スーパーロボット大戦CROSS
第61話「不自由な楽園」

 

 

 ワームホールの出現と消失は、プラント最高評議会でも確認していた。ギルバートたちはワームホールとタオ、キュリオテスについて議論を交わしていた。
「タオとキュリオテスは、ランガの存在を認めず、排除した。島原3姉妹の兄、島原勝流もキュリオテスとなり、彼女たちを欺いてランガ抹殺を遂行した・・」
 ギルバートがタオとキュリオテスについて語っていく。
「ミネルバは依然としてクロスとして行動して、バロウ島に滞在しています。」
「いかがいたしますか?最悪、キュリオテスに与することになりますが・・」
 議員たちがギルバートに報告を伝えて、判断を伺う。
「しばらくはミネルバはクロスとして同行させる。グラディス艦長ならば、状況に応じて適した判断をするはずだ。」
 ギルバートがタリアたちへの信頼を、議員たちに伝える。
「分かりました・・引き続き、各地の動向の把握に努めます。」
 議員たちが頷いて、各地の出方を伺うことにした。
(その間に準備を進めておこう。おそらく今のこの問題が解決したときに・・)
 議場を後にしたギルバートが、1つの思惑を練り上げていた。

 カナタたちもキュリオテスについて話し合いが行われていた。勝流たちキュリオテスの味方になるか否か、それぞれが考えを述べていた。
「世界の平和のため、タオという存在に地球を破壊させないために、キュリオテスに従った方がいいという意見がプラントの中であり、賛否が分かれています・・」
 タリアがプラントでの状況をカナタたちに伝える。
「日本も世界各国もキュリオテスを支持しています。ランガを討ったことで地球を救った英雄として、彼らを信頼しているようです・・」
 恭子が地球の状況を報告していく。
「世間としてはキュリオテスを支持してるみたいだけど・・」
「いきなり出てきて、ランガを悪だと決めつけて倒してしまうなんて・・・」
 ジャスミンが話を続けて、カナタが不満を口にする。タリアたちも勝流たちに対する疑念を捨てきれないでいた。
「魅波さん、あなたたちはどうするのですか・・?」
 サラマンディーネが魅波に考えを伺う。
「島原勝流さんはキュリオテスの1人ですが、あなたたちの兄でもあります。兄と協力するか、ランガを失ってもタオに挑むか、決めるのはあなたたちです。」
「私は・・私たちは・・・」
 サラマンディーネの言葉を受けて、魅波が困惑していく。
「タオの地球への攻撃はなくなりました。ゆっくり考えればいいと思います。」
 サラマンディーネが魅波に助言して、タリアたちが頷いた。
(勝流さん・・・)
 勝流への想いを募らせていく魅波。しかし彼女はこれを心の中に押し留めていた。

 海潮もカナタたちも、勝流たちに賛同すべきかどうかを考えていた。
「いいんじゃないかな?お兄さんの言うとおりにしても。」
「でも、ランガいなかったら、私たち・・・」
 茗が助言を送るが、海潮はランガのことを考えていた。
「こんな一方的に、ランガを悪者と決めつけて、自分たちが救世主みたいになって・・・」
「これじゃ、何もかもアイツらの思い通りじゃないか・・!」
 カナタとシンはタオと勝流たちへの不満を感じていた。
「神様だろうと誰だろうと、一方的に支配されるのは私はまっぴらなのよ・・私たちにケンカを売るなら、徹底的に勝ってやるわ・・」
「そして私たちの手で、自由を勝ち取る・・・」
 アンジュとサリアは納得できず、タオとキュリオテスに対する敵意を感じていた。
「自由・・楽園・・そういうのは、どういうものなのかな・・・?」
 霧子が楽園について考えて、表情を曇らせる。
「楽園は・・何にも縛られず、何にも悩むこともなく、正しいことを正しいと言える・・そんな場所だよ・・・」
 海潮が声を振り絞るように、楽園について語っていく。
「何も縛られない・・私の考える自由ね・・・」
「だけど、今がその自由かって言われたら、そうだとは言い切れない・・・」
 アンジュが海潮の言葉に共感するが、カナタは現状に納得していない。
「オレが楽園をつくってやるぜ!美女だらけの最高のハーレムをー!」
「くだらないことを言わないでよね・・」
 興奮する孝一に、サリアが呆れて注意する。
「でも、タオの支配から抜け出さないと・・・」
 海潮は納得できず、辛さを募らせていく。世界も宇宙もタオに支配されていることを、カナタたちは心の中で引っかかっていた。
「所詮、この地球に楽園なんてないのよ・・宇宙の彼方で、私ら愚民を支配する方が、何ぼか自由でしょうよ・・」
 茗が皮肉を口にして、物悲しい笑みを浮かべる。
「確かに、これ以上の自由はないわね・・この上なく最低でもあるけど・・・」
「それでみんなが平和になるとしても・・・」
 サリアも皮肉を口にして、シンが考える。戦いのない世界のために戦ってきた彼だが、それがどのような形なのかが分かっていない。
「デュランダル議長は平和な世界を実現しようとしている。実現してくれるとは思うけど、それがどんな世界なのか・・」
 シンはギルバートのことを考えるようになる。
「そういえばデュランダル議長は、プラントの最高評議会は、今回のことはどう思っているの・・?」
「まだ何も言ってきてはいない。グラディス艦長の判断を信じているみたいだ・・」
 将馬が問いかけて、シンが聞いている範囲のことを答える。
「まだ、もう少し待つということになりそうだ・・体が休まるのはいいことだけど・・・」
 問題はまだまだ続くと思い、カナタが肩を落とす。彼は海潮たちと共に、バロウの村の様子に目を向けた。
 村の人々は昨晩の騒動や悲劇が噓であるかのような、和やかな雰囲気を見せていた。彼らのこの様子が、カナタたちに安らぎを与えていた。
「何だか・・いいですね・・・」
「そうね。イヤなことをみんな忘れさせてくれそうな雰囲気よね・・」
 海潮が微笑んで、茗が共感する。カナタもシンもアンジュも、戸惑いを感じながら村と人々を見つめていた。
「でも、ここは本当の楽園じゃない・・・」
 しかし自分の求める楽園とは違うと思い、海潮は表情を曇らせた。
「本当の楽園は、自分で見つけるしかないのかしらね・・・」
 アンジュが夕日の差す空を見上げて呟く。考え方はそれぞれで、楽園がどういうものなのかを分かっていなかったが、カナタたちは心のどこかで楽園を求める気持ちを持つようになっていた。
 そのとき、人々がざわつき始めて、カナタたちが気付いた。
「あれは・・・?」
 カナタが海の方を見て目を凝らす。海が揺れて水が舞い上がっていた。
「ランガ・・・?」
 海を見つめる海潮が、ランガを感じて戸惑いを感じていく。
「何か起こったみたいだ・・1度戻って、いつでも出撃できるようにしよう・・!」
「あぁ・・大森さん、海潮を頼みます!」
 カナタが呼びかけて、シンが茗に呼びかける。だが海潮が海に向かって歩き出した。
「海潮!?」
「海潮、どこへ行くの!?」
 孝一と霧子が海潮を見て声を荒げる。
「しょうがないわね!私が止めに行くから、みんなは先に戻りなさい!」
 アンジュが不満げに言って、茗と一緒に海潮を追いかけた。
「オレたちもすぐに発進して戻ってこよう!」
 カナタが呼びかけて、シンたちと共にミネルバに戻っていった。

 スーラを失い、艦隊によって破壊されたはずのランガ。しかしランガは再び動き出し、海上に姿を現した。
 撤退していた艦隊がバロウ島に戻ってきて、再びランガに攻撃を始めた。ボロボロの状態だったが、ランガは砲撃をものともしていなかった。
 その様子を、魅波たちも目撃していた。
「ランガ・・生きていたのね・・・!」
「しかし、スーラなき今、ランガは動かないはず・・」
 魅波が安堵して、ナーガが疑問を覚える。
「そうだ・・ランガが復活することなどありえない・・・!」
 勝流がランガが生きていたことを危惧する。彼は冷静さを保ちながらも、いら立ちを感じていた。
「何者かが動かしているのよ・・このままでは、タオが・・・!」
 ナイエルが勝流たちの前に現れ、声を荒げる。ランガがまだいることでタオの怒りが地球を襲うのを、2人とも危惧していた。
「魅波、君たちがやるんだ。」
「えっ・・?」
 勝流が呼びかけて、魅波が当惑する。
「プルティウイを与える。君たちでランガを倒すんだ。」
 改めてランガを倒すように告げる勝流。魅波が困惑して、答えることができない。
「クロスのみんなも協力してほしい。このままでは地球までもが滅びることになる・・」
 勝流がサラマンディーネたちにも協力を求める。サラマンディーネたちは勝流とナイエルに素直に協力しようという気になれないでいた。
「私、やるわ。」
 そこへ夕姫がラブ、ジョエルと共に来て声を掛けてきた。
「私がランガを倒す。そうすればキュリオテスに、宇宙の支配者の1人になれるんでしょ?」
「あぁ、そうだ。おいで、夕姫。」
 戦うことを望む夕姫に、勝流が微笑んだ。夕姫は勝流とナイエルに連れられて歩き出す。
「みんな!」
 そこへカナタたちが戻ってきて、夕姫たちの様子を見て当惑を感じた。
「戻ってきたか・・今度こそランガを倒す。それが地球を救うことになるんだ。」
 勝流がカナタたちに目を向けて、ランガ打倒の考えを伝える。
「ランガを倒すことが、世界のためになるっていうのか・・・!」
 シンが問い詰めると、勝流が微笑んで頷いた。夕姫たちは再び歩き出し、魅波も3人を追っていく。
「魅波、あなたたち・・キュリオテスになるつもりなの・・!?」
 サリアが魅波を呼び止めて問い詰める。
「人間を超えた存在がキュリオテス・・ノーマとそうでない人以上の違いがあるのよ・・・」
「分かっているわ・・でも、失くしたくないのよ、2度と・・・!」
 苦言を呈するサリアに、魅波が感情を込めて言い返す。
「ずっと勝流さんと離れ離れだった・・死んだと思っていたけど、私たちのところに帰ってきた・・キュリオテスでも、普通の人間じゃなくても・・勝流さんと一緒にいられるなら・・・!」
 魅波が自分の本心をサリアに語っていく。
「あの人と一緒に・・・ジルやエンブリヲにすがっていた私と同じ・・・」
 サリアが昔の自分を思い出して、魅波に共感していく。
「兄妹だから、いけないことなのは分かっている・・だから、私の中だけの楽園ってところね・・・」
「魅波・・・」
 魅波から気持ちを聞いて、サリアが戸惑いを感じた。
「行くわ、私たちは・・せめて、私たちの邪魔はしないで・・・」
 魅波はサリアに告げてから、夕姫たちを追いかけていった。

 カナタたちはラブと共に、タリアたちのところへ戻ってきた。隼人たちがビッグエース、エースに乗って島の人たちの護衛に回り、ジョエルもそこに留まった。
「私たちの出撃はまだよ。現状を把握してからになるわ。」
 タリアが精霊に判断して、カナタたちに指示を送る。
「分かっているのは、倒されたはずのランガが生きていて、海上で艦隊からの攻撃を受けているということだけ。1度消えたワームホールが出ていないか、別動隊が調査中よ。」
「そうですか・・・いつでも出られるようにしておかないと・・・!」
 タリアの判断を聞き入れて、カナタはイザナギのあるドックに向かった。シンとレイ、ルナマリアもタリアに敬礼をしてから、彼を追った。

 ランガを追い求めて、海潮が海に入っていく。
「ランガ、生きていたの・・・?」
 ランガに向けての問いかけを呟いて、海潮はさらに進む。
「海潮ちゃん、戻りなさい!」
「ランガのところに行くつもり!?」
 茗が海潮を呼び止めて、アンジュが声を荒げる。
「私たちがアイツらを倒すわ!だから海潮は戻るのよ!」
「違うよ。ランガを壊させたのはその人たちじゃない・・悪いのは、お兄ちゃんと私たち・・だから・・!」
 呼びかけるアンジュに言い返して、海潮が海の中に入った。」
「海潮・・・おいで、ヴィルキス!」
 海潮に対して歯がゆさを感じながら、アンジュがヴィルキスを呼んだ。そばに移動してきたヴィルキスに乗って、アンジュが海潮を追いかけた。

 ナイエルの呼び出したプルティウイの中に、魅波と夕姫が入った。勝流は自分のバンガ「アカサ」の中に、ナイエルと共に入っていた。
「これがバンガ・・ランガとあまり変わりないわね・・」
 魅波がプルティウイの中を見て呟く。海潮がイブキやランガに入ったときと同じように、魅波たちはプルティウイとアカサの中で全裸の姿になっていた。
「ジョエルが言ってたわ。死んだスーラの体を奪って、鎧にしたって。」
 夕姫がバンガのことを口にする。バンガはスーラを使って作られたため、構造はランガと大きな差はない。
「それがどうかしたかい?」
「ううん・・だったら、ランガより絶対強いなんてないんだなって・・」
 勝流が声を掛けると、夕姫が顔を横に振って微笑んだ。
 魅波たちの動かすプルティウイがランガのいる海へ飛んでいき、アカサが続く。
「ランガ!」
 ランガの姿を目にして、夕姫が笑みを強めた。
「待って!」
 そのとき、魅波がランガを見て声を上げた。体を再生させていくランガの上に、海潮がいた。
「海潮!」
 真剣な面持ちの海潮に、魅波と夕姫が驚く。アンジュの乗るヴィルキスが近くに来て、フライトモードからアサルトモードに変形した。
「海潮、私たちでランガを倒すの!壊さなければ・・一緒に暮らせないのよ!」
 魅波が海潮を説得しようと呼びかける。しかし海潮はランガの中に入っていった。
「海潮!」
 魅波が海潮に向けて悲痛の叫びを上げた。
 ランガの中に入った瞬間、海潮は違和感を覚えた。
「スーラじゃないの?・・それじゃ、誰が・・・?」
 ランガを動かしてきた人物のことを考える海潮。
 そのとき、上から何かが落ちてきて、海潮の左肩に付いた。それが赤い血だったことに、彼女は目を見開いた。
「ラブレ!?・・ラブレが動かしているの・・・!?」
 ランガが動いた理由が分かり、海潮が憤りを覚える。彼女は左肩に付いた血を右手で体に引き伸ばした。
「ランガを倒せ、魅波、夕姫。」
 勝流が魅波たちに指示を送る。
「勝流さん、海潮はどうなるの・・・?」
「やるんだ・・・!」
 困惑する魅波に、勝流が鋭く告げる。魅波たちの乗るプルティウイに、海潮のランガが立ちはだかった。

 海潮がランガに入り、魅波たちと対峙していることは、タリアたちも確認していた。
「海潮たちが戦おうとしている・・止めないと・・!」
「艦長、行かせてください!海潮たちを止めます!」
 ルナマリアが声を荒げて、シンが出撃の許可を求める。
「出てはいけない。今、飛び込めばこちらにまで飛び火するぞ。」
 しかしレイがシンたちを呼び止める。
「だけどこのままじゃ海潮たちが・・!」
「下手に飛び込んで、オレたちに被害が出るわけにはいかない。まだ待機だ。」
「海潮たちを見捨てるつもりか!?」
「勝手な行動をすれば、オレたちの体勢を乱すことになる。これは命令だ。」
「何が命令だ!レイ、海潮たちはお前にとって仲間じゃないのかよ!?」
 冷たく告げるレイに、シンが不満をぶつける。
「オレたちはザフトだ。上官の命令に従う責務がある。」
「ザフトでもあるが、クロスでもある!オレはみんなを見捨てない!」
 ザフトとしての任務を務めるレイに、シンが海潮たちを助ける意思を示す。
「シン、オレが行く!ザフトじゃないオレが!」
 カナタがシンたちをなだめて、自分が出撃しようとしていた。
「クロスのパイロットは出撃。ただし状況が混乱しているため、海潮さんたちの制止のみを許可します。」
 タリアがカナタたちの出撃の許可を出した。
「艦長、それでは我々自身を追い込むことに・・!」
「覚悟しているわ・・その上で海潮さんたちの争いを1度止めるのよ。」
 動じるアーサーに、タリアが自分の考えを伝える。
「分かりました、グラディス艦長。」
「そっちが渋っているから、こっちはこっちで出ていこうと思っていたところだよ。」
 恭子がタリアに答えて、ジャスミンが笑みを浮かべた。
「艦長・・・ありがとうございます!」
 シンが感謝して、ルナマリアたち、カナタたちと共に発進に備えた。
「天命カナタ、イザナギ、行きます!」
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
 カナタのイザナギ、シンのデスティニー、レイのレジェンド、ルナマリアのコアスプレンダー、ステラのガイアがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが射出されて、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。
「ヒルダ隊、出るよ!」
 ヒルダの掛け声と共に、テオドーラで出撃する。
(これからまた、アルゼナルの一員として、クロスとして戦う・・私自身の意思で・・・)
「クレオパトラ、サリア、行くわよ!」
 サリアが心の中で呟いてから、クレオパトラで出撃した。
「行くよ、エルシャ!」
「えぇ、ヴィヴィちゃん!」
 ヴィヴィアンが呼びかけて、エルシャが微笑んで答える。レイザーとレイジアもアウローラから発進した。
「クリス、またあたしら一緒にやっていこうぜ!」
「うん、ロザリー・・お互い、助け合ってね・・」
 ロザリーとクリスが声を掛け合い、グレイブとハウザーで出撃した。
「アーキバス、タスク、出ます!」
 タスクもアーキバスに乗って、アウローラから出た。
「サラマンディーネ様、私たちもクロスに加勢するのですか?」
 カナメがサラマンディーネに疑問を投げかける。2人もナーガもランガとタオ、どちらに味方すればいいのか判断していない。
「間近で見極めましょう。私たちのなすべきことを・・」
「サラマンディーネ様・・・分かりました。」
「私も状況を見定め、決断します。」
 サラマンディーネが励まして、カナメとナーガが答えた。焔龍號、碧龍號、蒼龍號もアウローラから発進した。
「ダイミダラー超型、出るぜ!」
「ダイミダラー6型・霧子、行きます!」
 孝一と恭子のダイミダラー超型、霧子のダイミダラー6型もオルペウスから出撃した。
「オレたちも出るぞ!」
「ビッグエース、エース、発進します!」
 隼人とエリナが掛け声を上げて、ビッグエースが発進した。
「どんどん大変なことになっていくわね・・ついていけないよ~・・」
「私も同じ気持ちよ。でもやらなくちゃ!やれることをね!」
 翔子がため息をついて、穂波が決意を口にする。2人の乗るエースも出て、ビッグエースとともにオルペウスの上に乗った。

「ランガは壊させない!キュリオテスになんかならない!」
 魅波と夕姫の乗るプルティウイに向かって、海潮が決意を言い放つ。
「だったら戦うしかないじゃない。」
「夕姫!?」
 不敵な笑みを浮かべる夕姫に、魅波が当惑する。
「だって、海潮はほしかったんでしょ?誰にも支配されないで、正しいことを正しいと言える、そんな楽園が。」
 海潮の考えについて強気に言う夕姫。
「兄さんの楽園がイヤなら、後は戦って勝ち取るしかないじゃん!」
 彼女の動かすプルティウイ。海潮の動かすランガが背中の翼をはばたかせて、空に離れていく。
 プルティウイの突撃を回避するランガだが、反撃しようとしない。
「どうしたの!?戦いなさいよ!そうやって逃げて、何が手に入るの!?」
 夕姫が海潮に挑発を言い放つ。プルティウイの上半身が下半身から離れて、ランガを後ろから羽交い絞めにする。
「やめてゆうぴー!私たちが戦って、傷つけ合って・・これが、アンタの楽園なの!?」
 呼び止める海潮と、笑みを強める夕姫。身動きの取れないランガに、プルティウイの下半身が突撃する。
「あなたたち、何をやっているの!?やめなさい!」
 アンジュが海潮たちに怒鳴り、ヴィルキスがアサルトライフルを構えた。次の瞬間、ヴィルキスが突然衝撃に襲われた。
「くっ!」
 ヴィルキスが海に叩きつけられ、アンジュがうめく。
「ランガを倒すのならともかく、この戦いの邪魔はやめてもらおうか。」
 勝流がアンジュに向けて忠告する。ヴィルキスが受けた衝撃波、アカサが発したものだった。
「アンタ、妹を殺すつもりなの!?姉妹同士で戦うのを、高みの見物をするつもり!?」
「タオのため、ランガを倒すためだ。」
 アンジュが怒鳴るが、勝流は自分の考えを変えない。
「ランガの味方をするなら、君にも容赦はしないよ。」
 勝流がヴィルキスに鋭い視線を向ける。
「容赦しないのは、こっちのほうよ!」
 アンジュがいきり立ち、ヴィルキスがアサルトライフルを発射する。しかしその直後にアカサの姿が消えた。
 目を見開いて周りを見回すアンジュ。ヴィルキスの後方に、アカサが姿を現した。
「なっ・・!?」
 アンジュが驚愕し、ヴィルキスがアカサから離れる。
「いつの間に後ろに!?・・もしかして、アイツも瞬間移動ができる・・・!?」
 アンジュがアカサの能力を警戒する。
「アンジュ!」
 そこへタスクが声を掛けて、アーキバスたちが駆け付けた。
「あれが、勝流さんのバンガ・・・!」
 恭子がバンガを見て緊張を覚える。
「何をやってるんだ、アンタ!?アンタの妹が争っているんだぞ!」
 シンがランガとプルティウイを見て、勝流に怒鳴る。
「君たちにも邪魔はさせないよ。それに、君たちを狙っている者もいるようだ。」
 勝流がカナタたちにも忠告すると、海上にいた艦隊がイザナギたちに狙いを向けてきた。
「アイツらともグルかよ・・!」
「というよりも、艦隊がキュリオテスに従っているみたい・・・」
 艦隊に対して孝一が毒づき、霧子が困惑を覚える。
 艦隊がイザナギたちに向かって砲撃をしてきた。イザナギたちが回避するが、ランガたちに近づけなくなる。
 その間にも、夕姫が動かすプルティウイがランガを責め立てていた。
「海潮、夕姫・・・やめて!やめなさい!
 魅波が見かねて、たまらず呼び止める。
「やめなさい、夕姫!本気で海潮をどうかする気!?・・勝流さん、やめさせて!」
 彼女が勝流に目を向けて呼びかけた。
「ずっと一緒にいられるんだよ、魅波。」
「でも、海潮も一緒じゃないと・・・!」
 悠然と言う勝流に、魅波が困惑する。
「いいかい?キュリオテスは人じゃない。人の世界の法もタブーも無意味になる。君がどんなつもりで僕を待っていてくれたのか、わかっているつもりだよ。」
「えっ・・・!?」
 勝流が口にした言葉に、魅波が耳を疑う。
「君の考えていることは分かっている。君の僕に対する気持ちもね。しかしキュリオテスになれば、その弊害はなくなる。君の描いていた願いが叶うんだよ。これからは、僕と一緒に・・」
 魅波に語りかけて手招きをする勝流。彼のこの言葉と考えに、魅波は目を見開いた。
 その直後、プルティウイの下半身が突然動きを止めた。
「な・・何やってるのよ、お姉ちゃん!?」
 魅波がプルティウイの下半身を止められて、夕姫が怒鳴る。魅波は勝流に対する強い怒りをあらわにした。
 魅波の意思によってプルティウイの下半身がアカサに向かっていき、つながっている上半身も引っ張られた。反抗してきた彼女に対し、勝流が目つきを鋭くした。
 アカサに突撃する直前で、プルティウイが見えない壁のような衝撃とぶつかった。
「うわあっ!」
「お姉ちゃん、ゆうぴー!」
 悲鳴を上げる魅波と夕姫に、海潮が叫ぶ。プルティウイが粉々になり、魅波たちが外に出た。
(私は、イヤ・・・)
 夕姫と共に海に落下していく魅波。勝流への想いが打ち砕かれた魅波は、彼との決別を痛感した。
「夕姫、魅波!」
「2人とも、無事に海の上に顔を出したわ・・!」
 アンジュが叫び、サリアが魅波たちが海から顔を出したのを確認する。
「1度だけなら、反抗も見逃す。今度こそ2人で、僕のアカサを動かせ。」
 勝流が命令をして、夕姫がアカサに向かう。しかし魅波はランガのほうに向かって泳いだ。
「魅波・・!」
 勝流が呼び止めるが、魅波は聞かなかった。
「妹を殺そうとするアニキなんて、ホントのアニキじゃない・・・!」
 シンが勝流に対して怒りを覚える。
「お兄様、か・・・」
 アンジュがジュリオのことを思い出して、複雑な気分を覚える。
「でも、魅波さんの気持ちは、お兄さんに対してだけじゃなく、愛情も抱いていたのよ・・」
 サリアが魅波の心境を語っていく。
「えっ!?・・兄妹なのに愛していたの・・!?」
「さすがにそれは気色悪いだろ・・・」
 この言葉にルナマリアと驚き、ヒルダが気まずくなる。
「さすがに本人もそれは分かっているわ。自分自身で悪いと思っている。だから楽しいと思えることもある。禁じられた楽園ってところね・・」
 サリアがさらに魅波のことを話していく。
「でも、相手もそれを知っていて、しかも本気にするなんて、最低じゃない・・」
「心の中で妄想するのはいいけど、本気でやるのはいい気がしない。魅波自身も、そう思っていたのね・・」
 彼女の言葉にアンジュが納得する。
「これであの人の楽園は、心の中にしかない・・」
 魅波の絶望をエルシャも把握する。彼女たちが見つめる中、魅波がランガが差し伸べた右手の上に乗った。

 
 
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