スーパーロボット大戦CROSS
第50話「甘い毒」

 

 

 海潮の前に現れたイブキ。和王が彼女に向けて声を掛けてきた。
「藤原さん・・イブキと・・虚神と一体化するなんて・・・!?」
 海潮がイブキの顔を見て、困惑を募らせる。
「何をするつもりなんですか?・・そんな姿になってまで・・・」
「力を貸してほしい・・この世界を、人々を正しく導くために・・」
 恐る恐る問いかける海潮に、和王が助力を求める。
「私はそんなことに協力できません・・だって藤原さんも、虚神会の1人・・連合軍の中の虚神会じゃないですか・・・!」
 しかし海潮は和王の誘いを拒む。
「虚神の力を見せつけてみんなを思い通りにするなんて、ホントの楽園じゃない・・支配しているのと同じです!」
「支配か。そうかもしれないね。でもね海潮ちゃん、何かに支配されないで生きていくことなんてできないよ。僕は正しい道を示したいんだ。」
 反論する海潮に、和王が自分の信念を伝える。
「君は、人が人を殺してはいけないと言ったね。それはなぜだ?」
「理由なんかありません。私はそれが当たり前だった・・」
 和王からの問いに、海潮が悲しい顔を浮かべて答える。彼女は夕姫を助けるためにステラに銃口を向けたときのことを思い出していた。
「つまり、君1人の正義だ。それじゃダメなんだよ。神がそれを禁じた。その一言で君は正しくなれる。」
「そんなの・・・」
「誰かに言って欲しかったんじゃないのかい?何が正しいのか・・でもそれが分からないから、必死に自分だけのルールや正義を作り上げてしまう。今の日本の若者は全てそうだ・・自分だけの価値観で生きている。だから誤る・・だから正しい人殺しだってあると思い始める。それじゃ辛いだろ・・正しいことはたった1つ。神の言葉だ。神に導かれれば君たちは楽になれる。なぜ生きるのか、何が正しいのか、もうそんな悩みはない・・」
「そうなの?・・お兄ちゃんもそんな風に考えているの・・?」
 和王の言葉を聞いて、海潮が勝流のことを考える。
「・・・おいで。君なら入れる。スーラの血を引く君ならば・・・」
「入る・・私が、イブキの中に・・・!?」
「念じながら触れれば、入ることができる・・・」
「念じながら・・・」
 和王に促されるまま、海潮が意識を傾けて手を伸ばす。イブキに触れた瞬間、彼女はそのまま中に入り込んだ。
 
 撃たれて事切れたはずのエンブリヲが生きていた。平然としている彼に、アンジュは目を疑っていた。
「どういうことなの!?・・確かに撃たれて死んだはず・・!?」
 アンジュは驚きを隠せないまま、再びエンブリヲに銃口を向けた。
「アンジュ、君のようなすばらしい人間、放っておくにはあまりにも惜しい・・・君を妻に迎えたい。」
「はぁっ!?」
 エンブリヲからの突然の求婚に、アンジュが耳も疑う。
「私もこの愚かな世界を作り変えようとしている。君と目的は同じということだ。」
 エンブリヲから悠然とした態度を崩さずに語りかける。
「旧世界の人間たちは野蛮で好戦的でね。足りなければ奪い合い、満たされなければ怒る。まるで獣だった・・彼らを滅亡から救うには、人間を作り変えるしかない。そしてこの世界を創った・・」
 彼はかつて自分がいた世界のことを思い出していく。
「だが今度は堕落した。与えられることに慣れ、自ら考えることを放棄した。君も見ただろう。誰かに命じられれば、いとも簡単に差別し虐殺する、彼らの腐った本性を・・」
 エンブリヲに指摘されて、アンジュがジュリオやアキホたちのことを思い出していく。
「人間は何も変わっていない。本質的には邪悪で愚かなものだ。」
「確かに愚か者だらけだし、こんな馬鹿げた世界は壊したいと思っている・・でも、あなたの妻になるなんて死んでもゴメンなの!」
 落胆を見せるエンブリヲに言い返して、アンジュが発砲した。エンブリヲが頭を撃たれて昏倒した。
「だから調律者さん・・あなたが死になさい!」
 事切れたエンブリヲを睨んで、鋭く言い放つ。
「世界を作り変えるのは私に任せて、安心してあの世で見ていなさい。」
「フフフフフ・・血の気の多いことだ・・」
 吐き捨てるアンジュの耳に、エンブリヲの声が入ってきた。アンジュが振り返った先でエンブリヲは平然としていて、彼女が視線を戻したときには撃たれた彼は消えていた。
「だが、それでこそ我が妻にふさわしい・・」
 エンブリヲがアンジュの肩に手を乗せて、意識を傾けた。直後に彼は彼女の肩を軽く握った。
「ぐっ!」
 その瞬間、アンジュが肩に激痛を感じて、たまらず倒れてうずくまった。
「な、何をしたのよ!?・・・体が・・肩が・・・!」
 押し寄せる激痛に耐えられず悶絶するアンジュ。まるで獰猛な怪物に食いちぎられたような痛みを、彼女は感じていた。
「君の痛覚を引き上げたのだよ。軽くつかまれただけでも、今の君には骨を折られるような痛みを感じているはずだ。」
 エンブリヲが苦しむアンジュを見下ろして微笑む。彼はアンジュの痛覚を急増させたのである。
「私は人間も世界も作り出せる。人の感覚を操作することなど造作もないよ。」
「こんなことで・・私が言いなりになると思ったら、大間違いよ・・・ぐあぁっ!」
 勝ち誇るエンブリヲに言い返すも、アンジュが激痛のためにまともに動くことができない。
「さすがの君も、50倍の痛覚には耐えられないか・・・では、これならどうかな?」
 エンブリヲがアンジュに再び触れて念じた。次の瞬間、アンジュは激痛とは違う強い刺激に襲われた。
「こ、これは・・・!?」
 アンジュが刺激を受けて顔を赤らめる。彼女は刺激に耐えられず、思わず失禁してしまう。
「痛覚を全て快感に変換した。これで逆に心地よくなるだろう・・」
 エンブリヲが悠然と語って、息を荒くするアンジュを見て喜ぶ。
「これで理解しただろう、アンジュ。君を操ることなど簡単なんだよ。これ以上苦しみたくなければ、私の求婚を受けることだ。」
「ふざけないで・・あなたの言いなりになるなんて、死んでもゴメンよ!・・・アハァ・・!」
 自分のものになるように求めるエンブリヲに言い返すが、アンジュは恍惚によって悶える。
「本当に徹底的に抗うのだな。君も、あのラブという娘も・・」
「ラブも・・!?」
 エンブリヲが口にした言葉を聞いて、アンジュが目を見開く。エンブリヲが部屋の別のドアを開けた。
 隣の部屋には全裸になっているラブがいた。彼女は目が虚ろになっていて、無気力になっていた。
「ラブ!・・まさか、ラブの感覚も・・・!」
「彼女の感覚も操作させてもらった。痛みにも悲しみにも耐えたが、快感の強化には弱かったようだ・・彼女も君と似ているようだ。」
 声を荒げるアンジュに、エンブリヲが語りかける。
「ただ彼女には厄介な力を備えているようだ。次元に影響を及ぼすほどの・・感覚を変えて屈服しようとしたが、痛みや感情の起伏で力が解き放たれようとしたからね。快楽を与えることで鎮静化させることができたよ。」
「アンタは・・ラブまで・・・!」
 ラブの持つ力を懸念するエンブリヲに、アンジュが怒りを膨らませる。しかし押し寄せる恍惚にさいなまれて、立ち上がることもできない。
「ア・・アンジュ・・・!」
「ラブ・・まだ意識が残っているわね・・・!?」
 声を振り絞るラブに、アンジュも必死に答える。2人とも恍惚に悶えて、息を荒くしていく。
「美しい者が苦しみ、虐げられ、絶望する姿は実に楽しい。君と彼女のように、屈服せずに抗い続けながらも悶絶しているのも、また華だよ。」
 アンジュとラブを見て、エンブリヲが歓喜に湧く。
「エンブリヲ・・アンタだけは・・・!」
 アンジュがエンブリヲへの敵意をむき出しにするが、恍惚に耐えられず再び失禁してしまった。
 
 イブキの中に入った海潮は、漆黒の中を流れるように進んでいた。
「さ・・寒い・・・」
 目を閉じていた海潮がゆっくりと目を開いて、闇の先を見据える。
「えっ・・!?」
 そのとき、海潮が自分の姿を見て驚きを覚える。今の彼女は何も身に着けていない全裸となっていた。
「な、何でこんなことに・・!?」
 たまらず自分の体を抱きしめて、恥じらいを覚える海潮。その間も彼女は漆黒の中を移動して、1つの人影を目撃した。
 そこにいたのは、イブキと一体化した和王だった。彼は下半身を壁の中に埋め込まれていた。
「藤原さん・・・!?」
 海潮が和王の姿に目を見開く。彼女と同じく全裸の姿だった和王は、疲れ切った様子で、体中に傷が広がっていた。
「ひどい・・何があったんですか・・・!?」
 海潮が動揺しながら、和王を心配する。
「大したことじゃないよ・・僕はスーラ直系の血筋ってわけじゃない・・人が神を操るための当然の代償さ・・」
「どうして、そんなにまでして・・・!?」
 弱々しく微笑む和王に、海潮が困惑していく。和王は昔を思い出して、目を閉じて語り始めた。
「僕たちがまだ学生だった時、勝流と付き合っていた女性が、大した理由もなく自殺したことが始まりだったのかもしれない・・」
 自分たちが虚神会に入った経緯を語っていく和王。
「彼は無力な自分を呪い、虚神会という巨大な組織に身を置く決意を固めた。僕も彼と共に虚神会に加わった。しかし勝流の力への追及は大きくなるばかりだった・・」
 彼から勝流の悲劇を聞いて、海潮が困惑を募らせる。
「だから勝流は虚神会を離れてバロウに・・」
「そんなの信じられない!」
「海潮ちゃん、僕の体はもう持たない・・君の力が必要なんだ。今こそ僕たちと一緒にイブキの国を創ろう!」
 話が信じられないでいる海潮に、和王が手を伸ばした。海潮が腕をつかまれて、和王に抱きしめられる。
「イヤッ!やめて、藤原さん!」
 海潮が悲鳴を上げるが、和王の腕から抜け出すことができない。
「君もこうして僕のそばにくっついていたんだよ・・懐かしい・・あの頃と同じだ・・・」
 和王が海潮を見つめて、さらに過去を思い返していく。
 そのとき、イブキたちのいる場所に大きな揺れが起こり、和王が顔を上げた。1体の巨人が空から降りてきて、イブキの前に現れた。
「あれは、あのときの!・・虚神ではない・・スーラなのか!?」
 芳幸が巨人を見て声を荒げる。ランガとイブキの戦いに現れた巨人だった。
 
 その頃、恒彦たちクーデター部隊は、イブキや芳幸たちと別行動をとっていた。しかしイブキたちと連絡が取れず、恒彦はナイエルに指示を仰いでいた。
「このまま待機していろとはどういうことですか!?ランガは倒れ、独立領の解放に向けて作戦が進んでいる!日本がイブキ神が導く、虚神政権が構築されるのです!」
 恒彦が日本の新たな政権の実現に向けての協力を訴える。その最中、彼の使っている通信機から笑い声が響いてきた。
 それは虚神会のメンバーの声だった。仮面を隠していた彼らは素顔をさらし、酒や食事を口にして舞い上がっていた。
“遊んでいるわけじゃないの。でもみなさん、久々に表舞台に出るので興奮気味で・・”
「約束が違う!政権を維持し、老人たちが閣僚になるのでは、何も変わらない!」
“とにかく、過激な行動は慎むことね。”
 抗議の声を上げる恒彦だが、ナイエルに注意されて通信を切られた。憤りを募らせる恒彦だが、隊員たちを見て落ち着きを取り戻す。
「みんな、イブキ神の言葉は聞いたな?私は、イブキ神を信じる・・!」
 恒彦が自分の意思を告げて、隊員たちが頷いた。
「この先の新たな時代は、新たな神と新たな思想の持ち主でなければならない。今さら腐った老人などに、邪魔などさせない!」
 虚神会の上層部への不満を爆発させる恒彦。クーデター部隊が虚神会が宴会をしている会場へ向かった。
 
 恒彦たちが向かってくるという知らせは、兵士を通じてナイエルに伝えられていた。
「そう。ならすぐに到着するわね・・」
「おや?誰が来るんじゃ?」
 微笑むナイエルに、虚神会のメンバーの1人がにやけて問いかけてきた。
 そのとき、宴会で有頂天になっていたメンバーたちが、突然苦しみ出し、次々に倒れていった。
 宴会に出された料理には、ナイエルによって毒が盛られていた。
「これでいいのね、あなた・・」
 倒れたメンバーたちを見下ろして、ナイエルが微笑む。彼女の後ろに巨大な影が浮かび上がっていた。
 
 ラブたちの行方を探るカナタたち。その最中、ヴィルキスの反応がミネルバのレーダーを捉えた。
「ヴィルキスを発見しました!方向は西北西です!」
 メイリンがタリアにヴィルキスの位置を報告する。
“そこにはミスルギ皇国がある!きっと、エンブリヲもそこにいるはずです・・!”
 タスクもアウローラからヴィルキスの位置を確認して、タリアに声を掛けてきた。
“オレに行かせてください!オレがアンジュたちを助け出します!”
「ダメよ、タスクくん。あなた1人だけを行かせるわけにいかないわ。」
“ですが、このままではアンジュたちがエンブリヲに・・!”
「私たちも行きます。クロスとして行動し、アンジュさんたちを救出します。」
 救出を志願したタスクをなだめて、タリアもミスルギ皇国へ行くことを決めた。
「艦長、我々にはジブリール討伐の任務もあります。交戦の間に、ヤツが手を打ってきたら・・」
「私たちは今はまだ連合軍を討つつもりはありません。アンジュさんたちを救出したら、すぐに離脱します。」
 レイが苦言を呈するが、タリアは冷静に判断をしていた。
「ミネルバの武装と各機体は整備完了しています。」
“パラメイルの整備も終わっていますよ!”
 アーサーが報告をして、メイも通信をしてきた。
“ダイミダラー超型とエース2機もいつでも出られます。”
 恭子も報告して、タリアが頷いた。
「クロスはこれより、アンジュさんたちの救出に向かいます。ただし敵との交戦は極力避けるように。」
 タリアが号令をかけて、ミネルバと飛行艇、アウローラがミスルギ皇国に向かって移動を始めた。
 
 イブキの前に突如現れた巨人。巨人は衝撃波を発して、イブキを吹き飛ばしてきた。
「虚神ではない!?・・アイツも我々の敵なのか・・!?」
 芳幸が巨人に対して、驚きと動揺を感じていく。
「あれはもしや、ナイエルの言っていたタオの守護者!?・・だったらなぜ邪魔をする!?」
 和王が巨人の行動に驚愕する。
「放して・・ここから出して・・!」
 その間にも海潮が彼の腕から抜け出そうとする。
「君の力が必要なんだ、海潮ちゃん!君が新しいイブキに、新しい神となるんだ!」
「私は、誰かを導いたりしたくない!」
「でも君も、ランガの力で自分の正義を押し付けようとしていたじゃないか!」
「私と藤原さんは違う!私はただ、楽園を見つけたいだけです!」
 説得を投げかける和王だが、海潮は聞き入れずに自分の考えを言い放つ。
「お前が救いたいのは夕姫1人じゃなかったっけ?」
 そこへ声がかかり、和王が抱きしめていた海潮を引き離される。そして彼女は1人の人影に抱きかかえられた。
「ス・・スーラ・・・!?」
 海潮がその人影の形を見て、スーラだと思った。
「勝流!?」
「えっ!?」
 しかし和王が勝流の名を呼び、海潮が戸惑いを覚える。
「行こう、海潮。ここは君にふさわしくない。」
「お兄ちゃん・・ホントにお兄ちゃんなの・・・!?」
 微笑みかける勝流に、海潮が動揺する。
「待ってくれ、勝流!僕は君との約束を果たすために、神の力を手に入れたんだ!」
「違うよ、藤原。これは虚神だ。神ではない。神はタオしかいない。」
 呼び止める和王に冷静に言い返して、勝流が海潮を連れて姿を消した。
「ま・・勝流・・・!」
 イブキと一体化している和王は、その中の漆黒の中に1人取り残されることになった。
 
 イブキの前に現れた巨人に、エンブリヲも気付いた。
「あれは・・まさか彼らも動き出してきたか・・・」
 部屋の窓から外を見て、エンブリヲが呟く。彼は視線を庭先から空に移して笑みをこぼした。
「しかし今は君たちが出向く必要はないはず。私の邪魔をするなら、たとえ誰であろうと容赦はしない・・」
 エンブリヲは笑みを絶やさずに、アンジュに目を向ける。アンジュは全裸になって、彼にさらに感覚を操作されて悶絶していた。
「本当に強情だ。素直に聞き入れなければ、悶える一方だというのに・・・」
「ふざけるな・・・ゲス野郎・・・!」
 その様を楽しんでいるエンブリヲに言い返すアンジュ。しかし思うように動けない状態だった。
「次はどのようにしようか。あまり下手にやると、君の人格まで破壊しかねないからね・・」
 エンブリヲがアンジュの感覚をさらに操作しようとした。
「いい加減にして・・・!」
 そこへ声がかかり、エンブリヲが振り向いた。アンジュと同じく感覚を操作されていたラブが、ゆっくりと立ち上がった。
「まさか・・あそこまで責められながら立ち上がってくるとは・・・」
 敏感にさせられた感覚をものともしないラブを、エンブリヲが警戒する。ラブは体から光を発していた。
「アンジュを放して・・でないと容赦しない・・・!」
 ラブが鋭く言って、念力を発する。部屋の窓や明かりが割れるが、エンブリヲは平然としている。
「君の力は常軌を逸している。しかしそれでも私を止められないことは分かっているはず。」
 エンブリヲが言いかけて、ラブに近づいていく。彼自身、致命傷を負わされても復活できることを知っている。
「容赦しないと言ったはずだよ・・!」
 ラブが目つきを鋭くして、エンブリヲに念力を仕掛けた。エンブリヲが体の動きを止められて、身動きが取れなくなる。
「なるほど・・私を押さえる方法を見つけたか・・・!」
 エンブリヲが皮肉を口にして笑みをこぼす。ラブがその間にアンジュに歩み寄った。
「大丈夫、アンジュ!?」
「あなた・・その力を出しているのに・・理性を保っているの・・!?」
 心配の声を掛けるラブに、アンジュが驚きを感じていく。
「あなたの感覚を、できる限り元に戻してみせるよ・・・!」
「あなた、そんなこともできるの・・!?」
 意識を傾けるラブに、アンジュがさらに驚く。ラブが注いだ光によって、アンジュの感覚が元に戻っていく。
「動ける、アンジュ!?」
「えぇ・・体が楽になったわ・・・」
 ラブの声にアンジュが微笑んで答えた。彼女は部屋にあるタンスを開けて、中にある服を確認した。
「ダサい服だけど・・今は文句を言っている場合じゃないわね・・・」
 アンジュがため息混じりに呟くと、タンスにある上着を2着取り出した。
「これで我慢するしかないわよ・・!」
「うん!動けないほどじゃなければ!」
 アンジュから上着を受け取って、ラブが羽織った。2人は裸を隠して、部屋を飛び出した。
「何をしているの!?」
 廊下の途中でサリアがターニャ、イルマと共に現れた。ラブとアンジュが足を止めて、サリアが2人に銃口を向けた。
「あっ!エンブリヲ様が・・!」
「あなたたち、エンブリヲ様に何をしたのよ!?」
 イルマが動けなくなっているエンブリヲを見て驚愕して、ターニャも銃を手にして構える。
「そこをどいて!」
 ラブが叫んで光を放出する。同時にサリアとターニャが発砲するが、弾丸が光に押し返されて壁と天井に当たる。
「た、弾を跳ね返した!?」
 イルマが驚きの声を上げた。
「アンジュリーゼ様!ラブさん!」
 そこへモモカが来て、ラブたちを呼んだ。その直後、ラブがアンジュを連れて走り出し、サリアたちの横を通り抜けた。
「逃がさない・・ターニャはエンブリヲ様を!イルマはエルシャとクリスに連絡して!」
 サリアが指示を出して、ラブたちを追いかけた。ラブが離れたことで、エンブリヲは束縛から逃れた。
「私なら心配はいらない。お前たちもアンジュを追え。ラグナメイルで出撃するのだ。」
「はい!」
 エンブリヲが指示して、ターニャが答えた。彼女は連絡を終えたイルマとともに、ラブたちを追いかけた。
「僕からは逃げられないよ、アンジュ・・」
 アンジュを追い求めて、エンブリヲは欲望を募らせていた。
 
 ミスルギ皇国からの脱出と海潮の捜索を考えるラブ。アンジュは指輪から発している光を頼りに、ヴィルキスを捜していた。
「モモカさん、海潮がどこにいるか分からないですか・・?」
「申し訳ありません・・見張りのために捜せなくて・・・」
 ラブが問いかけて、モモカが顔を横に振る。
「こうなったら、私が捜すしか・・!」
 ラブが意識を集中して、海潮の行方を探ろうとした。だがそのとき、彼女から発していた光が消えた。
「どうしたのですか・・!?」
「ち・・力が使えない・・力を使い果たしてしまったみたい・・・!」
 心配するモモカに、ラブが息を乱しながら答える。彼女はまだ力をうまく扱えてはいない。
「ヴィルキスを見つけて乗るのが先よ!その間に少しでも回復させなさい!」
 アンジュが檄を飛ばして、ラブが小さく頷いた。彼女たちは光の示す方に向かって走り、ついにヴィルキスの置かれている格納庫にたどり着いた。
「ヴィルキスで1度外に出て、それから海潮を捜す!」
 アンジュがラブ、モモカと共にヴィルキスに乗り込んだ。
「しっかりつかまって!撃ち抜いて外へ出るわ!」
 アンジュが呼びかけて、ヴィルキスのアサルトライフルを発射して壁を撃ち抜いた。ヴィルキスが発進して、空いた穴から外へ出た。
「ラブさん、まだ力は使えないのですか・・!?」
「・・・ダメ・・まだ力が使えない・・・!」
 モモカが問いかけて、ラブが光を出そうとするが発揮できない。
「こうなったらしらみつぶしに捜すしかないわね・・!」
 アンジュが攻撃を仕掛けて、海潮を見つけようとした。
 そのとき、サリアたちの乗ったラグナメイル5機が出撃し、ヴィルキスを追いかけてきた。
「まったく・・この忙しいときに・・!」
「逃がさないわよ、アンジュ・・エンブリヲ様に従いなさい・・!」
 毒づくアンジュをサリアが呼び止める。
「サリアさんたちも、アルゼナルやクロスに戻ろう!そんなダイナ・・ダイタン・・ダイモン・・・」
 ラブもサリアたちに説得しようとするが、ダイヤモンドローズ騎士団の名が言えず口ごもる。
「ダイヤモンドローズ騎士団よ!」
 サリアが言い放つが、それでもラブは覚えられない。
「ダイショー・・ダイズ・・ダイコン・・・」
「面倒だからいいわよ、もう・・“ダイコン騎士団”で・・」
 悩み続けているラブに、アンジュがため息とともに愚痴をこぼす。
「これ以上、エンブリヲ様と私たちを愚弄するなら、撃墜されることも覚悟してもらうわよ・・!」
 サリアが憤りを募らせて、クレオパトラがヴィルキスに迫る。
「私が合図したら、ヴィルキスに向けて一斉にワイヤーを射出!拘束するのよ!」
「了解、サリアちゃん。」
 サリアが指示して、エルシャが答える。クレオパトラとヴィルキスがフライトモードからアサルトモードに変形した。
 ヴィルキスとクレオパトラがラツィーエルを手にしてぶつけ合う。
「これが生まれ変わった私の力・・私の力を認めてくれた、エンブリヲ様のために・・!」
「ずいぶんと入れ込んでいるじゃない、あの変態ナルシストに・・!」
 エンブリヲに尽くすサリアを、アンジュがあざ笑う。
「エンブリヲ様を侮辱することは許さない!」
 サリアが怒りを募らせ、クレオパトラがヴィルキスを突き飛ばした。
「今よ!アンカー、射出!」
 彼女の合図で、レイジアたちがワイヤーアンカーを射出した。ヴィルキスが手足を縛られて、動きを封じられる。
 続けてワイヤーを伝って電撃が流し込まれた。ヴィルキスが電気ショックによって停止させられた。
「ど、どうしたのよ!?」
「ヴィルキスのエンジンが止まった!?・・いえ、止められた・・!?」
 アンジュが驚愕して、モモカがヴィルキスの状態を確かめる。
「動け!動きなさいよ!」
 アンジュがコックピットを叩くが、ヴィルキスは動かない。
「エンジンを一時的に麻痺させた。すぐには動かないよ・・」
 クリスが電撃の効果について語る。
「戻るのよ、アンジュ。エンブリヲ様に逆らうことはできないわ・・」
「何度も言わせないで・・死んでもゴメンよ、そんなことは!」
 サリアからの忠告を、アンジュが怒りを込めてはねつける。
「ならば少し痛めつけるしかないようね・・・」
 サリアがため息をついて、クレオパトラがビームライフルを手にして、ヴィルキスに銃口を向けた。
(動いて・・動いて、ヴィルキス!)
 ラブも念じるが、ヴィルキスは動かず、彼女自身も力を発揮できない。
 そこへビームが飛び込み、クレオパトラが回避する。ビームはワイヤーを断ち切ったが、ヴィルキスが力なく落下していく。
「あれはミネルバ・・クロスがここまで来たの・・・!?」
 エルシャがミネルバを見て深刻さを覚える。
「艦長、ヴィルキスが落下していきます!こちらからの通信に応答がありません!」
 メイリンがアンジュたちとの連絡を試みるが、アンジュたちからの応答がない。
「アンジュさんたちを救出します。各機、出撃よ!」
 タリアが指示を出して、カナタたちが発進に備えた。
「天命カナタ、イザナギ、行きます!」
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
 カナタのイザナギ、シンのデスティニー、レイのレジェンド、ルナマリアのコアスプレンダーがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが射出されて、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。
「ヒルダ隊、出るよ!」
「龍神器も参ります。」
 ヒルダが掛け声を上げて、サラマンディーネも出撃を伝える。アウローラからアーキバス、グレイブ、レイザー、焔龍號、蒼龍號、碧龍號が発進した。
「ダイミダラー超型、出るぜ!」
 孝一が霧子と共にダイミダラー超型に乗って、飛行艇から発進した。
「クロスの機体が出てきたよ・・!」
「アンジュを連れ帰れば、後はみんな始末していいんだよ!やるよ、イルマ!」
 イルマが動揺して、ターニャが言い放つ。
「あなたたちはクロスを迎撃して!私はアンジュを捕まえるわ!」
 サリアがエルシャに呼びかけて、クレオパトラがヴィルキスを負おうとした。だがその前にデスティニーが立ちはだかった。
「カナタはラブたちを捜してくれ!オレたちが食い止めるから!」
「分かった、シン!」
 シンが呼びかけて、カナタが頷いた。ヴィルキスが落ちたほうへイザナギが降下していく。
「あなたたちにも、エンブリヲ様の邪魔はさせないわ・・!」
「アスランだけじゃなく、アンタたちも裏切るのかよ!」
 エンブリヲへの忠誠心を示すサリアに、シンが怒りを覚える。クレオパトラがラツィーエルを構えて、デスティニーがアロンダイトを手にした。
 
 
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