スーパーロボット大戦CROSS
第71話「因縁の楔」

 

 

 ゼロスは生きていた。彼はカンナたちと共にいて、カナタたちが目の当たりにした。
「ゼロス博士、無事なのですか!?何もされてはいないですか!?」
“あぁ・・メカの製造と修理をさせられたくらいじゃ・・”
 カナタが問いかけて、ゼロスが動揺を見せながら答える。ゼロスはカンナたちを刺激しないように、神経をとがらせていた。
「博士、オレとラブ、カンナの誕生日を言ってくれ。」
 カナタがゼロスに1つの質問をしてきた。
“カナタくんは10月10日、ラブちゃんは8月8日、カンナは7月7日じゃが?”
 ゼロスが思い返して、質問に答える。
「それじゃ博士、私の去年の誕生日に博士がプレゼントしてくれたのは?」
“そのときわしが研究で使っていた“クロシウムダイヤ”を使って、タマキくんと一緒に作ったペンダントじゃ。人にものを送るのには慣れていなくてな・・・”
 ラブが続けて質問をして、ゼロスが答えて苦笑いを浮かべた。ラブが頷いて服の内側に入れていたそのペンダントを見せた。
「当たっている・・本物の博士のようだ・・・!」
 カナタが納得して、ラブと頷き合った。
「グラディス艦長、オレに行かせてください。ゼロス博士を助けに向かいます。」
 カナタがカンナの要求を聞き入れることを、タリアに伝える。
「しかし、博士を連れ戻せたとしても、イザナギを、ハイブリッドディメンションを2つともディメントに渡すことになりますよ・・」
 タリアはカンナの要求を呑むことに否定的だった。
「分かっています・・しかしイザナギの代わりは作れる可能性はありますが、ゼロス博士は1人しかいないんです・・・!」
 しかしカナタは自分の決断を曲げなかった。ラブもゼロスを救うことを第一に考えていた。
「分かりました・・ただし、私たちもカナタくんたちの動向を遠くから監視します。たとえゼロス博士が本物でも、罠を仕掛けていない証拠にはなりませんので。」
 タリアがカナタたちの考えを汲み取るも、警戒を続ける姿勢を崩さない。
“いいわ・・そちらの超射程の外にいるなら、監視は構わないわ。他のクロスのメンバーには、この出来事の証人になってもらうわ。”
 カンナも同意して、ヘクトたちも頷いた。
“場所についてのデータをそちらに送るわ。時間は明日の12時。カナタ、あなたがイザナギに乗って1人で来るのよ。”
 カンナがカナタに告げて、通信を切った。
「あなただけで大丈夫なの?博士を返すつもりがなく、イザナギを奪うだけじゃないの?」
 アンジュがカナタに声を掛けて、カンナたちへの不信感を感じていく。
「そういう企みなら、オレも徹底抗戦をするだけだ。最後の手段はあるけど、それを使わないに越したことはない。」
「最後の手段?」
 カナタの答えを聞いて、海潮が疑問符を浮かべる。
「それって私たちクロスのことじゃないよね・・?」
「オレが今言っている最後の手段は、イザナギの自爆だ。」
 夕姫が疑問を投げかけると、カナタが最後の手段を口にした。
「グラディス艦長に言われて、オレ以外が操縦できないようにはしている。それだけじゃなく、ハイブリッドディメンションを暴走させることで自爆を促すんだ・・」
「ハイブリッドディメンションを、悪用させないために・・・」
 カナタが考えを伝えて、ラブがその真意を理解する。
「それは、向こうの思い通りになるよりはいいけど・・・」
「イザナギやハイブリッドディメンションには、謎が残っているのよね・・?」
 ヒルダが渋々同意して、サリアが疑問を投げかける。
「イザナギもその研究もまたできる・・博士を助け出すのが優先なんだ・・・」
 ゼロス救出の考えを変えず、カナタはイザナギのコックピットに入ってチェックをした。
「カナタ・・・私も、カナタについていくよ・・・!」
 ラブがイザナギに近づき、カナタに気持ちを伝えた。
「ラブちゃんもカナタくんに正直になっているね・・」
「僕たちの愛も負けていられないね。」
 霧子がラブたちに感心を寄せて、将馬が答える。2人は寄り添い合い、互いを見つめる。
「とにかく、本番は明日だね・・・!」
「その戦いで、何かが動き出すことになるでしょう・・特に、カナタさんとラブさんは・・・」
 ヒルダとサラマンディーネがディメントとの戦いを見据えて気を引き締める。
「ドラグニウムやラグナメイル、龍神器、他のどの世界のものとも違う異質の力・・イザナギとイザナミにあるハイブリッドディメンション・・ただの時空干渉の力というだけならいいですが・・・」
 サラマンディーネはカナタたちに対して、一抹の不安を感じていた。

 ミネルバとオルペウスの修繕と補給を完了させて、カナタたちはプラントを後にして地球に戻った。彼らは1度武蔵野を訪れてから、カンナが指定した場所を確認した。
「場所は小さな島だけど、平地が広がっているわね・・」
「まるで海の上にある格闘技の試合場じゃないですか・・・!」
 タリアが指定された場所をモニターに映して、アーサーが声を荒げる。
「ディメントは罠を敷き、戦うつもりね。カナタくんだけじゃなく、私たちとも・・」
「やはり私たちも途中まで同行すべきですね。状況によってすぐに加勢できるように。」
 タリアがカンナたちへの警戒を強めて、サラマンディーネが話を続ける。
「ゼロス博士だけでなく、あなたたちの無事帰還も大事です。カナタさん、それを忘れないでください。」
「あぁ・・そのつもりだ・・・!」
 サラマンディーネからの注意を聞き入れて、カナタが微笑んで頷いた。
「グラディス艦長、サラさん、行ってきます・・」
 カナタが声を掛けて、タリアに向けて敬礼をした。彼はラブと共にイザナギに乗り込んだ。
「これよりクロスはディメントと接触します。なお、カナタくんとラブさんが本隊より先行します。」
 タリアが号令を出して、ミネルバとオルペウスは武蔵野から発進した。

 クロスが動き出したことを、カンナたちも察知していた。
「ミネルバとオルペウスが来ているな。」
「交渉に応じず、我々と事を構えるか。」
 ヘクトが呟き、カグラが疑念を抱く。
「まだ向こうの射程距離の外よ。踏み込んできたときに対処すればいいわ。」
「ん~・・じっとしてるより楽しく遊びたいよ~・・」
 カンナが冷静に言い返すと、アムダが不満を口にする。
「今回のことの後でも、楽しく遊ぶことはできるよ・・相手は、クロスだけじゃないし・・・」
「よかった~♪退屈しなくて済むよ~♪」
 アブルが励ますと、アムダが安心してひと息つく。
「カナタが出てきたら、まずは私が対応するわ。みんなは他のクロスがもしも接近するようなら、迎撃をして。」
「分かった。お互い、警戒を怠らないようにな。」
 カンナが指示を送り、ヘクトが答えた。
「ゼロス博士、私と来てもらうわよ。」
「イザナギを手に入れてわしを手放すのには、矛盾があるのではないか?ハイブリッドディメンションを2つそろえても、わしがいなければ有効活用できんぞ。」
 呼びかけるカンナに、ゼロスが苦言を呈する。
「私は強くなりたいのよ。カナタを倒すことで、それを証明するのよ・・・!」
「それでハイブリッドディメンションという力を求めるか・・力を手にしても、使いこなせなければ意味はないぞ・・」
「私も何も学ばずにあなたのところにいたわけじゃないわ。研究して使いこなすことは難しくないはず・・」
「その過信が命取りにならねばよいがのぅ・・・」
 カナタを超えることに固執するカンナに、ゼロスがのんきに振る舞う。
「無駄口はそこまでよ。イザナミに乗るのよ。」
「分かったよ、カンナ・・・」
 カンナに連れられて、ゼロスはイザナミに乗った。
「オレとアブルはミネルバを見張る。カグラとアムダはここで待機だ。」
「うん・・向こうに手出しはさせない・・・」
 ヘクトが指示を出し、アブルが頷いた。
「お留守番なんて退屈じゃないか~・・」
「留守番ではない。私たちも、もしもイザナギが反抗を見せたときに迎撃しなければならないからな。」
 ふくれっ面を浮かべるアムダに、カグラが告げる。
「だったらちょっとぐらい反抗してほしいなぁ~。」
「ふざけたことは言わないことだ。ヤツらを甘く見るとやられることになる・・」
 戦いを期待するアムダに、カグラが注意する。
「我々の本当の戦いはここからだ・・・!」
「う、うん・・・」
 覚悟を決めているカグラに、アムダが息をのんで頷いた。

 カンナたちのいる孤島の近海で、ミネルバとオルペウスが止まった。カナタとラブはイザナギで発進しようとしていた。
「みんな、行ってきます・・・!」
「ゼロス博士を連れて、生きて帰ってきます・・・!」
 カナタとラブが挨拶をして、タリアとアーサーが敬礼で送り出し、ジルが頷いた。
「天命カナタ・・!」
「愛野ラブ・・!」
「イザナギ、いきます!」
 カナタとラブが声をそろえて、イザナギを駆りミネルバから発進した。
「私たちは周囲の警戒に当たります。いつでも出撃できるように待機していてください。」
「了解です、艦長!」
 タリアが続けて指示を送り、シンが答えた。彼らはそれぞれの機体に乗っていた。
「レイ、お前も戦えるのか・・?」
「あぁ・・オレはもう大丈夫だ・・ギルはもういないが、彼の平和への思いはオレたちに受け継がれている・・シン、お前にもだ・・」
 シンが心配すると、レイが冷静に答える。ギルバートを失った悲しみに打ちひしがれたレイだが、彼の願いを背に受けて、命ある限り戦うことを改めて決意していた。
「オレも戦いのない世界のために戦う・・どうすれば実現できるのか、答えはまだ見つかっていないけど・・オレたちが力を合わせれば、不可能じゃない・・・!」
「シン・・お前の意思は、オレ以上に強いようだな・・・」
 決意を口にするシンに、レイが微笑んで頷いた。
「カナタたちが危険になったら、私が先に向かうわ。」
「オレも行くぞ、アンジュ。デスティニーのスピードはヴィルキスに負けず劣らずだ。」
 アンジュが呼びかけて、シンも声を掛ける。
「おっと!オレたちも置いてけぼりはさせねぇぜ!」
 孝一も強気な態度を、シンたちに示す。
「みんな、気を付けなくちゃ!他のディメントが近くにいるかもしれないよ!」
 海潮が困った顔を浮かべて注意を投げかける。
「そうだとしても、まず出るのはオレとアンジュになるな。」
「アイツらのいいようにはさせないわよ・・・!」
 シンが言いかけて、アンジュが不敵な笑みを浮かべた。
「全てはディメントの出方次第です。みなさん、警戒を怠らないように。」
 サラマンディーネが真剣な面持ちで告げる。彼女もシンたちもディメントの襲撃に備えた。

 カナタが操縦するイザナギが、孤島に着陸した。その前にイザナミが立ちはだかっていた。
「来たわね、カナタ・・」
「カンナ・・イザナギと一緒に来たぞ・・・!」
 カンナが声を掛けて、カナタが呼びかける。
「お姉ちゃん!」
 ラブも声を掛けてきて、カンナが一瞬戸惑いを覚える。
「ラブも一緒なのね・・でもいいわ・・・」
 カンナが落ち着きを取り戻して、本題を切り出した。
「カナタ、ラブ、イザナギから降りて離れなさい。そうすれば博士は解放するわ。」
「その前に博士の姿を見せてくれ!イザナミの中にいるのか!?」
 指示をしてきたカンナに、カナタが問いかける。
「いいわ。同時にコックピットのハッチを開けるわよ。」
 カンナが聞き入れて、カナタに合わせる。イザナギとイザナミのコックピットのハッチが、同時に開かれた。
「ゼロス博士!確かにいたよ!」
 カンナと共にイザナミにいたゼロスを指さして、ラブが声を上げる。
「よし。一緒に外に出るぞ。そしてオレたちはイザナギから離れる。」
 カナタがカンナに言って、ラブと共にイザナギから降りた。カンナもゼロスを連れて、イザナミから外へ出た。
「さぁ、そろそろ博士をこっちに来させるんだ。」
 カナタが1度足を止めて、カンナに呼びかける。
「博士、行って・・」
 カンナが言って、ゼロスは頷いてから彼女から離れた。
「約束よ。イザナギは私がもらうわ・・これで私は完全にあなたを超えたのよ・・・!」
 カンナが笑い声をあげて、イザナミではなくイザナギに乗り込んだ。同時にゼロスがカナタたちと合流して、再会を分かち合う。
「ゼロス博士・・また会えてよかったよ・・・!」
「ラブちゃん、カナタくん・・連絡もできず、すまなかったのぅ・・・」
 ラブが喜んで、ゼロスが笑みを見せた。
「しかし、わしのためにイザナギを渡してしまうとは・・・」
「博士がいれば、またハイブリッドディメンションを組み込んだ新しい機体を作れる・・そうですよね・・?」
 苦言を呈するゼロスに、カナタが期待を寄せる。
「簡単に言わんでくれ・・あの2機を完成させるまでに時間がかかってるんじゃぞ・・」
「でも今度はもっと早く作れますよ。私たちも手伝いますよ。」
 肩を落とすゼロスに、ラブも呼びかける。
「カナタ、イザナギは私が運んでいく。たとえあなたが細工をしていても、ハイブリッドディメンションを取り出せれば、イザナミを強化させることはできる・・」
 カンナがイザナミに乗り込み、操縦してイザナギに近づかせた。
「そしてあなたたちがいなくなれば、ハイブリッドディメンションは完全に私たちが掌握することになる・・」
「お、お姉ちゃん・・!?」
「まさか、ここでオレたちを始末するつもりか・・!?」
 敵意を向けてきたカンナに、ラブとカナタが緊張を浮かべる。
「博士は返すが、博士もオレたちも生かして帰さないっていうのか・・・!?」
「次元を司る力は、私の手で飛躍させる・・ゼロス博士でも、もう手は出させないわ・・・!」
 毒づくカナタにカンナが微笑む。彼女は完全に強い力に囚われていた。
「カンナたちに用心しておいて、正解だったようだな・・!」
 カナタが冷静に言うと、ラブがイザナギに意識を傾けた。彼女の体から光があふれ出していた。
「ラブ・・次元干渉の力を・・・まさか、イザナギを・・!?」
 カンナが目を見開いた直後、イザナギがラブたちのいるところへ移動した。
「私たちを攻撃するつもりなら、約束は守れないよ、お姉ちゃん!」
 ラブが目つきを鋭くして、カンナに言い放つ。
「くっ!」
 カンナがラブの放つ光を受けて、体の自由が利かなくなる。彼女はイザナミを操縦するが、思うように動かない。
「カナタ、博士、今のうちにイザナギに!」
「あぁ!」
 ラブが呼びかけて、カナタが頷いた。2人はゼロスを連れて、イザナギに駆け付けて乗り込んだ。
「ミネルバ、今からゼロス博士を連れて、そちらに戻ります!」
 カナタがミネルバに向けて通信で呼びかけた。ラブは落ち着きを取り戻して、体からの光を消していた。
“カナタくん、イザナギは渡していないのですね・・!”
「はい・・博士と一緒にオレたちを始末しようとしたので、交渉は決裂しました・・・!」
 タリアが答えて、カナタが報告する。
 そのとき、イザナギの前にイザナミとピンギー、もう1体の巨人が現れた。漆黒の体をしていて、ランガやバンガに似ていた。
「これが私のバンガ、レムイだ。私はタオから離脱し、自らの意思でキュリオテスの力を行使する・・」
 カグラがカナタたちに告げて、自身のバンガ、レムイの中に入った。
「これで思いっきり遊べるよ~♪」
 ピンギーを操縦するアムダが大喜びする。
「カグラ、アムダ、邪魔しないで!カナタは私が倒すのよ!」
 カンナがイザナギを睨みつけながら、カグラたちに怒鳴る。
「これはお前の不始末だ、カンナ。イザナギを手に入れられず、ゼロス博士まで奪われる。そんな最悪の事態を認めるわけにはいかない・・」
 カグラが冷静に言って、カンナが憤りを抑えられなくなる。
(イザナミだけじゃなく、仲間も2人・・さすがに不利だぞ・・・!)
 カナタが焦りを噛みしめて、タリアたちとどう合流するかを考えていた。

 カナタからの連絡を受けて、ミネルバとオルペウスも島に近づこうとした。その2隻の前にヘクトのアンチェーン、アブルの黒龍神が現れた。
「お前たちが介入してくるなら、オレたちが手を下す手はずだ・・」
「といっても、向こうは向こうで交渉決裂したようだけど・・・」
 ヘクトがシンたちに告げて、アブルがカンナに対する苦言を口にする。
「オレたちの邪魔をしようっていうのか!?」
「だったらアンタたちとここで決着をつけてやるわ!」
 シンがいら立ちを覚えて、アンジュがヘクトたちに敵意を向ける。
「クロス、全機出撃!ディメントをここで撃滅する!」
 ジルが指示を出し、シンたちが頷いた。
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
 シンのデスティニー、レイのレジェンド、ルナマリアのコアスプレンダー、ステラのガイアがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが射出されて、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。
「アルゼナル部隊、出るわよ!」
 サリアが号令を出して、クレオパトラがオルペウスから出撃した。アンジュのヴィルキス、ヒルダのテオドーラ、エルシャのレイジア、ヴィヴィアンのレイザー、ロザリーのグレイブ、クリスのハウザー、タスクのアーキバスが続けて出撃した。
「お姉ちゃん、ゆうぴー、行こう!」
「うん!」
「えぇ!」
 海潮が声を掛けて、魅波と夕姫が頷いた。3人はランガの中に入り、オルペウスから飛翔した。
「ビッグエース、エース、出るぞ!」
 隼人が呼びかけて、ビッグエースとエースがオルペウスの上に出た。
「ダイミダラー超型、出るぜ!」
「ダイミダラー6型・霧子、行きます!」
 孝一と恭子のダイミダラー超型、霧子のダイミダラー6型もオルペウスから出撃した。
「チンも帝王様とマイケルたちのために頑張るよ!」
 リカンツも意気込みを見せて、リッツカスタムもオルペウスから発進した。
 クロス所属の機体とランガが、アンチェーンと黒龍神の前に出てきた。
「これだけの数だ!いくらなんでもおめぇらに勝ち目はねぇぞ!」
「確かにこれでは多勢に無勢というべきだろう・・」
 ロザリーが強気に言って、ヘクトが肩を落として言い返す。
「でも、私たちは私たちだけじゃない・・」
 アブルも続けて言ったとき、デスティニーたちの前に数多くの機体が転送されてきた。ウィンダム、ザムザザー、ゲルズゲー、デストロイ、ビッグエース、ダイケンゼン。いずれも連合軍に所属していた機体ばかりである。
「連合軍、まだオレたちの邪魔をしようっていうのか!?」
「しかも、ディメントに味方をするなんて・・!」
 シンと海潮がデストロイたちを見て困惑を覚える。
「連合軍、直ちにこの場から撤退しなさい!ディメントは戦争や世界の混乱を利用して、世界を自分たちの思い通りにしようと画策しています!あなたたちに有益になるものはありません!」
 タリアがデストロイたちに向けて、停戦を呼びかける。しかしデストロイたちのどれからも応答がない。
「どの機体にも生命反応がありません・・無人で動いているようです!」
 メイリンがレーダーを注視して、連合軍の機体について報告する。
「無人だって!?な、何がどうなっているんだ!?」
「何者かによって遠隔操作されているようね・・・!」
 アーサーが驚きの声を上げて、タリアが冷静に推測する。
「あれらの機体にはパイロットは誰もいない。改造を施し、あなたたちを敵としてインプットしてある・・」
「己かお前たちのどちらかが撃墜されない限り、お前たちを狙って戦い続ける・・」
 アブルとヘクトが連合軍の機体について語っていく。
「クロス、我々と共に世界を正すために戦うなら、この戦いを中断する。」
「あなたたちが世界を思っているなら、賢明な判断ができるはずよ・・」
 ヘクトとアブルが投降と協力を要求する。これに対し、タリアとジルの答えは決まっていた。
「あなたたちの求める正しさと、私たちの願う平和の形は違います。世界を思い通りに塗り替えようとするあなたたちには、私たちは従えません。」
「こっちにはこっちの生き方があるんだよ。他の誰にもいいようにされないよ。エンブリヲにもデュランダルにも、お前たちにも!」
 タリアとジルがヘクトたちの要求を拒否した。2人の回答を聞いて、シンたちが頷いた。
「お前たちもデュランダルと同じく、己が世界と考える愚か者ということか・・」
「エンブリヲだけじゃない・・ノーマもアウラの民も、粛清されて然るべきね・・・」
 ヘクトとアブルがため息をついて、アンチェーンがビームライフルを、黒龍神が白虎を手にする。デストロイたちもデスティニーたちに向かって前進を始めた。
「デュランダルは討った・・その遺志を受け継いでいるお前たちも、オレが始末する・・・!」
「オレはお前を決して許さない・・議長を、ギルを手に掛けたお前を・・・!」
 互いに怒りを込めて鋭い視線を向けるヘクトとレイ。
「議長に人生を狂わされたお前の辛さは、オレも分かる・・だからって、世界の全てを自分の思い通りにするなんて、間違っている!」
 シンもヘクトに怒りを見せて、デスティニーがレジェンドと共にビームライフルを手にした。
「あの龍神器の相手は私がします。同じアウラの民として、私が向き合わないといけませんから。」
 サラマンディーネがアブルと対峙することを決意し、焔龍號が黒龍神に近づく。
「サラ子、私もコイツの相手をするわ。何となく気に入らないからね・・」
「あなたらしい理由ですね・・構いませんよ。私たち、のんびり戦っているわけにはいかないですから・・」
 アンジュも加勢することを決めて、サラマンディーネが微笑んだ。
「アンジュ・・アンジュリーゼ・・ノーマであり、ヴィルキスを完全に使いこなす人・・あなたも、エンブリヲやサラマンディーネのように、危険な存在・・・」
 アブルがヴィルキスに目を向けて、憎悪を募らせていく。
「2人よりも3人でやったほうが早く済むわ。」
 クレオパトラもヴィルキスたちのそばに来て、サリアが声を掛けてきた。
「サリアまで出てきて・・・」
「私たち以上にやる気があるみたいですね。」
 アンジュがサリアに呆れて、サラマンディーネが微笑む。
「2人でも3人でも、私は負けない・・あなたたちに世界を任せるわけにはいかない・・・」
 アブルは動じることなく、アンジュたちを倒そうとする。
「私はもう、世界をどうこうするつもりはないわ。私たちの邪魔をしなければ好きにしていいって思ってる・・」
「相変わらず自分勝手ね、アンジュは。でも、今の私も似たような気持ちよ。」
 自分の考えを口にするアンジュに呆れた素振りを見せてから、サリアが賛成する。
「私は私たちの世界を救うために戦っていますが、あなたたちとこれからもお友達でいたいですね。」
 サラマンディーネがアンジュたちに興味を示してから、黒龍神に視線を戻して、真剣な面持ちを浮かべる。
「こっちはまたザコ掃除か。ま、質より量ってことにしとくか。」
「ザコといっても、それなりに力のあるのがたくさんだけど・・・」
 ロザリーがデストロイたちを見てため息をつき、クリスが呟く。
「でも、自動操縦の量産機の相手ばかりをしているわけにはいかないわね・・」
 エルシャが孤島に目を向けて、カナタたちのことを心配する。
「オレたちがアイツらを助けに行く!ディメントのヤツらをぶっ飛ばしてやるぜ!」
「みなさん、援護をお願いします!」
「チンも一緒に行くからねー!」
 孝一が意気込みを見せて、霧子とリカンツも言い放つ。
「私たちも先に行かせてもらうわ!ランガならイザナギを連れ戻すことだってできるわ!」
 夕姫も孤島に向かうことを言って、海潮と魅波が頷いた。
「孝一たちとリッツ、海潮たちを先に行かせるぞ!」
「海潮ちゃん、みんな、カナタたちのことは任せたぞ!」
 ヒルダが指示を出し、隼人が海潮たちに呼びかける。
「行かせない・・・!」
 アブルが海潮たちを止めようとするが、クレオパトラがビームライフルを発射して行く手を阻んだ。
「あなたの相手は私たちよ・・・!」
「他の人よりも自分の心配をすることね・・!」
 サリアとアンジュがアブルに向けて鋭く言う。
「あなたも私たちの地球にいた者。アウラの民ですね。そのあなたが私たちと敵対し、全ての世界を己の思い通りにしようと企むのはなぜですか?」
 サラマンディーネが深刻な面持ちを浮かべて、アブルを問い詰める。
「私は絶望していたの・・エンブリヲによっていいようにされる世界も、アウラを捕らえられ、ヤツの手のひらの上で踊らされる消耗戦が続く現実を・・・」
 アブルが自分の心境をアンジュたちに語り始めた。
「そんな私に、私のように世界の滑稽さに嘆く人が現れた・・共感した私は行動を共にして、ディメントの一員になった・・・」
「現状の理不尽を変えようと、自ら道を選んだのですね・・ですがそれは、エンブリヲと大差ない誤った道です。」
 話には納得するも、サラマンディーネはアブルの選んだ道を否定する。
「世界は1人や少数が自由にしていいものではありません。私たちには、それぞれの道があるのです。」
「私たちの、それぞれの道・・・」
 サラマンディーネが告げた言葉に、サリアが共感する。
「私は世界なんかに興味はないけど、誰かに勝手なマネはされたくはないわね・・!」
 アンジュがため息混じりに言って、鋭い視線を向ける。
「世界の滑稽さに目を向けず・・自分勝手に振る舞っているのは、あなたたちのほうよ・・・!」
 アブルも目つきを鋭くして、黒龍神が白虎を構えた。ヴィルキスと焔龍號が射撃をかわし、クレオパトラがビームライフルで反撃する。
「私の黒龍神は焔龍號をも超える龍神器になった・・ラグナメイルも上回っているわ・・・!」
「それはそれは、えらい大口を叩いたものですね・・・!」
 アブルとサラマンディーネが不敵な笑みを浮かべる。
「今ここで、身の程を思い知らせてやるわ!」
 アンジュが言い放ち、ヴィルキスがラツィーエルを手にした。
「アブルと言いましたね。あなたをここで粛清します!」
 サラマンディーネもアブルを討つことを決め、焔龍號が天雷を構えた。

 アンチェーンと対峙するデスティニーとレジェンド。海潮たちを先に行かせたことに、ヘクトが毒づく。
「仕方がない。ヤツらはカグラたちに任せることにするか・・」
 ヘクトがため息をついてから、デスティニーたちに視線を戻す。
「デュランダルに従っていたレイ・ザ・バレル、最後はデュランダルと対立したが、クロスの一員であり続けたシン・アスカ。デュランダルの意志を受け継ぐお前たちは、オレが討つ・・・!」
「ギルは常に、争いや悲劇のない世界のために最善を尽くしてきた。デスティニープランによって混迷を深めてしまったが、志に間違いはなかった・・・」
 鋭く睨みつけるヘクトに、レイがギルバートの意志を口にする。
「お前はロゴスやエンブリヲと同じ・・自分たちが正しいことをしていると考えて、世界をムチャクチャにしようとしている・・そんなこと、絶対にさせないぞ!」
 シンもヘクトの行動に対する怒りを募らせる。
「我々は破壊者でも支配者でもない。私利私欲のために世界を動かすつもりもない。真の正しき形にするのが、我々の目的だ。」
「それがみんなを支配するのだということが分からないのか!?」
 語りかけるヘクトに、シンが言い放つ。
「ならばオレがお前たちを排除する・・世界は私が、私たちが正す・・・!」
 ヘクトが自分たちの信念を貫き、アンチェーンがビームライフルを構えた。
 
 
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