スーパーロボット大戦CROSS
第69話「選ばれた未来」

 

 

 先行してメサイアに向かっていたカナタのイザナギ。同じくエターナルも向かっていたことに気付き、彼が対峙する。
「アンタたち、アークエンジェルの仲間だったな!好き勝手に戦場を荒らされてたまるか!」
 イザナギがエターナルの前に回り込み、カナタが言い放つ。
「そこをどきなさい。こんなことをしている場合ではありません。」
 ラクスが真剣な面持ちで、カナタに警告する。
「デュランダル議長が築こうとしている世界。それは明日を選べない世界、自らの意思で生きることの許されない死の世界なのですよ。」
「それはアンタたちを野放しにしてても同じことだろうが!」
 呼びかけるラクスに、カナタが不満を込めて言い返す。
「あなた方も平和のため、戦いを終わらせるために戦っているのでしょう?その思いがあるなら、このような間違った行動をせず、道を開けなさい!」
「そうやってアンタたちも自分の思い通りにしようっていうのか!?それじゃデュランダル議長と大して変わらない!」
 ラクスの言葉にカナタが反発して、イザナギがビームライフルの銃口をエターナルに向けた。
「すぐに引き上げるなら見逃す・・議長はオレたちが止める!」
「あなた方は何を討とうとしているのか、本当にお分かりですか?あなたのこの行為は、取り返しのつかないことにつながるのです・・!」
「アンタたちの偽善を野放しにする方が、取り返しのつかないことになるんだ!」
「・・・どうしても、敵対しようというのですね・・・」
 敵対の意思を示すカナタに、ラクスが悲しい顔を浮かべる。
「私たちは退くわけにはいきません・・・未来を決めるのは、運命ではありません。人には、未来を得るために戦うものです。戦ってよいものです。」
「戦う人を癒す歌姫と聞いていたが・・どうやら戦いを引き起こすほうでもあるみたいだな・・!」
 ラクスの訴えを、カナタが憤りを込めて反発する。
「アンタたちはここで討つ!アンタたちを野放しにはしない!」
「・・・仕方がありません・・・あの機体を退けつつ、メサイアを目指します・・・!」
 敵意を示すカナタに対し、ラクスはメサイアへの突入を強行することを決めた。
 エターナルがメサイアを目指しながら、ミサイルを発射してイザナギを牽制する。イザナギが回避して、外れたミサイルが爆発して煙を巻き上げる。
 カナタがレーダーを確認して、エターナルの行方を追う。イザナギが加速して、エターナルを追う。
 近づいてくるイザナギに対し、エターナルが後方へビームを発射する。イザナギはビームをかわし、さらにビームシールドを展開して防ぐ。
「先にメサイアには行かせない!」
 カナタが言い放ち、イザナギがビームライフルを発射した。ブースターの1つを撃たれて爆発を起こし、エターナルが体勢を崩す。
「やめなさい・・あなた方のしていることは・・・!」
「言ったはずだ!アンタたちを野放しにしないと!」
 ラクスが警告するが、カナタが感情を込めて言い返す。
 イザナギがエターナルに詰め寄り、ビームライフルを連射する。エターナルの艦体が撃ち抜かれて、次々に爆発が起こる。
「うわあっ!」
 ダコスタたちクルーが絶叫して、ラクスが苦痛を覚える。
「私たちにはまだ・・やらなければならないことがあるのに・・・!」
 ラクスが諦めようとせず、打開の糸口を探る。
「ラクス様、ここは脱出を・・!」
 ダコスタが力を振り絞り、ラクスを逃がそうとした。だがコックピットを襲う爆発に、2人も巻き込まれた。
「キ・・・キラ・・・」
 ラクスがキラのことを想い、エターナルが大破、墜落した。
(この人たちもアークエンジェルもフリーダムも、自分たちのやり方を貫くことしか考えていなかった・・・)
 ラクスやキラたちの言動に、カナタは歯がゆさを感じていた。
(何にも動じずに信念を貫くことは悪いことじゃないが、他の意見や事情を聞こうとしないのはよくない・・どんなに正しいことでも、一方的なのを認めるわけにいかないんだ・・・!)
 戦いを止めるためとはいえ、一方的に攻撃して戦いを終わらせるやり方を、カナタはよく思っていなかった。
(キラたちだけじゃない・・・デュランダル議長だって・・・!)
 カナタが気持ちを切り替えて、メサイアに視線を移した。イザナギがメサイアに向かって再び移動をした。

 メサイアのギルバートとオペレーターたちは、デスティニーとレジェンドの接近を捉えた。
「レジェンド、デスティニーと共に接近中・・!」
「レジェンドがデスティニーを押さえていますが・・いかがいたしますか・・・?」
 オペレーターたちがギルバートからの指示を待つ。
「レイ、合図とともにその場を離れろ。その瞬間に我々がシンを討つ。」
“了解・・合図とともに離脱します・・・!”
 ギルバートが指示を出し、レイが答える。レジェンドがデスティニーを逃がさないように停滞させる。
「ネオジェネシス、オーブを射程に捉えています。」
「デスティニー、オーブへの射線軸に入っています!」
 オペレーターたちがさらに現状を報告していく。
(残念だ、シン・・世界の敵に回った以上、君も例外なく討たねばならない・・・)
 シンに対して懸念を抱きながらも、ギルバートは自分の意思を貫いていた。

 レジェンドに組み付かれたまま、デスティニーはメサイアの前まで連れてこられていた。
(このままじゃメサイアに討たれる・・レイと一緒に離れないと・・・!)
 シンが焦りを覚えて、デスティニーがレジェンドと共に移動しようとする。
「行かせない・・確実にお前を倒す・・!」
 レイはシンを逃がさないようにして、レジェンドがデスティニーを押さえる。2機とも負傷のための負担で火花を発していた。
「レイ・・議長のために、そこまで・・それでここまでの力を出しているのか・・・!」
 レイとレジェンドの底力に、シンが毒づく。
「だけど、オレは議長のこの強引なやり方を受け入れるわけにいかないし、ここでやられるわけにはいかないんだ!」
 シンが力を込めて、デスティニーがブーストを全開にしてレジェンドを押し返す。するとレジェンドのドラグーンが動いて、デスティニーを包囲した。
「あくまでオレを討つっていうのか・・そんなことになれば、お前も死んでしまうぞ、レイ!」
「お前を野放しにするよりはいい・・・!」
 呼びかけるシンだが、レイは彼を解放しようとしない。
「バカヤロー!お前も生きるんだろうが!」
 シンが怒りを叫び、デスティニーがレジェンドを押し込みながら、ビームブーメランを手にした。ドラグーンからビームが放たれて当てられるが、デスティニーは構わずにビームブーメランをレジェンドの肩に突き立てた。
「ぐっ!・・議長の・・ギルの邪魔はさせない!」
 レジェンドの負傷の衝撃に揺さぶられるも、レイが耐えて、レジェンドがデスティニーを食い止める。
 レジェンドを押し返すことができず、デスティニーはジェネシスの射線軸から離れられないでいた。

「ネオジェネシス、チャージ完了。発射できます。」
 ジェネシスの発射準備が完了し、オペレーターが報告する。
「目標、オーブ政府、及びデスティニー。レイ、デスティニーを食い止めつつ離脱しろ。」
“了解。離脱します。”
 ギルバートが指示を出し、レイが答える。レジェンドが離れつつ、ドラグーンからのビームでデスティニーの離脱を封じる。
「ネオジェネシス、発射!」
 ギルバートの号令と共に、ジェネシスがデスティニーに向かって砲撃を発射した。ドラグーンに包囲されているデスティニーは、回避が間に合わない。
「ディメンションブレイカー!」
 そのとき、イザナギがデスティニーの前に飛び込み、展開していたディメンションブレイカーから砲撃を発射した。このときにイザナギはハイブリッドディメンションを発動させていた。
 イザナギの砲撃がジェネシスの砲撃とぶつかり合った。イザナギの砲撃がジェネシスの砲撃を2つに裂いて、デスティニーを救った。
「カナタ!」
「この威力・・全開のイザナギでも耐えられるかどうか・・・!」
 シンが叫び、カナタがジェネシスの威力に脅威を覚える。2つに分断されてイザナギとデスティニーに直撃しなかったが、ジェネシスの砲撃は2機の後方で合わさり、そのまま地球に向かっていく。
「あの方向は・・オーブ・・!?」
「ここでオレたちを守り切っても、オーブに直撃するのか・・!?」
 ジェネシスのビームの飛ぶ先を確かめて、シンとカナタが目を見開いた。

 オーブに残り、政府と軍をまとめていたカガリ。デスティニープランへの反対を表明した彼女たちは、キラたちがギルバートを止めることを信じていた。
 その最中、カガリは胸騒ぎを覚えて、自分の胸に手を当てた。
(アスラン・・・!)
 アスランの身に何かが起こったと思い、カガリが不安を募らせていく。
(アスランとキラならやれるはずだ・・2年前の大戦も終らせたのだから・・・!)
 アスランたちなら戦いを終わらせられると確信していたカガリ。彼女は気分を落ち着かせて、オーブ代表の責務に集中した。
「こちらに向けて高エネルギー体が飛んできます!」
 そのとき、管制塔から報告が出て、カガリたちに伝わった。
「デュランダル議長が・・・!」
「アカツキを出せ!私が行く!」
 緊迫を募らせるキサカと、アカツキで出撃しようとするカガリ。
「いけません!カガリ様が矢面に立たれるなど!」
「撃たれれば回避は不可能!アレからみんなを守れる可能性があるのは、アカツキしかない!」
 議員が呼び止めるが、カガリは言い返して議場を飛び出す。彼女は官邸の前に移動させていたアカツキに乗り込んだ。
「カガリ・ユラ・アスハ、アカツキ、発進する!」
 カガリの駆るアカツキが発進し、上昇していく。ジェネシスの砲撃が大気圏を突破した。
(このアカツキであの光を食い止める・・・お父様、みんな・・私に力を・・・!)
 オーブを守る手立てを見出すカガリ。オーブに向かって飛んできたビームを、アカツキが全身で受け止めた。
 ビームを反射することで持ちこたえていくアカツキ。しかしビームの圧力に徐々に押されていく。
(ここで引き下がるわけにはいかない・・この攻撃を通せば、オーブが滅びる・・・!)
 オーブを守るため、ジェネシスの閃光に立ちはだかるカガリ。しかしアカツキが反射しきれず、機体が破損していく。
(お父様・・キラ・・みんな・・・アスラン・・・!)
 家族やオーブの国民、大切な人のことを思うカガリ。彼女のいるアカツキのコックピットも白んでいく。
 アカツキがジェネシスの光線に耐え切れず、爆発を起こして吹き飛んだ。それでもジェネシスの勢いは止まらず、光線はオーブの政府官邸に直撃した。
 官邸を中心に爆発が広がり、爆風が市街地にも襲い掛かった。人々が風圧に押されて、飛び散った物や破片で負傷していった。

 ジェネシスの砲撃がオーブに直撃したことを、ギルバートたちは確認していた。
「ジェネシスにより、オーブ官邸が消滅。」
 以前にオーブ防衛に出てきた黄金の機体が攻撃を止めようとしましたが、耐え切れず消滅しました。」
 オペレーターたちがオーブの状況を報告する。
「あの機体による防衛で、皮肉にもオーブ全体への被害は大きくならなかった。さすがはオーブの姫だ・・賢明な判断をしていれば、すばらしい指導者になれたのに・・・」
 カガリへの称賛と皮肉を口にするギルバート。
「しかしイザナギの介入によってジェネシスのビームが1度分断され、デスティニーは生き残っています。」
 オペレーターがイザナギとデスティニーのことを報告する。
「残りの戦力をメサイアに集結させ、レイと共にデスティニーとイザナギの足止めをさせろ。その間にネオジェネシスのチャージを行う。」
 ギルバートが顔から笑みを消して、ザフトに指示を出す。
「しかし、フルチャージには時間が・・その間に他の敵勢力が集まってきます・・・!」
「フルチャージでなくて構わん。周囲の敵を一掃するには、そこまでする必要はない。」
 さらに報告するオペレーダーにギルバートが言い返す。
「了解しました。ネオジェネシス、チャージ開始します。」
 オペレーターがジェネシスのチャージを行う。
「オーブもキラ・ヤマトも、ラクス・クラインも消えた。君たちも消えてもらおうか、クロス。」
 シンとカナタたちに対して、揺るぎない信念と勝利を確信していた。

 ジェネシスの砲撃がオーブ官邸に直撃した知らせは、ミネルバとオルペウスに伝わった。
「オーブが、討たれた・・・!」
「ジェネシスを止めることができなかった・・・!」
 オーブの崩壊を気にして、タリアとメイリンが深刻に考える。
「オーブは気に食わないけど、このままあの要塞を野放しにするのはいただけないわね。こっちがいつ狙われるか分からないからね・・」
 ジルは自分たちにジェネシスが撃たれることをよく思っていなかった。
「あの要塞に乗り込んで、ブッ潰すよ!」
「ヴィルキス、ランガ、ダイミダラーの超型と6型がメサイアに向かっています!」
 命令を出すジルに、オリヴィエが報告をする。ヴィルキスたちがオルペウスを追い抜いて、メサイアに向かった。
「あの勢いじゃ、アンジュたちに手柄を持っていかれることになるな・・・」
 ジルがため息混じりに呟いてから、笑みを浮かべてヴィルキスたちを見送った。

 ジェネシスの砲撃を耐えたイザナギとデスティニー。カナタとシンがメサイアだけでなく、レジェンドにも視線を向けていた。
「何とか耐えた・・・でも、また撃たれたら・・・!」
「チャージまでに時間がかかるはずだ・・その間にレイやザフトを食い止めながら、メサイアのあの兵器を破壊しないと・・!」
 シンとカナタがメサイアに対して警戒を強める。
「カナタ、ディメンションブレイカーはすぐに撃てるのか・・!?」
「あの兵器よりは先に撃てるはずだ・・だけど邪魔されなければの話だけど・・・」
 シンの問いに、カナタが緊張を感じながら答える。2人がレジェンドへの警戒を強める。
「オレがレイを食い止める・・カナタはその間に議長を止めてくれ・・・!」
「止めるったって・・レジェンドもだけど、デスティニーも傷ついているじゃないか・・・!」
「言ったはずだ・・オレがレイを止めるって・・オレがやらなきゃ、レイは議長に従うばかりになってしまう・・・!」
「シン・・・危険を承知でレイを止めに行くんだな・・・!」
 シンのレイに対する強い意思を知って、カナタが戸惑いを覚える。
「分かった・・お互い、生きて戻るぞ・・・!」
「もちろんだ!」
 カナタが激励を送り、シンが答える。デスティニーがレジェンドに向かい、イザナギがディメンションブレイカーにエネルギーを集めていく。
“レイ、ネオジェネシスのチャージに入る。発射までクロスをメサイアに近づけさせるな。”
 ギルバートの命令がレイに伝わる。
“他の部隊にも援護と護衛を伝えてある。それまで持ちこたえてくれ。”
「了解。敵は誰1人、議長には近づけさせません。」
 ギルバートの言葉を受けて、レイが答える。レジェンドが残ったドラグーンを操作して、イザナギとデスティニーを足止めしようとする。
「頼むぞ、カナタ・・!」
「あぁ、シンもな・・!」
 カナタと激励を言い合って、シンがレイを止めに向かった。
「レイ、お前は議長のためならどんなことでもする・・議長に言われたら、お前はどこまでも行って、止まらないんだな・・・!?」
 デスティニーがレジェンドに近づき、シンがレイに問い詰める。
「オレはもうためらわない・・討ってでも・・オレはお前を止める!」
 シンが目つきを鋭くして、デスティニーがアロンダイトを手にして構える。
「シン、デスティニーはお前の戦い方に合わせて、その都度に調整がされている。どのような状況にも対応できるデスティニーだが、接近戦重視になっている。」
 レイがシンの動かすデスティニーの傾向を分析する。
「だから接近させずに包囲すればいい・・」
 レイが最善手を見出し、レジェンドが距離を取りつつドラグーンでデスティニーを包囲した。
「こんなんで止まるわけにいかない・・オレがお前を止めるんだ!」
 シンは臆することなく、デスティニーがレジェンドに向かって突っ込んできた。ドラグーンからのビームを受けても、デスティニーはものともせずに突き進んでいく。
「議長の目指す、戦いのない世界は、必ず実現させる・・!」
 レイも揺るぎない意思を示し、レジェンドがドラグーンを引き寄せて一斉にビームを放つ。デスティニーが損傷しながらも突き進み、アロンダイトを振り上げた。
「レイ!」
 シンが叫び、デスティニーがアロンダイトを振り下ろした。アロンダイトがレジェンドの右肩に食い込み、右半身を切り裂いた。
「ぐあぁっ!」
 レジェンドが致命傷を負い、コックピットにも爆発が及び、レイが絶叫を上げた。
「レイ!」
 シンが叫び、レイを助けようとした。離れていくレジェンドをつかもうとするデスティニーだが、損傷が深まって動きが鈍った。
「レイ・・・!」
 傷つきながらもメサイアに向かっていくレジェンドを追うことができず、シンが悔しさを感じていた。

 再びディメンションブレイカーを放とうとするイザナギ。しかしギルバートの連絡を受けて、ザフトの残存勢力がメサイアに集まってきた。
「議長を守り、敵を討つ・・!」
「メサイアを攻撃させるものか!」
 ザク、グフのパイロットたちがイザナギに敵意を向ける。
「そこをどけ!あなたたちは、任務だけじゃなく人生そのものも言われるままになるのを望むのか!?」
 カナタが呼びかけるが、パイロットたちはメサイアを守ることに専念する。
「ザフト軍とも戦うことになるのか・・だけどこれじゃ、チャージが邪魔されることになる・・・!」
 ディメンションブレイカーのチャージを急ぐカナタが、焦りを噛みしめる。
「抵抗をやめ投降しろ!でなければこの場で処罰する!」
 ザフトの戦艦の艦長が、カナタたちに警告をする。
「もう少しだっていうのに・・・!」
 カナタが危機感を覚えて、イザナギが機体と戦艦の前から動けなくなっていた。
「カナタ!シン!」
 そこへ孝一の声が飛び込み、ダイミダラー超型と6型、ヴィルキスとランガが駆け付けてきた。
「大丈夫ですか、カナタくん!?」
「みんな・・ありがとう!助かった!」
 霧子が心配して、カナタが感謝して笑みを浮かべた。
「私たちは勝ってきたよ・・撃墜するしか、止めることができなかったけど・・・」
 海潮が悲しみを込めて、カナタに状況を話した。
「みんな、自分を曲げないんだな・・オレたちと同じように・・・」
 間違った考えでも貫こうとする姿勢に、カナタは深刻さを感じていた。
「ボーっとしてないでさっさと片付けるわよ。あの要塞をやるんでしょ?」
「あぁ。だけど破壊するのはあの兵器だ。議長は命を奪わずに、デスティニープランをやめさせる・・!」
 アンジュが注意をして、カナタが言い返す。
「甘いことを言うわね・・だったらお互い5割引きで丁度よくなるわ。」
「それならチャージがすぐに済む・・!」
 アンジュがため息混じりに進言して、カナタが笑みを浮かべる。イザナギがチャージを再開して、ヴィルキスもディスコードフェイザーを起動させる。
「他のクロスが来たか!」
「何人たりとも、敵はメサイアに近づけさせるな!」
 パイロットが声を荒げて、指揮官が命令を下す。ザフトの機体と戦艦が攻撃を仕掛ける。
「私たちの邪魔をしないで!」
「僕たちの生き方は、僕たちの愛は、僕たちで決めるんだ!」
 霧子と将馬が想いを言い放ち、ダイミダラー6型がハイエロ粒子を放出して、その光でビームとミサイルを吹き飛ばしていく。
「オレたちもカナタたちのために時間稼ぎをしてやるかー!」
 孝一も意気込みを見せて、ダイミダラー超型もザフトに向かって突っ込んだ。
「私たちもザフトを追い払うわよ。」
 魅波が呼びかけるが、海潮はためらいを浮かべている。
「殺したくないっていうなら、フリーダムみたいに武器だけ壊してみる?」
「それは・・・それしか命を奪わない方法が思い浮かばないけど・・・」
 夕姫から問われて、海潮は迷いを抱いたまま頷いた。ランガが左手を砲門に変えて、ザフトに向かって加速した。
「このくらいなら、あのビーム砲を破壊するには十分ね。」
「狙いはあの兵器だ・・それを壊せればいい・・!」
 アンジュが笑みを浮かべて、カナタが慎重にジェネシスの砲門を狙う。
「みんな、離れろ!」
 海潮たちに向かって呼びかけるカナタ。ダイミダラーたちとランガがイザナギとヴィルキスの前から離れていく。
「発射!」
 カナタとアンジュが声をそろえて、イザナギとヴィルキスがディメンションブレイカーとディスコードフェイザーを発射した。2機の砲撃がジェネシスに命中し、爆発を引き起こした。
「当たった!兵器は破壊した!」
「デュランダル議長は・・・!?」
 カナタが笑みを浮かべて、海潮がメサイアを注視する。
「オレ、議長のところへ行く・・レイもメサイアに向かったはずだ・・!」
 シンがカナタたちに言って、デスティニーがメサイアに向かう。
「だけど、デスティニーも負傷しているじゃないか・・!」
「それでも行かないと・・レイたちを連れ戻せない・・・!」
 カナタが呼び止めるが、シンは聞かずに進んでいった。
「仕方がないわね・・私たちもいくわよ・・!」
 アンジュがため息混じりに言って、ヴィルキスもメサイアに向かう。
「デュランダル議長とレイを連れ出して、デスティニープランをやめさせる・・・!」
 海潮が今の考えを口にして、魅波と夕姫が頷いた。ランガもダイミダラー超型、6型、イザナギと共にメサイアに向かった。

 ジェネシスを破壊され、メサイアとギルバートは窮地に追い込まれていた。
「メサイア、大破!使用不能です!」
「クロスがメサイア内に侵入!こちらに向かってきています!」
 オペレーターたちが慌ただしく、メサイアの状況を報告する。
(メサイアもここまでか・・・しかし・・)
 絶体絶命を痛感するも、ギルバートは信念を貫く姿勢を崩さない。
 ギルバートたちのいる中央管制室にも爆発が及んだ。爆風を突き破り、デスティニー、イザナギ、ヴィルキス、ランガ、ダイミダラー超型、6型が着地した。
 オペレーターの数人が爆発に巻き込まれて負傷し、残りのオペレーターたちが彼らを連れて避難していく。
「デュランダル議長、ここは危険です!早く避難を・・!」
「私は彼らと話がある。後で脱出する。」
 兵士が呼びかけるが、ギルバートは残ることを伝える。
「君たちは負傷者を援護しつつ、メサイアを脱出するんだ。」
「議長・・・どうか、ご無事で・・・!」
 ギルバートからの指示に納得ができなかったが、兵士は他の兵士たオペレーターと共に、メサイアから脱出していった。
 デスティニーのコックピットのハッチが開き、シンが出てきた。カナタ、アンジュ、孝一たちもそれぞれの機体から降りて、海潮たちもランガから外に出た。
「ついにここまで来たか、シン。みんなも・・」
「デュランダル議長・・・」
 席から立ち上がるギルバートに、シンが当惑する。海潮も動揺を浮かべて、アンジュと夕姫がギルバートに鋭い視線を向ける。
「これで終わりだぜ、デュランダル議長!」
「今すぐデスティニープランを中止してください!」
 孝一と霧子がギルバートに向かって呼びかける。
「デスティニープランは遂行しなければならない。これこそが唯一の、争いのない世界を実現させる術なのだ。」
 ギルバートは言い返して、シンたちの前から歩き出そうとした。
「動かないで!」
 アンジュが銃を取り出して、ギルバードが足を止めた。
「すぐにプランを止めるのよ!さもないと、あなたを討ってでも・・!」
「私を撃つつもりなのかな?その銃で。」
 忠告するアンジュだが、ギルバートは落ち着きを崩さない。
「やめたまえ。やっとここまで来たのだ。そんなことをしたら、世界はまた、元の混迷の闇へと逆戻りだ・・私の言っていることは本当だよ。」
 彼は自分がいなくなることへのリスクを提言する。
「あなたを止めても平和が戻らないとしても、あなたのやり方じゃ自由がなくなってしまいます・・それじゃ楽園とは言えない・・・」
 海潮が悲しい顔を浮かべて、ギルバートに言い返す。
「私たちはあなたたちの決めた生き方はしないわ。私たち1人1人が、自分が幸せと思う道を選ぶのよ。」
「あなたのこのやり方よりは、イヤな世界にはなっていないはずよ。」
 魅波と夕姫もそれぞれ考えを口にする。
「だが誰も選ばない。人は忘れる。そして繰り返す。こんなことは2度としないと、こんな世界には2度としないと、一体誰が言えるのだね?」
 しかしギルバートは悠然と語って問いかけてきた。
「誰も言えはしない。君たちにも、キラ・ヤマトくんにもラクス・クラインにも・・」
 彼はカナタたちだけでなく、キラたちにも進言していた。
「かつて私には愛した人がいた。だが彼女と私では、遺伝子的に子供が望めず、それが原因で私たちは、別々の道を歩むことになった・・」
 ギルバートがカナタたちに自分の過去を明かす。彼は愛した人、タリアのことを思い出していた。
「また私には友がいた。彼は己の運命を呪い、その憎しみで世界を滅ぼそうとさえした・・」
 ギルバートはラウのことも思い出していた。ギルバートはラウとも旧友だった。
「私は思ったよ。私たちの経験した悲劇を繰り返さないためには、運命をこの手に収めることが必要だと・・」
「だから、デスティニープランを実行しようとしたんですか・・・!?」
 話を続けるギルバートに、恭子が問い詰める。
「その通りだ。人は己を真に知ることで、初めて新たな段階に進むことができる。無知である故に欲望に翻弄され、社会は混沌に支配される・・」
「でもだからって、人の生き方を一方的に決めるなんて間違っています!」
 答えるギルバートに、将馬が感情を込めて言い返す。
「私たちは私たちの意思で、世界をよくしていきます!愛し合っていきます!たとえどんな障害があっても、私たちは乗り越えてみせます!」
「オレはオレの生き方をする!オレだけのハイエロな生き方がしたいんだよ!」
 霧子と孝一が自分たちの考えを言い放つ。2人とも部外者に束縛されない生き方を貫こうとしていた。
「力任せにわがままを押し通し、世界をかき乱すことも厭わない・・傲慢だな。それではキラ・ヤマトと大差ない。」
「傲慢なのはアンタよ!何でも自分の思い通りになると思って・・エンブリヲと同じじゃない!」
 嘲笑を見せるギルバートに、アンジュが不満をあらわにする。
「確かに私は、世界や運命っていうのに振り回されてきたわ。もっと早く自分のことを知っていたら、少しはマシな人生を送れたんじゃないかともね・・」
 アンジュが自分のことを振り返って、皮肉を感じていく。
「でも私が今まで過ごしてきた人生全部が悪いとは思っていないわ。皇女としての地位も居場所も失くしたけど、今の私には力があるし、仲間も新しい居場所もある。」
 今までの自分の境遇を思い返して、アンジュがカナタたちに目を向ける。カナタたちやサリアたちとの出会いや協力、錯綜、タスクとの時間があったから今の自分があると、彼女は思っていた。
「私はもう、誰かの思い通りに動くつもりはないわ!それが世界の敵になるというなら、喜んでその世界を滅ぼしてやるわよ!」
 自分の道を進む決意を固めるアンジュ。彼女もギルバートとデスティニープランに対して、徹底的に拒絶していた。
「だが君たちが言う世界と私の示す世界、皆が望むのはどちらかな?今ここで私を討って、再び混迷する世界を、君たちはどうしようというんだ?」
 ギルバートは追い込まれた様子を見せることなく、カナタたちに問い詰める。
「違う世界のオレたちだって、分かり合うことができたんだ・・世界がこのまま混迷したままなんてことはない・・・!」
 カナタがシンたちに目を向けて、世界にまだ希望があることをギルバートに訴える。
「世界をよくしていくかどうかは、他の誰かじゃない!世界に生きる1人1人だ!」
「そうか・・やはり君たちは、人類の敵ということか・・・」
 言い放つカナタに対して、ギルバートがため息をつく。彼は銃を手にして、同じく銃を構えているアンジュに銃口を向ける。
「シン、君まで私から離れてしまったのは残念だよ・・戦いのない世界が、君の願いだと思っていたのだが・・」
 ギルバートがシンに視線を移して声を掛ける。
「デュランダル議長・・世界から戦いがなくなってほしいと思っているのは、前も今も同じです・・」
 シンが自分の思いをギルバートに向けて告げる。
「オレは力がないのが悔しくて、軍に入りました・・それはオレの意思で決めたことです・・だけど、デスティニープランのある世界じゃ、そんな意思もなくなってしまう・・・!」
「戦いのない世界なら、力を求める必要も意思も必要ない。シン、君のように家族を失う人は現れず、平穏に暮らすことができるのだよ。」
「その平穏も、平穏を守ることも、自分以外の誰かに一方的に決められる・・そんなの、生きていることにならない・・・」
 ギルバートの言葉に対し、シンは自分の意思を貫く。彼も自分の意思で自分の生き方を決めつつあった。
「誰でも幸福であるのが、全ての人の願い。それを全て叶えることができるのは、私の示したこのあり方でしかない・・・」
 ギルバートが言い返したところで、レイもシンたちの前に姿を現した。
「議長の邪魔をするな・・・!」
「レイ・・・!」
 銃を取り出すレイに、シンが困惑する。
「レイ、君はシンを撃て。私はアンジュさんを撃つ。」
 ギルバートがレイに指示して、アンジュに視線を戻す。
「レイ、そこまで議長が、言いなりになるだけの生き方が正しいというのか・・・!?」
 ギルバートに従うレイに、シンが憤りを覚える。
「生きるんだ、レイ・・お前自身の意思で・・!」
「オレの、意思・・・」
 呼びかけるシンの言葉に、レイが心を揺さぶられていく。
「レイ、撃つのだ。我々が討たれれば、世界は再び混沌にのみ込まれる・・」
 ギルバートがレイに再び命令したときだった。
 メサイア内に銃声が響いた。シンもレイもアンジュも発砲していないにもかかわらず、ギルバートが撃たれた。
「ぎ、議長・・!?」
 この瞬間にシンが驚愕し、カナタたちもレイも目を疑った。
「違う・・お前が動かすことにより、世界は混沌へと向かうことになる・・・」
 ギルバートの後ろにいたのは、ヘクトだった。彼は手にした銃でギルバートを撃ったのだった。
 
 
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