スーパーロボット大戦CROSS
第49話「世界の調律者」

 

 

 クロスに反旗を上げたサリアたちにラブ、海潮、アンジュ、モモカは拉致された。
 アンジュは見知らぬ部屋で目を覚ました。彼女はベッドの上で眠っていて、部屋は机や家具が充実していた。
「ここは?・・・モモカ!」
 アンジュが部屋を見渡してから、モモカに呼びかける。
「ア・・アンジュリーゼ様・・・」
 モモカも目を覚まして、ベッドから体を起こす。
「ここはどこですか?・・私たちはいったい・・・?」
「それはこっちが聞きたいわよ・・・私たちは、サリアたちに気絶させられて・・・」
 疑問を投げかけるモモカに、アンジュが不満げに言い返す。
「アンジュリーゼ様、ここは・・!」
 モモカが窓から外を見て声を上げる。アンジュもすぐに窓に近づく。
「私たちが連れてこられたのは・・ミスルギ皇国・・!?」
 アンジュも見覚えのある光景に驚きを覚える。2人がいたのはミスルギ皇国の城。その中の1室だった。
「気が付いたようね、アンジュ。」
 そのとき、サリアがターニャ、イルマと共に部屋に来て、アンジュたちに声を掛けてきた。
「サリア・・・!」
 アンジュが彼女を見て不信感を示した。
「これはどういうことですか!?なぜ私たちにこんなことを!?」
 モモカがサリアたちに向けて問いかける。
「私はもう、あのときまでの私たちじゃない。無様にやられた弱い私たちとはね・・」
 サリアが昔の自分を思い出して、ため息混じりに言いかける。
「捜索隊が探しに行ったけど見つからなかったって・・・あなたも、エルシャもクリスも・・・」
「そう。私はあのときやられた・・クリスも落とされ、エルシャも絶望した・・でも私たちは、本当の私たちとなったのよ・・」
 当惑を見せるアンジュに、サリアが経緯を話す。
「おかしなことを言って・・悪いけど、私は帰らせてもらうわ。クロスに戻らないと・・」
 アンジュはため息をついてから、部屋を出ようとした。するとサリアが彼女の腕をつかんで止めてきた。
「それは許されないわよ、アンジュ。」
「放しなさい・・!」
 忠告するサリアに言い返して、アンジュが手を振り払おうとした。しかしサリアに逆に引き倒されて、首を腕で押さえられた。
「は、放しなさい・・放しなさいよ・・!」
「アンジュリーゼ様!」
 うめくアンジュを助けようとするモモカだが、ターニャとイルマが立ちふさがる。
「あなた、こんなに弱かったのね・・ううん、私が強くなっただけ・・エンブリヲ様のおかげで、私は変わったの・・」
「エンブリヲ・・あのとき、ステラをさらった・・・!」
 サリアの言葉を聞いて、アンジュがエンブリヲのことを思い出す。
「アンタ、あんなナルシストに従っているなんて・・・!」
「エンブリヲ様の侮辱は許さないわよ・・!」
 不満を浮かべるアンジュに苛立ちを感じて、サリアが腕に力を入れる。苦しみを覚えるアンジュが、とっさに肘打ちを繰り出す。
「くっ・・・!」
 サリアが体に当てられてうめき、アンジュが彼女から離れる。
「やってくれたわね・・寝ぼけているくせに・・・!」
 アンジュが呼吸を整えて、サリアに鋭い視線を向ける。
「あの方は私を救ってくれた・・私を生まれ変わらせてくれた・・もう私は、何もできない無力な私じゃない・・」
 サリアがエンブリヲへの感謝と共に、強くなった自分を実感していく。
「私たちはエンブリヲ様の親衛隊。名付けて、ダイヤモンドローズ騎士団。私は騎士団長のサリアよ。」
「ダ、ダイヤモンドロー・・・また、くだらないことを・・・」
 不敵な笑みを浮かべて名乗りを上げるサリアに、アンジュが呆れ果てる。
「力任せのあなたには理解できないでしょうね・・すばらしくなった私たちのことを・・」
「理解したくもないわ・・路頭に迷っていたところを新しい飼い主に拾われたくせして、いいものをもらって舞い上がっている今のアンタのことなんてね・・」
 あざ笑うサリアに対し、アンジュが見下す素振りを見せる。
「アンタ、私たちとエンブリヲ様を侮辱するの!?」
 サリアが怒りをあらわにして、ナイフを手にしてアンジュを狙う。
「待って、隊長!アンジュを傷つけてしまったら、エンブリヲ様を困らせることに・・!」
 イルマが慌てて呼び止めて、サリアがとっさに手を止めた。しかし彼女はアンジュに手を上げたくて仕方がなくなっていた。
「アンジュちゃんは私が連れていくわ、サリアちゃん。」
 そこへエルシャが来て、サリアに声を掛けてきた。
「いや、私も行くわ。エルシャだけにアンジュを連れていくのは・・ターニャたちはメイドを押さえておかないといけないし・・」
「それなら私が一緒に行く・・」
 サリアが苦言を呈すると、クリスも進言してきた。
「サリアちゃんは次の戦いに備えて休んでいて。焦りは禁物よ・・」
「・・分かったわ・・クロスはあのドラゴンの一族とも手を組んだからね・・用心に越したことはないわ・・」
 エルシャになだめられて、サリアが頷いた。
「アンジュちゃん、ついてきて。メイドさんはここで待っていて。」
 エルシャが笑顔で告げて、アンジュを案内する。ついていこうとしたモモカだが、ターニャとイルマに見張られて、部屋から出ることができなかった。
 
 サリアたちにさらわれたラブたちの行方を、タリアたちは捜し続けていた。イザナギで出ようとしたカナタだが、次の戦いに備えて休むように、タリアに言われていた。
 オーブから逃亡したジブリールはザフトの別動隊が捜索に当たっていた。
「早くラブたちを見つけないと・・・!」
「焦るな、カナタ。各機体には発信機が付いている。レーダーに引っかかれば、位置を特定できる。」
 右往左往するカナタに、レイが冷静に注意する。
「それに、捜し出さなければならないのは、ジブリールも同じだ。どこで何を仕掛けてくるか分からない・・」
「フリーダムだけじゃなく、アスランもサリアたちも邪魔してくるなんて・・・!」
 レイが話を続けて、シンがアスランたちに憤りを覚える。
「アスランが生きていて嬉しいと言いたいところだけど・・アークエンジェルと手を組むなんて・・・」
 ルナマリアもアスランの行動に疑問を感じていた。
「アークエンジェルの面々に懐柔されたか、昔の仲から本来の正義を見失ったか・・」
「何にしても、アスランもこれからはオレたちの敵だってことか・・・」
 レイが言いかけて、シンがアスランに対して憤りを感じていく。
「ジブリールのヤツは他の部隊が捜してくれてるんだろ?だったらオレたちはラブたちを捜すのに集中しようぜ。」
 孝一がカナタたちの前に来て、気さくに声を掛けてきた。
「どちらもすぐに見つかる。そのときに備えるのが、今のオレたちの役目だ。」
「しっかり体を休めておけということか・・それと心のほうも・・・」
 レイが告げた言葉を聞いて、カナタがひと息ついた。
「孝一、恭子、霧子の具合はどうなの?」
 ルナマリアが恭子に霧子のことを聞く。
「体の傷は完治に近づいているわ。ダイミダラー6型の修理も完了している。でも問題は心のほうかもしれない・・」
「将馬がペンギンになって、ペンギン帝国に行ってしまった・・これで落ち着けるはずがないよね・・」
 恭子が深刻な面持ちを浮かべて答えて、ルナマリアも困惑を覚える。
「アイツもダイミダラーのパイロットだ。必ず復活してまた戦ってくれるさ。」
 孝一が気さくな素振りを見せて、霧子への信頼を口にした。
「そうだ・・霧子も目を覚ますし、ランガもきっと帰ってくる・・それまでは、オレたちだけでやるしかない・・・!」
「シン・・・うん・・オレたちがラブたちを助けて、戦いを終わらせるんだ・・そして世界を元に戻す・・・!」
 戦う意思を貫こうとするシンに、カナタも感化されていく。
(カンナ、お前との決着も、必ずつける・・・!)
 カナタはカンナのことを考えて、覚悟を決めていた。
「みんな、デュランダル議長がオーブに向けてメッセージを送るみたいよ。」
 そこへ魅波が来て、ギルバートの放送のことを伝えた。
「オレたちも聞いておいたほうがいいな・・・!」
 カナタが言いかけて、シンとレイが頷いた。彼らはギルバートの声明の中継を映したモニターに目を向けた。
 
 ジブリール拘束を目的としたザフトのオーブへの攻撃。それについての声明を、ギルバートは中継で行おうとしていた。
「プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。先日行われたオーブでの戦闘は、ロゴスのロード・ジブリール逮捕のために行動し、オーブが引き渡しを拒否したために起こったものです。プラントとも親しい関係にあったオーブが、何故彼を匿うという選択をしたのか、今以て理解することはできません。プラントに核を放つことも巨大破壊兵器で街を焼くことも、子供を戦いの道具とするこもと厭わぬ人間を、何故オーブは戦ってまで守るのか。オーブに守られた彼を、我々はまた捕らえることができませんでした。」
 ギルバートがオーブへの非難を口にしていく。
「このままジブリールが逃亡し、世界を破滅へ導く策略が発動されることになれば、彼を逃がした我々はもちろんですが、オーブも責任を果たさなければなりません。」
 自分たちの責任と使命を告げながら、ギルバートはオーブに対して責任の追及をしていった。
 
 ギルバートからの声明を受けて、オーブに滞在していたカガリも声明を送った。オーブの中継はギルバートも見ていて、カガリの声明を聞く姿もプラントや地球に流れた。
「オーブ連合首長国代表首長、カガリ・ユラ・アスハです。先日、ロード・ジブリールの身柄引き渡し要求とともに、我が国に侵攻したプラントの最高評議会議長、ギルバート・デュランダルにメッセージを送りたいと思います。」
 カガリがギルバートに向けての声明を口にする。
「ロゴスのメンバー、ロード・ジブリールを我が国が匿ったために、あの戦闘が行われたものと、我々も重々承知しています。ですがあのような愚かしき返答や言動を行ったのは、一部の人間による独断だったことを、ここに弁明します。」
 カガリはユウナの暴走についても触れる。ユウナとウナトはオーブ軍の兵士に連行され、別々に独房へ入れられた。
「しかしこの事態を引き起こしたのは、我が国をまとめられず、オーブ軍やオーブの民を戦火にさらした私の責任。私の至らなさが招いたことです。この償いは必ず果たしますが、その上でデュランダル氏へ進言させていただきます。」
 カガリが自分の意思と責任を告げつつ、ギルバートに向けての声明を続ける。
「力や戦いによって、戦いを終わらせようとする氏の思想に、我々は賛同しかねます。強い力は争いを呼び、戦いによって勝ち取られた平和も新たな戦いを呼びます。過去の憎しみや悲しみに囚われることなく、対話を経て手を取り合わなければなりません。」
 オーブの中立としての理念を貫こうとするカガリ。迷いや揺らぎのない信念を示す彼女に、オーブ軍の兵士やオーブに住む人々は感嘆を感じていた。
「戦いのない平和。それは我々だけでなく、多くの者たちが願っているもの。その思いを忘れず言葉を交わせば、それが実現へと向かうのです・・それは彼女も同じです。」
 カガリが言いかけて、後ろに意識を傾けた。そこから姿を現したのは、同行していたラクスだった。
「私はラクス・クラインです。シーゲル・クラインの娘であり、先の大戦ではアークエンジェルと行動をともにしていました。そして今も・・」
 ラクスが微笑んで自己紹介をしていく。
「アスハ氏の申された通り、私も平和を望む1人です。ですが私は、デュランダル議長の言葉と行動を支持しておりません。」
 ラクスが自分の意思を告げた。
「戦う者は悪くない、戦わない者も悪くない、悪いのは全て戦わせようとする者。この議長の仰ることは正しいのでしょうか?それが真実なのでしょうか?ナチュラルでもない、コーディネイターでもない、悪いのは彼ら、世界、あなたではない誰か・・この議長の言葉の罠に、どうか陥らないでください。」
 世界に向けて自分の意思と注意を呼びかけるラクス。
「無論、私はジブリールを庇う者ではありません。ですが、デュランダル議長を信じる者でもありません・・我々はもっとよく知らねばなりません。デュランダル議長の真の目的を・・」
 ギルバートに対する非難と牽制を示したラクス。彼女の言葉に納得して、カガリも頷いていた。
 
 オーブに現れたラクスに、ギルバートは腑に落ちない気分を感じていた。
「まさかここでラクス・クラインが出てくるとは。しかしオーブの姫とともに現れ、私の非難をするとは・・」
 中継を終えたところで、ギルバートが1つ吐息をついた。
「いかがいたしますか、議長?・・ラクス・クラインはプラントでの支持率は高いです。彼女がオーブに賛同し、我々に反旗を翻すのでは・・」
 議員の1人がギルバートに不安を口にする。
「うろたえることはない。世界は真の平和を望んでいて、その敵であるロゴスに立ち向かう思いが増している。たとえ彼女が我々と違う意思を示したとしても、我々の目指す道が閉ざされることはない。」
 しかしギルバートは動揺を見せることもなく、自分の意思を貫こうとしていた。
 
 オーブにラクスも現れたことに、ルナマリアもメイリンも動揺を隠せなくなっていた。
「信じられない・・あのラクス・クラインがオーブにつくなんて・・!?」
 ルナマリアがラクスに対しても不信感を感じていく。
「ラクス・クライン。プラントの歌姫として慕われながら、自ら戦線の指揮をした人物ですね。」
 サラマンディーネが彼女たちに声を掛けて、ラクスのことを話す。
「オーブやアークエンジェル、フリーダムやアスランだけじゃなく、ラクス・クラインまで間違ったことを・・・!」
「オーブもアスランたちも道を誤ったのは確かだ。だがこれはおそらく、ラクスがヤツらを扇動していることが大きい。」
 ラクスにも憤りを感じていくシンに、レイが言いかける。
「連合軍にディメントにアークエンジェル、そしてラクス・クラインか・・戦うべき相手が多いな・・・」
「だが勝たなければならない。戦いのない世界にするため、そして世界を元に戻すために・・」
 ため息混じりに言う夕姫に、レイが強い意思を告げる。
「あなたたちと違って、私はそこまで大きな目撃じゃないわ・・ただ、身勝手な大人がゆるせないだけ・・あのラクスっていうのもその1人よ・・・」
 夕姫はラクスにも不信感を募らせていた。
 
 アンジュはエルシャとクリスに案内されて、廊下を進んでいた。
「あなたたちも、サリアのように助けられたの・・?」
「えぇ。私の場合、私というよりは年少組のみんなを助けてもらったのだけどね・・」
 アンジュが問いかけると、エルシャが自分たちの経緯について語り出す。
「アルゼナルが襲撃されたとき、子供たちも巻き込まれて命を落としたわ・・でも、エンブリヲさんが、みんなを生き返らせてくれたの・・」
「生き返らせた!?・・そんなこと、できるわけがないわ・・!」
 エルシャの話に耳を疑い、アンジュが声を荒げる。
「私もはじめは信じられなかったわ・・でも子供たちは本当に生き返って、いつものように笑ってくれた・・私は嬉しかった・・・」
「その恩返しのために、エンブリヲについたというの・・?」
 エンブリヲに感謝するエルシャに、アンジュは困惑を覚える。
「私は・・エンブリヲくんが、友達になってくれたから・・・」
 クリスも自分のことをアンジュに話し始めた。
「あのとき、海に落ちた私を助けてくれたのは、エンブリヲくんだった・・それからエンブリヲくんは私を招待して、私にたくさんプレゼントをくれた・・ずっと友達になってくれるって、約束してくれた・・・」
「でも、ヒルダもロザリーもみんな、あなたたちを捜していたのよ・・今だって・・・」
「もうあんなのは、友達じゃない・・・2人は・・私のことを見捨てたのよ・・・」
 アンジュがヒルダたちのことを伝えると、クリスが憤りを感じていく。
(この2人もサリアも、エンブリヲに助けられたから、お礼のつもりで従っている・・ただの変態ナルシストなのに・・・)
 エンブリヲと彼に心酔しているサリアたちに不満を覚えるアンジュ。しかし文句を言っても反発してくるのが分かっていたため、アンジュはあえて黙っていた。
「ところで、ラブと海潮は?2人もここに連れてきたのよね?」
 アンジュがラブたちのことを聞く。
「ラブちゃんは別の部屋よ。海潮ちゃんはある人物に預けたわ。」
 エルシャがアンジュに2人のことを説明する。
「イブキよ。」
「イブキ・・あの虚神会の・・!?」
 海潮の行方を聞いて、アンジュが目を見開く。彼女はイブキと和王のことを思い出した。
「着いたよ・・ここ・・」
 クリスがエルシャと共に突き当りの部屋の前で立ち止まった。エルシャがドアを上げて、アンジュを連れて部屋に入った。
「エンブリヲさん、お待たせしました。」
「ありがとう。彼女は私に任せてくれるかな。」
 エルシャが声を掛けて、エンブリヲが微笑んで答える。エルシャとクリスが退室して、部屋にはアンジュとエンブリヲだけとなった。
「久しぶりだね、アンジュ。やっと2人きりで会うことができたね。」
「こんな形で会いたくなんてなかったわよ・・アンタなんかと・・・」
 微笑みかけるエンブリヲに、アンジュが不快感を見せる。
「ラブはどうしたのよ?アンタと一緒にいるって聞いたけど・・」
「彼女は別の部屋に移したよ。君と会うまでの時間、戯れに付き合ってもらった。」
 アンジュがラブのことを聞いて、エンブリヲが悠然とした態度で答える。おかしなことをしたと予感して、アンジュが苛立ちを募らせる。
「それで、アンタは何を企んでいるわけ?サリアたちをそそのかして、私たちをここに連れてきて・・」
「そそのかしているというのは正しくないな。私が救いの手を差し伸べて、与えられるものを与えて、その結果、彼女たちが私に付き従っているに過ぎない。」
 問いかけるアンジュに、エンブリヲが態度を変えずに言い返す。
「私は世界の調整を行っている。いかに正しく素晴らしい世界にするか、試行錯誤を繰り返しながらね。」
「は?何を言っているのよ、あなた・・?」
「私は世界の多くを作り出してきた。アンジュ、君たちのいる、マナの使い手やノーマのいる世界もね。」
「とことんふざけたことを言うのね・・神様のつもりでいるの?」
「神様という表現は適切ではないな。調律者と呼んでくれたまえ。」
「調律者?」
 語りかけていくエンブリヲに対し、アンジュは不信感と不快感を募らせるばかりになっていた。
「私は本来の地球で、多元宇宙に干渉するドラグニウムを発見した。しかしそれが元で戦争と地球の壊滅が起こった・・」
 エンブリヲが自分の世界で起こったことを語っていく。
「この愚かしい世界を終わらせ、新たな世界の開拓のために開発したのが、“ラグナメイル”。サリアたちが今乗っているのもまたラグナメイルだ。そしてアンジュ、君が今乗っている“ビルキス”もだ。」
「ヴィルキスが!?・・あれはパラメイルじゃないの・・!?」
「パラメイルはラグナメイルのデッドコピーだ。おそらく、強奪したビルキスから基礎を組み込んだのだろう。さらにあのアウラの民の使う龍神器も、ラグナメイルを元に開発されている。」
「全ては、アンタとヴィルキス・・・!」
 エンブリヲの話を聞いて、アンジュが困惑を浮かべる。
「私はあらゆる世界、あらゆる地球を生み出してきた。しかしいずれも愚かな未来を辿っていく。人は自分以外の存在、自分と違うものに対する偏見や憎悪、差別を抱いていく・・」
 地球の人類の愚かさに対する嘆きと嘲りを口にするエンブリヲ。
「それを逆手に取ったこともあった。マナを持つ人類に、少数ながらも生まれるノーマを忌み嫌うように、差別の意識を強くした。これによりノーマの隔離と世界の成り立ちが大方うまくいった・・」
「まさか、アンタがノーマを憎むように仕組んだってわけ・・!?」
 エンブリヲが打ち明けたマナを持つ人類のからくりに、アンジュが驚愕する。世界の真実を知った彼女が、大きくため息をついた。
「前々からこんな世界をぶっ壊したいと考えるようになっていたけど、その気持ちが強くなったわ・・アンタがこねくり回してる世界なんて、遠慮なくぶっ潰してやるわよ!そしてノーマを解放し、私たちが世界を正す!」
「アハハハ・・すごいね、君は。凛々しく気高く、それでいて憎悪も激しい・・」
 敵意をむき出しにするアンジュに対し、エンブリヲは喜びの笑いを見せた。
「しかしノーマは本当に解放されたがっているのかな? 確かにマナを使えない彼女たちの居場所はなかった。だが代わりにドラゴンと戦う役割が与えられている。居場所や役割を与えられれば、それだけで人は満足し安心できるものだ。自分で考えて自分で生きる。それは人間にとって大変な苦痛だからね。」
「そうやって、私たちを家畜同然に支配しようっていうの!?もうウンザリなのよ!馬鹿げた身勝手に振り回されるのは!」
 世界の構成と役割について語るエンブリヲに、アンジュが憤りを募らせていく。
「なるほど・・君の気持ちがわかってきたよ・・」
 彼女の心境を察して、エンブリヲが納得するそぶりを見せる。
「君の破壊衝動は不安から来ているのだね。奪われ騙され、裏切られ続けてきた。どこへ行くのかもわからない。だから恐れて牙を剥く・・」
「な、何・・!?」
 近づいてくるエンブリヲを警戒するも、アンジュが違和感を覚える。
「私が解放してあげよう、その不安から・・愛情、安心、友情、信頼、居場所。望むものを何でも与えてあげよう・・」
 語りかけながらアンジュを見つめるエンブリヲ。後ずさりするアンジュだが、エンブリヲから目をそらせなくなる。
(どうなってるの!?・・・コイツから・・目を離せない・・・!?)
 エンブリヲに抵抗する意思を揺さぶられ、無意識に微笑みかけるアンジュ。
(金縛り!?・・催眠術・・・!?)
 思うように動けない理由が分からず、アンジュが困惑していく。
「だから全てを捨てて、私を受け入れたまえ・・身に着けているものも、全て・・」
 エンブリヲに言われるままに、アンジュが無意識に自分の服を脱ぎ始める。
「美しい・・この私も引き込まれてしまいそうだ・・・」
 エンブリヲが喜び、アンジュに意識を傾ける。彼の意思に突き動かされるように、アンジュは下着にも手を掛ける。
 だがそのとき、アンジュがその手を止めた。彼女はエンブリヲの思念に抵抗していた。
「強いな、君は。私に抗うなんて・・しかし、私に逆らう必要はないよ・・」
 エンブリヲがさらに思念を送り、アンジュが操られていく。彼女は下着も脱いで、一糸まとわぬ姿で立ち尽くした。
「いい子だ・・黄金の髪に炎の瞳、薄紅色の唇に、吸い付くような肌、張りのある豊かな胸と、桜色の乳房・・」
 エンブリヲが満足げに頷いて、アンジュを見つめ続ける。彼が彼女の体に触れて、感触を確かめていく。
「美しい・・・ヴィーナスやアフロディーテも、君には敵わない・・・」
 エンブリヲがアンジュの頬に手を掛けて、唇を奪おうとした。
(タスク・・・!)
 そのとき、アンジュの脳裏にタスクの姿が浮かんだ。その瞬間に彼女は我に返り、衣服と共に床に置いていた銃を足で跳ね上げて手にして、エンブリヲの体に突き付けた。
 エンブリヲが腹部を撃たれて倒れた。
「私の言葉が届かない・・・!?」
「何でも与えてあげる?生憎、与えられたもので満足できるほど、私は空っぽじゃないのよ!」
 驚愕を見せるエンブリヲに、怒りと共に弾丸をぶつけるアンジュ。エンブリヲが頭を撃ち抜かれて、血をあふれさせて動かなくなった。
「私が、このような辱めを受けるとは・・・!」
 頬を赤らめて恥辱を噛みしめるアンジュ。彼女は再び衣服を着て、落ち着きを取り戻す。
「ドラマティック!」
 そのとき、アンジュの耳に聞き覚えのある声と拍手の音が入ってきた。目を見開いたアンジュが振り向いた先に、死んだはずのエンブリヲがいた。
「い、今、死んだはずじゃ・・!?」
 驚愕するアンジュが、エンブリヲが倒れていた場所に視線を戻す。倒れていたはずのエンブリヲの姿は、そこからは消えていた。
「幻!?・・今のも催眠!?」
 アンジュが頭を大きく横に振って、催眠から目を覚まそうとした。しかし彼女の視界には、再び現れたエンブリヲの姿だけが映っていた。
「すばらしい!私にここまで逆らうとは!・・私は、君と出会うために生きてきたのかもしれない・・この1000年を・・!」
 アンジュの信念の強さに歓喜するエンブリヲ。彼の態度と不可思議な能力に、アンジュは警戒を強めるばかりだった。
 
 アンジュ、ラブと共にさらわれた海潮。彼女はミスルギ皇国の城の別の部屋で目を覚ました。
「こ・・ここは・・・?」
 海潮が起き上がって、周りを見回す。彼女が明かりを求めて、閉じられているカーテンを開けた。
 差し込んできた日差しで思わず目を閉じた海潮。彼女が光に慣れて、ゆっくりと目を開けていく。
 その先にいたのはイブキ。海潮がイブキを目の当たりにして、動揺を覚える。
「あれは、イブキ・・・藤原さん・・・!」
 目を見開く海潮の前にいるイブキの顔に、和王の目が現れた。その目は以前と比べて弱々しくなっていた。
「なんて姿に・・・!?」
「海潮ちゃん・・力を貸してほしい・・・」
 困惑する海潮に、和王が声を掛けてきた。2人のそばには芳幸たちが待機していた。
 
 
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