スーパーロボット大戦CROSS
第60話「流行りの天使」

 

 

 エンブリヲ打倒に成功したカナタたち。カナタはイザナギのディメンションブレイカーで、元の世界へ通じる次元のトンネルをつなげた。
「これで戦いが終わったのか・・エンブリヲとの戦いが・・・」
 カナタが言いかけて、サリアたちが頷いた。
「でも戦いが終わったわけじゃない・・カンナたちがいるし、オレにはゼロス博士を見つける目的がある。」
「ここまで一緒に戦ってきたんだ!この後もおめぇらに付き合うぜ、カナタ、ラブ!」
 自分たちの戦いが残っていることを考えるカナタに、孝一が気さくに呼びかける。
「私たちも、モモカやヴィヴィアンたちが待っているからね。」
「帰ろう。みんなのところへ・・」
 海潮が言って、ランガが飛翔する。ヴィルキスたちも飛び上がり、次元のトンネルへ飛び込んだ。

 ルナマリアたちが待っているはずの武蔵野に、カナタたちは戻ってきた。空から雪が降っていて、積もり始めていた。
「雪・・武蔵野に雪が降っているよ。」
「この感じなら積もりそうだな。みんなと雪合戦ができるぜ!」
 海潮が雪を見て笑みをこぼし、孝一が張り切る。
「でもみんながいないわね・・」
「ここで待ってるはずだぞ・・!」
 エルシャが周りを見回して、ヒルダが声を荒げる。
「ミネルバ!こちら、シン!ただ今戻りました!」
 シンがタリアたちに向かって通信を試みる。イザナギとランガが1度地上に着地した。
(虚神会も連合軍も全滅して、エンブリヲも倒した・・まだディメントとの戦いがあるけど、武蔵野に平和は戻ったよね・・・?)
 平穏が戻り、ランガや勝流と一緒にこれからも暮らしていけると、海潮は信じていた。
 そのとき、ランガに向けて石が投げられた。ランガの体に石が当たったことに気付き、海潮が視線を移した。
 ランガの前に人々が集まってきた。しかしその様子がおかしく、ランガを鋭く睨みつけてきていた。
「みんな・・・どうしたの、いったい・・・?」
 海潮が人々を見て、不安を覚える。
「ランガ、反対!」
「ランガは人類の敵だ!」
「早くここから出ていけ!」
 人々がランガに向けて怒鳴ってきた。彼らはランガに強い憎悪を向けていた。
「どういうこと?・・ランガが何をしたの・・・!?」
 状況が理解できず、海潮が困惑する。
「何があったんですか!?ランガが敵って・・!?」
 カナタがたまらず人々に問いかける。
「ランガがいると地球が滅びるんだ!」
「ランガがいなくなれば、私たちは助かるんだ!」
「天使様がそう言っていたんだ!」
 人々が口にする答えに、海潮が耳を疑う。
「天使!?・・いったい何のことだ・・・!?」
「誰が、ランガが悪いって吹き込んだの!?」
 タスクが疑問を覚えて、ラブも声を荒げる。
 そのとき、フライトモードのヴィルキスがアサルトライフルを発射した。射撃は武蔵野の空を駆け抜けたが、その衝撃で人々が押し黙る。
「私たちの世界だけかと思っていたけど、他の世界にもいるのね・・身勝手で下劣な豚がいるのは・・・」
 アンジュがため息をついて、冷徹に告げる。
「地球が滅びる?自分たちが助かるために、他のヤツを犠牲にするなんて、見下げ果てたものね・・」
「おい、お前!ランガの味方をするつもりか!?」
 不満を見せるアンジュに、人々が反論してきた。
「地球を滅ぼす原因になるヤツの味方をするのか!?」
「クロスはみんな、そういうヤツらなのか!?」
「アイツらも地球の敵だ!早く出ていけ!」
 人々が憎悪を強めて、ランガと海潮だけでなく、カナタたちにも敵意を向けてきた。
「アンタたちも死ななきゃ分かんないようね・・!」
「やめて、アンジュ!今はここから離れよう!」
 憤りを募らせるアンジュを、海潮が呼び止める。
「私も海潮に賛成です・・事を起こすのは、現状を把握してからでも遅くはないです・・」
「・・分かったわよ・・・早くモモカたちのところへ行くわよ・・・!」
 サラマンディーネからも言われて、アンジュが不満げに聞き入れる。ランガたちが飛翔して、武蔵野から移動した。
「何がどうなってんだよ、まったく・・!」
 孝一も納得ができず、コックピットの壁に拳を打ち付ける。
「まずはルナたちと合流すべきだ。移動しながら連絡を続けるんだ。」
「エンブリヲのいた世界がこっちと時間の流れが同じなら、そんなに遠くには行っていないはずだ・・・!」
 シンとカナタが声を掛けて、レーダーを確かめてミネルバ、アウローラ、オルペウスを捜す。
「グラディス艦長、ジャスミンさん、魅波さん!応答してください!」
 カナタがタリアたちに向けて通信を送る。
“カナタくん、シン、みんな戻ってきたのね!”
 彼らにメイリンからの返信が届いた。
「メイリン!みんなもいるのか!」
「みんな、今どこにいるんですか!?」
 シンが声を荒げて、カナタが問いかける。
“突然のことですみません・・私たちは今、バロウ島にいます。”
「バロウに!?・・あそこならみんな・・・!」
 メイリンの報告を聞いて、海潮が戸惑いを覚える。
「今からそっちへ向かう!そのときに詳しく話を聞かせてくれ!」
“了解です。グラディス艦長にもそう伝えます。”
 シンが呼びかけて、メイリンが答えて通信を終えた。
「バロウ・・ランガの伝説のある楽園・・・」
 サラマンディーネがバロウ島のことを考えて、深刻さを感じていく。
(ランガがいると地球が滅びる・・数日前にこの世界の宇宙で探知されているワームホール・・もしかして・・・!?)
「サラ子、どうしたのよ・・?」
 一抹の不安を感じたところでアンジュに声を掛けられて、サラマンディーネが我に返る。
「いえ、何でもありません・・バロウ島へ向かいましょう・・」
 サラマンディーネが落ち着きを払って、アンジュに答えた。

 バロウ島にたどり着いたカナタたち。その浜辺にミネルバ、アウローラ、オルペウスが停泊していた。
「いた!みんないたよ!」
 ラブがミネルバを指さして喜ぶ。イザナギたちが浜辺に着陸した。
「海潮!」
 ランガから出てきた海潮に、魅波が駆け寄ってきた。ルナマリア、ロザリー、モモカもやってきた。
「アンジュリーゼ様!あのエンブリヲを討ち果たしたのですね!」
「えぇ。これで自分勝手な変態から解放されたわ・・私もみんなも世界も・・」
 喜ぶモモカに、アンジュが笑みをこぼす。
「やっと戦いに区切りがついて戻ってきたと思ったら・・」
「何だよ、いきなり・・ランガが地球を滅ぼすって・・・!」
 ヒルダと孝一が武蔵野の人々の行動に不満を感じていく。するとルナマリアとモモカが深刻な面持ちを浮かべた。
「タオの使いと名乗る人たちが言っていたの・・宇宙に現れたワームホームはタオの怒りで、穴の向こうに惑星ほどの大きさの塊も確認されたわ・・」
「その星を、ランガに向かって落とすっていうの・・!?」
 ルナマリアが説明をして、将馬が声を荒げる。
「その大きさも質量も、ユニウスセブンさえも軽く超えるほどのもの・・ぶつかったら確実に地球が木っ端微塵になって、地球にいる人は滅びるって・・・」
「だからって何でランガが悪いの!?」
 ルナマリアがさらに説明するが、海潮が納得できず怒鳴る。
「そこまでは分からないです・・今、そのことでみんな調査をしています。海潮さん、グラディス艦長があなたとランガにも協力してほしいと言っていました。」
 モモカが言葉を返してから、海潮にお願いをしてきた。
「ランガはまだまだ謎の部分が多いです。スーラが中にいたこと、海潮さんたちがそのスーラの直系だということが分かりましたが・・」
「モモカさん、その話、誰から聞いたのですか?スーラの血を引く者にしかランガや神と一体になれないということは、まだ海潮さんしか知らないはずです。」
 話を続けるモモカに、サラマンディーネが訊ねた。
「はい。勝流さんからです。あの人が話をしてくれたんです。」
「お兄ちゃんが・・やっぱり、ランガのこともスーラのことも知ってるんだね・・」
 モモカの答えを聞いて、海潮が勝流のことを考えて微笑みかける。
「まずはみんなのとこに行こうぜ。みんな、待ってるぜ。」
 ロザリーが困惑しながら、カナタたちに声を掛けてきた。
「そうね・・1度休みたいし、期待の整備もしておかないと・・」
 サリアがクレオパトラたちを見て、体勢を整えることを提案する。カナタたちも頷いて、ルナマリアたちの案内を受けることにした。

「海潮!」
 カナタたちがやってきて、魅波が海潮を抱きしめた。
「ただいま、お姉ちゃん・・みんな、帰ってきたよ・・」
「海潮・・・私たちも、突然のことでまだ驚いているのよ・・・」
 喜ぶ海潮に、魅波が現状を深刻に考える。
「シン、カナタくん。みんなも戻ってきたわね。」
 タリアが夕姫、勝流と一緒に来て、カナタたちに声を掛けてきた。
「グラディス艦長・・エンブリヲは倒しました。しかし世界中の人たちが、ランガのことを・・」
 シンが敬礼して、タリアに報告をする。
「キュリオテスっていうタオの使者が、世界中で言い回ってるのよ・・ランガがいると地球が滅びるって・・」
 夕姫がキュリオテスのことを海潮たちに話す。
「それを聞いた人たちが、ランガ反対のデモを起こしているのよ・・」
「地球が滅ぶのが何でランガのせいになるのよ・・!」
 魅波が話を続けて、夕姫が人々への不満を募らせる。
「ランガに秘められた特殊な力を、タオが忌み嫌っているのです・・」
 サラマンディーネがタオについて話を切り出した。
「サラ子、何か知っているの・・!?」
 アンジュが彼女に目を向けて疑問を投げかける。
「私たちの世界では伝説となっていることです・・ランガは、私たちの世界にも存在していました・・」
 サラマンディーネが話を打ち明けて、魅波と夕姫が緊張を覚える。
「でもランガは滅んでいるのです・・私たちの世界のランガを実際に見たことがあるのは、今ではアウラだけでしょう・・・」
 サラマンディーネが語るランガの歴史に、海潮たちは戸惑いを覚える。
「そういえば、アウラもここに来ているの・・?」
 ラブがアウラのことを魅波たちに聞く。
「アウラは1度、元の世界へ戻ったようです。ドラゴンの部隊と共に・・ただし、ナーガさんとカナメさんは残ることを決めて、ここに留まっています。」
「アウラ・・・あなたはこの世界の行く末を見届けようとしているのですね・・私たちの地球の復興を進めながら・・・」
 タリアからアウラのことを聞いて、サラマンディーネが戸惑いを覚える。自分たちがいるのとは違う世界の未来を見届ける必要があると、彼女は決意を固めていた。
「ミスルギ皇国も他の国も、私には知ったことじゃないわ・・ただ、私たちのいる場所を吹き飛ばそうとするなら、私は戦うわ・・たとえ相手が何だろうと・・」
 アンジュが自分の揺るぎない意思を口にする。
「相変わらずね、アンジュは・・私も今は同じ考えだけどね・・」
 サリアが呆れた素振りを見せるも、アンジュに賛同する。
「でもまだタオがどのような存在なのか、把握しきれていません・・詳しく調べてからでなければ、こちらは打つ手がありません。」
 タリアが深刻な面持ちで、アンジュたちをなだめる。
「今日はしっかり休むこと。行動を起こすなら明日からよ。」
「分かりました、グラディス艦長・・」
 タリアがなだめて、カナタが聞き入れた。
「仕方がないわね・・久しぶりのバロウ島だし、今は羽を伸ばしましょう。」
 アンジュがため息混じりに言って、休息をとることにした。

 レイたちとも再会を果たしたカナタたち。タオやキュリオテスの存在、人々からの非難を気にしながらも、彼らは束の間の休息に身を委ねていた。
 海潮は水着に着替えて、海の上に浮かびながら考え事をしていた。タオからランガや世界を守るにはどうしたらいいのか、その答えを追い求めていた。
 しかし分からないこと、どうにもならないことだらけで、海潮は苦悩を深めたまま海から出た。
「タオと戦うつもりなのか?」
 海潮のいる浜辺に、勝流が現れた。
「タオがランガを狙って、そのために世界も地球も犠牲になるなんて、許せない・・アンジュもカナタたちも、タオに立ち向かおうとしている・・」
 海潮が自分の考えを口にして、カナタたちの決意も思い出す。
「僕もタオのことは知っているよ。タオは嵐や地震、自然の理と同じ。誰も自然に逆らうことはできないんだよ・・」
「そんな・・・」
「人は自然や掟、時の流れには逆らうことはできない。人である限り、人生は不条理なんだよ・・」
 タオについて語る勝流だが、海潮は納得できず困惑していく。
「それに、スーラはタオやキュリオテスを憎んで暴走してしまう。このままランガで戦っても、暴走に取り込まれる危険がある。」
「それじゃ、どうしたらいいの・・・?」
「海潮だけで、ランガを動かせるようになれば、スーラの暴走に囚われることはなくなるよ。」
「私だけで、ランガを・・!?」
 勝流からの提案に、海潮が戸惑いを覚える。
「私、やってみる・・グラディス艦長たちに許可をもらってくるよ・・」
 海潮が聞き入れて、タリアたちのところに向かった。勝流も微笑んでから彼女についていった。

 自分だけでランガを動かす練習をしたいと、海潮はタリアに頼んだ。
「海潮さんだけで・・・ですが、あなただけにランガの負担が掛かるのではないですか?」
 タリアが海潮の身を案じて、質問を投げかける。
「それは分かっています・・でも、それであのときのような暴走をなくせるし、その力を正しいことのために使えるはずです・・ランガだけでなく、どんな力でも・・・!」
 海潮が正直な気持ちをタリアに伝える。この言葉を聞いて、カナタやシンが戸惑いを覚える。
「どんな力でも、正しいことのために使う、か・・」
「デスティニーも、正しいことのために・・・」
 カナタとシンがイザナギ、デスティニーを正しいことのために使えると考えていた。
「分かりました。ただし今夜休んで、明日行いましょう。それと、同伴者も同行させます。」
「ありがとうございます、艦長!」
 タリアが了承して、海潮が感謝して頭を下げた。
「私が海潮に付き添います。」
 魅波が海潮に同行することを、タリアに伝えた。
「私も行くわ。何かあったとき、私たちがいればランガを止められるわ。」
 夕姫も不敵な笑みを浮かべて声を掛けてきた。
「2人もお願いします。シン、カナタくん、あなたたちも。」
「了解です。」
 タリアが了承して、彼女の指示にシンが答えた。
「私も行くわ。ランガのことを、もっとよく知りたいし・・」
「それは私も同じよ。またクロスに戻ってきた以上、これから先も付き合うわ。」
 アンジュとサリアも海潮たちと行くことを決めていた。
「もう・・また騒々しいことになりそうね・・」
 みんながついていくことに肩を落とすも、夕姫は笑みをこぼした。

 一夜が明けて、海潮はランガに触れてスーラに考えを伝えた。
 海潮の意思に呼応として、ランガからスーラが出てきた。スーラは年老いたように弱々しくなっていた。
「私たちがスーラを見ているから、気にしないで行ってきて。」
 茗がスーラに目を向けながら、海潮に声を掛けた。
「ありがとうございます。では、行ってきます。」
 海潮がお礼を言って、ランガに入ろうとする。するとスーラが力を振り絞って、彼女を止めようと手を伸ばしてきた。
「大丈夫だよ、スーラ。ちょっと練習するだけだから・・」
 海潮が微笑んで答えて、ランガの中に入った。ランガの顔に海潮の目が現れる。
「この先にバロウの人も立ち入るのがほとんどない孤島がある。そこを目指すんだ。」
「オレがボートを操縦して、魅波さんたちと一緒に行くよ。」
 勝流が海の先にある小さな島を指さし、タスクも言いかける。
 海潮はランガを動かして海を渡り、魅波、夕姫、ジョエル、勝流はタスクの運転するボートで移動した。カナタ、シン、アンジュ、サリアはイザナギ、デスティニー、ヴィルキス、クレオパトラで海上を飛んでいく。
(スーラがいなくても、問題なくランガを動かせる・・やっぱり私たち、スーラの子孫なんだね・・)
 影響なくランガを動かせる自分に、海潮は戸惑いを感じていた。

 海潮たちを見送ってから、茗とモモカたちはスーラの様子を見ていた。
「どうしたのでしょうか、スーラは・・?」
「様子がおかしいわね・・」
 モモカと茗がスーラを気にして困惑していく。
「ランガとスーラを引き離したのか!?」
 そこへ3人の老人が現れて、その1人、ラノが声を上げた。
 ンボ、ラノ、ガル。「トゥーリ」と呼ばれるバロウの長老たちである。
「ではパパスは・・!」
「まだ間に合う!」
 ンボとガルがスーラを見て声を荒げる。
「すぐにランガを呼び戻すのじゃ!」
 ンボが呼びかけて、恭子がカナタたちに連絡しようとした。
 そのとき、モモカたちのいる場所の地面で、突然爆発が起こった。その衝撃で恭子たちが吹き飛ばされて、地面に倒れた。
 スーラは巨人の手に捕まって持ち上げられた。巨人の上にいたのはナイエルだった。
「あなたは、虚神会にいた・・!」
「ナイエル!?けがれたお前は島に入れぬはず!?」
 茗とンボがナイエルを見て声を荒げる。
「あなたたちのまじないなら、勝流が解いてくれたわ。」
 ナイエルが淡々とンボたちに答える。
「えっ!?勝流さんが!?」
「獣のつながりめ・・!」
 モモカが驚き、ガルがナイエルを敵視する。
「私が姉に毒を盛ったから?仕方ないじゃない。あの人は私から勝流を奪った・・」
 ナイエルがため息混じりに語る。
「これでランガは滅びることになる・・」
 彼女が意識を傾けると巨人、プルティウイがスーラを握りつぶした。

 勝流の案内で、海潮たちは小さな島にたどり着いた。タスクが浜辺でボートを止めて、魅波たちと共に降りた。
「勝流さん、そろそろキュリオテスについて聞かせてほしいのだけど・・」
 魅波が勝流から話を聞こうとする。
「そうね。私たちをここまで追い込んだ人たちのことを、事前に知っておかなくちゃね・・」
 夕姫もキュリオテスについて聞こうとしていた。
「分かった。海潮もおいで。」
 勝流が頷いて、ランガに振り向いて海潮を呼ぶ。海潮がランガから出てきて、魅波たちと合流する。
 イザナギ、デスティニー、ヴィルキス、クレオパトラも浜辺に着陸して、乗ったまま話に耳を傾ける。
「キュリオテスはタオの使いなんだ。タオのために尽くし、タオの言葉を世界に伝えている。」
 勝流が海潮たちにキュリオテスたちについて語っていく。
「キュリオテスの言うタオの言葉は真実だ。ランガが地球にいると、タオの怒りによって破滅をもたらす。」
「タオだか何だかと、戦えばいいじゃない・・」
 話を続ける彼に、夕姫が反論してきた。
「そんなことはさせないよ、僕たちが・・」
 この言葉に言い返して、勝流が目つきを鋭くした。
 そのとき、ランガが突然上空に持ち上げられた。
「ランガ!?」
 海潮が驚いてランガに振り返る。ランガを持ち上げていたのは3体の巨人、バユ、テジャ、アパーだった。
「何なんだ、アイツらは!?」
「まさかあれが、キュリオテス!?」
 シンとカナタがバユたちを見て声を荒げる。
「お兄ちゃん、どういうこと!?」
「勝流さん・・あなたも・・!?」
 海潮が勝流に問い詰めて、魅波も驚きを隠せなくなる。
「僕もキュリオテスとなった・・僕もタオのために、ランガを滅ぼす・・」
 勝流がランガを見上げて、自分の意思を口にする。彼はキュリオテスとなっていて、ランガを倒すことを考えていた。
「滅ぼすって・・・どうしてランガを!?」
「ランガは時を司る。ランガだけは時の流れから自由であり、その束縛を受けない。」
 感情をあらわにして問い詰める海潮に、勝流がランガの能力について告げる。
「タオはそれを恐れた。タオも決して絶対なのではない。だからランガはタオに立ち向かった・・」
 ジョエルが無表情で話を続ける。
「だが、人はランガを滅ぼす。今度も・・」
 勝流が言い返すと、バロウ島の近海に展開していた海軍の戦艦が、ランガに銃砲の狙いを向けた。
「ランガは自衛隊とやったときも、無傷だったのよ。」
「魂があればね。」
 言い返す夕姫に、勝流が微笑む。
「うぐっ!」
 そのとき、ジョエルが激痛を覚えて、胸を押さえてうめき出した。
「ジョエル!?どうしたの、ジョエル!?」
 夕姫が苦しむジョエルに近寄る。
「アンタ、ジョエルくんに何をしたんだ!?」
 タスクが声を荒げて、勝流に問い詰める。
「僕は何もしていない。滅んだスーラの意思が、ジョエルに流れ込んでいるようだ。」
「スーラが!?」
 勝流の言葉を聞いて、海潮が驚愕する。
「スーラがいない今、ランガを討つことはたやすい・・」
「ランガをどうするの!?・・やめて!やめさせて!」
 呟く勝流を海潮が呼び止める。そのとき、戦艦が一斉に砲撃を開始した。
「ランガ!」
 砲撃を受けて炎に包まれたランガに、振り向いた海潮が目を疑う。これまでの戦いで砲撃やビームにも耐えていたランガの体が、バラバラになって海に落ちていく。
「イヤだー!」
 無残に散るランガに、海潮が悲痛の叫びをあげる。
「やめろ、アンタたち!」
 シンが怒りを覚えて、デスティニーがビーム砲を展開して、艦隊に攻撃しようとした。するとアパーが水の触手を発して回転させて、水を飛ばしてきた。
 シンが反応し、デスティニーが回避する。水には酸が含まれていて、水の当たった海から蒸気が出た。
「キュリオテス・・オレたちの邪魔をするつもりなのか!?」
 カナタがキュリオテスたちに向かって叫ぶ。カナタたちの前に、キュリオテスたちと勝流が立ちはだかっていた。

 ナイエルのプルティウイによってスーラが殺された。それに怒りを覚えたラブレが、携えていたナイフを手にした。
「ダメです!そんなのでは敵うはずがありません!」
 モモカに止められて、ナイフを落としてしまうラブレ。彼女はモモカの手を振り切り、ランガのいるほうへ走り出した。
「ラブレちゃん!?」
 茗が慌ててラブレを追いかける。林を抜けて海岸に出た茗だが、そこにラブレの姿は見えない。
「ラブレちゃん・・・」
 茗がラブレを捜して、海の方も見渡していく。しかしラブレを見つけることができなかった。

「これでランガが滅び、タオによる地球破壊は免れた・・時期に、この世界は平穏に向かうだろう。」
 ランガの散り様を見届けて、勝流が微笑んだ。カナタたちがそれぞれの機体から降りてきた。
「どういうつもりなんだ!?ランガを捕まえて攻撃させるなんて・・!」
「海潮たちの気持ちを無視して、勝手にこんなことをして・・アンタ、それでも海潮たちのアニキなのかよ!」
 カナタとシンが勝流に怒りをぶつける。
「このままランガを倒さなければ、タオによって地球そのものが滅びることになった・・その状況下でどうすべきか、君たちは判断できるかい?」
 勝流に問われて、カナタたちは言葉を詰まらせる。
「結局、そのタオっていうのもエンブリヲと同じね。自分の都合だけで世界を動かすなんて・・」
 アンジュが勝流への不信感を抱いて、鋭い視線を向ける。
「平行世界の調律者、エンブリヲのことは知っている。彼は世界を動かせる存在でありながら、それを私利私欲に行った・・」
 勝流が真剣な面持ちで、アンジュに言葉を返す。
「しかしタオは違う。この地球、この宇宙の摂理を保つために、常に判断を下している。」
「宇宙の摂理って・・勝手なことを・・・!」
 彼の話に納得できず、アンジュが不満を膨らませる。
「ランガの時を操る力は、宇宙の摂理を乱すことになる。タオはランガを討つことを決め、僕たちキュリオテスが送られた。」
 自分たちの目的を語り、勝流がバユたちに目を向ける。
「キュリオテスというのは何者なの?タオの使い以外に、何かあると思うのだけど・・」
 サリアが勝流に問いかけて、魅波たちもキュリオテスのことを気にする。海潮はランガを失った悲しみに襲われ、その場に膝をついていた。
「キュリオテスは、人の進化だ。その完全な形だよ。」
「人の進化?見た目は私たちと変わらないじゃない・・」
 勝流がキュリオテスについて答えて、アンジュが不信感を見せる。
「なぜ、タオの元へ行ったの・・・?」
「全てを知るためさ・・」
 魅波が不安を感じながら問いかけて、勝流が空を見上げて答える。
「私たちも、キュリオテスになれる・・・?」
 魅波が困惑しながら、勝流に問いかける。勝流といられるなら何にでもなれると、魅波は思っていた。
 ランガが失われたことに、海潮が絶望していた。カナタたちも勝流たちのとった行動に納得できなかったが、この場でのこれ以上の反抗はできなかった。

 勝流と共にバロウの本島に戻ってきた海潮たち。バユたちは夜明け前にバロウ島を離れて、艦隊も撤退していった。
 そして朝になって、海潮たちとカナタたちは、勝流から詳しく話を聞いていた。
「さっきNASAが正式に発表。例の宇宙の穴が消えてなくなったってさ・・」
 茗がワームホールの消滅を海潮たちに伝える。
「タオとキュリオテスの言うことに嘘はないさ。」
 勝流は冷静に振る舞って答える。
「でも、ランガが目覚めたのは少し前のことですよね?タオがランガを滅ぼそうとするなら、そのときに何かしてきたはずじゃ・・」
 将馬がタオのことで質問する。
「タオに時間の後先なんて意味はないさ。」
「ずいぶんと都合のいいことで・・」
 勝流の答えを聞いて、アンジュが不満げに言い返す。
「夕姫は?」
「ジョエルのところに行ってる・・倒れたままだから・・」
 勝流が聞いて、魅波が悲しい顔を浮かべて答える。小島で苦しんだジョエルが気を失い、今も苦しみにさいなまれていた。
「お兄ちゃん・・・どうして・・なの・・・?」
 海潮が悲しみを抱えたまま、勝流に問いかける。
「どうして、キュリオテスになったか、かい?」
 勝流が聞き返して、海潮が小さく頷いた。
「そうね。聞かせてもらいたいわね。どうしてランガの敵になったか。」
 茗も皮肉を込めた笑みを浮かべて、勝流の話に耳を傾ける。カナタたちも複雑な気分を抑えて、話を聞こうとしていた。
「僕ら島原家が、古より存在する神の家系だと、僕は聞かされた。鼻で笑ったな。母は神社の神主。父は宗教学者。貧しい暮らしをして、野心ばかりでかくて・・」
 島原家のことを語って、両親を嘲笑する勝流。
「確かに僕は普通の子と違った。勉強などただのパズルだったし、人の聞けない声も聞こえた。だが、結局僕は1人の学生に過ぎなかった・・なぜ自分より無知で愚かな人間が世界を決定し、僕に何の力もないのか。そんな不条理な運命を受け入れなければならないのか・・」
 自分の力量を振り返る勝流が、世界の不条理への憤りを口にする。優れている自分ではなく、自分よりも劣る人間が世界を動かしていることに、彼は不満を感じていた。
「不条理な運命・・そのことだけは、私も思うけど・・・」
 アンジュが勝流の言葉に共感しかけるが、彼を認める気になれなかった。
「藤原さんが、昔付き合っていた女の人がいて、その人が自殺してしまったのが許せなくて、それでって言ってた・・・」
 海潮が和王から聞いた話を、勝流に伝えた。
「そんなこと、あったかな・・?」
 しかし勝流はその出来事について記憶がなかった。

 ベッドで横たわるジョエルは、今も苦しみ続けていた。夕姫がラブ、モモカ、マギーと共に彼の介抱をしていた。
 その最中、ジョエルの体に赤い螺旋の紋様が浮かんでいるのを、夕姫たちが目の当たりにする。
「おいおい・・何だよ、こりゃ・・・!?」
「ジョエルくんの体に・・これって、ランガにあるのと同じ・・・!」
 マギーが声を荒げ、モモカが息をのむ。
「キュリオテスを倒し、タオに挑む。それが人に課せられし使命・・」
 ジョエルが無機質な口調で呟く。それは別人のようだった。
「ジョエル!?・・・スーラ・・・!」
 夕姫がジョエルの異変の正体に気付いて、落ち着きを取り戻す。
「ゆ・・夕姫・・・」
 我に返ったジョエルが、呼吸を乱したまま彼女に手を伸ばす。
「・・僕の、中に・・スーラがいる・・・」
 弱々しく声を発するジョエルに、夕姫が小さく頷いた。ジョエルの中に、ナイエルに潰されたはずのスーラがいた。

 

 

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