スーパーロボット大戦CROSS
第68話「運命と伝説」

 

 

 インパルスとステラのガイアは、バルトフェルドのガイアを激しく攻め立てていた。
「今のオレたちとお前さんたちの目的は同じはずだ。一時共闘という考えもないのか!?」
 バルトフェルドがルナマリアたちに対して文句を言う。
「ムチャクチャに戦いを乱しておいて、力を貸してもらいたいなんて図々しいじゃない・・!」
 するとルナマリアもバルトフェルドに不満をぶつける。
「みんなをまもる・・シンも、ルナも、みんな・・・おまえたちは、みんなをかなしませる・・・!」
 ステラもバルトフェルドやラクスたちと対峙することを考えている。
「やれやれ・・悲しいことだな。戦いを終わらせようとして、ひどく敵視されるとは・・」
 バルトフェルドが皮肉を感じてため息をつく。
「だが、たとえ世界中を敵に回すことになっても、オレたちは屈するわけにはいかないんでね・・!」
 バルトフェルドが諦めずに、ルナマリアたちと戦う意思を示す。
 インパルスとバルトフェルドのガイアがビームサーベルを振りかざしてぶつけ合う。そこへステラのガイアがビームサーベルを振り上げて飛び込んできた。
 続けて2機のガイアが連続でビームサーベルをぶつけ合っていく。
「ステラのいやなもの・・シンのいやなもの・・ここでたおす・・・!」
「こっちも大人しくやられるつもりはないな・・!」
 ステラが敵意を向けて、バルトフェルドが言い返す。2機のガイアがさらにビームサーベルをぶつけ合う。
(確実に当てる・・今は私が、ステラを守らなくちゃ・・・!)
 インパルスがビームライフルを構えて、ルナマリアが集中力を高める。
(私はシンやレイのような力はない・・それでもステラを、みんなを守ることはできる・・・!)
 自分の力量と思いを確かめて、ルナマリアがバルトフェルドのガイアの動きを捉えた。
「ステラ、離れて!」
 ルナマリアが呼びかけて、ステラのガイアが離れると同時にビームライフルを持ち替えて構えた。ステラのガイアとインパルスがバルトフェルドのガイアに向けて、同時にビームライフルを発射した。
 バルトフェルドが反応してガイアが回避しようとするが、ビームによって左腕を撃ち抜かれた。
「くっ!・・同時に攻撃されたのが痛かったか・・!」
 バルトフェルドが毒づき、インパルスたちに向けて視線を移した。しかしインパルスの姿が消えていた。
「デブリに紛れて移動しているのか・・!?」
 バルトフェルドが警戒を強めて、インパルスの行方を探る。
「はぁっ!」
 そこへステラのガイアがビームサーベルを手にして、バルトフェルドのガイアに向かって飛び込んできた。
「そっちのお嬢さんも手に負えないな!」
 バルトフェルドが皮肉を口にして、2機のガイアがビームサーベルを振りかざしてぶつけ合う。
「ルナ・・今のうちに!」
 ステラが叫ぶと、インパルスがデブリの1つから飛び出してきた。その手に持っていたのはビームサーベルではなく、事前に射出されていたソードシルエットにあったエクスカリバーだった。
 ステラのガイアが離れた直後、インパルスが突き出したエクスカリバーが、バルトフェルドのガイアの胴体を貫いた。
「ぐおぉっ!・・・ラ・・ラクス・・・!」
 コックピットの爆発に激痛を覚えて、バルトフェルドが声を振り絞る。彼のガイアがインパルスが離れた直後に、爆発を起こした。
「やった・・あの砂漠の虎に勝てた・・・!」
 ルナマリアがバルトフェルドに勝ったことを実感して、ひと息つく。
「ルナ・・だいじょうぶ・・・?」
 ガイアがインパルスに近寄って、ステラがルナマリアを心配する。
「私は平気よ。ステラは大丈夫・・?」
「ステラも、だいじょうぶ・・・」
 ルナマリアとステラが答えて、笑顔を見せた。そのとき、インパルスとガイアのエネルギーが切れて、フェイズシフトが解除された。
「ホントにギリギリの戦いだった・・・1度ミネルバに戻りましょう・・」
「うん・・・」
 ルナマリアが呼びかけて、ステラが頷いた。インパルスとガイアがミネルバを追って移動した。

 メサイアを目指すミネルバだが、追走するアークエンジェルにタリアが気付き、応戦することになった。
「私たちはデュランダル議長を止めるために行動しています。あなたたちの武力介入によって、この行動を妨害されるわけにはいきません。」
 タリアが毅然とした態度で、マリューたちに向けて呼びかける。
「私たちもデュランダル議長を止めるつもりです。私たちが対立する必要はないはずです!」
「あなたたちによって、本来出なかった被害や戦乱が出ることになりました。あなたたちと今の私たちでは、何のためにどのような心構えで戦うかが違います。」
 マリューが説得しようとするが、タリアは彼女の言葉に反発する。
「すぐに戦線から離脱すること。この警告に従わない場合、ここで撃墜します・・・!」
「・・私たちも、このまま引き下がるわけにはいきません・・強行させていただきます・・・!」
 タリアからの警告をはねのけるマリュー。アークエンジェルが加速してメサイアに向かう。
「仕方ありません・・・目標、アークエンジェル!攻撃を開始します!」
 タリアがひと息ついてから、アーサーたちに指示を出す。
「しかし艦長、早くしないとメサイアが・・・!」
「シンとルナマリアたちを信じましょう。私たちは、今は目の前の敵を討つことに集中すること。」
 声を荒げるアーサーに、タリアが檄を飛ばす。
「り、了解しました・・・!」
 アーサーが落ち着きを取り戻しながら、タリアに答える。
「目標、アークエンジェル!艦体後部!イゾルデ、ってぇ!」
 アーサーの号令で、ミネルバがイゾルデを発射した。アークエンジェルは上昇して、射撃を回避した。
「攻撃の手を止めるな!トリスタン1番、ってぇ!」
 タリアも指示を出し、トリスタンがビームを放つ。アークエンジェルがビームをかわせず、爆発を起こす。
「距離を取りながら迎撃するわ!」
 マリューが指示を出し、アークエンジェルがミネルバから離れて迎撃態勢に入る。
「バリアント・・!」
「トリスタン・・!
「ってぇ!」
 マリューとタリアが同時に号令を上げて、副砲であるバリアントとトリスタンを発射した。両者の射撃がぶつかり合い、相殺される。
「ヘルダート、発射!弾幕を張るのよ!」
 マリューの指示で、アークエンジェルがヘルダートを発射して爆発。煙を巻き上げてミネルバを遮る。
「レーダーで位置を特定します!」
 メイリンがレーダーをチェックして、アークエンジェルの行方を追う。
「3時の方向へ旋回!後ろに回ろうとしています!」
「回避しつつ迎撃!後ろを取らせないで!」
 メイリンが報告して、タリアが指示する。ミネルバが前進して煙を抜けて、アークエンジェルを振り切る。
「こちらもミサイル発射!敵艦を牽制して!」
「はい!」
 タリアが呼びかけて、アーサーが答える。ミネルバがミサイルを連射して、アークエンジェルを引き離す。
「バリアント、発射!弾幕を払って!」
 マリューが指示して、アークエンジェルが連射で煙を吹き飛ばす。
「ゴットフリート、ってぇ!」
 マリューがその瞬間を見抜いて、アークエンジェルがビームを発射した。
「トリスタン2番砲!目標、左方デブリ!」
 その瞬間、タリアが指示を出して、ミネルバがトリスタンを発射した。そばにあった岩石に射撃が当たり、その爆風に押されたことで、ミネルバはビームを回避した。
「まさかここで、アスランから教わったことをまた実践するとは・・!」
 アスランが以前ミネルバに来たときのことを思い出して、アーサーがひと息つく。
「皮肉だけど、今は敵なのよ・・アスランも、彼らも・・・」
 タリアが覚悟を決めて、アーサーたちが小さく頷いた。
「次でアークエンジェルを討ちます・・タンホイザー、起動!」
 タリアが呼びかけて、ミネルバが旋回してからタンホイザーの発射体勢に入った。
「ローエングリン、照準!ミネルバの陽電子砲を迎え撃ちます!」
 マリューも陽電子砲で迎え撃つことを決める。ミネルバとアークエンジェルが向き合い、陽電子砲の発射体勢に入る。
「ってぇ!」
 ミネルバがタンホイザーを、アークエンジェルがローエングリンを同時に発射した。放たれたビームがぶつかり合い、共に爆発して閃光が煌めいた。
 アークエンジェルのレーダーがこの閃光と衝撃で乱れ、ミネルバを見失う。
「迎撃と防衛を・・向こうもこちらの位置が分からなくなっていると限らないわ・・・!」
 マリューが警戒を強めて、ミネルバの行方を追う。
 そのとき、閃光を突き抜けてミサイルが飛び込み、アークエンジェルに命中した。
「撃たれた!・・ミネルバはどこに・・・!?」
 マリューがうめきながら、ミネルバを捜す。次の瞬間、ミネルバがアークエンジェルに接近して、銃砲の発射体勢に入っていた。
「イゾルデ、トリスタン、一斉発射!」
 タリアの号令と共に、ミネルバがイゾルデとトリスタンを一気に発射した。
「ぐっ!」
 射撃がアークエンジェルに直撃し、マリューが衝撃を受けて顔を歪める。
「タンホイザーをもう1度撃つわよ!」
 タリアがアークエンジェルを見据えて指示を出す。
「しかし1度発射して間もないです!連射すればタンホイザーに負担が・・!」
「最大出力でなくていいわ!決定打を与えるにはこれしかない!」
 アーサーが言い返すが、タリアは檄を飛ばしてきた。
「分かりました・・可能な限り、エネルギーのチャージを!」
「はい!」
 答えたアーサーの指示に受けて、メイリンがコンピューターを操作する。ミネルバがタンホイザーのチャージを行う。
「出力50%!これが限界です!」
「それでいいわ・・タンホイザー、発射!」
 メイリンの報告を受けて、タリアが号令をかけた。タンホイザーが至近距離からタンホイザーを発射し、アークエンジェルの艦体をビームが貫いた。
「うわあっ!」
 アークエンジェルのブリッジにも爆発が及び、クルーたちが負傷していく。
「いけない・・・早く、離脱を・・・!」
 避難を呼びかけるマリューだが、広がる爆発に巻き込まれていく。
(ムウ・・・)
 想いを寄せた相手のことを考えるマリューが、閃光の中に消えた。アークエンジェルが墜落し、岩石に衝突したと同時に爆発した。
「やった・・あの、アークエンジェルを落とした・・・!」
 アーサーが爆発を見届けて、動揺を隠せなくなる。
「アークエンジェルを討った・・結局、互いに信念を貫くことで、分かり合えないまま戦うことになってしまった・・・」
 タリアは深刻な面持ちを浮かべて呟く。
 タリアはマリューたちの力を認めていた。私利私欲ではなく、世界や平和のために戦っていたことも。
 互いに信念が強く頑なであれば、完全に和解することはできない。それでも分かり合うことができたらという懸念を、タリアは感じていた。
「エターナルがメサイアに向けて先行しています。エターナルを追走しつつ、本艦もメサイアへ向かいます。」
「了解です!」
 タリアがエターナルのことを考えて、アーサーが答える。
「ミネルバ!」
 そのとき、インパルスとガイアがミネルバと合流して、ルナマリアが声を掛けてきた。
「このまま任務を続けます!デュートリオンビームを!」
 ルナマリアが戦闘の続行を進言して、タリアが頷いた。
「ステラ、あなたは大丈夫?」
「うん・・ステラはへいき・・ガイアもこわれていない・・・」
 タリアの問いに、ステラが微笑んで答えた。
「インパルスとガイアにデュートリオンビームを。」
「はい。」
 タリアに言われて、メイリンがデュートリオンビームを照射した。インパルスとガイアのエネルギーが回復した。
「メサイアに向けて前進します!」
「はい!」
 タリアが呼びかけて、ルナマリアが答える。ミネルバ、インパルス、ガイアがメサイアに向けて移動をした。

 カナタのイザナギとシンのデスティニーが先行してメサイアを目指していた。
「動いている要塞があった!」
「あれが、メサイアなのか・・!」
 カナタとシンがメサイアを発見して、緊張を覚える。
「こっちに近づいてくる反応・・!」
「レジェンド・・レイ・・!」
 2人がレーダーを見て緊張を膨らませる。レイの乗るレジェンドがイザナギたちに向かっていた。
「カナタ、お前は先にメサイアに行って、議長を止めてくれ!オレがレイを止めるから!」
 シンがカナタに呼びかけて、1人でレイと対峙することを伝える。
「でもシン1人じゃ・・レジェンドはデスティニーの同等の性能なんだぞ!」
「でもレイと1番に向き合えるのはオレなんだ・・たとえ傷つくことになっても、オレが礼を止めなくちゃならないんだ・・!」
 カナタが心配するが、シンはレイに対する強い意思を示した。レイの親友であり、自分の考えを示したために彼とギルバートと敵対してしまった自分の責任であると、シンは思っていた。
「分かった・・だけど危なくなったら連絡してくれ!オレじゃなくても、ルナでもアンジュでもいいから・・!」
「ありがとう、カナタ・・ホントに危険だと思ったら、そうするよ・・」
 気を遣うカナタにシンが礼を言う。イザナギが先行し、デスティニーがレジェンドと対峙した。
「レイ・・・」
 シンがレイに対して複雑な気分を感じていく。
「シン、まさかお前も、アスランやキラ・ヤマトと同じ過ちを犯すとは・・・!」
 レイがシンに対して憤りを募らせる。
「オレはアスランたちとは違う・・アイツらは自分たちのことしか考えてなかった・・自分たちが無事なら、他が傷つこうと関係ない。そんなやり方だった・・・!」
 シンが反論して、キラたちの行動への不満を口にする。
「お前もヤツらと違うというなら、この世界のために戦うんだ・・議長が道を指し示してくれる平和の世界を守るために・・」
 レイが冷静にシンに向けて告げる。
「議長もキラも、他の人の意思を無視する・・そんなやり方があっちゃいけないんだ・・・!」
「世界の混迷を失くすためには仕方がない・・正しい道が示されてこそ、正しい生き方ができるのだ。」
「それじゃ議長から死ぬように言われたら、お前は死ぬのか!?生きる希望を踏みにじられるようなことを言われても、お前は納得するのか!?」
「議長は破滅をもたらす方ではない!お前もそのことは分かっているはずだ!」
 呼びかけるシンだが、ギルバートを信じるレイが彼の言葉をはねつける。
「レイ、お前は寿命が短いって言ってた・・それに逆らって、お前は長く生きようと決めたんじゃないのか!?」
「そうだ・・オレは生きる・・議長のために、残された命を生き抜く・・そう決めたんだ・・・!」
「それはレイ、お前の意思じゃないのか!?お前がそうしたいと、議長のために生きたいと、お前自身で決めたんだろ!?」
 さらに呼びかけるシンに、レイが戸惑いを覚える。
「だがシン、お前はその意思で、議長の信頼を裏切った・・だからオレは、お前たちを許さない・・!」
「レイ・・・!」
 ギルバートに従順であろうとするレイに、シンが歯がゆさを募らせる。
「お前も敵に回ってしまった・・議長の敵に、世界の敵に・・・!」
「どうあっても議長に従おうとするのか、レイ・・・!」
 敵意を募らせるレイに、シンが怒りや悲しみが入り混じる激情を膨らませていた。
「正直、レイとは戦いたくはなかった・・議長とも・・だけど、オレたちの生き方を認めず、一方的に討とうとするなら、オレも迷わない・・・!」
「オレも、シンと戦うことを、快く思ってはいない・・・!」
 互いに自分の正直な思いを口にするシンとレイ。それでも信念を貫くため、2人は戦いへのためらいを振り切った。
 デスティニーとレジェンドがビームライフルを手にして、同時にビームを放ってぶつけ合った。
「シン・・議長が認めてくれたのに、その期待を裏切った・・・!」
「オレは信じたかった・・議長は、みんなの意思を尊重してくれる方だと・・・」
 敵意を向けるレイに、シンがギルバートに対する苦悩を告げる。
「自分たちの目的のために、誰かの意思を、罪のない人の心を踏みにじっていいわけがない・・!」
「議長は世界の全てを思って決断されている。それに逆らうことこそ罪だ・・!」
「自分たちに逆らう者は、全部罪人・・全部敵って言いたいのかよ・・!?」
 レイの変わらない意思に、シンが憤りを募らせていく。
「オレはそんなやり方は受け入れない・・レイが戦おうとするなら、オレも戦う・・!」
 シンが覚悟を決めて、デスティニーが再びビームライフルを発射した。レイが反応し、レジェンドがビームをかわす。
「デスティニーは万能型だが、シンの戦い方は接近戦に強い・・射撃と遠距離攻撃は、オレとレジェンドが有利だ・・!」
 レイが冷静にデスティニーの特徴とシンの戦い方を分析する。レジェンドもビームライフルを発射するが、デスティニーはスピードを上げてかわす。
「スピードもデスティニーが上・・だがそのスピードを封じる術を、レジェンドは持っている・・・!」
 レイが呟き、レジェンドがドラグーンを射出する。シンが反応して回避行動をとるが、縦横無尽に飛び交うビームをかわし切れず、デスティニーがビームを当てられる。
「くっ・・!」
 シンがうめき、デスティニーが爆風から脱する。デスティニーはビームシールドを張って、ダメージを抑えていた。
「さすがだ、シン・・アスランやキラ・ヤマト以上に強いパイロットになっている・・!」
 レイがシンの強さを痛感して毒づく。
「だがオレは敗れるわけにいかない・・たとえシン、お前やクロスが立ちはだかろうと・・!」
 レイが目つきを鋭くして、レジェンドがさらにドラグーンを操作する。デスティニーはさらにスピードを上げて、ビームをかいくぐる。
「レイ・・シュミレーションで何度か相手をしたことはあるが、それ以上の力だ・・それだけレイが本気だってことなのか・・・!?」
 シンもレイの力を痛感して、緊張を膨らませていく。
 レジェンドが展開したドラグーンからビームが放たれる。デスティニーは残像を伴った高速で、ビームをかいくぐっていった。

 地球に向けて進行するメサイア。ギルバートの指揮の下、オペレーターが現状、戦況の把握を行っていた。
「クロスはエターナル、アークエンジェルと交戦中。フリーダム、ジャスティス、アークエンジェルが撃墜されました。」
「何っ!?・・キラ・ヤマトやアスランが討たれたというのか・・・!?」
 オペレーターのこの報告を聞いて、ギルバートが驚きを覚える。
(あの2人が討たれるとは・・・脅威が減ったことで、我々にとっては好都合となったか・・)
 しかし彼はすぐに笑みを取り戻す。
「しかし我々の戦況もよくありません。自衛隊のロボも全滅し、ザフトもクロスによって劣勢に追い込まれています。」
 オペレーターが続けてザフトの状況を伝える。
「レジェンドが今、出撃した。レイなら問題はない。」
「レジェンド、デスティニーと接触、交戦します。」
「イザナギがこちらに接近中!他のクロスの戦力もエターナルもです!」
 レイを信じるギルバートに、オペレーターたちがさらに報告する。
「残存の戦力をメサイア近辺に集結。敵勢力をメサイアに近づけるな。」
 ギルバートが真剣な面持ちを浮かべて指示を出し、オペレーターたちがザフトに通達した。
(頼むぞ、レイ。シンが離反してしまった以上、お前だけが我々の正しき力だ。)
 レイに信頼を送り、ギルバートは再び笑みを浮かべた。

 レジェンドのドラグーンから放たれるビームを、デスティニーは素早くかいくぐっていく。レジェンドは徐々にデスティニーの動きを包囲しつつあった。
「逃がしはしない・・デスティニーでも、全てをかわすことはできない・・!」
 レイがデスティニーの動きをうかがいながら、ドラグーンを操作していく。ドラグーンのビームが、デスティニーの胴体をかすめるようになってきた。
(レイも強くなっている・・しかも今は、議長のために命懸けになっている・・!)
 シンがレイとレジェンドの脅威を痛感して、焦りを噛みしめる。
(でも負けられないのはオレも同じだ・・生き方を誰かに決められる世界なんて、実現させたらダメなんだ・・!)
 彼は気持ちを強く持ち、意識を集中する。
(レイ、どうしてもオレを討とうとするなら・・オレがお前を討つ!)
 激情を募らせたシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされ、デスティニーの動きがより速くより正確になった。
(キラ・ヤマトやアスランのような覚醒・・オーブ領海で連合と戦ったときから、お前もするようになったな、シン・・!)
 レイがこれまでの戦いやシンの戦い方を思い出していく。
(しかしオレも負けるわけにはいかない・・お前が抜け、オレが倒れるようなことになれば、ギルと世界を守る者が誰もいなくなってしまう・・・!)
 自分の譲れないものを確かめて、レイが目つきを鋭くする。
(ギルの理想を守るため、シン、お前はオレが討つ・・!)
 シンを倒すことへの躊躇を振り切ったレイ。
 レジェンドがドラグーンからのビームを放つが、シンは正確にビームの軌道を読んで、デスティニーが残像を伴った動きでかいくぐる。
(目に見えるものだけを頼らない。レーダーの反応も捉えれば、デスティニーの動きは予測できる・・!)
 レイはレーダーでのデスティニーの動きにも注意する。レジェンドがビームライフルを構えて、ドラグーンと併せた射撃を仕掛ける。
「レイ、オレはお前を倒してでも、デスティニープランを、議長を止める!」
 シンが自分の意思を貫こうとして、デスティニーがレジェンドに向かっていく。
「近づけさせない・・!」
 レイがデスティニーの動きを見据えて、レジェンドが前方にドラグーンを動かす。
 シンがレジェンドとドラグーンの動きと射撃を捉える。デスティニーがスピードを落とさずに、レジェンドの後ろを取ろうとする。
 レイがデスティニーの動きを読んで、レジェンドがドラグーンを操作する。接近を阻まれるデスティニーだが、それでもレジェンドに近づこうと旋回していく。
(ドラグーンを1つずつ潰すしかない・・!)
 シンが思い立ち、デスティニーが左手でビームライフルを持った。シンが感覚を鋭くして、デスティニーが正確にビームライフルを発射した。
 デスティニーのビームが、ドラグーンを1つずつ撃ち抜いて破壊していく。
(叩かれる前に、レジェンドがデスティニーを叩く・・!)
 レイが打開の糸口を見出して、レジェンドがデスティニーを追っていく。レジェンドがビームライフルとドラグーンを同時に発射して、デスティニーの左足を撃ち抜いた。
「くっ!」
 デスティニーが損傷して、シンが毒づく。デスティニーが直後にビームライフルを発射して、レジェンドのライフルを撃ち抜いて破壊した。
「シン・・オレを討ってまで、己の意思を貫こうとするか・・やはりお前は、アスランやキラ・ヤマトと同じだ・・!」
 レイがシンに鋭い視線を向けて、強く非難する。
「オレはアイツらとは違う・・自己満足のために世界を引っ掻き回して、悲劇を広げるマネはしない!」
 シンが思いを込めて、レイに言い返す。
「お前たちは議長の理想を拒否した。それだけでお前たちは平穏を乱している・・!」
「そうやって、お前も議長も、自分たちが出した生き方を誰かに押し付けて、ホントに満足なのか!?」
「絶対の平和だから、それを苦にする理由は何もない・・!」
 シンが問い詰めても、レイは考えを変えない。
「レイは命が短いと言って、それでも生きていくって決めた・・押し付けられていた悪い運命に抗おうとしたんだろ!」
 シンがレイに向かって思いを言い放つ。
「お前だって、誰かに一方的に決められたり押し付けられたりする辛さがどういうものなのか、よく分かってるはずだ!」
「それでも、2度と争いを起こさせないために、デスティニープランは実行されなければならない・・!」
 シンの説得をレイが振り切り、レジェンドが残りのドラグーンを動かす。デスティニーが高速でドラグーンのビームをかいくぐる。
(そこまで議長のために戦おうとするなら、オレはお前を討つことを迷わない・・・!)
 シンがさらに感覚を研ぎ澄ませて、デスティニーがアロンダイトを構えて、レジェンドに向かって加速する。
「近づけさせない・・!」
 レイも感覚を研ぎ澄ませて、レジェンドが前方にドラグーンを集めて、一斉にビームを放つ。デスティニーは防御ではなく、左手のパルマフィオキーナでビームを打ち消してきた。
「あくまで攻撃的か、シン・・!」
 レイがシンのデスティニーを迎え撃とうとする。レジェンドのドラグーンのうちの2基が左右に回って、デスティニーへ横から射撃をする。
 デスティニーがさらに加速して前進することで、ドラグーンのビームを回避した。
「レイ、オレがお前たちを止める!」
 シンが言い放ち、デスティニーがアロンダイトを振りかざす。レジェンドが回避が間に合わず、アロンダイトに左腕と左足を切り裂かれた。
 レイが毒づき、レジェンドがデファイアントを手にして振りかざして、デスティニーを引き離す。
 デスティニーが再び加速して、レジェンド目がけてアロンダイトを振り下ろす。レジェンドがデファイアントを振り上げるが、アロンダイトに刀身を切り裂かれた。
 その一瞬をレイが狙い、レジェンドがドラグーンをデスティニーの後ろに忍ばせ、ビームを発射した。
「ぐっ!」
 デスティニーが左肩を撃たれ、シンが衝撃に揺さぶられる。
「レイ・・オレがお前を止める・・オレの大事な仲間だから!」
 シンが声を振り絞り、デスティニーがアロンダイトを振りかざした。アロンダイトが残りのドラグーンを破壊して、レジェンドの胴体を切りつけた。
「ぐあぁっ!」
 コックピットにも爆発が起こり、レイが苦痛に襲われる。
「まだだ・・たとえ、刺し違えることになっても、オレはお前を・・・!」
 レイが声と力を振り絞り、レジェンドがデスティニーと組み付いた。
「シン、お前をメサイアに、議長の元へ連れていく・・・!」
「レイ・・!」
 鋭く告げるレイに、シンが緊迫を覚える。負傷しているレジェンドが、強引にデスティニーをメサイアに向けて押し込んだ。

 激化するメサイア近辺の激闘を、アンチェーンに搭乗しているヘクトが見届けていた。
(ついに実行に踏み切ったか、デスティニープランを・・)
 ヘクトがデスティニープランのことを考えて、目つきを鋭くする。
(誰かによって管理される世界は、人類を堕落させ破滅をもたらす・・たとえ別の世界であろうと、管理世界は破壊する・・・)
 彼はギルバートに対する敵意を抱いていた。
(阻む者は容赦なく討つ・・もちろんクロスも例外ではない・・・)
 ギルバートもクロスも敵と認識するヘクト。彼はアンチェーンを動かして、メサイアに向かった。
 
 
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