スーパーロボット大戦CROSS
第58話「世界の最果て」

 

 

 カナタたちの活躍により、拘束されていたアウラがついに解放された。
「あれがアウラ・・・ドラゴン・・いや、アウラの民の信組・・・!」
 アウラの神々しい姿を目の当たりにして、カナタが戸惑いを覚える。
 アウラが翼をはばたかせて飛翔し、地下室の天井を突き破り地上に出た。
「アウラを奪還されたか・・しかし私の望みは絶たれてはいない・・・」
 アウラを手放しても、エンブリヲは笑みを絶やさない。彼はヴィルキスが近づいてくるのを捉えていた。
「私たちも脱出しましょう!」
 サラマンディーネが呼びかけて、カナタとシンが頷いた。イザナギ、デスティニー、焔龍號もアウラに続いて外へ飛び出した。

 カナタたちに続いてアウラ救出に向かおうとしたドラゴンたち。だがエンブリヲに操られたビクトリアとエイレーネに行く手を阻まれた。
「助けてください、エンブリヲ様!」
「イヤッ!私はまだ死にたくない!死にたくないよー!」
 ターニャとイルマが操縦も脱出もできずに悲鳴を上げる。エンブリヲの意思のままに盾にされたビクトリアとエイレーネが、ドラゴンたちの噛みつきや口からの閃光によって爆発した。
 ドラゴンたちはビームを撃ってくるウィンダムたちを迎え撃ち、次々に撃墜させていった。

 同じくエンブリヲにレイジアを操られているエルシャ。遠隔操作の解除や脱出を試みる彼女だが、どれもうまくいかない。
「エルシャ、もうやめて!あたしたち、戦う必要はないよ!」
「違うの、ヴィヴィちゃん!ラグナメイルが勝手に動いてしまうの!」
 呼び止めるヴィヴィアンに、エルシャが状況を話す。
「止まらないし、外にも出られない・・あなたたちは私から離れて!」
「それじゃエルシャが死んじゃうよ!何とか外へ出さなくちゃ!」
 呼びかけるエルシャだが、ヴィヴィアンは彼女を助けようとする。
「しんじゃうはだめ・・ステラが、たすける・・・!」
 ステラがエルシャを助けることを決めて、ガイアがレイジアに向かって跳び上がった。
「ステラ!」
 ヴィヴィアンがガイアに気付き、レイザーがレイジアの背中にのしかかり押し付ける。落下するレイジアが、ガイアに突撃される。
「ステラ、このまま押さえてて!」
 ヴィヴィアンがステラに言って、レイジアのコックピットのハッチをつかんで引き剥がした。レイジアが地上に叩きつけられて、エルシャがコックピットから宙に投げ出された。
「エルシャ!」
 ヴィヴィアンが叫び、レイザーが手を差し出してエルシャを受け止めた。
「エルシャ、大丈夫!?エルシャ!」
 ヴィヴィアンの声を耳にして、エルシャが閉じていた目を開ける。
「ヴィ・・ヴィヴィちゃん・・・ごめんなさい・・・」
「エルシャ、いいんだよ!生きてたってだけでよかったんだよ・・!」
 弱々しい声で謝るエルシャに、ヴィヴィアンが涙ながらに喜ぶ。
「エルシャもヴィヴィアンもしなない・・2りとも、いきている・・・」
 ステラも2人の無事を確かめて微笑んだ。彼女は自分で人を助けたことに、安らぎを感じていた。
「みんな、エルシャを連れ帰るからねー!」
 ヴィヴィアンがアウローラのいるほうに目を向けて言い放つ。レイザーがエルシャを連れてアウローラに向かい、ガイアも続いた。

 エンブリヲに見捨てられたことで絶望し、見境のない攻撃を繰り返すクリスのテオドーラ。そのビーム攻撃はランガたちのいるほうにも飛び、ウィンダムやビッグエースにも命中していた。
「よせ、クリス!いい加減に目を覚ませ!」
「死んじゃえ・・みんな、消えちゃえ!私を見捨てるヤツは、みんな死んでしまえ!」
 ロザリーが呼び止めるが、錯乱しているクリスは絶叫を上げるばかりである。
「どこまでも世話を焼かせるヤツだ・・!」
 ヒルダが不満を口にすると、ランガがテオドーラに向かって飛びかかった。テオドーラがビームライフルを連射するが、ランガはビームをかいくぐり、テオドーラに組み付いた。
「放せ!私の邪魔をするな!」
「いい加減にして!あなたが戦いをやめれば、みんなも攻撃しないよ!」
 怒鳴るクリスに海潮が呼びかける。テオドーラがランガを振り払おうとして、ビームライフルをランガの胴体に当てて直撃させる。
「キャアッ!」
 体に激痛を覚えて、海潮が悲鳴を上げる。
「海潮!」
 オルペウスにいる魅波が、海潮に向かって叫ぶ。
「クリス、あなたは本当にわがままなお姫様ね!誰かが助けてくれることが当然みたいに・・甘ったれてんじゃないわよ!」
 夕姫がたまりかねて、クリスに向かって怒鳴ってきた。
「自分の身ぐらい、自分で守りなさい!それとも、自分で自分を見捨てるつもり!?」
「うるさい!私を見捨てるヤツの言うことは、何も聞かない!」
 夕姫の言葉にも耳を貸さず、クリスはランガに襲い掛かる。
「そんなわがままは、誰のためにもならないよ!」
 海潮が怒りを覚えて、ランガがテオドーラに向けて剣を振り下ろした。テオドーラがラツィーエルを振りかざして、剣とぶつけ合う。
 その直後、ランガが左手から触手を伸ばして、テオドーラの胴体に巻き付けた。
「放せ!離れろ!このっ!」
 クリスが叫び、テオドーラが触手を振り払おうとしてもがく。テオドーラがラツィーエルを強引に押し込み、ランガを地面に叩きつけた。
「私は誰も信じない!誰も信じない!」
 クリスが全てを憎み、テオドーラがラツィーエルを振り上げた。
 そのとき、ランガの胸の紋様から光があふれ出した。その光には、テオドーラの姿が鏡のように映っていた。
「これは、私?・・私は、私自身も傷つけようとしていた・・・!?」
 目の前にいる自分の姿を目の当たりにして、クリスが困惑していく。
「違う・・みんな私を見捨てる・・・でも、私は私を見捨てない!」
 クリスが声を振り絞り、テオドーラが跳躍してランガを跳び越える。着地した直後に、テオドーラが改めてラツィーエルを振りかざす。
 ランガが左手から砲撃を放ち、テオドーラを引き離した。
「クリスのヤツ、今はパニクってねぇぞ・・・!」
「どういうわけか知らねぇが、ちっとは落ち着いたみてぇだ・・!」
 ロザリーとヒルダがテオドーラの動きを見て、戸惑いを覚える。
「私を守るのは私・・他の誰かに守ってもらおうなんて、虫がよかったのよ・・・!」
 ヒルダたちだけでなく、自分を利用したに過ぎなかったエンブリヲにも見切りをつけたクリス。テオドーラがランガを倒そうと、ラツィーエルを構えた。
 そのとき、クリスがランガに視線を向けて目を疑った。ランガが右手に持っていたのはラツィーエルだった。
「あれは・・でも、ヴィルキスでもラグナメイルでもないのに・・・!?」
 クリスがランガの持つラツィーエルに疑問を覚えたときだった。テオドーラの持っていたラツィーエルが突然消えた。
「えっ!?・・どういうことなの!?・・何で、私の剣が・・!?」
 クリスがさらに驚き、自分のラツィーエルを捜す。
「もしかしてランガ、武蔵野のときみたいに時間を超えて、クリスの剣を奪ったんじゃ・・!?」
 ヒルダがランガがイブキと戦ったときのことを思い出した。イブキから神葛篭を奪い取ったのと同様に、ランガは未来のテオドーラからラツィーエルを奪い取ったのである。
「もうやめよう・・ヒルダさんたちの言うことを・・受け入れなくていいから、聞くだけでもいいから・・・」
「勝手なことを言わないで・・私を見捨てた人の言うことなんか、聞きたくない・・・!」
 説得を呼びかける海潮に、クリスが冷たく言い返す。
「どうやら、無理やりにでも言い聞かせるしかねぇな・・!」
 アーキバスとグレイブも近づき、ヒルダが不敵な笑みを浮かべる。
「クリス、ここまで片意地張ってんだ!卑怯もクソもねぇからな!」
 ロザリーも言い放ち、テオドーラに鋭い視線を向けた。
「海潮、遠慮なくやれ!クリスが死なない程度でな!」
「ややこしい言い方ですけど・・やってみます!」
 ヒルダが檄を飛ばして、海潮がため息をついてから頷いた。
 ランガはラツィーエルを構えて、アーキバスとグレイブもテオドーラと距離を詰めていく。攻撃の手立てを失い、クリスが絶望を痛感する。
「勝てない・・どんなに力があっても、戦う方法がないんじゃ・・・」
 勝機を完全に見失い、クリスが降参して、テオドーラのコックピットのハッチを開けた。
「クリス・・・」
 ロザリーも困惑を抱えたまま、グレイブから降りた。
「クリス、おめぇが自分の考えを押し通そうとするなら、あたしはもう何もしねぇ・・だけど、おめぇが戻ってくるなら、また一緒にチームを組もうぜ・・・!」
「イヤよ・・また、見捨てられたくない・・・」
 ロザリーが呼びかけるが、クリスは不安を感じて聞き入れようとしない。
「だったら見捨てられないように生き延びることね。」
 クリスの耳に夕姫の声が入ってきた。
「あなたみたいなわがまま、本当は許さないと見捨てるところだけど、戻ってくるっていうならまた雇ってあげるわ。」
「雇う・・デュランダル議長が私たちを雇ったように・・・?」
「といっても、散々私たちに迷惑を掛けたからね・・しばらくただ働きしてもらうわよ。もちろんサリアたちもね。」
「裏切り者への罰ってこと・・当然といえば当然ね・・・」
 夕姫から処分を言い渡されて、クリスが皮肉を感じて苦笑を浮かべる。
「分かった・・でもみんなを頼りにはしない・・私のことは私が守る・・・」
「いいわ、それで・・甘ったれや責任転嫁をするよりはマシだから・・」
 承諾して自分の考えを言うクリスに、夕姫が納得した。
「ゆうぴーも十分わがままだよ・・みんなも私もだけど・・・」
 海潮が夕姫の判断に苦笑を浮かべた。
「1度アウローラに戻るよ。補給もしなくちゃいけねぇし、指揮官殿の指示も仰がないといけねぇし・・」
 ヒルダが指示して、ロザリーと海潮が頷いた。ランガたちに促されるように、クリスのテオドーラもアウローラに向かった。

 エンブリヲに操られるクレオパトラは、ドラゴンだけでなくフリーダムとジャスティスも相手にしていた。
「もうやめるんだ、こんな戦いは!」
「ムダよ・・私の操作を受け付けないし、脱出もできない・・戦う理由も失くしてしまった・・・」
 キラが呼び止めるが、サリアは絶望と虚しさに囚われて抗おうとしない。
「攻撃と足を止めるしかない・・そうすればあの機体は止まるはずだ・・!」
 アスランがクレオパトラの状況を把握して、キラに指示を送る。
「僕がそうするよ・・アスランは注意を引き付けて・・・!」
「分かった・・」
 キラがクレオパトラを制止することを決意し、アスランが頷いた。
 ジャスティスが先行し、ドラゴンたちと交戦しているクレオパトラに近づいた。ジャスティスが2本のビームサーベルを連結させて振りかざし、クレオパトラが回避する。
 すかさずジャスティスがビームブレイドを発した右足を振りかざす。クレオパトラがラツィーエルを掲げて、ビームブレイドを受け止める。
「アスラン、離れて!」
 キラがクレオパトラへのロックオンを定めて、アスランに呼びかける。ジャスティスがクレオパトラから離れた瞬間に、フリーダムが銃砲を一斉発射した。
 クレオパトラが両腕、両足を撃ち抜かれて、力なく地上に落下した。
「無様ね、本当に・・華々しく散ることもできないなんて・・・」
 サリアが皮肉を感じて苦笑いを浮かべる。しかし彼女は不快感は感じていなかった。
「殺すつもりがないなら、せめてここから出して・・このまま何もできず死ぬこともできないまま、閉じこもっているのはイヤよ・・・」
 サリアが辛さを噛みしめて頼む。アスランがビームサーベルの先で、クレオパトラのコックピットのハッチを剥がした。
「礼は言わないわよ・・私にとっても、あなたたちは敵なのだから・・・」
 サリアがキラたちに向かって吐き捨てる。
(相手や周りの事情を気に留めず、一方的に戦いを終わらせるやり方では、誰とも分かり合うことはできない・・戦いを止める戦いをした結果、逆に戦火を広げてしまった・・キラ、お前もオレたちも、それを分からないといけないんだ・・・)
 戦う覚悟、戦いを止める覚悟を確かめて、アスランがキラに心の声を投げかけた。

 超型と6型、2体のダイミダラーを同時に相手をして、リッツカスタムは劣勢に追い込まれていた。
「さすがのチンでも、2体まとめて相手するのはきついかも・・・!」
 リカンツがダイミダラーたちを見据えながら、焦りを膨らませる。
「でもチンは負けない・・ペンギンたちのために、負けるわけにはいかないよ!」
 彼女はマイケルたちのことを想い、ハイエロ粒子を強めていく。
「前よりもハイエロ粒子が上がっている・・だけど・・・!」
「オレたちが力を合わせりゃ、アイツにも勝てる!どんなヤツにも負けはしねぇ!」
 霧子と孝一が臆することなく、リカンツを迎え撃つ。
「リッツー!」
 そこへ1台のビッグエースがダイミダラーとリッツカスタムに向かって突っ込んできた。
「あれは連合軍の・・でもあの声は・・マイケル!?」
 マイケルたちのいるビッグエースに、リカンツが驚く。
 マイケルたちはビッグエース部隊の中から1機を強奪。他のビッグエースを薙ぎ払い、リカンツのところへ駆け付けたのである。
「リッツ、オレたちもダイミダラーと戦うよー!」
「リッツだけが過酷な戦いをするというのに、我々だけ何もしないわけにはいかない・・!」
 マイケルとジェイクがリカンツと共に戦う決意を伝える。
「みんな・・チンのためにそこまで・・・!」
 彼らの強い意思に、リカンツは戸惑いを覚える。
「あれにはペンギンコマンドーが乗っているようね・・!」
「将馬くん・・・将馬くん!」
 恭子がビッグエースを見て察知すると、霧子がその中にいる将馬のことを考える。
「オレたちが1体を押さえる!その間にリッツはもう1体を!」
 ジェイクが呼びかけて、ビッグエースがダイミダラーに向かって突撃してきた。
「将馬くんも、あそこに・・!」
 霧子が思い立ち、ダイミダラー6型がビッグエースに組み付いた。
「霧子!・・オレたちだけでやるしかねぇ!」
 孝一が霧子に叫んでから、リッツカスタムを見据える。
「オレたちだけでもやれるぜ!」
「決着をつけてやる!今度こそチンがあの世に送ってやるんだからー!」
 不敵な笑みを浮かべる孝一と、怒りをあらわにするリカンツ。ダイミダラー超型とリッツカスタムがハイエロ粒子を放出して、同時に飛び出す。
「恭子、もっとだ!もっと力を上げるぞー!」
 孝一が言い放ち、恭子の胸をわしづかみにして激しく揉んでいく。
「また激しくなってきた・・いやあぁっ!」
 恭子も快感を増大させて、絶叫を上げる。孝一から出るハイエロ粒子が高まったダイミダラー超型が、リッツカスタムと激突した。
「リ、リッツカスタムが押される!?パワーアップしてるチンが競り負けてるなんて!?」
 リカンツが孝一の発揮するハイエロ粒子に、脅威を覚える。
「チンは負けられない!ペンギンのため、帝王のため、チンは絶対に勝つんだよー!」
 リカンツが負けじとハイエロ粒子を強めるが、リッツカスタムはそれでもダイミダラー超型に押され続ける。
「オレたちの勝ちだ!必殺・指ビーム!」
 孝一が言い放ち、ダイミダラーが手からハイエロ粒子のビームを放射した。
「うわあっ!」
 リッツカスタムが閃光に包まれて火花を散らし、リカンツが悲鳴を上げる。
「リッツー!」
 敗れた彼女にマイケルたちが悲痛の叫びをあげる。その直後、ビッグエースがダイミダラー6型に両手を当てられて、地面に押し付けられた。
「うわー!オレたちもやられちゃうー!」
「我々もこれまでか・・・無念・・・!」
「おのれ、ダイミダラー・・おのれ、クロス・・・!」
 マイケルが頭を抱えて、デニスとジェイクが歯がゆさを浮かべる。
「将馬くんを返して・・そうすればこの場は見逃す・・・!」
 霧子がマイケルたちに忠告して、ダイミダラー6型がビッグエースのコックピットのハッチを引き剥がした。
「そ、それはできない!自分可愛さに仲間を売るようなマネ・・!」
 マイケルが反論すると、ダイミダラー6型が左手にハイエロ粒子を集めていく。
「待ってー!オレは行くよ!みんなを死なせたくない!」
 すると将馬がビッグエースから出てきて、マイケルたちを守ろうとする。
「よせ、将馬!お前だけが犠牲になることはない!」
「早まるな!ここはオレがヤツの相手を・・!」
 デニスとジェイクが将馬を庇おうとする。
「ありがとう、みんな・・短い間だったけど・・みんなと過ごせて・・すごく幸せだったよ!」
「将馬!」
 礼を言って飛び出す将馬に、デニスが叫ぶ。
「将馬くん!」
 霧子がダイミダラー6型のコックピットから出て、将馬に近づく。
「オレがみんなを守るんだー!みんなのこれ以上、手出しはさせなーい!」
 将馬が単身飛びかかるが、霧子に抱きしめられた。
「私が、将馬くんを守ってみせる!」
「ちょっとー!いきなりのハグだなんてー!」
 想いを伝える霧子に、将馬が動揺して悲鳴を上げる。
「たとえ人間じゃなくなっても、ペンギンでも、将馬くんは将馬くんだよ・・私は、いつまでもどこまでも、将馬くんのことが好きだよ・・・!」
「好き・・オレのことが・・・霧子ちゃん・・・」
 霧子からの心からの告白を受けて、将馬が戸惑いを覚える。ペンギンとなって天真爛漫になっていた将馬だが、霧子の想いで自我を取り戻した。
 将馬の体から桃色の光があふれ出した。ペンギンとなっていた彼が、人間の姿に変わった。
「将馬くん!」
「あ、あれ?・・オレ、どうしていたんだ?・・・き、霧子ちゃん・・!?」
 声を上げる霧子に、将馬が動揺を見せる。
「将馬くん、元に戻ったんだね!私が分かるんだね!」
「霧子ちゃん・・何があったのか、分からなくて・・・」
「考えなくていい・・今は何も考えなくていいから・・・!」
 当惑している将馬を強く抱きしめて、霧子が呼びかける。
「何だかよく分かんないけど・・・ありがとう、霧子ちゃん・・・」
 将馬も微笑んで、霧子との再会と抱擁を喜んだ。
「将馬のヤツ、人間になっちゃったよ~・・」
「これも宿命か・・・」
 マイケルが落ち込んで、デニスがため息混じりに言う。
「ヤツのことはもう仕方がない・・我々はリッツの救出に向かうぞ・・!」
「そうだったー!リッツー!」
 ジェイクがリカンツのことを言うと、マイケルが彼女を心配して、慌てて走り出した。
「待て、マイケル!1人で動くのは危険だ!」
「我々もマイケルを追うぞ!」
 デニスが叫び、ジェイクと共にマイケルを追いかけていった。

 ダイミダラー超型にリッツカスタムが倒され、リカンツは絶望を痛感していた。
「完敗だよ・・チンの完全な負けだよ・・・ゴメン、帝王様・・ペンギンの世界にできなかったよ・・・」
 ペンギン帝王に涙ながらに謝るリカンツ。動かなくなったリッツカスタムの前に、ダイミダラー超型が立ちはだかる。
 とどめを刺されると思い、リカンツが思わず目を閉じた。
「こんなに強い相手を、簡単にブッ倒しちまうのはもったいねぇ・・」
 孝一がリカンツに向けて声を掛けてきた。孝一はリカンツにとどめを刺そうとしない。
「超型じゃなかったら勝てなかった・・マジで強かったぜ・・!」
「どういうこと?・・チンを見逃すっていうの・・・!?」
 笑みをこぼす孝一に、リカンツが動揺を見せる。
「そ、そんなことをしても、きっと後悔するわよ!またパワーアップして、アンタたちをやっつけに来るんだからねー!」
「望むところだ!また返り討ちにしてやるぜ!」
 慌ただしく言い返すリカンツに、孝一が強気に言い返した。
「見逃していいの、孝一くん?本当に逆襲しに来るわよ・・?」
 恭子が心配して、孝一に苦言を呈する。
「言ったはずだ!それは望み通りだってな!」
「もう・・強くなっても相変わらずなのね、あなたは・・・」
 あくまで参戦を望む孝一に、恭子は呆れていた。
「リッツー!」
 そこへマイケルたちが駆け付けて、リカンツに向かって呼びかけてきた。
「そいつを連れてとっとと帰れ!また強くなって出直してきな!」
「おのれ、ダイミダラー・・!」
 孝一が言い放ち、ジェイクが憤りを浮かべる。
「今はリッツを連れて出直すしかない・・リッツカスタムは、置いていくしかないようだ・・・!」
 デニスがなだめて、ジェイクとマイケルが渋々聞き入れた。彼らはリッツカスタムからリカンツを引っ張り出して、ダイミダラーから走り去っていった。
「さて、他のヤツに加勢しに行くか!」
 孝一がカナタたちと合流することを決めて、恭子が頷いた。霧子と将馬がダイミダラー6型でオルペウスに戻っていくのを見届けてから、孝一たちもダイミダラー超型でイザナギたちのところへ向かった。

 解放されたアウラが、ミスルギ皇国の城から上空へ飛び出した。そのまばゆい姿を、ナーガたちもドラゴンたちも目にしていた。
「アウラ・・アウラが目覚めた・・・!」
「これで偽りの世界が正しく修正することができる・・・!」
 カナメとナーガがアウラを見つめて、戸惑いを覚える。アウラが解放されたことで、マナをもたらす仕組みが崩壊することになった。

 エルシャ、クリスを連れてアウローラに戻ってきたヒルダたち。彼女たちの手当てのため、モモカとエマが奔走する。
「エマ監察官、お手伝いをお願いします!」
「私自身、死にたくありませんから、みなさんを死なせるつもりはありません!」
 モモカが指示を送り、エマが自分の考えを口にする。
「マナの光よ!」
 エマがマナを使って、ヒルダたちの手当てを進めていた。
 そのとき、エマが発していたマナが突然消えて、マナで動かしていた道具が床に落ちた。
「あれっ!?マナが!?」
「ち、ちょっと、何やってんだよ・・!?」
 驚くエマにロザリーが文句を言う。
「い、いきなりマナの効果が切れてしまったんです!・・マナの光よ!」
 エマが言い訳をして、再びマナを使おうとした。しかしマナの光が現れず、物を持ち上げられない。
「エマ監察官!?・・・マナの光よ!」
 モモカもマナを試みるが、彼女も使うことができなくなった。
「マナが使えなくなった!?・・何が起こったのでしょうか・・・!?」
 この異変に疑問を覚えるモモカ。しかし彼女はすぐに気持ちを切り替えて、自らの手で道具を拾って運んだ。
「たとえマナが使えなくても、私たちには手足があります!」
 マナを使わずに介抱をするモモカに、エマが気を引き締めなおして手伝いをする。
「マナが使えなくなった・・ということは・・・」
「アウラが解放されたのね・・アウラや他のドラゴンのドラグニウムを消費して、マナが使われてきたのだから・・」
 クリスとエルシャがアウラが奪還されたことを把握する。
「その仕組みが壊れたから、監察官たちはマナが使えなくなったってわけか・・」
「マナが使えないあたしらは大して変わんないけどね・・」
 ヒルダが納得して、ロザリーがのんきな態度を見せる。
「これで、私たちの世界が大きく変わることになる・・・」
「後の問題は、エンブリヲとサリアちゃんたちね・・・」
 クリスが世界のことを考えて、エルシャが現状を気にする。アウラは解放されたが、戦いはまだ続いていた。

 クレオパトラがアウラに近づき、ヴィルキスも追いついた。
「アウラ・・・!」
「サラ子たち、うまくいったのね・・・!」
 サリアがアウラを見つめて当惑して、アンジュが笑みをこぼす。
「後はあの変態を始末すれば・・」
「それはできないよ。」
 エンブリヲへの敵意を膨らませるアンジュの耳に声が入った。目を見開く彼女のそばに、エンブリヲが現れた。
「アンタ!?」
 驚きの声を上げるアンジュの肩に、エンブリヲが手を触れた。するとアンジュが衣服と指輪を残して消えた。
 操縦者がいなくなったヴィルキスが、力なく落下する。
「アンジュ・・!?」
 サリアが疑問を覚えて、クレオパトラが降下してヴィルキスの腕をつかんだ。
「アンジュ、どうしたのよ!?返事をしなさい!」
 サリアが呼びかけるが、ヴィルキスからの返事はない。アンジュはエンブリヲと共にヴィルキスから姿を消した。

 意識を失ったアンジュは、ある部屋の中で目を覚ました。
「私・・・ここは・・・!?」
 起き上がったアンジュが、周りを見回して当惑を覚える。この部屋はミスルギ皇国の城のアンジュの部屋に似ていた。
「違う・・ここはミスルギ皇国じゃない・・あのとき、エンブリヲに何かされて・・・」
 彼女が記憶を呼び起こして、今の自分の服装が変わっていることに気付く。
「アイツは・・アイツはどこ・・!?」
 アンジュがエンブリヲを警戒して、慎重に動き出す。彼女はドアのそばに来て、ドアノブをゆっくりと降ろして引いた。
(開いている?・・廊下にも誰もいない・・・)
 人がいないことに疑問を感じながらも、アンジュは廊下に出た。彼女は周囲を警戒しながら、外を目指して廊下を進んでいく。
 そして廊下の先にある出入り口から、アンジュは外へ出た。
「えっ!?・・これって・・!?」
 外の光景にアンジュが目を疑う。彼女がいたのは宙に浮かぶ島だった。
「ようこそ、私の世界へ。」
 アンジュが声を掛けられて振り返る。彼女の前にエンブリヲが現れた。
「エンブリヲ・・・!」
 アンジュがエンブリヲに向けて鋭い視線を向けていた。
 
 
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