スーパーロボット大戦CROSS
第67話「虚飾の正義、破滅の自由」

 

 

 リカンツを宇宙へ上げることを、ペンギン帝王は決断した。
「いいんですか、帝王様?リッツだけを活かせるなんて~・・」
 マイケルがリカンツを心配して、ペンギン帝王に声を掛けた。
「リッツだけに任せてすまないと思うが、我々の中で宇宙に出ることができるのは、リッツを置いて他にはおらん・・・!」
 ペンギン帝王はリカンツへの信頼と、彼女を援護できない自分の無力さを実感していた。
「プラントのギルバート・デュランダルの出したデスティニープランというものは、我々ペンギンにとっても生きづらい世の中になるのは目に見えている。ダイミダラーやクロスに加担するのは腑に落ちんが、我々のためにも背に腹は代えられん・・・!」
「帝王様・・・その通りです!ペンギン帝国の自由な世界に、生き方を決められる管理社会などありません!」
 デスティニープランに反対するペンギン帝王に共感して、ジェイクが深々と頭を下げる。
(頼むぞ、リッツ・・我らの命運、お前に託すぞ・・・!)
 リカンツを心から信じて、ペンギン帝王は彼女の帰りを待った。

 サラマンディーネの焔龍號とヒルダのテオドーラが、アスランのジャスティスと激闘を繰り広げていた。
「もうやめろ!すぐに議長を止めなければ、オーブが討たれる!それだけじゃない!地球もプラントも、ただ生きているだけの世界になってしまうんだぞ!」
 アスランがサラマンディーネたちに向かって呼びかける。
「言ったはずです。それはミネルバのみなさんに任せると。あなたたちは私たちが粛清します。」
「あたしらの言い分も無視して自分勝手に攻撃を仕掛けておいて、正義の味方面をしてるのがムカつくんだよ!」
 サラマンディーネが言い返して、ヒルダがアスランに不満をぶつける。
「そこを通してくれ・・このままだと世界が・・・!」
「世界のため?自分たちのためとか、オーブのためとかじゃねぇのか?」
 焦りを募らせるアスランを、ヒルダが嘲笑する。
「自分たちのやっていることを、心の奥では正しいと思い込んでいるのです。表立ってそんな振る舞いをしているなら分かりやすいですが、あなたたちのように綺麗事で塗り固めているのはややこしいものですね・・」
「それでもキラたちは戦いを終わらせるために・・・!」
「彼らの力ずくで戦いを終わらせようとするやり方は、戦いを終わらせるどころか、戦火を拡大させる行為です。」
 反論しようとするアスランを、サラマンディーネが咎める。
「その現実に目を背け、言い訳を使って言い逃れをして、あくまで自分が正しいと、力と考えを押し付ける。ただのわがままですね・・」
 語っていく彼女が、肩を落としてため息をつく。
「でもわがままという点では、私たちは人のことは言えないでしょうね。あなたと戦っているのも、個人的な理由があるのも否めません。」
 サラマンディーネはさらに自分の本心を口にする。
「キラ・ヤマト、フリーダムに勝るとも劣らないアスラン・ザラ、ジャスティスと、私の操る焔龍號のどちらが上か、ハッキリさせたいと思っていましたので・・」
「そこはあたしも同じ気持ちだよ。こんなときだってのに、無性に白黒つけたくて仕方がない・・!」
 彼女の話を聞いて、ヒルダが共感する。
「2対1で納得いってないのはあたしらも同じだ。悪く思うなよ。」
「この状況で、自分たちのことを優先させるなんて・・・!」
 不敵な笑みを浮かべて言いかけるヒルダに、アスランが憤りを覚える。
 ジャスティスがビームサーベルを手にして加速する。テオドーラもビームサーベルを手にして、ジャスティスのビームサーベルとぶつけ合う。
 そこへ焔龍號が飛び込み、天雷を振り下ろしてきた。テオドーラとジャスティスが後退して、天雷をかわした。
 ジャスティスがもう1本ビームサーベルを手にして、2本の柄を合わせた。
「次は私が行きます・・!」
 サラマンディーネが言って、焔龍號がジャスティスに向かっていく。焔龍號とジャスティスが天雷とビームサーベルを振りかざし、互いの一閃が相殺される。
 テオドーラがワイヤーを射出して、ジャスティスの右腕に巻き付けた。
「逃がさねぇぞ、アスラン・・!」
 ヒルダが不敵な笑みを浮かべて、テオドーラがジャスティスの腕を引っ張る。ジャスティスがビームキャリーシールドからビームブーメランを手にして投げつけて、ワイヤーを切断した。
「くっ!」
 テオドーラが引き離されて、ヒルダが毒づく。
 ビームブーメランを手にしたジャスティスに向けて、焔龍號が天雷を振りかざしてきた。ジャスティスがビームサーベルとビームブーメランを交差させて、天雷を受け止めた。
 焔龍號とつばぜり合いをする中、ジャスティスがビームブレイドを発した左足を振り上げてきた。サラマンディーネが反応し、焔龍號が天雷を切り返してビームブレイドを受け止めた。
「ヤロー・・足癖が悪いぜ・・!」
「まさに全身武器ですね。遠距離主体のフリーダムと対を成すだけはありますね。」
 ヒルダがジャスティスに対して毒づき、サラマンディーネが冷静に分析をする。
「ですが、あなたたちよりもシンのほうが力は上ですし、もちろん私も負けることはありません。」
「1対1の勝負でもな。ま、急ぎの状況だ。わがままや贅沢もほどほどにしとかなくちゃな。」
 サラマンディーネが自信を見せて、ヒルダが笑みをこぼす。
「そんな考え方で・・そんな戦い方で・・戦いを終わらせられると思っているのか!?」
 怒りを覚えたアスランの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされ、ジャスティスが加速した。
 テオドーラがビームサーベルを掲げて迎え撃つが、ジャスティスの速い一閃でサーベルを弾かれた。
「速い・・!」
 ジャスティスの高速にヒルダが毒づく。
 焔龍號が晴嵐を手にして射撃するが、ジャスティスが素早く回避する。
(驚異的な身体能力の向上。コーディネイターの中でもほんの一部しか存在しない現象・・分かっているのは、シンとキラ・ヤマト、カガリ・ユラ・・アスハ、そしてアスラン・ザラ・・)
 シンたちに秘められた力についての分析を思い返すサラマンディーネ。
 ジャスティスが高速で突っ込み、焔龍號にビームサーベルを振り下ろす。焔龍號が後ろに下がってかわすが、ジャスティスは直後に右足のビームブレイドを振りかざしてきた。
 焔龍號が回避しきれず、晴嵐がビームブレイドに切り裂かれた。
「サラ!」
 追い込まれたサラマンディーネに、ヒルダが叫ぶ。テオドーラがビームライフルを撃って、ジャスティスを焔龍號から引き離した。
「大丈夫か、サラ!?」
 テオドーラが焔龍號に近づき、ヒルダが心配の声を掛ける。
「ヒルダさん・・あなたも省略しましたね、私の名前を・・」
「・・そんな口を叩けるなら、余計なお世話だったな・・・」
 サラマンディーネとヒルダが笑みをこぼして、ジャスティスに視線を戻す。
「アスランを討つには、収斂時空砲を確実に当てなければなりません。そうでなければ、私たちが勝利することはできません・・」
 サラマンディーネがアスラン打倒の策をヒルダに伝える。
「しかし撃つまでが隙だらけになっちまうじゃねぇか・・・!」
「なのでその間、ヒルダさんだけにアスランの相手をさせてしまうのですが・・」
「・・ったく、いい性格してやがるぜ・・・」
 サラマンディーネにアスランの相手を任せ切りにされて、ヒルダが肩を落とす。
「いいぜ・・やってやるよ・・けどしくじったら許さねぇからな。」
「もしそうなったら、私は私を許せなくなりますね。」
 言い返すヒルダに、サラマンディーネが笑みをこぼした。
「いいぜ・・乗ってやるよ・・この大勝負にな・・!」
 ヒルダが笑みを見せて、テオドーラがジャスティスの前に出る。
「さぁ、タイマン張らせてもらうぜ!」
 テオドーラがラツィーエルを構えて、ヒルダが言い放つ。
「まだこんな戦いを続けるつもりか・・・!?」
 アスランが憤りを募らせ、ジャスティスがビームサーベルとビームキャリーシールドを構えた。
 テオドーラが飛び出して、ラツィーエルを振りかざした。ジャスティスが素早くかわすが、テオドーラはラツィーエルで攻め立てていく。
 ジャスティスがビームキャリーシールドでラツィーエルを受け止めて、ビームサーベルを振り下ろす。テオドーラが後退してかわすが、ジャスティスは即座に右足のビームブレイドを振りかざしてきた。
 テオドーラがラツィーエルを掲げて、ビームブレイドを止める。しかし勢いを止めきれず突き飛ばされる。
 テオドーラが踏みとどまるが、ヒルダがアスランの操縦とジャスティスの力に毒づく。
(お願いします、ヒルダさん・・あなたのことを信じています・・・!)
 サラマンディーネがヒルダを信じて、詠唱をしていく。焔龍號が収斂時空砲を起動して、エネルギーを集めていく。
 テオドーラとジャスティスがビームライフルを手にして、ビームを連射する。両者の射撃の1つがぶつかり合い、火花のような閃きが起こった。
 次の瞬間、ジャスティスが背部からリフター「ファトゥム01」を射出した。
「何っ!?」
 ヒルダが驚き、テオドーラがラツィーエルを掲げてファトゥムを受け止める。ファトゥムは切り裂いたが、同時にラツィーエルも刀身が折れた。
「やべぇ!」
 ヒルダが声を荒げると、ジャスティスがテオドーラに向かってきた。テオドーラもスピードを上げて、ジャスティスから逃げていく。
「もうよせ!こんな戦いをしても何もならない!」
 アスランがヒルダたちに向けて呼びかける。
「一刻も早くデュランダル議長を止めなければ、全ての未来が壊れることになる!君たちはそれでもいいのか!?」
「何度も同じこと聞いてんじゃねぇよ!議長はグラディス艦長が何とかするから、テメェらは安心してくたばりやがれ!」
 問い詰めてくるアスランに、ヒルダが不満をぶつける。
「自分のやることは全部正しいみてぇなことして・・そんなのに振り回されんのは、もうウンザリなんだよ!あたしもアンジュもみんなも!」
「そこまで・・そこまで自分の道を進もうというのか・・・!?」
 怒号をぶつけるヒルダに、アスランも憤りを噛みしめる。
「おめぇらも自由だ正義だくちにしながら、結局全部にそれを押し付けるご都合主義だったわけだ・・・!」
 ヒルダが不敵な笑みを浮かべて、アスランを嘲る。
「確かに今回のキラはそう間違ってしまった・・でもそのことを反省して、本気で議長を止めようと・・!」
「今さら遅ぇんだよ!勝手に反省して、勝手にまた行動を起こしてもな!」
 必死に呼びかけるアスランだが、信用しないヒルダに一蹴される。
「くだらねぇことをゴチャゴチャ言ってねぇでかかってこいよ!ただぶつかり合うほうがまだマシだ!」
 ヒルダが言い放ち、テオドーラが折れたラツィーエルを構える。
「ヒルダさん、アスランを押さえてください!」
 そのとき、サラマンディーネがヒルダに向けて呼びかけてきた。焔龍號が収斂時空砲の発射準備を整えた。
「こんな状態だってのに、ムチャな注文しやがるぜ・・・!」
 ヒルダが皮肉を口にするも、サラマンディーネの声を聞き入れた。
「こっちもギリギリだからな・・やってやるぜ、最後の大勝負!」
 ヒルダが覚悟を決めて、テオドーラがジャスティスに向かっていく。
 ジャスティスがビームサーベルとビームブーメランを振り下ろし、テオドーラがラツィーエルで受け止めた。押されそうになるテオドーラが、力を込めて踏みとどまる。
 そのテオドーラに向けて、ジャスティスが右足のビームブレイドを振りかざしてきた。
「くそっ!」
 ヒルダが毒づき、テオドーラがとっさに左足を上げた。左足をビームブレイドに切り裂かれたが、テオドーラは降下するようにジャスティスから離れた。
「今だ、サラ!」
 ヒルダが叫び、サラマンディーネがジャスティスをじっと見据える。焔龍號が収斂時空砲を発射して、ジャスティスが砲撃に巻き込まれた。
「しまった・・動きを止められた・・・!」
 ヒルダに足止めされたことが致命的になったと、アスランが痛感した。ジャスティスが砲撃の中で爆発を起こしていく。
(キラ・・ラスク・・・カガリ・・・)
 カガリたちのことを思うアスランが、ジャスティスの爆発と光の中に消えた。
「や、やった・・危ねぇとこだった・・・」
 危機一髪を実感して、ヒルダがひと息ついた。
「しかし、本当に強い相手でした。あなたも私も、1対1で戦いに挑んでいたら負けていたでしょう・・」
「そんな相手にここまで足止めできたってことかよ・・・」
 サラマンディーネがアスランの力を称賛して、ヒルダが苦笑した。
「さてと・・早くロザリーたちに追いつかねぇと・・といっても、あたしは1回オルペウスに戻んなきゃいけねぇけどな・・」
「みなさんのことは私に任せてください。ここは宇宙。少しのケガでも命取りになりかねません。」
「分かったよ・・けど、応急措置を済ませたら、すぐに戻ってくるからな・・!」
「はい。」
 オルペウスに戻ることを決めるヒルダに、サラマンディーネが笑みを浮かべる。テオドーラと焔龍號はオルペウスを追いかけた。

 ハーケンたちのドムに翻弄されていく蒼龍號と碧龍號。決定打を与えられず、ナーガとカナメは焦りを噛みしめていた。
「このような相手に手を焼くことになるとは・・・!」
「連携がうまいだけだよ!それを乱せば何とかなるよ!」
 毒づくナーガをカナメが励ます。
「いいか、ヤローども!一気に決めるよ!」
「おうよ!」
「了解だ!」
 ハーケンが檄を飛ばし、マーズをヘルベルトが答える。ドムたちがスクリーミングニンバスを起動する。
「ジェットストリームアタック!」
 ドムたちが蒼龍號たちに向かって加速する。ドムたちは接近したところで散開して、突撃を仕掛ける。
「ぐっ!」
「うわっ!」
 蒼龍號と碧龍號がドムに突撃されて、ナーガとカナメがうめく。
「いつまでも私をなめるな!」
 ナーガがいら立ちながらも、ドムの動きを見計らう。蒼龍號がドムの1機に向けて、天雷を振りかざした。
「ぐあっ!」
 ドムが左肩を天雷で叩かれて、ハーケンが揺さぶられる。
「ヒルダ!」
 マーズとヘルベルトがハーケンに向けて叫ぶ。
「もらった!」
 ナーガが言い放ち、蒼龍號がハーケンのドムに向けて天雷を振りかざした。
「どけ、ヒルダ!」
 そこへマーズのドムが飛び込み、ビームサーベルを手にしながらハーケンのドムを横に突き飛ばした。ドムのビームサーベルが一閃を防いだが、天雷に押されていく。
「マーズ、離れろ!」
「マーズ!」
 ハーケンが指示を出し、ヘルベルトのドムがマーズの加勢に向かう。だがその間に碧龍號が割って入ってきた。
「あなたの相手は私よ!」
「そこをどけ!」
 カナメが言い放ち、ヘルベルトが憤りを覚える。彼のドムがビームバズーカを発射するが、碧龍號に素早くかわされる。
「おのれ!」
 ヘルベルトが毒づき、ドムがビームバズーカを発射した。碧龍號が砲撃をかわして、直後に天雷を投げつけた。
 ビームバズーカが天雷を突き立てられ、ドムの手元から離れた。
「しまった!」
 ヘルベルトが驚愕した瞬間、碧龍號が瑞雲を手にして発射した。
「ぐあぁっ!」
 ドムが胸を貫かれ、ヘルベルトが爆発に巻き込まれた。
「ヘルベルト!」
 ヘルベルトが討たれ、マーズが叫ぶ。
「おのれ、小娘どもが!」
 マーズが激高し、ドムが加速して突っ込み、ビームサーベルを振りかざす。しかし蒼龍號に素早くかわされる。
「剣で私を上回るのは、サラマンディーネ様だけだ!」
 ナーガが言い放ち、蒼龍號がすれ違いざまに天雷でドムを切り付けた。
「ぐおぉっ!」
 斬られたドムが爆発して、マーズがその閃光の中に消えた。
「マーズ!ヘルベルト!」
 ハーケンがマーズたちに叫び、蒼龍號たちに怒りを覚える。
「テメェら、絶対に生かしちゃおかないよ!」
 ハーケンが叫び、ドムが負傷したまま蒼龍號に突っ込む。
「お前たちでは、剣では私に勝つことはできないぞ・・!」
 ナーガが言い返し、蒼龍號が天雷を掲げて、ドムのビームサーベルを受け止めた。
「あたしらはラクス様のために、命を賭けて戦う!たとえそれでくたばることになってもな!それはアイツらも同じだ!」
「お前たちも、主のために全てを捧げてきたのか・・・!」
 ラクスのために尽力するハーケンに、ナーガが心を揺さぶられる。
「ラクス様の邪魔はさせない・・ラクス様のために、おめぇらをブッ潰す!」
 ハーケンが言い放ち、天雷を押し切った。
「まずはお前からだ!マーズの仇!」
 ハーケンが怒りを込めて、ドムがビームサーベルを突き出した。
「ぐっ!」
 蒼龍號が左肩をビームサーベルで貫かれ、ナーガが衝撃に揺さぶられる。
「お前が主のために尽力するように・・私もサラマンディーネ様のために、全てを賭ける!」
 ナーガが痛みに耐えて、蒼龍號も天雷を突き出した。ドムの胴体が天雷に貫かれた。
「ぐあぁっ!・・・マーズ・・ヘルベルト・・・!」
 コックピットにも爆発が及び、ハーケンが激痛を覚える。彼女が動かすドムが、両手で蒼龍號の腕をつかんだ。
「あたしは・・あたしらは・・・ラクス様のために・・・!」
 ラクスへの忠誠心を貫くハーケンが、爆発するドムと共に消えた。
「まさか、ここまで手傷を負わされるとは・・・」
 ナーガが苦戦したことに悔しさを覚えて、蒼龍號が肩からビームサーベルを引き抜いた。
「それだけ向こうの気迫がすごかったってことだね・・」
 碧龍號が蒼龍號に近づいて、カナメが苦笑いを浮かべる。
「それでも、私が未熟であることに変わりはない・・また修行をやり直さなければ・・・!」
「そのためにも、この戦いを生き延びないといけないわね。」
 自分の力のなさを痛感するナーガを、カナメが励ます。
「サラマンディーネ様もすぐに追いつくだろう。しかし私たちは先を急ごう・・」
「急ぎの用だからね。攻め手が多いに越したことはないわ。」
 ナーガとカナメが声を掛け合い、蒼龍號と碧龍號がミネルバを追った。

 フリーダムが手にしているビームライフル2つを連射する。ヴィルキスとクレオパトラが素早くビームをかわす。
「どいてくれ!早くしないと地球が・・オーブが討たれる・・!」
「それでアンタの思い通りにさせると思っているの?」
 キラが呼びかけると、アンジュは嘲笑を投げかけてきた。
「結局アンタも、自分の力に酔っているだけなのよ。自分の考えを力と一緒に押し付けて・・それなのに綺麗事や言い訳で自分を正当化する・・とんだ正義の味方様よね・・」
「それは違う!僕は本当に・・!」
 アンジュに反論しようとするキラ。
「違うって・・アンタ自身がそう思い込んでいるだけなのに・・・アンタがちょっかい出してきたせいで、こっちは面倒事が増えたのよ・・迷惑ったらないわ・・・!」
「愚痴になっているわよ、アンジュ・・まぁ、私もフリーダムには不満が多いけどね・・」
 文句ばかり言うアンジュに、サリアが呆れた素振りを見せる。
「アンタたちと手を組むつもりは全くない・・デュランダル議長もだけど、アンタたちのことを信用できない!」
「どうしても戦おうとするなら・・僕も、戦う!」
 不信感を示すアンジュに、キラが言い返す。彼の中で何かが弾け、感覚が研ぎ澄まされた。
「また自分勝手なことを言って・・!」
 アンジュが苛立ち、ヴィルキスがアサルトライフルを発射する。フリーダムが高速で動き、射撃をかわした。
「スピードが上がり、動きが鋭くなった・・!」
 サリアがフリーダムの動きを見て息をのむ。
 フリーダムが2つのビームライフルを構えて、同時に発射する。ヴィルキスもクレオパトラも回避が間に合わず、ビームシールドでビームを防いだ。
 フリーダムは次にドラグーンを射出して、展開してビームを発射した。
「回避よ!」
 サリアが呼びかけ、クレオパトラがヴィルキスと共に飛び交うビームをかいくぐる。
「うっ!」
 しかしヴィルキスたちにビームが当たり、アンジュとサリアがうめく。
「このくらい、ヴィルキスには遅いくらいよ!」
 アンジュが言い放ち、ヴィルキスがスピードを上げてビームをかいくぐる。詰め寄ってきたヴィルキスにキラが目を見開き、フリーダムがビームサーベル2本と持ち替えて振りかざす。
 ビームサーベルはヴィルキスを斬った。しかしそれは残像で、すぐに消えた。
 その直後、ヴィルキスがフリーダムの左上後方に回り込み、ラツィーエルを振り下ろそうとした。その瞬間、ドラグーンからのビームが飛び、アンジュが反応してヴィルキスが回避した。
「あれだけの数の攻撃をかわすには、私もヴィルキスと同じくらいのスピードを出さないといけない・・・!」
 ヴィルキスとフリーダムの戦いを見て、サリアが焦りを覚える。
「クレオパトラも、ヴィルキスと同じラグナメイルなら、あなたも変化できるはず・・・!」
 彼女がクレオパトラに意識を傾ける。
「もっとスピードを上げなさい、クレオパトラ!あなたならできるはずよ!」
 サリアが怒鳴り、握った両手をコックピットに叩きつけた。そのとき、彼女の付けている指輪が輝き出した。
「私の指輪が・・・アンジュの指輪のように光った・・・!」
 サリアが指輪を見つめて戸惑いを覚える。
 次の瞬間、クレオパトラの胴体の青が濃くなった。ヴィルキス同様、アリエルモードへと変化したのである。
「クレオパトラ・・・行くわよ!」
 サリアが笑みを浮かべて、クレオパトラがフリーダムに向かって動き出した。その間にもヴィルキスとフリーダムは激しい撃ち合いを繰り広げていた。
「スピードばかりじゃ埒が明かない・・こうなったら一気に吹っ飛ばして・・・!」
 アンジュが思い立ち、ヴィルキスがディスコードフェイザーを起動させた。その瞬間をキラが見逃さず、フリーダムがレールガンでディスコードフェイザーを射撃した。
「くっ!・・アイツ・・!」
 1番の決め手を攻撃されて、アンジュが苛立ちを募らせる。
「討たせないで・・これ以上、こんな戦いをしないで・・・!」
 キラが歯がゆさを感じて、アンジュを呼び止める。
「ふざけた戦いを続けてるのに、まだそんな勝手なことを・・!」
 アンジュがキラに対する不満を膨らませる。
 ヴィルキスが破損したディスコードフェイザーを格納して、フリーダムに向かって高速で突っ込む。フリーダムとドラグーンがビームを連射して、ヴィルキスの突撃を阻む。
「こうなったら、力押しで・・・ヴィルキス!」
 アンジュが叫ぶと、ヴィルキスが赤く変化してミカエルモードになった。力を上げたヴィルキスが、フリーダムに向かっていく。
 フリーダムがレールガンとドラグーンを発射する。ヴィルキスがラツィーエルでレールガンのビームを弾き、ドラグーンのビームをものともせずに突き進む。
 しかしヴィルキスが振り下ろしたラツィーエルは、フリーダムに素早くかわされた。
「今度はスピードが・・当たれば確実に真っ二つにできるのに・・・!」
 フリーダムに追いつけなくなっていることに、アンジュが不満を募らせる。ミカエルモードになって攻撃力を上げたヴィルキスだが、アリエルモードほどのスピードは出せない。
「どっちも・・どっちの力も出しなさいよね!」
 アンジュが文句を言いながら、ヴィルキスに強引にスピードを出させる。しかしフリーダムに追いつくことができない。
「これであの機体を止める・・・!」
 キラがドラグーンを戻して、全ての銃砲を展開して一斉に発射した。アンジュが焦るあまり、ヴィルキスは回避が間に合わない。
 そのとき、ヴィルキスの姿がビームに当たる前に、フリーダムの前から姿を消した。目を見開いたキラが視線を移す。
 クレオパトラが高速で飛び込み、ヴィルキスを連れて移動していた。
「サリア!・・そのラグナメイルの色・・!」
 アンジュがクレオパトラを見て声を荒げる。
「クレオパトラも変化したのよ。ヴィルキスのようにスピードが上がったわ。」
「同じラグナメイルだからなのかしらね・・」
 サリアが説明をして、アンジュがため息混じりに答える。ヴィルキスとクレオパトラがフリーダムと距離を取ったところで1度止まった。
「私がフリーダムを追い込むわ。アイツを倒す決め手を使うのでしょう?」
「私とヴィルキスもやるわよ。あなたに任せてばかりで、最後のおいしい所だけ持っていく持ち上げ方をされるのは、いい気がしないからね・・」
 サリアが提案するが、アンジュは聞かずに自分も戦おうとする。
「でも今のヴィルキスだと、フリーダムに追いつけないわよ・・」
「だから、ヴィルキスの力を全部引き出すだけよ・・」
「そんなことができるの・・!?」
「できないならやらせるまでよ・・!」
 サリアからの疑問に、アンジュが不満げに言い返す。
「相変わらず強情ね・・やれるものならやってみなさい!私がフリーダムにとどめを刺す前にね!」
 サリアがアンジュに対して笑みを浮かべて、クレオパトラがヴィルキスを置いてフリーダムに向かっていく。
「ヴィルキス・・こう言われて何もしなかったら、情けないままおしまいよ!持てる力を全部出しなさい!」
 アンジュが怒鳴り声を上げて、ヴィルキスのコックピットに両手を叩きつけた。
 次の瞬間、ヴィルキスの胴体がまばゆい光に包まれた。ヴィルキスの姿が白を基調としたものとなり、赤いラインが入った。
「ヴィルキス・・その姿・・全ての力を発揮したってことね・・・!」
 アンジュがヴィルキスが真の力を発揮したと確信して、笑みをこぼした。彼女は高速で攻め立てるクレオパトラと、攻撃をかいくぐるフリーダムに目を向けた。
 フリーダムがドラグーンを連射するが、クレオパトラが短距離の空間移動を行い、ビームをかいくぐる。
「ランガのように時間を超えるまでじゃないけど、空間を超えることができる・・・!」
 今のクレオパトラの能力を実感するサリア。クレオパトラが次々に空間を飛び越え、フリーダムを翻弄していく。
 クレオパトラが空間移動を伴ってのビームライフルの射撃を仕掛ける。その連射はドラグーンによる全方位攻撃に勝るとも劣らない。
 クレオパトラがフリーダムの背後を取り、ラツィーエルを振り下ろした。キラが反射的にフリーダムを動かし、ラツィーエルを紙一重でかわした。
「この動きを読んで反応するなんて・・!」
 サリアがフリーダムの動きに毒づく。
「でももう私は、誰かにいいようにされるのはまっぴらなのよ・・・エンブリヲにも・・あなたにも・・!」
 彼女はキラに対しても敵意を向けた。
 フリーダムがビームサーベルを振りかざし、クレオパトラを追っていく。空間移動を繰り返すクレオパトラだが、フリーダムの死角に回れない。
「これでもフリーダムを討てないというの・・・!?」
「思っていたよりも手こずっているじゃない・・」
 焦りを噛みしめたサリアに、アンジュが声を掛けてきた。ヴィルキスがクレオパトラの横に来た。
「アンジュ!・・ヴィルキスのその姿・・・!」
「全部の力を引き出せたってことよ。」
 驚きを浮かべるサリアに、アンジュが微笑んで答える。
「ここからは私がやらせてもらうわよ・・!」
「スピードは負けはしないわよ・・!」
 アンジュとサリアが意地の張り合いをして、ヴィルキスとクレオパトラが同時にフリーダムに向かっていく。
 フリーダムがビームライフル2つを持って、ヴィルキスとクレオパトラに向けて射撃する。しかし空間を超えるヴィルキスたちに回避されていく。
「私たちは誰かに囚われることなく生きていく・・だから議長だけでなく、あなたたちの考えにも納得できないのよ!」
 クレオパトラが高速でビームライフルを撃って、サリアがキラに自分の意思を言い放つ。
「でもだからって、こんな戦いをするのは間違っている!」
「好き勝手に暴れておいて、まだそんなふざけたことを!」
 言い返すキラに、アンジュが怒鳴り返す。
「自分のしていることが正しいと思い込んで、周りの言っていることや考えをまるで知ろうとしない・・知ったと思い込んでね・・だから自分の過ちを正そうとしない・・そういう意味じゃ、エンブリヲと大差ないわ・・」
「違う!僕は・・!」
「違うと思うなら、ちょっとは他の都合も考えてもらいたいわね・・自分の力に溺れて何でもできると思い込んで・・それがあなたの本性なのよ・・・!」
 否定しようとするキラに、サリアが言い返す。
「エンブリヲの思い通りにならない・・タオにもデュランダル議長にも従わない・・アンタの好きにもさせない!」
「みんなが安心して生きていけなくなるかもしれないのに・・僕は、戦いを終わらせたいだけなのに・・・!」
「そのみんなって誰のこと?世界中のみんなのこと?それともアンタが守りたいと思っている人だけ?」
「それは・・!」
 挑発的な態度を見せるアンジュに、キラが必死に言い返そうとする。
「綺麗事ばかりのアンタなんかより、たとえ変態でも、タスクの方が100億倍マシよ!」
 アンジュが言い放ち、ヴィルキスが高速で突っ込んでラツィーエルを振りかざす。フリーダムがビームサーベルを振りかざすが、高速のラツィーエルに2本とも弾かれた。
 フリーダムがヴィルキスから離れて、残りの全ての銃砲を展開して、キラが狙いを定める。彼はヴィルキスだけでなく、クレオパトラにも狙いを向けていた。
「どっちにも撃とうとしているわよ!」
「力と速さで突き進むだけよ!」
 警戒を覚えるサリアだが、アンジュは真正面から打って出ることを決める。
 フリーダムが一斉にビームを発射した。その瞬間、ヴィルキスから光があふれ出し、威力のあるビームが弾かれた。
「そ、そんな!?」
 フリーダムの攻撃を跳ね返され、キラが目を見開く。
 ヴィルキスがフリーダムの眼前まで迫り、ラツィーエルを振りかざす。フリーダムが上昇するが、一閃をかわせずに左足を切り落とされた。
 フリーダムが直後にレールガンを発射する。クレオパトラが空間移動をしながらビームライフルを連射して、フリーダムのビームを打ち消した。
「もうあなたたちに勝ち目はないわ!」
「大人しく討たれなさい!」
 サリアとアンジュが言い放ち、クレオパトラとヴィルキスが連続でラツィーエルを振りかざす。フリーダムの体が切り刻まれていく。
「僕には・・僕たちには・・守りたいものがあるんだ!」
 キラが力を振り絞り、フリーダムが残された銃砲を発射しようとする。
「消えなさい!私たちの前から!」
「そのふざけた態度を2度と見せないで!」
 サリアとアンジュが言い放ち、クレオパトラとヴィルキスがラツィーエルを突き出した。ラツィーエルはビームを切り裂いて、フリーダムの胴体を貫いた。
「ぼ・・僕は・・まだ・・・!」
 爆発が及ぶコックピットの中で、キラが声を振り絞り前に手を伸ばす。
「アスラン・・カガリ・・・ラクス・・・!」
 アスランたちのことを思うキラが、煌めいた光の中に消えた。ラツィーエルを引き抜かれたフリーダムが、ヴィルキスたちから離れながら爆発した。
「結局、2人でとどめを刺すことになったわね・・」
「性格はともかく、力はかなりあったってわけね・・・」
 フリーダムの散華を見つめて、サリアとアンジュがひと息ついた。
「私たちは生きていく・・キラ・ヤマトとは違う、本当の自由を・・・」
「私たちやヒルダたちだけじゃなく、クロスの人みんな思っているはずよ・・・」
 アンジュとサリアが自分たちの意思で生きていくことを口にした。
「私は先に行くわ。シンはきっとレイの相手にかかりっきりだから、私が議長に話をつけてくるわ・・」
 アンジュがサリアに言って、ヴィルキスがメサイアに向かった。
「待ちなさい、アンジュ!」
 サリアが怒鳴って、クレオパトラがヴィルキスを追いかけた。
 
 
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