スーパーロボット大戦CROSS
第70話「ディメント」

 

 

 シンたちと対峙していたギルバートを撃ったのは、ヘクトだった。
「お前は・・・!」
「久しぶりだな、ギルバート・デュランダル。お前の立ち上げる幻想は、オレが打ち砕く・・」
 声を振り絞るギルバートに、ヘクトが声を掛けてきた。
「議長!」
 シンが叫び、アンジュと共にヘクトを狙って発砲する。ヘクトはギルバートから離れて、射撃をかわした。
「ギル!」
 レイがギルバートに駆け寄って支える。
「ギル、しっかりして!死んではいけない!」
 レイがギルバートに必死に呼びかける。シンも2人に駆け寄って、ヘクトに銃口を向ける。
「デュランダルの力を打ち砕いたのはお前たちだが、とどめはオレが刺させてもらう・・デュランダルは、決して許されない存在となった・・」
「お前・・議長のことを知っているのか!?」
 ギルバートに敵意を向けるヘクトに、シンが問い詰める。
「全ての人間について解析し、正しい人生を歩ませるデスティニープラン。しかし今回導入する前に、シミュレーションを全くしなかったわけではない。」
 ヘクトがギルバートに視線を向けたまま、シンたちに語り始める。
「プランのテストを受けた者がいた。私もその協力者の1人だった・・」
「まさか・・!?」
 自分のことを打ち明けたヘクトに、シンが驚愕する。
「オレは以前はザフトを目指していた士官だった。機体の操縦もエース級であると確信していた。しかしデュランダルや化学班が進言したのは、テストパイロット止まりだった・・」
 自分の屈辱の過去を話して、ヘクトがギルバートを睨みつける。
「オレの力は、ザフトの上官も認めていたほどだ・・それをプランの方針で格下げされるなど・・・!」
「それで、デスティニープランに反対したのね・・」
 憤りを膨らませるヘクトの話を聞いて、恭子が納得する。
「途方に暮れることになったオレを、同じく世界の理不尽に抗おうとする者たちと出会い、力を得た・・アンチェーン・・束縛のない力を・・・!」
「それで、おめぇはディメントに入ったんだな・・!」
 ヘクトが話を続けて、孝一も納得する。
「全ての人間の生き方を管理するデスティニープランだが、それで全ての人間が幸福になれるわけではない・・オレがその生き証人の1人だ・・!」
「でもだからって、一方的に議長を撃つなんて・・!」
 デスティニープランの欠陥を訴えるヘクトに、海潮が不満をぶつける。
「デュランダルは冷静沈着に見えて、目的のためには手段を選ばない。手に掛ける以外にデュランダルを止める術はない・・・!」
 ヘクトが言い返して、ギルバートに銃口を向けた。
「違う・・議長はお前たちとは違う!」
 ヘクトに反発してきたのはシンだった。
「やり方を間違ってしまったけど、議長も本気で戦いのない世界を願って模索してきた・・その志は本物だった・・」
「シン・・・」
 ギルバートのことを話すシンに、レイが戸惑いを覚える。
「お前たちみたいに、自分のことしか考えていないヤツとは違うんだ!」
「自分のことしか?オレたちを世界の悪者と見なすとはな・・」
 言い放つシンに対し、ヘクトがため息をつく。
「オレたちは世界を滅ぼすつもりも支配するつもりもない。世界を正しく導くために行動している。」
「綺麗事を・・結局自分のことしか考えていないじゃない・・・!」
 ヘクトの口にする言葉に、アンジュが不満を口にする。
「違う世界でも分かり合える。それはお前たちもオレたちも同じだ。だが同じ世界の人間でも、決して分かり合えない存在もある・・頑なであるために・・」
 ヘクトが語りかけて、ギルバートへの敵意を強める。
「愚か者を排除し、賢い者、罪のない者が自由に生きられる世界を、オレたちは目指す・・」
「愚か者って、自分が愚かって思ったヤツのことじゃないの?」
 自分とカンナたちの目的を話すヘクトに、夕姫が不信感を示す。
「やはりあなたたちは許してはおかない・・私たちがここで討つ!」
 アンジュが言い放って、ヘクトに向けて発砲する。ヘクトが回避したところで、メサイアの崩壊による揺れが起こった。
「いけない!みんな、早く脱出しないと!」
 恭子が状況が悪くなったことを悟り、避難を呼びかける。
「カナタ、デュランダル議長をイザナギに乗せて、ミネルバに急いでくれ!」
 シンがカナタに呼びかけて、ギルバートを託す。
「デスティニーとレジェンドは損傷していて、それで議長に何かあったらいけない・・!」
「シン・・・分かった!オレがミネルバに連れていく!」
 シンの言葉を聞き入れて、カナタはギルバートに肩を貸して、イザナギに乗った。
「レイ、お前も戻ってこい!お前もこれから生きるんだろ!?」
 シンがレイに振り向いて呼びかける。
「シン・・・」
「来てくれ、レイ!戻ってきて、みんなとまた話をしてくれ!」
 戸惑いを浮かべるレイに、シンが説得する。
「議長は先に行っている!レイも来てくれ!」
「シン・・分かった・・・!」
 シンに突き動かされて、レイが走り出す。2人はデスティニー、レジェンドに乗って発進。イザナギたちと共にメサイアを脱出した。
 爆発するメサイアが月に衝突し、崩壊した。

 メサイアから負傷したギルバートを連れ出して、シンたちはミネルバ、オルペウスと合流した。イザナギがデスティニーたちと共にミネルバに着艦して、カナタがギルバートを連れ出した。
「デュランダル議長の手当てを!グラディス艦長、近くに病院か医療施設のある場所はありますか!?」
 カナタがタリアたちに向かって呼びかける。事前にシンから連絡を受けて、医療班がドックに駆け付けていた。
「既に手配して向かっているが、この状態では・・・!」
「諦めないでください!デュランダル議長を助けないと・・!」
 医務官が絶望的に考えるが、カナタが必死に訴える。
「もういいんだ、カナタくん・・・」
 ギルバートが意識を取り戻して、カナタに声を掛けてきた。
「議長、気が付いたんですね!」
「ギル・・・!」
 シンとレイもギルバートに駆け寄って声を掛けてきた。
「シン・・レイ・・・」
 ギルバートがシンたちに気付いて視線を移す。ルナマリアとステラも戻ってきて、タリアもドックに来た。
「タリア・・不覚を取ってしまったよ・・・」
「ギルバート・・・あなたは頑なすぎたのよ・・もっと、他のみんなの言葉に耳を傾けていれば・・・」
 微笑みかけるギルバートに、タリアが悲しい顔を見せる。
「私たちの別れは悲劇だったけど、私たちと違い、みんなには悲劇を乗り越える強さがある・・」
「我々がなすべきことは、皆を導くことではなく、支えることだったのだな・・・」
 タリアと会話を交わして、ギルバートが大切なことを悟ったと感じていた。
「私は、私たちが受けた悲劇を繰り返させないために、デスティニープランを実行しようとした・・しかし我々のしたことが、悲劇をなくすどころか、悲劇を生み出していた・・あのヘクトのように・・・」
 自分の歩んできた時間を振り返り、ギルバートがひと息つく。
「ギル、死なないで・・ギルがいないと、僕は・・・!」
 レイがギルバートに必死に呼びかける。いつも冷静沈着なレイだが、シンたちの前で初めて感情をあらわにした様子を見せていた。
「レイ・・もう私にばかり固執することはない・・お前はお前の生き方をすればいい・・・」
 ギルバートが微笑んで、レイを励ました。
「でも・・これからどうしていけばいいか・・・何のために戦っていけばいいか・・・」
 自分で答えを出すことができず、レイが悲しみに暮れる。
「レイ、これから言う2つのことは、心に留めておくんだ・・・」
 するとギルバートが彼に向けて進言した。
「生きろ・・そして、運命に打ち勝て・・・」
 レイとシンたちに今の思いを告げて、ギルバートは目を閉じた。彼が息絶えて眠りについたことを、カナタたちは痛感した。
「議長・・デュランダル議長!」
 シンの悲痛の叫びが、ミネルバに響き渡った。
「いや・・しんじゃうはダメ・・ダメだよ・・・!」
 ステラもギルバートの死を悲しみ、大粒の涙をこぼす。自分を見失うことはなくなったが、彼女の中にある死の恐怖は残っていた。
「ステラ・・・」
 ルナマリアも悲しみを感じながらも、ステラを抱き寄せて悲しみを和らげようとする。
「シン・・オレは、ギルの意思を受け取った・・生きて、死という運命に打ち勝つ・・オレ自身の意思で・・・!」
 レイが感情を抑えた口調で、シンに告げた。
「レイ・・・生きて、オレたちの手で戦いのない世界を実現させるんだ・・・!」
 シンが戸惑いを感じてから、レイに微笑んで頷いた。
「私も議長に付き添うわ・・」
「分かりました、艦長・・・」
 タリアが声を掛けて、医務官が頷いた。医療班がギルバートを運び、タリアもついていった。

 ギルバートが亡くなったことは、アンジュたちの戻ったオルペウスにも伝わった。
「そんな・・デュランダル議長が・・・」
 海潮がギルバートの死に悲しみを覚える。
「最後は対立してしまったけど、あの人がいたから、私たちはここまでやれたのよね・・」
「そうだけど・・だからといって、言いなりの人生なんて真っ平ゴメンなんだよ・・・」
 エルシャがギルバートに感謝するが、ヒルダは不満を見せていた。
「私たちがどう生きていくかは、私たちで決める・・たとえデュランダル議長でも、勝手に決めさせたくない・・・」
「でも、議長の平和に対する思いは、心に留めておいたほうがいいと思う・・」
 自分の意思を貫くアンジュに対し、タスクがギルバートの意思を尊重することを言う。
「お人よしね・・でも、そう思った方がいいと、私も思うわ・・・」
 夕姫がタスクに向けてため息をついてから、笑みを浮かべた。
「ゴメン、アンジュ・・不甲斐ないところを見せてしまって・・・」
「いいわよ、別に・・あんなヤツより、タスクのほうがまだマシなんだから・・」
 キラに敵わず引き上げるしかなかったことに責任を感じるタスクに、アンジュが憮然とした態度を見せた。
「デュランダル議長とグラディス艦長が、そんな関係だったなんて・・・」
 将馬がギルバートとタリアが付き合っていた過去を思い出して、深刻な面持ちを浮かべる。
「もしも私と将馬くんが愛せない関係だったら、私も同じ悲しみを味わってほしくなくて、議長のようになっていたかもしれない・・・」
「霧子ちゃん・・・そんなことを言われても、僕は霧子ちゃんを愛していたと思う・・この愛に噓はつけないから・・」
「将馬くん・・・私も、将馬くん以外を愛せないよ・・・!」
「僕もだよ・・ありがとう、霧子ちゃん・・!」
 自分たちの正直な想いを言って、霧子と将馬が抱きしめ合って口づけを交わした。
「ウフフ。相変わらずの2人ね。」
「不純だ・・・」
 霧子たちを見てカナメが笑みをこぼして、ナーガが呆れていた。
「グラディス艦長と連絡を取りました。コーディネイターの居住区であるプラントに向かいます。」
 サラマンディーネがジルと共に来て、タリアたちの動向についてアンジュたちに伝えた。
「デュランダル議長を引き渡した後、すぐにプラントを離れて地球に向かうつもりだ。」
「そっか・・あたしたちクロスは議長の敵になって、ザフトやプラントと縁を切っちまったからな・・」
 ジルも説明して、ロザリーが肩を落とす。
「休息に入るのは、地球に戻ってからになりそうね・・」
 サリアが地球のある方に目を向けて、ジルが頷いた。
「その前に1回プラントに行くことになる、か・・」
「まだ油断はできない・・・」
 ヒルダがプラントのことを考えて、クリスが警戒を抱く。
「これより、ミネルバと共にプラントに向かう。全員、まだ油断しないようにな。」
 ジルが号令を出し、オルペウスがミネルバと共にプラントに向かった。

 デスティニープランの導入とメサイア攻防戦で、プラントにも動揺が広がっていた。最高評議会でも協議が続いていて、ギルバートと連絡がつかなくなったことも伴い、結論を出せずにいた。
 そんな中、プラントに向かうミネルバからの報告が入った。
 ギルバートの死に驚愕を隠せなくなる評議会の議員たち。彼らは冷静さを取り戻せないまま、ミネルバとオルペウスのプラントへの入港を認めることにした。
「ギルバート・デュランダル議長の遺体を、最高評議会に引き渡します・・プラントとの同盟が解消されているため、私たちクロスは直ちにプラントを離れます・・」
 タリアが議員たちにギルバートを引き渡して、敬礼をしてからミネルバに戻ろうとした。
「待ちたまえ、タリア・グラディス艦長。」
 議員の1人が呼び止めて、タリアが立ち止まった。
「今回の混戦とロゴスによる砲撃のために、ザフトもプラントも不安定な状況下にある。艦長たちやクロスの力を貸してほしいのだが・・」
「我々が?・・しかし我々はデュランダル議長の命令に背き、あなた方と対立してしまいました・・」
 議員からの申し出に、タリアが戸惑いを覚える。
「議長が導入しようとしたデスティニープランについては、我々の間でも賛否が分かれていたのです・・」
「しかしアルザッヘルやオーブを討った議長に、表立って意見することはできず・・・」
「だから、あなたたちやクロスを責めることは、私たちにはできません・・」
 他の議員たちが本心を打ち明けていく。
「グラディス艦長、君たちとクロスに改めて協力を求める。」
「我々の方でできる限りの支援を、クロスにしたいと思っている。」
 議員からの信頼がまだ残っていたことに、タリアは感謝を覚えた。
「ご協力ありがとうございます。我々は休息を終えたのち、暗躍を続ける敵を追って地球に向かいます。」
 タリアが敬礼して、議員の1人と握手を交わした。クロスのプラントとの同盟が再び結ばれた。

 プラントにあたたかく迎えられることになったクロス。ミネルバとオルペウス、イザナギたちは補修と修繕を受けることになった。
「ふぅ~・・プラントで休みが取れて助かったぜ~・・」
「戦いが続いて、疲れが残っている・・・」
 ロザリーがひと息ついて、クリスが呟く。
「プラントとまた協定を結んだってことは、また私たちに支援金が届くのね。」
「けど、この戦いが終わったら、新しい働き場所を捜さねぇとな・・」
 魅波がお金が入ることに期待して、ヒルダがこれからのことを考える。
「今回はありがとな、リッツ!おめぇが来てくれて助かったぜ!」
 孝一が気さくな態度で、リカンツに礼を言った。
「チンは帝王様やペンギンのみんなが、人間の言いなりにされるのがイヤだっただけなんだから・・!」
 リカンツが頬を赤くしながら、孝一たちに言い返す。
「でもまだ戦いが終わったわけではないわ。私たちとあなたたちではなく、あのディメントという集団との戦いが・・」
 恭子がカンナたちのことを考えて、彼らとの戦いを予感する。
「あのおかしな集団のことだね・・その中にペンギンロボがいたみたいだけど・・・!」
「アイツらは世界を思い通りにしようとして、オレたちにもケンカを仕掛けてきてる!けど今度会ったらケリをつけてやるぜ!」
 リカンツがアムダとピンギーのことを思い出して、孝一がカンナたちへの敵意を見せる。
「向こうの出方も居場所も分からないのでは、こちらから動くことはできないわ・・今は休むことに専念しましょう。」
「恭子さんの言うとおりです。地球にいるみなさんにも、この戦いのことや現状について伝えておかないと・・」
 恭子とサラマンディーネが休息を進言して、サリアたちが頷いた。
「私、カナタのところに行ってくるね・・・」
 ラブが思いついた面持ちを浮かべて、1人オルペウスを後にした。
「ラブ・・・」
 彼女の様子を気にして、海潮も走り出した。
「タスク、モモカ、私、ラブのところに行ってくるわ・・」
「アンジュリーゼ様・・・連戦の疲れがあります。ムリはなさらずに・・・」
 アンジュもラブを追いかけて、モモカは注意を投げかけながらも見送ることにした。

 カナタはミネルバのそばにいた。彼はカンナのことを気にして、彼女との戦いを予感していた。
(ディメントと・・カンナと戦うことになる・・・でも覚悟はできている・・アイツらのために世界がおかしくされるなら、オレは・・・!)
 カンナと戦い討つことを覚悟するカナタ。ラブも同じ覚悟を分かち合ったことを、彼は思い出していた。
「カナタ・・・」
 ラブが声を掛けてきて、カナタが振り返った。
「ラブ・・オレはカンナを止める・・最悪、命を止めてでも・・・」
 カナタが決意を口にして、ラブが困惑を覚える。
「できるなら助け出して、また一緒に暮らしていきたいと思っている・・オレとラブが交わったことも・・・」
「そ、それは・・・私から言うから、カナタからは言いださないで・・・!」
 カナタが正直な思いを言うと、ラブが赤面して言い返してきた。
「あ、うん・・それは、分かった・・・」
 ラブの様子を気にして、カナタが動揺しながら頷いた。
「とにかく、カンナはオレが止める・・そして、ゼロス博士が無事なら、その居場所を聞き出す・・・!」
「博士・・・リョータさんもマサオさんも、みんなも無事なのかな・・・?」
 カナタが改めて決意を言って、ラブがゼロスたちの心配もする。
「今度の戦いで、答えが何もかも分かるはずだ・・今度は、オレたちが中心の戦いだ・・・!」
「うん・・私はイザナギの操縦はできないけど・・何かで力になりたいと思っているよ・・・」
「ラブ・・・ありがとう・・・ただ、お互い、いや、みんな生きて戦いから戻ろうな・・」
「うん、カナタ・・・」
 互いに無事帰還を願って、カナタとラブが抱きしめ合う。2人が見つめ合ってから唇を重ねた。
「霧子たちに負けてねぇな、おめぇら。」
 そこへ孝一が来て、カナタとラブが動揺して唇を離した。海潮とアンジュ、シンも来ていた。
「みんな、ここに来てたの・・!?」
「夢中になりすぎたわね、2人とも・・」
 ラブが声を荒げて、アンジュがため息混じりに言いかけた。
「カナタ、ラブ、私たちもディメントを止めに行くよ・・・!」
「私たちの近くで、勝手なマネはさせないんだから・・」
 海潮がカナタたちに協力する決意を伝えて、アンジュもカンナたちへの不満を口にする。
「オレは、みんながいなかったら、どうしたらいいのか分からなかった・・カナタ、ラブ、お前たちもみんなの中の2人だ・・」
 シンがカナタたちに感謝を口にした。
「それはオレたちも同じだ・・オレたちだけだったら、途方に暮れていたよ・・・」
 カナタもシンに答えて、彼らに感謝した。
「私もきっと、迷ったり悩んだりしてばかりになっていたと思う・・何が正しいのか分からなくなって・・・」
 海潮も迷いを晴らしてくれたカナタたちに感謝していた。
「オレはおめぇらと一緒にいられて楽しかったぜ!かわいい子にもたくさん会えたしな!」
「アンタはタスク以上の変態ね・・でも、退屈しなかったのは私も同じだけど・・」
 高らかに言い放つ孝一に呆れてから、アンジュも自分の気持ちを口にする。
「ディメントと決着をつけなくちゃいけないのは、私たちも同じです。」
 霧子もやってきて、カナタたちに声を掛けてきた。
「ペンギンロボに龍神器、私たちも無関係ではない相手ばかりだと思うんです・・」
「確かに・・それぞれの世界の機体とパイロットが集まっているわね・・」
 霧子とアンジュがアムダとピンギー、アブルと黒龍神のことを思い出す。
「あのヘクトというヤツは、デスティニープランの犠牲者だった・・人生を狂わされたと思って、議長を憎んで・・・」
 シンもヘクトのことを思い出していた。
「アイツの怒りも分からなくはない・・だけど議長だって、戦いのない世界を追い求めて、道を外してしまっただけなんだ・・・!」
「だからって、私たちを殺しに来るっていうなら、私たちも黙ってやられるつもりはないわ。」
「向こうがケンカを売ってくるなら、オレたちが返り討ちにしてやるぜ!」
 ヘクトに共感していくシンに、アンジュと孝一がカンナたちと敵対する意思を示す。
「でもいきなり戦うのはダメだよ・・向こうの話や事情を聴いて、それで納得できなかったときに・・・」
 海潮が話し合いをすることを提案してきた。
「話し合いで解決できれば、それに越したことはないけど・・・」
「向こうはそのつもりはないみたいだけど・・・」
 霧子が海潮に賛同するも、カナタはそれが叶わないことを痛感する。
「説得はしてみるつもりだ・・オレも、諦めたくないのが正直なところだから・・・」
「カナタ・・・」
 カナタの言葉を聞いて、シンも動揺を抑えた。
「何にしても、ヤツらの居場所が見つかってからだな・・・!」
 孝一の言ったことに、カナタたちが頷いた。彼らはカンナたちの居場所が分かるのを待ちながら、体を休めることにした。

 メサイアから脱出し、地球に戻ってきたアンチェーン。小さな孤島の着陸したアンチェーンから、ヘクトが降りてきた。
「メサイアは崩壊したのね、ヘクト。」
 カンナが現れて、ヘクトに声を掛けてきた。
「デュランダルは銃撃したが、最期を見てはいない。致命傷であることは確かだが・・・」
「そうか・・どちらにしても、ザフトの被害は大きく、すぐには動けないでしょうね・・」
 ヘクトがギルバートのことを考えて、カンナが答える。
「オーブはデュランダルに討たれて機能を失い、クライン派も全滅。残る障害はクロスだけか・・」
「私の狙いはカナタとイザナギ。たとえ同じディメントのメンバーでも、それは邪魔させないわ。」
「こだわるな、ヤツに・・オレにもまだ討つべき敵がいる。デュランダルが倒れても、ヤツの意思を受け継いだ者が、クロスにいる。」
「倒すべき敵がいるのは、私たちみんな一緒のようね・・」
 ヘクトと会話を交わして、カンナが皮肉を感じていく。
「私はアウラとノーマを討ち、世界を正しい形にするために・・・」
 アブルもアムダ、カグラと共に来て、カンナたちに声を掛けてきた。
「僕は新しい世界で楽しく過ごすんだ。今の世界でもペンギンの世界でもない、全然新しい楽しい世界で・・!」
「私も世界を正すために戦う・・虚神会でもタオでもクロスでもなく、私たちが世界を正す・・・」
 アムダとカグラもそれぞれの意思を口にした。
「細かいことは違っても、目指す理想は大きく違わない・・だからこそ私たちは集まり、世界を変えるために戦ってきた・・・」
「私たちは理不尽に対して無力でしかなかった私たちじゃない・・力を得てそれを証明し、世界を変えられるようになった。」
 ヘクトとカンナが自分たちの経験と意思を口にしていく。
「クロスを倒してこそ、世界の変革を実現させることができる・・・!」
「そのためにある場所にクロスを誘い出す。そこなら広いし全力でやれる・・」
 カナタたちを倒す決意を強めるカンナに、ヘクトが決戦の場を示す。
「いいわ。そこへ来るようにクロスに伝えて・・」
「分かった。そう伝達しておく。」
 カンナが答えて、ヘクトが頷いた。
「ところで、あの人は何か言ったりしてきたか?」
 ヘクトがアブルたちに視線を移して質問をする。
「クロスを滅ぼせ。ただしイザナギは可能だったら消滅させずに回収しろって・・」
「回収・・ハイブリッドディメンションを求めているのね・・・」
 アブルが伝言を伝えて、カンナがため息をつく。
「可能ならやってもいいわ・・・」
「それができる相手ではないが・・・」
 カンナとヘクトがため息混じりに答える。
(何を考えているか分からない人ね・・それでも、カナタを超えることを証明できるなら、私は悪魔に魂を売り渡すことも厭わない・・・!)
 カナタとの決着に執着するカンナ。彼女は力への欲望と誇示に囚われていた。

 レクイエムを撃たれた傷と恐怖が残りながらも、プラントでは修繕と介抱が続けられていた。ミネルバもオルペウスも修繕が行われ、イザナギたちも修復が完了していた。
「プラントの評議会には感謝しないと。また協定を結んでくれなかったら、傷だらけのまま次の戦いをすることになったかもしれない・・」
 カナタがイザナギを見上げて、最高評議会の議員たちに感謝していた。
「分かり合えない人ばかりじゃない。分かり合えて、力を合わせることができる人もいる・・」
 ラブも来て、カナタに声を掛けてきた。
「世界は合わさってしまったけど、その世界の人たちと力を合わせることができた・・オレたちも、力も心も強くなれた・・・」
 カナタがラブに振り向いて、思いを口にする。
「世界が元に戻るのか、このままなのかは分からないけど、クロスはきっと、それぞれの生き方をしていくと思う・・・」
「でも、私たちは忘れない・・みんなのことを・・そうだよね・・・」
「オレも忘れないぞ・・何があってもな・・・!」
「カナタ・・・!」
 仲間たちを大切に思う気持ちを分かち合い、カナタとラブが抱きしめ合う。
「全てが終わったら、みんなにお礼を言わなくちゃな・・」
「うん。そうだね・・」
 カナタがシンたちへの感謝を胸に秘めて、ラブが頷いた。
「カナタさん、ラブさん、ディメントからこちらに通信が入りました!」
 そこへモモカがやってきて、カナタたちに呼びかけてきた。
「何だって!?」
「お、お姉ちゃん・・・!」
 カナタが声を荒げて、ラブがカンナのことを考える。3人はオルペウスに来て、作戦室のモニターにカンナが映っているのを目の当たりにした。
「カンナ・・!」
「お姉ちゃん!」
 カナタが息をのみ、ラブが叫ぶ。
“クロスに通達する。イザナギをこちらに引き渡しなさい。”
 カンナがイザナギを要求してきた。
「イザナギを・・2つのハイブリッドディメンションをそろえるつもりなのか・・!?」
 彼女の狙いを察して、カナタが緊張を覚える。
“こちらが指定する場所にイザナギだけが来なさい。他の機体や戦艦が近づくことは許さないわ。”
 カンナが続けて要求を出していく。
「もしもその申し出を受け入れたとき、こちらにとってのメリットはあるのですか?」
 タリアがミネルバからカンナに問いかけてきた。
「こちらに何のメリットもなく、そちらからの一方的な要求を呑む形になるのなら、それはあなたたちが罠を仕掛けていると警戒せざるを得なくなります。」
“さすがね。このくらいの推察ができるからこそ、ここまで勝ち残れてきたのね・・”
 警戒をしながら対応するタリアに、カンナが微笑みかける。
“イザナギの交換条件として、ゼロス・シクザル博士をそちらに引き渡すわ。”
「えっ!?博士を!?」
 カンナが言ったことに、ラブが驚く。
「カンナ・・博士は生きていて、お前たちが捕まえていたのか!?」
“イザナギの代わりに博士をあなたたちに返す。それでいいかしら?”
 問い詰めるカナタにカンナが微笑みかける。
「あなたたちがゼロス博士を捕まえているなら、彼を、あなたたちのいるその場所に連れてきて会話をさせてください。偽者や映像ではなく、本物の博士を。」
“疑い深いわね。でもそのくらい用心するのは当然ね・・”
 警戒の姿勢を崩さないタリアに笑みをこぼして、カンナが視線を移す。するとヘクトに連れられて、ゼロスが現れた。
“映っているのは、カナタとラブか・・!”
「博士・・・!」
「ゼロス博士、無事だったんですね!」
 声を掛けてきたゼロスに、ラブが戸惑いを覚えて、カナタが叫ぶ。
「博士が、生きていた・・・!」
 ゼロスが生きていたのを確かめて、カナタは心を揺さぶられていた。
 
 
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