スーパーロボット大戦CROSS
第64話「決別」

 

 

 カナタたちクロスとタリアはギルバートが導入を宣言したデスティニープランの拒否を示した。タリアはシンたちに今後の動向についての意思決定を告げた。
 選択と支度のためにタリアが設けた1時間が過ぎた。ミネルバを離れてプラントへ向かうことを決めたのは、レイだけだった。
「まさか、レイ以外みんな残るなんて・・・」
「レイのヤツ、デュランダル議長のことを心から信じていたみたいだからな・・だけどまさか、レイ以外のオレたち全員が、議長に逆らおうって思うなんてな・・」
 ヴィーノとヨウランが遠くからレイを見て、深刻な面持ちを浮かべる。
「デスティニープランには納得がいかないよね・・他の人の言うことにただ従うだけの生き方なんて・・」
 メイリンもデスティニープランへの疑念を持っていた。
「逆らえば抹殺される・・これじゃ独裁政治じゃないか・・・」
「それを議長がやっちゃうなんて・・・」
 ヨウランが困惑して、ヴィーノがギルバートに対して苦悩する。
「オレたち、議長やレイと戦うことになるのかな・・・?」
「最悪、他のザフトみんなともな・・だけど、ザフトやプラントの全員が納得しているわけじゃない・・そんな気がするんだ・・」
 ヴィーノが不安を浮かべて、ヨウランが自分の考えを口にする。
「どういうこと?他の部隊も、私たちみたいに議長に逆らうってこと・・?」
「それは分からないけど・・・」
 メイリンの問いかけに、ヨウランが言葉を返す。
「お姉ちゃんとシンは、どう思っているのかな・・・?」
 メイリンがルナマリアたちのことを気にする。
「2人も迷ってたけど、結局、反対のほうについたな・・レイのことで悩んでるはずだ・・・」
 ヨウランも2人のことを考えて肩を落とした。

 レイとギルバートではなく、タリアたちやカナタたちにつくことを決めたシン。ギルバートの平和を目指す思想には賛成していたが、デスティニープランは受け入れることができなかった。
「レイと一緒に行かなかったんだね、シンは・・」
 ルナマリアが来て、シンに声を掛けてきた。
「オレ、議長があんな計画を出してきたのが信じられなかった・・そうしたら、このまま議長についていっていいのか、分からなくなって・・・」
 シンが正直な気持ちをルナマリアに伝える。
「デスティニープランに頼らなくても、戦いのない世界を作れるんじゃないか・・カナタたちと一緒に戦ってきて、そう思えてきたんだ・・」
「シン・・・私も、自分で思ったように生きられなくなるのはイヤだって思えて・・・」
 シンの言葉を聞いて、ルナマリアも自分の思いを口にした。
「いいことだけじゃなく、悪いことや辛いこともたくさんあったけど、自分で考えて戦ってきたのは間違いない。」
「自分で考えて戦ってきた・・・そうだ・・オレも考えて軍に入って、ここまで来た・・・」
 ルナマリアの心境を聞いて、シンは自分の戦う理由を思い返す。
「強くなる機会をくれた議長には感謝しているけど・・だからこそ、ただ言いなりになるしかないやり方は、やめさせなくちゃいけないんだ・・・」
「シン・・・」
 シンの決意を聞いて、ルナマリアが戸惑いを覚える。
「オレはこれからも戦う・・戦いのない世界、支配を強いられない世界が生まれるまでは・・・」
「シン・・・私もまだ何が正しいのか分からないけど、やれるだけのことはやっていくつもり・・・」
 これからのことを言って、シンとルナマリアが優しく抱きしめ合う。2人一緒なら、みんなと一緒なら戦えると、彼らは思っていた。

 レイだけがプラントに戻ることになり、彼はシャトルではなく、レジェンドに乗って出発することになった。
 レイの見送りにタリアとアーサーだけでなく、海潮と夕姫、カナタとラブも来ていた。シンとルナマリアもレイの前に来た。
「レイ・・・」
 シンがレイを見て困惑する。
「レイ、私たちはデスティニープランにはどうしても賛成できない。でも、デュランダル議長の作る世界が、レイにとっての楽園なんだね・・」
 海潮がレイに向けて言葉を投げかける。一瞬戸惑いを覚えるレイだが、すぐに無表情に戻る。
「確かに楽園と呼べるものだ。だがお前たちも、議長の築く楽園の実現を阻もうとしている・・」
「レイ、お前は言いなりになるだけの世界でいいのか!?議長がよければ何でも従うのかよ!?」
 海潮たちに敵意を見せるレイに、シンが呼びかける。
「シン、オレはお前を許さない・・議長を裏切ったお前たちを・・・!」
 レイはシンに怒りを向けてから、1人レジェンドに乗り込んだ。レイに憎まれて、シンは言葉が返せなかった。
「シン・・・レイ・・・」
 ルナマリアも動揺を浮かべて、シンから飛び去っていくレジェンドに目を向けた。
「これでプラントからの援助もパアね・・」
「でも今まで貯めた資金があるから、しばらくはこれで生計を立てられるけどね・・」
 夕姫がこれからのことを悲観するが、魅波は前向きに考えようとしていた。
「海潮・・お前の考えてる楽園は、戦いのない世の中だと思うか・・・?」
 シンが困惑したまま、海潮に質問した。
「戦いがないって、ハッキリと言い切れない・・でも、誰にも支配されないのが楽園だと思っている・・」
「誰にも支配されない・・だから、デスティニープランによる管理された世界は楽園じゃないと思っているのね・・」
 海潮の答えを聞いて、ルナマリアが共感する。
「私も支配されたり、一方的に振り回されたりするのは勘弁だからね・・不本意だったけど、これで議長と決別したって言えたからよしとしておくわ・・」
 夕姫がギルバートのことを考えて、肩を落とした。
「私たちの考えを伝えておかなくちゃならない相手は、他にもいるわ。」
 そこへアンジュがサラマンディーネと共に来て、シンたちに声を掛けてきた。
「考えを使えないといけない相手って・・・まさか・・!?」
「そうです。あなたたちやクロスにも攻撃の矛先を向けてきたアークエンジェルとフリーダム・・今はクライン派というべきでしょうか。」
 ルナマリアが聞いて、サラマンディーネがキラたちのことを告げる。
「彼らは戦場に乱入し、連合軍やザフトに攻撃を仕掛けてきました。彼らもデスティニープランに反対する可能性が高いでしょう。」
「敵が同じになったから、今度は味方になるってこと?」
 推測を巡らせるサラマンディーネに、アンジュが口を挟む。
「それは冗談じゃないわ。勝手に出てきて勝手に攻撃して、それで謝りもしないなんて、最低じゃない・・」
「でも、話せる機会があるなら、話をした方がいいと思う・・お互いを知ることができれば、違う方法が見つかるかもしれない・・」
 アンジュがキラたちへの不満を口にすると、海潮が深刻な面持ちで自分の考えを言った。
「話し合えば仲直りできるっていうの?」
「そうなるには、向こうのやっていることと態度があまりにも悪すぎるわよ・・」
 アンジュと夕姫がキラたちへの不信感を示す。
「1度ミネルバに戻るわ。アークエンジェル、オーブ、エターナル。向こうの陣営の動向の把握はしておきたいわ。」
 タリアがキラたちの動きを知ることを考える。
「グラディス艦長・・分かりました。」
 ルナマリアが頷いて、タリアと一緒にミネルバに向かう。
「シン、行こう・・」
「気持ちを切り替えたほうがいいよ・・」
 カナタとラブに励まされて、シンが小さく頷いた。3人とアンジュたち、海潮たちもミネルバへ行った。

 タリアたちが戻ったとき、メイリンが報告をした。
「グラディス艦長、本艦に通信が入っています・・」
「通信・・もしかして・・・」
 メイリンの言葉を聞いて、タリアはアークエンジェルのことを考えた。
「孝一くんたちも来ているわね・・・私がまず応答するわ。」
 孝一たちもミネルバの指令室にいたのを確かめてから、タリアは通信に応じた。
 指令室のモニターに映されたのは、キラたちだった。
「あなたたちからでしたか、ラミアス艦長。」
“お久しぶりです、グラディス艦長。”
 タリアとマリューが真剣な面持ちで声を掛け合う。
“デュランダル議長のデスティニープラン導入の知らせも、あなた方がこれに反対の意思を示したことも知っています。”
「情報収集が早いですね。先ほどの私たちと議長の通信を傍受していたようね。」
 マリューの言葉を聞いて、タリアが肩を落とす。
「私たちの状況を把握していると見て聞きます。私たちに連絡してきた目的は何ですか?」
 タリアがマリューから話を聞く。
“グラディス艦長、私たちもデスティニープランに反対しています。それ以前に、デュランダル議長に対する疑念を感じていました。”
 マリューが自分たちの考えをタリアに伝える。
“私たちとラクスさんはある日、襲撃を受けました。その犯人はコーディネイターだったのです。”
「それだけで議長を疑いに?それは早計ではないですか?」
“確かにそれだけでは不十分です。ですが私たちの知らない間に、議長の反対派が暗殺されているのも事実です。”
「それで行動を起こして・・しかし、あなたたちのそれからの行動には、疑問を感じざるを得ません。」
 事情を話すマリューだが、タリアが不信感を示す。
「あなたたちは戦いに乱入し、一方的な攻撃を仕掛けた。武装の破壊に留めて自分たちはパイロットの命を奪わないようにしてきたけど、それでは戦いを止めるどころか、戦況を悪化させただけよ・・」
「おかげでこっちまで被害が出る始末・・それで全く反省しない態度を見せられたんじゃ、仲直りできるわけがないじゃない・・」
 恭子とアンジュもマリューたちの行動に対して、疑念と不満を見せる。
“そうなのかもしれない・・でも僕たちは、そうならない道を選ぶことができるんだ。それが許されるなら・・・”
 キラが深刻な面持ちで言葉を返す。
「許される?散々勝手なことして許してもらえると思うなんて、とんだ自惚れね・・」
 彼の返事に夕姫も不満を覚える。
「自分が正しいと言うような行動。それもだけど、自分のしていることを棚に上げて被害者面しているのが、余計に腹立たしくなるのよ・・」
「話し合えば分かり合えると思っていたけど・・あなたたちは私たちや他の人の言うことを聞こうとしない・・それじゃ理解するなんてできないよ・・・」
 魅波も海潮もキラたちへの批判を口にする。言葉を交わさずに一方的に攻撃を仕掛けるキラと、海潮たちも話し合いを持ちかけることができなかった。
“でも僕たちは知っている・・分かっていけることも、変わっていけることも・・明日が欲しいから、議長の世界には賛成できない。どんなに苦しくても、変わらない世界はイヤなんだ・・・”
 キラが言い返して、自分の考えを口にする。
「ここまで来て自分の考えをただ押し付けようとする・・最低ね、あなた・・・!」
 考えと態度を改めない彼に、アンジュがため息をつく。
「そうやって言い訳ばっかで、自分のやってることにかっこがつかねぇんじゃ、オレたちはアンタたちを信用できねぇな!」
「他の人の事情を聴かずに、一方的に攻撃して痛めつけるのは、悪い人のすることです!」
 孝一も霧子もキラたちの批判を言い放つ。
「あなたたちのやり方は、あなたたち自身はすばらしき選択だったのでしょうが、私たちにとっては許しがたい愚行ということです。私たちだけでなく、いずれ多くの人から敵視されることになるでしょう・・」
 サラマンディーネもキラたちに苦言を呈する。
「かつての英雄であるあなたたちは、今はあなたたち自身とオーブ以外は世界の敵と認識するでしょう。それでもこの愚かしい戦いを続けるというのですか?」
“覚悟はある・・僕たちは、戦う・・・!”
 サラマンディーネの問いに、キラが真剣な面持ちで答える。
「どこまでも身勝手なんだな、アンタたちは・・!」
 考えを改めようとしないキラたちに、シンも憤りを感じていく。
「アンタたちは綺麗事ばかりで、他の人のことを、分かった気になってるだけで、何も分かろうとしない!」
“違う・・それは・・・!”
「違うと思っているのはアンタたちだけだ!何にも分かっていないのに、分かったふうなことを言うな!」
 言い返そうとするキラに、シンが怒鳴る。
「議長の考えにオレも疑問を持つようになった・・だけど、それでアンタたちを信じようとは全く思わない・・!」
“それがお前の考えなんだな、シン?・・いや、クロノ考えなんだな・・?”
 言い放つシンに答えたのはアスランだった。
「アスランさん・・本当にアークエンジェルにいたのね・・」
 エルシャがアスランを見て、深刻な顔を浮かべる。
「アスラン、あなたはアークエンジェルの味方でいるつもりなの・・・?」
“オレはもう、みんなのところには戻れない・・たとえ君たちが、デュランダル議長の元を離れても・・・”
 ルナマリアが問いかけて、アスランが顔を横に振る。
“キラたちとまた行動を共にして、クロスも混乱を招くと判断した・・あのときオーブが連合軍に与していたとはいえ、君たちはオーブに攻撃を仕掛けた・・”
「さっさとジブリールを渡せば丸く収まったのに、ふざけた態度でこっちをバカにしてきたのよ。そんなヤツらの味方をしようっていうの!?」
 非難を口にするアスランに、アンジュが不満を膨らませていく。
“そうじゃない。だがオーブの国民は関係ないのに、巻き込む必要がないだろう・・!”
「連合軍が無差別攻撃したっていうのに、そんな連中と縁を切らないオーブが悪いんだろうが・・!」
「それでもオーブが正しい、自分たちが正しいというのは、正義でも信念でもなく、エゴでしかありませんよ。」
 ヒルダも文句を言って、サラマンディーネも非難を口にする。
「どんな理由や事情があっても、あなたたちによってオレたちはピンチを招いたこともあった・・反省も改めようとする考えも見せず、自分の考えを押し付けようとする・・あなたたちと手を組む気は、オレたちにはありません・・!」
 カナタもキラたちとも対立する意思を示した。キラにもアスランにも、カナタたちは納得がいかなかった。
“残念です・・・デュランダル議長はアルザッヘルを攻撃しました。次の狙いは、同じくデスティニープランに反対の意思を示したオーブでしょう。”
 マリューが悲しい顔を浮かべて、ギルバートの動向を推測する。
“攻撃される前に議長を止めるため、私たちはプラントに向かいます。議長による管理された世界を、実現させてはなりません。”
「議長を止めなければならないのは、私たちも同じ考えです。しかしあなたたちの暴挙を見過ごすつもりもありません。」
「これからも戦いに介入してくるならば、私たちはデュランダル議長だけでなく、あなたたちにも剣の矛先を向けることになります。」
 自分たちの意思を告げるマリューに、タリアとサラマンディーネが警告する。カナタたちはギルバートだけでなく、キラたちと戦うことも辞さない考えを持っていた。
“あなた方と、これ以上の対立がないことを願います・・・”
 マリューはそう告げて、通信を終えた。
「これで、向こうにも敵対の意思を示すことになったわね・・」
「向こうが考えを改めないのだから、オレたちも戦うしかないのですね・・」
 肩を落とすタリアに、カナタが深刻な面持ちを浮かべて答える。
「これで、ザフト軍とクライン派、両方から挟み撃ちになる可能性が出る・・みなさんには申し訳ないと思います・・」
「気にすることはないですよ。向こうも私たちも意固地なのですから・・」
 謝意を見せるタリアを、サラマンディーネが励ます。
「たとえ挟み撃ちにされても、両方やっつけてしまえばいいだけの話よ。」
「この先どうなるかは分からない・・でも、誰かの思い通りになってしまうには、納得がいかない・・」
 アンジュがギルバートとキラたちへの敵意を見せ、海潮も支配や強制に対する反発を抱いていた。
「今度の戦いは過酷なものとなるでしょう。覚悟を決める必要があります。」
「そんなこと、今までの戦いだってしてきました。」
「オレたちにケンカを売ってくるヤツがいるなら、相手がどんなヤツでも受けて立つ!それがオレだ!」
 警告するタリアに対し、霧子が覚悟を示して、孝一が意気込みを見せた。
「オレはレイと議長を止めるつもりだ・・議長だって平和のためにがんばっていたのは間違いないし、レイもその姿勢に共感しているだから・・」
 シンは再びレイたちを説得しようと考えていた。
「それも簡単なことじゃないわ。デュランダル議長は強い信念を持っているし、レイも議長にすっかり心酔しているみたい・・」
「それでも諦めるわけにはいかない・・レイはオレたちの仲間なんだから・・・!」
 サリアが苦言を呈するが、シンはレイを助けることをやめない。
「私も、レイと戦いたくはないです・・レイを助けて、議長を止めなくちゃ・・・!」
 ルナマリアも正直な気持ちを口にする。彼女もシンも今でもレイを仲間だと思っていた。
「グラディス艦長、ミネルバは先陣を切って、レイの相手をしてください。オレたちは援護をしながら、敵の相手をします。」
 カナタがタリアに提案を持ちかけてきた。
「レイが仲間だと思っているのは、オレも同じです。助けるチャンスがあるなら、それに賭けてみたいです。」
「私たち、お姉ちゃんを助けたいと思って、今まで頑張ってきたのもあります。家族や友達と離れ離れになってしまったら、助ける力になりたいです!」
 カナタに続いてラブも自分の考えを伝えた。
「カナタ・・・」
「ラブ・・・」
 シンとルナマリアが2人の思いを聞いて戸惑いを覚える。
「これは、カナタたちの考えに乗るしかねぇな。」
「みんな、揃いも揃ってめんどくさいんだから・・」
 ヒルダが呆れた素振りを見せて、アンジュがため息をついた。
「オレもイザナギでミネルバと同行します。」
 カナタがシンたちと前線で援護することを申し出た。
「私たちも、艦長たちと一緒に行かせてください!」
 海潮もタリアに同行を頼んで、魅波、夕姫と頷き合う。
「あなたたち・・・分かりました。ただし、危険だと思ったらすぐに戦線を離脱するように。」
「グラディス艦長、ありがとうございます!」
 了承して注意を送るタリアに、カナタが頭を下げた。
「感謝するのはこっちだよ。私たちのためにここまでしてくれて・・」
「オレたちには仲間がいる・・みんながいるから、必ずレイを連れ戻す・・・!」
 ルナマリアが礼を言って、シンが自信を取り戻す。
“私も、この戦いに参加させてもらいたい・・”
 そこへ通信が入り、タリアがモニターに目を向ける。モニターに映し出されたのは、アウローラにいたジルだった。
「アレクトラ!」
 ジルを見てタスクが声を荒げる。
「アルゼナルの司令官に戻るというの?もう私はあなたの言いなりになるつもりはないわ・・」
“それでも構わない。私は表向きにはアウローラの指揮を執るが、これからはお前たち1人1人の思うように行動すればいい。エンブリヲが倒れた今、私たちを縛るものはないのだから・・”
 不満げな態度をとるアンジュに、ジルが自分の考えを伝えた。彼女もエンブリヲがいなくなり、自由をつかんだことを実感していた。
「そうね・・ここからは、私たち1人1人がどうするかよね・・・」
 アンジュが納得して笑みをこぼした。
「アレクトラ・・私・・・」
 サリアがジルに対して悲しい顔を浮かべた。
“私もお前も、自分の思いのために手段を選ばなかった・・お互い、やり直していこう・・・”
「アレクトラ・・・えぇ・・・」
 ジルに励まされて、サリアが小さく頷いた。彼女の目に涙が浮かんでいた。
「ジルさん、あなたの要望、私たちも聞き入れました。アウローラの乗員、機体はオルペウスに移乗。補給と整備が完了次第、クロスは宇宙へ上がります。」
 タリアがジルをアルゼナルの司令官に戻すことを容認し、指示を送った。
(レイ、今はお前とは離れ離れだけど、オレたちには大事な仲間がいるんだぞ・・・!)
 シンが心の中でレイに向けて呼びかけていた。カナタたちと共に戦うことが、自分にとってもレイにとっても救いになると、シンは思っていた。

 シンたちと別れて、1人メサイアにたどり着いたレイ。彼はレジェンドから降りて、ギルバートのいる広間に赴いた。
「やぁ、レイ。待っていたよ。」
「申し訳ありません、議長・・クロスもシンも連れてくることができませんでした・・」
 あたたかく歓迎するギルバートに、レイが謝罪する。
「まさかシンまで離反するとは・・彼は心から戦いのない世界を望んでいたはずなのに・・」
「クロスの面々と行動を共にしたのは、シンにとっては逆効果だったようです。他の者たちに影響されて、何が正しいのかを見失ってしまった・・・」
 2人がシンのことを考えて、苦言を呈する。
「確かにアーモリーワンでの強奪に始まって、ユニウスセブンの落下、世界の融合、そして開戦からこんな事態にまでなってしまったんだ。誰だって戸惑うだろう。だが、そんなやりきれないことばかり続いた、この戦うばかりの世界も、もう間もなく終わる・・」
 ギルバートがシンたちのことを考えて、争いのない世界の確立への確信を抱く。
「終わらせてみせる。レイ、君もどうか力を貸してほしい。」
「もちろんです。我々が戦いを生む者に屈するようなことになれば、世界は再び、混沌と闇の中へ逆戻りです。そうなれば、人々が平和と幸福を求め続けるその裏で、世界はまたも必ずや新たなロゴスを生むでしょう。絶対に世界を、そんなものにはしたくありません・・デスティニープランは絶対に実行されなければなりません。」
 呼びかける彼に、レイが答えていく。
「シンだけでなく、キラ・ヤマトくんもだ・・」
 ギルバートがキラのことも考える。
「彼らの行動には疑念を抱かずにはいられない。だが同時に、彼は不幸だったとも思える。キラ・ヤマトくんもシンに勝るとも劣らない資質と力を備えている。モビルスーツのパイロットとして、戦士としての力は指折りと言える。なのに誰1人、彼自身それを知らず、そのためにそう育たずそう生きず、ただ時代に翻弄されて生きてしまった・・あれほどの力、正しく使えばどれだけのことができたか分からないというのにね・・」
 彼がキラに対する評価と後悔を呟いていく。
「もっと早く自分を知っていたら、自分の力と役割を知り、それを活かせる場所で生きられたら、彼自身も悩み苦しむこともなく、その力は称えられて、幸福に生きられただろうに・・」
「ヤツのような人間を出さないためにも、デスティニープランは必要不可欠です。アークエンジェルの面々を討つことは、単にヤツらの暴挙を阻止するだけでなく、この不条理な世界を生きてきた我々の責任でもあります。」
 ギルバートの話を受けて、レイが自分たちの使命を口にした。
「クロス、オーブ、我々の目指す平和を阻むものは、確実に討つ。」
「自分が必ず、あなたの理想を守ります・・この命ある限り・・ギルのために・・・!」
 ギルバートが決意を告げて、レイが彼のために尽力する意思を示す。
(正しさはギルが示してくれる・・ギルの理想を阻む敵は、オレが倒す・・キラ・ヤマトも、シンも、誰であろうと・・・!)
 キラたちだけでなく、シンたちと戦うことにもためらわないレイ。しかし彼の中に、生きようとする意思もあった。

 休息と機体の整備を済ませ、カナタたちは宇宙への出発の時を迎えた。
「プラント周辺の動きは?」
「ザフトの各部隊が展開して、防衛網を敷いています。また、巨大構造物が地球に向けて移動しています。」
 タリアが問いかけて、メイリンがプラントの状況を報告する。
「巨大構造物?」
(ギルバートはメサイアまで動かしてきたのね・・)
 アーサーが疑問符を浮かべる中、タリアはメサイアのことを考えていた。
「アークエンジェルとオーブの動きは?」
「アークエンジェル、エターナル共にその巨大構造物に向けて動き出しています。」
 タリアがさらに聞いて、メイリンが答える。
「議長とオーブが同士討ちしてくれた方が、こっちとしてはやりやすいんだけど・・」
 アンジュが自分たちの最善手を告げる。
「でもそれだと、レイと議長が危険になるかもしれない・・たとえオレたちが危険になっても、レイたちを止めて、助け出さないと・・」
 シンが彼女にレイたちを助けることを告げる。
「レイもだけど、シンも相当頑固ね・・・いいわ。レイと議長はあなたたちに任せたわけだし、オーブもブッ倒さないといけないしね・・」
 アンジュが呆れるも、シンたちの考えに乗ることを示す。
「アンジュ、ここにいた!新しいライダースーツを用意したから!」
 メイがアンジュのところへ走って声を掛けてきた。
「メイ、またあの話?宇宙でフライトモードになるなって話は、何度も聞いたわよ・・」
「大事なことだから何度でも言うの!」
 肩を落とすアンジュに、メイが怒鳴る。
「宇宙は地球と違って空気も重力もない。それは分かっているし、もう慣れるしかないのよ・・」
 アンジュはため息混じりに言って、メイの前から離れていった。
「私たちも宇宙は初めてだけど、ちゃんと宇宙服を着て、できるだけランガの外に出ないようにすれば大丈夫だよね。」
 海潮もシンたちのところに来て、気を引き締める。
「本当は戦いたくないし、戦わずに解決できたらどんなにいいか・・でも、デュランダル議長やオーブが自分の考えを押し付けてくるなら・・・!」
「みんなが幸せでいられる楽園・・何にも支配されない楽園、か・・・」
 海潮の心境を聞いて、シンが戦いのない平和な世界の形について考える。まだその答えは出ていないが、争いをなくすために戦う運命を背負うという彼の意思は変わっていない。
「今オレたちがやらなくちゃならないのは、レイを連れ戻して議長を止めること。そしてカナタとラブが捜してるゼロス博士を見つけて、ディメントと決着をつけること・・」
 シンが戦う目的を確かめて、海潮もカンナたちのことを考えた。
「カナタたちのためにも、この戦い、絶対に生きて帰らなくちゃね。」
「もちろんだ。戦いを終わらせて、レイもみんな一緒に、生きて帰るんだ・・!」
 海潮の励ましに答えて、シンが頷く。2人は笑みを浮かべて、ミネルバに向かっていく。
「出発の準備が整った。アウローラにあった機体も、オルペウスに移したよ。」
 カナタがシンたちに出発準備の完了を伝えた。
「海潮ちゃん、私たちは武蔵野に戻るけど、あなたたちの帰りを待っているからね。」
「はい。必ず帰ってきますね。」
 茗が呼びかけて、海潮が微笑んで頷いた。
「カナタ、お前とラブのやることに、オレたちも付き合うからな。」
「シン・・・ありがとう・・・!」
 シンがこれからのことを言って、カナタが感謝した。彼らはミネルバとオルペウスに乗り込んだ。
「ミネルバ、オルペウス、共に全員乗艦しました。」
 アーサーが報告して、タリアが頷いた。
「目標、移動要塞、メサイア。クロス、発進します。」
 彼女の号令でミネルバ、オルペウスが発進。地球から宇宙へ飛び出した。
 
 
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