スーパーロボット大戦CROSS
第75話「次元の覇者」

 

 

 ラブの行方を追って、カナタは感覚を研ぎ澄ませながらイザナギのレーダーを注視していた。
(ラブ、どこだ!?・・どこに行ったっていうんだ・・・!?)
 ラブを見つけることも感じ取ることもできず、カナタが焦りを膨らませる。
(博士・・ゼロス博士はオレたちを保護してくれて、その後の面倒も見てくれた・・オレは博士にすごく感謝していたし、ラブもカンナもそう思っているはずだ・・・)
 カナタはゼロスとの出会いや思い出を振り返っていく。
(その博士が、自分の目的のために手段を選ばないマッドサイエンティストだったなんて・・・!)
 ゼロスに裏切られたことが信じられず、カナタが両手を握りしめる。
(博士と戦うことになってしまっても、オレは戦えないかもしれない・・だけど、ラブを助けることだけは、必ずやる・・!)
 苦悩を抱えながらも、カナタはラブの救出に全てを賭けていた。
(たとえ次元の果てにいても、オレはラブを見つけ出す・・!)
 ラブへの想いを強めて、カナタは集中力を高めていった。

 ゼロスに捕まったラブは、次元の力を吸い取られていた。
「君の次元の力を集めた後に照射すれば、次元は再び変動を起こす。世界の変化と融合も起こる。わしらがまだ見ぬ世界も、まだまだあるはずじゃ。」
 ゼロスが歓喜を膨らませて、コンピューターを動かして、次元の操作の準備を進める。
「その全てを操作することができれば、わしらは大きく飛躍する・・!」
「それで今ある大切なものを壊したら、意味がないよ・・!」
 目を見開くゼロスに、ラブが言い返す。
「どんな研究も文化も、何らかの犠牲が出て生み出され発展していった。そんなことを気にしていては、新たな発見はできぬというもんじゃ。」
「だからって、みんなを犠牲にしたり、世界を混乱させたりして、平気でいるなんて・・・!」
 考えを改めないゼロスに、ラブは絶望していた。
(もうあそこにいるのは、私たちの知っているゼロス博士じゃない・・自分の研究のことしか考えていない、最低な人・・・!)
 ゼロスが敵だと認識したラブが、怒りと悲しみが入り混じる感情で、目から涙を流していた。
(カナタ、みんな・・私はここだよ・・もうみんなに頼るしかない・・だから、早く来て・・・!)
 カナタたちへの思いを膨らませて、ラブは力を振り絞る。彼女から出ている次元の力の光が強まっていく。
「力を強くしても、その分早く吸い取られるだけじゃ。抵抗しない方が楽になれるぞ。」
 ゼロスは悠然さを崩さずに告げる。しかしラブは力の解放を続けた。カナタたちに届くように。

「ラブ・・・!」
 ラブの捜索を続けるカナタが、彼女の力を感じ取った。直後にイザナギのレーダーにも反応が現れた。
「反応している・・間違いない・・ラブはそこにいる・・・!」
 カナタがイザナギを操縦しながら、タリアへ連絡を取った。
「グラディス艦長、ラブの居場所を見つけました!これからディメンションブレイカーでその方向の次元に穴を開けます!」
“カナタくん・・分かった。シンたちに知らせるわ。”
 カナタの報告を聞いて、タリアが答える。イザナギが飛翔して、ディメンションブレイカーのチャージを始める。
(この方向に向けて、ラブのいる次元までつなげる・・加減を間違えば、その威力でラブを吹き飛ばしてしまう・・威力を正確に定めて、絶対に間違えてはいけない・・・!)
 カナタは集中力を高めて、チャージの度合いを見計らう。わずかの違いでもラブを吹き飛ばしてしまうと、彼は自分に強く言い聞かせていた。

 タリアからの連絡を受けて、シンとレイはデスティニー、レジェンドに乗って発進準備を整える。アンジュ、サリア、サラマンディーネ、海潮、魅波、夕姫、孝一、恭子、霧子、将馬も次元の穴が開くのを待っていた。
「ステラ、シンといっしょにいけない・・・」
 ステラがシンのそばにいられないことに落ち込む。
「シンもみんなも必ず戻ってくる。それまで私たちでこの世界を守ろう・・」
「ルナ・・・うん・・ステラが、ここをまもる・・・」
 ルナマリアに励まされて、ステラが気持ちを落ち着けて頷いた。
「ラブを連れて必ず帰ってこいよ、アンジュ、サリア、サラ!」
「言われるまでもないわ。」
 ヒルダが呼びかけて、アンジュが微笑んで頷いた。
「ラブを助けたら、戦うより先にここに戻ってくること。」
「向こうで何をやってくるか分からないからね・・」
 サリアが指示を送り、夕姫が納得する。
「カナタ、こっちはいつでも行けるぜ!」
「次元をつなぐトンネルを開けてください!」
 孝一と霧子がカナタに声を掛ける。カナタはチャージの調整に集中して、出力を示すメーターから目を離さない。
(ここだ!)
「ディメンションブレイカー!」
 正確な出力を見抜き、カナタがイザナギのディメンションブレイカーを発射した。イザナギから出た閃光が空間を歪め、次元のトンネルを開けた。
「開いた!次元の穴だ!」
 将馬が次元の穴を指さして叫ぶ。
「みんな、今のうちに行ってくれ!オレもすぐに追いつく!」
「分かった!必ずラブを助け出す!」
 カナタが呼びかけて、シンが答える。デスティニーたちが先行して、次元の穴に飛び込んだ。
「オレもオレのやれることをやるけど・・みんなも、ラブのことを守ってくれ・・・!」
 シンたちへ信頼を寄せて、カナタは力を振り絞ってイザナギを動かした。

 次元につながりができたことに、ゼロスは気付いていた。
「まさかカナタ、ここに気付いたのか・・!?」
 ゼロスが疑問を感じて、コンピューターを操作してチェックする。
「まさか、ラブちゃんが力を発揮したのか・・この位置を知らせるために、わざと力を上げて・・・!」
 彼はラブに振り返り、その考えに気付く。
「確かに・・たとえ次元の果てでも、力を感知できれば位置を特定することができる・・ラブちゃんをまだ甘く見ていたということか・・・!」
 次元の力を発揮して呼吸を乱しているラブを見下ろして、ゼロスがいら立ちを覚える。
「仕方がないのぅ・・アレを使うとするか・・・」
 ゼロスがコンピューターを動かし、空間を歪ませた。彼は別の世界から機体を呼び寄せた。
「この戦力とこれだけの数・・十分時間稼ぎができるはずじゃ・・・!」
 ゼロスが笑みを浮かべて、ラブから次元の力を吸い取る作業を進める。ラブは力を多く吸われて、抵抗することができなくなっていた。
「向こうも丁度ここにたどり着いたようじゃのぅ・・」
 ゼロスが振り向いて笑みをこぼす。彼らの前にデスティニーたちが駆け付けてきた。
「いた!ラブだ!」
 シンがラブを見つけて声を上げる。
「ゼロス博士、すぐにラブさんを放しなさい!」
「カナタとラブ、そして私たちを騙した罪は重いわよ!」
 恭子とアンジュがゼロスに向かって言い放つ。
「イザナギで次元のトンネルを作り、君たちはここまで来たというわけじゃな。」
 ゼロスがデスティニーたちを見上げて呟く。
「じゃがお前たちにわしの邪魔はできんよ。お前たちの相手はコイツらじゃ。」
 ゼロスが指し示したほうにいた機体に、シンたちが目を疑った。そこにいたのはストライクフリーダムやインフィニットジャスティス、ヒステリカやダイケンゼンなど、彼らがかつて戦った機体や虚神、バンガだった。
「フリーダム、ジャスティス・・アイツらは死んだはずだぞ・・・!?」
「オレたちが戦ってきたヤツらだぞ・・何でこんなところに・・・!?」
 シンと孝一がフリーダムたちを見て驚愕する。
「あれから何も感じない・・パイロットもキュリオテスも、人は全然いない・・・!」
「別の世界から呼び出し、遠隔操作しているようだ・・」
 海潮がランガを通じてフリーダムの状態を確かめて、レイが推測を口にする。
「それにしても、フリーダムたちだけじゃなく、虚神やバンガまで・・・」
「バンガはキュリオテスにしか使えないはずなのに・・・!」
 魅波と夕姫がバンガもいることに疑問を感じていく。
「平行世界、パラレルワールド・・その中の、タオやキュリオテスが使役するものでないバンガを呼び寄せたのね・・・!」
 サラマンディーネが推測を巡らせて、ゼロスに目を向ける。
「そうじゃ。平行世界は無限に分岐して存在しておる。指摘通り、キュリオテスが使わない、またはキュリオテスが存在しない世界のバンガを呼び寄せた。」
 ゼロスが答えて、自分が身に着けた能力について語っていく。
「他の機体も様々な平行世界から呼び寄せ、わしが遠隔操作できるようにしておいた。わしの邪魔をするものを排除するよう、データを挿入してな。」
「つまり、私たちを倒すために、いろんな世界から戦力を呼んできたってことなのね・・・!」
 ゼロスの話を聞いて、霧子が彼に対して警戒心を抱く。
「この世界のお前たちは満足した生き方ができておるようじゃが、他の世界もみんな同じわけじゃないぞ。」
 ゼロスが他の平行世界について話を続ける。
「この世界のコズミック・イラは、デスティニープランもクライン派も壊滅したが、デスティニープランが実行し管理社会となった世界、クライン派が全ての実権を握った世界も存在する・・全ての勢力が共倒れし、地球も宇宙も壊滅した世界・・」
 彼はシンたちの世界の平行世界のことを語っていく。
「そんな・・そんなムチャクチャな世界があるかよ!」
「可能性の数だけ、世界も際限なく存在する。信じなくても、これも事実となるのじゃよ。」
 シンが反発するが、ゼロスは態度を変えない。
「エンブリヲが管理していた世界にも、平行世界は存在する。中にはエンブリヲの管理下でない世界もある。」
「エンブリヲが管理していない世界・・!?」
 ゼロスが他の平行世界について指摘して、サリアが声を荒げる。
「エンブリヲによって今も管理され続けている世界、そもそもマナもノーマの存在もない世界。アンジュくんがアンジュにならず、アンジュリーゼとして今もミスルギ皇国に身を置いている世界も・・」
「それがどうしたというのよ・・たとえ同じ私でも違う世界のことなんて、知ったことじゃないわよ・・」
 ゼロスの話をアンジュがはねつける。
「確かに他の世界に別の自分が存在していることは想像できますが、あくまでその世界の自分であって、私自身とは関係ありません。」
 サラマンディーネも惑わされることなく、ゼロスに言い返す。
「ランガが世界の敵とならない世界、島原勝流がキュリオテスにならない世界、逆に君たち3姉妹がキュリオテスになった世界。そしてペンギン帝国に支配された世界、表現の規制が全面的に敷かれた世界・・」
「いつまでもくだらねぇ御託並べてんじゃねぇぞ!」
 さらに語るゼロスの話を、孝一もはねつける。
「何度も言わせないでください!他の世界に私や将馬くんが何人いても、今ここにいる私も1人だけ、将馬くんも1人だけです!」
「そんなキリがない話をされても、気が滅入るだけですよ!」
 霧子も将馬も自分たちの想いを込めて反発する。
「もしかしたら、別の世界の私たちは、私たちより幸せになっているかもしれない・・でも、この世界にいる私たちは、自分の世界で生きているんだよ!」
 海潮は皮肉を感じながらも、今の自分たちの世界で生きて、それぞれの楽園を目指していることを口にする。
「違う世界のことは考えることはあるけど、羨ましがったり恨んだりはしない。オレたちはあくまでオレたちなんだからな!」
 シンが言い放ち、アンジュたちが頷く。彼らはゼロスの話に惑わされることなく、フリーダムたちと対峙する。
「平行世界には大して興味は持たんか・・じゃがこれだけの戦力と数、さすがのお前たちでも乗り切れるかのう・・」
 ゼロスが笑みを見せると、フリーダムたちがデスティニーたちに向かっていく。
「まずはラブを助けるのが先だ。ここで戦っても不利になるだけだ。」
「分かってるが、それどころじゃないみたいだぞ・・・!」
 レイが指示を出すが、シンはフリーダムたちを前にして、焦りを噛みしめる。
「誰でもいい!ラブを助けて、こっから外へ出るぞ!」
 孝一が呼びかけ、ダイミダラー超型がラブを助けに向かう。その前にダイケンゼンたちが立ちはだかる。
「ちくしょう!邪魔すんな!」
 孝一が苛立ち、ダイミダラー超型が左手からビームを放つ。だが割り込んできたザムザザーが陽電子リフレクターを発して、ビームを弾いた。
「アイツも出てきてたのかよ!?」
「あれもビームを跳ね返すなんて・・!」
 孝一が声を荒げ、霧子も驚愕する。ダイケンゼンが両手を前に掲げて、一斉にビームを放射した。
「おわっ!」
「キャッ!」
 ダイミダラー2機がビームを当てられて、孝一と将馬がうめき、霧子と恭子が悲鳴を上げる。
「くそっ!オレたちも行かないと!」
 シンが毒づき、デスティニーもラブを助けに向かう。フリーダムがドラグーンを射出して、ビームを発してデスティニーを引き離す。
「シン!」
 レイが叫び、レジェンドもドラグーンを射出して、フリーダムを牽制する。
(ここは大気圏の中と外、両方の性質があるようだ。重力も空気もあるが、宇宙のようにドラグーンが使える・・)
 彼はゼロスの次元の状態を把握して、ドラグーンを操作していく。レジェンドとフリーダムのドラグーンのビームが、連続でぶつかり合う。
 ビームが飛び交う中、ジャスティスがデスティニーに向かって突っ込んできた。シンが反応し、デスティニーが上昇してジャスティスのビームサーベルをかわした。
「フリーダム、ジャスティス・・まだオレたちの前に立ちふさがるのか・・・!」
 シンがジャスティスを見つめて、憤りを募らせる。
「でも中には誰もいない・・許せない敵だったけど、力は本物だった・・・!」
 キラとアスランの戦いを思い出して、彼が両手に力を込める。
「たとえいくつ出てきても、オレは負けない!」
 諦めないシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされ、デスティニーの動きがより速くより正確になった。
 デスティニーがビームライフルを手にして射撃する。ジャスティスが素早くかわして、デスティニーに迫る。
 デスティニーがアロンダイトを手にして、ジャスティスを迎え撃つ。ジャスティスが繰り出す右足のビームブレイドを、デスティニーがアロンダイトを振って跳ね返した。
 ジャスティスがキャリービームシールドからビームブーメランを手にして投げつけた。デスティニーも左手で右肩のビームブーメランを手にして投げて、ぶつけ合う。
「シン!レイ!」
「私たちで行くしかなさそうね・・!」
 海潮がシンたちに向かって叫び、魅波が言いかける。ランガがラブのいるほうへ移動して、時間と空間を超えて助けようとする。
 だがゼロスの展開するバリアにランガが拒絶された。
「通り抜けられない!?」
「そんなもの、ランガなら関係なく突破できるのに!?」
 海潮と夕姫がバリアを抜けられないことに驚愕する。
「この障壁は時間も空間も完全に隔絶させられる。たとえ時間を超えようとしても、ラブちゃんには届かんよ。」
 ゼロスがバリアについて説明して、ラブに目を向ける。
「助けるにはこの障壁と同調して相殺するしかない。可能だとしたら、イザナギとイザナミだけになるがな。」
「イザナギ・・カナタしかラブを助けられないってこと・・・!?」
 ゼロスの話を聞いて、サリアが焦りを噛みしめる。
「鵜呑みにするんじゃないよ!私とヴィルキスで、ラブを助ける!」
 アンジュが怒鳴って、ヴィルキスが白を基調とした真の姿となった。
「ヴィルキス!」
 アンジュが呼びかけ、ヴィルキスが空間を飛び越えてラブに近づく。しかしヴィルキスもバリアに弾かれて突き飛ばされた。
「このヴィルキスでも突破できない・・本当に、イザナギしか突破できないというの・・・!?」
 海潮がバリアを見つめて愕然となる。
「でも、カナタくんももうすぐ来るわ・・それまで耐えるしかない・・・!」
「くそっ!アイツらをブッ倒すことしかできねぇとはな・・!」
 霧子が励ますが、孝一はラブを助けられないことに悔しさを覚える。
「みなさん、私たちが生き残ることを優先させましょう!」
「そのために遠慮なく敵をブッ倒すのも手です!」
 サラマンディーネが指示を送るが、霧子はダイケンゼンたちを倒すことに専念する。
「行きましょう、孝一くん!」
「いいぜ、霧子!」
 霧子と孝一が声を掛け合い、2人が放出したハイエロ粒子が、ダイミダラー6型と超型からあふれ出す。
「ダイミダラー・インサートブレイク!」
 孝一と霧子が叫び、ダイミダラー超型と6型がハイエロ粒子を集めた手を突き出した。ダイケンゼンがダイミダラーたちの手に胴体を貫かれ、体内にハイエロ粒子を送り込まれ爆発した。
「やったぜ!まず1体!」
 孝一が勝ち誇り、霧子と将馬も喜ぶ。
「それはどうかのぅ。」
 ゼロスが微笑んだときだった。空間を超えて、新たにダイケンゼンが姿を現した。
「えっ!?またダイケンゼンが!?」
「まだ他にもいたってことなのか!?」
 恭子と将馬がダイケンゼンの出現に驚く。
「言ったはずじゃ。平行世界は無限に存在する。次元に干渉できるわしは、戦力を無限に呼び出すことができるのじゃ!」
 ゼロスが笑みを強めて語っていく。彼の意思によって、別の次元から次々に機体や兵器が呼び出されることになる。
「これじゃ倒しても倒してもキリがねぇっていうのかよ!?」
「ますますラブを助けて、ここから出ていきたいところだけど・・!」
 孝一が声を荒げ、シンがラブに目を向ける。しかしシンたちはラブを助けることができず、フリーダムたちとの戦いを強いられることになった。
「さぁ、もっともっとたくさんの世界とつながっていくぞ・・その全てを、わしが管理、操作していくぞ!」
 ゼロスが探求心と野心を強めて、ラブの次元の力に注目していく。
「みんな・・・カナタ・・・」
 ラブは目を薄っすらと開けたまま、声を振り絞る。
「ラブ!」
 そこへイザナギが駆け付けて、カナタがラブに向かって叫んだ。
「カナタ!」
「ラブを助けて!あなたとイザナギじゃないと、あのバリアを突破できないの!」
 シンが声を上げて、海潮が呼びかける。
(あのバリア・・次元も時間も遮断している・・中和して破らないと、ラブは助けられない・・・)
 カナタはバリアについてすぐに気付いた。同じ次元の力を使う以外にラブを助けることができないことも。
(オレにしかできない・・オレがラブを助けるんだ・・・!)
 カナタが自分に言い聞かせて、集中力を高めて次元の力の光を発する。イザナギが前進して、バリアに手を当てた。
(このバリアと波長を合わせて、そして紙を破るように打ち砕く・・!)
 カナタがバリアの状態を見抜き、イザナギが両手を広げてバリアを引き裂いた。
「ラブ!」
 カナタが叫び、イザナギが台座を砕いてラブを救い出した。
「ラブ、しっかりしろ!ラブ!」
 光の縄が消えたところで、カナタがラブに呼びかける。カナタはコックピットのハッチを開いて、ラブをイザナギの中に入れた。
「目を覚ましてくれ、ラブ!返事をしてくれ!」
 カナタがさらに呼びかけて、ラブがかすかに瞼を動かした。
「よかった・・眠っているだけだ・・・」
 安心したカナタが、元の次元に通じているトンネルに目を向けた。
「みんな、ラブは助けた!ここから脱出するんだ!」
「やったな、カナタ!」
 カナタが呼びかけて、孝一が喜ぶ。レジェンドが操作するドラグーンとデスティニーが発射したビーム砲で、フリーダムのドラグーンが破壊された。
「みんな、早く元の世界へ!」
「分かりました!」
 恭子が呼びかけて、霧子が答える。デスティニーたちが次元のトンネルに飛び込み、イザナギも続いた。
「ここから出てもムダじゃ。既に多くの次元の力を得た。この世界も他の世界も思い通りにできる。もちろん元いた世界もじゃ。」
 カナタたちにラブを取り返されても、ゼロスは悠然としていた。

「みなさん、こちらに戻ってきます!」
 レーダーがデスティニーたちの反応を捉え、メイリンが報告する。
「他の反応は?」
「シンたちを追跡する反応あり・・これは、フリーダムとジャスティス・・ダイケンゼンとヒステリカもです!」
 タリアに問われて、メイリンがレーダーを見て驚愕する。
「そんなバカな!?フリーダムもジャスティスも破壊されたはずだ!」
 アーサーも驚いて声を荒げたときだった。イザナギたちが次元のトンネルを抜けて、ミネルバのそばまで戻ってきた。
「ミネルバ、オルペウス、すぐに迎撃態勢を!別の次元から呼び寄せたんです!」
 カナタがタリアたちに向かって呼びかけてきた。
「カナタくん、ラブさんは!?」
「ここにいます!体力を消耗していて、今は眠っていますが・・!」
 タリアがラブのことを聞いて、カナタが答える。
「艦長、フリーダムとジャスティスが!」
 フリーダムたちも出てきたのを目撃して、アーサーが叫ぶ。
「あのフリーダムも他の機体やバンガも、ゼロス博士が別の次元から呼び出したものです!」
「中には誰もいません。博士の意思で遠隔操作されています。」
 シンとサラマンディーネがフリーダムたちについて伝える。
「つまり、みんな遠慮なくぶっ飛ばせるってことだよな・・!」
「でも、性能が高いのも確かだから、油断は禁物ね・・!」
 ヒルダが笑みを見せるが、ルナマリアは緊張を絶やさない。
「でもチンのほうが強い!チンがみんなやっつけてやるんだから!」
 リカンツが負けん気を見せて、リッツカスタムがフリーダムたちに向かっていく。
「リッツ、迂闊に飛び込んだらやられるよ!」
 霧子が呼び止めた瞬間、リッツカスタムがフリーダムとジャスティスに突進をかわされた。
「このー!コケコッコーアターック!」
 リカンツが怒って、リッツカスタムが嘴を突き出した。フリーダムとジャスティスがビームサーベルを振りかざして、嘴を跳ね返していく。
「速くて攻撃が通じない~!」
 リッツカスタムが衝撃で揺さぶられて、リカンツが目を回す。
「リッツ!」
 孝一が叫び、レイジアとテオドーラがビームライフルを手にして発射する。フリーダムたちがかわして、リッツカスタムから離れる。
「闇雲に突っ込んで勝てる相手じゃねぇのは、あたしらがよく知ってるからな・・!」
「お、お礼は言わないわよ・・ちょっと油断しただけなんだから・・!」
 注意をしてきたヒルダに対し、リカンツが強がる。
「ゼロス博士が私たちを追って、ここに出てくるかもしれないわ。そのときに迎え撃つのよ。」
 アンジュが呼びかけて、シンたちが頷く。
「待ってくれ、みんな!博士から話を聞かないと・・!」
「フリーダムたちを呼び出しているのは博士なのよ!力ずくでも止めないと、敵がどんどん呼ばれることになるわ!」
 呼び止めるカナタに、アンジュが檄を飛ばす。
「聞きたいことが山ほどあるのは分かるけど、今はそれどころじゃないわ・・!」
「敵が増えるのを止めないと、こっちがやられるわよ・・!」
 魅波と夕姫もゼロスを討つべきと考えていた。
「その肝心の博士は、こっちに来たのか・・!?」
 孝一が声を荒げて、次元のトンネルを見てゼロスの行方を探る。
「慌てなくてもわしならここにおるぞ。」
 声がかかり、カナタたちが視線を移した。イザナギたちの前に1機の機体が現れ、その上にゼロスが立っていた。
「ゼロス博士!」
「その機体・・博士が開発していたものか・・!?」
 カナタがゼロスに向かって叫び、シンが機体を見て呟く。
「これはわしが新たに開発し、ハイブリッドディメンションを組み込んだ“スサノオ”じゃ。機体としての性能は、イザナギとイザナギを凌駕しておる。」
 ゼロスが機体、スサノオについて説明をする。
「金でも銀でもない素材・・まさか、ダイヤモンドを組み込んでいるの・・!?」
 サリアがスサノオを見て、その詳細を見抜く。
「そうじゃ。実在する物質で最も硬いと言われているダイヤモンドを、機体の素材に加えている。耐久力は高いが、もちろんそれだけじゃない。」
 ゼロスが話を続けると、スサノオの胴体から光があふれ出した。
「それは次元の力・・ラブの力を・・!」
「そう!ラブちゃんの力を、ハイブリッドディメンションに組み込んだのじゃ!イザナギ以上のパワーをスサノオが持てたのは、そのためじゃ!」
 カナタがスサノオの持つ次元の力について気付き、ゼロスが高らかに答える。
「博士・・そこまで、ラブのことを弄ぶのか・・・!?」
 ゼロスの言動にカナタが怒りを募らせていく。
「もうラブに手出しはさせない・・アンタにこれ以上、世界をムチャクチャにされてたまるか!」
 カナタが言い放ち、イザナギがビームサーベルを手にして刃の出力を上げた。
「イザナギの性能も格段に上がったが、スサノオには敵わんよ。」
 ゼロスがため息混じりにカナタに苦言を呈する。
 イザナギが高速で詰め寄り、ビームサーベルをスサノオ目がけて振りかざした。だがスサノオが直後にイザナギの背後に移動した。
「い、いつの間に!?」
「次元の力を持つスサノオには、空間を渡ることなど造作もないことじゃ。」
 驚愕するカナタに、ゼロスが悠然と告げる。
「そしてこのスサノオは、次元の力をフル活用すれば空間だけじゃなく、時間を超えることもできるのじゃ。」
「時間って・・ランガみたいに・・・!?」
 ゼロスの話を聞いて、海潮も驚く。
「これもカンナくんたちディメントの戦力のデータを組み込むことができた結果じゃ。そして君たちの戦力も参考にさせてもらった。」
「イザナミだけじゃなく、ディメントやオレたちのことまで・・!」
 ゼロスの話を聞いて、シンも怒りを覚える。
「つまり、アイツはオレたちの力も持ってるってことでいいのかよ・・!?」
「関係ないわ!たとえヴィルキスと同じだとしても、私と本物が勝つんだから!」
 孝一が毒づき、アンジュが強気に言い返す。
「君たちが力を合わせても勝てはしない。スサノオはそれだけの力を備えただけでなく、わし自身にも力がある・・!」
 勝ち誇るゼロスの体から、次元の光があふれ出す。同時に彼の体にも変化が起こる。
「は、博士が・・・!」
 ルナマリアが目を疑い、カナタたちも驚愕する。年老いていたゼロスの体が若返っていく。
「ど、どういうことだよ、こりゃ・・!?」
「ゼロス博士の姿が、変わっていく・・・!?」
 孝一と将馬が声を荒げる。ゼロスの外見が20代を思わせるものとなっていた。
「大きな力を得て時間を超越するまでとなった私は、自分を若返らせることも可能となった・・・」
 ゼロスがひと息ついてから呟く。体だけでなく、声も若々しくなっていた。
「改めて自己紹介をしておこう。私はゼロス・シクザル。事件の覇者とでも名乗っておこうか。」
 ゼロスが名乗りを上げて、不敵な笑みを見せる。彼は次元の力をフル活用して、カナタたちの前に立ちはだかった。
 
 
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