スーパーロボット大戦CROSS
第52話「貫かれた時間」

 

 ラブレに案内されて、海潮は森の奥の崖下で倒れていたランガを発見した。
「ランガ・・ここにいたんだね・・・」
 海潮がランガを見つめて、安心を覚える。そこで彼女はイブキの中に入ったことを思い出す。
「ラブレ・・私、イブキに入れた・・あれと同じことが、できるかもしれない・・・」
 ランガの中に入ろうとする海潮だが、ラブレが止めに入って顔を横に振る。
「心配してくれてありがとうね、ラブレ・・でも、私も行かなくちゃ・・・!」
 海潮はラブレの制止を振り切り、ランガの中に飛び込んだ。
 
 イブキの中に入ったときと同じように、ランガに入った海潮の姿は全裸となっていた。
(ランガの中に入るのも、イブキのときと同じみたい・・)
 ランガの中の様子を確かめて、海潮が戸惑いを覚える。
 暗闇の中を進む海潮に、淡い光が差し込んできた。彼女の前にいたのはスーラだった。
(スーラ・・それじゃ、あれはやっぱりお兄ちゃんだったの・・・!?)
 イブキから救い出してくれたのが本物の勝流であると確信する海潮。彼女はスーラのいる場所を通り越して、さらに奥に進む。
 その先にあった赤い空間には、1枚の壁があった。
 さらに背後からも光が差し込んで、海潮が振り返った。光の中に、ミスルギ皇国から日本へ向かうクロス、同じく日本へ移動していくイブキ、引き上げていくイザナミとクレオパトラたち、外の光景が映し出されていた。
「何にも信じないで、生きていくなんてできない・・私は何にも支配されたくない・・・!」
 海潮が自分の正義と信念を口にする。
「何にも支配されずに、正しいことを正しいと言えるのが、楽園だって・・そう信じるのは正しいはずだ・・そうでしょ、お兄ちゃん!?ランガー!」
 楽園への信念、勝流への思いを膨らませて、海潮が叫ぶ。彼女の両手と下半身が赤い空間の壁に入り込んだ。
 その瞬間、ランガが動き出して立ち上がった。海潮が一体となって、ランガを動かしたのである。
 笑顔を見せたラブレに、ランガが右手を差し伸べた。ランガの顔は以前に海潮の意識が入ったときと同じ、彼女と同じ目を浮かべていた。
 ラブレが手に乗ったところで、ランガが背中からツバサを生やして羽ばたかせて、シンたちを追って飛び上がった。
 
 イブキと自衛隊が日本に戻ってきた。イブキは独立領を解放しようと、武蔵野に向かって移動を続けた。
「我はイブキ。この国は神を信じ、神が導く国へと生まれ変わる。異端の地も、異端の思想も、そこには存在しない。」
 虚神、イブキである自分を中心とした虚神政権を指示して、イブキは前進を続ける。武蔵野の独立領の近くまで、イブキは迫っていた。
「クロスが接近中!我々を追跡してきた模様です!」
 オペレーターが芳幸に報告をしてきた。ミネルバ、飛行艇、アウローラがイブキに追いついてきた。
「こちらはクロス。ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。あなた方はバロウ王国の独立領に、無許可で踏み入ろうとしています。領への進行を中止し、進路を変更してください。」
 タリアがイブキに向けて警告を送った。イブキが足を止めてミネルバに振り向いた。
「君たちも異端者の集まり。神を阻むことは許されない。」
 イブキはタリアの言葉を聞き入れず、独立領の解放を目指す。
「力ずくで阻止しようとしてもムダだ。TVもマスコミも我々が掌握している。我々を阻む君たちが、世界の敵として認識されることになる。」
 情報戦でも自分たちが上手だと確信するイブキ。
「お生憎様。自衛隊は都心からの引き上げを始めているわよ。」
 そこへ1台の中継ヘリコプターが飛んできて、乗っていた茗が呼びかけてきた。
「茗、それは本当なの!?」
 魅波が驚きを覚えて、彼女に問いかける。
「ついさっき入ったニュースよ。虚神会はクーデター部隊によって全滅。野党連合がすぐに暫定政権を発足させるとの情報よ。」
「何っ!?」
 茗の報告に和王が耳を疑う。イブキを中心とした日本に思わぬ形で綻びが生じたことに、彼は驚愕していた。
 そのとき、和王に目に、ビルの上にいる勝流とナイエルの姿を目撃した。
「ナイエル!?勝流!?バ、バカな!?どうして2人が一緒に!?」
 和王が2人が一緒にいることが信じられなかった。勝流だけでなく、ナイエルもイブキを受け入れていないことも。
「勝流、僕たちの思いは同じだったはずだ!ナイエルが裏切るはずもない!」
 愕然となる和王が、勝流たちからミネルバに視線を戻す。
「君たちには、神が必要なんだ!従わないというなら、神である僕が神罰を下す!」
 イブキがクロスを討とうと、胴体から火炎を出す。ミネルバたちが上昇して、火炎を回避する。
「各機、発進!イブキを独立領に入れさせないで!」
 タリアが指示を出して、シンたちが再び出撃に臨んだ。
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
 シンのデスティニー、レイのレジェンド、ルナマリアのコアスプレンダーがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが射出されて、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。
 さらに焔龍號、蒼龍號、碧龍號、ダイミダラー超型、ビッグエース、エースが発進した。しかしパラメイルは負傷と燃料不足のため、出撃できない状態だった。
「ちくしょう!・・エネルギーが無限の機体がうらやましいぜ・・!」
「私だって・・こんなときにランガがいれば・・・」
 ロザリーが悔しがり、夕姫も歯がゆさを噛みしめる。
「イブキ神に神葛篭を!」
 芳幸が指示を出し、大型戦闘機から神葛篭と砲弾が下ろされた。イブキが受け取って、神葛篭を砲弾にセットする。
「気を付けろ。あの砲撃は、標的を追跡するぞ。」
 レイが注意を呼び掛けたと同時に、イブキが神葛篭を発射した。標的となったのはインパルスだった。
 インパルスがビームライフルを手にして迎え撃つが、砲弾はビームを弾いてしまう。
「何で!?」
 ルナマリアが驚き、インパルスが飛行して砲弾から逃げる。
「ルナ!」
 シンが叫び、デスティニーがビーム砲を発射して砲弾を破壊した。
「大丈夫か、ルナ!?」
「えぇ!ありがとう、シン!」
 シンが心配して、ルナマリアが感謝した。
「ライフルレベルのビームじゃ弾かれてしまう・・ルナはブラストに切り替えて、地上から援護してくれ!」
 シンが指示を送り、ルナマリアが頷いた。
「ミネルバ、ブラストシルエットを!」
 ルナマリアの呼びかけで、メイリンがブラストシルエットを射出した。インパルスがフォースシルエットを外して、ブラストシルエットと合体してブラストインパルスとなった。
 着地したインパルスがケルベロスを構えて、イブキに狙いを定める。
「僕は負けない!神に敗北はない!それに、僕を慕う者がここに残っている!」
 和王が言い放つと、ウィンダムとビッグエースが各10機ずつ現れた。
「まだあんなに戦力を隠していたのかよ!」
「まだイブキに従うバカがいるなんて・・・!」
 ロザリーとヒルダがイブキの援軍を見て毒づく。
「あれも、ビッグエースじゃない・・!?」
「いつの間に正式配備されたんだ・・!?」
 ビッグエースの部隊を見て、翔子と穂波が驚きを隠せなくなる。
「竹末長官や虚神会が根回しをしたようね・・!」
 エリナもビッグエースたちを見て困惑する。
「エリナ・・オレたち、いろんな正義に付き合ってきたよな・・?」
 隼人がふと、今までの戦いを思い返していく。
「警察官、自衛隊、虚神会、バロウ、武蔵野、クロス。オレたちの仕事も戦いもいろいろあったな・・」
「何でこんなときに思い出にふけってるのよ?」
 呟く彼にエリナが疑問符を浮かべる。
「そうだな。こんなときに・・ただ、ハッキリしてるのは、ランガのいないこの町を守る。この仕事をちゃんとするってことだ!」
 隼人が笑みをこぼして、ビッグエースがガトリングを連射して、他のビッグエースたちを迎え撃つ。
「オレも負けてられねぇぜ!なぁ、恭子!」
「でもやりすぎないようにね。あくまで足を止めるだけよ。」
 意気込みを見せる孝一を、恭子がなだめる。
「さぁてと、またハイエロ粒子を爆上げするかー!」
 孝一が張り切って、恭子の胸を後ろから持ち上げるようにわしづかみにする。
「うあぁ!・・また、激しく触ってくるなんて・・・!」
 恭子が刺激と恍惚を覚えてあえぐ。彼女と孝一からハイエロ粒子があふれて、ダイミダラーを強化させていく。
「行くぜ!」
 孝一が不敵な笑みを浮かべて、ダイミダラーが加速してビッグエースたちに突っ込んだ。
「コイツらよりオレたちのほうが確実に強いけど、お前たちに構っている場合じゃないんだよ!」
 シンが毒づき、デスティニーが両肩に収められているスラッシュエッジを手にして投げつける。ウィンダム3機が回転するスラッシュエッジに切り付けられるが、他のウィンダムたちがデスティニーたちに押し寄せる。
 イブキが再び神葛篭に砲弾をセットして構えて、デスティニーに狙いを定めた。
「シン、イブキが撃ってくるぞ!」
 レイが呼びかけて、シンがイブキに目を向ける。しかしデスティニーにウィンダムが押し寄せてくる。
「やめて、藤原さん!」
 そこへ声がかかり、シンたちが視線を移した。デスティニーたちのところへ飛んできたのは、ランガだった。
「ラ、ランガ!?」
「復活したの!?・・でも、またスーラが虚神を倒そうとして・・!?」
 ヴィヴィアンと夕姫がランガを見て驚きの声を上げる。
「この・・負け犬が!」
 和王が激情を募らせ、イブキが狙いをランガに変えて神葛篭を発射した。回避行動をとるランガを、砲弾が追跡する。
「スーラ、どうすれば!?」
 海潮が頼りにして、スーラが意識を傾けた。
 ランガが砲弾を引き付けて、左手から触手を伸ばして絡めて押さえる。その状態のまま左手から砲撃を放ち、至近距離で砲弾を破壊した。
「うわあっ!」
 砲弾の爆発にランガの左手も巻き込まれて破壊され、中にいる海潮も左腕に激痛を覚える。彼女の左腕に流血のような負傷が現れる。
 直接ランガの中に入って一体化している海潮は、ランガの受けたダメージを共有していた。
「あ、あんなやり方で弾を止めるなんて!?」
 アーサーがランガのやり方に驚愕して、タリアもメイリンも息をのむ。
 傷ついたランガが飛行艇の上に着地した。顔を出したジョエルとヴィヴィアンにランガが右手を差し出して、乗っていたラブレを降ろした。
「ラブレ!」
 ジョエルがラブレと再会して喜ぶ。
「あっ!ランガの顔、おめめ1つじゃないよ!」
 ヴィヴィアンがランガを指さして、魅波たちもランガの顔をじっと見つめる。
「あの顔・・もしかして、海潮なの!?」
 魅波がランガに海潮の意識が入っていることを確信して、戸惑いを覚える。ランガが飛行艇から離れて、イブキの前に降り立った。
「藤原さん・・・!」
 海潮がイブキの中にいる和王を気にして、当惑する。
「虚神は土に還さねばならん。人は神になれぬ。」
 そのとき、海潮が無表情で呟いた。スーラの意識が彼女に入り込んだのである。
「黙ってて!アンタが動かせないから、私が手伝ってるんでしょ!」
 すぐに我に返った海潮が、スーラに不満を言う。その間に、イブキが神葛篭に砲弾をセットした。
「海潮ちゃんか、ランガを生き返らせたのは・・でも、もう無理をすることはないよ・・さぁ、そこをどいて・・」
 和王が笑みをこぼして、海潮に呼びかける。
「やめてください、藤原さん・・これ以上みんなを傷つけるなら、私・・・!」
「戦うというのかい?そのボロボロの体で・・」
 憤りを噛みしめる海潮に、和王が言い返す。
「降りるんだ、海潮ちゃん!僕がランガを葬る!」
「イヤです!」
 和王が怒鳴るが、海潮は退こうとしない。
「・・・残念だ・・・」
 和王が悲しい笑みを浮かべると、イブキが神葛篭の狙いをランガに向けた。
「やめて、藤原さん!海潮を殺す気!?」
 和王が海潮を手に掛けようとしていることに、魅波が驚愕する。
「これは正義なんだ!日本の、日本人全てのための!それを誰にも邪魔はさせない!」
 和王が感情をあらわにして、自分の考えを貫こうとする。神葛篭を撃とうとするイブキに、海潮が身構える。
「海潮!」
 シンが叫び、デスティニーがイブキを狙ってビーム砲を構えた。
 そのとき、イブキが持っていた神葛篭が突然消えた。
「な、何っ!?」
 神葛篭が手元からなくなったことに、和王が驚愕する。海潮も魅波たちもシンたちも、この瞬間に当惑を覚える。
「き、消えた・・!?」
「どういうことなのだ・・・!?」
 魅波とナーガが思わず声を上げる。イブキが神葛篭を探して、周りを見回す。
 そのイブキの眼前に、勝流が姿を見せた。
「あれは!?勝流さん!?」
「えっ!?」
 魅波も勝流を目撃して驚き、夕姫が声を荒げる。
「お兄ちゃん・・!」
 海潮が勝流を見下ろして微笑む。
「勝流!またお前の仕業なのか!?なぜだ!?なぜ邪魔をする!?」
 和王が勝流に対して怒りを募らせる。
「虚神会では世界を作れない。」
「何っ!?」
 勝流が不敵な笑みを浮かべて、和王が声を荒げる。
「虚神は所詮、傀儡だ。人は、導けない。」
「そんなことは、ない!」
 勝流から理想を否定されて、和王が激高する。イブキが勝流に向かっていくが、ランガに止められる。
 イブキがランガを押し倒して、激情のままに殴りつける。
「僕はこの国のために、今まで生きてきたんだ!日本のために、理想の国家を作るために!それなのに、なぜ・・分かってくれないんだ・・・!」
 必死に自分の考えを言い放つ和王。自分の掲げる理想を勝流に否定されて、彼は悲しみを膨らませていた。
「・・・藤原さん・・・」
 和王の悲痛さを共感して、海潮も涙を流していた。今のイブキの姿を哀れと感じて、茗がカメラマンのカメラを遮った。
「もういいわ・・・あなた、裸の王様なのよ・・・」
 カメラマンに中継の中断を告げて、和王へ皮肉を口にする。イブキの暗い体内で、和王が涙をこぼす。
「藤原、もうやめろ・・お前の理想も正義も、ここにはない。」
 勝流が和王に向けて冷静に告げる。彼のこの言葉を聞いて、和王が絶望する。
「藤原さん・・・?」
 イブキの動きに異変が起きて、海潮が当惑を覚える。
「・・イヤだ・・・イヤだあぁー!」
 和王が絶叫を上げて、イブキが体から炎を放出する。
「た、退避!」
 芳幸が慌てて指示して、ビッグエースたちが炎から離れていく。イブキがまき散らす炎が、周囲の建物に引火していく。
「やめて、藤原さん!」
 海潮が呼び止めて、ランガがイブキと組み合う。しかしイブキの炎にランガの体が焼かれる。
「うあぁっ!」
「海潮!」
 海潮が悲鳴を上げて、魅波が叫ぶ。
(く・・苦しい!)
 裸身に傷が付いて、海潮が苦悶する。胴体を焼かれるランガのダメージが、彼女の全身にも及んでいた。
「時を呼べ、ランガ!海潮、時の扉を開くんだ!それがランガの力だ!」
 勝流が海潮に向かって、ランガの力について伝える。
「そ、そんなこと、言われても・・・!」
「できるさ。もうやっている。」
 困惑する海潮に、勝流が微笑んで助言する。
 その言葉を受けて、海潮は神葛篭が突然消えたのを思い出した。ランガを動かしている状態で念じれば、今でいう過去に当たるその瞬間から神葛篭を引き寄せることができると思った。
「でも、あんなのを使ったら・・死んじゃうよ、藤原さん・・・!」
「手遅れだ。残念だがな・・」
「でも・・!」
「ここで手を出さなくても、藤原の体は崩壊する。ここで止めなければ、ここの被害が広がる・・」
 ためらいを抱く海潮に、勝流が冷静に告げる。胸を締め付けられる気分を感じながらも、海潮は迷いを振り切った。
「スーラ、できるの・・?」
 海潮の声を受けて、スーラがランガの秘められた力を発動させた。2人の脳裏に、少し前の時間のイブキが構える神葛篭を捉えた。
 ランガが背中の翼をはばたかせて、炎を吹き飛ばしてイブキを引き離す。飛翔したランガの胸の紋様が光り出し、神葛篭を引き出した。
「あれは、消えたイブキの武器・・!」
「過去から、物体を引き寄せた・・!」
 隼人とナーガがランガを見て驚く。和王の激情のままに、イブキが飛び上がってランガに突撃する。
「藤原さん!」
 海潮が悲痛の叫びをあげて、ランガが神葛篭を発射した。砲弾がイブキに命中して爆発した。
 討たれた和王に、夕姫も涙を流して目をそらした。負傷したイブキが地上に落下した。
「イブキ神!・・早く消火を!イブキ神を救うのだ!」
 芳幸が命令して、近くに待機していた救急隊と消防隊が放水して、爆発の炎を消す。イブキは大破していて、中にいた和王が倒れていた。
「すぐに病院へ!治療の準備を!」
 芳幸がさらに指示を出して、救急車が和王を乗せて病院へ走り出した。
「満足だったの、こんなんで・・・?」
 体も心もボロボロになった和王に対して、海潮が虚しさを感じていた。
「海潮・・ランガの中にいるのか・・・!?」
 シンがランガに目を向けて声を掛ける。シンも孝一たちも、海潮が意識をランガに入れているのではなく、直接中に入って動かしていると気付いていた。
 少し離れた広場で、ランガとデスティニーたちが着陸した。シンたちがコックピットから降りてくると、海潮もランガから元の服装で出てきた。
「どういうことなの?・・どうやってランガの中に直接・・・!?」
 ルナマリアが動揺を感じながら、海潮に問いかける。
「うん・・スーラだけじゃ動かせなくて、私も力を貸したの・・」
 海潮が答えて、ランガに目を向けた。
「すげぇな、おめぇとランガ!もしかして、オレも入ってコイツを動かせるんじゃ・・!」
「それはやめたほうがいい。」
 ランガに近づいて感心する孝一を、勝流が呼び止めた。
「あなたは誰です?海潮ちゃんに助言を送っていたみたいですけど・・」
 恭子が勝流に近づいて問いかける。
「勝流さん・・・!」
 そこへ魅波が来て、勝流を見つめて戸惑いを覚える。
「勝流さん!」
 魅波が勝流に抱きついて、再会を喜び涙を浮かべる。
「本当に・・本当に、あなたなのね・・・?」
 彼女が問いかけて、勝流が微笑んだ。
「勝流さんって・・魅波さんたちのお兄さんで、バロウの王になって・・・」
「そう・・勝流さんが、帰ってきたのよ・・・!」
 恭子が記憶を呼び起こして、魅波が頷いた。行方不明になったと思っていた兄が帰ってきて、魅波は心から喜んでいた。
「今までどこにいたの?・・何も連絡をよこさないで・・・」
 夕姫が勝流に近づいて、疑問を投げかける。
「これからは、家族みんなで暮らせるんだよ。」
 勝流が言いかけてから、魅波を抱き寄せた。まるで愛し合う男女のように。
 魅波は心の奥底で、勝流と恋仲になる妄想を抱えていた。しかし今の勝流からの抱擁に、彼女は違和感を覚えていた。
「ともかく、あなたからも話を聞かせていただけますか?ランガや今回の一連の戦いについて、あなたも詳しく知っているようなので・・」
 タリアが勝流に話を伺おうとしたときだった。
「艦長、大変です!プラントが・・!」
 そこへアーサーが慌てて駆け付けてきた。
「プラントが、巨大なビームの攻撃を受けて、甚大な被害が・・!」
「何ですって!?」
 彼の報告を聞いて、タリアが驚愕する。シンもルナマリアも海潮たちも驚きを隠せなかった。
 
 クロスがサリアたちやイブキと戦っている最中、オーブからの脱出に成功したジブリールは宇宙に出ていた。彼を乗せたシャトルは、月にある基地「ダイダロス」に到着した。
「お待ちしておりました、ジブリール様・・!」
 ダイダロスの司令官がジブリールに頭を下げた。
「“レクイエム”の発射準備は?」
「命令を受けてすぐ、発射体勢を整え、現在エネルギーチャージは75%に達しています。」
 ジブリールが問いかけて、司令官が状況を報告する。ダイダロスでは巨大な機械の起動と発射の準備を行っていた。
「1つお聞きしますが、本当にコレを使ってもよろしいのですか?」
「当然だ!そのために私はここへ来たのだからな!」
 司令官が疑問を投げかけて、ジブリールが強気に答える。
「まさか不服ではあるまいな・・!?」
「まさか。むしろ感謝しています。我々もここで働いた甲斐があるというものです。」
 問いかけるジブリールに、司令官が苦笑をこぼして答える。
「最近は必要だと巨額を投じて作っておきながら、肝心なときに撃てないという優しい政治家が多いものでね・・それでは我々軍人は一体何なのかと、つい思ってしまうのですよ・・」
「余計な心配だな。私はそいつのような臆病者でも、デュランダルのような夢想家でもない。撃つべきときには撃つ。この世界のためならばな。」
 苦言を呈する司令官に、ジブリールが揺るぎない意思を示す。
「それで、攻撃目標は?」
「プラント首都“アプリリウスだ。これは警告ではない。攻撃だ!」
 司令官が問いかけて、ジブリールが憎悪を込めて言い放つ。
「発射準備完了!目標、アプリリウス!」
 オペレーターがジブリールたちに報告をする。
「よし!トリガーを回せ!」
 司令官が呼びかけて、ギルバートの手に兵器の発射トリガーが握られた。
「さぁ、奏でてやろう、デュランダル!お前たちのレクイエムを!」
 ギルバートたちコーディネイターへの憎悪を込めて、ジブリールがトリガーのスイッチを押した。ダイダロスに設備されている兵器「レクイエム」の発射口から、巨大な閃光が放たれた。
 レクイエムからの閃光は、宇宙の各所に置かれている複数の筒状のコロニーを通ることで方向を変えた。コロニーは移動や角度を変更することで、閃光の角度調整を行っていた。
 複数のコロニーを通過して軌道を変えたビームは、プラントのコロニー「ヤヌアリウス」の1と4に直撃。2つがコロニー「ディセンベル7」に衝突した。
 プラントの住人がコロニーの破壊と衝突に巻き込まれただけでなく、壁が破壊されて空気が外へ洩れ、宇宙に投げされた人も多数出た。
 
 プラントの悲惨な状況を、シンたちも映像を通して目の当たりにしていた。シンやルナマリアだけでなく、海潮たちも愕然となっていた。
「おい・・こりゃ、ひでぇ・・・!」
「誰が、こんなひどいことを・・!?」
 ヒルダと恭子がプラントの惨状に息をのむ。
「ジブリールの仕業だ。」
 レイが冷静を装って告げる。
「月の裏側から撃たれた。こっちがいつも通り表のアルザッヘルを警戒している隙に・・ダイダロスにこんなものがあったとは・・・」
「でも月の裏側じゃ、どうやったって真っ直ぐにビームは飛ばせねぇだろ!ビームが曲がんねぇ限り、絶対に当たりっこねぇ!」
 レイの説明に対して、孝一が声を荒げる。
「ヤツらは廃棄コロニーに超大型の“ゲシュマイディヒパンツァー”を搭載して、ビームを数回に屈曲させたんだ。」
「ゲ・・ゲシュマロパンツァー・・・!?」
 レイが説明を続けるが、孝一が疑問符を浮かべて首をかしげる。
「つまり、コロニーでビームを曲げたことで、月の裏側に位置するプラントに当てたということね・・」
 恭子が攻撃の仕組みを把握して納得する。
「そうだ。つまりこのシステムなら、屈曲点の数と位置次第で、どの標的でもどの角度からでも自在に狙える・・悪魔の技だな・・」
「ジブリール、とんでもないことを・・・!」
 レイが答えて、シンがジブリールへの怒りを募らせて、手を強く握りしめる。
「オレたちの責任だ・・ジブリールを逃がした・・」
「逃がしたって・・それは、オーブとアークエンジェル、サリアたちが邪魔をしたから!」
 自分たちの責任を口にするレイに、シンが反論する。ジブリールを撃墜できなかった自分を責めて、ルナマリアが困惑する。
「確かにヤツらはジブリールを逃がした。ヤツらが邪魔したから、ジブリールを逃がすことになった・・それでもオレたちが討つべきだった・・・」
「くっ・・・!」
 事実を告げるレイに、シンは憤りを募らせるばかりだった。
「それで、これからどうすんだ?プラントを撃ったビーム砲を壊すんだろ?」
「もちろんだ!すぐにロゴスを叩かないと、プラントが助からない!」
 孝一が問いかけて、シンがプラントを守る決意を強くしていた。
「焦るな、シン。今、艦長が宇宙に上がる旨の連絡をしている。すぐに発進することになる。」
 レイが冷静になだめて、シンが落ち着きを取り戻そうとする。
「みんなー!今、アンジュからの連絡があったよー!」
 そこへヴィヴィアンがやってきて、シンたちに声を掛けてきた。
「アンジュが!?」
「うん!・・でも、すぐに通信が切れちゃったよ・・・」
 孝一が驚いて、ヴィヴィアンが困った顔を浮かべて答える。
「アウローラで詳しく話を聞くわ!ミネルバにも知らせるから、シンくんたちは先に戻っていて!」
「わ、分かった!」
 恭子が呼びかけて、シンが頷いた。彼はルナマリア、レイと共にミネルバに戻っていった。
「行きましょう、ヴィヴィアンちゃん!」
「私も話を聞くよ!」
 恭子がヴィヴィアンと一緒にアウローラに向かい、海潮も続く。魅波たちも彼女たちを追って、勝流もついていった。
 
 
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