スーパーロボット大戦CROSS
第51話「変革への覚醒」

 

 

 勝流に助けられて、海潮は海岸沿いの林の中で横たわっていた。イブキから出たとき、全裸だった彼女の服装は元に戻っていた。
「お・・お兄ちゃん・・・」
 海潮が目を覚まして周りを見回す。彼女のそばに勝流の姿はなかった。
「どこに行ったの、お兄ちゃん・・・?」
 勝流と会ったのが夢ではないかとも思い、海潮は困惑していた。
 そのとき、近くで轟音がしたのを耳にして、海潮が緊張を覚えた。
「クロスも来ている!みんな戦っている!」
 空にきらめく爆発の光を見て、海潮が息をのむ。
「こんなときに、ランガがいてくれたら・・・!」
 海潮がランガのことを思い出して苦悩する。さらにスーラの操るランガに殺されそうになった瞬間も思い出して、彼女はさらに困惑する。
 そのとき、草を踏む音が聞こえて、海潮が緊迫する。彼女が恐る恐る振り向いた先にいたのは、ラブレだった。
「ラブレ!?あなた、どうしてここに!?」
 海潮が驚きをあらわにすると、ラブレが視線を移した。2人のいる海岸から離れた草原に、飛行艇が着陸していた。
「降りてきてここまで来たのね・・・!」
 海潮が納得して、ラブレが小さく頷く。ラブレはさらに別方向を指さした。
「もしかして、ランガがどこにいるのか知っているの!?」
 海潮が戸惑いを覚えて、ラブレが再び頷いた。
「案内してくれる・・!?」
 海潮がラブレに連れられて、海岸から移動した。
 
 落下したヴィルキスを追って、海辺に降下したイザナギ。カナタが周りを見回すが、ヴィルキスの姿は見当たらない。
「ラブ、どこにいるんだ!?アンジュ、海潮、モモカさん!」
 カナタが叫ぶが、ラブたちからの返事もない。
「まさか、沈んでしまったのか・・・!?」
 海に目を向けて、カナタが不安を膨らませていく。
 そのとき、カナタは浜辺に視線を戻して目を見開いた。そこにあったのは、モモカが付けていたリボンと、砂地に付いた足跡だった。
「モモカさん・・ヴィルキスから出て移動したのか・・・!?」
 カナタが再び海に目を向けて、ヴィルキスを探る。しかしヴィルキスを見つけられず、レーダーにも反応がなかった。
「まさか、ヴィルキスを捨てて陸に上がったっていうのか・・!?」
 カナタは疑問を募らせながら、足跡を頼りにラブたちを追った。
 
 動かなくなったヴィルキスから抜け出したアンジュたち。ヴィルキスはそのまま海の外に沈んでしまった。
「大変なときに役に立たないんだから・・・!」
 アンジュがヴィルキスに対する不満を膨らませていく。
「でもいいの?いくら動かなくなったからって、ヴィルキスを捨ててしまって・・」
「いいのよ。少し頭を冷やせば、目を覚ますでしょう。それに、私が呼べば来るわよ。」
 不安を感じるラブに答えて、アンジュが自分の指輪に目を向ける。
「私たちもヤバい状況よ・・海潮を助けに城に戻るのは危険よ・・・!」
「それじゃ、1度みんなのところに戻るの・・!?」
 クロスと合流することを決めるアンジュに、ラブが声を荒げる。
 そのとき、アンジュが後ろから首をつかまれた。アンジュが息苦しさを覚えて、首をつかむ手をつかみ返す。
 アンジュの首を絞めていたのはモモカだった。
「モ、モモカさん!?・・何をやっているんですか!?」
 ラブが驚愕して、モモカの腕をつかんでアンジュから引き離そうとする。
「やめてください、モモカさん!目を覚ましてください!」
「ムダだよ。彼女も彼女たちの世界の人間のほとんどは、私の思うがままだ。」
 呼びかけるラブにモモカが言い返す。その声はエンブリヲのものだった。
「アンタ!・・モモカに、何をしたのよ・・!?」
「忘れたのかね?君たちの世界の人間を作り出したのが、誰なのか・・」
 声を振り絞って疑問を投げかけるアンジュに、モモカが微笑みかける。
「生憎、私の及ばない世界も混じっているので、この世界の人間全員とはいかないが、マナの使い手は確実に私の思い通りにできる。」
 モモカが話を続けると、モニターが現れてエンブリヲが映し出された。
「エンブリヲ・・・!」
「モモカさんを元に戻して!こんなことをしてまでアンジュを思い通りにしたいの!?」
 アンジュがエンブリヲに鋭い視線を向けて、ラブが怒鳴る。
「やっと巡り合えた天使だ。諦めるわけにいかない。どんな手段を使ってでも、ものにしてみせる。」
「そんなことのために、モモカさんを・・みんなを・・・!」
 アンジュを手に入れる野心を見せるエンブリヲに、ラブが怒りを覚えた。彼女が力を発揮して、体から光を発した。
 そのとき、アンジュがエンブリヲを移しているモニターを殴りつけた。その直後、エンブリヲに操られていたモモカの意識が戻った。
「あれ?私?・・・ア、アンジュリーゼ様!?」
 我に返ったモモカが、アンジュの首をつかんでいたことに気付いて驚き、たまらず手を放す。
「も、申し訳ありません!なぜこのようなことを・・!?」
「気にしないで・・あなたはエンブリヲに操られていたのよ・・・!」
 深々と頭を下げるモモカを、アンジュが呼吸を整えながら励ます。
「厄介なことになってきたよ・・アイツの洗脳を何とかしないと、モモカさんは・・・」
 ラブが口にした不安の声を聴いて、モモカが表情を曇らせた。
「アンジュリーゼ様、ラブさん、私は別行動をとります・・いつまた操られて、あなた方に襲い掛かるか分かりません・・」
 モモカがアンジュたちを気遣い、別れることを決意する。
「ちょっとモモカ、何を言い出すの!?」
「あなたをお守りするはずの私が、あなたを傷つけるなんて・・死ぬよりも耐えられないことです!」
 声を荒げるアンジュに、モモカが辛さを訴えた。アンジュを守るための別れだと、モモカは覚悟を決めていた。
「私に構わずに行ってください!先にクロスと合流してください!」
「そうはいかないわ、モモカ!それだけ思っているなら、あんなヤツに負けないように!」
 呼びかけるモモカに、アンジュが檄を飛ばす。
「アンジュリーゼ様・・・!」
 アンジュの言葉を受けて、モモカが戸惑いを膨らませていく。
 そのとき、ラブたちに向けて拍手が送られた。彼女たちの前にエンブリヲが現れた。
「すばらしい主従関係ではないか。私の心にも響いたよ。」
「エンブリヲ・・・!」
 感心するエンブリヲに、ラブが怒りを覚える。
「本当にしつこいわね、この性悪ストーカーめ・・!」
「私の下に来れば、全て丸く収まる。苦しむことはなくなるよ・・」
 苛立ちを募らせるアンジュに向かって、エンブリヲが手招きをする。
「君に対して人質を取っても意味はない。だから数で攻めるだけのこと・・」
 エンブリヲが言いかけて、意識を傾けた。モモカが意識を失い、再び彼の意のままに動き出す。
「モモカさん、目を覚まして!あんなのに操られないで!」
「ムダだ。彼女に私以外の声は届かない。」
 ラブがモモカに呼びかけるのを、エンブリヲがあざ笑う。
「さぁ、大人しく来てもらおうか、アンジュ。」
 エンブリヲがアンジュに向けて手を差し伸べてきた。
「みんな、離れろ!」
 そこへ声が飛び込み、アンジュがとっさにエンブリヲから離れた。ラブもモモカに飛びついた。
 その直後、エンブリヲのいる場所にビームが飛んできた。エンブリヲはビームとその爆発に巻き込まれた。
 ビームを放ったのは、駆け付けてビームライフルを発射したイザナギ。カナタがラブたちを見つけて呼びかけたのである。
「カナタくん、助けてくれたんだね!」
 ラブが顔を上げて、カナタに感謝する。
「ちょっとカナタ!いきなり撃ってくるなんて危ないじゃない!」
 アンジュがカナタに向かって不満を叫んだ。
「アンジュ!」
 タスクもエアバイクに乗って駆け付けてきた。
「タスク、あなたも来たのね!」
「アウローラが海で待機している!みんなのところへ行こう!」
 アンジュが言いかけて、タスクが呼びかける。
 そのとき、カナタが左肩をつかまれて、違和感を覚えた。彼が振り向いた先にいたのは、爆発に巻き込まれたはずのエンブリヲだった。
「エンブリヲ!?あれをよけたのか!?」
 爆発から脱して、さらにイザナギの中に入り込んだエンブリヲに、カナタが驚愕する。
 エンブリヲがナイフを取り出して振りかざしてきた。とっさに回避行動をとったカナタの左腕を、ナイフがかすめた。
「ぐあぁっ!」
 次の瞬間、カナタが激痛に襲われて絶叫を上げる。腕に付けられたのはかすり傷だが、腕を切り落とされたような痛みを痛感していた。
「君の痛覚を最大限に引き上げた。蚊に刺された程度のかゆみでも、今の君には耐えがたい苦しみに感じているだろう。」
 苦痛にあえぐカナタを見下ろして、エンブリヲが語りかける。
「これで君は身動きは取れない。このまま始末しても構わないが、そこで大人しく見ていることだ。」
 エンブリヲがカナタに告げると、自分の腹にナイフを突き刺した。
「なっ!?」
 自害した彼にカナタが驚愕する。だがエンブリヲは倒れた直後に姿を消した。
 
 カナタが痛覚を引き上げられた直後に、エンブリヲは再びラブたちの前に現れた。
「イザナギのパイロットには大人しくしてもらった。残る邪魔者は・・」
 エンブリヲが言いかけて、手にしていた剣を投げた。彼に操られているモモカが剣を取って、ラブとタスクに襲い掛かってきた。
「モモカさん、やめてください!あんな人に操られたままで、あなたはいいんですか!?」
 ラブが呼びかけるが、モモカには届いていない。
「モモカ!」
 アンジュがモモカを止めようとするが、エンブリヲに腕をつかまれる。同時に彼に感覚を操作されて、体に力が入らなくなる。
「君は大人しくしてもらうよ。そして君の心の支えが殺し合う様を見届けてもらう。」
「やめて・・・モモカ・・やめて・・・」
 悠然と言いかけるエンブリヲと、弱々しく声を掛けるアンジュ。
 タスクがナイフを手にして、モモカの振る剣を防いでいく。しかし彼は反撃に出ない。
「何とか、モモカさんを元に戻さないと・・・!」
「モモカさん・・アンジュ・・・カナタくん・・・!」
 タスクが焦りを、ラブが不安を膨らませていく。
「いい加減に・・いい加減に・・・!」
「いい加減にしろ!」
 ラブが怒りを膨らませた瞬間に、カナタの叫び声が轟いた。次の瞬間、イザナギからまばゆい光があふれ出した。
「イザナギ・・・この光・・ラブと同じ・・・!」
 アンジュがこの光を見て目を見開く。カナタもラブのように不可思議な力を発動させたのだと、アンジュは思った。
 イザナギがビームサーベルを手にして、エンブリヲに向かって前進していく。
「バカな!?高まっている激痛の中で動けるはずが・・!?」
 エンブリヲがイザナギとカナタに対して驚愕する。
「まさか、アイツにもあの娘と同じ力があるというのか・・!?」
 エンブリヲはカナタの発揮している力について直感する。これにより、高められた痛覚をもはねのけていることも。
「つくづく厄介なヤツらだ・・モモカ・荻野目、早く邪魔者を始末しろ!」
 苛立ちを浮かべるエンブリヲが命令を出す。モモカが剣を構え、ラブとタスクに迫る。
「すぐにみんなを解放しろ・・さもないと、オレはお前を許さないぞ・・・!」
 カナタが鋭い声でエンブリヲに忠告する。
「それで私をどうにかできると思っているのかな?」
 エンブリヲは臆すことなく、アンジュを連れていこうとした。カナタが目つきを鋭くして、彼に向かって念じた。
 エンブリヲが動きを封じられて、アンジュが力を振り絞って離れていく。
「殺してもよみがえるヤツなら、動きを止めて生き地獄を味わわせるだけだ・・・!」
「なるほど・・それでも彼女を止めるには・・」
 鋭く言うカナタに頷いてから、エンブリヲがアンジュを操って、ラブたちにけしかける。
 そのとき、モモカの動きが突然止まった。彼女はエンブリヲの思念に抵抗して踏みとどまっていた。
「私が作り出した人間が、私の逆らうなどあり得ない・・・!」
 モモカの抵抗にエンブリヲが目を疑う。
「私は、モモカ・荻野目・・アンジュリーゼ様の、筆頭侍女です・・・アンジュリーゼ様を悲しませるようなことは・・死んでもいたしません・・!」
 モモカが声を振り絞り、エンブリヲに言い返す。彼女は持っている剣の切っ先を、エンブリヲに向けた。
「アンジュリーゼ様に、これ以上手出しはさせません・・・!」
「君たちの創造主である私に逆らうとは・・・」
 声を振り絞るモモカを、エンブリヲが嘲笑する。
「みんな、オレが動きを止めている間に、グラディス艦長たちのところへ・・!」
 カナタがラブたちに避難するように促した。
 そのとき、カナタが発揮していた光が突然消えて、力が出せなくなる。同時に動きを封じられていたエンブリヲが、体の自由を取り戻す。
「くそ・・こんなときに・・力が抜けていく・・・」
 カナタがコックピットの前方にもたれかかり、声を振り絞る。
「惜しかったな・・これでチェックメイトだ。」
 エンブリヲが勝利を確信して、モモカに思念を送る。しかしモモカは耐えて、彼に敵意を示す。
「タスクさん・・ラブさん・・・アンジュリーゼ様を・・姫様をお願いします・・・!」
 モモカがタスクに告げると、アンジュに目を向けて微笑んだ。
「モモカ、あなた何を・・!?」
「お逃げ下さい、姫様!」
 目を見開くアンジュに呼びかけて、モモカがエンブリヲに向かって突撃した。
「愚かな・・!」
 エンブリヲが銃を手にして発砲する。胸に銃撃を受けるも、モモカは突撃して彼に剣を突き立てた。
「モモカ!」
「マナの・・マナの光よ!」
 アンジュが叫ぶ前で、モモカがマナを全力で発動させた。彼女とエンブリヲのところへ1台の車が飛び込んできた。
 マナに引き寄せられた車が、地面にぶつかって爆発した。その炎にモモカとエンブリヲが巻き込まれた。
「モ・・モモカ・・・!?」
「モモカさん!」
 アンジュが愕然となり、ラブが叫ぶ。モモカは炎の中に消えた。
「モモカ・・・いや・・こんなことって・・・!?」
 アンジュが絶望して、この場に膝をついて震える。
「ラブさん、カナタのことを頼む・・オレはアンジュを・・・!」
「タスクさん・・・はい・・・」
 タスクが言いかけて、ラブが困惑しながら頷く。ラブがイザナギに駆け上がって、タスクがアンジュに駆け寄る。
「アンジュ、戻ろう・・みんなのところへ・・・」
 タスクが呼びかけるが、アンジュは悲しみに暮れて返事ができない。タスクはアンジュを連れて、エアバイクに向かう。
「カナタくん、大丈夫!?カナタくん!」
 ラブがイザナギのハッチを開けて、カナタに呼びかけてきた。
「ラブちゃん・・オレ、力を使い果たしてしまったみたいだ・・・」
 カナタが顔を上げて、ラブに微笑んだ。
「1度ミネルバかアウローラに戻ろう・・アンジュとタスクも一緒に・・・」
 カナタが撤退を進言して、ラブが頷いてアンジュたちに目を向けた。アンジュがタスクに連れられて、エアバイクにたどり着いた。
 そのとき、イザナギのレーダーに、近づいてくる熱源を捉えた。
「ラブちゃん、入って!」
 カナタがとっさにラブの腕をつかんで、コックピットに引き寄せてハッチを閉じた。
「うっ!」
 ラブがコックピットの壁にぶつかってうめく。イザナギがビームシールドを展開して、飛び込んできたビームを防いだ。
「うわっ!」
 しかしビームを止めきれずにイザナギが押されて、カナタが衝撃でうめく。
「だ、誰だ!?」
 カナタが叫んだとき、イザナギの前にイザナミが現れた。
「イザナミ!カンナ!」
「カナタ・・やっとあなたに勝つときが来たのよ・・」
 緊迫を強めるカナタに、カンナが微笑みかける。
「思い知ることね、カナタ・・私とイザナミにも、ディメンションバーストがあることを・・!」
「何っ!?」
 カンナが口にした言葉に、カナタが耳を疑った。
「ディメンションバースト、発動!」
 カンナがスイッチを入れると、イザナミからまばゆい光があふれ出した。
「そ、そんな!?」
「ディメンションバースト・・イザナミも起動できるようになったということは・・!」
 ラブとカナタがイザナミを見て、驚愕を隠せなくなる。
「ゼロス博士が見つかったのか!?・・博士をどうしたんだ!?」
 カナタが動揺を膨らませながら、カンナを問い詰める。
「やっと見つけることができたわ・・ゼロス博士をね・・・!」
「博士はどこだ!?・・ゼロス博士を返せ!」
 喜びを膨らませるカンナに、カナタが感情を込めて言い放つ。
「知っても意味はないわ。あなたはここで倒れるのだから・・・!」
 カンナが言い返し、イザナミがビームサーベルを手にした。そのビームの刀身が大きくなっていく。
「ディメンションバーストで、武装の出力も増している・・・!」
「お姉ちゃん、やめて!私たちが争う必要なんてないよ!」
 カナタがイザナミの力に脅威を覚え、ラブがカンナに呼びかける。
「私は力を手に入れるのよ・・世界を動かせるだけの力を・・!」
 しかしカンナは聞く耳を持たず、イザナミがイザナギに飛びかかる。
「このっ!」
 カナタが毒づき、イザナギが後方に下がってビームサーベルから回避する。しかしビームサーベルの余波で、イザナギの胴体に傷が入った。
「かわしたはずなのに・・なんて力だ・・・!」
 カナタがイザナミの攻撃に対して窮地に立たされる。
「・・・引き上げるしかない・・今の状態で、カンナとイザナミと戦うのは危険すぎる・・・!」
 彼は現状の中での最善手を模索する。
「でもまだ海潮が見つかっていないよ・・!」
「このままだとオレたちがやられてしまう!」
 ラブが海潮のことを気に掛けるが、カナタには余裕がない。
「タスク、アンジュ、2人も早く脱出を!」
 カナタが再びアンジュたちに呼びかけたときだった。
 弾丸が飛び込み、タスクの背中に直撃した。タスクが激痛を覚えて、口から血をあふれさせる。
「私に逆らうとは驚きだよ。もっとも、私相手では相打ちを狙っても犬死にしかならないがな。」
 アンジュたちに声を掛けてきたのは、またも姿を現したエンブリヲだった。
「あなた!?・・よくも・・よくもモモカを・・・!」
 アンジュが怒りをあらわにして、エンブリヲに攻撃しようとした。そのとき、タスクがアンジュを引っ張って、エアバイクに乗せた。
「タスク、何を・・!?」
「ゴメン、アンジュ・・・」
 当惑するアンジュに、タスクが首の後ろにナイフの柄を叩きつけた。意識を失った彼女に、タスクがハンドルを握らせる。
「オレはアンジュの騎士だ・・どんなことがあっても、オレは君を守る・・オレの命を賭けても・・・!」
 タスクが決意を口にして、エアバイクを自動操縦にして、目的地を設定した。アンジュを乗せたエアバイクが浮上して移動していく。
「行かせはしないぞ・・」
 エンブリヲがエアバイクに銃口を向けた。そのとき、彼の銃を持つ腕に、タスクが射出したワイヤーが巻き付いた。
「アンジュに手出しはさせない!」
「つくづく愚かな邪魔者が・・・!」
 ワイヤーで引き寄せようとするタスクに、エンブリヲが再び発砲する。タスクは撃たれるも、痛みに耐えて踏みとどまる。
「私はアンジュを妻に迎える。邪魔はさせないぞ。」
 エンブリヲが銃を構えたまま、タスクに近づいていく。
「しつこい男は・・嫌われるよ!」
 タスクが声を振り絞り、上着のファスナーを開けた。彼が上着の下に身に着けていたのは、爆弾だった。
 目を見開くエンブリヲを引き寄せたところで、タスクが爆弾のスイッチを入れた。爆弾が爆発し、2人が炎に包まれた。
「タスク・・・タスク!」
 カナタがタスクに向かって叫ぶ。
「他のことを気にしている暇はないわよ・・!」
 カンナが言い放ち、イザナミがハイブリッドディメンションにエネルギーを集中させていく。
「まさか、ディメンションブレイカー・・!?」
「ディメンションバーストのときにブレイカーを撃ったら、どれだけの影響が出るか・・!」
 ラブとカナタがディメンションブレイカーによる被害を不安視する。
「この角度からだと、オレたちがよけたら、みんなのいるところに飛び込む・・オレたちがおびき寄せて、こっちもディメンションブレイカーで迎え撃つしかない・・・!」
 シンたちを守るため、カナタは覚悟を決める。
「カナタくん、みんなを守りたいって気持ちは、私も同じだからね・・どこまでも付き合うよ・・!」
「でも、それだと君も危険に巻き込まれることに・・!」
「カナタくんは私のことを気にしているけど・・私だって、カナタくんのことを心配しているんだから・・!」
「ラブちゃん・・・!」
 ラブの気持ちを聞いて、カナタが戸惑いを覚える。
「・・分かった・・行くよ、ラブちゃん!」
「うん、カナタくん!」
 聞き入れたカナタに、ラブが頷く。イザナギが飛翔して、シンたちの戦場とは別方向の海に出た。
「逃がさない・・今のイザナギのディメンションブレイカーは、逃げようとしてもかわし切れるものじゃない・・!」
 カンナが目つきを鋭くして、イザナギに狙いを定める。
「ディメンションバースト!」
 カナタがイザナギのディメンションバーストを発動させ、ハイブリッドディメンションにエネルギーを集めていく。
(ここまで力を上げている2機がディメンションバーストをぶつけ合ったら、何が起こるか分からない・・あのとき以上の空間の歪みが起こるかもしれない・・・それ以前に、今のオレたちとイザナギは万全じゃない・・イザナミを止められるかどうかも・・・!)
 最悪の事態を予感して、カナタが覚悟を決める。ラブも彼の心理状態を察して、小さく頷いた。
「終わりよ、カナタ・・ディメンションブレイカー!」
 カンナが言い放ち、イザナミがディメンションブレイカーを発射した。
「カンナ!」
 カナタもイザナギのディメンションブレイカーを撃って、2機の閃光がぶつかり合った。しかしイザナギの光線がイザナミの光線に徐々に押されていく。
「ダメだ・・やはり押されていく・・・!」
 カナタが危機感を募らせて、ラブが震える。
「終わりよ!」
 カンナが勝利を確信し、イザナミの光がイザナギを押し込んだ。光はさらにその先の海と空を揺さぶった。
「すごい・・私でも信じられないわ・・このイザナミの力が・・・!」
 イザナミのディメンションブレイカーの威力に歓喜するあまり、カンナが体を震わせる。
「カナタを倒したとはまだ言い切れない・・でも私の方が上だということは証明できた・・・!」
 カナタを上回ったと思い、カンナが笑い声をあげた。彼は喜びに打ち震えてから、落ち着きを取り戻す。
「ゼロス博士が、イザナミも強化してくれたから・・長い時間を費やして見つけ出して、協力させることができたから・・・」
 イザナミがディメンションバーストを使えるようにしたゼロスに対して、カンナは歓喜を募らせていく。
“カンナ、イザナミの調子はどう?”
 そこへ通信が入り、カンナが意識を傾けた。
「その声はカグラ・・やっと連絡が付いたわね・・」
 カンナが通信の相手、カグラにため息混じりに答える。
“先にヘクトたちにも連絡をしたわ。今から戻るわね。”
「分かった。私もこれから戻るわ・・」
 カグラからの連絡を聞いて、カンナは通信を終えた。
「さようなら、カナタ・・世界を正すのは、私たちがやるから・・・」
 イザナギの消えた場所を見下ろして、カンナが囁く。イザナミがミスルギ皇国を去っていった。
 
 その頃、恒彦たちは虚神会を取り押さえるため、彼らのいる宴会場に足を踏み入れていた。
「突入後、虚神会全員の身柄を拘束。メンバーの権限を剝奪後、イブキ神の指示を仰ぐ。」
 恒彦が指示を出して、隊員たちが頷いた。彼らは宴会場の扉の前に来て、それぞれ銃を構えた。
 恒彦が合図を出してから、会場のドアを開けた。
 その直後、恒彦たちが会場の光景に目を見開いた。会場の明かりは消えていて、虚神会のメンバーは全員倒れていた。
「ウフフフフ・・・」
 重くのしかかる沈黙を笑い声が破った。中央に置かれた椅子に座っていたのは、ナイエルだった。
「ようやく私のバンガも実体化が可能となった!・・タオの風が強くなっている・・・!」
 ナイエルが歓喜に湧いて、言葉を詰まらせている恒彦たちに目を向けた。
「腐敗した老人たちに怒った部隊が、虚神会粛清後に自決。それがこのクーデターの結末・・」
「貴様は、何だ・・!?」
「あなたたちの言葉で言うなら、“キュリオテス”ね。」
 恒彦の問いに答えて、ナイエルがゆっくりと立ち上がった。
「動くな!我々の指示に従え!」
 隊員の1人がナイエルに銃口を向ける。
「終わりなのよ。虚神会も、あなたたちもね・・」
 しかしナイエルは動じることなく、恒彦たちに近づいていく。
「止まれ!」
 隊員が怒鳴って発砲する。しかし弾丸は、ナイエルの前に現れた巨大な手に阻まれた。
「実体化が可能となったと言ったでしょ?」
 微笑むナイエルの前に1体の巨人の上半身が現れ、恒彦たちに立ちはだかった。
「バ、バケモノ!」
 複数の隊員たちがたまらず銃を連射した。巨人は弾丸を受けても全く傷つかない。
 巨人の巨大な手が、驚愕する恒彦たちに伸びた。
 
 ラブたちを見つけられず、さらにカナタとタスクも消息が分からなくなり、シンたちはサリアたちと消耗戦を続けることになった。
「このままでは私たち全員が不利に陥るわ・・ミスルギ皇国から一時離脱します・・!」
 劣勢を痛感したタリアが、アーサーたちに指示を出す。
「しかし、それではアンジュさんたちやカナタくんたちが・・!」
「私たちがやられてしまっては元も子もありません・・!」
 アーサーがカナタたちを気に掛けるが、タリアはこの場にいる全員の無事を優先していた。
「艦長、イブキと連合軍がミスルギ皇国から移動を始めました!進行方向は日本です!」
 メイリンがイブキたちの動きを確認して、タリアに報告した。
「目標も定まったわね・・クロスはミスルギ皇国から離脱!日本、武蔵野に向かいます!」
 タリアが指示を出して、ミネルバと飛行艇、アウローラがミスルギ皇国から離れていく。
「ミネルバが離れていく・・!?」
「ちょっと待て!まだクリスたちが・・!」
 ルナマリアが声を荒げて、ロザリーがクリスを心配する。
「戻ってこい、クリス!あたしとおめぇは、アルゼナルに送られてから、ずっと一緒だったじゃねぇかよ!」
「確かにそうだった・・でもあなたたちは、私たちを利用していただけ・・・」
 呼びかけるロザリーを、クリスが嘲笑する。
「私たちは友達じゃない・・本当の友達なら・・私のことを見捨てなかった・・・」
「クリス・・・!」
 冷たく告げるクリスに、ロザリーが困惑する。
 クリスが自分の髪を束ねていた髪留めを外した。幼い頃にヒルダ、ロザリーとプレゼントを交換し合い、そのときにもらったものである。
 クリスはテオドーラのコックピットのハッチを開くと、その髪留めを投げつけた。
「クリス、てめぇ・・!」
 クリスから友情を傷つけられて、ロザリーが苛立ちを覚える。
「あなたたちはいらない・・私には、エンブリヲくんがついている・・・!」
 クリスがロザリーとヒルダたちを切り捨てて、エンブリヲに心酔する。
「クリス、そんなにあたしらの敵になるっていうのか?・・覚悟はできているってことかよ・・!?」
 ヒルダもクリスに対して怒りを募らせていく。
「私が覚悟するほど、あなたたちが強いわけじゃない・・私の方が強いんだから・・」
 見下すクリスに、ヒルダもロザリーも鋭い視線を向けていた。
 そのとき、テオドーラに向けてビームが放たれた。レジェンドがビームライフルとドラグーンを発射して、テオドーラを引き離した。
「撤退の指示は出ている。お前たちも帰還しろ。」
 レジェンドがアーキバスたちに近づき、レイがヒルダたちに呼びかける。
「ふざけんな!このままクリスを連れ戻さないまま帰れるか!」
「その意地のためにそのチャンスを失いたいのか?」
 感情をあらわにするロザリーに、レイが忠告する。
「今は戻れ。今のままでは確実に落とされる。」
「ちくしょう・・覚えてろよ、クリス・・レイ、てめぇも・・!」
 指示を送るレイにも、ロザリーが苛立ちを募らせていく。
「逃がしはしない・・決着をつけるよ・・」
 クリスが言いかけて、テオドーラがビームライフルを発射する。アーキバスたちがビームをかわし、レジェンドがビームライフルを撃つ。
「それは次の機会だ・・次に会ったときに、遠慮なくやってやるよ・・!」
 ヒルダが捨て台詞を吐いて、アーキバスとグレイブ、レジェンドが引き下がった。
「今はいいわ。次に戦うときに、確実にクロスを滅ぼす・・」
 サリアがクリスたちを呼び止める。クレオパトラたちも引き上げていく。
 イザナミも既にミスルギ皇国を離れて、ヘクトたちと合流しようとしていた。
 
 
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