スーパーロボット大戦CROSS
第63話「争いのない世界」

 

 

 ギルバートのデスティニープランの導入。その知らせで世界各国に動揺が広がっていた。
 カナタたちはレイから、デスティニープランとギルバートへの賛同を求められていた。
「あなたたちも、私たちを思い通りにしようと企んでいるのね・・?」
 アンジュがレイとギルバートに対して、不信感を示す。
「だがこれが世界を正す唯一の方法だ。」
「ずい分と大きく言ったもんだな・・」
 それでも考えを変えないレイに、孝一がため息混じりに言う。
「世界は変わるんだ。オレたちが変える・・だがそのときには、これまでとは違う決断をしなければならないこともあるだろう。」
「レイ・・・」
「だが、議長を信じていれば大丈夫だ。正しいのは、彼なのだから・・・」
 ギルバートを信じ抜くように促すレイに、シンはさらに困惑していた。
「気に食わないわね、そういう考え方・・自分や議長が絶対みたいに・・」
 夕姫が肩を落として、レイに不満を見せた。
「確かに議長からの支援に助けられて感謝はしているけど・・・」
「あたしらはプラントとは協力関係にあって、手下になったとは一言も言っちゃいねぇぞ・・」
 海潮とヒルダがデスティニープランを受け入れることができないでいた。
「本当に正しいのか?・・議長はそうだと、本気で言い切れるのか・・?」
「もちろんだ。議長に間違いはない。議長の導きがあったから、お前も強くなれた。ロゴスという脅威を討つことができ、戦いのない平和へ近づいている。これからも議長を信じ続けていれば、悲劇が起こることはない。」
 シンが疑問を投げかけるが、レイのギルバートに対する想いは変わらない。
「オレは力を求めて軍に入った。敵もだけど、何も守れない自分も許せなかったから・・ここまで導いてくれた議長には感謝しているけど、オレが軍人になろうとしたのはオレの意思だ。」
 シンはザフトに入ってからの自分を思い出していく。
「戦いのない世界、ずっと続いていく平和。それを実現しようとする議長の考えに、オレも心を打たれた。そんな世界のためにも、オレも戦ってきた・・」
「ならばこれからも、議長のために動けばいい。平和を乱す敵を、お前は倒せばいい。」
「けど、議長のあのプランが導入されたら、自分の意思が反映されなくなる・・オレが軍人になろうとしても、プランのためになれなかったかもしれない・・」
「しかし戦いもなく平和も永久不変となる。お前のように悲劇を被ることもなくなり、軍人になろうとする意思も必要なくなる。」
「違う・・デスティニープランなら、確かに戦いはなくなる。そうならないように導いてくれるから・・だけど、そこに意思も考えもない・・」
「混迷の世界よりはいい。議長の示す世界こそ、戦いのない平和への唯一の道だ。」
 ギルバートの築く世界を素直に受け入れることができないシンと、ギルバートを信じてその考えを貫こうとするレイ。
「あくまでデュランダル議長のために動け・・そう考えるのね・・」
「残念だけど、誰かに一方的に言いなりになるのは、真っ平ゴメンよ。たとえどんなに正しいように聞こえてもね・・」
 アンジュがため息をついて、夕姫がレイとギルバートへの不満を示した。カナタたちもレイの言葉をただただ受け入れるつもりはなかった。
「オレはみんなに託すしかない・・オレの命は長くないからな・・」
 レイがカナタたちに自分のことを打ち明けてきた。
「どういうことだよ・・・?」
 彼の言葉にシンが当惑を見せる。
「テロメアが短いんだ、生まれつき・・オレは、クローンだからな・・」
「何だって・・!?」
 レイが打ち明けたことに、シンが驚きを隠せなくなる。
「テロ・・メア?」
「細胞の寿命と言えばいいのかな?それが短いということは、命の寿命も短くなるということ・・」
 疑問符を浮かべるヴィヴィアンに、エルシャが説明をする。
「2年前の大戦で死んだラウ・ル・クルーゼと同じく・・彼は短命の運命を呪い、全てを滅ぼそうとした・・なぜオレたちは、他の者たちのように長く生きられないのか・・・」
 レイがラウのことを考えて、自分たちに課せられた運命に対して歯がゆさを感じていく。
「ラウ・ル・クルーゼ・・ザフトにいた司令官で、2年前の大戦で殉職した・・・」
 ルナマリアがラウに関する情報を思い出して口にする。
「オレたちのような存在も、お前のように家族や友人を失った者も、世界の愚かさが生み出した。だから世界は、変わらなければならない。オレの思いもお前が受け継いでくれると、オレは確信している。」
「だからって、生きるのを諦めるのかよ!?・・決められた未来だからって、生きることさえ諦められるのか・・!?」
 全てを託そうとするレイを、シンが問い詰める。
「もしもオレがお前の言うように、あとわずかの寿命だとしても、オレは生きるのを諦めない。たとえ誰から何を言われても・・もしかしたら、長く生きられる希望が見つかるかもしれない・・」
「シン・・・」
 シンから励まされて、レイが戸惑いを覚える。
「それでもお前に、みんなに議長のために戦ってほしいんだ・・」
 レイはシンたちにギルバートに尽くすことを進言する。
「命懸けでやっているように感じられるけど・・・」
「それとこれとは話が別よ。アンタや議長の言いなりになるつもりはないわ。私たちは、誰にも支配されはしない・・」
 サリアが肩を落として、アンジュがギルバートを拒絶する。同情を誘うような誘惑をされても支配には屈しないと、アンジュたちも海潮たちも思っていた。
「みなさん、グラディス艦長との話し合いをします。」
 サラマンディーネがタリアとの対話を進言してきた。
「これはプラントが発した大革命で、ザフトにとっても大きく関わることです。グラディス艦長の意向も考慮して、判断する必要があります。」
「それもそうね・・事が大きいから、きちんと意見交換はしておいたほうがいいわね・・」
 彼女の提案に魅波が納得する。
「できることなら、デュランダル議長とも1度話をしておかなくちゃ・・・」
 カナタがギルバートのことを気にしながら、タリアたちのいる指令室に向かった。彼らクロスもギルバートの味方になると、レイは思っていた。

 デスティニープラン導入の放送後、ギルバートは部下たちから各国の情報を伝えられていた。
「各国の動きはどうなっている?」
「どの国の代表も了承の回答は出ていません。議論を重ねている模様です。」
「明確に拒否を表明しているのは、オーブとスカンジナビア王国だけです。」
 ギルバートの問いに、オペレーターたちが報告をする。
「“ネオジェネシス”は動かせるか?」
「ただ今チャージ中です。移動は既に始めています。」
 ギルバートがさらに問いかけ、オペレーターが答える。
「“アルザッヘル基地”に少し動きが見られます。大西洋連邦大統領は各国の首脳同様、議長にコンタクトを取りたいと申し入れもしてきているのですが・・」
 オペレーターがレーダーと通信に注意を傾けて、情報を得る。
「なるほど・・彼も大変だな。オーブの姫君のような働きもできないのに、一国のリーダーなどやらねばならんとは。彼らを支持してくれるロゴスも連合軍ももういない・・」
 大西洋連邦の大統領に対して皮肉を口にする。
「あのような国にこのような手を打つのは気が引けるが、私とて引くわけにはいかない。まずはアルザッヘルを討つ。オーブはその次だ。」
「はい。」
 ギルバートが指示を出して、オペレーターがコンピューターを操作する。
 先の大戦でパトリックの指揮の下で使用、発射されたレーザー砲「ジェネシス」。その改良型として、ギルバートは「ネオジェネシス」の開発を指示していた。
 ネオジェネシスはジェネシスよりもレーザーをより集束させることで、ジェネシスに勝るとも劣らない威力を発揮できる。レーザーの軌道は直線的だが、位置と出力次第で地球に命中させることも可能となっている。
「私は言ったはずだ。これは人類の存亡を賭けた最後の防衛策だと。なのに敵対するというのなら、それは人類の敵だということだ。」
 デスティニープランへの拒絶に対する忠告を口にするギルバート。彼らのいる人工施設「メサイア」が移動して、装備しているネオジェネシスがチャージを進めていく。
「ネオジェネシス、チャージ完了。目標、アルザッヘル。」
 オペレーターがネオジェネシスの標準を定めた。
「ネオジェネシス、発射。」
 ギルバートの指示で、ネオジェネシスが出力を高めてレーザーを発射した。
 レーザーは月面に到達し、そこに点在するアルザッヘルが巨大な閃光に包まれた。直後に爆発と炎を巻き起こして、基地は一気に壊滅状態に陥った。

「アルザッヘルが壊滅!?」
 アルザッヘルが攻撃を受けたという知らせを聞いて、アーサーが驚きの声を上げた。
(ギルバート、あなたは本気で、このプランを推し進めようというの・・!?)
 タリアもギルバートの取った行動に、緊張を感じていた。
(このようなやり方を取れば、ザフトやプラントへの敵愾心をあおることになる・・それらの敵対勢力を一掃してでも、あなたは・・・!)
 強硬手段に打って出ているギルバートに、タリアは強い疑念を抱いた。
「グラディス艦長!」
 シンがカナタたちと共に来て、タリアに声を掛けてきた。タリアは落ち着きを払って、彼らに現状を話した。
「デュランダル議長が、一方的に攻撃を・・!?」
「アルザッヘルは連合軍の宇宙での拠点としていた1つよ。その上デスティニープランに反対を表明していた。」
 声を荒げるシンに、タリアが説明をする。
「だからデュランダル議長は、その基地に攻撃を仕掛けたのですね。」
「ますます一方的じゃない。従わないと吹っ飛ばして、自分たちが正しいと言い張って・・・!」
 サラマンディーネがギルバートの意向を悟り、アンジュが憤りを募らせる。
「艦長、プラントから通達です!“ミネルバは直ちにクロスと共に、プラントに帰還せよ”とのことです。」
 そのとき、メイリンがプラントからの知らせを伝えた。
「何だって!?」
「私たちを、完全にプラントの守りに就かせるつもりなのね・・」
 孝一が驚いて、恭子がギルバートの目論見を把握する。
「艦長、命令通り、プラントに戻るのですか・・・!?」
 アーサーが困惑しながら、タリアの意見を聞く。
「グラディス艦長、デュランダル議長との会談は可能でしょうか?」
 サラマンディーネがタリアに質問を投げかけた。
「私たちはそれぞれ、考え方も立場も違います。互いに協定を結ぶことで、共に戦ってきたというだけです。」
「でも、考え方の違いがその協定に影響するまでになったら、私たちは決別することになります・・」
 彼女に続いて魅波もタリアに進言する。アンジュも海潮も、孝一も霧子もカナタも、それぞれ自分だけの思惑を持っていた。
「メイリン、プラントに打診を。最高評議会につなげてください。」
 タリアがメイリンに通信の指示を出した。
「艦長、それでは・・!」
「みんなの考えを無視して、私たちだけで決断を出すことはできないわ。それに・・私にも思うところがあるのよ・・・」
 アーサーが苦言を呈すると、タリアが自分の考えを伝えた。
「私たちのことは気にせず、あなたたちの意思を示してください。その末にあなたたちと対立することになっても、私は覚悟を決めています。」
 彼女はカナタたちに遠慮のない意思表示をするように進言した。
「グラディス艦長・・私たちのためにすみません・・・」
「お心遣い、感謝いたします。」
 海潮とサラマンディーネがタリアに感謝した。メイリンがプラントに向けて通信をつなげた。
「ミネルバのタリア・グラディスです。デュランダル議長をお願いします。」
“分かりました。おつなぎします。”
 タリアが呼びかけて、オペレーターが答えた。カナタたちが真剣な面持ちでギルバートとの対面を待つ中、シンはレイ、デスティニープランと彼らへの思いが錯綜していた。

「グラディス艦長から通信が入っています。」
 オペレーターがタリアからの連絡を伝える。
「分かった。こちらに回してくれ。」
 ギルバートが答えて、タリアからの連絡を受けた。

 ミネルバの指令室にあるモニターに、ギルバートの姿が映し出された。
「デュランダル議長、お手数をおかけします。」
 タリアが挨拶して、シンたちと共に敬礼をする。
“突然のことで驚かせてしまったね、艦長。クロスのみんなも・・”
 ギルバートが微笑んで、タリアたちに答える。
“要件はデスティニープランについて、クロスの意見を述べようとしているのだね。”
「はい。先ほど、私たち全員をプラントに召集されましたので、ここで私たちの考えを伝えておきたいと思いまして・・」
 ギルバートが話の内容を察して、サラマンディーネが答える。
“こうして顔を見せ合うのは初めてになるね。アウラの民の姫、サラマンディーネさん。”
「今は一刻を争うときです。早速本題に入りましょうか、ギルバート・デュランダル議長。」
 挨拶するギルバートを、サラマンディーネが態度を変えずにけん制する。
「まずは私たちから・・デュランダル議長、私たちアウラの民は、デスティニープランには従えません。」
 サラマンディーネがデスティニープランへの拒絶を明言した。
「その人の情報を遺伝子から調べ上げ、最適な未来へ導くデスティニープラン。しかしそれは、逆らえば世界の敵と認識される絶対的な管理社会です。」
“その通りだ。しかしそれを悪いことに使おうとも、私利私欲を用いようとも思っていない。誰もが充実した人生を送れて、争いも起こらず、幸福でいられるのです。”
 デスティニープランについて語るサラマンディーネに、ギルバートが答える。
「私たちの世界もアンジュたちの世界も、エンブリヲによって管理、支配されてきました。彼が死んでその管理下から解放されたというのに、別の管理を受けるわけにはいきません。たとえそれが最善手だとしても。」
 サラマンディーネが自分の意思をギルバートに伝える。
「私が仕えるのは、私の世界の主君のみ。あなたの強要を受け入れるつもりはない。」
「これ以上、私たちの世界を誰かに利用されるわけにはいかないわ!」
 ナーガとカナメも自分の意思を告げて、互いに目を合わせて笑みを浮かべた。
「アンジュ、あなたに私たちの考えを伝えてもらうわ。」
「あたしらの考えてることは同じだけどな。」
 サリアとヒルダが自分たちの意思を、アンジュに代わりに伝えるように言う。
「後で違うと言っても聞かないからね・・」
 アンジュが微笑んでから、ギルバートに視線を戻した。
「私たちも、デスティニープランなんてものには反対よ。これ以上、誰かの言いなりになるのはイヤなの・・!」
 アンジュがギルバートに考えを言って、サリアたちが頷いた。
「私はエンブリヲというストーカーにはウンザリしていた!でもその理由はアイツが変態だからだけじゃない!私たちは管理されるつもりはない!私たちは私たちの意思で、これからを自由に生きていくのよ!」
 管理という支配からの解放と、これからの自由な未来を確信するアンジュ。これ以上管理されることを、彼女たちは拒絶していた。
「デュランダル議長、あなたのことですから、平和のためにこのプランを導入しようとしていることは分かります。でも、平和のためでもルールを押し付けるなら、私たちはそれに支配されることになります・・」
 海潮も支配と管理への拒絶を口にする。魅波も夕姫もデスティニープランを受け入れることに反対していた。
“デスティニープランは、その者の能力を把握し、正しい道を示すことができる。誤った選択や境遇のために、苦痛や絶望、後悔を受けることもない。”
 ギルバートがデスティニープランの有効性を語る。
“もしも自分がノーマであることを最初から知っていれば、差別や迫害を受けることはなかった。そもそもノーマだからという差別と偏見も存在しなくなる。双方充実した時間を送れるようになる。”
「確かにそうかもね・・でも私はそれで後悔したことはないわ。」
 マナを持つ者とノーマについて触れるギルバートに、アンジュがため息混じりに答える。
「皇女からいきなりアルゼナルに連れ込まれて、戦いに駆り出されて・・地獄のような変化だった・・でもおかげで、ミスルギ皇国の愚かさを知ることができたし、代わりに新しい仲間もできた。そして今は、私たちは自由に生きられるようになったし・・」
「アンジュ・・・」
「アンジュリーゼ様・・・」
 これまでの経験を語るアンジュに、サリアとモモカが戸惑いを覚えた。
 悪いこともいいことも含めて、様々な激動の月日を過ごしてきたアンジュ。その中でサリアたちやタスク、カナタたちと出会えたことを、彼女は嬉しく思っていた。
“海潮さん、魅波さん、夕姫さん、君たちがバロウの王、スーラの子孫であることを始めから知っていれば、苦しい生活を送ることはなかっただろう・・”
 ギルバートが海潮たちのことも指摘する。
“大人が正しく導ける仕組みがあったなら、君たちのお兄さんも君たちの敵に回ることもなかったはずだ。君たちのこの人生、実に不幸だったと言える・・”
「もしもデスティニープランがあれば、勝流さんと私たちは今までもこれからもずっと一緒に暮らせた・・そう思っているのですか?」
 彼の言葉を受けて、魅波が言葉を返す。
「確かに勝流さんのことは快く思っていません。あの人をそこまで追い込んだ世界も、あの人を変えてしまったタオも・・でも生まれも今までの人生も後悔してないですよ。大変だからって後悔は感じなかったわ・・」
 自分の心境を告げて、魅波は海潮と夕姫に目を向けて微笑んだ。
 勝流とは袂を分けたが、妹たちがいるしランガもいる。全てに納得しているわけではないが、魅波は小さな幸せを感じていた。
「こういう形でランガと出会って過ごしてきたからこそ、私たち、たくさんのことを経験できたと思います・・辛いこともあったけど、私たちの心にウソはなかったです・・・!」
 海潮もこれまでの時間を思い返していく。ランガが来る前も来た後もたくさんのことで喜びや悲しみを分かち合ってきたことが大切であると、彼女は実感していた。
“これはまことに遺憾だ。デスティニープランにより、争いや差別、世界の混迷が解消されるというのに・・”
 アンジュと海潮、サラマンディーネがデスティニープランを拒絶したことに、ギルバートが肩を落とす。
“しかしこれは人類存亡を賭けた最後の防衛策だ。君たちは人類の敵に回るつもりなのか・・?”
「私たち、そんなに悪いことをしていますか?・・将馬くんとラブラブすることが、そこまで悪いことなの・・・!?」
 顔から笑みを消すギルバートに、霧子が言い返してきた。
「私はただ、将馬くんとずっと一緒にいたいだけです。私たちの意思で・・今でも世界の全部を分かっているわけではないですが、私たちが愛し合うことさえも許されないというなら、喜んで世界を敵に回します!」
「霧子ちゃん・・・!」
 霧子の想いを聞いて、将馬が戸惑いを覚える。
「へっ!言ってくれるじゃねぇか、霧子!オレもやりてぇことが全然できねぇのは、我慢ならねぇぜ!」
 孝一が気さくに言って、ギルバートにも言い放つ。
「孝一くんの場合は、少しは自重してほしいところだけど・・」
 恭子が呆れた様子で言うが、孝一は聞いていなかった。
「デュランダル議長、オレもあなたの築こうとしている政策には反対です。」
「今までの出来事や時間は、大変な経験ばかりでしたけど、それ以上に大事なことやたくさんの仲間を持つことができました・・そうしたいって気持ちを押さえ付けられたら、生きていることにならないから・・・」
 カナタもラブも自分の考えを伝えて、これまでの経験と戦いを思い返していく。
“クロスは皆、そのような考えなのか・・本当に残念だ・・”
 カナタたちからも拒否されて、ギルバートが小さくため息をつく。
“グラディス艦長、クロスから離脱。君たちだけでプラントに帰還せよ。”
 彼はタリアに向けて命令を送る。
「残念ですが、クロスとの協定はここまでです。プラント防衛の任務に・・」
 レイも真剣な面持ちで進言する。
「デュランダル議長、私個人として、デスティニープランに反対させていただきます。」
 タリアもギルバートに対して自分の意思を告げた。
「艦長、議長の命令に逆らうんですか・・!?」
 アーサーが驚愕するが、タリアが左手をかざして制止する。
「私はザフトとして、プラントのため、平和のために戦ってきました。議長の目指すこの世界も、平和のためになるとは思います。しかし私たち軍人だけでなく、世界に生きる全ての人が、ただ言われるままに人生を歩むことになります。それは、生きながら死んでいるも同然です。」
 デスティニープランの欠点をギルバートにしていくタリア。
「私たち大人や上官が正しく導くのももちろん大事です。ですが最後に決断するのはその人です。間違いをしそうになった時に、手を差し伸べたり止めたりすればいいのだから・・」
「グラディス艦長・・・」
 大人として未来のことを考えるタリアに、シンが戸惑いを覚える。
“艦長、君までそのようなことを言い出すとは・・・”
 ギルバートがタリアの決断を深刻に考える。
「私も私の意思で、私たちの人生を歩ませていただきます、デュランダル議長・・いいえ、ギルバート・・・!」
 タリアが目つきを鋭くして、ギルバートに言い放つ。彼女は彼と袂を分かつ決意を固めた。
「私たちのクルーの中に、あなた方に賛同する者がいるかもしれません。彼らだけプラントに帰還させます。」
 タリアがそう告げて、ギルバートに敬礼を送った。
“・・・タリア・グラディス艦長、今までご苦労だった・・・”
 ギルバートが深刻な面持ちのまま言葉を返して、通信を切った。
「グラディス艦長、あなたも・・・」
 サリアが戸惑いを感じながら声を掛け、タリアが頷いた。
「グラディス艦長、あなたのこの判断は、デュランダル議長の反逆です。この場で処罰させていただきます。」
 レイがタリアを敵視し、銃を取り出して構えた。
「レイ!」
 シンが怒鳴り声を上げたときだった。アンジュ、サリア、タスクが銃を手にして銃口をレイに向けて、ヒルダもナイフを手にして構えた。
「今は大人しくしたほうがいいよ。今すぐここが戦場になるからね・・!」
「引き金を引いた瞬間に、私たちは躊躇なく撃つわよ・・・!」
 ヒルダとサリアがレイに忠告する。
「よせ、みんな!いくら何でもやりすぎだ!」
 シンは彼女たちのやり方には納得できず、たまらず呼び止める。
「今は大人しくしたほうが賢明のようだ。しかしオレはあなたたちを許しはしません・・」
 銃をしまうも、レイはタリアやアンジュたちへの敵意を消さない。
「シン、お前は来るんだ。議長の築く世界は、お前が願っていた、争いのない世界でもあるんだ。」
 レイがシンに振り向いて、共に来るように呼びかける。
「議長もお前なら新しい世界を守り抜けると信じている。オレも命のある限り戦うつもりだが、お前にも議長のために戦ってほしい・・」
「レイ・・オレが今まで戦ってきたのは、確かに世界から争いをなくすためだ・・でもそれは、間違いなくオレがそう思って戦ってきたはずなんだ・・」
 ギルバートのために戦うように進言するレイに、シンが今までの戦いを思い返して考えを口にする。
「デスティニープランは、そんな自分の意思も押さえつけられてしまう・・そんなのは平和じゃなく支配だ・・!」
「デスティニープラン以外に、この世界の混乱を止める術はない。お前も終わりのない戦いが続いてもいいのか・・?」
「他にも方法はあるはずだ!今は思いつかないけど、デスティニープランじゃなくても、戦いのない世界を作ることができるはずだ!」
「そのような甘い考えが、世界の混迷を増す事になる。デュランダル議長が、正しき道を示してくれる。混迷を完全になくすことができるのだ。」
 シンが説得を試みるが、レイは意思とギルバートへの信頼を貫く。
「世界は違うけど、オレたちにはたくさんの仲間がいる・・その誰1人、いい方法を見つけられないはずがないんだ・・・!」
「それ以上の人、それ以上の時間を費やしても、混迷は深まるばかりで争いは繰り返される・・議長の世界が実現しなければ、その連鎖は続く・・・」
 さらに呼びかけるシンだが、レイは考えを変えない。
「もはや言葉で分かり合えないようだ・・クロスとも、お前とも・・・」
 互いに譲らないと判断して、レイが肩を落とす。
「メイリン、ミネルバ艦内に通達します。」
「はい。」
 タリアが指示して、メイリンが通信をつなげた。
「タリア・グラディスです。今のデュランダル議長との会話、みんなも聞いたと思います。」
 タリアがミネルバのクルーに向けて呼びかける。
「私はクロスと共に、デュランダル議長の命令に背く決断をしました。これからは議長の指揮下の部隊と対立することになります。ただしあなたたち全員を私の離反に同行させるつもりはありません。プラントへの帰還を志願する者は、シャトルで送り届けます。」
 タリアがクルーたちに今後のことを話していく。
「ミネルバに残っても、プラントに戻っても、私から懲罰を与えることはありません・・プランと帰還の志願者は、1時間後に本艦の前に集合してください。」
 今後の動向を1人1人に任せることを伝えて、タリアは連絡を終えた。
「グラディス艦長・・・」
「あなたたちも、自分で自分の進む道を決めなさい。誰に惑わされることなく、自分の意思で・・」
 当惑するシンに、タリアが微笑んで励ました。彼女は指令室を後にした。
「シン・・・」
 レイとの対立に苦悩するシンに、ルナマリアも困惑していた。カナタたちだけでなく、タリアもギルバートの指揮下から外れようとしていた。
 
 
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