降り中庭に降りると、警備の兵に向かって叫ぶ

「城門は捨てろ!城内大階段で迎え撃つぞ!」

そう言うと城内へと走り去るカヤキス

 

城内王の部屋

 

慌しいのに気付き目を覚ますアレス

「…何だ?何が起きているんだ?」

疑問に思うアレス

その時

ドンドンドンドンドン

激しくドアを叩く音が響く

「誰だ!」

「アレス様、カルナです。子息カヤキス様の命で参上致しました。」

「カヤキスが?…入れ。」

アレスの言葉にドアを開け部屋に入り、ドアを閉めるカルナ

「カルナ、一体何が起きている?」

「敵襲です。ですが、敵の所属が解りません。」

カルナの言葉に考え込むアレス

「アレス様、どういたしましょう?」

「…城内の大階段。あそこで向かえ討つぞ。」

「御意。」

 

城内大階段

 

密かに城下町の様子を見に行った者から城下の様子を聞くカヤキス

「…そうか、城下には一切手を出していないと言う事か。」

「ハッ。殺戮や略奪等は無く、ただ純粋に城を落とすつもりです。」

「成る程。それと、敵について何か解った事はあるか?」

「いえ。ただ、蒼い髪に碧眼だったと言う事しか解りませんでした。」

「蒼髪に碧眼か。解った。すまないな。下がっていろ。」

「ハッ。」

そう言うとそこから下がる偵察をした兵

「蒼髪碧眼。一体何処の種族だ。」

悩むカヤキス

するとその場に男性の声が聞こえる

「伝承に残る月の民だ。」

ふと声が聞こえた方向を見る一同

「アレス様!」

「親父。」

「遥か昔から我ら地球に住む民と対立している種族。まさかこの時代に来るとは。」

「親父、俺たちはどうしたら良い?」

カヤキスの言葉に口を開くアレス

「カヤキス、お前はこの事を聖ハルイのネルビス女王に伝えろ。」

「けど、親父は?」

「私はここに残る。お前を逃さなければならないからな。カヤキス、解ってくれ。」

そう言うとカヤキスの肩に手をかけるアレス

「カルナ・紅。カヤキスを、我が息子を頼む。」

「「はい。」」

「行け、カヤキス。この国と、聖ハルイ。果ては地球の民の未来の為に。」

「…解った。けど、死なないでくれよ、親父。」

カヤキスの言葉に頷くアレス

それを見ると大階段から去っていくカヤキス・カルナ・紅

それを見送りながら心の中で思いを出すアレス

(・・・似ているな。お前の母、我が妻に。)」

そう思うと口を開くアレス

「お前達も逃げなさい。生きてさえいれば我が息子が国を復興してくれる。」

「断ります。我らはこの国に、アレス様に忠誠を捧げた身。最後迄お供致します。」

「…すまない。では誰一人としてここを突破させるな!」

「ハッ!」

 

黒龍国が見渡せる丘

 

そこにカヤキス・カルナ・紅の姿が有った

 

丘の上から国を見下ろすカヤキス

「…カルナ・紅。何故親父は俺を逃したのだろう?」

「国の再興の為かと。」

カヤキスの問いに答える紅

「紅、それならば親父が居れば済む事だ。けどその親父は俺を逃がした。何故だ!」

カヤキスの言葉の後、静かに口を開くカルナ

「国の再興、その他全てを、カヤキス様に託したからでしょう。」

カルナの言葉に驚くカヤキス

「恐らくアレス様は死ぬおつもりです。国の事をカヤキス様に任して。」

継いで出た言葉に再度驚くカヤキス

「カヤキス様。今国へ戻ろうとなどは考えないで下さい。

今国へ戻ればそれは全てアレス様の意志を無駄にする事となります。」

カルナの言葉に口を開くカヤキス

「なら俺は、俺は何をすれば良い?教えてくれ、カルナ・紅。」

カヤキスの問いに口を開く紅

「アレス様の意志を無駄にしない事。それはつまり聖ハルイへと向かう事です。」

「…紅。なら行こう、聖ハルイへと。」

「「はい。」」

そう言うと祖国を背に、森へと消えていく

(必ず、帰って来る。生まれ育ったこの国へと。)」

心の中で強く、そう誓うカヤキス

 

城内

 

王の間

 

そこにはアレスの数人の兵士しか居なかった

 

「残ったのは僅かにこれだけか。」

「ハッ。城内各所でも抗戦をしているかと思われますが、落ちるのも時間の問題か

と。」

兵の言葉に口を開くアレス

「カイル、このワシの頼み、聞いてくれるか?」

「…はい、何なりと。」

カイルの返事を聞き一振りの剣をカイルへと差し出すアレス

「王!この剣は!」

「この剣を我が息子カヤキスへと届けてくれ。必ずだ。解ったな?」

「…はい。」

そう言うとアレスから剣を受け取り、秘密の抜け道を使い王の間から去っていくカイ

それと同時に扉からドンドンと言う音が聞こえる

「来たか。ヴァイス、行くぞ。」

「はい、アレス様。」

ヴァイスが言い切ると同時に扉が破られる

 

2日後

 

国境付近の宿場町

 

カヤキス達一行と、カイルはこの町に居た

 

カヤキス達は身分を装いながら

カイルはローブを纏いながら、この町に居た

蒼き色をした月の民が居るこの町に

 

脇道

 

表通りの様子を見ながら口を開くカヤキス

「チッ、こんな所にまで月の王国の手が伸びてるのかよ。」

「どうにかして聖ハルイに行きませんとね。」

カヤキスの言葉に口を開くカルナ

「…あぁ、そうだな。様子を見に行った紅の報告を聞いてからだな。」

「はい。」

カヤキスの言葉に答え、しばらくすると紅が戻ってきた

「紅、どうだった?」

カヤキスの言葉にフードを取り口を開く紅

「駄目ですね。この街の出入り口は全て月の民の兵が配置されています。」

「…そうか。」

紅の報告を聞き気を落とすカヤキス

「袋のネズミか。見つかるのも時間の問題だな。聖ハルイへ行く事も出来ないとは。

情けない。」

そう言うと拳を作り壁を叩くカヤキス

その直後

「居たぞ―!」

「見つかったか!」

その声に反応するカヤキス達

それと同時に脇道に入ってくるローブを纏った男性

「他にも居たぞ!」

月の兵士の声に口を開くカヤキス

「くっ!一先ず逃げるぞ!お前も来い!」

そう言うとローブを纏った男性と共にその場から走り去るカヤキス達

 

息を切らしながらも逃げ切ったカヤキス達

「大丈夫だったか?」

ローブを纏った男性に声を掛けるカヤキス

「は、はい。大丈夫です。ありがとうございました、カヤキス様。」

その名前にふと気付くカヤキス

「お前、カイルか?」

カヤキスの言葉にローブのフードをめくるカイルと呼ばれた男性

「やっぱりカイルか。だが何故ここに?」

「カヤキス様にこれをお渡しするよう、アレス様から。」

そう言うと一振りの剣をカヤキスへと差し出すカイル

その剣を見て驚くカヤキス

カルナと紅も驚きを隠せない

「黒龍国当主の証、魔剣ミスティリア。アレス様はこの剣をカヤキス様にと。」

「…そうか、すまないな、カイル。」

「いえ、全ては黒龍国復興の為です。」

そう言うと立ち上がり表通りの方を向くカイル

「カイル、何処へ行く気だ?」

カヤキスの問いに口を開くカイル

「私がオトリになりますので、その間にカヤキス様は聖ハルイへ。」

「カイル、死ぬ気か!」

「…カヤキス様のお姿、この目に焼き付けたかった。さらばです。」

そう言うと表通りへと走り去るカイル

「カイル!」

たまらず叫び、駆け出そうとするカヤキス

それを制する紅

「紅、離せ!カイルが!カイルが!」

「離しません!私達は聖ハルイへと行かなくてはならないのです!

カイルはその為にあえて犠牲になったのです!次なる王の為に!」

紅の言葉に静かになるカヤキス

「…紅、そうだったな。すまない。行こう、カイルの犠牲を無駄にしない為にも。」

その言葉に頷く紅とカルナ

それを確認して街の出口へと向かうカヤキス達

 

表通り

 

多数の月の兵士に囲まれたカイルの姿がそこには合った

「無謀だな、たった一人でこの人数を相手にするなど。」

月の兵士の言葉に口を開くカイル

「生憎、相手にする気など無い。私はただ主の為にこの場に居る。」

そう言うと剣を抜くカイル

「さぁ来い。多少なりとも良い相手になるぞ。」

「この、貴様ぁ!」

その言葉の後一斉にカイルへと襲いかかる月の兵士

その光景を見ながら剣を降ろし空を見上げ、口を開くカイル

「…どうかご無事で。そして、我が黒龍国を良い国へと導いて下さい。カヤキス様。

そう言い終わると無数の剣がカイルを貫く

 

とある建物の屋根の上

 

表通りの見下ろす一人の女性

「…成る程ね。それじゃ私は戻るとしますか。」

そう言うとその場から消える女性

 

翌日

 

聖ハルイ城下町の門

 

そこにカヤキス達の姿が有った

「何者だ?名を名乗れ!」

そう言うとカヤキス達を止める門番

「黒龍国のカヤキスだ。至急ネルビス女王に面会を求めたい。」

「黒龍国。…それは出来ませんな。」

そう言うと槍を構える門番二人

その門番を良く見るカヤキス

(蒼髪碧眼!)」

心の中でそう確信した瞬間

地面に倒れる門番

その背中にはそれぞれ一本の矢が刺さっていた

「大丈夫ですか?」

そう言うとカヤキス達の元に駆けてくる男性

「あ、あぁ。」

「聖騎士団所属のリューイです。」

「黒龍国のカヤキスだ。以前会っているだろう。」

カヤキスの言葉に考え、納得するリューイ

「それで、ご用件は?」

「ネルビス女王に謁見したい。緊急事態だ。」

「解りました。誰か居るか!」

リューイの言葉に2〜3人の兵士が近づいて来た

「ここを頼む。」

「ハッ!」

「カヤキスさん、行きましょう。お連れの方もご一緒に。」

 

城内

 

謁見の間

 

そこにはネルビス・ラムダ・リューイ・カヤキス・カルナ・紅の姿が有った

事の全てをネルビスに話すカヤキス

「…成る程。解りました。ラムダ、リューイ。最大限のご協力を。それとこの事をク

リスにも話しておきなさい。」

「ネルビス様。レイピアには話さなくてよろしいのですか?」

「リューイ、レイピアには私から話しておきます。」

「解りました。」

リューイの返事を聞くとカヤキスを見るネルビス

「カヤキス、貴重な情報をありがとうございます。今暫くはこの国で過ごしなさい。

泊まる場所も用意致します。」

「お心遣い、ありがとうございます。」

 

謁見の間の前

 

「何かあれば言いつけて下さい。お力になります。それでは。」

そう言うとその場から去っていくリューイ

 

深夜

 

城内中庭

 

夜空を見上げるカヤキス

「眠れ、ないの?」

ふと女性の声が聞こえる

「…クリスか?」

カヤキスがそう言うと姿を見せる女性

「良く、解ったね。」

「何故かな。…星が、綺麗だな。」

カヤキスのその言葉にクリスも夜空を見上げる

「…そうね。」

そう言うとカヤキスの手を握るクリス

「クリス?」

「不思議ね。2〜3回しか会ってないのに、懐かしい気がする。」

「…俺も、そう思ってる。もしかしたら、前世でも一緒だったのかもな。」

「…そうだと、良いね。」

クリスがそう言うと芝生に寝っ転がるカヤキス

クリスも同様にカヤキスの隣に寝っ転がる

 

―――なぁ、クリス

―――何?カヤキス?

―――月の民の侵攻が終わって二人共生きて居たら、結婚しないか?

―――カヤキス、それって

―――忘れてくれ、クリス

―――解ったわ

 

翌日の深夜

 

聖ハルイ城下町

 

とある民家の屋根の上

 

そこにはユア・ユイア・ルナに数人の兵士の姿が会った

 

最初に口を開くユア

「さて、時間だ。行こうか?」

「その前に、一つ聞いても良いかしら?」

口を挟むユイア

「構わないが、何だ?」

「ユア、貴方は月(こっち)の人間よね?聖ハルイ(あっち)では無いでしょ?」

ユイアの言葉に少し呆れ、答えるユア

「ユイア、心配するな。俺は誇り高き月の民だ。聖ハルイの民では、無い!」

ユアの言葉を聞き口を開くユイア

「安心したわ。それじゃ、行きましょうか。」

ユイアの言葉に頷くユアとルナ

 

―――崩壊の曲は、奏でられ始めた

 

次回第4話「崩壊の序曲〜後編〜」へ続く

 

 

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