ウィッチブレイド –Shadow Gazer-

第11話「恋」

 

 

 対立する葉月とエリナを止めるべく、魅兎がその間に割って入った。その魅兎に憤慨をあらわにして、エリナが刃の切っ先を向ける。

「邪魔しないでよね、アンタ。今なら魔が差したということで許してあげる。」

「ふざけないで!これは遊びではないのよ!これ以上攻撃を加えるというなら・・!」

 エリナに対して、魅兎が右手の刃を構える。その態度にエリナが笑みを強める。

「言うこと聞かないと実力行使なわけ?矛盾してるわね・・まぁいいわ。そっちのほうがやりやすいし。」

 いきり立ったエリナが魅兎に向かって飛びかかる。

「素直に応じてくれれば、この争いは終わってるのに・・!」

 魅兎は苛立ちを噛み締めて、エリナを迎撃する。2つの刃がぶつかり、2人の力が拮抗する。

 だが焦りを募らせていくエリナに対し、魅兎は冷静さを保っていた。やがてエリナが魅兎の一閃によって突き飛ばされる。

「このぉっ!この私が押されるなんて・・・!」

「私はブレイドを起動させても冷静さを保てるみたいで、戦いは楽しむよりも的確に済ませることを考えるようにしてる。ブレイドを使う人としてはおかしいけど。」

 声を荒げるエリナに対し、魅兎が苦笑をもらす。

「自分でおかしいとか言ってるおバカに、私が負けるはずがないのよ!」

 憤慨したエリナがさらに刃を振りかざして飛びかかってきた。しかし魅兎は身を翻して、その一閃をかわしていく。

「今のあなたは感情がむき出しになっていて、攻撃が単調になってきている。それではどんなに力があっても、すぐに対処されてしまうわ。」

「エラソーに言ってくれるじゃないの・・でもアンタの言い分なんて聞く耳持たないわ!」

 エリナがいきり立ってさらに魅兎に飛びかかる。魅兎は迎撃の意思を示し、刃を構えて振りかざす。

 その一閃は、振り下ろされてきたエリナの刃を激しく叩いた。その衝撃はエリナの刃に亀裂を付けた。

「なっ・・・!?

 自分のブレイドを損傷されたことに驚愕するエリナ。距離を取って着地するも、彼女は動揺の色を隠せないでいた。

 魅兎は落ち着いたまま、自分の刃の切っ先をエリナに向ける。

「これ以上の戦いは、あなたに敗北しかもたらさない。それなりに戦いを潜り抜けてきたあなたなら、分かっていると思うけど・・」

 魅兎が忠告する前で苛立ちをあらわにするものの、打開の手が見つからず、エリナは歯がゆさを感じていた。

「今回はここまでにしてあげる・・だけど今度は確実に始末してやるわ・・葉月も、アンタも!」

 言い放つエリナが傷ついた刃を振りかざし、砂煙をまき散らして姿を消した。魅兎は彼女を追おうとせず、刃を下げる。

「ずい分早かったみたいね、魅兎ちゃん。」

 そこへルイがいつもと変わらない気さくさを見せながら声をかけてきた。すると魅兎が漆黒の鎧を解除する。

「人のことを言えませんけど、相変わらずムチャしますね、ルイさん。私が来なかったら、あなたが危ない目にあってたか、この辺りが無茶苦茶になってましたよ。」

「えっ・・無茶苦茶・・・!?

 魅兎の言葉に葉月が驚愕する。それと同時に彼女からも漆黒の鎧が解除される。

「とりあえずシエルちゃんとこに行こう。ここだと何だか落ち着かなくてね。」

 ルイが大きく息をつくと、魅兎が困惑している葉月に手を差し伸べる。

「あなたが咲野葉月さんですね。はじめまして、有坂魅兎です。」

「咲野葉月です。よろしくお願いします。」

 互いに自己紹介をして握手を交わす魅兎と葉月。

「葉月ちゃん、魅兎ちゃんもアークレイヴのメンバーで、シャドウブレイドの捜索に向かってたんだけど・・・」

 ルイが葉月に説明しかけて、魅兎の手首に付けられている黒い腕輪を眼にして顔を引きつらせる。その心境を察した魅兎も思わず苦笑する。

「ふ、不可抗力ですよ。私もブレイドについて熟知してますから。」

「ま、いまさらどうこう言っても仕方ないんだけどね・・」

 言い訳を口にする魅兎と、苦笑いを見せるルイ。2人のやり取りに葉月は呆然となっていた。

「あ、ゴメン、ゴメン。それじゃ行こうか、葉月ちゃん。」

「あ、はい・・」

 ルイが言いかけると、葉月は照れながら頷く。3人は一路、「シエル」へと向かった。

 

 魅兎との戦闘に敗れ、街の裏通りをふらついていたエリナ。敗北感に打ちひしがれて、彼女はかつてない苛立ちを感じていた。

「こんなことが・・この私が・・・私が負けるなんて!」

 敗北による憤慨にさいなまれて、エリナが壁にもたれかかる。

「許せない・・あのアマ、このままで済むと思うなよ!」

 感情を抑えることができず、エリナはその場でもがき苦しむエリナ。彼女の断末魔の叫びが、人気のない裏通りにこだましていた。

 そこへ異様な様子の男が数人、絶叫を上げているエリナに近づいてきた。それに気づいたエリナが叫ぶのをやめ、立ち上がって敵意を見せる。

「何なのよ、アンタたち・・・今の私は虫の居所が悪いのよ・・・!」

 激情の赴くままにエリナはブレイドを起動させる。そして正体を現したエクスコンたちを全て両断した。

 

 葉月、ルイ、魅兎は「シエル」へと行き着いた。すると影路が憮然とした態度で葉月に声をかけてきた。

「どうしたんだよ、葉月?また誰か連れてきて・・・アンタ、確かこの前・・・」

「いよぅ。この前はどうもねー♪」

 ルイの姿に気づいた影路が眉をひそめ、ルイが気さくな笑みを浮かべて声をかけてくる。

「なかなかいい店ですね。この分だとメニューも期待できるかも。」

 魅兎が店内を見回して、店のすばらしさに対する期待を膨らませていく。そこへシエルが厨房から顔を見せて、ルイの来訪を眼にする。

「戻ってきてたのですね、ルイさん・・葉月さんと合流できたようですね。」

「また来たよ、シエル。今度はちゃんとカレー食べるからさ。」

 笑顔を見せるシエルにも、ルイは気さくな笑みを見せる。その横で、魅兎が影路をじっと見つめていた。

「いい顔立ちの人ですね。思わず引き込まれてしまいそう・・」

 彼女の呟きを耳にして、影路が振り向いて憮然さを見せる。

「何オレをジロジロ見てんだよ。まさかオレに惚れ込んだ、なんてふざけたこと考えてんじゃねぇだろうな。」

「ゴメンなさい。つい、見とれてしまって・・」

「ハァ・・全くどいつもこいつも。オレの周りはおかしなヤツらばっかだぜ。」

 陳謝する魅兎と、大きくため息をつく影路。

「おい、誰がおかしなヤツだってんだよ!」

 そこへきぬが影路にふくれっ面を見せてきた。だが影路は憮然さを消さない。

「お前が1番おかしいってんだよ、このガキ。」

「こっのー!おめぇはどうしてそんなにエラソーなんだよ!礼儀ってもんを見せてみろよ!」

「礼儀知らずのテメェに言われたくねぇよ。」

 口ゲンカを始めてしまった影路ときぬ。その様子を見て葉月と魅兎は笑みをこぼした。ルイとシエルは相変わらず笑顔を絶やさなかった。

 

 それからルイはデュールへの連絡を取り、事の沈静化を伝えた。デュールは安堵の吐息をつくと、警戒配備を敷くと告げて連絡を終えた。

 そしてルイに勧められて、魅兎はシエルの用意したカレーを食すこととなった。その味に魅兎は喜びを感じていた。

「おいしいです。私もカレーは子供の頃から食べてきてますが、今までで1番かもしれません。」

「そうですか。そう言われると嬉しいです。」

 魅兎の感嘆の言葉にシエルが笑顔を見せた。

「そうか、そうか。ここの海軍カレーのすばらしさが分かるなら、お前も相当の通だな。よしっ!今度は海軍カレーをおごらせてやるぞ。」

「謹んでお断りさせていただきます。」

 満面の笑みを浮かべていたところで魅兎に言いとがめられて、きぬは顔を引きつらせた。

 その傍らでルイたちの様子を見ていた葉月に、影路が声をかけてきた。

「ところでお前、エリナと一緒に店を出たよな?」

 その指摘に葉月が戸惑いを見せる。自分に牙を向け、乱入してきた魅兎に阻まれて撃退されたエリナの心境を察して、葉月はいたたまれない気持ちでいっぱいだった。

「アイツのことだ。多分そう簡単にはへこたれたりはしねぇだろ。」

「うん・・そうだね・・・」

 影路の言葉に対して、葉月は自信のない返事をした。

 

 それから午後の数時間の仕事をこなした影路も、私服に着替えて店から出てきた。そこで彼は、物陰から顔を見せてきたエリナを見つける。

「エリナ・・・?」

 影路が眉をひそめていると、エリナが微笑みながら近づいてきた。

「影路さん、少しいいですか・・・?」

「何だよ?用があるならここで言えよ。」

「いいえ。2人だけで話がしたいんです・・」

 エリナの切実な頼みに、影路は憮然とした態度を見せながらも渋々受け入れた。2人は店を離れ、近くの公園に行き着いた。

「ここなら文句ねぇだろ。さぁ、早く言えよ。」

 未だに憮然とした態度を見せている影路に、エリナは頬を赤らめながら口を開いた。

「私のたったひとつの願いです。私と付き合いませんか。」

「は?いきなり何言ってんだよ・・」

 エリナの申し出に対し顔をしかめる影路。だがエリナは引き下がらなかった。

「私には影路さんが必要なんです・・もしも影路さんがいなかったら、私は・・」

「勝手なこと言うな。オレは誰かに甘えられるのは迷惑なんだよ。」

 影路が苛立ちをあらわにして言い放つと、エリナは沈痛の面持ちを浮かべる。

「どうして分かってくれないの・・私はあなたに迷惑をかけようなんて思ってないのに・・・」

「ハァ・・お前なぁ・・・」

「私はあなたを守る必要があるの!私にあなたが必要なように、あなたも私が必要なのよ!」

「いい加減にしろ!オレが何を必要とするかは、オレが決めることだ!」

 すがり付いてきたエリナを、影路が憤慨して突き飛ばす。しりもちをついた彼女が、彼を見つめたまま困惑を覚える。

「あなたは普通の人間・・力のないあなたは、私に守られたほうが幸せなのよ・・・」

「もうやめて。」

 エリナが呆然と呟いたところへ、葉月が現れて言いかけてきた。その声に影路とエリナが振り向く。

「あんまりしつこくされても、影路が困るだけよ。自分の気持ちを伝えたいなら、相手の気持ちも理解してあげないと・・・」

 切実な心境で言いかけてくる葉月に対し、エリナは苛立ちをあらわにしていく。

「アンタに何が分かるのよ・・・誰かに助けてもらってるアンタに、何が分かるって言うのよ!」

 憤慨したエリナが、今度は葉月につかみかかる。だが葉月は深刻な表情を変えない。

「影路は私を救ってくれる!何もかも失った私に救いの手を差し伸べてくれる人なのよ!」

「あなたを、救う・・・?」

 葉月が疑問を投げかけると、感情をむき出しにしていたエリナが我に返る。

「アンタには、関係のないことよ・・・!」

 必死に言いとがめるエリナ。葉月は深刻な面持ちのまま、エリナに言いかける。

「私には、あなたの気持ちが分からない・・だけどあなたも、影路の気持ちを分かっていない・・・」

 切実な思いで言いかける葉月を、エリナが鋭い視線を向けていた。

 そのとき、葉月とエリナは奇妙な感覚を覚えて振り返る。彼女たちの腕輪の宝玉が淡い輝きを放っていた。

 2人はその感覚に導かれて、突然駆け出した。

「お、おいっ!」

 影路が呼びかけるが、葉月もエリナも足を止めない。影路も彼女たちの行動に不審さを感じて、追いかけることにした。

 

 眼をつけた女性たちを発射したミサイルや銃器で銃殺や破壊を行っていく1体のエクスコン。その猛威の姿を、駆けつけた葉月とエリナが発見する。

「みんなにこんなことして・・・許せない!」

「邪魔しないでよね。あれは私の獲物なんだから・・・!」

 怒りを覚える葉月に言いとがめるエリナ。2人はそれぞれのブレイドを起動させて、漆黒の鎧を身にまとう。

 エリナが先行し、右手から突き出した刃をエクスコンに向けて振り下ろす。刃は機体をかすめて、地面に突き立てられる。

 エリナに気づいたエクスコンが、巨大な腕を彼女に向けて伸ばす。彼女はそれをかわして、さらに刃を振りかざす。

 ブレイドの一閃を受けてエクスコンが突き飛ばされる。だが押されただけで踏みとどまり、そのボディに浅く傷がついているだけだった。

「ずい分硬い体じゃないの。でもそのくらいでないとやる気が出てこないからね。」

 エリナは妖しく微笑むと、エクスコンに向かって再び飛びかかった。だがその強度のある体には軽く傷がつくばかりだった。

 攻め切ったエリナが呼吸を荒くする。そこへ葉月が割って入り、エクスコンに向けて一閃を繰り出す。

「そんなに攻め込んでばかりじゃダメよ。押しと引きをうまく使い分けないと、十分に楽しめないわよ。」

「余計なお世話よ。攻めて攻めて攻め切って、叩き潰すのが私の楽しみなの。だから私の辞書に“引く”なんて言葉はないのよ!」

 妖しい笑みを浮かべる葉月の言葉を一蹴して、エリナはさらにエクスコンに向かっていく。だがエクスコンはミサイルを連射して迎撃に出てきた。

「なっ!?

 その砲撃を受けたエリナが爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされる。大きく横転するも、彼女は歓喜の笑みを崩してはいなかった。

「やるじゃないの。やっぱりこのくらい派手じゃないとねぇ・・」

 喜びを口にするエリナに向けて、エクスコンが腕を伸ばす。危機に陥りながらも、ブレイド装着者たちは戦いの喜びを堪能していた。

 そのとき、伸ばしてきたエクスコンの腕が突如両断され、地面に落ちる。その瞬間に眉をひそめた葉月とエリナが振り返ると、同じく漆黒の鎧をまとった魅兎の姿があった。

「私のブレイドもこちらに呼び寄せられました。かなりの強敵のようですね。」

 言いかける魅兎が右手の刃の切っ先を、怯んでいるエクスコンに向ける。だがエリナは不満を感じていた。

「邪魔しないでよね。そいつは私の獲物だって。」

「どうしても負けたいというなら、これからは手出ししませんが?」

 言いかけたところで魅兎に言いとがめられ、エリナは憤りをあらわにする。向かってくるエクスコンに、魅兎は刃を振りかざす。

 その一閃は機体を斜めに切り裂き、その行動を一瞬にして停止させる。魅兎は刃を下げて、戦意を抑える。

「すごいじゃないの・・エリナが苦戦してた相手なのに・・」

 葉月が魅兎の力を見て、微笑みかける。だが獲物を横取りされたエリナは怒りを見せていた。

「冗談じゃないわ・・このままやられっぱなしで、終われるわけないじゃないのよ!」

 いきり立ったエリナが魅兎に飛びかかる。魅兎のとっさに身構え、2つの刃が激しくぶつかり合う。

 刃を交えての力比べを繰り広げる2人を見据えて、葉月も笑みをこぼしていた。

「2人だけで楽しむなんてズルいじゃないの。私も混ぜてよ。」

 葉月がエリナと魅兎の交戦に割って入ろうとする。そのとき、2人に向けて弾丸が飛び込み、2人が距離を取って戦いを止めて振り返る。

 その先には、銃を手にした影路の姿があった。

「影路・・これはいったい・・・!?

 エリナが驚愕をあらわにするが、影路にその声は届いていないようだった。影路は葉月たちに銃口を向けていた。

「ブレイド装着者が3人集まって、こんなとこで何してやがる・・!?

 影路が眼つきを鋭くして、低い声音で言い放つ。魅兎とエリナが困惑を感じている中、葉月は妖しく微笑んでいた。

「またアンタなの。また私に強烈な1発を撃ち込んでくれるのかしら?」

「あぁ・・あの世までフッ飛ばしてやるよ!」

 葉月の挑発的な態度に不敵な笑みを浮かべて、影路は銃の引き金を引く。その銃口から放たれた弾丸が、葉月目がけて飛んでいった。

 

 

次回

第12話「迫」

 

エリナさんや影路が敵意を見せてきて、私にはまだまだ戦いがついて回る。

そしてエリナさんが、力ずくで影路を手に入れようとしている。

ダメだよ、そんなの!

どんな人だって、誰かの心を奪うことなんてできない。

無理矢理そんなことしても、何も手に入れられない・・・

 

 

小説

 

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