スーパーロボット大戦CROSS
第57話「竜の覚醒」

 

 

 レイのレジェンドがヒステリカとの激しい激闘を繰り広げていた。そこへタスクのアーキバスが駆け付け、アサルトライフルを撃ってヒステリカをけん制する。
「その機体・・愚かしい過去を思い出すな・・・」
 エンブリヲがアーキバスを見て、ジルたちがかつてリベルタスを実行に移したときのことを思い出して、ため息をつく。
「愚かなんかじゃない・・これは母さんとオレ、みんなの目指してきた理想だ!」
 彼に向けてタスクが言い返してきた。
「お前は!?・・あれで生きていたというのか・・・!?」
 エンブリヲがタスクに気付いて、目を見開く。
「今回ばかりは、別の国の神様と王様のおかげで助かったよ・・!」
 タスクが答えて、ランガと海潮に時を超えて救われたことを思い出した。
「ならば何度でも葬ってやろう・・2度と蘇らんように、2度と逆らえんように・・」
 エンブリヲが笑みを作り、ヒステリカがアーキバスに向かっていく。ヒステリカがビームライフルを撃ち、アーキバスが素早くかわす。
「お前たちを葬り、アンジュを妻に迎える。彼女には私のみがふさわしい・・」
 エンブリヲがアンジュのことを考えて、悠然と語っていく。
「決してけがされることのない美しさ、しなやかな野獣のような気高さ・・まさに、我が妻にふさわしい・・」
 彼は笑みをこぼして、ヒステリカが右腕からビームソードを発して振りかざす。アーキバスがドラゴンスレイヤーを手にして、ビームソードを受け止めた。
「お前は知るまい。アンジュの乱れる姿を、彼女の生まれたままの姿を・・」
「知ってるよ・・アンジュのその姿だけじゃなく、内もものほくろの数までね!」
 優越感を見せるエンブリヲに、タスクが言い返す。アーキバスが力を入れて、ヒステリカを押し返そうとする。
「何も知らないのはお前の方だ、アンジュのことを!彼女は乱暴で気まぐれだけど、よく笑って、すぐ怒って、思い切り泣く!最高に可愛い女の子だよ!」
「そんな彼女を迎えるのは私だ。お前にとっては高嶺の花だ。アンジュにも私にも、お前は遠く及ばない。」
「それは違うよ!オレとアンジュは、もう離れることはない!」
「何っ!?」
 タスクの口にした言葉に、エンブリヲが驚愕を覚える。アーキバスがドラゴンスレイヤーを振りかざし、ヒステリカを引き離した。
「何だと!?・・貴様、アンジュに何をした!?彼女と何をした!?」
 エンブリヲが声を荒げて、タスクを問い詰める。
「そうだよ!“した”んだよ、最後まで!触れて、キスして、抱きまくったんだ!」
 タスクがアンジュと抱擁を交わしたことを打ち明け、エンブリヲが耳を疑った。
「戯言を・・下らぬホラ話で、我が妻を愚弄するか!」
「戯言でもホラでもない!本当だ!アンジュはオレの全てを受け止めてくれたんだ!柔らかくてあたたかい、彼女の1番深いところで!」
 信じようとしないエンブリヲに、タスクが言い返す。
「・・何たる卑猥でハレンチなマネを・・!」
 彼に対し、エンブリヲが強い憎悪を覚える。
「許さん・・許さんぞ、我が妻を犯すなど!貴様の存在、全ての宇宙から消し去る!」
 エンブリヲが怒号を放ち、ヒステリカがアーキバスに飛びかかる。振りかざしたビームソードをかわしたアーキバスに向けて、ヒステリカは左手で持ったビームライフルを発射する。
「ぐっ!」
 アーキバスがビームを受けて揺さぶられて、タスクがうめく。ヒステリカがさらに射撃を放とうとした。
 そこへレジェンドが放ったビームが飛び込み、ヒステリカが後ろに下がって回避する。
「お前の相手はタスクだけではないぞ・・!」
 レイがエンブリヲに向かって声を掛けてきた。
「レイ・ザ・バレル・・作られた命か・・」
 エンブリヲがレジェンドに目を向けて、レイに向けて言いかける。
「お前・・別の世界の人間でありながら、なぜそのことを知っている・・・!?」
 レイが目つきを鋭くして、彼を問い詰める。
「世界が融合してから、私はその世界についても干渉してきた。もちろん、コーディネイターとナチュラルの世界とその歴史についても知るに至った。」
 エンブリヲがシンたちの世界について、悠然と語っていく。
「アル・ダ・フラガのクローンであるラウ・ル・クルーゼ。そのさらなるクローンがお前だ。」
「黙れ・・お前のようなヤツが、ラウを語るな・・!」
 彼に自分の素性を指摘されて、レイが憤りを覚える。レジェンドがビームライフルを発射して、ヒステリカが回避をする。
「もちろん、“彼”がこの後に何をしようとしているのかも・・」
「貴様・・!」
 エンブリヲが投げかける言葉に、レイが憎悪を募らせる。
 レジェンドがドラグーンからもビームを発射するが、ヒステリカにことごとくかわされていく。
「落ち着くんだ、レイ!攻撃するならしっかり狙ってから・・!」
 タスクがなだめるが、レイはエンブリヲへの攻撃をやめない。
 そこへビームが飛び込み、レイとエンブリヲが気付き、レジェンドとヒステリカが回避した。彼らの前に、フリーダムがジャスティスと共に現れた。
「フリーダム、ジャスティス・・キラ・ヤマトたちも来たか・・・!」
 レイがフリーダムたち、さらに近づいてくるアークエンジェルに目を向けて毒づく。
「キラ・ヤマト・・コーディネイターが生み出した、最高のコーディネイターか・・」
 エンブリヲもフリーダムたちを見て呟く。彼もキラたちのことを知っていた。
「レイ、あの男や機体のことは情報を得ている。オレたちもアイツと戦うつもりだ・・!」
 アスランがレイに自分たちの考えを伝える。
「お前たちの力を借りるつもりはない・・邪魔をするならば、お前たちもここで討つ・・・!」
 しかしレイは彼の言葉に賛同しようとしない。
「ヤツを討たなければ、元々の世界だけでなく、全ての世界が支配されることになるんだぞ・・!」
「ならばデュランダル議長に賛同すべきだ。議長は世界の平和のために行動している・・」
「それはできない・・議長の言葉は、正しく心地よく聞こえるかもしれない・・だが彼の考えも、やがて世界の全てを殺す!」
「ならばお前たちはオレたちの敵だ。連合軍やあの男と同じく、排除すべき敵だ・・!」
 ギルバートの考えを拒絶するアスランを敵視して、レイがヒステリカに目を向ける。
 一方、キラのフリーダムはエンブリヲのヒステリカと対峙していた。
「最高と呼べる力を持ちながら、自由気ままに戦いを繰り広げる。綺麗事を並べ立てながら・・」
「僕は戦いを止めるために戦う!あなたのように、みんなを思い通りにしようとする人を止めるためにも!」
 嘲笑するエンブリヲに、キラが自分の考えを言い放つ。
「その戯言と行動の挙句がこの混迷だ。お前たちはクロスやノーマ以上に、世界の敵に回った・・」
「それでも僕は、戦いを止めるんだ・・!」
 エンブリヲからの指摘をはねつけるキラ。フリーダムが2つのビームライフルを手にして連射するが、ヒステリカが素早く回避する。
「そうやって自分の考えを押し通す・・実に滑稽で愚劣だ。」
 エンブリヲがため息をつき、ヒステリカがビームソードを構える。フリーダムもビームサーベルを手にして、ヒステリカを迎え撃つ。
「その度し難い愚劣さを、私が終わらせてやろう。」
 エンブリヲが笑みを絶やさず、ヒステリカがディスコードフェイザーを展開した。
「あれは!?・・・撃つ前に止める!」
 ヒステリカが大出力の砲撃をしてくると判断するキラ。彼の中で何かが弾けて、感覚が研ぎ澄まされた。
 フリーダムがドラグーン以外の全ての銃砲を展開し、一斉に発射した。
 エンブリヲが永遠語りを歌い、ヒステリカがディスコードフェイザーを発射した。この砲撃でフリーダムの射撃がかき消された。
「キラ!」
 叫ぶアスランの中でも何かが弾けた。ジャスティスが高速で飛び込み、フリーダムを抱えてヒステリカの砲撃をかわした。
「大丈夫か、キラ!?」
「うん・・ありがとう、アスラン・・!」
 アスランが声を掛けて、キラが礼を言う。
「お前たちが世界のためにできることは何もない。世界を正しく導くことも、私を倒すことも・・」
 エンブリヲがキラたちをあざ笑い、ヒステリカが再びディスコードフェイザーを使おうとした。
「させない!」
 アスランが言い放ち、ジャスティスがビームサーベル2本の柄を合わせて、ヒステリカに飛びかかる。ヒステリカはディスコードフェイザーを1度収納して、ジャスティスが振りかざすビームサーベルとビームブレイドをかわしていく。
「お前も実に半端者だな、アスラン・ザラ。プラントとオーブ、双方を行ったり来たりと・・」
 エンブリヲはアスランの行動に対しても嘲笑を投げかけた。
「敵と味方を入れ替えて、それで満足してもらえるのかな?お前の周りにいる者が。」
「オレは世界を乱す者と戦うだけだ!相手がキラでも、オレ間違いを正す・・!」
 エンブリヲから指摘されて、アスランが自分の考えを口にする。アスランは今はキラたちと行動を共にしているが、彼らに対する疑念は未だに抱えていた。
「やはりお前も半端者だ・・私のように一途でなければ・・・」
 エンブリヲがため息をつき、ヒステリカがビームソードを振りかざす。ジャスティスも右足のビームブレイドを振りかざすが、衝突の反動で2機とも突き飛ばされる。
「フリーダムとジャスティス、2機合わせてヒステリカと互角というところか・・」
 エンブリヲが戦力を分析して、フリーダムたちからレジェンドとアーキバスに視線を移す。
「これは少々、厄介な状況だな・・・」
 現状を快く思わず、エンブリヲは再びため息をついた。

 アウラ奪還に向けて前進するイザナギ、デスティニー、焔龍號、ダイミダラー超型と6型、ビッグエースとエース。彼らの前にビッグエース部隊が立ちふさがった。
「連合軍に組み込まれたビッグエースね・・!」
「構うことはない!アイツらの足を止めて、動けなくするぞ!」
 エリナが声を上げて、隼人が迷いを振り切って言い放つ。
「分かりました。遠慮なく攻撃をさせていただきます!」
 サラマンディーネが答えて、焔龍號が晴嵐を発射して、ビッグエースたちの前の地面に当てた。地面から土煙が舞い上がり、ビッグエースたちが振動に揺さぶられて、数体が倒れた。
「向こうの体勢が崩れている今のうちに!」
「あぁ!」
 カナタが呼びかけて、シンが答える。
「ちょっと待ったー!」
 そこへリッツカスタムが駆け付け、イザナギたちの前に立ちはだかった。
「ペンギン帝国!」
「リカンツ・シーベリー・・!」
 孝一と恭子がリッツカスタムを見て声を上げる。
「将馬くんは・・将馬くんはどこ!?」
 霧子が声を張り上げて、リカンツを問い詰める。
「みんなもこの国に来てるよ。でも危ないから海辺のほうで待っててって言ってある。」
 リカンツが答えて、海辺の方に目を向ける。
「将馬くんは返してもらうわ・・あなたを倒して、ペンギンから元に戻してみせる!」
 言い放つ霧子の体からハイエロ粒子があふれ出す。将馬への強い愛が、ハイエロ粒子をもたらしていた。
「霧子、また自分を見失うなよ!そんなんじゃ助けるどころじゃなくなるぞ!」
「分かっています・・もう、感情に任せてリミッター解除はしないわ・・!」
 孝一が注意をして、霧子が落ち着きを保ったまま答えた。
「それが分かってるならいいぜ・・!」
「行くわよ、孝一くん、霧子さん!」
 孝一が笑みをこぼして、恭子が呼びかける。
「下はオレたちに任せてくれ!お前たちは先に行け!」
「鉄さん、孝一、霧子・・了解!」
 隼人の呼びかけに、カナタが戸惑いを感じながら答える。
「私たちはアウラの元へ突き進みます!」
「分かってる!」
 サラマンディーネの声にシンが答える。イザナギ、デスティニー、焔龍號が加速した。
「さぁ、徹底的にやってやるぜ!」
 孝一が高らかに言い放ち、恭子の胸をつかみ上げた。
「うわあっ!」
 恭子が胸を揉まれて悲鳴を上げる。孝一が興奮して、ハイエロ粒子を増加させる。
 ダイミダラー超型と6型が、同時に飛び出した。2機が繰り出した左右の手を、リッツカスタムは上昇してかわした。
「ダイミダラーが2体いても、チンは負けないよー!」
 リカンツが負けん気を見せて、孝一たちを迎え撃った。

 ステラのガイアとヴィヴィアンのレイザーを、エルシャのレイジアが迎え撃つ。ガイアがビームライフルを撃ち、レイジアがビームシールドで防ぐ。
「エルシャ、やめて!あんな悪者の味方をしちゃダメだよ!」
「そうはいかないわ、ヴィヴィちゃん・・私は戦わないといけないのよ・・子供たちのために、あの子たちを助けてくれたエンブリヲさんのために・・」
 ヴィヴィアンが呼び止めるが、エルシャは戦いをやめようとしない。
「こどもを、まもるために・・・」
 ステラがエルシャの言葉を聞いて、当惑を覚える。
「みんなここで暮らすことになったの・・でも今はみんな、避難しているはず・・・」
 エルシャが城のほうに目を向けて、年少組の子供たちのことを思う。
「ほら・・みんな避難しているよ・・そのまま、安全な所へ・・・」
「えっ!?何を言ってるの、エルシャ・・!?」
 呼びかけるエルシャに、ヴィヴィアンが疑問符を浮かべる。
「えっ?そこにいるじゃない・・子供たちが一生懸命に避難しているじゃない・・・!」
「なにをいっているの?・・あそこにこどもはいないよ・・・?」
 驚きを覚えるエルシャに、ステラも疑問を投げかける。
「あなたまで・・あそこにいるじゃない!アルゼナルの年少組の子供たちが!」
 エルシャが声を荒げて、城のほうを示す。しかしヴィヴィアンとステラの視界に、子供たちの姿はない。
「あの子たちもいる・・あのとき、エンブリヲさんが救ってくれたのよ・・・!」
 エルシャがアルゼナルでエンブリヲが子供たちを生き返らせたのを思い出した。それからエルシャは子供たちと一緒に、エンブリヲについていったと思っていた。
「あそこにこどもはいないよ・・ちゃんとみて・・・」
 ステラが表情を変えずに、エルシャに言いかける。
「ちゃんと見えているわ・・あそこに、あの子たちが・・・!」
 エルシャが感情をあらわにして、ヴィヴィアンたちに訴えた。
 そのとき、エルシャが見ていた子供たちの姿が突然揺らぎ出した。
「えっ・・!?」
 この異変にエルシャが目を疑う。映像が乱れて暗くなるように、子供たちの姿が彼女の視界から消えた。
「どこに行ったの!?・・みんな、どこ!?」
 エルシャが動揺しながら子供たちを捜す。子供たちの姿を見失い、彼女は冷静さを失っていた。
「エルシャ、落ち着いて!もう戦いはやめて、アンジュたちのところへ帰ろう!」
「どこなの!?みんな、どこに行ったの!?」
 ヴィヴィアンが呼びかけるが、エルシャは子供たちを捜すことしか頭にない。彼女は絶望に囚われて、錯乱に陥っていた。

 性能の差からアーキバスとグレイブには優位に立っていたクリスのテオドーラ。しかし海潮の動かすランガを圧倒するには至っていなかった。
「ランガ・・どんどん分からないことが増えてくる・・・」
 ランガの能力や秘密を理解しきれず、クリスは不快感を感じていた。
「もうやめよう・・こんな戦いをしても、みんなが傷つくだけだよ・・・!」
 海潮がクリスに戦いをやめるように訴える。
「みんなが傷つく?・・傷ついたのは私で、ヒルダもロザリーも自分のことばかり・・私のこと、見捨てたくせに・・・」
 クリスが嘲笑して、ヒルダたちへの憎悪を募らせる。
「でもエンブリヲくんは、私のためにいろんなことをしてくれた・・ほしいものをたくさんくれたし、たくさん励ましてくれた・・・」
「そんなのわがままだよ・・甘えを何でも聞いてくれる人がいれば、それでいいの・・・!?」
 エンブリヲに心酔するクリスに、海潮が問いかける。
「私を見捨てるヤツなんて・・友達でも仲間でもない・・・!」
「わがままを聞くだけの人なんて、ホントの友達じゃないよ!」
「アンタも勝手なこと・・そうやって、私のことを見捨てる1人なのね・・・!」
「勝手なのはあなたのほうじゃない!自分のことしか、自分が甘えることしか考えていない!」
 自分の考えを押し付けるクリスに、海潮が怒りを覚える。ランガが胸から剣を引き抜いて、テオドーラを迎え撃つ。
 テオドーラが振り下ろしたラツィーエルを、ランガが剣で受け止める。力で押し込もうとしたテオドーラに向けて、ランガが左手からの砲撃を放つ。
「ぐっ!」
 ビームシールドで砲撃を防いだテオドーラだが、衝撃までは防ぎ切れず、クリスが揺さぶられてうめく。
「あの人のように誰かを支配するのは、間違っている・・何かに縛られているんじゃ、ホントの楽園じゃない!」
「エンブリヲくんを悪く言うヤツは・・許さない!」
 必死に訴える海潮に対して、クリスが憎悪を募らせる。
 テオドーラがビームライフルを連射して、ランガの胴体に命中させていく。
「うあぁっ!」
 体に痛みを覚えて、海潮が悲鳴を上げる。
「海潮!」
「クリス、いつまでも調子に乗んな!」
 ヒルダが叫び、ロザリーがクリスに憤りをあらわにする。
「私を見捨てた2人が何を言うの・・・!?」
「見捨てた、見捨てたって・・おめぇ、いつまで何様でいるつもりだよ!」
 鋭い視線を向けるクリスに、ロザリーが怒鳴る。グレイブがアサルトライフルを発射して、テオドーラが回避する。
「そんなに見捨てたって言い張りたいなら、望み通り、お前のことを見捨ててやるよ!後であたしらを裏切ったことを後悔するんだな!」
 ヒルダが言い放ち、アーキバスがドラゴンスレイヤーを構えてテオドーラに飛びかかる。テオドーラがラツィーエルでドラゴンスレイヤーを受け止める。
「弱いくせに、生意気な口を・・・!」
 クリスが不満を口にすると、グレイブが再びアサルトライフルを撃ってきた。テオドーラがアーキバスを突き飛ばして、射撃をかわした。
「ここのところ、ずいぶんとおしゃべりになったじゃねぇか、クリス・・!」
 ロザリーが不敵な笑みを浮かべて、クリスを挑発する。
「みんな、私のことを・・・みんな、ここで消してやる・・・!」
 クリスがヒルダたちへの憎悪を募らせて、テオドーラがアーキバスたちと対峙する。
「止めなくちゃ・・こんな戦いも、クリスのようなわがままも、エンブリヲって人の企みも・・・!」
 海潮が覚悟を決めて、体の痛みに耐えてランガを動かした。

 ヴィルキスとクレオパトラの戦いは、一進一退の攻防となっていた。サリアのエンブリヲへの強い想いが、アンジュを追い込んでいた。
「そんなことって・・サリアがここまで強くなるなんて・・・!」
「私はあなたには負けない・・あなたがいなくなれば、エンブリヲ様は私を認めてくれる!」
 苛立ちを浮かべるアンジュと、エンブリヲへの想いに執着するサリア。
「あんな変態にすがりつくなんて、本当に見下げ果てたわね・・」
「黙りなさい!何もない私にはもう、エンブリヲ様しかいない!力も仲間も歌もあるあなたには、この屈辱は決して分からないわ!」
 ため息混じりに言うアンジュに、サリアが怒鳴りかかる。クレオパトラとヴィルキスがラツィーエルをぶつけ合う。
「もう後戻りはできないのよ・・あなたを倒すか、私が死ぬか、どちらかよ!」
「そこまで愚かだったなんてね・・・!」
 敵意をむき出しにするサリアを、アンジュが軽蔑する。
 ヴィルキスがアサルトライフルを発射するが、クレオパトラのビームライフルからの射撃で弾丸が撃ち抜かれた。
 クレオパトラがさらにビームを撃ち、ヴィルキスがアサルトライフルを撃ち抜かれて手放した。
「あなたになくて私にある歌・・その力、受けてみなさい!」
 アンジュが言い放ち、ヴィルキスがディスコードフェイザーを起動させる。
「確かに歌を持たない私に、あれは使えない・・でも、使わせなければいいだけよ!」
 サリアが言い放ち、クレオパトラがヴィルキスに向かって加速する。
「それでも撃って、あなたを討つ!それだけよ!」
 アンジュが言い返し、ヴィルキスが移動してクレオパトラとの距離を取る。
「逃がさないわよ、アンジュ!」
 サリアが言い放ち、クレオパトラがビームライフルを構える。その瞬間、ヴィルキスが凍結バレットを射出して、ビームライフルに命中して凍らせた。
「くっ!」
 サリアが毒づいて、クレオパトラが凍てついたビームライフルを持ったまま突撃する。
 その間にアンジュが永遠語りを歌い、ヴィルキスがディスコードフェイザーにエネルギーを集めた。
「サリア!」
 アンジュが叫び、ヴィルキスがディスコードフェイザーから高出力の砲撃を放った。同時にクレオパトラが凍てついたビームライフルを投げて、一気にスピードを上げた。
 ヴィルキスの砲撃はビームライフルを破壊しただけで、クレオパトラには当たらなかった。
「もらったわ!」
 サリアが勝利を確信し、クレオパトラがヴィルキスに詰め寄り、ラツィーエルを振りかざした。ヴィルキスもラツィーエルを掲げるが、クレオパトラに押されて、地面に叩きつけられた。
「サリアによけられて、追い詰められるなんて・・・!」
 ヴィルキスを押さえつけられ、アンジュが驚愕する。クレオパトラがラツィーエルを構えて、ヴィルキスにとどめを刺そうとする。
「これで終わりよ・・あなたがいなくなれば、私は・・・!」
 アンジュへの憎悪をむき出しにするサリア。クレオパトラがラツィーエルをヴィルキス目がけて振り下ろした。
 だがラツィーエルはヴィルキスではなく、そばの地面に突き刺さった。
(外れた!?・・・まさか、外した・・・!?)
 サリアに異変を感じて、アンジュが当惑する。クレオパトラのコックピットで、サリアが体を震わせていた。
「分かっていた・・あなたを討っても、何にもならないってことは・・・」
 サリアがヴィルキスを見つめて、物悲しい笑みを浮かべる。
「あなたを消しても、エンブリヲ様は私を認めるどころか許さないだろうし、私自身の心が満たされることはない・・分かっていたはずなのに、私は私の欲に囚われた・・」
「サリア・・・」
「私って・・ほんとバカ・・・」
 自分の戦いに虚しさを感じて絶望を込めた笑みを浮かべるサリアに、アンジュが困惑する。
「ヴィ・・ヴィルキス!」
 アンジュが我に返り、叫ぶ。ヴィルキスがアリエルモードになって、クレオパトラの前から脱した。
「もう捕まりはしないわ!・・・サリア・・!?」
 苛立ちを噛みしめるアンジュが、クレオパトラの動きが鈍っていることに違和感を覚える。
「どうしたのよ、一体?・・ここまでやっておいて、やめるなんていうつもり・・!?」
 アンジュが文句を言うが、サリアは答えない。
「まさか、こんなところで腑抜けたとでもいうの・・?」
「・・・そうかもしれないわね・・なにをやっても、私の得になるようにはならない・・・」
 呆れるアンジュに、サリアが虚しさを募らせて言い返す。彼女から戦意と憎悪が弱まっていた。

 アウラが地下に囚われている城の中央の前まで、イザナギたちはたどり着いた。そこへ連合軍の機体が集まり、警戒網を敷いてきた。
「どこまでもオレたちの邪魔をするつもりか!」
「これじゃ数でこっちが不利だぞ・・!」
 シンが苛立ち、カナタが毒づく。
「こちらの援軍が間に合いました。数の差はこれで埋まります。」
 サラマンディーネが振り向いて笑みをこぼす。次元のトンネルを通って、ドラゴンの群れが現れた。
「ドラゴンが、オレたちの味方になってくれるとは・・・!」
 加勢するドラゴンたちに、カナタは戸惑いを覚える。
「あの部隊は彼らが引き受けます。私たちはアウラを!」
 サラマンディーネの呼びかけに、カナタとシンが頷く。イザナギ、デスティニー、焔龍號が城の中へ突入した。
 ウィンダムたちがイザナギたちを追撃しようとしたが、ドラゴンたちの突撃に攻撃を妨害された。

 キラたちに続いてドラゴンたちも加勢して、エンブリヲは劣勢を感じていた。
「度し難いな・・本当に、度し難い・・・」
 エンブリヲが不快感を感じて、指を鳴らした。するとサリアたちの意思、操作と関係なく、ラグナメイルが移動させられた。
「えっ!?」
「な、何っ!?」
 サリアとターニャが突然のことに驚く。
「ここは任せたよ、みんな・・私のために命を張りたまえ・・」
「エンブリヲ様・・まさか、私たちを盾にして・・!?」
 悠然と告げるエンブリヲに、イルマが耳を疑う。
「サリア、君には失望したよ・・私に歯向かい、我が妻を手に掛けようとするとは・・」
 エンブリヲがサリアに対してため息をつく。戦う意思を揺さぶられて、サリアは言葉を詰まらせている。
「エンブリヲさん、子供たちが・・あの子たちがいないんです!」
 エルシャが子供たちのことを問い詰める。
「あのとき、私はあの子たちを生き返らせてはいなかった・・生き返ったように見えるよう、君の心をコントロールしておいたのだよ・・」
 エンブリヲが語った話に、エルシャが目を見開く。彼女はエンブリヲによって幻覚を見せられて、子供たちが生きていると思い込まされていた。
「エンブリヲくん・・君は私のことを友達だと言ってくれた!その君が、僕を見捨てるの!?」
 クリスも驚きを隠せないまま、エンブリヲを問い詰める。
「私のために尽くしてくれる・・それが僕の友であり、妻なのだ・・・君も、私のために尽くしてくれたまえ。」
 エンブリヲが投げかけた言葉に、クリスが愕然となった。エンブリヲに利用されていただけだと思い知らされ、クリスが絶望を膨らませた。
「君も・・お前も・・私を見捨てるっていうの・・・!?」
 エンブリヲにも見捨てられて、クリスが自分を見失い、絶叫を上げる。テオドーラが見境なくビームライフルを乱射する。
「おいやめろ、クリス!パニクってんじゃねぇよ!」
 ロザリーが怒鳴るが、クリスの耳には入っていない。
「ったく、どこまでも世話焼かすヤツだ!」
 ヒルダが不満げに言って、テオドーラの動きを見計らう。
「ビ、ビクトリアが動かない!?・・エンブリヲ様、これはどういうことですか!?」
 ビクトリアが操縦できなくなり、ターニャが驚愕してエンブリヲに問いかける。
「しっかりと足止めを務めてくれ。アウラを奪われるわけにはいかないのでね・・」
 悠然と答えたエンブリヲの言葉に、ターニャが愕然となる。
「待ってください!助けてください、エンブリヲ様!」
 イルマも動揺して、エンブリヲに助けを求める。
「揃いも揃って滑稽だ・・私が結ばれたいと望んでいるのは、ただ1人だ・・・」
 エンブリヲがため息をついて、ヒステリカがアウラのいる城へ向かう。
「待て!」
 レイが叫び、レジェンドが追撃しようとするが、ビクトリアとエイレーネに行く手を阻まれる。
「やめて!勝手に動いてしまうのよ!」
「助けて!死にたくないよ!」
 ターニャとイルマがレイに助けを求めてきた。
「お前たちも裏切り者だ。お前たちを救う道理はない。」
 レイはためらうことなく、彼女たちを攻撃しようとする。
「よせ、レイ!彼女たちに戦う意思はない!」
 ジャスティスがレジェンドに近づき、アスランがレイを呼び止める。
「お前も裏切り者だ。今は任務を優先しているが、邪魔をするならお前たちもここで討つ・・・!」
 レイはアスランに対しても敵意を向ける。
「お前たちで討ち合うか。それも一興か・・」
 エンブリヲが彼らの争いに喜びを感じて、ヒステリカがイザナギたちのところへ向かう。
「君たち2人もついてきてもらうよ。あそこにはアウラの民が集まっているからね・・」
 エンブリヲが手招きをして、ビクトリアとエイレーネを引き寄せる。
「やめてください、エンブリヲ様!私は死にたくないです!」
「ハッチが開かない!脱出もできない!」
 イルマが助けを請い、ターニャが焦りを募らせる。
「やめるんだ、こんなこと!」
 キラが叫び、フリーダムがヒステリカを狙ってレールガンを発射した。だがそのビームは、エンブリヲに操られたビクトリアとエイレーネに直撃する。
「待て、キラ!あの2体は操られているようだ!」
 アスランが呼び止め、キラが焦りを噛みしめる。
「とにかく追うしかない!確実にあの機体を止めるために・・!」
 アスランの言葉にキラが頷く。フリーダムとジャスティスがヒステリカたちを追う。
「逃がしはしない・・ヤツもアスランたちも・・・!」
 レイもエンブリヲたちとキラたちを追って、レジェンドを加速させた。

 城の中央に突入したイザナギたちは、地下に進み、その先の広場に到着した。その中央に巨大なドラゴンが閉じ込められていた。
「大きい・・これが・・!」
「そうです。私たちの始祖、アウラです。」
 戸惑いを浮かべるカナタに、サラマンディーネが真剣な面持ちで告げる。
「助け出すんだろ?どうすればいいんだ!?」
「アウラを解放するには、生半可な力ではこの拘束は外せません。持てる力を振り絞るのです!」
 シンが問いかけて、サラマンディーネが指示を送る。
「収斂時空砲だけでは破るには足りないでしょう・・カナタさん、シンさん、あなたたちの力を貸してください・・!」
「ディメンションブレイカー・・あれは次元を歪める効果も持っている・・下手をしたら、アウラが歪んだ空間に引きずり込まれてしまう可能性も・・・!」
「それは私が食い止めて、威力を調整します!気にせずに撃ってください!」
「サラさん・・分かった・・!」
 サラマンディーネに言われて、カナタが躊躇を振り切って覚悟を決めた。
「ハイブリッドディメンション、エネルギーチャージ!」
 カナタがコンピューターを操作して、イザナギがハイブリッドディメンションにエネルギーを集めていく。サラマンディーネも詠唱をして、焔龍號の収斂時空砲を起動する。
「そうはさせないよ。」
 そのとき、エンブリヲの声がカナタたちの耳に届き、直後にヒステリカが姿を現した。
「エンブリヲ!?」
「こんなときにこっちに来るなんて・・!」
 サラマンディーネが緊迫を覚えて、カナタが危機感を覚える。
「ここまで来て、邪魔されてたまるか!」
 言い放つシンの中で何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされ、視界がクリアになった。
 デスティニーがヒステリカの前に立ちはだかり、アロンダイトを手にして構えた。
「オレがアイツを食い止める!2人はアウラを!」
「シン!」
 呼びかけるシンに、カナタが声を荒げる。デスティニーが突撃し、ヒステリカを引き離す。
「カナタさん、今のうちに・・!」
「あ、あぁ・・!」
 サラマンディーネが呼びかけて、カナタが頷く。
 デスティニーが振りかざすアロンダイトを、ヒステリカが後退してかわす。直後にデスティニーがビーム砲を展開して発射して、ヒステリカをけん制する。
「行きますよ、サラさん!ディメンションブレイカー!」
 カナタが掛け声を上げて、イザナギがアウラを閉じ込めているカプセルに向けてディメンションブレイカーを発射した。
「収斂時空砲!」
 サラマンディーネも焔龍號の収斂時空砲を発射した。焔龍號の砲撃はディメンションブレイカーに当たり、時空への歪みを抑えた。
 威力が弱められたディメンションブレイカーは、空間に影響を与えることなく、カプセルだけを破壊した。
「やった!うまくいったぞ!」
 シンがその瞬間を見て頷き、エンブリヲが毒づく。解放されたアウラが、大きく翼を広げた。

 
 
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