スーパーロボット大戦CROSS
第55話「決戦の夜明け」
深い抱擁を経て、カナタとラブは安らぎを感じていた。「とうとう、ここまでやってしまった・・・ラブと、ここまで・・・」 カナタがラブを抱きしめたことに、戸惑いを感じていく。「カナタになら、私はそれでよかった・・気持ちよかったし、嬉しかった・・・」 ラブが微笑んで、自分の胸に手を当てた。「エンブリヲに感覚をおかしくされたからだと思っていたけど・・今は、私がこうしたいと望んでいた・・・」「オレも、ラブのこの気持ちを受け止めた・・オレの意思で・・・」 自分の感覚を確かめるラブに、カナタも自分の思いを伝える。「でも、ここまでやってしまうなんて・・考えていなかったし、初めてのことだった・・」「私も・・どうしても、エッチをしたいって気持ちに逆らえなかった・・・ゴメンね、カナタ・・・」「いや、オレも心のどこかで望んでたかもしれない・・ラブと、こんなことをしたいって・・」「エヘヘ・・私たち、気が合うようになっていたんだね・・・」 気持ちを伝えあって照れ笑いを浮かべるとうかとラブ。しかし2人の表情がだんだんと曇っていく。「お姉ちゃん、どうして私たちの言うことを聞いてくれないの?・・カナタやイザナギに勝つことが、私たちや世界よりも大事だっていうの・・・!?」「カンナは囚われているんだ・・力への欲望と、強すぎる負けず嫌いに・・・」「カナタに勝ったって、何の意味があるの!?・・意味があっても、世界やみんなを犠牲にしていいことにはならないのに・・・!」「それはオレも同じ気持ちだ・・だけどオレに勝ちたいって気持ちが強すぎて、オレたちの言葉を全然聞かない・・・」 カンナのことを考えて、ラブとカナタが悲しみを膨らませていく。カンナを説得できないことを、2人は辛く思っていた。「止めるしかない・・力ずくでも・・・」「カナタ・・・!」 覚悟を決めるカナタに、ラブが当惑を浮かべる。「もちろん殺すつもりはない・・イザナミを活動停止にして、カンナを引きずり出す・・それが敵わないときの覚悟も、しないといけないけど・・・」「うん・・お姉ちゃんを助けることを、諦めたくないよ・・・!」 カナタの本音を聞いて、ラブが小さく頷いた。「ただ・・カンナが戻ってきたときに、ラブとこんなことをしたのを、面と向かって言えるかどうか・・・」「それは大丈夫だよ。もしお姉ちゃんが怒ってきても、そのときは私はカナタの味方になるから・・」 肩を落とすカナタに、ラブが苦笑いを浮かべて励ます。「この戦いが終わっても、次の戦いがあるってことか・・・」 カナタも苦笑いを浮かべて、戦いが終わった後のことを考える。「また、こうして抱かせてくれないか?・・オレ、君とまたこうしたいと思っているんだ・・・」「私もだよ・・私も、カナタとこれからもずっと一緒にいたい・・・」 カナタとラブが互いに告白して、また抱きしめ合った。「オレは守る・・世界もみんなもカンナも、そしてラブも・・!」「私も、カナタやみんなを守るために・・・!」 2人は決意を新たにして、また口づけを交わした。彼らは服を着て、イザナギに振り返った。 同じ頃、アンジュとタスクも深い抱擁を終えて、仰向けになって空を見上げていた。「ねぇ・・満足、した・・?」 明け方の空を見つめたまま、アンジュが聞く。「うん・・もう思い残すことがないってくらいに・・」「ダメよ。これからなのに・・」 笑みをこぼすタスクに、アンジュが注意を口にする。「不思議ね・・ムチャクチャだと思っていた世界なのに、何もかもが新しく輝いて見える・・」 アンジュが空を見つめて、安らぎを感じていく。「私ね、あの変態ストーカー男に言われたの。世界を壊して新しく作り直そうって・・でも私、この世界が好き・・どれだけ不完全で愚かでも、この世界が・・」「アンジュ・・・」「それに、違う世界からみんなにも感謝してるの・・シンや海潮、孝一や霧子、カナタやラブ。みんながいてくれたから、私は生きているし、あなたもモモカも生きている・・」 戸惑いを浮かべるタスクに、アンジュが本音とカナタたちへの謝意を口にする。 自分たちがいた地球は、差別と偏見が入り混じった愚かしい星だった。次元の歪みによって世界が融合し、さらなる混乱と争いが引き起こされることになったが、喜ばしい出会いもたくさんあった。 ノーマのことを完全には知らず、ノーマに対する憎悪を植え付けられていなかったとはいえ、他と変わらない人間として見てくれた。 差別や偏見を向けなかったカナタたちに、アンジュは安らぎを感じられるようになった。「この先、世界が元に戻ってみんなとお別れになるのか、このままみんな一緒にいられるかどうかは分からない・・でも、世界をあんな変態のいいようにはさせないわ・・」「オレもこれからも、アンジュの騎士として戦うよ・・アンジュと、アンジュが守りたいと思うものを守るために・・」 それぞれの決意を口にして、アンジュとタスク頷き合う。そのとき、2人は空腹を感じて、おなかに手を当てる。「この夜の間にずっとやっていたからね・・」「モモカが腕によりをかけて作っているわよ。」 2人だけの一夜を過ごしたことを実感して、タスクとアンジュが笑みをこぼした。2人は部屋を着て、浜辺を後にした。 食材を取りそろえた海潮とモモカ。時間をかけて煮込む料理も作るため、2人は交代でその煮込みの見張りをしていた。「アンジュとタスクくんの様子を見に行かなくていいんですか?アンジュのお世話役なら、心配になるはずですが・・」 海潮がアンジュとタスクのことを気にして、モモカに訊ねる。「アンジュリーゼ様とタスクさんを信じているからこそです。心のケアを済ませた後は体力をつけることになりますので、その準備をするだけです。」 モモカは冷静にアンジュたちへの信頼を口にする。「そうだとしても、せめて様子を見に行くぐらいは・・」「それは私が時々見に行きましたので、心配いりません。」 海潮が言いかけるが、モモカが顔を横に振る。(それにアレは海潮さんには刺激が強いですからね・・) 心の中で呟くモモカ。彼女は海潮にも気を遣っていた。「モモカ、海潮。」 アンジュがタスクと共に戻ってきて、海潮たちに声を掛けてきた。「アンジュリーゼ様、タスクさん。丁度お食事のご用意ができました。」「本当にいいタイミングね、モモカ。みんなのところに戻る前に、」 食事の支度が整ったことを伝えるモモカに、アンジュが感謝した。 食事を終えたアンジュたちは、1度武蔵野に戻ることを決めた。「私とランガで送るから、手の上に乗って。」 海潮がランガに近づいて、アンジュたちに呼びかける。「その必要はないわ・・おいで、ヴィルキス。」 アンジュが指輪を付けた手を掲げて念じた。すると彼女の前に、ミスルギ皇国にあったはずのヴィルキスが現れた。「ヴィルキスが、アンジュの呼び声に反応した・・!」 タスクがヴィルキスを見て戸惑いを覚える。「私はアンジュリーゼ様のそばにいます。」 モモカがアンジュと共にヴィルキスに乗ることを決める。「オレはこれに乗る。アンジュやみんなと一緒に戦うよ。」 タスクが小屋の中のシートを外した。その中にあったのは、赤紫のアーキバスだった。「これってパラメイル・・サリアやヒルダが乗っていたタイプの・・・」「オレの母さんが乗っていたアーキバスだ・・ここに戻ってくる度にチェックしていたよ・・」 海潮が言いかけて、タスクがアーキバスのことを話す。彼の母、バネッサが使っていたアーキバスである。「これであなたたちを乗せていく必要がなくなっちゃったね・・」「気持ちだけでも感謝しているわ。」 苦笑いを見せる海潮に、アンジュが微笑んだ。「それじゃ行くよ。」 海潮がランガに手を触れて、その中に入った。「海潮ちゃん!?」「海潮はランガに入ったのよ。意識だけじゃなく、体もね。」 驚くタスクにアンジュが説明する。「ランガを中から直接動かす・・でも、ランガが傷つけば、海潮さんも・・」「傷つく覚悟はできているわ。私たちみんなね。それでもみんな生きて帰ること。もうこれ以上、死ぬことは許さないんだから・・」 海潮を心配するモモカと、自分とみんなの覚悟を信じるアンジュ。 戦いである以上、傷つくことは避けられない。それでもみんなで戦いを終わらせ、生きて帰る。アンジュはそう思っていて、みんなもそうだと思っていた。「私たちも行くわよ。海潮、武蔵野に戻るのよね?」「うん。お姉ちゃんたちが待っているし、ミネルバも連合軍を止めたら戻ってくることになっている。」 アンジュが呼びかけて、海潮がこれからのことを告げる。ランガが翼をはばたかせて飛翔し、アンジュとモモカを乗せたヴィルキスとタスクのアーキバスが続いて発進した。 シンたちと海潮たちの帰りを待つ魅波たち。同じく武蔵野銀座で待っていた茗の元に、プラントへの第2射の阻止とレクイエムの破壊の知らせが届いた。「もうすぐ地球に返ってくるわね、みんな。」「後は海潮とカナタくんたちね・・」 夕姫と魅波がシンたちと海潮たちの帰還を信じる。「クロス・・違う世界の人たちか・・」 勝流がカナタたちのことを考える。「うん。違う世界で、考え方も感じ方も、文化も環境も違うけど、分かり合うことができた・・最初は助けたり助けられたりして、目的がいっしょだったのが始まりだったけど・・」「それでみんなもバロウもクロスに加わったということか・・」 魅波がクロスのことを説明して、勝流が頷いた。「みんな、ランガがこっちに向かってるって!今、日本に入ったって!」 海潮たちのことを聞いて、茗が魅波たちに伝えた。「海潮もアンジュたちを見つけたのね。」 魅波が笑みをこぼして、ランガの来る方向に目を向ける。「ランガの他に2機の機体も一緒よ。ということは・・!」「ヴィルキスとイザナギ・・アンジュさんとカナタさんですね。」 茗が続けて報告して、ジョエルが安心した。 少しして、魅波たちがランガが現れたのを確認した。「えっ?ランガとヴィルキスと、もう1機は・・パラメイル・・?」 ランガ、ヴィルキスと共に飛行するアーキバスに、夕姫が疑問符を浮かべる。 ランガが魅波たちの前に降り立ち、ヴィルキスとアーキバスが着陸した。海潮がランガから出てきて、魅波たちのそばに来た。「海潮、戻ってきたのね・・アンジュもタスクくんもモモカちゃんも・・・!」「うん・・危ないところだったけど、タスクくんたちを助けることができたよ。」 喜ぶ魅波に、海潮が事情を話す。「カナタとラブは見つからなかったの・・?」「うん・・見つからなかった・・過去とつながったときも、カナタとラブを見つけられなかった・・・」 夕姫がカナタたちのことを問いかけて、海潮が表情を曇らせる。「すぐに捜しに行くよ!カナタたちも必ず見つけ出してみせる!」「待って、海潮さん。もう少しでミネルバが戻ってきます。カナタさんたちを捜すのはそれからのほうがいいと思います・・」 カナタたちを捜しに行こうとした海潮を、ジョエルが呼び止める。「グラディス艦長たちが連合軍の兵器を破壊して、こっちに向かっているのよ。みんなで協力すれば、見つけられる可能性が高くなるわ。」 茗も続けて説明して、海潮が小さく頷いた。 レクイエムを破壊し、プラントの壊滅を阻止したシンたち。プラントの救助活動はザフトの他の部隊が担当し、ミネルバとオルペウスは地球に戻ってきた。「シン、孝一、霧子、みんな無事だったんだね!」「おう!みんな生きて帰ってきたぜ!」 海潮があたたかく迎えて、孝一が気さくに振る舞う。「連合軍の一員のロゴスを潰して、プラントを守ることはできた・・だけど、まだキラやアスランとの決着はついていない・・・!」 キラたちとの戦いを見据えていたシンは、素直に喜べなかった。「グラディス艦長、まだカナタとラブちゃんの行方が分かりません。捜索に協力していただけませんでしょうか?」 タスクがタリアにカナタたちの捜索を頼んできた。「もちろん・・と言いたいところだけど、連合軍との戦いで疲弊しているわ・・」 タリアが深刻な面持ちを浮かべて答える。月面での激しい戦いで、シンたちは体力を消耗していた。「今はレーダー探索でしか協力できないけど、それで構わないなら・・」「分かりました。感謝します、グラディス艦長。」 タリアの助力に感謝して、タスクが彼女と握手を交わした。「また私が行くよ。みんなには少しでも休まないと・・」 海潮がまたランガに入って、カナタとラブを捜しに行こうとする。「レーダーに反応あり!イザナギです!」 そのとき、メイリンがイザナギの接近をつかんで、タリアに報告した。「ホントか!?」「無事だったんだな、2人とも・・!」 孝一が喜んで、シンが戸惑いを覚える。“こちら、イザナギ!クロス、応答してください!クロス!” ミネルバにカナタからの通信が入ってきた。「カナタ!」「2人も無事でよかった・・!」 アンジュが叫んで、海潮が安心を覚える。 シンたちのいる武蔵野に、イザナギが降りてきた。着地したイザナギのコックピットから、カナタとラブが降りてきた。「ホントに戻ってきたんだね、2人とも・・!」「やられてしまったんじゃないかって、心配していたのよ・・!」 霧子と恭子が安心して、ラブとの抱擁を交わした。「カンナと・・イザナミと戦ったんだ・・イザナミも、ディメンションバーストを使えるようになっていた・・」「何だって!?」 カナタがイザナミのことを話して、シンが驚きの声を上げる。「これでイザナミを確実に止められる保証がなくなった・・しかもイザナギとイザナミが全力で戦えば、今まで以上の空間の歪みを引き起こすかもしれない・・最悪、世界の崩壊を招くことも・・・」「それじゃ、イザナギは下手に戦えないってことになるじゃないか・・!」 カナタが話を続けて、タスクが深刻さを浮かべる。「でも、他のヤツらと戦う分には問題ないんでしょ?」「それはもちろん・・オレがイザナギの力を制御しているなら・・」 アンジュに問われて、カナタが小さく頷いた。「カンナたちだけじゃない。あのエンブリヲというヤツとの戦いが残っている・・・!」「アイツの言いなりになっているサリアたちもね・・」 カナタとアンジュがエンブリヲとサリアたちのことを考える。「クリスとエルシャを連れ戻さなくちゃな・・・」「あぁ・・首根っこ引っつかんででもな・・!」 ロザリーとヒルダもクリスのことを考えて、怒りを噛みしめる。「休息と修繕、補給を得て、明日の朝、ミスルギ皇国に向かいます。」 タリアが指示を出して、カナタたちが頷いた。「カナタくんにはイザナミの今の状態、海潮さんにはランガに入っているときのことを教えてほしいのだけど・・」 タリアは続けてカナタたちから話を伺う。「分かりました。知っていることを話します。」「私も私の分かっていることだったら・・」 カナタと海潮が頷いて、彼女に協力することを決めた。 ジブリールが討伐されたことは、エンブリヲの耳にも届いた。「やはり憎悪に囚われた人間は滑稽だ。散り様も実に醜い・・」 エンブリヲが顔を横に振って、呆れた素振りを見せる。「今のこの融合した世界。私の管理の及ばないものが多い。だからこそこの世界全てを理想郷に作り変える。今度こそ、愚かさのない理想郷に・・」 彼が自分の目的を口にして、待機していたサリアたちに目を向ける。「次のクロスの狙いはここ、ミスルギ皇国だろう。ヤツらは竜の巫女とも同盟を結んでいる。アウラの奪還が、次の目的だ。」「これを私たちが迎え撃ち、殲滅するということですね。」 エンブリヲがカナタたちの行動を推測して、ターニャが答える。「そうだ。クロスを倒す。ただしアンジュは生かしたまま連れてくるのだ。」「アンジュも仲間に引き入れるのですか?アイツは言いなりにはなりませんし、こちらの戦力は今のままでも十分です・・」 指示を出すエンブリヲに、サリアが反論をする。するとエンブリヲが彼女に近づいてきた。「私が彼女を求めているのだ。やってくれるね・・?」「は・・はい・・分かりました・・・」 エンブリヲに言い寄られて、サリアが小さく頷いた。しかし彼女はエンブリヲがアンジュに入れ込んでいることに、納得することができなかった。 クレオパトラの前に来たサリアが、アンジュのことを考えていた。(エンブリヲ様はアンジュのことばかり・・どうしてあんな、身勝手で自分のことしか考えていない女ばかり・・・!?) サリアが心の中で不満の声を上げる。彼女の中でアンジュへの嫉妬が膨らみ、それは怒りや憎しみにつながっていた。(アンジュ・・・あんたがいなくなれば、私のほうが強いって分かれば、エンブリヲ様は認めてくれる・・私のこと・・・!) エンブリヲに対する承認欲求とアンジュへの憎悪を募らせていくサリア。(私がアンジュを倒す・・そうすることで、私の求めるものは、全て手に入る・・・!) アンジュを倒すことに執念を燃やすサリア。彼女はクロスとの戦いに備えて、クレオパトラに乗って待機した。 武蔵野で合流を果たしたクロスは、エンブリヲたちとの戦いに備えて休息をとっていた。「サリアさんたちが新たに乗った機体。それぞれがヴィルキスに勝るとも劣らない性能を備えていると見て、間違いないわね・・」 タリアがアーサー、ジャスミンと共にラグナメイルについて分析していた。「でもこっちも戦力が増しているよ。ザフトの新型2機にダイミダラー超型、あのアウラの民とドラゴンが加わり、海潮も直接ランガを動かせるようになった。」 ジャスミンがデスティニーやレジェンドのことを告げる。「問題は、あのエンブリヲという人物ね。彼自身がただ者ではないようね・・」 タリアがエンブリヲについて話して、メイリンがモニターに彼の写っている映像を出した。「アイツは私たちの世界を作り出し管理する調律者だ。アイツを討つことが、私たちアルゼナルの、リベルタスの目的・・」 ジャスミンがエンブリヲのことをタリアたちに話す。「アンジュたちの話では、彼は死んでもすぐに復活するそうよ。」「えっ!?それじゃどうやってアイツを止めればいいんですか!?」 タリアが話を続けて、アーサーが驚きの声を上げる。「止める方法がないわけじゃない。殺さずに動きを封じてしまえば、アイツは動くことができない。ただアイツは自殺すればいいんだけどね・・」「決定的な封じ手は、今のところないというわけね・・・」 ジャスミンが助言を送り、タリアが深刻さを募らせていく。「私たちが相手をしなければならない相手は、他にもいます。」 恭子もやってきて、タリアたちの話し合いに加わる。「ペンギン帝国が、私たちとエンブリヲの戦いに割って入る可能性があるというの?」「その可能性は否定できないです・・帝国にも用心したほうがいいと思います・・」 タリアの問いに、恭子が小さく頷いた。「エンブリヲたちにペンギン帝国をうまくぶつけられればいいけど・・」「今度の戦いにも、アークエンジェルも介入する可能性も高いです。月面では助けられることになりましたが、あくまで目的の一致でしかないでしょう・・」 恭子が言いかけて、タリアがキラたちの行動にも警戒していた。「このまま和解して力を合わせる・・・というには溝が深くなりすぎてしまいましたね・・・」「えぇ・・彼らも平和のために戦っているつもりだけど、それを一方的に押し付けている・・あのような行動には、我々も断固たる態度で臨まなければなりません。たとえ相手が、あのラクス・クラインでも・・」 恭子が懸念を感じて、タリアがキラたちと対峙する意思を示す。「こりゃ、厳しい上に大混戦になりそうだね・・それでも私たちはやらなくちゃならない。やらなきゃ、私たちも世界も・・」「本当の平和を取り戻すために・・私たちが、私たちの思うように生きるために・・」 ジャスミンの口にする使命を聞いて、タリアが戸惑いを感じていく。(あなたと私は、同じ道を歩むことができなかった・・思うように生きられなかった・・・ギルバート・・・) タリアが昔のことを思い出して、悲しい顔を浮かべた。 タリアはギルバートと付き合っていた。しかしコーディネイターである故の弊害、遺伝子的に子供を産めないという理由で、2人は結ばれることはなかった。 ザフトの軍人とプラントの最高評議会議長として関わる機会は少なくないが、タリアとギルバートはそれぞれ違う道を歩んでいた。「グラディス艦長、どうかしましたか?」 恭子に声を掛けられて、タリアが我に返る。「何でもないわ・・エンブリヲ、ペンギン帝国、アークエンジェル、ディメント・・4つの勢力から集中攻撃されることを、覚悟しておいたほうがいいわね・・」 タリアが投げかけた警告に、ジャスミンと恭子が頷いた。「クロスが抱えている問題は、それだけではない。」 そこへ勝流が魅波と共に来て、タリアたちに声を掛けてきた。「魅波さんたちの兄の、島原勝流さんですね。」 タリアが真剣な面持ちで聞いて、勝流が頷いた。「あなたは今までどこで何をしていたのですか?あなたはバロウに赴き、そこで沖に出たまま行方不明になったと聞いています・・」 タリアが勝流から話を伺う。「もしも生きていたのなら、連絡することもできたはずです。」「その通りだ。僕は密かに虚神会や世界の動向を探っていた。公に行動できなかったため、家に連絡することもできなかった・・」 勝流が自分のこれまでのことを打ち明けた。「もちろん魅波たちやバロウのことも把握していた。ランガが目覚め武蔵野に赴いたことも、その中にスーラが封印されていたことも、世界の融合もあなたたちのことも。」「だからずっと帰ってこれなかったのね・・・」 勝流の話を聞いて、魅波が納得する。「それで、私たちが他に抱えている問題とは?」「あなたたちの敵が、他にもいるかもしれないということです。連合軍やペンギン帝国だけでなく、あなたたちを狙う勢力が出てくる可能性も否定できない・・」 恭子も質問して、勝流が他の敵勢力の存在をほのめかす。「正体までは分かっていないが、不穏な動きが散見されたのは確かだ。」「まだまだ、用心したほうがいいってことだね・・」 勝流の話を聞いて、ジャスミンが肩を落とした。「私たちは明日の朝にミスルギ皇国へ出発します。魅波さん、勝流さん、あなたたちはどうするのですか?」 タリアが魅波たちに改めてこれからのことを聞く。「私たちも行くわ。世界を思い通りにして、私たちも思い通りにしようとするヤツがいるなら、私たちは戦うわ・・」「分かりました。引き続き、よろしくお願いします。」 魅波が決意を伝えて、タリアが聞き入れた。「行きましょう、勝流さん。」 魅波が勝流を連れて、ミネルバを後にした。「グラディス艦長、島原勝流さんがどこかの組織や集団のスパイという可能性はないのでしょうか・・?」 恭子がタリアに勝流に対する疑問を投げかける。「まだ分からないわ。彼の素性がほとんど分かっていないので・・」 タリアは判断を急がず、勝流の動向をうかがうことも決めていた。「今はエンブリヲを討つことに専念しましょう。私たちも休息を取り、明日に備えましょう。」 タリアが話し合いを終えて、恭子たちが頷いた。「私が見張りについています。敵の方から攻めてくる可能性もありますので。」「分かったわ。お願いね、アーサー。」 見張りを志願したアーサーに頷いて、タリアは恭子、ジャスミンとともに作戦室を後にした。 ミスルギ皇国の城の奥底に、エンブリヲは来ていた。彼が見ている先の筒状のカプセルに、巨大なドラゴンがいた。「この偽りの世界にもはや未来はない。私が破壊し、新たな世界として作り直す・・」 エンブリヲがドラゴンを見据えて笑みを浮かべる。「そのために、お前の残りの力全てを使わせてもらうぞ、アウラ・・」 彼が世界の再生を目論み、使えるものを全て使おうと考えていた。カプセルに入っていたドラゴンは、古の民の始祖、アウラだった。「お前が力尽きれば、お前を慕う民は希望を失い、私に敗れ去ることになる・・全ては私の手のひらの中で動いているのだよ・・私の管理下でない世界もね・・」 カナタやシンたちのいた世界も思い通りにできると確信して、エンブリヲは彼らを迎え撃とうとしていた。 次の日の朝が訪れ、クロスは各機体、各武器の修繕と補給が完了し、カナタたちも休息をとった。「みんな、厳しい戦いが続くけど、もう少し頑張るのよ。これを乗り越えれば、世界に平和を取り戻すための大きな一歩となるわ。」 タリアが激励を送って、カナタたちが頷いた。「次の戦いは、今まで以上の大混戦が予想されます。エンブリヲや連合軍以外の戦力にも狙われる可能性があることを、心に留めてください。」「相手が誰だろうと関係ねぇ!敵として向かってくるヤツには、徹底的にやってやる!」 タリアの言葉を受けて、孝一が意気込みを見せる。「クロスはミスルギ皇国へ向かいます。全員、出発準備!」 タリアが号令をかけて、カナタたちがミネルバ、アウローラ、オルペウスに乗り込んだ。「ラブ、体の方は大丈夫か・・?」「うん・・カナタも気を付けて・・・」 カナタが気を遣い、ラブが微笑んで頷いた。「カナタ、ラブ、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」 ヴィーノがカナタたちのところに来て、驚きの声を上げた。「もしかして、オレたちが月で戦っている間に、急接近したっていうのか!?」 ヨウランも来て、カナタたちを問い詰めてきた。「そんな、大げさな・・そこまでってわけじゃないよ・・!」「そ、そう!だからあんまり騒ぎにしないでよ、2人とも・・!」 ラブとカナタが赤面して、ヨウランたちの前から離れていく。「2人とも、こんなときにからかってくるなんて・・」「でも悪気はないんだし、これで少しは緊張が和らいだかな・・」 肩を落とすカナタと、苦笑いを浮かべるラブ。「決着を付けよう・・全てに・・」 カナタが言いかけて、ラブが小さく頷いた。 エンブリヲたちとの戦いに備えるカナタ。しかし彼はカンナたちディメントとの戦いも見据えていた。 第56話へ その他の小説に戻る TOPに戻る