スーパーロボット大戦CROSS
第72話「それぞれの世界」

 

 

 イザナミ、アンチェーン、ピンギーを前にして、カナタたちは焦りを噛みしめていた。
「3対1・・しかもこっちは、はやく博士を連れ戻さなくちゃいけないのに・・・!」
 交戦も撤退も厳しいと痛感して、カナタが焦りを募らせる。
「カナタ!」
 そこへ声がかかり、カナタたちが振り向いた。ランガとダイミダラー超型と6型、リッツカスタムが駆け付けた。
「海潮、孝一、霧子、リッツ!」
「みんな、来てくれたんだね!」
 カナタとラブがランガたちを見て喜ぶ。
「あれからさらに仲間が増えたようじゃな・・それにあの巨人、以前と姿が違っている・・・!」
 ゼロスがランガたちを見て呟く。
「私たちも援護します、カナタくん!」
「あの人たちは、私たちが食い止めるよ!」
 海潮と霧子がカナタたちに呼びかける。
「帝王様を裏切った偽ペンギン!このリッツことリカンツ・シーベリーがお仕置きしてやるわよ!」
 リカンツがアムダに向かって言い放つ。
「ペンギン帝国の味方になったはずのハイエロ粒子の持ち主なのに、よりによってクロスの味方になるなんてー!」
 アムダがふくれっ面を浮かべて、ピンギーがダイミダラーたちの前に立ちはだかる。
「バンガ・・あなたもキュリオテスなのに・・・!」
 海潮がレムイを目の当たりにして当惑する。
「私は勝流やナイエルたちとは違う。タオに背き、にもかかわらずキュリオテスの力を使い続けている。真の正しき世界のために。」
 カグラが自分の素性を海潮たちに語っていく。
「だったら、私たちと力を合わせて、世界をよくしていけば・・・!」
「お前たちも理解しているはずだ。人間が愚かで身勝手な存在であることを・・」
 説得を試みる海潮に、カグラが冷たく告げる。
「地球が、自分が暮らす場所が危険になると聞かされた途端、その根源とされたものを憎むようになる。根拠がなかったとしても・・」
「それは・・・!」
 カグラが指摘したことに、海潮が当惑する。
「自分の命欲しさに他のものを敵と見なして邪険に扱う。そんな愚か者の自主性に任せても、世界は正しくはならない・・」
「そうね。確かにそんな人ばかりね・・でも、愚かなのはあなたたちも同じことよ・・・」
 人の愚かさについて話すカグラに言い返して、夕姫が嘲笑する。
「人は勝手な考えをするのが多いけど、そうじゃない人も少なくないわ。ランガや私たちを信じている人もいる。」
 魅波が今までの時間や戦いを思い返していく。自分たちも含めてランガを信じたからこそ、ランガとの日々を過ごすことができた。
「まだ大変な世界だけど、私たちは今を生きていくよ。みんなと一緒に!」
 彼女の言葉に共感して、海潮が笑みを浮かべて言い放った。
「この世界に執着するなら、お前たちも粛清しなければならないようだ・・・!」
 カグラが目つきを鋭くして、レムイが頭部にある1つの目を不気味に光らせる。
「ランガ!」
 海潮が呼びかけて、ランガがレムイに向かっていく。
 ランガが剣を手にして振りかざす。レムイが剣をかわして、ランガとの距離を保つ。
「逃げてばかりじゃ、私たちには勝てないわよ!」
「確かにその通りだ。だが勝ち目がないのはお前たちのほうだ。」
 夕姫が挑発して、カグラが冷静に言い返す。ランガがレムイを追って、剣を横薙ぎに振りかざした。
 だがレムイの姿が剣に当たる直前に、ランガの前から消えた。
「瞬間移動した!?」
 魅波が声を荒げて、海潮がレムイを捜す。レムイは地上に移動して、ランガを見上げていた。
「移動が速すぎる・・あのバンガも空間を移動するの・・・!?」
 夕姫がレムイを見下ろして、警戒を強める。
「でも、ランガは時間を操れる・・空間を超える動きも超えられるはず・・!」
 魅波も続けて言って、海潮が彼女たちと共に意識を集中する。ランガが時空を跳躍して、レムイの後ろに回った。
 だが剣を突き出そうとした瞬間、ランガが背後から強い衝撃を受けた。直前まで眼前にいたレムイが、ランガの後ろに回り込んでいた。
「い、いつの間に!?」
「どうして!?時間を超えたランガの後ろに回るなんて!?」
 魅波と海潮がレムイの動きに驚愕する。レムイはランガに勝るとも劣らない速さを見せていた。
「このレムイは元々は空間を操るだけのバンガだった。しかしタオから離脱したことで、タオが忌み嫌う時の力を得た・・」
 カグラが海潮たちに語って、自分の右手を見て握りしめる。
「時の力・・ランガ以外で、時間を操れる存在がいたなんて・・・!?」
「皮肉なことだ・・タオから離脱したことで、タオが敵視するランガと同じ力を持つことになるとは・・だがこれで、お前たちと互角に渡り合えるようになった・・・!」
 困惑する海潮と、苦笑を浮かべるカグラ。
「私は私たちの目指す正しき世界のため、ランガ、お前を葬る・・・!」
 カグラが鋭く言い放ち、レムイが再びランガの背後に回った。しかし直後にランガがレムイの背後に回った。
「互いに時間を超えて動くか・・これでは埒が明かんな・・」
 カグラがため息をついて、ランガの動きを冷静に把握していく。
「違う時の私を介入させる・・・!」
 カグラが念じると、レムイの姿が3人に増えた。
「えっ!?分身!?」
「分身したくらいで、私たちに勝てると思っているの!?」
 魅波が声を荒げて、夕姫が言い放つ。
「分身ではない。別の時間の私自身を呼び寄せた。」
「単純に考えて能力が3倍になったと言える。」
「だが実際はそれ以上の力を発揮できる。私のことは、私がよく知っているからだ。」
 カグラたちが自分のことを話していく。3体のレムイが散開して、ランガを包囲する。
「ランガと同じように時の力を使えるなら、ランガが追いつけなくなる・・・!」
 海潮はランガとレムイの能力を把握して、緊張を覚える。
「覚悟しろ、島原の者たちよ。お前たちを粛正する。」
 カグラが告げて、3体のレムイが同時に衝撃波を発した。
「うわっ!」
 ランガが3方向からの衝撃に押されて、海潮たちが悲鳴を上げる。ランガが翼をはばたかせて、地上に落ちることなく浮遊した。
 レムイたちが空間を越えて移動し、再びランガを包囲した。
「取り囲んでも、その直前の時間に動けば・・!」
 夕姫が言い放ち、ランガがわずかの時間を移動して回避しようとした。だがレムイたちを振り切ることができない。
「私たちと同じように、あのバンガも時間を超えてきた・・!?」
「これじゃ逃げ切ることができない・・迎え撃つしかない・・・!」
 魅波が驚愕し、海潮が焦りを噛みしめる。レムイたちも時間を跳躍して、ランガを追跡していた。
「お前たちが私の時の流れを理解しているように、私もお前たちの時間が見えている。」
 カグラが海潮たちに告げて、レムイたちが空間操作をした。ランガが空間の変化に巻き込まれて、手足を消された。
「キャアッ!」
 ランガが受けた激痛を全身で感じて、海潮たちが絶叫を上げた。負傷したランガが力なく落下していく。
「その程度ならランガなら再生できる。ランガが真の力を発揮しても、私を止めることは・・」
 カグラがランガを見下ろして呟いた。その最中、彼は突然苦痛を覚えて顔を歪めた。
(何だ!?・・なぜ、このような痛みが・・・!?)
 カグラが自身の異変に疑問を感じていく。
(私は仮にもキュリオテスで、私のバンガを使っている・・スーラの血筋でない人間が神を操ることとは違う・・・!)
 カグラが痛みに耐えて、ランガを見据える。彼はレムイを操作して、ランガに向けて重力操作を仕掛けた。
 だが重力操作を出すのが遅れ、ランガに回避された。
「向こうの動きが鈍ってきている・・・!?」
「何があったの・・・!?」
 夕姫と魅波がレムイの異変に疑問を覚える。
「今のうちに、ランガを復活させないと・・・!」
 海潮が意識を傾けて、ランガが手足を再生させていく。
「私はランガに負けない力を得ている・・その力を活用することで、ヤツを追い詰めている・・・!」
 カグラが痛みに耐えながらも、勝利できると確信していた。
 3体のレムイが時空を超えて、ランガに連続で突進を当てる。ランガがダメージを蓄積させ、海潮たちがその苦痛でうめく。
 だがカグラも激痛を募らせて、感覚を揺さぶられていた。
(さらに痛みが増した・・時の力を使うほどに、負担が大きくなっていく・・今まで時の力を使っても、こんなことはなかったのに・・・!)
 カグラが自分の胸に手を当てて、激痛を抑えようとする。
(タオに背いた代償なのか・・それとも、時の力の行使を許されているのは、ランガだけだというのか・・・!?)
 痛みの原因に気付き、カグラが目を見開いた。
(しかし私は倒れるわけにはいかない・・ランガを、クロスを倒し、世界を正すまでは・・!)
 カグラが感覚を研ぎ澄ませ、レムイ3体がランガを追う。しかしランガに追いつくことができない。
「あのバンガの動きが確実に鈍っている・・・!」
「向こうに何か起こったんじゃ・・・!?」
 夕姫がレムイの動きを見て呟き、海潮が戸惑いを覚える。
「落ち着いて!無闇に力を使わない方がいいよ!」
 海潮がとっさにカグラに向かって呼びかけてきた。
「力を使うな?降参でも考えているのか・・・!?」
 カグラが声を振り絞り、海潮たちに言い返す。
「そうじゃない・・でもあなたが力を使うと、負担が掛かるんじゃないの・・・!?」
「そんなことはない・・私はキュリオテス・・バンガを操ることができる・・レムイは虚神ではない・・・!」
 海潮からの指摘に、カグラが必死に反論する。
「このような代償が生じるはずがない・・たとえ生じるとしても、私はまだ、倒れるわけにはいかないのだ・・・!」
「虚神もバンガも、スーラの亡骸を使った鎧・・そこに大きな差はないわ・・・」
 正しい世界の実現を目指すカグラに、夕姫がため息混じりに告げる。
「時を操る力は、ランガが使える力よ。スーラを使ったバンガが、完全に使いこなせるはずがなかったのよ・・・」
「時の流れから自由なのは自分だけだと、タオは考えていた・・そのタオのために戦うキュリオテスが、時間を操ることを許すとも思えないわ・・・」
 夕姫に続いて魅波も語りかける。
「あなたに時間は操れない・・キュリオテスである、あなたには・・・!」
 海潮が深刻な面持ちで、カグラに言い渡す。彼女たちと自分にのしかかる現実に、カグラは憤りを募らせていく。
「もはや引き返すことはできない・・我々とお前たち、どちらが果てるかしかない・・・!」
 退こうとせず、カグラはレムイを操る。3体のレムイがランガを追走し、空間操作を行う。
「ランガを空間の最果てに落とす・・・!」
 カグラが言い放ち、レムイが作り出した異空間に閉じ込めようとした。
 次の瞬間、カグラは視界の中の光景に目を疑った。彼が見たのは、レムイが4体いたことだった。
「どういうことだ!?・・私は、3人にしか分かれていないぞ・・・!」
 カグラが自分以外の3体のレムイを見て驚愕する。その3体は、空間操作を行っていたレムイだった。
「これは・・まさか、ランガと私の位置が入れ替わったのか!?」
 カグラは異変に気付き、ランガを捜した。ランガはレムイたちから離れた空にいて、その体には時の鏡があった。
「時を操り、一瞬にして私と自分を入れ替えたのか・・・!?」
 カグラがランガを見つめて愕然となる。ランガはわずか未来に移動してレムイの1体を捕まえ、元の時間に戻って居場所を入れ替えたのである。
(私は超えることができなかった・・・ランガも、タオも、時間も・・・)
 諦めを抱いて目を閉じるカグラ。レムイが異空間の中に消えて、他のレムイたちもいなくなった。
「完全に消えたわね・・・」
「自分の力に溺れた・・というより、何もかもに逆らいたかったんじゃないかって思えた・・・」
 夕姫がため息をつき、魅波がカグラを哀れむ。
「いろんなことから抜け出して・・あの人も自由になりたかった・・私たちと同じように・・・」
 海潮がカグラに同情して、悲しい顔を浮かべる。
「でもこれは自業自得よ・・何にも逆らおうとして、結局何もかも中途半端になってしまった・・」
「そうね・・いつまでも深く考えても、どうにもならない・・・」
 夕姫がカグラを一蹴し、魅波が頷く。
「自由を欲している人同士なら、戦わずに、話し合って分かり合うこともできたのに・・・」
 対立したままカグラと別れることになり、海潮はやるせない気持ちを感じていた。

 ヴィルキス、クレオパトラ、焔龍號の3機を前にしても、黒龍神を駆るアブルは冷静でいた。
「ラグナメイル2機に龍神器・・私の方が不利だと思っているようだけど・・・」
 アブルが無表情でアンジュたちに告げる。
「私は独自に黒龍神を強化させた・・エンブリヲだけでなく、あなたたちを上回るように・・・」
「あなたもエンブリヲを討つために全てを賭けてきたようだけど・・」
「私たちを上回ったっていうのは、さすがに大口よ。」
 アブルの口にする言葉に、サリアが言い返し、アンジュが呆れる。
「たとえ性能を高めても、私たち3人に勝てはしませんよ。」
「今の黒龍神は以前の黒龍神ではない・・調整を施して、黒龍神は性能を格段に飛躍させた・・・」
 サラマンディーネの投げかけた言葉に言い返して、アブルが微笑んだ。
 黒龍神が黒炎を手にして、アンジュたちに飛びかかる。そのスピードは以前を上回っていた。
 アンジュとサリアが反射的に操縦し、ヴィルキスとクレオパトラがラツィーエルを掲げて、黒龍神が振った黒炎を防いだ。
「速い・・!」
「ラグナメイル以上の性能じゃなかったら、確実にやられているところ・・・!」
 アンジュが毒づき、サリアが黒龍神に対して息をのむ。
 黒龍神が白虎に持ち替えて、ビームを発射した。ヴィルキスが素早く回避し、クレオパトラがビームシールドでビームを防いだ。
「調子に乗って・・ヴィルキス!」
 アンジュが叫び、ヴィルキスがアリエルモードになってスピードを上げた。黒龍神の白虎からの連射を、ヴィルキスがかいくぐる。
 ヴィルキスが黒龍神の眼前まで詰め寄った。ヴィルキスと黒龍神がラツィーエルと黒炎を同時に振りかざして、激しくぶつけ合った。
 さらに立て続けにヴィルキスと黒龍神が衝突を繰り返す。しかし徐々にヴィルキスが押されていく。
「スピードは互角でも、パワーは黒龍神に劣っているようね・・・」
 アブルがヴィルキスと黒龍神の差を冷静に分析する。
「だったら・・ヴィルキス、次よ!」
 アンジュが呼びかけて、ヴィルキスが赤く変化してミカエルモードになった。
「その姿も知っているよ・・それだと力は互角になるけど・・」
 アブルは動じることなく言って、ヴィルキスの動きを見る。ヴィルキスがラツィーエルを振りかざすが、黒龍神に軽々とよけられる。
「今度はスピードが追いつけなくなる・・」
 アブルが呟き、黒龍神が黒炎を振りかざした。
「うあっ!」
 ヴィルキスが黒炎の一閃に突き飛ばされて、落下していく。
「アンジュ!」
 サリアが叫び、クレオパトラが黒龍神に向かっていく。2機がラツィーエルと黒炎をぶつけ合う。
「そのラグナメイルはヴィルキスと互角・・それでは私には勝てない・・」
「あなたは甘く見すぎよ・・私のことも、アンジュのことも!」
 表情を変えないアブルに、サリアが言い返す。
「身の程知らずはどちらなのかな・・?」
 アブルがため息混じりに言うと、紅刃を射出してビームを発した。サリアが反応し、クレオパトラが黒龍神から離れてビームを回避した。
「遠隔操作の武器・・ドラグーンと同じ・・・!」
「しかもドラグーンと違って、宇宙以外でも自由に動かせるようですね・・・!」
 サリアとサラマンディーネが紅刃について分析する。
「この黒龍神を超えるスピードを出さない限り、完全にかわすのは不可能・・」
 アブルが呟き、黒龍神が紅刃からさらにビームを発射する。クレオパトラとサラマンディーネがビームをかいくぐる。
「アイツを超えられるだけの力とスピード・・エンブリヲやキラを倒したときの、あの姿に・・・!」
 アンジュが今までの戦いを思い出し、ヴィルキスの真の力を引き出そうとする。
「しっかりやるのよ、ヴィルキス!あんな黒いのに負けたら許さないからね!」
 アンジュが強く呼びかけると、ヴィルキスの胴体がまばゆい光に包まれた。白を基調とした姿となり、赤いラインが入った。
「アンジュ!」
 サリアとサラマンディーネがヴィルキスを見て声を上げる。
「ヴィルキスの真の力・・今度は油断できない・・・!」
 アブルがヴィルキスへの警戒心を持ち、黒龍神がヴィルキスに振り向く。
「アンジュ、あの龍神器を上空で動きを止めてください。私が収斂時空砲で討ちます・・・!」
 サラマンディーネが策を練り、アンジュに呼びかける。
「ちょっと、サラ子!手柄を独り占めするつもり!?」
「あれに追いつき止められるのはあなたとヴィルキスしかいません。しかしあなたが決め手に回れば、あれの動きを止められるのはいません・・・!」
 不満を言うアンジュに、サラマンディーネが冷静に告げる。
「勝利のカギは私ではなくあなたです。それで納得できませんか?」
「サラ子・・・分かったわよ・・・!」
 サラマンディーネに諭されて、アンジュがため息混じりに聞き入れた。
「私はあの小さな物体を破壊するわ。あなたたちに手出しはさせないわ・・・!」
 サリアがアンジュたちに言って、紅刃の数と位置を把握する。
「割引する必要はないわよ、サラ子!むしろ割増しでやりなさい!」
「言われなくてもそのつもりですわ!」
 アンジュが言い放ち、サラマンディーネが微笑んで答えた。
「何を企んだとしても、あなたたちに私は負けない・・・」
 アブルは表情を変えずに、黒龍神と紅刃を動かす。
「アンジュ、ライフルを貸して!」
 サリアがアンジュに呼びかけて、ヴィルキスがクレオパトラにアサルトライフルを渡した。クレオパトラがビームライフルとアサルトライフルを使い、展開してきた紅刃を迎撃する。
「心強いですね、サリア・・・では、私も・・・!」
 サラマンディーネがサリアを称賛して、永遠語りの詠唱に意識を傾けた。焔龍號が収斂時空砲を展開する。
「撃つつもりなのだろうけど、撃つ前に叩くことも、撃たれても回避することも可能よ・・」
 アブルが焔龍號を見て、白虎を構えた。
 そこへヴィルキスが飛び込み、ラツィーエルを振り下ろしてきた。アブルが反応し、黒龍神がラツィーエルをかわした。
「アンタの相手は私よ!」
「ヴィルキス・・アンジュ・・・」
 言い放つアンジュに、アブルが不満を覚える。黒龍神が白虎を発射するが、ヴィルキスに素早くかわされる。
 ヴィルキスが振りかざしたラツィーエルが白虎を叩いてへし折った。
「くっ・・!」
 アブルが毒づき、黒龍神が損傷した白虎を捨てて、黒炎に持ち替えた。ヴィルキスと黒龍神がラツィーエルと黒炎を激しくぶつけ合う。
「あなたも世界そのものを壊してひっくり返そうと考えていたのでしょう?・・それなのにいつまでもクロスに与して・・」
 アブルがアンジュに対して、呆れて肩を落とす。
「確かに世界を1度壊したいとは思っていた・・でも、アルゼナルやクロスが、私のいる場所だっていうのもホントなのよ!」
「そう・・それで私たちの邪魔をしようというんだね・・それも、私たちのことが気に食わないというだけで・・・」
「それが悪いの?それが私なのよ!」
「悪いとは思っていないわ・・ただ、私もあなたたちの考え方が気に食わない・・それだけよ!」
 自分の考えを貫こうとするアンジュに、アブルが鋭く睨みつける。
「私は世界を正す・・あなたたちとは違う形で・・・!」
 アブルが言い放ち、黒龍神が雷鳴を展開した。
「あれを撃つつもりね・・でもそれを許す私だと思っているの!?」
 アンジュが言い返し、ヴィルキスが高速で詰め寄りラツィーエルを振りかざす。黒龍神は回避しながら、雷鳴にエネルギーを集めていく。
「攻撃を受けなければ、十分チャージできる・・焔龍號の収斂時空砲よりも早く・・・!」
 アブルが微笑んで、ヴィルキスだけでなく、クレオパトラと焔龍號の動きも注視する。
「まだ私たちを甘く見ているのね・・・死んで後悔することね!」
 アンジュが言い返し、ヴィルキスが残像を伴った高速で黒龍神に詰め寄っていく。
「あのデスティニーのような動き・・その動きも分かっている・・・!」
 アブルは残像に惑わされることなく、黒龍神が雷鳴のチャージを続ける。
 回避を続ける黒龍神を、ヴィルキスが追っていく。
(ヴィルキス、空間を超えて!アイツの後ろに!)
 アンジュが意識を傾けて、ヴィルキスが空間移動をして、黒龍神の後ろに回り、凍結バレットを発射した。
「それでも私と黒龍神は止められない・・・」
 アブルが呟き、黒龍神が黒炎を振り上げて、弾丸を冷気ごと両断した。
 そのとき、アブルが歌を耳にして警戒を強めた。その詠唱はサラマンディーネではなく、アンジュのものだった。
 ヴィルキスもディスコードフェイザーを展開して、発射体勢に入っていた。
(フルパワーじゃなければ、そんなに時間を掛けずに撃てる・・・!)
 詠唱を続けるアンジュが、勝利を実感して心の中で呟く。
(せめて一瞬だけでも、アイツの動きが止まれば・・・!)
「行くわよ!」
 アンジュが叫び、ヴィルキスがディスコードフェイザーを発射した。
「雷鳴!」
 アブルも雷鳴を発射し、2機のエネルギーの奔流がぶつかり合い、激しい衝撃を巻き起こす。その衝撃を受けて、黒龍神が揺さぶられた。
 次の瞬間、ヴィルキスが黒龍神に詰め寄り、ラツィーエルを突き出してきた。アブルが反応し、黒龍神が紙一重でかわした。
 その直後、ヴィルキスが黒龍神を背後から組み付いて押さえた。
「くっ!・・止められた・・・!」
「サラ子、今よ!早く撃ちなさい!」
 アブルが毒づき、アンジュがサラマンディーネに呼びかける。
「丁度全力で撃てるようになりました!巻き添えにならないようにタイミングよく脱出してください!」
 サラマンディーネが微笑んで、黒龍神に狙いを定める。紅刃は次々にクレオパトラによって撃破されていた。
「いきます!」
 サラマンディーネが言い放ち、焔龍號が収斂時空砲を発射した。その直後にヴィルキスが離れようとしたが、黒龍神に腕をつかみ返された。
「私がやられるなら、せめてあなたも巻き添えにするわ・・・!」
「冗談じゃない!アンタと心中なんてゴメンだよ!」
 アブルが鋭く言って、アンジュが言い返す。ヴィルキスが強引に離れようとして、黒龍神がしがみつく。
 焔龍號の砲撃から、ヴィルキスは辛くも逃れた。黒龍神が砲撃に押されて、背部を歪められた。
「しまった・・・!」
 アブルが毒づき、黒龍神が黒炎をヴィルキスに突き立てた。
「ぐっ!」
 ヴィルキスが左肩を黒炎に貫かれ、アンジュがその衝撃に襲われてうめく。
「アンジュ!」
 サリアとサラマンディーネがアンジュに向かって叫ぶ。
「私も、身勝手によって乱れた世界がイヤ・・その世界に、私はいたくない・・・!」
「だったらアンタたちは消えなさい!私たちは私たちで生きていくから!」
 互いに感情を込めて言い放つアブルとアンジュ。ヴィルキスが力を振り絞り、黒龍神の腕をつかみ返してへし折った。
「ぐっ・・!」
 黒龍神の腕が使えなくなり、アブルが目を見開いた。
「私が死んでも・・この世界が、正しい方へ向かうなら・・・!」
 彼女が声を振り絞り、黒龍神がヴィルキスに密着した状態で雷鳴のエネルギーを集める。
「この状態のまま撃てば、自爆同然に吹き飛ぶ・・それでも、あなたを消すには十分よ・・・!」
「だから、私はアンタとは心中しないわよ!死にたきゃ勝手に1人で死になさい!」
 言い放つアブルにアンジュが文句を言う。ヴィルキスがラツィーエルで黒龍神の胴体を貫いた。
「うわあっ!・・・私は・・おかしいことのない世界へ・・・」
 絶叫を上げるアブルが、理不尽のない世界を求め手を伸ばす。ヴィルキスが離れた直後に、黒龍神が雷鳴を暴発させて、その爆発の閃光の中に消えた。
「予定とは違ったけど、ディメントの龍神器を討てたわね・・」
 黒龍神が消えるのを見届けて、サリアがひと息つく。
「アンジュ、大丈夫ですか・・?」
「今回はひどくやられたわね・・でも私自身は大丈夫よ・・」
 サラマンディーネが心配して、アンジュがため息混じりに答える。ヴィルキスは負傷していたが、コックピットにいるアンジュはかすり傷を負っただけだった。
「こんなところでグズグズしてられないわ・・早くカナタたちのところに・・・!」
「あなたは今は手当てをしたほうがいいわ。ヴィルキスもその状態ではすぐには戦えないわ・・」
 孤島に向かおうとするアンジュを、サリアが呼び止める。
「それに、他のみなさんも勝っているはずです。タスクさんもヒルダさんも、カナタさんも。」
 サラマンディーネがカナタたちへの信頼を口にして、アンジュが戸惑いを覚える。
「そうね・・みんなも負けることはないわね・・」
 アンジュが納得して笑みをこぼした。
「カナタ・・シン、霧子、負けたら許さないからね・・」
 アンジュがカナタたちへの信頼を口にして、サリアたちとともに小休止に入った。
 
 
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