スーパーロボット大戦CROSS
第62話「新世界へ」

 

 

 兄、勝流と袂を分かった魅波。彼女が中に入り、ランガの顔が1つ目になった。
「お姉ちゃん、やれる・・?」
「え、えぇ・・」
 海潮が声を掛けて、魅波が小さく頷いた。
「どうしてランガは動いたの?」
「その話は後・・ゆうぴーを取り戻さなくちゃ!」
 魅波が疑問を投げかけるが、海潮は夕姫を助け出すことに専念する。
「うん・・・兄さん・・行くわよ!」
 魅波が疑問を振り切り、勝流と対峙する。
 一方、夕姫はアカサの中に入り、勝流とナイエルの前に現れた。
「ようこそ、夕姫。さぁ、見るがいい。アカサの本当の強さを。」
 勝流が夕姫を迎えて、アカサを動かす。アカサがランガの前に出て、4本の腕を広げた。
「海潮、オレたちも加勢するぞ!」
「オレたちはタオやキュリオテスじゃなく、海潮たちとランガに味方するよ!」
 シンとカナタが海潮たちに声を掛けてきた。
「ありがとう、みんな・・・あの中にゆうぴーがいるから、まずは取り戻す!」
 海潮が感謝して、アカサに視線を戻す。ランガが胸から剣を出して、アカサに向かっていく。
「ランガ、怖くないよ、あんなの!」
 海潮が檄を飛ばして、ランガが剣を振りかざす。しかしアカサの姿が消えて、ランガの剣は空を切った。
 その直後、アカサはさらに上空に移動していた。
「い、いつの間に!?」
「オレたちの機体より速いぞ・・!」
 隼人とシンがアカサの動きに驚く。
「あれはただの高速じゃない・・まさか・・!?」
 カナタがアカサの能力について気付き始める。振り返ったランガの前で、アカサが4つの手を震わせた。
 次の瞬間、アカサから衝撃が放たれ、ランガが襲われた。
「な、何っ!?」
「衝撃波か!?」
 衝撃が周囲にも及び、霧子と孝一が声を荒げる。衝撃波によって海が揺れ、津波のように島々に流れる。
「アカサは空間を操り、自在に操る。」
 勝流がアカサについて語る。ランガが再び飛びかかり剣を振りかざす。しかしこれもアカサにかわされ、衝撃波を直撃される。
「お前たちの認識できる世界の外に、僕はいる・・!」
 アカサがさらに空間を操作する。ランガや周囲を襲う衝撃は、空間の歪みによるものだった。
 アカサの空間操作によって、ランガが剣を持つ右手をもぎ取られた。その余波で、ランガの後方にいた艦隊の船数隻が消滅した。
「このっ!」
 ルナマリアが見かねて、インパルスがビームライフルを発射した。しかしアカサが空間を移動して、瞬時にビームをかわした。
「そんな!?うわっ!」
 アカサの空間操作によってインパルスが右手を切断されて爆発を起こし、ルナマリアが衝撃に揺さぶられる。
「よせ、ルナマリア・・アカサの攻撃の範囲は広い・・下手に攻撃しても、一瞬で返り討ちにされるぞ・・・!」
 レイがルナマリアを呼び止める。インパルスがミネルバのほうへ下がっていく。
「いくらスピードが速くても、空間ごと攻められたら・・・!」
「同じく空間を突破できる機体じゃないと・・ヴィルキスと、イザナギ・・・!」
 カナタとタスクがアカサに対抗する術を考えていた。

 アカサの前に苦戦を強いられる海潮たちに、茗もモモカも不安を隠せなくなっていた。
「やっぱムリかもね・・なんせ相手は、天体現象まで勝手にしちゃう連中なんだから・・」
「アンジュリーゼ様も皆様も、あの力で手を出せないようです・・・」
 茗とモモカがランガたちを見て、振り絞るように声を上げる。
「では死ぬか?」
 そこへンボがラノ、ガルと共に現れて声を掛けてきた。
「嵐も地震も大地の運命も、人にはどうにもならぬもの。」
「タオがもたらす運命(さだめ)と知りつつ、受け入れるのか?」
「だがランガはタオに抗う。例え相手が神でも、爪を立てられぬものはないと信じて。」
 ンボ、ラノ、ガルがランガたちとアカサの戦いを見ながら告げる。
「相手が神でもって・・ランガも神様のはずですよね?・・・ということは、ランガは神様ではなく、私たちと同じ生き物、命ということになりますよ・・」
 モモカがンボたちの言葉に当惑する。彼女は疑問を抱えたまま、ランガたちの戦いを見守った。

 ランガが劣勢に追い込まれ、イザナギたちも手が出せない状態だった。ランガを追い詰めていることに、勝流はナイエルと共に悠然としていた。
「夕姫、とどめを刺すかい?」
 勝流が夕姫に向けて声を掛ける。
「本当はランガが怖いのね?」
 彼女が投げかけた言葉に、勝流が眉をひそめる。
「教えてくれた人がいるの。かつてランガを倒したのは、あなたたちキュリオテスじゃなく、人がランガを倒した・・」
 夕姫が勝流に振り向いて、ジョエルに宿ったスーラからの話を口にする。
「タオという強大な力に、ランガは屈服せず抵抗をつづけた。でも人は争いを恐れて、ランガを封印し、神として利用してきたのよ。」
 彼女がランガの過去について語っていく。
「そうしてきた中で、タオの元へ行って魂を売った人もいた。それがあなたたち、キュリオテス・・」
「人がスーラごときにタオに逆らうことは不可能だ。それにタオを目覚めさせなければ、その力は僕らのものなのだよ。」
 キュリオテスについても話す夕姫に、勝流が微笑む。彼はキュリオテスとなったことに満足していた。
「そうね・・でも・・・」
 夕姫が答えると、あらかじめ持っていたナイフを掲げた。
「神の使いぱしりになってしまったのね・・ちょっと残念・・」
「そんなもので何をするんだ?僕を刺すかい?」
 微笑みかける夕姫に、勝流が問いかける。たとえ切りかかってきても簡単にはねのけられると、勝流は分かっていた。
「ランガの胸の紋様って、昔のスーラたちの名残なんだって。バンガもスーラの亡骸・・だから・・・!」
 夕姫がさらに語ると、そばの壁にナイフを突き立てた。彼女はランガの胸の紋様と同じ渦を、壁に刻み付けた。
「記憶を思い出させてあげろって、ジョエルが言ってたわ・・」
 夕姫が言い終えると、刻まれた渦から光が発した。アカサに異変が起こり、中が崩壊を起こした
「夕姫!」
「さよなら、元お兄さん・・」
 怒りを覚えて叫ぶ勝流を嘲笑しながら、夕姫はアカサから出ていった。
「あっ!」
「ゆうぴー!」
 彼女が外に投げ出されたのを見て、魅波と海潮が声を上げる。
(海潮、後はうまくやりなさいよ・・)
 自分は助からないと覚悟して、夕姫は海潮たちに全てを託した。
「やべぇ!海に真っ逆さまだぞ!
 ヒルダが声を荒げて、カナタとシンがイザナギとデスティニーで飛び出そうとした。
 そのとき、ランガが急降下して、夕姫を取り込んだ。ランガはその勢いのまま、海に飛び込んだ。
 死んだと思っていた夕姫が、ランガの中にいたことに驚く。
「ずるいよ、私たちまで騙して!・・1人だけでムチャして・・もし死んだら・・!」
「作戦だもの。しょうがないでしょ・・」
 不満を口にする海潮に、夕姫がため息混じりに言い返す。
「2人とも・・ランガが何か言っているわ・・」
「えっ・・?」
 魅波が声を掛けて、海潮たちがランガに意識を傾ける。ランガからの意思が、彼女たちに伝わっていた。
「手こずりはするが、まだ動かせる・・」
 勝流が意識を集中して、アカサを安定させる。
「見て、あれ・・!」
 そのとき、ナイエルが海を見て叫んだ。海中にいるランガから、淡い光を発していた。
「再生している・・!?」
 ナイエルがランガを見て驚愕する。ランガは破損している体を再生させていた。
「こうなったら、僕たちだけでランガを葬るしかない。タオの力を少しでもかわすには・・」
 勝流が微笑んで、ランガを倒すことに専念する。アカサが手を動かして、空間を司る。
「消え去れ、ランガ!」
 勝流が叫び、アカサが空間操作による衝撃波を放つ。衝撃波は海にぶつかり、爆発を巻き起こした。
「ランガ、海潮!」
 衝撃で津波が起こる中、カナタが海潮たちに向かって叫ぶ。
「これで、タオの怒りも治まる・・・」
 ランガを消滅したと確信して微笑む勝流。キュリオテスとして戦う彼は、妹たちも手に掛けることにためらいも後悔も感じていなかった。
 そのとき、アカサの中に刻まれた渦から衝動が起きた。
 ランガが海から出て、アカサの前に現れた。その姿は今までにない形状となっていた。
「ランガ・・・」
「あの姿かたち・・・もしかして・・・!?」
 ラブが笑みをこぼして、サラマンディーネが目を見開く。ランガの今の姿に、サラマンディーネは思い当たることがあった。
 空間操作によって奪い取ったランガの剣を手にして、アカサが構える。瞬間移動のように迫るアカサの攻撃を、ランガが回避していく。
 アカサが空間の衝撃を放つ。勝流の視界からランガの姿が消える。
「勝流さん、もうやめて・・!」
 魅波からの声がかかって、勝流が目を見開き、アカサが振り返る。その先にランガが移動していた。
「速ぇ・・アイツの攻撃をかわしてるぜ・・・!」
「ランガも空間を移動しているの・・・?」
 ロザリーとクリスがランガの動きに驚く。
「これは空間移動ではありません・・時間をわずかばかり移動して、攻撃をかわしているのです・・」
「何だって!?」
 サラマンディーネが口にした言葉に、ヒルダが驚きの声を上げる。
「過去から物や人を呼び寄せるだけじゃなくて、自分も時間を行き来できるのか・・・!」
 将馬がランガの真の能力を実感していく。
「ランガは時を操る。アンタの攻撃はもうムダよ。」
 夕姫が勝流に向けて告げる。
「私たちはキュリオテスにはならない・・タオに支配されたりしない!」
 自分の意思を口にする海潮。タオに従わない彼女たちに、勝流がいら立ちを膨らませる。
「タオを超えることなどできるものか!」
 勝流が叫び声をあげて、アカサがランガに飛びかかり剣を突き出した。
 次の瞬間、ランガの体から刃が飛び出して、突っ込んできたアカサの体を貫いた。
「なっ・・!?」
 突然のことにカナタたちも驚きを感じた。
「時の、鏡・・・!」
 勝流がナイエルと共に、ランガの体に目を向ける。ランガの体に鏡のように反射する部分があり、その中央から刃が出ていた。
 アカサがランガから離れて落下していく。アカサに刺さっていた刃が、同時に抜けてランガの体に戻っていく。
「そうか・・あれは、わずか未来の、アカサ自身か・・・」
 勝流がナイエルを抱き寄せて、アカサの敗北を痛感する。
 ランガの体に現れた「時の鏡」は、アカサの未来を映し出していた。その未来の姿を反射させて具現化させることも可能で、飛び出した刃はアカサが突き出した剣ものものだった。
 海に落ちたアカサが崩壊し、勝流とナイエルはその中で果てた。
「やったのか、アイツを・・・!?」
 カナタがアカサの落ちたほうをじっと見つめる。
「勝流さん・・・勝流さん・・・!」
 勝流を討ったことを深く悲しむ魅波。海潮も夕姫も辛さを抑えられなくなっていた。
「魅波、海潮、夕姫・・」
 そのとき、海潮たちやカナタたちに向けて、勝流の声が伝わった。海から光が飛び出して、その中には勝流とナイエルがいた。
「キュリオテスは死なない。僕たちはタオの元に戻り、タオのために敵と戦い続ける・・」
「お兄ちゃん・・・戦い続けるんだね・・タオのために・・・」
 空に上がっていく勝流たちに答えて、海潮が見送った。

 勝流たちがタオの元に戻っていくのを、1人の人物が見届けていた。
(島原勝流とナイエルが地上を去り、他のキュリオテスも動向を見守ることになった・・)
 その青年が勝流たちの動向を把握する。
(しかし私にその義務はない。自分の世界でタオに逆らい、キュリオテスでありながらタオ以外のためにその力を使う・・)
 キュリオテスだった彼は、絶対の存在であるはずのタオに背き、自分の意思で行動していた。
(我々がこの世界を正す・・絶対的な力を持った人によって・・・)
 青年は決意を強めて、この場から歩き出す。すると彼に向けて通信が入った。
“カグラ、1度戻ってこい。”
「ヘクトか・・分かった。」
 通信の相手、ヘクトからの呼び出しに青年、カグラが答えた。
「我々も大きく動くことになるか・・・いや、その前に・・・」
 カグラが呟いてから、再び歩き出した。

 バロウ島の浜辺に降り立ったランガ。イザナギたちも着陸して、カナタたちが降りてきた。
「海潮・・・」
 ランガから出てきた海潮たちを見て、ラブがカナタたちと共に戸惑いを感じていく。モモカたちもジョエルと共に浜辺にやってきた。
「再びタオに挑む。この星や宇宙をタオから解放するため、タオを倒さなければならない。」
「行こうよ、宇宙へ!みんなで力を合わせて、タオと戦うのよ!」
 ジョエルがスーラの意思を口にして、夕姫が呼びかける。
「私、行かないよ・・タオと戦って、何になるの・・?」
 しかし海潮はタオとの戦いに挑もうとしない。
「私たちはこの世界がタオに支配されていることを知ってしまった・・だから、戦って自由を勝ち取るしかない・・」
 サリアが現状について口にする。タオに勝たなければ支配から抜け出すことにならないと、カナタたちは痛感していた。
「タオと戦うことは、地震や嵐に立ち向かい勝つことと同じ・・・」
「勝てるかどうか分からない・・でも、少なくても戦っている間は、本当に自由でいられる・・・そうだよ!これが最高の楽園かもしれない!」
 ラブが話を続けて、夕姫が楽園の形を見出した。
「戦うことが、楽園・・?」
 海潮が深刻な面持ちを浮かべて言い返すと、ランガの1つ目が開かれた。その中から出てきたのは、傷だらけのラブレだった。
「ラブレ・・・!?」
 変わり果てたラブレの姿に、魅波もカナタたちも目を疑った。
 スーラのいないランガを動かしていたのは、ラブレだった。しかしランガに拒絶されて体を傷つけられ、彼女は瀕死に陥った。
「バカね・・スーラの直系じゃないくせに・・・!」
 夕姫がラブレの取った行動に憤りを浮かべる。
「早く・・早く助けないと!」
 ラブが慌ててランガに駆け寄って、ラブレの体を手でつかんだ。ラブの目に輝きが宿っていた。
「ラブ、ラブレちゃんを助けるつもりなのか・・・!?」
 カナタがラブがしようとしていることに気付いて、戸惑いを覚える。
 ラブの体から光があふれて、ラブレに伝わっていく。ラブレの体にあった傷が小さくなっていく。
「すごーい♪傷が治ってくよー♪」
「これで助かるの、ラブレちゃんは・・・?」
 ヴィヴィアンが喜んで、エルシャが戸惑いを見せる。ラブの光を浴びて、ラブレは落ち着きを取り戻した。
 次の瞬間、ラブが意識を失って、その場に横たわった。
「ラブ!」
 カナタが駆け寄って、ラブを支える。
「ラブ、大丈夫か!?ラブ!」
 カナタが呼びかけるが、ラブは反応しない。
「呼吸はしている・・・2人を医務室に!」
「え、えぇ・・!」
 カナタが呼びかけて、茗が頷いた。2人はラブとラブレを抱えて、ミネルバに向かった。
「オレたちも戻ろう・・」
 シンが言って、ルナマリアたちと共にカナタたちを追う。海潮もランガに目を向けてから、ミネルバへ走った。

 ミネルバの医務官とマギーがラブとラブレの容態をチェックした。
「体の傷はほとんど塞がっている・・体の中も、重傷だったのがウソのようだ・・・!」
 医務官がラブレの状態に驚きを見せる。
「でも精神への影響までは回復しきれていない・・しばらくは意識が戻らないだろう・・・」
 マギーがラブレの精神状態をチェックする。
「それと、この子は体力の消耗が激しい。今は絶対安静ね・・」
 マギーがラブの状態も確かめて、医務官が頷いた。
「この子の持つ能力はすごいわね。異常と言ってもいいくらい・・」
「しかし、彼女の力がなければ、この子は助からなかった・・不可思議かつ非科学的なことだが、感謝するしかない・・」
 マギーと医務官がラブの力に驚きを感じていた。
 ラブの力によってラブレの傷は消えた。しかし重傷による精神的ショックまでは弱めることができず、完治させる前にラブの体力が尽きてしまった。
「とにかく、一命をとりとめたのはよしとしよう・・」
 医務官が安心して、マギーが小さく頷いた。

 マギーたちからラブとラブレの状態を聞いて、カナタたちは安心を覚えた。
 しかし海潮は深刻さを感じて表情を曇らせる。助けられたとはいえ、ラブレが死ぬかもしれない事態を、彼女は快く思っていなかった。
「戦うってどういうことか・・私たち、分かってたのかな・・・」
 戦いの意味と理由、重さについて考える海潮。
「ランガは力だ。私たちの牙かもしれない・・それは、みんなの使っている力や武器も、同じことが言える・・・」
「牙・・デスティニーもインパルスも・・」
「イザナギもみんな・・・」
 海潮の口にする言葉を聞いて、シンとカナタが困惑を覚える。
「カナタ、シン、アンジュ、孝一、霧子・・みんな、それぞれ力を持っていた・・守りたいものを守ったり、自分の考えを貫こうとしたりするために使っているけど、それで誰かを傷つけることもできてしまう・・・」
「それはそうだけど・・オレたちは傷つけるつもりで機体に乗っているわけじゃない・・!」
 話を続ける海潮に、シンが反発する。
「私たちはランガに頼ってる・・でもそれは結局、支配されているのと同じ・・私は、ランガから独立もしてなくて、そんな依存心が私を縛ってる・・」
「イヤだよ!ランガがいなくちゃ何もできない!自由がなくなっちゃう!」
 さらに語っていく海潮に、今度は夕姫が反論する。
「みんな不自由なんだよ・・私たちが・・ううん・・世界のみんなが自由じゃなきゃ、それは楽園じゃない。でも、それでも私・・・」
 海潮が魅波と共に夕姫に微笑みかける。不自由の中でも安らぎや幸せを感じることができる。彼女たちはそう思っていた。
「海潮・・・」
 現実を受け止めながらも幸せに生きていこうとする海潮たちに、カナタが戸惑いを感じていた。
「ジョエル・・ううん、スーラ、私たち、今はまだタオとは戦わない。その時までの時間を、精一杯生きていくよ・・」
 海潮がジョエルに振り向いて、自分たちの考えを伝える。
「いいだろう。お前たちがタオとの戦いに挑むまで、いつまでも待つことにする。しかしタオがいつ牙を向くか分からない。決して逃げられる最悪の形で、戦いに駆り立てられることになる。それは忘れるな。」
 ジョエルが無表情で海潮たちに呼びかけた。タオとの戦いに関する警告を、海潮たちは心に刻んだ。
「みんな、プラントからの緊急放送が始まったよ!」
 そこへヴィーノが来て、カナタたちに知らせてきた。
「プラントから・・!?」
「デュランダル議長が、プラントと各国に向けて発表することがあるみたいだ・・!」
 シンが声を荒げて、ヨウランも話をする。
「ドックのモニターでも映っているよ!見に行こう!」
 ヴィーノが呼びかけて、ドックに戻っていく。カナタたちもドックに向かう中、レイは1人笑みを浮かべていた。

 プラントの最高評議会からの、ギルバートにより発表が行われた。中継はプラントだけでなく、地球や他の宇宙国家にも伝わっていた。
「プラント最高評議会、ギルバート・デュランダルです。この場にて、プラントにて被害に遭われた人々に対し、哀悼の意を表します。」
 ギルバートが挨拶をして、プラントの人々への思いを告げる。
「今、私の中にもみなさんと同様の悲しみ、そして怒りが渦巻いています。なぜこんなことになってしまったのか、考えても既に意味のないことと知りながら、私の心もまたそれを探してさまよいます。」
 世界に向けて沈痛さを訴えていくギルバート。
「2年前、私たちは大きな戦争を経験しました。そしてそのときにも誓ったはずでした。こんなことはもう2度と繰り返さないと。にもかかわらずユニウスセブンは落ち、努力も虚しくまたも戦端が開かれ戦火は否応なく拡大して、私たちはまたも同じ悲しみ、苦しみを得ることとなってしまいました・・」
 彼がこれまでの戦争と悲劇について語っていく。
「本当にこれはどういうことなのでしょうか、愚かとも言えるこの悲劇の繰り返しは。先にも申し上げたとおり、1つは間違いなくロゴスのです。敵を作り上げ恐怖を煽り戦わせて、それを食い物としてきた者たち。長い歴史の裏側にはびこる彼ら、死の商人です。だが我々はようやく、それを滅ぼすことができました。」
 ジブリールを討ってロゴスを倒したことを、ギルバートが報告する。
「世界の融合が起こり、その世界で野心や過ちを抱く存在も現れ、さらなる混沌を呼ぶことになりました。世界の敵の打倒は果たされましたが、未だに傷跡は深く残ったままです。」
 さらにギルバートは世界の融合で激化した争いの経緯も説明していく。
「だからこそ今あえて私は申し上げたい。我々は今度こそ、最大の敵と戦っていかねばならないと。そして我々はそれにも打ち勝ち、解放されなければならないのです。」
 ギルバートが世界に向けて進言をしていく。
「みなさんにも既にお分かりのことでしょう。有史以来、人類の歴史から戦いのなくならぬわけ。常に存在する最大の敵。それは、いつになっても克服できない我ら自身の、無知と欲望だということを・・!」
 彼の語気が徐々に強まっていく。
「地を離れ宇宙(そら)を駈け、その肉体の能力、様々な秘密までも手に入れた今でも、人は未だに人を分からず、己を知らず、明日の見えないその不安。より多くより豊にと飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手。それが今の私たちです・・争いの種・・問題は全てそこにある・・!」
 ギルバートの演説の放送に、彼の進言を示す画像と映像も映し出された。
「だがそれももう、終わりにするときが来ました!我々はその全てを、克服する方法を得たのです!全ての答えは、皆が自身の中に既に持っている!それによって人を知り、自分を知り、明日を知る!これこそが、繰り返される悲劇を止める唯一の方法です!」
 ついにギルバートは、戦いのない世界の実現に向けた考案を発表した。
「私は人類存亡を賭けた最後の防衛策として、“デスティニープラン”の導入・実行を、今ここに宣言いたします!」

 ギルバートが公開し、導入が宣言されたデスティニープラン。
 人間には性格や才能など、あらゆる様々な情報を心身に宿している。これまではその全てを、本人も他人も知っているわけではなかった。
 デスティニープランはその情報を遺伝子工学の観点から見出し、それを元に職業の適性や将来を見定め導くシステムである。これにより人々は過ちのない充実した生活を送ることができ、結果対立や戦争がなくなるというものである。

 戦いのない永久不変の平和。デスティニープランでそれが可能になると、ギルバートは確信していた。
 しかし突然のプランの導入・実行に、各国で動揺は広まった。ギルバートのこの提言を素直に受け入れていいか、各国の首脳陣は騒然となっていた。
 デスティニープランは適性を把握し将来を定めるもの。平和は保たれるが、情報を掌握する管理世界になりかねないと、首脳陣の多くは考えていた。

 デスティニープランの導入に対して、カナタたちも驚きを感じて、シンもルナマリアも動揺を隠せなくなった。
「デスティニープラン・・人類存亡を賭けた、最後の防衛策・・・」
「議長が、こんな計画を立てていたなんて・・・」
 カナタとシンがデスティニープランのことを考えて呟く。
「お前が驚くこともないだろう、シン。デュランダル議長の目指していた世界がどんなものか、お前も知っていたはずだ。」
 レイがシンに向けて言いかける。この状況下でレイは冷静だった。
「それは、オレは分かるけど・・急にそんなこと言われても、みんな慌てるって・・!」
「そうかもしれない。だがそれで諦める議長ではない・・誰もが幸福に生きられる世界。そしてもう2度と戦争など起きない世界。それが議長の目指す世界であり、それを創り上げ守っていくのがオレたちだ。」
「オレたちが・・・!?」
「デスティニーとレジェンドは、そのための力。そのパイロットがオレたちだ。」
 ギルバートの築く世界について語るレイに、シンが心を揺さぶられていく。
「あなたたちも、これからも共に戦ってほしい。議長の目指す、幸福の世界のために。」
 レイがカナタたちにも協力を求める。
「デスティニープラン・・それをやれば、人のやることみんな見ることができて、争いを未然に防ぐことができるけど・・・」
「プラントの・・デュランダル議長の言いなりになるしかない・・・」
 霧子とモモカがデスティニープランの仕組みについて、考えていた。
「平和のためとはいえ、これは管理社会を作るシステムね。誰かに言われて未来を進み、ただ言いなりの人生を過ごす・・」
「またそんなことを・・まさか議長がやらかすなんてね・・」
 サリアがデスティニープランの本質を口にして、アンジュが肩を落とす。
「それに、いきなりこのような大きな政策を打ち出しても、各国が鵜呑みにするとは思えないわ・・」
 恭子も世界の混迷が大きくなることを予感する。
「それは分かっている。一筋縄にはいかないだろう。いつの時代でも、変化は必ず反発を生む。それによって不利益を被る者、明確な理由はなくともただ不安から異を唱える者が必ず現れる。議長の仰る通り、無知な我々には明日を知る術がないからな。」
 レイが世界の状況や心理についても語っていく。
「人はもう、本当に変わらなければならないんだ。でなければ救われない。お前もステラも、ここにいるオレたち全員・・」
 彼が口にした言葉に、シンたちが顔を強張らせる。
「君たちも不利益を被ってきた。自分を知ることができていれば、世界の理不尽を受けることはなかった。」
 レイがカナタたちのことも話していく。貧乏な暮らし、ノーマへの差別と迫害、裕福な生活からの地獄の日々が、海潮やアンジュたちの脳裏をよぎる。
「そんなことを繰り返さないためにも、デスティニープランはやり遂げなければならない。」
「だけどこれだって、オレたちやみんなの意思が反映されてるのか・・・!?」
「それが、この混沌から人類を救う唯一の方法だ・・」
 腑に落ちないシンだが、レイは言い聞かせようとする。
「いいか、みんな。この先何が起ころうと、誰が何を言おうと、議長だけを信じろ。」
 カナタたちにギルバートへの忠義を求めるレイ。クロスが新たな岐路に立つことになった。
 
 
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