スーパーロボット大戦CROSS
第74話「次元の最果て」

 

 

 カナタと同じ光を、カンナも発揮した。イザナミからあふれるその光を見て、カナタは驚愕していた。
「この光・・今のオレと同じ・・ラブが出したのと同じ光・・・!」
 カナタが自分たちの出す光について、疑問を感じていく。
「オレにも分からない・・すごい力で、次元にも影響を及ぼすぐらいとしか・・・」
 力に対する疑問を抱えたまま、カナタはカンナとの戦いに集中する。
「これで、今のカナタとも戦える・・カナタを完全に超えることができる・・・!」
 カンナが歓喜を覚えて笑みを浮かべる。イザナミが手にするビームサーベルの刃の出力が強まっていく。
 イザナミが飛びかかり、ビームサーベルを振りかざす。イザナギもビームサーベルで攻撃を受け止める。
 2つの強いビームの刃の衝突で、周囲に激しい衝撃が巻き起こった。
「も、ものすげぇ力だ・・離れてるこっちまでガンガン伝わってくる・・!」
「直接手で押されてるみたいだよ~・・!」
 ロザリーが衝撃の威圧感に毒づき、ヴィヴィアンが悲鳴を上げる。
「この力、ただ力が強いだけではないようだ・・・!」
「ランガも感じてる・・空間も揺さぶるくらいの力・・・!」
 ナーガも海潮もカナタたちの力に緊張を感じていた。
「確かにレーダーにも影響が出ているわね・・・!」
「もっと離れたほうがいいみたいね・・・!」
 エルシャとルナマリアが注意を促す。ミネルバとオルペウス、クレオパトラたちが後ろに下がる。
 イザナギとイザナミがさらにビームサーベルをぶつけ合っていく。その度に強い衝撃が巻き起こっていく。
「私はまた強くなった・・私はあなたを倒し、私こそが博士の研究を成功させるにふさわしい人になるのよ!」
「カンナ・・そんな考え方で、博士はこの研究を進めたいとは思っていない・・純粋に、次元と空間に関する研究をしてきたんだ・・!」
 自分の力の高まりに歓喜するカンナに、カナタが言い返す。
「力ばかりに囚われているお前に、博士の研究に手は出させない!ラブだって、お前のやり方を認めない!」
「認めないとは、あなたが私よりも優れているということよ!私の方が優れているのだから!」
 それぞれ怒りと野心をぶつけ合うカナタとカンナ。イザナギとイザナミがビームサーベルをぶつけ合いながら、上昇していく。
「どちらも宇宙を飛び出すつもりか・・・!?」
「もしかして、カナタもお姉ちゃんも、ディメンションブレイカーを撃つつもりじゃ・・!?」
 レイが呟き、ラブがカナタたちの動向を予測する。
「ここで発射すれば、私たちも余波の影響を受ける・・そうさせないためにイザナミを宇宙へ引き付けたのね・・・!」
 タリアがカナタの考えを把握する。
「しかしあの2機は、空間にも影響を及ぼす力を持っています・・その最大の力がぶつかり合ったら・・・!」
「イザナミの力が高まった以上、両者のこの衝突は避けられないでしょう・・」
 アーサーが不安を浮かべて、タリアがカナタとカンナが次元を揺さぶることを危惧していた。
 イザナギとイザナミが大気圏を飛び出し、その外側の宇宙で上昇を止めた。
「これで決着をつけることになるのは分かっていたわ・・そして全力を出して周りを巻き込まないように、ここまで来たことも・・・」
「分かっていて乗ってくるとは・・そこまでオレに勝ちたいって言うのかよ・・・!?」
「今の私にはそれが全てよ・・そのために過去は捨てた・・弱かった自分も・・・!」
「それでお前は、ラブまで裏切った・・実の妹まで捨てて、オレと戦って勝とうとするなんて・・あまりにも馬鹿げてる!」
「私を超えたあなたが、そんなことを言うなんて虫がよすぎるわよ!」
「どこまでも勝手なことを!」
 不満をぶつけるカンナに、カナタが怒りを募らせていく。
「お前はもうカンナじゃない・・ラブとこの世界を守るために、オレはお前を討つ!」
「討たれるのはあなたのほうよ、カナタ・・私の新しい力を、体と心に刻みつけなさい!」
 カナタとカンナが怒りをぶつけ合い、イザナギとイザナミがディメンションブレイカーの発射体勢に入る。
「ディメンションバースト!」
 2人がそれぞれディメンションバーストを起動して、機体の出力を最大にまで上げる。
「ここまでやって撃ち合えば、確実に空間の歪みを引き起こす・・みんなを巻き込まないように宇宙に出てきたが、それも気休めかもしれない・・・!」
「それでも決着をつける・・それが私たちの戦いなのよ・・・!」
 皮肉を感じるカナタに、カンナが言い返す。イザナミがさらに上昇して、イザナギと地球に同時に狙いを定めた。
「これでよけたら、地球は確実に壊滅的な打撃を受ける・・少なくとも、下で待っているクロスは・・・!」
「お前が生まれた地球までムチャクチャにしようっていうのかよ・・お前は、人間をやめることまでしてしまったのかよ!」
 あざ笑うカンナに対し、カナタは完全に迷いを振り切った。
「お前を確実に倒す・・お前を殺した罪を、オレは背負っていく・・・!」
「あなたは私には勝てない・・勝つのは私よ!」
 覚悟を決めるカナタと、勝ち誇るカンナ。イザナギとイザナミのディメンションブレイカーのチャージが完了した。
「ディメンションブレイカー!」
 イザナギとイザナミがディメンションブレイカーを発射した。2つの光が激しくぶつかり合い、周囲の空間を大きく揺さぶっていく。
(空間が乱れていく・・世界が、交わっていく・・・!)
 カナタが空間の歪みを痛感する。歪みは周辺の宇宙だけでなく、地球の地上や海にも及んでいた。
(みんなに被害を出すわけにはいかない・・空間の影響を、できるだけ1ヵ所に集中させて、カンナだけを消すように・・!)
 カナタがイザナギを操作して、ディメンションブレイカーの狙いを絞っていく。
「攻撃を集中しても、私が押し切るわ・・!」
 カンナが言い放ち、イザナミがディメンションブレイカーの出力をさらに上げて、イザナギを押し切ろうとした。
 次の瞬間、イザナギの集束された砲撃が、イザナミの砲撃の中心を貫いていく。竜巻の中心を通るように、イザナギの砲撃が突き進んでいく。
「そんな!?私の力が貫かれる!?」
 この瞬間にカンナが驚愕する。
「ディメンションブレイカーで、イザナミが力を使い果たしている・・動かない・・!」
 回避しようとする彼女だが、ディメンションブレイカーを発射し続けエネルギーを消耗したイザナミは、回避がままならない。
「キャアッ!」
 イザナミが砲撃を直撃され、爆発を起こす。爆発がコックピットにも及び、カンナが悲鳴を上げる。
 大破したイザナミが落下して、地球に落ちた。ディメンションブレイカーの余波がバリアのように覆っていたため、イザナミは傷つきながらも大気圏突破にも地上への激突にも耐えた。
「お姉ちゃん・・・!」
 ラブがイザナミを見つめて、動揺を膨らませていく。イザナギも地球に戻り、イザナミの近くに着地した。
「何とか地球にたどり着いたか・・だけど、カンナは無事でいるとは・・・」
 カナタが光を抑えて、落ち着きを取り戻していく。そのとき、彼の目からうっすらと涙があふれて流れ落ちた。
「あれ?・・オレ、何も悲しむようなこと・・・」
 カナタが涙を拭って困惑していく。
「もしかしてオレ、カンナが死んだことを悲しんでいるのか・・・!?」
 自分の本心に気付いて、カナタが動揺する。
「カンナ・・・カンナ・・!」
「カナタくん・・・!?」
 声を振り絞るカナタに、ラブも戸惑いを覚える。
「中にお姉ちゃんがいるかもしれない!助けて!」
 ラブの呼びかけに突き動かされて、カナタがイザナギから降りてイザナミに近づいた。
「カンナ!返事をしろ、カンナ!」
 カナタが呼びかけるが、イザナミからの返事がない。
「コックピットも開かない・・損傷がひどい・・・!」
 外からコックピットを開けず、カナタが焦る。
「イザナギでこじ開けるしかないか・・・!」
「カナタ・・・!」
 イザナギに戻ろうとしたカナタに、海潮が声を掛けてきた。イザナギのそばに着地したランガの手の上に、カンナがいた。
 ランガが時の扉を使い、イザナミのコックピットからカンナを助け出したのである。
「カンナ!・・時間を超えて、カンナを助け出したのか・・・!」
「この人の仲間の多くは、助けられなかった・・でも、助けられるなら・・・」
 カナタが戸惑いを浮かべて、海潮が悲しみを込めて答えた。カンナは傷ついていたが、命に別状はなかった。
「すまない・・オレ、もしかしたら、取り返しのつかないことをしたかもしれない・・・」
「助けられる命があるなら助けたいのは、みんな同じだよ・・大切な人だったら、尚更・・・」
 後悔を感じていくカナタに、海潮も自分の気持ちを伝える。
「敵を助けるなんて、海潮もカナタも甘いんだから・・」
「いいのよ、夕姫・・大切な人を失う悲しみを、私たちも知っているじゃない・・・」
 ため息をつく夕姫に、魅波が表情を曇らせる。彼女は勝流の裏切りと死を思い出していた。
「わ・・私・・いつの間にイザナミの外に・・・!?」
 意識を取り戻したカンナが、周りを見回して驚愕する。
「カナタのためを思って助けたけど、イザナミに戻すつもりもないわよ・・」
 夕姫が忠告して、ランガがカンナのいる手を軽く閉じる。
「それで私が観念すると思わないことね・・私はカナタにもあなたたちにも、絶対に屈しない・・・!」
 カンナがランガに鋭い視線を向ける。しかし体に痛みが走る彼女は、ランガの手の上から動くことができない。
「強情ね、あなたも・・そこまでカナタに勝たないと気が済まないって言うの・・?」
「あなた以上かもしれないわね・・」
 アンジュがカンナに不満を感じて、サリアが皮肉を口にする。
「カンナ、これで決着はついた・・お前は生き延びたけど、イザナミはもう動かない・・・」
 カナタがカンナに言って、大破したイザナミに目を向ける。
「まだよ・・ハイブリッドディメンションが無事なら、イザナミは蘇る・・新しい力を得ることも不可能じゃない・・・!」
 しかしカンナは彼と対立することを諦めない。
「もう不可能になったことに、いつまでも執着しないで・・・!」
 ラブがカンナに向かって、悲痛さを込めた声を上げた。
「意地を張るのは悪いことじゃないけど、自分のことを大切にして・・死んでしまったら、意地を張ることもできなくなっちゃうから・・・!」
 ラブが必死にカンナに呼びかけて、目から大粒の涙をこぼしていく。
「カナタを超えなければ、生きる意味がない・・・!」
 それでもカンナはカナタへの敵意を消さない。カンナはカナタに勝つことを生き甲斐にして、その敵意に憑りつかれていた。
「仕方がないことじゃな、カンナは・・」
 ゼロスが呟いた直後、ラブが突然意識を失い倒れた。
「ラ、ラブ!?」
 モモカとメイがラブの異変に驚く。直後、彼女たちが突然動けなくなった。
「う、動けない!?・・もしかして、マナの光・・!?」
「違う・・マナはもうないし、ノーマの私たちに拒絶されない・・・!」
 モモカとメイが体の自由が利かなくなりうめく。
「次元に干渉しての念力じゃ。マナとは関係ないわい。」
 モモカたちに言ってきたのはゼロスだった。ラブを気絶させたのもモモカたちの動きを封じたのも彼だった。
「ゼロス博士!?あなたがこれを・・!?」
「そうじゃよ。わしも次元に関わる力を使えるようになったのじゃよ。カナタたちやお前さんたちから離れていた間に、自在に使えるようになった・・」
 モモカが問い詰めると、ゼロスが笑みをこぼして語る。
「じゃが、わしの研究はまだ完成したとは言えん・・ラブちゃんの力が必要になる・・」
 ゼロスがラブを抱えて、閉ざされているハッチのそばに来た。
「私たちが動けない以上、外へ出られないわよ・・!」
 メイがゼロスに向けて言いかける。ゼロスの念力によって、オルペウスのドックにいるメイたち全員が動けなくなっていた。
「わしは次元に干渉できるのじゃよ・・このようにな・・」
 ゼロスが手を動かすと、光の穴が現れた。
「あれは、まさか・・!?」
 モモカが光の穴を目の当たりにして声を荒げる。
「ラブちゃんだけでなく、イザナミとカンナも連れていくぞ。」
「もしかして、ディメントのことは博士が仕組んでいたのですか!?」
 笑みをこぼすゼロスに、モモカが問い詰める。
「直接は関わってはおらん。じゃが協力させられたことを装い、そそのかしたことはあるがな・・」
 ゼロスはあざ笑い、光の穴に入り姿を消した。
「ラブさん!」
 モモカがラブに向かって叫ぶ。ゼロスたちの姿が消えたところで、モモカたちに掛けられた念力が消えた。
「しまった・・カナタ、ラブがゼロス博士にさらわれた!」
「なっ・・!?」
 メイが通信で呼びかけて、カナタが驚愕する。
「そんな!?何で博士がラブを勝手に連れていくんだよ!?」
「分かりません!突然のことでしたので!」
 困惑するカナタに、モモカも言い返す。
「わしの研究の完成には、ラブちゃんの力が必要なのじゃよ。」
 そのとき、ラブを抱えたゼロスの姿が、イザナギの前に現れた。
「ラブ!」
 カナタが目を見開き、ラブに向かって叫ぶ。
「どういうことなんだ、博士!?何をやっているんだ!?」
「わしはあらゆる次元と空間をつなげて、世界を1つにまとめようとしておるのじゃ。あらゆる世界を知り、あらゆる力を手に入れ使いこなす・・素晴らしい夢ではないか。」
 声を荒げるカナタに、ゼロスが悠然と語っていく。彼は自分の研究について語って、喜びを膨らませていく。
「待ってくれ、博士!博士は研究熱心だけど、研究員やオレたちに親切にしてくれた!研究のことしか頭にないマッドサイエンティストとは違う!」
「マッドサイエンティストか・・そう言われればそうかもしれんな!」
 呼び止めるカナタに向けて、ゼロスが奇怪な笑みを見せた。
「わしは研究のことを最優先にしてきた。そのためにお前さんたちや他の仲間を利用してきただけじゃ。」
「博士・・オレたちを騙してきたって言うのかよ・・!?」
「わしが信じていたのは、わし自身・・そしてわしの研究と、研究に必要なもんだけじゃ。」
 愕然となるカナタに、ゼロスが話を続けていく。
「今の研究を成功させる1番のカギは、君たちの持つ次元の力じゃ。」
「次元の力・・・!?」
 ゼロスの口にした言葉に、カナタが疑問を覚える。
「文字通り、次元に関わる力のことじゃ。次元や空間を通ったり、合わせたり分けたりできるものじゃ。」
「そんなものが、オレとラブ、カンナにあったのか・・・!?」
「お前とカンナにその力が眠っていることは調べがついた。じゃから2人をイザナギとイザナミのパイロットにしたのじゃ。ラブまで次元の力を持っておったとは、始めは知らなかったがのぅ・・」
「イザナギとイザナミは、次元を突破するために開発された機体・・次元の力を持っていたオレたちが動かせば・・・!」
「次元の力の効果は最大限まで発揮される!さらに2機の力をぶつけ合うことで、世界は再び大きな変化をもたらした!」
「それじゃ博士は、カンナにオレと戦うようにそそのかしたのか!?」
「そうじゃ!わしが別人に成りすまして、カンナにうまく言い聞かせてやったのじゃ!他の世界の者がこの世界に来る前からな!」
「そんな・・博士が、カンナを・・!?」
 ゼロスの話にカナタが耳を疑う。
「私は・・ゼロス博士の手のひらの上で踊らされていたというの・・・!?」
 カンナもゼロスに騙されたことに愕然となっていた。
「カナタよりも劣ると話してやれば、カンナは簡単に対抗心をむき出しにしてきた。それから2人は争い合い、力をぶつけ合って世界を歪めてまとめ上げた。」
「博士・・博士がやろうとしていた研究は、次元を歪めて世界を束ねることだったのか!?」
「その通りじゃ!世界の融合によって全てがどうなるか、わしの探求心がうずいて仕方がないんじゃよ!」
「まさか・・世界がつながり、世界に混乱が起きることを、博士は分かっていたのか!?」
 喜びを振りまくゼロスの話を聞いて、カナタが問い詰める。
「世界がまとまることは予想がついとった。じゃがいろんな勢力が連合軍として結託したのは、あくまでそいつらのことじゃ。」
 ゼロスは連合軍のことを気にせず、自分のことしか考えていなかった。
「わしがお前たちクロスの対立に関わったのは、ディメントのことだけじゃ。カンナ以外の面々も、悩みや事情、やりたいことを抱えていた・・そこをくすぐって、みんなをその気にさせたんじゃよ!」
「それじゃ私たち全員、博士の思い通りに・・・!?」
 ディメント全員がゼロスに振り回されていたことに、カンナが愕然となる。
「私が憎むべき敵は、カナタじゃなかった・・ゼロス・シクザル、あなただったのね・・!」
 カンナが立ち上がろうとするが、体の痛みで体の自由が利かない。
「イザナギとイザナミの対立で、再び次元の歪みと世界の変化が起こった・・同時にわしの研究が完成まであとわずかとなった!」
「博士!自分の目的のためなら、世界がムチャクチャになっても構わないというのか!?」
「わしは世界がどうなっても構わんとは思っとらん!じゃが、世界がわしの思い通りだとは思っておるがな!」
 カナタに咎められても、ゼロスは自分の探求心を見せつけるばかりである。
「ラブちゃんの持つ次元の力を利用して、世界をわしの思うように操作してやるぞ!カナタ、カンナ、お前たちの戦いによって得たデータも参考にしながらな!」
 ゼロスがラブを利用しようと企み、笑みをこぼす。
「やめろ!ラブを返せ!」
 カナタが叫び、イザナギがゼロスに向かって手を伸ばす。しかしゼロスたちの姿がイザナミの前から消えた。
「ラブ、どこだ!?ゼロス、どこへ行ったんだ!?」
 カナタが周りを見回し、ラブとゼロスを捜す。
「お前ならわしらを見つけられるじゃろう。同じ次元の力を持つ者同士、すぐにまた会うことになるじゃろうな。」
 ゼロスの声がこだまするように空に響き渡った。
「ラブを返せ!ゼロス、戻ってこい!」
 カナタが叫ぶが、ゼロスからの返事はなかった。
「ちくしょう!何で・・何でゼロス博士がこんな・・!」
 カナタが怒りを抑えられず、コックピットに握った両手を叩きつけた。
「ラブ・・ラブ!」
「カナタ・・・」
 悲痛の叫びを上げるラブに、シンも動揺を浮かべる。アンジュと孝一もいら立ちを浮かべて、海潮たちも困惑していた。

 事前に用意していた研究所に、ゼロスはラブを連れて戻ってきた。
「この次元の最果てにある研究所までは、どの世界の誰にも気づかんじゃろう。」
 異空間の中にある研究所のことを考えて、ゼロスが笑みをこぼす。
「わしはここで研究を続けてきた。カンナたちに別人に成りすまして助言し、そしてわざと捕まってカナタとの対立を誘発させた・・」
 彼はラブを見つめながら、今まで自分が巡らせた策略を振り返る。
「カナタとラブはクロスとして、カンナはディメントとして、各世界の抗争に関わってきた。それが3人の次元の力を引き上げることになり、空間を歪ませていった・・」
 これまでの世界の動きや戦況も思い返して、ゼロスが上を見上げた。
「わしはこの変動のデータを全て収集、分析してきた・・あらゆる世界、あらゆる空間をわしは制御、管理できるようになる・・それをついに実現させることができる・・・!」
 ゼロスが歓喜の笑いを上げて、そばにあるコンピューターを操作して、そばの次元を変化させる。
「次元の研究を進めるうちに、わし自身も次元の力を操れるようになった・・・!」
 彼は右手を動かして、そばの空間を軽く歪ませる。
「これに最大限まで引き出すラブの次元の力を使えば、わしは全てに干渉し、操作することができる!」
 ゼロスがラブに向けて手をかざし、力を送った。光が彼女の体を縛り逃げられないようにした。
「君の力を全て出してもらうぞ、ラブ・・わしと世界のためにな・・・!」
 ラブが目を覚ますのを待って、ゼロスが期待を膨らませた。彼の次元の研究は最終段階に入っていた。

 ゼロスの裏切りとラブがさらわれたことに、カナタは愕然となっていた。ミネルバに戻ってからも、彼の動揺は膨らむばかりである。
「少しは落ち着けよ、カナタ・・ドタバタしてラブが見つかるなら、苦労しねぇって・・」
 孝一がため息混じりに言うが、カナタは立ち直れない。
「ゼロス博士は、空間を超える能力を身に着けていた。こちらも空間を超えられれば、ゼロスの元へたどり着けるだろう。」
「問題は、その博士がどこにいるかね・・」
 レイと恭子がゼロスのことを冷静に考える。
「空間を超えていくにしても、どこにいるのかが分からないと行きようがありません。闇雲に行く時間もありませんし・・」
 サラマンディーネも現状を把握して深刻な面持ちを浮かべる。
「別の空間に移動していたら、さらにどこにいるのか分からないよ・・」
「そこまで正確に居場所を見つけられる方法がない限り、オレたちも動けないのかよ・・・!」
 海潮が苦悩を深めて、シンが悔しさを浮かべる。
「ヴィルキスでも龍神器でも、ゼロスの居場所を捕捉できない・・」
「でも、イザナギなら・・・」
 ナーガが呟き、カナメがイザナギに目を向ける。
「でもイザナギを使いこなせるのは、カナタくんだけ・・イザナミは壊れてしまって、カンナも負傷している・・・」
 霧子がカナタを見つめて心配する。
「いつまでしょげてるつもりよ!グズグズしてたらラブが帰ってこなくなるわよ!」
 アンジュがカナタに詰め寄って不満をぶつける。
「だけど、このまま戦えば博士を傷つけることになる・・殺すことになってしまう・・・!」
「寝ぼけたことを言わないで!その博士が私たちやあなたたちを騙して、自分の目的のために世界さえも思い通りにしようとしてるのよ!ホントの博士も、エンブリヲや、デスティニープランを強制しようとしたときのデュランダル議長と変わらないわ!」
 ゼロスと戦うことをためらうカナタに、アンジュが怒鳴る。
「迷ってたらラブがどうかされる・・カナタはそれでいいの!?」
「そうだぞ、カナタ!お前がラブを見つけて、オレたちみんなで助けに行くんだ!」
 アンジュに続いてシンもカナタに呼びかける。
「行こう、カナタくん!ラブちゃんを助けるのは、カナタくんのためでもあります!」
「博士と戦わなくても、ラブを助けることはできるよ!」
 霧子と海潮もカナタに励ましの言葉を送る。勇気づけられたカナタが、落ち着きを取り戻していく。
「みんな・・・その通りだ・・オレがまずやろうとしなかったら、ラブを助けられないんだ・・・!」
「その意気だ、カナタ。お前がラブちゃんの居場所を見つけられたら、オレたちも戦えるんだ。」
 決意を新たにするカナタに、タスクも励ます。
「オレ、イザナギでラブを捜してみる。みんなは今のうちに休んでいてくれないか・・」
 カナタがイザナギを見上げて、シンたちに呼びかける。
「水臭いこというなよ。オレたちも手伝うぜ。」
「そうだよ。私たちだけ何もしないわけにいかないよ・・!」
 孝一と海潮がカナタを気遣う。
「だからだよ、みんな・・本来はオレと博士のことだから、オレだけで何とかしないといけないことだけど、正直、博士との戦いはオレだけじゃどうにもならない・・だからその戦いは、みんなに甘えるしかないんだ・・・!」
「カナタ・・そこまで考えているのか・・・!」
 カナタの思いを聞いて、シンが戸惑いを感じていく。
「分かりました・・ですが、決して無理はなさらずに。辛いと思ったら遠慮せずに私たちを頼ってください。」
 サラマンディーネが助言を送り、カナタが微笑んで頷いた。
「整備は急ピッチでやってくから、みんなは休んでて!」
「私たちもダイミダラーの整備に来たわ。」
 メイが呼びかけると、もり子がより子、せわし子と一緒にオルペウスに現れた。
「博士たちもこっちに来てくれたんですね!」
 恭子がもり子たちに近づいて微笑む。
「ダイミダラーも他の機体もさっさと整備するよ!」
「ダイミダラー以外もハイエロにするのは・・!」
 せわし子の指示に、より子が動揺を見せる。彼女たちとメイ、ヨウランたちは各機体の整備に全力を注いだ。
(ラブ、待っててくれ・・必ずお前を見つけ出してやる・・・全ての戦いを終わらせて、お前やみんなと過ごすんだ・・・!)
 カナタはラブのことを想いながら、イザナギのレーダーを注視する。彼は自分の感覚も研ぎ澄まして、ラブの気配を感じ取ることも考えていた。

 ラブが意識を取り戻して、ゆっくりと目を開いた。
「わ・・私・・・えっ・・!?」
 異質な空間にいたことに、ラブが驚きを隠せなくなる。
「う、動けない!?何、コレ!?」
 彼女は自分が縛られていることに気付いて動揺する。
「気が付いたか、ラブちゃん。」
 そこへゼロスが来て、ラブに微笑んできた。
「ゼロス博士!?・・ここはどこですか!?何がどうなっているのですか!?」
「ここは別の空間にあるわしの秘密の研究所。わしが君をここに連れてきたのじゃ。」
 問いかけるラブに、ゼロスが悠然と語っていく。
「カナタは?・・みんなはどこですか!?」
「ここにいるのはわしらだけじゃ。カナタたちは置いてきた。」
「どうして!?・・何を考えているのですか、ゼロス博士!?」
「わしの研究を完成させるためじゃ。君が持っている次元の力が必要不可欠じゃからな。」
 困惑するラブに、ゼロスが自分の考えを告げる。
「研究って・・私たちみんなで研究を進めていけば・・・!」
「わしの壮大な研究は、わしの手で完成させる。他の者にいじくられてたまるものか。」
「そんな・・・それじゃ博士は、私に何かするってこと・・!?」
「さっきも言ったが、君の力を使わせてもらう。君の力を駆使すれば、あらゆる世界や次元を操作することが可能となる。」
 動揺を膨らませるラブに、ゼロスが話を続けていく。自分の研究のことしか考えていない彼に、ラブは愕然となる。
「あなたは間違っている・・自分の目的のために、他の人を利用するなんて・・!」
「それが壮大な研究を成功させるためなら、どんな手段も使ってやるわい!」
 反論するラブに、ゼロスが野心を見せつける。
「わしは知りたいんじゃよ!世界と次元の可能性を!科学者なら、探求心が強いなら、確かめたくなるのが性というものじゃ!」
「そのために私たちを、お姉ちゃんを・・みんなを!」
 歓喜を込めて語るゼロスに怒りを覚えるラブ。しかし光の縄から抜け出すことができない。
「ムダじゃ。君には逃げることもそれを外すこともできんよ。たとえ次元の力を使ってもな。」
 ゼロスがラブを見つめて告げる。ラブが感情を高ぶらせて体から光を発するが、それでも光の縄から抜け出せない。
「しかしいつまでも悠長にしているわけにもいかんな。向こうにここに来る可能性はゼロではないからのぅ。」
 ゼロスが顔から笑みを消して、コンピューターを操作する。ラブの体から出ている光が、ベッドに付けられている機械に吸い込まれた。
「力が抜けていく・・吸い取られているの・・・!?」
「君の力、存分に使わせてもらうよ。」
 苦悶を浮かべるラブに微笑むゼロス。彼の次元に対する研究が最終段階に入った。
 
 
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