欲深き黒

 

 

 貧富の差が激しく犯罪の絶えない街「グレイシティ」。

 警察も犯罪撲滅に尽力しているが、犯罪は減少に向かわない。

 市民の警察への不信感も膨らむばかりである。

 

 そんなグレイシティに英雄と称されている者もいた。

 花山(はなやま)クライン。グレイシティで有数の資産家で、ボランティアにも精力的に参加している青年実業家である。

 様々な援助を行うクラインに好感を抱く人は確かにいた。しかし彼を支持しない人も少なくなかった。

 犯罪を撲滅できないままの警察に寄付をしているクラインにも、なぜ意味のない寄付をして浮かれているのかと、批難の矛先が向けられていた。

 

 市民には誠実な人間の姿を見せていたクライン。しかし彼は本当はプライドが高く、自分のしていることを認めない人たちにいら立ちを感じていた。

(おのれ・・どいつもこいつも僕のことを・・地位も名誉も持っている僕がどれほどのことをしているか、まるで分かろうとしていない・・!)

 自分のすばらしさを称えない人たちへの不満を、クラインは心の中で膨らませていた。

 そんないら立ちを抱えた気分の中、クラインは知り合いの宝石店に立ち寄った。

「おぉっ!花山さん!先日は援助をありがとうございました!」

 宝石店の店主がクラインの前に来て頭を下げてきた。

 この宝石店は強盗に襲われて経営難に陥ったことがあったが、クラインの援助を受けたことで立て直すことができた。

「いえ。市民のためにしたことですよ。」

 クラインが微笑んで答えて、店主を握手を交わした。

「こうして売買を続けることができました。といいましても、警備のほうは情けないものですが・・」

「警察がいるのでそこは安心でしょう。彼らを信じましょう。」

 感謝と不安を口にする店主に、クラインが微笑んで答える。

「花山さん、どうぞご覧になってください。もしお気に召したものがあれば・・」

「そんな・・私は宝石収集の趣味は・・」

 店の宝石を勧める店主に、クラインが苦笑いを見せる。

 そのとき、クラインは1つの宝石を目にして足を止めた。丸い宝石をヘビが絡み付いているような形をしていた。

「どうされました、花山さん?」

 店主がクラインの様子を気にして声をかける。クラインはその宝石に魅入られていた。

「あの、花山さん・・?」

 店主に声をかけられて、クラインが我に返る。

「あぁ、すみません・・でしたらこれをいただけませんでしょうか?」

 クラインが苦笑いを見せて、その宝石を指し示す。

「これですか。これは昨日こちらに入ったばかりのものです。ちょっと不気味で変わったものかなと思いましたが、店を盛り返していかなければと考えると・・」

 店主が宝石について説明する。

 店主に宝石を勧めたのは、不気味な服装と雰囲気をした男だった。不審に思えた店主だが、宝石自体の値打ちが悪いといえず、相応の値段を申し出てきたため、男と売買を交わすことになった。

「構わなければ私に売ってもらえないでしょうか・・?」

「これをですか?花山さんの目にかなうのですから、すごい価値のものを手に入れたのですね、私は・・」

 頼みを投げかけたクラインに、店主が笑みをこぼした。彼からクラインは宝石を買い取った。

 

 屋敷に戻ったクラインは、宝石店で買った宝石を見つめていた。

(これを見た途端に目が離せないような気分を感じた・・まるで心をつかまれたような・・)

 なぜこの宝石を買ったのか、なぜ宝石に心を動かされたのか、クラインは分からなかった。

 そのとき、クラインは宝石に映った自分の姿が漆黒に染まっていくのを目の当たりにした。

(何だ、これは・・何かが、僕の中で芽生えていくような・・・!?

 自分の中で何かが湧き上がっていくような衝動に駆られるクライン。

「僕の中で・・僕の中で力があふれてくる・・感じたことのなかった力が・・・!」

 高揚感の高まりで、クラインが両手を強く握りしめる。同時に心の中をのぞかれているような感覚を覚えたが、今の彼はそれも喜ばしく思っていた。

「僕は力がほしい・・僕の思い通りにできるような力が・・・!」

 クラインは宝石に願った。自分が心から求めたものを。

 次の瞬間、クラインは自分の求めた力が自分の中に湧き上がってくるのを感じた。まるで生まれたときから知っていたかのような感覚だった。

「分かる・・分かるぞ!僕はこの力が分かるぞ!」

 実感する力に打ち震えるクライン。彼は手に入れた力の使い方と効果を理解していた。

「この力ならば、僕のすばらしさを見せつけられる・・・!」

 クラインの中に、欲望に満ちた野心が芽生えていた。

 

 クライン直属の女性秘書。彼女はクラインに屋敷の奥の大部屋を訪れた。

「花山さん、ここに何かあるのですか?」

 秘書が部屋を見渡して、クラインに聞く。すると扉が閉じて、部屋の中は薄明かりが照らすだけとなった。

「あ、あの、花山さん!?どこですか、花山さん!?

 秘書がクラインを呼びながら、部屋の壁に手をつこうとした。

 そのとき、秘書はそばに人影がいたのに気付いて振り返る。そこにいたのは黒ずくめの男。服装や髪だけでなく肌も黒だった。

「だ、誰ですか、あなたは!?花山さん!どこですか、花山さん!?

 秘書が悲鳴を上げて、クラインを求めて呼びかける。男が不気味な笑みを浮かべて、彼女をじっと見つめる。

 

     カッ

 

 男の目からまばゆい光が放たれた。

 

    ドクンッ

 

 光を受けた秘書が強い胸の高鳴りを覚える。

「な、何・・今の感じ・・!?

「ヒッヒッヒ・・うまくかかったようだ・・」

 動揺を見せる秘書を見つめて、男がさらに笑みを見せる。

「これでお前は私の思い通り・・」

  ピキッ ピキッ ピキッ

 男が意識を傾けたときだった。秘書の着ていた上着が突然引き裂かれた。あらわになった上半身は固くなっていて、ところどころにヒビが入っていた。

「な、何、コレ!?・・体が、動かない!?

 自分の体に起こった異変に、秘書が驚愕する。固まった体は彼女の意思を受け付けず動かない。

「いいぞ・・思った通りのところから石化が始まった・・しかもその石の質感、すばらしい・・」

 男が秘書を見つめて笑みをこぼす。彼は秘書に石化をかけたのである。

  ピキッ パキッ パキッ

 石化が進行して、秘書の下半身を一気に浸食した。スカートも靴も吹き飛んで、固まった彼女の下半身もさらけ出された。

「いいぞ、いいぞ・・石化の進行も私の思いのまま・・一部を石にして生き地獄を味わわせることもできる・・」

 男がさらに満足げに笑う。自分の思うがままに石化を進められることが分かり、彼は喜びに打ち震えていた。

「やめて!助けて!私を元に戻して!」

 秘書が男に助けを求める。

  パキッ パキッ

 その間にも石化が進行して、秘書の手足の先まで及んでいた。

「その必要はない。お前は美しいオブジェとなる。美しさを求める女にとっては、すばらしいことではないか・・」

 満足げに笑う男の言葉に、秘書が絶望を覚える。

  パキッ ピキッ

 石化は秘書の首や髪へと及び、髪留めと耳飾りも壊れて落ちた。

「やめて・・たす・・け・・・て・・・」

 秘書が涙ながらにただただ助けを求める。

  ピキッ パキッ

 口元も石に変わって声を出すこともできなくなり、秘書がただ泣くことしかできなくなる。

「ヒッヒッヒッヒ・・ヒッヒッヒッヒ・・!」

 彼女の石の裸身と絶望に満ちた目を見て、男があざ笑う。

    フッ

 涙が流れていた瞳も石に変わり、秘書は完全に石化した。彼女は衣服や飾りを全て引き剥がされて、一糸まとわぬ姿で立ち尽くしていた。

「すばらしい・・すばらしいぞ!この私が女を完全にものにしたぞ!」

 男が秘書を見つめて歓喜をあらわにする。自分が得た力を実感して、彼は勝ち誇っていた。

「これぞまさに私のものになった瞬間・・全てをさらけ出して、オブジェとして美しい姿を見せる・・・僕は、本当にすばらしい力を得たんだ・・!」

 男が高らかに笑うと、持っていた眼鏡をかけた。すると黒ずくめだった彼の肌が肌色に戻っていく。

 黒ずくめの男の正体はクラインだった。彼は手に入れた力によって肌さえも黒く染めていた。

「これだけの力があれば、全ての女を手に入れることもできる・・誰が邪魔してきても返り討ちにできる・・邪魔者を倒して女を捕まえて、ここでオブジェに変えてコレクションを増やしてやるぞ・・!」

 自ら抱えていた欲望を実行に移そうとするクライン。彼は手に入れた力を使って美女をさらって石化して、自分の存在を思い知らせようと考えていた。

 

 それからクラインは夜になると、黒ずくめの姿になって街中を暗躍した。彼は夜の街を歩く女性を見つけては、白い霧を伴って誘拐して、自分の屋敷に連れていって石化していった。

 クラインが力を手に入れてから数日後。彼に石化された女性は十数人に上っていた。

 

 夜のグレイシティの中にいた1人の少女。髪の長さが後ろ首ほどの彼女は、彼氏と待ち合わせをしていた。

「そろそろ待ち合わせの時間だけど・・・」

 少女が腕時計を見て時間を確認する。そこへ白い霧が立ち込めて、彼女は寒気を覚える。

「さ、寒い・・こんな寒くなるって予報してたっけ・・!?

 震える自分の体を抱きしめて、少女が動揺を見せる。しかし彼女の動揺がたちまち凍りつく。

 近くに何かいると直感して、少女は恐怖を覚える。それも彼女の彼氏とは違う誰かということも、彼女は感じていた。

 怖さのあまりにこの場から逃げ出そうとした少女。そのとき、彼女の後ろに黒い影が現れた。

 少女が驚愕と恐怖のあまりに悲鳴を上げようとした。が、悲鳴を上げる間もなく彼女は影に捕まった。

 

 影にさらわれた少女はその途端に意識を失った。目を覚ました彼女が顔を上げると、そこは薄暗い部屋だった。

 部屋の中には数体の全裸の女性の石像が立ち並んでいた。

「目が覚めたか・・ここは私のコレクションルームだ。」

 少女が声をかけられて振り向く。彼女の前に黒服を着たクラインが現れた。

「あなたは、TVに映ってた・・!」

「美しいオブジェもここまでそろった・・我ながら感心することだ・・」

 息をのむ少女の前で、クラインが周りを見て呟く。彼は石像を見渡して満足していた。

「これはいったい・・・もしかして、あなたが私を・・・!?

 少女が緊迫を募らせて、たまらず立ち上がって身構える。

「これからもコレクションは増えていく。お前もその中に加わるのだ・・」

 クラインが笑みを浮かべて、かけていた眼鏡を外した。彼の肌が黒く染まり、髪も伸びていく。

「な、何、その姿・・!?

 少女が驚愕して逃げようとしたが、クラインの伸ばした髪によって手足を縛られた。

「キャッ!は、放して!私をどうするつもり!?

「言ったはずだ・・お前も私のコレクションに加わることになる・・・」

 悲鳴を上げる少女に笑みを見せて、クラインが目つきを鋭くする。

 

     カッ

 

 彼の目から少女に向けてまばゆい光が放たれた。

 

    ドクンッ

 

 光を受けた少女が強い胸の高鳴りを覚える。

「何、今の!?・・あなたの目がピカッて光って・・・!」

 襲われた衝動に動揺する少女。

  ピキッ ピキッ パキッ

 そのとき、少女の着ていた服が引き裂かれて、左腕、あらわになった左胸や下腹部が固まって、ところどころにヒビが入った。

「えっ!?・・な、何、これ!?

 自分の身に起きた異変に少女が驚愕する。

「う、動かない!・・私の体、石になっているの!?・・まさか、そこの石像はみんな・・!?

「ヒッヒッヒ・・そうだ・・元々はお前と同じ雌豚どもだ・・それを私が美しいオブジェにしたのだ・・!」

 声を荒げる少女をクラインがあざ笑う。

「お前も私のコレクションに加わることになるのだ・・光栄に思うのだな・・・!」

  ピキッ ピキキッ

 石化が進行して、少女の身に着けていた靴下や上着の残りも引き裂かれていく。彼女のさらけ出された石の裸身を見て、クラインがさらに喜びを膨らませていく。

「お願い、やめて!私を元に戻して!」

 少女が声を張り上げて、クラインに呼びかける。するとクラインが浮かべていた笑みを消す。

「私に対する言葉づかいではないぞ・・お前たち女は全員、私に屈することになる・・・!」

 クラインに鋭く言われて、少女が言葉を詰まらせる。

  ピキキッ パキッ

 石化がさらに進んで、少女の手足の先まで及び、首元に迫ってきた。

「お前もまた私のものだ・・お前は何をされても、一切の反抗は許されない・・・」

「イヤ・・そんなの、絶対にイヤ・・!」

 笑みを取り戻したクラインを、少女は必死に拒絶しようとする。

  パキッ ピキッ

 少女の頬や髪も石に変わって、声を出すこともままならなくなる。

「元に・・元に戻して・・・!」

 それでも少女が必死にクラインに呼びかける。

  ピキッ パキッ

 唇も石に変わり、少女は声を出すこともできなくなった。

「お前はもう私のものなんだよ・・ヒッヒッヒッヒッヒ・・」

 ただ見つめることしかできなくなった彼女を見て、クラインがあざ笑う。

    フッ

 瞳にもヒビが入り、少女は完全に石化に包まれた。

「まただ・・また私のコレクションのオブジェが増えた・・・」

 一糸まとわぬ石像となった少女を見つめて、クラインが笑みをこぼす。

「・・と、いいたいところだが・・お前は私に反抗的な態度を取った・・私のコレクションにはふさわしくない・・・!」

 クラインが顔から笑みを消すと、少女に向かって足を突き出した。彼に蹴られた彼女の石の体が割れて砕けた。

「ヒャハハハハ!壊れた、壊れた!壊れてしまったら2度と元には戻らないぞ!」

 バラバラになった少女の像を見下ろして、クラインが高らかに笑い声を上げる。彼は欲望と感情の赴くままに、石化した少女を壊した。

「オブジェの1体や2体壊したところで、私のコレクションに陰りが出ることはない・・獲物はまだまだいるのだから・・・」

 石化した女性を壊しても、クラインは全く罪悪感を感じていなかった。彼はさらに女性をさらってコレクションを増やそうと企んでいた。

 

 それからもクラインは女性を屋敷に連れ込んで石化し、コレクションを増やしていった。

 この日も、クラインは2人の少女を捕まえて、先に1人を、ポニーテールの少女を石化していた。彼女は上半身と両腕を石化されて、石の素肌をさらしていた。

「わ、私・・どうなってるの!?・・体が石になっている・・!?

「お姉ちゃん!?・・お姉ちゃんに何をしたの!?

 ポニーテールの少女が自分に起きている異変に驚愕して、もう1人のツインテールの少女が悲鳴を上げる。

「まずはそいつからオブジェにしてやる・・姉が石になっていくのを見て恐怖するお前を見ていると、気分がよくなる・・」

 クラインが不気味な笑みを浮かべて言いかけて、姉から妹に視線を移す。

「やめて!お姉ちゃんを助けて!元に戻してよー!」

「すばらしいオブジェになれるのだ。光栄に思うのだな・・」

 助けを求める妹だが、クラインはあざ笑うばかりである。

  ピキッ パキッ パキッ

 石化が進行して、姉の下半身もさらけ出された。

「お姉ちゃん!もうお姉ちゃんにこんなことしないで!」

「私はどうなってもいい!でも妹には手を出さないで!」

 クラインに向かって必死に呼びかける妹と姉。クラインは笑みを浮かべたまま、姉を見つめる。

「実に妹思いだな。その強がりがどこまで続くか、見届けさせてもらおうか・・」

  ピキッ ピキキッ

 クラインが言いかけたところで、姉にかけられた石化が手足の先まで及んだ。身動きが取れず、力を入れることもできなくなり、姉は悲しい顔を浮かべた。

「お願い・・私に構わずに・・無事でいて・・・」

 姉が声を振り絞って、涙を見せる妹を案じる。

  ピキッ パキッ

 髪も唇も石に変わって、姉は妹を見つめることしかできなくなる。

    フッ

 瞳も石に変わり、姉は完全に石化に包まれた。

「お姉ちゃん・・お姉ちゃん!」

 変わり果てた姉の姿を目の当たりにして、妹が悲痛の叫びを上げた。

「ヒッヒッヒッヒ・・また私のコレクションが増えた・・実にすばらしい・・実に心地いい・・!」

 クラインが姉を見つめて笑い声を上げる。

「もうあたしたちに何もしないで!ここから出して!」

 妹が必死にクラインに助けを請う。彼女に目を向けたクラインがさらにあざ笑う。

「さて、お前も私のコレクションに加えてやろう・・お前の姉のそばにいられることを、幸せに思うのだな・・」

「えっ!?あたしは助けてくれるって!?

 クラインの口にした言葉に、妹が驚愕する。

「そんなこと、約束した覚えはないな・・お前の姉が勝手に言っただけで、私は聞いてはいない・・」

「そ、そんな・・!?

 クラインがあざ笑って、妹が絶望を膨らませていく。彼女が慌てて逃げ出そうとするが、クラインの伸ばした髪に手足を縛られて捕まってしまう。

「せっかく手に入れた獲物だ・・わざわざ手放すわけがないだろう・・・」

 クラインが笑い声を上げて、妹を姉のそばまで運ぶ。

「姉のそばに置いてやる・・光栄に思うのだな・・・」

 クラインに目を向けられて、妹が緊張を膨らませる。

 

    カッ

 

 彼の目からまばゆい光が放たれる。妹がたまらず目を閉じて、光を見ないようにした。

 

   ドクンッ

 

 それでも妹は強い胸の高鳴りに襲われた。姉のように、石化をかけられたことを現す衝動に。

  ピキッ ピキッ ピキッ

 妹の両足が石に変わって、靴と靴下がはじけ飛んだ。彼女にも石化がかけられた。

「あ、あたしも石になっていく・・イヤ!石になんてなりたくない!」

 妹が悲鳴を上げて必死にもがく。しかし石化した足は彼女の意思を受け付けない。

「姉がオブジェになるところを見て、私の力をお前も思い知った・・その私の力を直に味わったお前の顔を見ると、最高の気分になる・・!」

 恐怖が高まっている妹を見て、クラインが笑みを強める。

  ピキッ パキッ パキッ

 石化が進行して、妹の着ていた服が一気に引き裂かれた。自分の裸をさらけ出されて、彼女が動揺を膨らませる。

「やめて!もうやめて!元に戻して!私たちを元に戻して!」

 妹が涙ながらに呼びかける。必死になっている彼女を見て、クラインはただあざ笑うばかりである。

  パキッ ピキッ

 石化がさらに進んで、妹は手の先まで石に変わり、首元も石化する。絶望する彼女が姉に目を向ける。

「お姉ちゃん・・・あたし・・あたしたち・・・」

 妹が姉に向かって声を振り絞る。

  ピキッ パキッ

 唇も石に変わり、妹も姉に寄り添ったまま動けなくなる。彼女が付けていた耳飾りも髪留めも壊れたが、ツインテールの形は留まっていた。

    フッ

 涙が流れる瞳も石になって、妹も完全に石化に包まれた。

「ヒッヒッヒッヒッヒ・・また私のコレクションが増えた・・しかも1度に2人も・・・!」

 クラインが石化して立ち尽くしている姉妹を見つめて、歓喜の笑い声を上げる。

「これでオブジェがこの部屋であふれかえった・・だがまだだ・・まだ全ての女に僕の力を思い知らせてはいない・・もっと増やすのだ、コレクションを・・・!」

 クラインの欲望は満たされるどころか、ますます増していた。彼は次の女性をさらうときを心待ちにしていた。

 

 クラインによる美女誘拐は続いた。彼はまた新たに少女を見つけて迫っていた。

 その直前にクラインは、コウモリのような奇妙な生き物を捕まえていた。彼は生き物に不思議を感じたが、今狙っている少女と関わりがあることには気づいた。

 しかしクラインはそのことを気にすることなく、ただ、少女を捕まえることだけを考えていた。

「そこまでよ、連続誘拐犯!」

 そこへ声がかかって、クラインと少女が振り向く。その先の建物の屋上に1人の少女が立っていた。彼女は全身を特殊なスーツと機械的な装備で包んでいた。

「アンタは女の敵!このスパークガールが成敗してくれる!」

 もう1人の少女、スパークガールが高らかに言い放つ。彼女の態度にクラインがいら立ちを覚える。

「私に対する言葉づかいではないぞ、女・・」

「アンタ、何様よ!」

 言いかけるクラインに不満を口にして、スパークガールが建物の上から飛び降りた。彼女の背中にあるバックパックからワイヤーが射出されて建物の壁にくっつけて、彼女を支えた。

「やあっ!」

 スパークガールがクライン目がけて足を振りかざす。彼女の速い蹴りが彼の頬をかすめた。

 さらにスピードのある攻撃を続けるスパークガール。しかしクラインは彼女の攻撃を全てかわしていく。

 その隙に、少女がこの場から離れようとしていた。しかしクラインは彼女に気付いていた。

「キャッ!」

 クラインが髪を伸ばして、少女の足に巻きつけて捕まえた。彼女を見たスパークガールが一瞬動揺した。

「あっ!」

 その瞬間を見逃さず、クラインが手を伸ばしてスパークガールの首をつかんだ。

「し、しまった!」

「捕まえたぞ、うるさいハエめ・・」

 うめくスパークガールを見て、クラインが笑みをこぼす。しかし彼は顔から笑みを消す。

「私の顔を傷付けおって・・お前はもういらん!」

 クラインがいら立ちを口にして、スパークガールを鋭く睨みつける。

 

    カッ

 

 クラインの眼光がスパークガールに向けて放たれた。

 

   ドクンッ

 

 眼光を受けたスパークガールが強い胸の高鳴りを覚える。クラインが彼女に対して意識を傾けた。

  ピキッ ピキッ ピキッ

 次の瞬間、スパークガールの左手、左胸、お尻、下腹部が石化してさらけ出された。彼女の特殊なスーツと装備も、クラインの石化の力によって引き剥がされていた。

「私のコレクションに加わる資格もない!終わることのない昼と夜の繰り返しを見守り続けるがいい!」

 クラインが裸にされたスパークガールを見て、鋭く言いかける。

「な・・何なの、コレ!?

 石になっていく自分の体を見て、スパークガールが驚愕する。

(私に刃向かうヤツはコレクションには不要だ・・だがヤツの体は石にした・・私の思うがままにオブジェにできる・・)

 彼女がもう反抗することができないと確信して、クラインが心の中であざ笑う。

  パキッ

 スパークガールにかけられた石化が進行していく。服や装備だけでなく、長い髪も崩れ落ちていく。本物の髪でなかったが、クラインは気にも留めなかった。

 少女が緊迫を膨らませてもがいているのに気付いて、クラインが彼女に振り返る。

「安心したまえ・・お前はまだオブジェにはしないから・・」

 クラインが言いかけるが、少女の恐怖と動揺は深まるばかりだった。

(コイツはしっかりとコレクションに加えてやる・・そしてアイツは私の意のままにオブジェにする・・本物の女と思うヤツはいないし、私を疑るヤツがいても返り討ちにすればいいだけ・・)

 スパークガールを連れ去らずにこのままオブジェにして置き去りにしても問題ないと、クラインは考える。

(次は足だ・・)

  ピキッ ピキキッ

 クラインが意識を傾けると、スパークガールのブーツも壊れて、石化した素足もさらけ出される。

(さらにもう片方の腕もだ・・)

  ピキキッ パキッ

 続けて石化が進行して、彼女の手袋も吹き飛んで右手も石に変わって固まった。

  ピキッ パキッ パキッ

 スパークガールの右胸も背中も石化が進む。バックパックもかつらも崩れるように引き剥がされて、彼女は裸をさらけ出されることになった。

  パキッ ピキッ

 スパークガールの首元や頬も石に変わり、かつらも壊れたことで石になった本当の髪もあらわになった。

「ゴ・・ゴメン・・・タ・・タスケ・・・ラレ・・・ナ・・・」

 スパークガールが少女に向かって声を振り絞る。全身が石にされて動けなくなり、彼女は力を入れられなくなっていた。

  ピキッ パキッ

 少女に謝っていたところで唇も石になって、スパークガールは声を出すこともできなくなった。

「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!」

 何もできずにたたずむ彼女を、クラインがあざ笑う。

 クラインに連れていかれようとしている少女をただ見ていることしかできず、スパークガールは目に涙を浮かべるばかりだった。

(そうだ、絶望しろ!私への反抗的な態度を後悔するがいい!美しいオブジェになったことを感謝しながらな!)

 悲しい顔を浮かべているスパークガールを、クラインがあざ笑う。クラインはスパークガールの石の裸身を見て、彼女を屈服させた、支配したと確信した。

    フッ

 スパークガールの瞳から生の輝きが消えた。あふれていた涙が彼女の目から流れて、石の頬を伝う。

 同時に石化に巻き込まれて破損したヘアバンドも落ちて、涙とともにスパークガールの石の胸に当たって落ちた。

「スパークガール!!!

 少女がスパークガールに向けて悲痛の叫びを上げる。

 クラインが白い煙と共に、少女をつれさらって姿を消した。この夜の道に、クラインに石化されて全裸の石像にされたスパークガールが、背中にワイヤーがくっついた状態で吊るされたまま、置き去りにされた。

 

 少女を屋敷の中に連れ込んだクラインは、彼女の足に錠を掛けた。先日、狙った女性が逃げ出したことをクラインは根に持っていた。

「オブジェにするのはコイツが目を覚ましてからだ・・それまで、私のコレクションを堪能することにしよう・・・」

 眠り続けている少女を見下ろして、クラインが笑みをこぼす。彼はこれまで石化してきた女性たちを見て回り、至福を感じていた。

「ずいぶんと増えたぞ、オブジェが、コレクションが・・だがまだだ・・まだ満足できない・・全ての女をものにするまでは・・・」

 ものにしてきた女性たちの数に喜びを感じながら、クラインの欲望は留まることを知らなかった。

 コレクションの部屋を出たところで、クラインは床に落ちていた新聞を目にした。その中にスパークガールがシャドウレディと戦ったときの記事が載っていた。

「これは先ほどの女・・このときの女だったか・・・」

 クラインがスパークガールのことを思い出して呟く。

「いずれにしろ、コイツも私に屈服したことには変わりない・・世界中の女を、私は従わせるのだ・・!」

 スパークガールをオブジェにして打ち負かしたことを喜んで、クラインはさらに欲望を募らせていた。

「そしていつかは、あのシャドウレディも私のコレクションに加えてやるぞ・・そうなれば私のコレクションは完成に一気に近づくぞ・・・!」

 グレイシティを騒がせている怪盗、シャドウレディもものにすることも企んで、クラインはコレクションの部屋に戻っていった。

 

 しかしクラインは知らなかった。自分が先ほど連れ込んだ少女こそが、シャドウレディだったことを。

 そして彼は考えもしていなかった。そのシャドウレディに一方的に打ちのめされることを。

 魔石の中に存在していた魔人によって命を奪われ、ずっと求め続けたオブジェのコレクションが崩壊することを。

 

 

短編集

 

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