スーパーロボット大戦CROSS
第59話「異世界の決着」

 

 

 エンブリヲによって別世界に連れていかれたアンジュ。彼女がいたのは宙に浮かぶ孤島だった。
「アンタの世界?・・いったいどういうことよ・・!?」
 アンジュが憤りを感じたまま、エンブリヲに問いかける。
「少し、昔話をしようか。」
 エンブリヲが言いかけて、いろいろな色が混ざっている空に目を向けた。
「この島は世界最高の素粒子研究所でね。私はここで多くの物を発見し、生み出した。」
「研究所・・!?」
 エンブリヲの語り出した話に、アンジュが疑問を覚える。
「私のいた世界では、次元や時空、別世界への研究が進められていた。別世界への進出は、新たな大航海時代の幕開けとなる。」
 彼は過去を思い出しながら、話を続けていく。
「有人次元観測機、ラグナメイル。この機体で、私たちは別世界への扉を開く計画だった。だが突如発生した局所的インフレーションにより、システムが暴走。私とこの島は、時空の狭間に取り残された・・」
 自分のいた世界での事故と悲劇について、エンブリヲが淡々と話していく。
「だがそれこそが全ての始まりだった。ここは時が止まった世界だったからね・・無限の時間を持つ私だけの庭、宇宙で最も安全な場所・・私はここからラグナメイルを操り、世界の干渉を始めた。戦争を終わらせ、新たな地球を用意し、人間を作り直した。人類を導く調律者としてね。」
「それじゃ、私たちの世界も・・・!?」
 エンブリヲの話を受けて、アンジュがさらに周囲を見渡す。孤島の周辺には、多くの星が点在しており、その全てが地球。エンブリヲが調律を施した別次元の地球である。
「マナによる高度情報化社会によって動く地球もその1つだが、残念だがその地球の調整は失敗した。マナを拒絶するノーマへの嫌悪と偏見を受け付けたが、逆に醜い差別と争いを増すこととなった・・」
 ノーマを憎むマナの使い手の有様に呆れて、エンブリヲが肩を落とす。
「マナを持つ者もノーマも、下劣で醜い愚か者ばかりだ・・我ながら情けないと思う・・だがアンジュ、君だけは違った。私に相応しい、強く賢い女。イレギュラーから生まれた天使・・」
 エンブリヲが彼女への欲情を募らせて、彼女に手を差し伸べる。
「新世界に行こう、アンジュ。共に、2人だけの世界を築こう。」
「冗談じゃないわ・・誰がアンタなんかと!」
 アンジュが不満をあらわにして、エンブリヲに向けて右足を振りかざした。
「君は心身共に美しい・・・だが・・・」
 エンブリヲが目つきを鋭くすると、アンジュの着ていた衣服が全て弾け飛んだ。その弾みで体勢を崩し、アンジュが仰向けに倒れた。
「君はけがされてしまった・・あの忌まわしい猿に・・・!」
 タスクへの憎しみを浮かべるエンブリヲ。彼の意思を受けて、草の根がツルとなって、アンジュの体を縛って動きを封じた。
「浄化しなければ・・私の愛で・・」
 身動きの取れないアンジュを抱こうと、エンブリヲが迫る。
「この変態ゲス男!偉そうなこと言って、結局はやりたいだけなんでしょ!」
 アンジュが赤面しながら、エンブリヲに言い返す。するとエンブリヲが操るツルが、アンジュの足を開かせようとする。
「愛する夫に、そんな口の利き方をしてはいけないよ・・」
 エンブリヲが言いかけて、アンジュの裸身をまじまじと見つめる。
(こんなヤツに弄ばれるのはたくさんよ・・・こんなヤツなんかより、タスクのほうが全然いい・・・!)
 エンブリヲを拒絶するアンジュが、タスクへの想いを募らせていった。

 アウラを奪還して、1度ミスルギ皇国の近海に移動したクロス。アウラもミネルバ、アウローラ、オルペウスについてきていた。
 キラたちはクロスが離れた後、別方向にミスルギ皇国から去っていった。
「全員、帰還していますか?」
 タリアが魅波、ジャスミンと連絡を取って、人数の確認をする。
「海潮もランガも戻ってきています。」
「ダイミダラー超型、6型共に帰還しています。」
 魅波と恭子がタリアに報告をする。
「アンジュの行方が分からないわ!ヴィルキスは見つけたけど、中はライダースーツと指輪しかなかった・・!」
 ジャスミンがアンジュのことをタリアに伝えた。
「アンジュさんが!?・・何者かに拉致されたというの・・・!?」
「えぇ・・エンブリヲがアンジュを連れていったのよ・・」
 タリアが緊張を覚えて、サリアが状況を話す。
「でも、どこに連れていかれたかは分からない・・」
「どこにいるか分かれば、次元を超えて移動することは可能なのですが・・・」
 サリアが顔を横に振り、サラマンディーネが深刻な面持ちを浮かべる。
 アウラの民には次元を超える技術があり、イザナギにも次元に干渉することが可能であるが、行き先が分からなければ次元を超えることはできない。
「どうすれば、アンジュの居場所を見つけることができるんだ・・!?」
 タスクがアンジュを求めて、ヴィルキスに握った両手を打ち付ける。カナタたちもアンジュを見つける手立てが見つからず、苦悩を深めていた。
「時間と空間の狭間、非ゲージ領域の果て、虚数の海・・エンブリヲはそこにいます。」
 そのとき、アウラがカナタたちに向けて声を発した。
「アウラ・・・!」
「アウラが、私たちに助言を・・・!」
 ナーガとカナメがアウラの声を聴いて、戸惑いを覚える。
「アンジュがどこに連れていかれた可能性は十分にあります。問題は、そこがどこなのか分からないことです・・」
「私も正確な場所までは分かりません・・力になれず、申し訳ありません。」
 サラマンディーネが深刻さを募らせて、アウラが謝る。
「アウラ、アンジュの行方はオレたちで見つけてみせます。今はまだその方法が分からないですが、すぐに思いついてみせます・・!」
 カナタが真剣な面持ちでアウラに決意を告げた。
「でも、ホントにどうやったら・・・?」
 ラブが不安を感じながら、カナタたちに問いかける。
(私にはすごい力がある・・この力で、アンジュの居場所を見つけられたら・・・ううん、見つけたい・・!)
 ラブが目を閉じて念じて、アンジュを見つけ出すイメージを強くしていく。
(アンジュの持ち物があれば、つながりやすいかも・・・持ち物・・指輪・・・!)
「タスクくん、アンジュの指輪を貸して!」
 思い立ったラブがタスクに振り向いて呼びかける。
「この指輪を?・・でも、どうするつもりなんだ・・?」
 タスクは疑問を感じながら、指輪を差し出した。ラブが指輪を受け取ろうとして、タスクの手に触れた。
 そのとき、脳裏に1つの光景がよぎって、ラブが頬を赤くした。その光景は、アンジュとタスクが抱擁を交わす瞬間だった。
(何、コレ!?・・アンジュとタスクくんも、私とカナタのように・・・!?)
 動揺を膨らませていくラブ。彼女はタスクから記憶を読み取ったと思い、タスクのアンジュへの想いを知った。
「タスクくん、一緒に念じて!アンジュのいるところを、私たちでキャッチするの!」
「アンジュをオレたちで!?・・そんなことができるのか・・!?」
「分からない・・でも私の力を使えば、できそうな気がする・・・!」
「君の力・・あの不思議な光のことか・・・!?」
 ラブの考えを聞いて、タスクが戸惑いを覚える。
「ムチャするな、ラブ!お前だけに負担を掛けさせるわけにはいかない!」
 カナタがラブを心配してなだめる。
「ありがとう、カナタ・・でも、みんなが命懸けで戦っているのに、私だけ何もしないわけにいかないよ・・・!」
 ラブが感謝と共に自分の思いを口にする。彼女の意思が揺るがないことを、カナタは痛感した。
「ラブちゃん、ヴィルキスに乗って。場所が分かったら、ヴィルキスで急行する・・!」
「うん・・!」
 タスクの呼びかけにラブが頷き、2人はヴィルキスに乗ってから指輪に念じた。
「頼む、ヴィルキス・・アンジュがピンチなんだ・・アンジュのいるところへ飛んでくれ・・・!」
 タスクがヴィルキスにも強く念じる。ヴィルキスは指輪の持ち主しか操ることができず、彼らが知る中で動かしたことがあるのはアンジュとジルだけである。
「みんな、ヴィルキスが向かったら、オレたちも向かいましょう!・・グラディス艦長、構いませんか・・?」
「えぇ。ただしみんな、戦いを終えたばかりで万全ではありません。ムチャをしないように・・」
 カナタが許可を求めて、タリアが注意を送る。
「サリアさん、本来ならあなたたちは営倉入りにするところですが、今のあなたたちの力は、エンブリヲを討つのに不可欠です・・協力していただけますか・・?」
 タリアがサリア、エルシャ、クリスに協力を求める。
「もちろんです。あなたたちやみんなの元で戦う以外に、この償いはできませんから・・」
「私も、みなさんに投降します。もうこれ以上、大切なものを失いたくありません・・」
 サリアとエルシャがタリアの指示に従うことを告げた。
「私もそうします・・でも、テオドーラに乗るのは私じゃない・・・」
 クリスもタリアに協力することを決めるも、テオドーラをヒルダに預けた。
「ヴィルキスみたいに指輪がないと動かせないことはないから・・」
「クリス・・・それじゃ、遠慮なくあたしが使わせてもらうよ!」
 クリスから説明を受けて、ヒルダがテオドーラに乗り込んだ。サリアとエルシャもクレオパトラとレイジアに乗った。
「お願いだ、ヴィルキス・・動いてくれ!オレたちを、アンジュのところに連れてってくれ!」
 タスクがさらに呼びかけるが、ヴィルキスは動かず、指輪も反応しない。
「やっぱり、アンジュじゃないと動かないの・・・!?」
 海潮がヴィルキスが動かないことに深刻さを募らせる。
「ジルを呼んでくるしかないみたいだねぇ・・」
「しかしあれからふさぎ込んでる・・ヴィルキスを動かせるかどうかも分からない・・・」
 ジャスミンがジルのことを考えて、マギーが肩を落とす。
「無理やりにでも連れてくるから・・!」
 マギーがため息をついてから、ジルのところへ向かった。
「どうして・・どうして動いてくれないんだ、ヴィルキス!お前もずっとアンジュを守ってきたんだろう!?なのに、あんなヤツに奪われていいのかよ!」
 ヴィルキスも指輪も全く反応せず、タスクが憤りを感じて握った両手を打ち付けた。
「目を覚ませ、ヴィルキス!オレに力を貸してくれ!」
 アンジュへの想いを込めて、叫び声をあげた。
 そのとき、タスクの持つ指輪が煌めいた。指輪から出た光が次元を歪めて、光のトンネルを作り出した。
「もしかして、この先にアンジュがいるのか!?」
「感じる・・この先にアンジュと、エンブリヲが・・・!」
 シンが目を見開き、ラブがアンジュたちの気配を感じ取った。
“タスク!”
 そのとき、タスクの耳にアンジュの声が入ってきた。
「聞こえた・・アンジュの声が・・!」
「タスクくん・・行こう!みんなも一緒に!」
 タスクが戸惑いを覚えて、ラブが呼びかけた。
「行くよ、ラブちゃん、ヴィルキス!」
 タスクが呼びかけて、ラブが頷いた。カナタ、サリア、エルシャ、ヒルダ、サラマンディーネ、シン、海潮、孝一と恭子、霧子と将馬も発進に備えた。
 ヴィルキス、イザナギ、クレオパトラ、レイジア、テオドーラ、焔龍號、デスティニー、ランガ、ダイミダラー超型と6型が光のトンネルに飛び込んだ。
「私たちは周囲の警戒に備えます。敵勢力の残党が、私たちを狙っている可能性があります。」
 タリアが指示を出して、ルナマリアたちが頷いた。

 身動きが取れないながらも、アンジュはエンブリヲに犯されそうになるのを必死に逆らっていた。
「私の思い通りにならないものはない・・君たちノーマのように私の管理の及ばない存在でもね・・」
 エンブリヲが悠然と言って、アンジュの足を広げようとする。
「たとえ調律者でも神様でも、私を好き勝手にするなんて許さない・・特に、アンタのような反吐の出る変態はね!」
 アンジュは頬を赤らめながら、エンブリヲに言い返す。
「何者にも抗うその強い意思はすばらしい・・しかし私に対してはムダな抵抗だ・・・」
 エンブリヲが笑みをこぼすと、ツルと葉を使ってアンジュの口を塞いだ。言い返すこともできなくなり、アンジュがうめく。
(お願い、タスク・・助けて・・・みんな・・早く私のところに来て・・・!)
 アンジュが心の中でタスクたちに助けを求めた。アンジュはタスクへの想いを強くした。
 そのとき、空にまばゆい光が煌めいて、エンブリヲが目を見開いた。
「こ、これは・・!?」
 光の正体に気付いて、エンブリヲが驚愕する。光の中からヴィルキスとイザナギたちが飛び出してきた。
「アンジュ!」
「タスク!みんな!」
 タスクが叫び、アンジュが笑みを浮かべる。イザナギがビームライフルを手にして発射し、けん制してエンブリヲをアンジュから引き離した。
 エンブリヲの思念が及ばなくなったことで、ツルによる拘束が弱まった。アンジュがツルを振り払い立ち上がる。
「アンジュ!」
 逆さになったヴィルキスから、タスクが両手を差し伸べる。
「タスク!」
 アンジュも手を伸ばして、タスクと抱きしめ合う。タスクがアンジュを救出して、ヴィルキスが上昇する。
「アンジュ・・無事でよかった・・・!」
「タスク・・あなたたちが来てくれると思っていたわ・・・!」
 タスクとアンジュが再会を喜ぶ。
「アンジュ、このおかしな戦いに決着をつけて、みんなで帰ろう・・!」
「そうね・・あんな変態との戦いは、ホントにおかしいとしか思えないわ・・!」
 タスクがエンブリヲ見て言いかけて、アンジュが頷いた。
「クロス・・ここまで来るとは・・・」
 エンブリヲがため息をつくと、ヒステリカが姿を現した。
「アンジュはヴィルキスでアイツを倒してくれ。エンブリヲはオレが相手をする・・!」
「分かったわ・・全員生きて帰るわよ!」
 タスクがエンブリヲを見下ろして、アンジュが頷いた。
「タスクさん、これを!」
 サラマンディーネが自分の刀を投げて、タスクが受け取った。
「ありがとう、サラマンディーネさん!」
 タスクがお礼を言って、ヴィルキスからエンブリヲの前に飛び降りた。
「どこまでもアンジュを私から奪おうとする・・愚かで醜くけがらわしい・・・!」
 エンブリヲがタスクに鋭い視線を向けて、剣を手にして迎え撃つ。タスクが飛びかかり刀を振り下ろし、エンブリヲが剣で受け止める。
「私を足止めしておけば勝てると思っているのかね?」
「足止めするつもりはないよ・・オレもお前を倒すつもりだ・・何度出てきても、何度でも倒す!」
 嘲笑するエンブリヲに、タスクが意思を示す。彼が足を振り上げて、エンブリヲが後退してかわす。
 一方、ヴィルキスたちはヒステリカに向けて果敢に攻め立てていた。ヒステリカはビームや剣を、回避や防御でかいくぐっていた。
「そのラグナメイルを倒せば、エンブリヲの戦力はもうない!」
 シンがヒステリカを討つことに集中する。
「それはどうかな?」
 そのとき、ヒステリカからエンブリヲの声が発せられた。
「この声は、エンブリヲ!?」
「おい、待て!アイツは今、タスクと戦ってるはずだろ!?」
 霧子が驚きの声を上げて、孝一が眼下のエンブリヲに目を疑う。エンブリヲは今もタスクと戦っている。
「このヒステリカも、私の肉体なのだ。ヒステリカと精神が融合、共有したことで、父子の存在となるのを可能にしたのだ。」
 ヒステリカがエンブリヲについて語っていく。両者は精神を共有することで、一方に破壊や死を被ったとき、もう一方が体を再生させることができるのである。
「エンブリヲも次元の干渉に長けているのか・・!?」
「平行世界の自分を束ねることもしているということね・・!」
 カナタと恭子がエンブリヲとヒステリカに脅威を覚える。
「つまり、エンブリヲとあの機体、両方を同時に討たなければならないということか・・!」
「タスクくんとのタイミングもかかっているってこと・・・!」
 将馬がエンブリヲを倒す条件を理解して、海潮がタスクに目を向ける。
「私にそのような世迷言は通用しない。そもそもお前たちは、互いにつぶし合うことになるのだから・・」
 言い返したヒステリカから不気味な光が発せられた。次の瞬間、クレオパトラ、レイジア、テオドーラをサリアたちが動かせなくなる。
「う、動かねぇ!どうなってる!?」
「こっちの操縦がまるで受け付けないわ・・!」
 ヒルダとエルシャが動かそうとするが、テオドーラもレイジアも反応しない。
「まさか、ラグナメイルの操縦を、エンブリヲに乗っ取られたというの!?」
 サリアがクレオパトラたちの異変の正体に気付く。ヒステリカがクレオパトラたちを掌握して操っていた。
「いけない・・みんな、よけて!」
 サリアがとっさに叫んで、カナタたちが身構える。クレオパトラがビームライフルを、ヴィルキスに向けて発射した。
 アンジュが反応し、ヴィスキスがビームを素早くかわした。
「何をするのよ、サリア!?」
「勝手に動くのよ・・エンブリヲに、ラグナメイルを操られている・・!」
 怒鳴るアンジュにサリアが言い返す。
「こっちも勝手に動いていくわ・・!」
「ちくしょう!あたしの言うこと聞けって!」
 エルシャもレイジアが勝手に動くことに焦り、ヒルダが強引にテオドーラを動かそうとする。しかし2人の意思を受け付けず、2機もヴィルキスたちに攻撃を仕掛ける。
「おい・・マジで操られてるのかよ!?」
「操ってるのはエンブリヲとあのラグナメイルだ!まずアイツを討てば、みんなを止められるはずだ!」
 孝一が声を荒げ、シンがヒステリカに狙いを定める。デスティニーがビーム砲を展開して、エネルギーを集める。
 だがヒステリカの前にクレオパトラが割って入ってきた。ヒステリカに操られて、クレオパトラは盾にされていた。
「卑怯な・・!」
「私に構わずに撃つのよ!エンブリヲを討たなければ、アイツに何もかもいいようにされてしまうのよ!」
 憤りを覚えるシンに、サリアが呼びかける。
「ランガの力を使おうとしてもムダだよ。時間を超えて武器や物を呼び寄せたとしても、ラグナメイル3機をかいくぐり私のみを倒すことは不可能だ。」
 ヒステリカが自分が討たれないことを確信する。クレオパトラたちがビームライフルを発射して、デスティニーとランガ、ダイミダラー2機がかいくぐる。
「アンタ、いつまであんなヤツに振り回されてるのよ!?少しは意地を見せなさいよ!」
 アンジュがサリアに向かって不満をぶつける。
「アンジュ・・いつまでも好き勝手に言って・・・!」
 サリアも不満を覚えて、強引にクレオパトラを動かそうとする。ヴィルキスたちを攻めるクレオパトラの動きが鈍り始める。
「逆らうか、サリア。しかしまさにムダな抵抗だ・・」
 ヒステリカがため息混じりに言って、思念を強めた。クレオパトラが再び操られて、ラツィーエルを手にした。
「こうなったら、スピードでかわして、アイツを討つ!」
 強い意思を示すシンの中で何かが弾けた。彼が感覚を研ぎ澄ませ、デスティニーの動きがより速く正確になった。
 クレオパトラがラツィーエルを振りかざすが、デスティニーは加速してかわし、ヒステリカに詰め寄っていく。しかしさらにレイジアとテオドーラが行く手を阻んだ。
「これじゃ下手に攻撃できない・・サリアたちの動きを封じて、その間にエンブリヲを倒すしかないみたいだ・・!」
 カナタがヒステリカだけを倒す方法を考えていく。
「みんな、サリアたちを止めるんだ!その間にエンブリヲを!」
「うん!それしかないね!」
 彼が呼びかけて、霧子が頷いた。
「悪いけど、3人には覚悟を決めてもらうわよ!」
 アンジュはためらわず、サリアたちがやられることにためらいはなかった。
「覚悟ならもうできているわ・・でも、簡単に死んでやるほど、諦めのいい方でもないわ!」
 サリアが諦めず、強引にクレオパトラを動かそうとする。
「私と子供たちを利用した罪は大きいわよ・・!」
「いつまでも、あたしらを思い通りできると思わないことね!」
 エルシャとヒルダも怒りの声を上げる。レイジアとテオドーラもヒステリカの思念に抗い、ヴィルキスたちへの攻撃を止める。
「まさか・・私の意思に逆らうなど・・!?」
 思念をはねのけたクレオパトラたちに、ヒステリカが驚愕する。
「私はもう、誰の操り人形にもならない・・もちろんあなたにも従わない!」
「もうあなたにすがらない・・あなたと決別するわ!」
「テメェから受けた数々の屈辱、利子付けてまとめて返してやるよ!」
 サリア、エルシャ、ヒルダがヒステリカに向かって強い意思を示す。
「オレは許しはしない・・お前のような、何もかも自分の思い通りにしようとするヤツを!」
「テメェみてぇなヤツに、女たちを独占されてたまるか!」
「あなたのような人に、私たちの恋を邪魔されるわけにはいきません!」
「お兄ちゃんが帰ってきて、やっとホントの幸せが戻ってきたんだよ・・もう2度と壊させない!」
 シン、孝一、霧子、海潮がヒステリカに言い放つ。
「調律者だろうと神様を自称しようと、お前のようなヤツに、どんな世界を自由にされてたまるか!」
「たとえどんな感覚をいじくりまわされても、あなたの思い通りになるなんて絶対にイヤ!」
 カナタとラブもヒステリカ、エブリをへの怒りを叫ぶ。
「他の世界の人間も、私にここまで逆らうとは・・!」
 ヒステリカが不満を口にして、ヴィルキスたちに攻撃を仕掛けた。

 タスクとエンブリヲも刀と剣を激しくぶつけ合う。エンブリヲはタスクに強い憎悪を向けていた。
「なぜ、アンジュを抱いた!?なぜ私から彼女を奪った!?女など、現実の世界にいくらでもいる!いくらでも選べたはずだ!」
 アンジュと抱擁を交わしたタスクを許せず、エンブリヲが力任せに剣を押し込む。タスクがわざと押されて、エンブリヲとの距離を取る。
「私は1000年待った・・・私には、アンジュしかいなかったのに!」
「アンジュはアンジュだ!他の誰でもないし、誰も誰かの代わりにはなれない!」
 エンブリヲの愛憎の言葉に、タスクが真剣に言い返す。
「それに、アンジュが誰を選ぶか、どの道を選ぶかはアンジュ自身だ!オレはアンジュの騎士になると決めたが、それもオレ自身で決めたことだ!」
「そのような愚かなことで、私の愛を踏みにじるとは・・・!」
 タスクも自分の意思を告げて、エンブリヲが苛立ちを募らせていく。
「万死に値する貴様の存在、原子1つ残さず消し去る!」
「消えるのはお前の方だ、エンブリヲ!」
 互いに言い放つエンブリヲとタスク。2人が再び剣と刀を振りかざしてぶつけ合う。
 今までの冷静さと悠然さが失われていたエンブリヲは、タスクに対して劣勢を強いられていた。
 そしてタスクの繰り出した一閃が、エンブリヲの左肩をかすめた。
(不確定世界の自分と入れ替わらない・・!?)
「お前が本当のエンブリヲか!」
 目の前にいるのは本物のエンブリヲであることに、タスクが気付く。
「だったらお前を倒せば!」
「おのれ、けだものが・・!」
 向かっていくタスクに、エンブリヲが強い憎悪を向けていた。

 クレオパトラたちにも抵抗され、集中攻撃を受けることになったヒステリカ。
「もはや私の前にいるのは、全て害虫に過ぎない・・一掃してくれる・・!」
 敵意をむき出しにしたヒステリカが、ディスコードフェイザーを展開した。
「オレたちをまとめて倒すつもりか!?」
「この角度じゃ、タスクくんを巻き込むことになるよ・・!」
 シンが気を引き締め、海潮がタスクのいるほうに目を向けて息をのむ。
「カナタ、ディメンションブレイカーを撃って!よけられないから押し返すしかないよ!」
 ラブがカナタに向けて呼びかけてきた。
「ディメンションブレイカー・・ディメンションバーストで撃てば、あの出力の攻撃を押し返せる・・ただし、空間が歪むことは覚悟しないといけない・・!」
「遠慮しなくていいわ!また空間が歪んでも、私たちは自分の身は自分で守るから!」
 覚悟と忠告を告げるカナタに、アンジュが笑みを浮かべて言い返す。シンたちも覚悟を決めて頷いた。
「分かった・・行くぞ!・・ディメンションバースト!」
 カナタが迷いを振り切り、イザナギがディメンションバーストを発動した。ハイブリッドディメンションにエネルギーが集まっていく。
「消えろ!」
 ヒステリカがディスコードフェイザーを発射した。
「ディメンションブレイカー!」
 カナタのイザナギもディメンションブレイカーを発射して、2機の砲撃の衝撃が入り混じった。激しい衝撃が周囲の空間を歪めていく。
 空間の変動の最中、イザナギの砲撃が押し切って、ヒステリカを損傷させた。
「バカな!?・・ヒステリカが、これほどのダメージを負うなど・・私のアンジュへの愛が押し切られるなど・・・!?」
 ダメージを増していくヒステリカが、この劣勢が信じられず愕然となる。
 そこへヴィルキスが飛びかかり、ラツィーエルを振りかざしてきた。ヒステリカがとっさに下がり、攻撃を回避する。
「なぜだ、アンジュ!?無限の時間に無限の愛!私に支配されることの、何が不満だというのだ!?」
「人間だからよ!支配をぶっ壊す、好戦的で反抗的なイレギュラー・・それが人間なの!」
 問い詰めるヒステリカに、アンジュが感情を込めて言い返す。
「今ならわかるわ。なぜノーマが生まれたのか・・人間はあなたなんかに操作されないという遺伝子の意思!愛する人と子を成し、あなたの作った世界を否定するため!」
 アンジュがノーマについてとエンブリヲへの拒絶を口にしていく。
「だからお母様は、私に歌と指輪を託してくれたのね・・最悪な創造主が作った、この腐りきった世界を壊すために!」
 彼女は指輪を見つめて、母のことを思い出し、優しさを実感する。
「そこまで・・そこまで私を拒絶するのか・・・!?」
 完全にアンジュに拒絶されて、ヒステリカが憤りを募らせる。エンブリヲのアンジュへの愛は憎しみに変わっていた。
「1000年の中から選んでやったというのに・・・私の愛を理解できぬ女など、もはや不要!」
「何が愛よ!キモい髪型でニヤニヤして、服のセンスもなくていつも斜に構えてる、恥知らずのナルシスト!」
 憎悪をぶつけるヒステリカの怒号を、アンジュが怒りを込めてはねつける。
「女の扱いも知らない、1000年引きこもりの変態オヤジの遺伝子なんて、生理的に絶対無理!」
 アンジュの駆るヴィルキスが飛びかかり、ラツィーエルを振り下ろす。ヒステリカが一閃を受けて、左腕を切り落とされた。
「まだだ・・まだ終わらんぞ・・!」
 ヒステリカが声を発して、ヴィルキスたちに歯向かおうとしら。

 左肩の負傷で、エンブリヲは劣勢を強いられていた。
「お前などに・・お前たちのような下劣な存在に・・・!」
 エンブリヲが痛みに耐えて、剣を構える。
「終わりだ、エンブリヲ!」
 タスクが飛びかかり、刀を力強く振り下ろした。彼の一閃がエンブリヲを縦に切り裂いた。
 エンブリヲが断末魔を上げて後ずさり、島から落下した。
(終わったのか・・・?)
 島から下を見下ろして、タスクが心の中で呟く。エンブリヲを討ったと確信するも、タスクはまた緊張を消してはいなかった。

 同じ頃、ヒステリカがヴィルキスだけでなく、デスティニーと2機のダイミダラーからも猛攻を受けていた。
「何でもかんでも、テメェだけの独り占めにすんじゃねぇ!」
「あなたのような人に、私たちの邪魔はさせません!」
 孝一と霧子が言い放ち、ダイミダラーたちが手にハイエロ粒子を集めていく。
「W指ビーム!」
 ダイミダラーたちが同時に手から放ったビームが合わさり、ヒステリカに直撃した。ヒステリカはビームサーベルを構えて、ビームを防ぐ。
「お前のようなヤツが、世界をムチャクチャにするんだ!絶対に許さないぞ!」
 そこへシンが言い放ち、デスティニーがアロンダイトを振り下ろしてきた。この一戦がヒステリカの右腕を切り裂いた。
「ぐあぁっ!」
 ヒステリカが絶叫を上げる。シンたちがヴィルキスがディスコードフェイザーを起動させているのを見て、デスティニーたちが離れていく。
「アンジュ・・アンジュ・・・!」
「しつこいわよ!アンタみたいなのが私を抱こうなんて、一千万年早いわ!」
 求めてくるヒステリカをアンジュが拒絶する。
「塵に還れ!」
 彼女の叫びと共に、ヴィルキスがディスコードフェイザーを発射した。ヒステリカが断末魔の叫びと共に、バラバラになって消滅した。
「やったぜ!エンブリヲをブッ倒したぜ!」
「タスクくんのほうも、決着が付いたようですね。」
 ヒルダが喜び、サラマンディーネがタスクを見下ろして微笑んだ。タスクが刀を降ろして、ヴィルキスたちを見上げていた。

 タスクに切り裂かれて島から落下したエンブリヲ。しかし彼はまだ辛くも生き延び、空間をさまよっていた。
(生き延びたが、今は体を動かせず声も出せない・・しかしヒステリカを復元し、私自身も・・・)
 エンブリヲが心の中で呟く。負傷の激しい彼は、体の自由が利かなくなっている。
(万全を整え次第、また新たな世界を作り出す・・そしてアンジュを必ず、我が妻に・・・)
 野心と欲情を募らせたときだった。エンブリヲの体を一条の光が貫いた
「がはっ!」
 エンブリヲが激痛を覚えて吐血する。彼を貫いていたのは、ビームの刃だった。
「このときをずっと待っていた・・あなたを完全に抹殺することのできる瞬間を・・」
 エンブリヲに声を掛けてきたのは、黒龍神を駆るアブルだった。
(お前は!?・・私の心を覗くな・・!)
 エンブリヲが驚愕して、心の声をアブルにぶつける。
「これが一方的に弄ばれる苦痛と屈辱よ・・支配されることがどういう気持ちか、億分の一でも理解できた・・?」
 アブルが冷たい口調でエンブリヲに告げる。
(お前のことも分かっているぞ・・お前はアウラの民だが、私に屈し彼女たちの敵に回った・・私が切り捨てたことで、お前は姿を消した・・)
「そう。私はアウラを裏切り、アウラの一族もあなたも敵に回した・・でもそれはされるがままだったのではなく、全て私の意思・・」
 エンブリヲが投げかける心の声に対し、アブルが自分の考えを告げる。
「全ての次元、全ての世界は私たちがまとめる・・あなたを含めた愚か者を排除し、正しい人だけが何の戒めもなく生きられるように・・」
(全ての世界の支配・・それがお前の・・お前たち、ディメントの目的か・・・!)
「だからあなたのような人はいらないの・・どの世界にも・・・」
(やはりお前は愚かなままだ・・私に従っていればいいものを・・・)
 敵意を向けるアブルを、エンブリヲがあざ笑う・次の瞬間、エンブリヲに白虎の銃口を向けた。
「言ったはずよ・・あなたはもういらないの・・・」
 アブルが冷たく告げて、黒龍神が白虎を発射した。エンブリヲが目を見開いた瞬間に、光の中に消えていった。
「さよなら・・千年変態・・・」
 アブルがため息混じりに、エンブリヲに別れを告げる。
「まだまだこれからよ、本当の戦いは・・・クロス・・アンジュ、サラマンディーネ・・・」
 アンジュたちのことを考えて、アブルは黒龍神を動かして去っていった。ディメントの一員だった彼女は、エンブリヲを討つ機会を狙っていた。

 
 
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