スーパーロボット大戦CROSS
第54話「アイノカタチ」
インパルスの中継ステーションへの侵入の知らせは、すぐにジブリールたちに伝えられた。「何をしている!?敵モビルスーツを追い払え!」「フリーダムとジャスティスの攻撃で、機体の多くが行動不能となっていて、救援に向かうことができません!」 司令官が怒鳴ると、オペレーターが慌てて状況を報告する。「レクイエムのチャージはまだか!?」「稼働率、61%!まだプラントに届くエネルギーではありません!」 司令官のさらなる問いかけに、オペレーターが答える。「構わん!レクイエム、発射だ!」 ジブリールが目つきを鋭くして、命令を下す。「しかし、チャージが十分でなく、プラントを撃つにはまだ・・!」「フルパワーでなくてよい!レクイエムに近づく敵をなぎ払うのだ!」 声を荒げるオペレーターに、ジブリールが呼びかける。レクイエムがデスティニーたちを一掃するため、発射体勢に入る。「撃たせない!絶対に!」 シンとルナマリアが同時に叫ぶ。そのとき、シンの中で何かが弾けて、彼の感覚が研ぎ澄まされた。 デスティニーとインパルスがビーム砲とケルベロスを発射した。出力の高まった2機のビームが、レクイエムの砲門の中を貫いて破損させた。「ダメです!これでは発射しても、次のチャージが不可能となります!」 レクイエムの機能の弱体化に、オペレーターが動揺を隠せなくなる。「それでもいい!撃て!その隙に私は脱出する!」「ジブリール様!?」 ジブリールの告げた言葉に、司令官が驚愕する。「私が生きてさえいれば、まだいくらでも道はある!最悪、ヤツらをここと運命を共にさせる!」 ジブリールはそういうと、脱出のためにシャトルへ向かった。彼の言動に司令官は愕然となっていた。 レクイエムの発射口への攻撃を続けるデスティニーたち。被害が大きくなっているが、レクイエムは発射体勢のままである。「アイツら、まだ・・どうしてそこまで、オレたちを滅ぼそうとするんだよ!」 シンが憤りを募らせ、デスティニーがビーム砲で発射口の奥を撃つ。インパルスもケルベロスで奥を破壊して、レジェンドはドラグーンを操作して周囲の壁を撃つ。 レクイエムが機能停止となり、エネルギーが失われて発射もできなくなった。「そんな・・そんなバカな・・うわあっ!」 驚愕するオペレーターたちのいる指令室が、レクイエムの爆発に巻き込まれた。デスティニーたちが爆発するレクイエムから脱出した。 月面上にいた連合軍の機体は、ダイミダラーやアーキバスたち、フリーダムたちによって全滅した。孝一たちもキラたちも互いに向き合ったまま、拮抗状態に入った。「残るはアイツらか・・・!」「だけど、シンたちが敵の基地に飛び込んだまま出てこねぇぞ・・!」 ヒルダがキラたちを敵視する中、孝一がシンたちを気にする。「あっ!デスティニーたちが出てくるよ!」 霧子が声を上げた直後、デスティニー、インパルス、レジェンド、焔龍號が外へ出てきた。レクイエムが破壊されて、大爆発を起こした。「シン!みんなも無事だぜ!」 孝一が歓喜を見せて、恭子も安心の笑みをこぼした。「やった・・これでもう、プラントは撃たれないわ・・・!」 炎上するレクイエムを見て、ルナマリアが安堵を覚える。「ジブリールはどこだ?・・この爆発に巻き込まれたのか・・!?」「分からない。まだ油断はできないぞ。これ以上ヤツを逃がすわけにはいかない・・」 シンとレイが声を掛け合い、月から発進する機体やシャトルがいないか探る。孝一たちも周囲に注意を払う。「あれは!」 そのとき、シンが浮上するシャトルを発見した。シャトルにはジブリールと司令官が乗っていた。「ジブリール・・もう逃がさないぞ!」 シンがデスティニーを駆り、シャトルを追いかける。「待って!命を奪うのは・・!」 キラがシンを呼び止めるが、フリーダムの前にレジェンドが立ちはだかる。「シンの邪魔はさせない・・!」 レイが鋭く言って、キラは足止めをされる。「おのれ、クロス・・・!」 レクイエムを用いてもプラントを討てずに逃亡を余儀なくされたことに、ジブリールがいら立ちを募らせる。「し、司令官!」 操縦士が声を荒げて、ジブリールと司令官が前に目を向ける。デスティニーがシャトルに詰め寄り、アロンダイトを振り上げた。「ロード・ジブリール、オレはお前を許さない!」 シンが怒りを込めて、デスティニーがアロンダイトを振り下ろした。「ギャアアァァァ!」 シャトルが真っ二つにされて、ジブリールたちが爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。デスティニーの眼下に落下して、シャトルが吹き飛んだ。「これで、ジブリールを討てた・・この兵器も破壊できたし、もうプラントが攻撃されることはない・・・」 プラントの完全な壊滅が免れたことに、シンは安堵していた。しかし彼は警戒心を解いてはいなかった。 デスティニー、レジェンド、インパルスがフリーダムたちに振り返った。「アンタたちも戦いに参加したから、ジブリールを討てたかもしれない・・だけどオレたちに戦いを仕掛けてくるなら、アンタたちはオレたちの敵だ!」 キラたちを信じず、シンが敵意と信念を示す。「君たちも僕たちも、戦いを終わらせるために動いている・・思いが同じなら、僕たちは分かり合えるはずだよ!」「同じじゃない!オレたちは戦いを終わらせるためにやっているが、アンタたちはそう言っておきながら、戦場を引っ掻き回してムチャクチャにしてるだけじゃないか!」 呼びかけるキラに、シンが反発する。「今までのこと全部、なかったことにして水に流せるほど、こっちはお人よしじゃないよ!」「オレたちを思い通りにできると思ったら、大間違いだぞ!」「私たちの進む道を、これ以上邪魔されたくありません!」 ヒルダ、孝一、霧子もキラたちに対して不信感を募らせていた。「オーブやアスハと同じだ・・綺麗事ばかりいって、自分が正しいと思い込んでいる!しかも力ずくで思い知らせようとするから、なおさら性質が悪い!」「違う!僕たちは・・!」「違うと思ってるのはアンタだけだ!・・こっちの事情も分かってないのに、一方的に自分の思い通りにする・・そんなアンタを、オレたちは認めない!」 言い返そうとするキラに、シンが怒りをぶつけた。「アークエンジェル、及びエターナルに通達します。今回のあなた方の協力には感謝します。しかしこれで我々の、あなた方に対する不信感が解消されたとは言えません。」 タリアが落ち着きを払って、キラたちに考えを伝えた。「共にプラントと地球を守ってくれたことに感謝して、今回だけは見逃します。双方、この戦いで消耗しているはずですから・・」「グラディス艦長・・・」 彼女からの謝意に、マリューが戸惑いを覚える。「それでも私たちと戦おうというのなら、私たちもそれに応じるしかないです。私たちは、ここで倒れるわけにはいきません。」 タリアから忠告を受けて、ラクスが考慮して決断した。「キラ、今は引き上げましょう。いつか彼らと分かり合えるときが来ます。」 ラクスがキラに向かって呼びかけてきた。キラは辛さを噛みしめながらも、シンたちから離れていく。「ラクス・・うん・・・」 キラが小さく頷いて、フリーダムがエターナルとともに後退していく。「感謝します、グラディス艦長・・」 マリューがミネルバに向けて敬礼を送った。「シン、オレもお前たちとまた力を合わせられたらと思っている。しかしデュランダル議長やお前たちの出方次第で、オレはお前たちと戦う覚悟がある・・」 アスランが自分の意思をシンたちに告げる。「綺麗事だともわがままだとも言われるのは分かっている・・しかしそれでも、オレはオレ自身を曲げることはできない・・!」「それが議長の理想を認めない理由か?・・アスラン、お前は完全に裏切り者だ・・オレたちが討つべき敵だ・・!」 苦悩しながら声を振り絞るアスランだが、レイの彼への敵意に変わりはない。「オレもお前たちもキラたちも、頑なである限り、分かり合うことはできないのか・・・!?」 アスランが歯がゆさを感じながら、ジャスティスはフリーダムとともに引き上げる。ドムたちもエターナルに帰艦し、アークエンジェルも撤退していった。「ちくしょう・・決着は次にお預けかよ・・・!」「私たちも地球に戻りましょう。海潮たちやアンジュが待っているわ・・」 悔しがる孝一を、恭子がなだめる。「あたしら、宇宙でも何とか戦えるみてぇだな・・!」 ヒルダが宇宙での戦いに手応えを感じていく。「まだまだ慣れる必要はありますが・・それに、あのオーブとの戦いは、今回よりも厳しいものとなるでしょう・・」 サラマンディーネは楽観視せず、キラたちとの戦いを見据えていた。「クロスはミネルバとオルペウスに帰還。地球に向かいます。」 タリアがシンたちに指示を送る。ヒルダたちがオルペウスに戻った。「また、シンたちに助けられちゃったね・・・」 ルナマリアが自分の力がシンとレイに及ばないことを痛感して、気落ちする。「いや、ルナがいたから突破できたんだ。オレたちはルナを援護しただけだ。」「シン・・私も、みんなを守れたってことだよね・・・?」「あぁ、守れた・・オレも、ルナに救われたんだ・・・」「シン・・ありがとう・・・」 シンに励まされて、ルナマリアは安らぎを感じていた。「シンとルナマリア、仲がよくなって愛らしくなったって感じがする・・・」 霧子が2人の会話を耳にして、うらやましく思う。「私も・・また、将馬くんと一緒に・・・!」 将馬のことを考えて、霧子は彼への想いを募らせた。「霧子、戻らないと置いてかれちまうぞー!」「あ!うん!」 孝一が呼びかけて、霧子が我に返る。ダイミダラーたちもデスティニーたちも帰艦し、シンたちは地球に戻ることにした。 ランガに入ってアンジュの救出に向かった海潮。ランガが翼をはばたかせて海上を進んでいくのを、彼女は実感していく。「これがランガが感じているもの・・こんなふうに飛んでいるなんて・・・」 ランガの感覚を共感して、海潮が戸惑いを募らせる。彼女はランガを動かすことに慣れようとしながら、海を渡っていく。「この辺りのはずだけど・・・」 海潮がランガのスピードを抑えて、周辺を見渡す。彼女がそばにある島を見つけて、ランガがその浜辺に降り立った。 海潮はランガから出て、改めて島の中を見渡した。「アンジュ、いるの?アンジュー!」 海潮がアンジュを捜して叫ぶ。しかし彼女の声に応える様子はない。「誰もいないのかな?・・・ランガ、分かる・・?」 海潮が声を掛けると、ランガが森のほうに目を向けた。「そこにアンジュがいるの!?・・ランガ、連れてって・・!」 呼びかけた海潮に、ランガが手を差し伸べた。彼女を肩に乗せて、ランガが飛び上がって森の上を進む。 そして小屋のそばにランガが着地して、海潮が降り立った。「アンジュ、いるの?いたら返事をして・・!」 海潮がアンジュを呼んで、小屋の前に来た。「すみませーん!誰かいますかー!?・・入りますよー!」 海潮が声を掛けてから、小屋に入った。中にはアンジュがいた。彼女はうずくまって震えていた。「アンジュ!」 海潮が声を上げて、近づいてアンジュの肩をつかんだ。「アンジュ、大丈夫!?ケガはしていない!?」 海潮が呼びかけるが、アンジュは答えない。「・・タスクくんとモモカさんは・・・?」「タスク・・・モモカ・・・!」 海潮が問いかけたとき、アンジュの脳裏にタスクたちの最期の瞬間がよぎった。「イヤ・・タスク!モモカ!私を1人にしないで!」「落ち着いて、アンジュ!今は何も考えないで!」 悲鳴を上げるアンジュを海潮がなだめる。しかしアンジュは悲鳴をやめず、海潮がたまらず彼女の頬を叩いた。「アンジュ、私がいるよ!武蔵野にはお姉ちゃんたちもいるし、グラディス艦長たちもすぐに帰ってくる!」「でも・・タスクとモモカがいない・・・私の前で、2人は・・・!」 励まそうとする海潮だが、アンジュは悲しみを抑えることができない。「・・・辛いと思うけど・・・詳しい話を聞かせてくれない・・・?」 海潮が真剣な面持ちでアンジュに言いかける。「・・・分かったわ・・・もう私には、生きていく理由がないから・・・」 アンジュが諦めたまま、海潮にタスクたちのことを話した。 島に打ち上げられたイザナギの中で、ラブが意識を取り戻した。「私・・・カ・・カナタくん・・・!」 ラブがカナタに目を向けて、意識をはっきりとさせる。「カナタくん、大丈夫!?カナタくん!」 彼女が呼びかけると、カナタがかすかに吐息を漏らす。「冷たい・・早くあっためないと・・!」 ラブがコックピットのコンピューターを操作して、イザナギのハッチを開けた。彼女はカナタを抱きしめたまま、連絡を試みる。「ミネルバ、アウローラ、応答してください!ラブです!通じていたら返事をしてください!」 ラブが叫ぶように呼びかけるが、タリアたちからの返事がない。「つながらない・・私が何とかするしかないの・・・!?」 絶望を感じながらも、ラブがカナタを助けようと気持ちを強く持つ。「連合軍とかに見つかる可能性があるけど、ここは誰かに助けを求めないと・・・!」 ラブはイザナギのコンピューターを操作して、救難信号を発した。「これでクロスが来てくれると信じるしかない・・私はカナタくんを助ける・・・!」 ラブはカナタを連れて、イザナギから外へ出て、そばにある草原まで移動した。彼女はカナタを寝かせて、あたためる方法を考える。「この辺りに何もない・・あたためられるものが、何も・・・!」 ラブが周りを見回すが、いい方法が見つからない。彼女はイザナギの操縦まではできず、ビームや機関砲などで火をつけることもできない。「もうこうするしかない・・私自身で、カナタくんをあたためる・・・!」 ラブが意を決して、カナタを抱きしめた。彼女は自分の体温でカナタをあたためようとした。(な・・何、この感じ?・・・また・・気持ちがよくなって・・・) そのとき、ラブがカナタに触れていることに心地よさを感じていく。(もしかして、あのエンブリヲという人におかしくされたのが残ったままなの・・・!?) 彼女はエンブリヲに快感を強化されたことを思い出した。その快感で恍惚に打ちのめされたことも。(ダメ・・カナタくんに触れていると・・おかしくなってしまう・・おかしなことをしてしまいそう・・・でも、離れられない・・・) カナタを抱くことを求めるようになり、ラブは彼にさらに寄り添うようになる。「カナタくん・・私は、あなたのことが・・・!」 ラブが想いに突き動かされて、カナタを抱きしめ続けた。 アンジュからタスクとモモカが死んだことを聞かされて、海潮も動揺を隠せなくなった。「そんな・・あの2人が・・・!?」「2人がいないと私、何もできない・・生きていても、もう何にもならない・・・」 愕然となる海潮と、絶望に打ちひしがれるアンジュ。「あの時に戻れたら・・・そうしたら、タスクとモモカが殺される前に、助け出すのに・・・」「時を戻る・・・もしかしたら、できるかもしれない・・・!」 アンジュが口にした言葉を聞いて、海潮が1つの方法を見出した。「アンジュ、手伝って・・タスクくんとモモカさんを助けるには、あなたの力も必要なの・・!」「タスクとモモカを助ける!?・・できるわけがないわよ・・過去に戻らない限り・・・」「その過去から、2人を連れ出すの!」「えっ・・!?」 海潮からの提案に、アンジュが耳を疑う。「さっき覚えたことだけど、ランガは時間を操ることができるの・・過去にあったものを呼び寄せることができた・・・」 海潮が説明しながら、イブキとの戦いを思い出して悲しい顔を浮かべる。「あのときは物体だったけど・・もしかしたら、人や生き物も引き寄せることもできるかもしれない・・・!」「だったら早くやって!ここまで言ってできないなんて言わせないわよ!」「ついてきて、アンジュ!ランガもいるから!」 感情をあらわにして詰め寄るアンジュを連れて、海潮が小屋から出た。外で待っていたランガを、2人が見上げる。「ランガ、タスクくんたちを助けるために、力を貸して・・・!」 海潮が呼びかけてから、ランガの中に入り込んだ。「えっ!?海潮!?」 ランガの中に消えた海潮に、アンジュが驚く。「アンジュ、私は大丈夫だよ・・今はランガの中で、ランガを動かしているんだよ・・」 ランガから海潮の声が発せられて、アンジュに伝わる。ランガの顔に海潮の目が現れていた。「アンジュ、ランガに触れて。タスクくんとモモカさんのことを強く想いながら・・・!」 海潮の言うとおりにして、アンジュがランガに触れた。 次の瞬間、アンジュが付けていた指輪が煌めいた。同時に彼女の脳裏に、ランガの中にいる海潮の姿が浮かび上がった。「海潮・・その姿は・・・!?」「アンジュ・・今の私の姿が見えているの・・!?」「えぇ・・丸裸になって、腕と下半身が壁の中に埋まっているみたいになって・・・」「そこまで分かっているなんて・・・」 ランガの中にいる自分をアンジュに見られて、海潮が照れ笑いを浮かべる。「ランガには、誰でも中に入れるの・・・?」「ううん・・スーラの直系じゃないと、ランガや虚神の中に入れない・・スーラの直系じゃない人が入ると、体が傷ついてしまう・・・」「そう・・・いいわ。ランガはあなたたちに任せるわ・・」「うん・・」 アンジュが納得して、海潮が微笑んだ。「タスク、モモカ・・お願い・・戻ってきて・・・!」 アンジュが強く念じると、海潮の頭の中にも彼女の記憶が流れ込んできた。(タスクさん、モモカさん!・・あの人に、本当に・・・!) タスクたちの死の瞬間を知って、海潮が動揺を覚える。(救わなくちゃ・・私が・・・!)「スーラ、この時間がいつなのか、分かる・・・?」 海潮の問いにスーラが反応する。ランガの胸の紋様が光り、光のトンネルを作り出した。「タスクくん、モモカさん、どこ・・・!?」 タスクたちの行方を、海潮がアンジュと共に探る。2人が求めていた時間、タスクとモモカの姿を発見した。「タスク!モモカ!」 アンジュが2人を見つけて感情をあらわにする。その直後に、モモカがエンブリヲに飛びかかり撃たれた。「モモカさん!」 海潮が叫ぶ先で、モモカがマナで車を引き寄せた。「モモカさんを、私たちのいる今に引き寄せる・・・!」 海潮が意識を集中して、モモカを引き寄せるイメージを膨らませた。すると過去にいたモモカの姿が消えて、現在のランガの右手の上に現れた。「モモカ!」「待って!次はタスクくんを!」 モモカに近づこうとしたアンジュを、海潮が呼び止める。アンジュは感情を抑えて、タスクに向けて意識を集中する。(モモカは帰ってきた・・タスク、あなたも帰ってきて・・!) アンジュが想いを強めると、海潮がそれを頼りにタスクに思念を送った。 自分が身にまとった爆弾でエンブリヲを道連れにしようとしたタスク。その瞬間の彼を捉えて、海潮が現在に呼び寄せた。 タスクも爆弾以外を呼び寄せられて、ランガの手の上に乗せられた。「タスク!モモカ!」 アンジュがランガの手に向かって、タスクたちの状態を確かめる。「2人とも生きている!・・でも、モモカは撃たれたはずなのに・・・!?」 タスクたちの無事を喜ぶアンジュだが、モモカが胸を撃たれても生きていたことに疑問を覚える。 アンジュがモモカの体の状態を確かめていると、隠し持っていたフライパンが出てきた。その真ん中に弾丸がめり込んでいた。「モモカ・・あんなときにまでこれを・・・さすが、私の筆頭侍女ね・・・」 準備を怠らないモモカに、アンジュが笑みをこぼした。「海潮、2人とも生きている!感謝するわ!」「うん・・2人を降ろすよ・・!」 礼を言うアンジュに海潮が答えて、ランガが3人を降ろした。海潮はすぐにランガの中から出てきた。「すぐに手当てしないと・・あの中に何かある!?」「道具はひと通り揃っているみたいだけど・・!」 海潮から聞かれて、アンジュが当惑しながら答える。2人はタスクとモモカを小屋の中に連れて寝かせた。「包帯を巻いて体をあたためなくちゃ・・!」「そうするしかないわね・・!」 海潮の指示にアンジュが小さく頷く。2人は包帯で傷のある部分を巻いていく。「明日の朝まで様子を見よう。私が起きているから、アンジュは先に休んでいて・・」「そうはいかないわよ・・私もやれるだけのことはやってやるわよ・・・!」 海潮が1人でタスクたちの面倒を見ようとするが、アンジュも一緒にやろうとする。「それじゃ交代でやろう。まずは私から・・」「・・しょうがないわね・・いいわ、それで・・」 海潮が譲らずに言って、アンジュがため息混じりに答えた。「海潮、ヴィルキスはどこなの?」「分からない・・私、タスクのバイクでここに来たから・・・」 海潮がヴィルキスのことを聞いて、アンジュが顔を横に振る。「そのバイクから救難信号を出すことはできないの・・?」「そういえば・・やっていなかった・・・」「は、早く出して助けを呼ばなくちゃ!」「わ、分かってるわよ!今やろうと思っていたところなんだから!」 慌てて呼びかける海潮に言い返してから、アンジュがエアバイクに向かって救難信号を発した。「みんな、無事に帰ってきて・・私たちも無事だったから・・・!」 海潮が空を見上げて、月に行ったシンたちの無事帰還を願った。 疲れ果てていたところをラブに助けられたカナタ。彼は落ち着きを取り戻して、目を覚ました。「オ・・オレ・・生きているのか・・・?」 カナタが息をしてから、体を起こそうとした。そのとき、彼はラブに抱かれていたことに気付く。「ラブちゃん・・・オレの体を冷やさないようにして・・・」 ラブが必死に介抱してくれたことを知って、カナタは彼女に感謝した。「イザナギもそばにいる・・すぐにみんなに連絡を・・・」 カナタがイザナギに行こうとしたが、ラブが彼にしがみついていた。「ラブちゃん?・・君も起きていたのか・・・?」「・・カナタ・・くん・・・離れないで・・・私・・私・・・」 声を掛けるカナタを、ラブが呼び止める。彼女は頬を赤らめて、カナタにすがり付いていた。「ラブちゃん・・今はみんなに連絡を取らないと・・・!」「ダメ・・行かないで・・今はそばにいて・・・!」 注意するカナタだが、ラブはそれでも離れない。「ラブちゃん・・・」「ゴメン、カナタくん・・でも、あなたがこのまま行ってしまったら、私から誰もいなくなってしまう気がして・・・」 当惑するカナタに謝って、ラブが不安を正直に伝える。「そんなことはない・・オレもクロスのみんなも、もういなくならないって・・」「でも・・お姉ちゃんは戻ってこない・・私たちを殺そうとした・・・それでカナタくんやみんながいなくなったら・・・!」 カナタが励ますが、ラブは悲しみと不安に耐えられなくなっている。「ラブちゃん・・・ゴメン・・オレがもっと強かったら、こんな辛い思いをさせずに済んだのに・・・」「そんなことはないよ・・カナタくんは弱くない・・弱いのは、力のない私・・・」 互いに自分の無力さを口にするカナタとラブ。「わがままなのは分かっている・・でも今は、そばにいさせて・・・!」 ラブがカナタにすがり付いて、そのまま押し倒す。「ちょっと・・ラブちゃ・・・」 困惑するカナタに、ラブが唇を重ねてきた。彼女との口づけに、カナタも心地よさを感じていた。「ラブちゃん・・いいのか?・・オレなんかに、こんなことして・・・」「うん・・カナタくんとだったら、私は受け入れるよ・・・」 カナタが問いかけて、ラブが微笑んで答えた。「私、カナタが好き・・カナタから離れたくない・・・!」「・・オレのために・・こんなオレのためにそこまで・・・ありがとう・・ラブ・・・!」 告白するラブに、カナタがお礼を言った。2人は抱きしめ合って、互いのぬくもりを感じ合った。 アンジュと海潮に助けられたタスクとモモカが、意識を取り戻した。「えっ?・・オレ、生きている・・・?」 タスクが両手を動かして、自分が死んでいないことを実感する。「あっ!アンジュリーゼ様!海潮さん!」「モモカ、タスク!気が付いたのね!」 モモカが声を上げると、アンジュが振り向いて喜ぶ。「私、あのエンブリヲという人を道連れにしたはずなのに・・・?」 モモカもエンブリヲと対峙したときのことを思い出す。「私がランガと一緒に助けたんです。殺される直前のあなたたちを・・」「何だって!?・・それって、時間を超えたってこと・・!?」 海潮が説明して、タスクが驚きを隠せなくなる。「私も今でも信じられないわよ。時間を超えるなんて・・・でもそれで、あなたたちが助かった・・・」 アンジュが言いかけて、タスクに寄り添った。「ア、アンジュ・・・」「もう、私から離れないで・・今度また、勝手に遠ざけるようなことをしたら・・許さないんだから・・・!」 戸惑いを見せるタスクに、アンジュがすがりつく。アンジュはタスクが生きて戻ってきたことを、心から喜んでいた。「ゴメン・・心配かけちゃったね・・・」「悪いと思っているなら・・少し一緒にいて・・・」 謝るタスクに、アンジュが涙ながらに抱きしめる。タスクと目を合わせて、モモカが彼とアンジュの気持ちを察した。「では私は食事の支度を始めますね。海潮さん、材料を探しに行きますのでお手伝いをお願いします。」「はい・・でも、アンジュとタスクくんは・・・」 モモカがお願いをするが、海潮がアンジュたちを気にする。「お二人は今は休ませてあげてください。休養が必要ですから。体も心も・・」「アンジュ、タスクくん・・・」 モモカに言われて、海潮がアンジュたちを気に掛ける。海潮とモモカは食料集めに出ていった。(ありがとう、モモカさん・・・) モモカの気遣いに感謝して、タスクはアンジュを連れて、浜辺のほうへ移動した。「確かめさせてもらうから・・本当にタスクが戻ってきたのか・・時を超えるなんて実感がわかないから・・」 アンジュが声を振り絞って、タスクを砂地に押し倒した。アンジュはタスクの服を脱がして、自分の服も脱いで寄り添った。 この日の夜、カナタとラブ、アンジュとタスクは抱擁を交わした。 それぞれ肌と肌を触れ合わせ、互いの心身を分かち合う。 カナタたちは抱擁の中で、お互いを心の支えとした。 第55話へ その他の小説に戻る TOPに戻る