スーパーロボット大戦CROSS
第48話「金剛の薔薇」

 

 

 デスティニーの前に現れたジャスティス。フリーダムの救援に来たと思い、シンたちが
「シン、やめろ・・自分が今、何を討とうとしているのか、お前本当に分かってるのか!?」
 ジャスティスからシンに向けて声がかけられた。ジャスティスに乗っていたのは、セイバーを撃墜されてクロスから離れていたアスランだった。
「その機体・・今の声・・・アスランなのか・・・!?」
 シンが声を振り絞って、アスランに向けて言いかける。
「戦争をなくす、そのためにロゴスを討つ、ロゴスを庇おうとするオーブを討つ・・それが本当に、お前が望んだことなのか!?」
「な、何を・・・!?」
「引かぬから討つしかないと、あの国に刃を向けることが、お前の望みなのか!?」
 動揺するシンに、アスランが問い詰める。しかし彼のこの言葉に、シンが感情をあらわにする。
「オーブは連合の味方をして、綺麗事ばかり並べて戦いを起こしている・・今もロゴスを守って、自分たちのことしか考えてない・・アイツらがそういう態度なら、オレたちはオーブも討つ!」
「シン、お前・・・!」
「アスラン、あなたが生きていたのは嬉しい・・だけど、ザフトだったあなたが、どうしてオレたちの邪魔をして、オーブやジブリールを守ろうとするんだ!?」
「違う!オレが守りたいのはオーブだ!ロゴスを庇おうとしたのは、一部の人間による自己満足に過ぎない!」
「それを見逃してきたくせに、オーブ自体は悪くないと言い張る・・オーブもみんな、身勝手でいい加減だ!」
 呼びかけるアスランにシンが怒りの声を上げる。デスティニーがジャスティスに対し、アロンダイトを構える。
「たとえあなたでも、オーブを守ろうとするなら、オレは許さないぞ!」
 シンが言い放ち、デスティニーがジャスティスに飛びかかり、アロンダイトを振りかざす。ジャスティスが加速して、デスティニーの攻撃をかわす。
「よせ、シン!オーブを討ってはダメだ!」
「アンタも、そんな勝手なことを言うヤツになっちまったのかよ!」
 呼びかけるアスランに、シンがさらに怒鳴る。ジャスティスが背部に搭載されているリフター「ファトゥム01」にあるビーム砲を発射するが、デスティニーは残像を伴った高速でかわす。
 ジャスティスが2本のビームサーベルを手にして、デスティニーに向かっていく。デスティニーが振り下ろしたアロンダイトをかわして、ジャスティスがビームサーベルを振りかざす。
 ビームサーベルがアロンダイトと当たり、ジャスティスとデスティニーが力比べを演じる。デスティニーが力を込めて、ジャスティスを突き飛ばす。
「オレはもう弱くない・・戦いを終わらせるだけの力が、今のオレにはある!」
「その力でオーブを滅ぼそうというのか、お前は!?」
 自分の力に対する自信を口にするシンに、アスランが激情を募らせる。
「思い出せシン!お前は本当は、何がほしかったんだ!?」
「力だ!戦いを終わらせる力、大切なものを守れる力を!」
 さらに問い詰めるアスランに、シンが言い返す。
「力がないのが悔しかった・・家族が殺されたのに、戦争だけじゃなく、何もできなかった自分も許せなかった・・でも今は違う!無力なオレとは違う!」
「シン・・昔の自分の無力を呪って・・・!」
 自分のことを口にするシンに、アスランが戸惑いを覚える。
「オレは強くなった・・まだまだできないこともあるけど、オレの手で戦いを終わらせることができる!前のフリーダムにも勝てたんだ!」
「溺れるな!力の使い方を間違えるな!」
 自信を強めるシンに、アスランが呼びかける。デスティニーとジャスティスがビームブーメランを投げつける。
 ジャスティスのビームブーメランが、デスティニーのビームブーメランの1本を破壊した。しかしもう1本はジャスティスに向かって飛んでいく。
 デスティニーとジャスティスがビームシールドを発して、互いのビームブーメランを防いで弾いた。
「力に溺れてしまえば、守りたいと思うものさえも傷つけてしまう!」
 アスランがさらに呼びかけて、シンが憤りを募らせていく。
「オレたちを裏切って世界の敵に回ったアンタが、それを言えるのかよ!」
 シンが言い返し、デスティニーがアロンダイトを振りかざす。アスランが冷静に判断し、ジャスティスがデスティニーの一閃をかわしていく。
「見ちゃいられないね・・私があっちに行くから、サラ子たちはフリーダムを押さえといて!」
 シンを見かねたアンジュが、サラマンディーネに呼びかける。アンジュがデスティニーとジャスティスの戦いに向かっていく。
「アスラン!」
 キラがアスランを援護しようとするが、フリーダムの前に焔龍號、レジェンド、ダイミダラーが立ちふさがる。
「あなたの相手は私たちですよ。」
「今度こそケリをつけてやるぜ!」
 サラマンディーネと孝一がキラに向けて言い放つ。
「どうしてそこまで、戦おうとするんだ!?・・どうしてオーブを傷つけるんだ!?」
「あなたは状況が分かっていないのですか?ジブリールはコーディネイターを滅ぼそうと企み、オーブは彼を匿っているのです。あなたは守ると言いながら、世界を滅ぼす人間まで守るつもりですか?」
 不満を口にするキラを、サラマンディーネが問い詰める。
「でもだからって、オーブが焼かれていいことにはならない・・!」
「オーブさえ守れれば、他の国はどうなってもいいの!?」
 言い返すキラに、恭子も問い詰めていく。
「それでも僕は、オーブを守る・・みんなを守る・・!」
 キラが自分の意思を貫こうとして、フリーダムがビームサーベルを手にして構える。
「とことんふざけてやがる・・コイツ、人の話をまるで聞きゃしねぇ・・!」
 孝一がキラの態度に呆れてため息をつく。
「話をする必要はない。フリーダム、キラ・ヤマトはオレたちの敵に回り、今はジブリールとオーブを守ろうとしている。アスランと共に・・」
 レイが冷徹に告げて、キラだけでなくアスランも敵視する。
「問答無用の相手なら、こっちも遠慮する必要はないな!」
「孝一くんはいつも遠慮していないじゃない・・」
 言い放つ孝一に、恭子がツッコミを入れた。
「レイと言いましたね?射撃でけん制してください。私と孝一で接近して、フリーダムの動きを止めます。」
「了解した。的確な判断だ。」
 サラマンディーネが指示を出し、レイが頷いた。
「さっさととっ捕まえて、たっぷり反省させてやるぜー!」
 孝一が言い放ち、ダイミダラーがフリーダムに向かっていく。焔龍號も続いて、レジェンドがビームライフルを手にして、ドラグーンと同時にビームを発射する。
 キラが反応し、フリーダムがビームをかいくぐる。焔龍號が飛びかかり天雷を振りかざすが、フリーダムが2本のビームサーベルを交差して受け止めた。
 そこへダイミダラーが突っ込み、ハイエロ粒子を集めた右手を出した。キラが即座に判断し、フリーダムがわざと焔龍號に突き飛ばされて、ダイミダラーの攻撃を回避した。
「すばしっこいヤツだぜ、まったく・・!」
「さすが先の大戦の英雄の1人ですわね・・!」
 孝一とサラマンディーネがフリーダムに毒づく。
「けどな、いつまでもアイツの好き勝手にさせてたまっかよ!」
 孝一がいきり立ち、ダイミダラーがフリーダムに向かっていった。
 
 感情的になるあまりに冷静さを欠いていたシン。ジャスティスに対して攻め切れずにいるデスティニーに、ヴィルキスが合流してきた。
「何をやってるの!?いつまでも時間をかけている場合じゃないのは、シンも分かっているんでしょ!?」
「分かっている!だけどいきなり出てきて、いきなりオーブを守ってオレたちの敵に回って・・!」
 アンジュが怒鳴り、シンが声を荒げる。
「今敵になっているなら、私たちの敵よ!私たちの邪魔をする敵!」
「あぁ・・アイツはオレたちを裏切って、フリーダムの味方についた・・!」
 言い放つアンジュに答えて、シンが迷いを振り切ろうとする。
「アンジュ、君もオーブを討つために戦おうというのか・・!?」
 アスランがアンジュに対しても憤りを感じていく。
「あなたも勘違いしているわね・・私たちがオーブの敵になったんじゃない。オーブが私たちの敵に回ったのよ・・そして裏切ったあなたもね・・!」
 アンジュがアスランにため息混じりに言い返す。
「私たちは世界を正す・・こんなムチャクチャな世界は、もうウンザリだからね!」
「そのためにオーブに犠牲になれというのか、お前たちは!?」
 不満をぶつけるアンジュにも、アスランが怒りをあらわにする。彼の中で何かが弾け、五感が研ぎ澄まされる。
 デスティニーとジャスティスが同時に加速して、アロンダイトとビームサーベルをぶつけ合う。デスティニーの力にジャスティスが押されていく。
 アスランがとっさに判断し、ジャスティスがビームブレイドを発した右足を振りかざしてきた。だがヴィルキスが飛び込んで突き出したラツィーエルに、ブームブレイドが止められた。
 デスティニーとヴィルキスに押されて、ジャスティスが突き飛ばされた。
「時間がないから、ここはスピードでやらせてもらうわよ・・!」
 アンジュが念じた指輪が青く光ると、ヴィルキスがアリエルモードとなった。
「これは・・!?」
 ヴィルキスの変化にアスランが驚く。彼はヴィルキスが開放した新たな力を初めて目の当たりにした。
 ヴィルキスが高速で動き、ジャスティスに詰め寄る。ジャスティスがビームシールドを展開して、ヴィルキスが振りかざしたラツィーエルを防いだ。
「速い・・このままだと・・・!」
 デスティニーとヴィルキス、2機の強力な機体を相手にして、アスランが焦りを噛みしめる。
「終わりよ、アスラン!」
 アンジュが言い放ち、ヴィルキスがジャスティスに向かっていく。
 そのとき、空からビームが飛び込み、デスティニーたちが回避する。
「何だ!?また新手か!?」
 シンが声を荒げて、アンジュと共に視線を移す。デスティニーたちの前にアンチェーンが現れた。
「アンタは、ディメントの・・!」
 アンジュがアンチェーンを見て声を荒げる。
「クロス、そしてザフト、そしてクライン派の者よ、お前たちは全員滅ぼす。」
 ヘクトがシンたちに告げて、アンチェーンがビームサーベルを手にした。
「やめろ!お前もオーブを手に掛けるつもりか!?」
「我々は我々の目的のために行動している。オーブもプラントも他の国や組織も、邪魔者は敵として排除する。」
 アスランが呼び止めるが、ヘクトは自分の考えを貫く。
「お前たちも、我々にとって大きな障害となる・・」
「アンタも好き勝手に出てきて、私たちの邪魔をしてくるってわけね・・だったらアンタたちにも容赦しないわ!」
 敵意を向けるヘクトに、アンジュが不満を込めて言い放つ。ヴィルキスがアサルトライフルを発射するが、アンチェーンは素早くかわした。
「次から次へと、オレたちの邪魔をしてくる・・・!」
 ジブリール確保を妨害されて、シンは苛立ちを募らせていった。
 
 エアバイクで合流したサリアが、飛行艇に入ってラブと海潮に支えられていた。
「大丈夫ですか、サリアさん!?」
「えぇ・・ありがとう、ラブ・・」
 ラブが心配の声を掛けて、サリアがお礼を言う。
「サリアさん、あなたは疲れています!医務室まで付き添いますので、そこで休んでください!」
 海潮がサリアを連れて行こうとした。
「いえ・・私には、やるべきことがあるのよ・・・」
 サリアが低い声で言い返した。
 その直後、サリアが突然ラブの体に肘打ちを叩き込んだ。
「うっ・・!」
 強い激痛に襲われて、ラブが意識を失って倒れた。
「ラブ!?サリアさん、何を・・!?」
 海潮が驚愕して、サリアに問い詰める。次の瞬間、サリアが手にした小さなビンから海潮に向けてガスを吹きかけた。
「ど、どうして、こんなこと・・・」
 催眠ガスをかけられて、海潮も倒れた。
「海潮!ラブ!」
「あなた、海潮たちに何をするの!?」
 夕姫と魅波が来て、サリアに向かって叫ぶ。
「2人を連れていくのが、私たちの任務よ。」
 サリアが答えると、銃を取り出して魅波たちに銃口を向けた。
「危ない!」
 ジョエルが飛び込んで夕姫を守り、魅波と共にサリアの射撃をよけた。
「大丈夫、夕姫!?」
「え、えぇ、平気よ・・!」
 ジョエルが心配して、夕姫が戸惑いながら答える。
「2人は連れていくわ・・!」
 サリアがラブと海潮を抱えて、エアバイクに乗せた。
「待ちなさい!2人を放しなさい!」
 魅波がラブたちを助けようとするが、サリアが続けて発砲して接近を阻まれる。その間にサリアがエアバイクを動かして、壁を破って飛行艇から飛び出した。
「まさかサリア、私たちを裏切ったの・・!?」
 起き上がった夕姫が、サリアへの疑念を抱く。
「ジャスミンさん、サリアさんが海潮たちを連れ去りました!」
「何だって!?」
 魅波がアウローラに向けて通信を送り、ジャスミンが声を荒げる。
「早くサリアを止めて!海潮たちを取り戻して!」
 魅波が声を張り上げて、サリアの追跡を求める。
 そのとき、アウローラも突然大きな揺れに襲われた。
「どうしたのよ!?」
「ドック下部を破られました!侵入者です!」
 マギーが声を荒げて、パメラが報告する。
「状況を詳しく報告するんじゃ!」
「侵入者は2人・・あれは・・!?」
 ジャスミンが呼びかけて、パメラがモニターを注視する。
「ターニャとイルマです!」
「何っ!?」
 パメラの報告を聞いて、マギーが驚愕する。モニターに映っていたのは、サリアと同じく行方不明になっていたターニャとイルマだった。
 
 アウローラに侵入したターニャとイルマ。2人の前に数人とノーマたちとモモカが出てきた。
「見つけたよ・・!」
 ターニャがモモカに目をつけて、銃を構えて発砲した。
「うわあっ!」
「マナの光よ!」
 ノーマたちが慌てて横によけて、モモカがマナの光を発して射撃を防ぐ。そこへイルマが飛び込み、マナの光に触れて破壊した。
 直後にモモカがイルマの手刀で首の後ろを叩かれて気絶した。
「これで全員だね・・!」
「あぁ・・すぐに引き上げるよ!」
 イルマとターニャが声を掛け合い、モモカを連れて引き返した。
「待ちなさい、2人とも!」
 ノーマたちが呼び止めるが、ターニャたちは立ち止まることはなかった。
 
「あれは、サリア!?」
 エアバイクで飛行艇から脱出したサリアを、ヒルダが目撃した。
「こっちは回収したわ。そっちは?」
“こっちもメイドを回収したわ、隊長。撤退します。”
 サリアが通信で呼びかけて、ターニャが答える。
「よし。クレオパトラ、来なさい。」
 サリアが身に着けている指輪に念じるように呼びかける。彼女の下に1機の青い機体が現れた。
 サリアはラブたちを連れて、エアバイクから青い機体「クレオパトラ」に乗り込んだ。
「みんな、次の作戦に行くわよ!」
 サリアが指示を出して、クレオパトラが移動する。続いて同型の4機の機体も姿を現した。
「また別の部隊が出てきたぞ!」
 隼人が機体を見て声を荒げる。
「あの1つに、サリアが乗り込んだぞ・・!」
「何だって!?」
 ヒルダがサリアのことを口にして、ロザリーが驚く。
 クレオパトラたちが交戦をしているヴィルキスたちの前に来た。
「今度は何者よ!?正体を言いなさい!」
「相変わらずの態度ね、アンジュ。」
 問いかけるアンジュにサリアが言い返す。
「その声・・サリアなの!?」
「無事だったのか!?・・だけど、何なんだ、その機体は・・!?」
 アンジュとシンがサリアに対して驚きの声を上げる。
「サリアちゃんだけじゃないわ。」
「私たちもいるよ・・」
 オレンジの機体「レイジア」と黄緑の機体「テオドーラ」から声がしたのは、エルシャとクリスだった。
「エルシャー♪エルシャも無事だったんだねー♪」
「クリス・・おめぇも生きてたんだな!」
 ヴィヴィアンが喜び、ロザリーが笑みをこぼした。するとクリスが彼女たちに冷めた視線を向けてきた。
「相変わらず調子がいいね、ロザリー・・でもあなたたちのそういう態度には、もうウンザリなの・・・」
「クリス、どうしたんだ?あたしたちに加勢しにきたんだろ?」
 クリスが投げかけた言葉に、ロザリーが耳を疑う。するとテオドーラがビームライフルを手にして、グレイブに向けて発射してきた。
 ロザリーが目を見開き、グレイブがビームを回避した。
「何をするんだ、クリス!?相手が違うだろ!」
「違わない・・私の相手は、お前たちよ・・・!」
 不満の声を上げるロザリーに、クリスが敵意を向ける。テオドーラがさらにビームを放ち、グレイブが後ろに下がってかわしていく。
「いい加減にしなよ、クリス!マジであたしらを敵に回すつもりか!?」
 ヒルダがクリスに怒りをあらわにして、アーキバスがアサルトライフルの銃口をテオドーラに向ける。
「冗談じゃねぇ!あたしたち、仲間だったじゃねぇかよ!」
「仲間?よくもぬけぬけと・・あのとき、私を見捨てたくせに・・・」
 ロザリーも呼びかけるが、クリスが彼女たちに不満をぶつける。
「あのとき、落とされた私を助けてくれなかった・・仲間だっていうなら、助けてくれるものでしょう・・・?」
「あれは・・助けたかったけど助けられなかったんだ!」
 問い詰めてくるクリスに、ロザリーが悲痛さを込めて言い返す。
「そんな言い訳して・・それで私が納得すると思っているの・・・?」
 クリスがため息混じりに言って、アーキバスにビームライフルを向けた。
「そこまでよ、クリスちゃん。今はみんなの相手をしているときじゃないわ。」
 するとエルシャが呼びかけてきた。なだめられたクリスが落ち着きを取り戻す。
「私たちのもう1つの目的は・・」
 サリアも言いかけて、ヴィルキスに目を向けた。
「アンジュ、私たちと一緒に来てもらうわよ。あなたに会いたいという人がいるの。」
「いきなり現れて、いきなり何を言い出すかと思えば・・あなたたちも、私たちの敵になったようね・・」
 サリアが呼びかけると、アンジュが不満を感じてため息をつく。
「お断りよ。私が上から目線で言われて、言うことを聞くわけないじゃない・・」
「でもあなたは言うことを聞くしかないわ。」
 拒否するアンジュに、黄色の機体「エイレーネ」に乗るイルマが言い返す。
「こっちには人質がいるんだ。従わないとこのメイドがどうなっても知らないよ。」
 ピンクのVラインの入った機体「ビクトリア」に乗っているターニャが、モモカを人質に取った。
「あの人たち、モモカさんを人質に取ったっていうの!?」
「卑怯なマネをしやがって・・!」
 恭子と孝一がサリアたちのやり方に憤りを覚える。
「さぁ、早く来るのよ。それとも彼女がどうなってもいいの?」
「えぇ。別に構わないわ。」
 サリアからの忠告を、アンジュが冷淡にはねつける。
「モモカが覚悟を決めていることを、私は知っている。私のために命を賭けるって。だからそういう姑息なマネをしても、私には通じないわよ。」
 人質を取られても全く動じず考えを変えないアンジュ。彼女の態度にサリアがため息をついた。
「あなたならそういうと思っていたわ・・だったら・・」
 サリアが言いかけた直後、クレオパトラ、ビクトリア、エイレーネがワイヤーを伸ばして、ヴィルキスの両腕と右足に巻き付けた。
「力ずくで連れていくだけよ・・」
 サリアが低く告げると、クレオパトラたちがワイヤーを通じて電気ショックを放った。
「うあっ!」
「アンジュ!」
 電撃で悲鳴を上げるアンジュに、シンが叫ぶ。
「やめろ!」
 シンの駆るデスティニーがヴィルキスの援護に向かうが、アンチェーンに行く手を阻まれる。
「お前の相手はオレだ、ザフトのエース。」
「どけ!」
 低い声で告げるヘクトに、シンが言い放つ。
 デスティニーがアロンダイトを振り下ろし、アンチェーンが回避する。デスティニーが即座に振りかざして、アンチェーンの右足を切り裂いた。
「何っ!?」
 アンチェーンが攻撃を当てられて、ヘクトが驚愕を覚える。
「ア、アンジュが・・!」
 タスクがヴィルキスを見つけて困惑する。アンジュが意識を失い、ヴィルキスがクレオパトラたちに連れていかれる。
「くそっ!アンジュや海潮たちがさらわれるなんて・・!」
 ラブ、海潮、アンジュを救えず、シンが悔しさを覚えて、コックピットに拳を打ち付ける。
「どうしてこんなに、戦火が広がっていくんだ・・・!?」
 混迷の広がる戦況に、キラが辛さを募らせる。
「その戦火を広げている1人がおめぇだって、まだ分かってねぇのかよ・・!」
 孝一が言い返し、ダイミダラーがハイエロ粒子を左手に集めていく。
「くらえ、指ビーム!」
 ダイミダラーが指ビームを放ち、フリーダムが加速してかわす。直後にフリーダムが全ての銃砲を展開して、ダイミダラー、レジェンド、焔龍號目がけて一斉にビームを発射した。
 ダイミダラーが左手から指バリアを展開して、フリーダムのビームを防いだ。
「くそっ!なんて威力だ!」
 ビームを防ぎ切るも、孝一がフリーダムの攻撃力に毒づく。
「アンジュ・・・!」
 アンジュの身を案じて、サラマンディーネが深刻さを感じていた。
 
 クロスとオーブ、ヘクトとサリアたちの攻防をジブリールも見ていた。シャトルに乗っていた彼らは、脱出の好機を狙っていた。
「ザフトもオーブを相手に全力を出している・・今だ!全速力で宇宙へ上がれ!」
「我らはジブリール様を護衛した後、ザフトを食い止めます!」
 ジブリールが呼びかけて、ウィンダムに乗っている護衛のパイロットが答える。天井が開放されて、シャトルが浮上、発進した。
 
 ジブリールの乗ったシャトルの発進を、ミネルバのレーダーが捉えていた。
「オーブ本島より発進したシャトルあり!上昇しています!」
「何だと!?」
 メイリンが報告して、アーサーが声を荒げる。
「ルナマリア発進!今上がったシャトルを止めて!」
 タリアがドックにあるコアスプレンダーにて待機していたルナマリアに呼びかける。
「ジブリールの逃亡機の可能性が高いわ!最悪の場合は撃墜も許可します!」
「はいっ!」
 タリアからの指示にルナマリアが答える。コアスプレンダーが発進体勢に入る。
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、いくわよ!」
 ルナマリアの駆るコアスプレンダーが、ミネルバから発進した。彼女の後を追うように、ムラサメ数機も上昇していく。
(コアスプレンダーだけじゃ追いつけない・・・!)
 ルナマリアが毒づく、コアスプレンダーが続けてミネルバから射出されたチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットと合体して、フォースインパルスとなった。
 コアスプレンダーを1度追い抜いていたムラサメたちが、シャトルに向けてビームを放つ。インパルスもムラサメたちを抜き返して、ビームライフルを手にして発射する。
「ジブリール様!」
 ジブリールの護衛をしていたウィンダム3機が、インパルスとムラサメたちの前に立ちはだかった。
「手出しはさせんぞ、お前たち!」
 パイロットが言い放ち、ウィンダム2機がインパルスの腕を押さえる。
「ちょっと!邪魔しないで!」
 ルナマリアが怒鳴り、インパルスがウィンダムを振り払う。そのウィンダムの1機がムラサメたちが放ったビームに撃たれて落下する。
 インパルスがシャトルを狙い、ビームライフルを撃つ。操縦士が必死に動かして、シャトルがビームを紙一重でかわす。
 ルナマリアが集中力を高めて、インパルスがビームライフルを発射した。ビームはシャトルに向かって真っ直ぐ飛んでいた。
「ジブリール様!」
 そこへウィンダムの1機が割って入り、シャトルを庇ってビームに撃たれた。
 直後に残り1機のウィンダムがインパルスに後ろから組み付いて、動きを止めようとする。
「どうしても止めようっていうの!?絶対に逃がさない!」
 ルナマリアが怒りを募らせ、インパルスがビームライフルをウィンダムに突きつけて発射した。ウィンダムがビームに貫かれて、インパルスから離れて落下した。
 ウィンダムが食い止めている間に、ジブリールを乗せたシャトルは加速して、インパルスとムラサメたちを振り切って宇宙へ上がってしまった。消えていくその機影を見て、ルナマリアは愕然となった。
 
 シャトルが撃墜されずに逃走したのを、タリアたちもモニターで確認していた。深刻さを募らせながらも、タリアは冷静になろうとした。
「信号弾、撃て!クロスは一時撤退する!」
「艦長!?」
 タリアが下した指示に、アーサーが驚く。
「艦長、アンジュさんたちはどうするんですか!?オーブやアークエンジェルもまだ・・!」
「私たちの1番の目的はジブリールの確保よ。それが果たせず、アンジュさんたちの行方も分からないの状況では、オーブと戦っている時間はないわ・・・!」
 動揺するアーサーに、タリアが現状を伝える。
「魅波さん、ジャスミンさん、よろしいですね?」
「構わないけど、早く海潮の居場所を見つけて・・!」
「しょうがないね・・了解だよ。」
 タリアが通信で呼びかけて、魅波とジャスミンが聞き入れた。
「メイリン、信号弾発射よ!」
「はい!」
 タリアが呼びかけて、メイリンが答える。ミネルバから信号弾を発射して、カナタたちに撤退を知らせた。
 
 ミネルバからの信号弾を、オーブ行政府に乗り込んだカナタも目撃していた。
「グラディス艦長、オーブの代表やオーブ軍はどうするんですか・・・?」
 カナタが通信機でミネルバに向けて呼びかけた。
“今は相手をしている場合じゃないわ。ラブさんたちを救い出さなければ・・”
「ラブが、さらわれた!?」
 タリアから事情を聴いて、カナタが血相を変える。
「分かりました・・すぐに戻ります・・・!」
 カナタが低い声で答えて、タリアとの通信を終える。彼はカガリたちに目を向けてから、外に向かって走り出した。
「引き上げるならば追撃は不要だ。今は市民の救助を最優先にしろ。」
「了解。」
 カガリが指示を出し、兵士が答える。オーブ軍は人々の救出に全力を注いだ。
 
 カナタたちがオーブから離れていくのを、キラたちは追わずに見送った。
 アスランもシンたちと和解することができず、深刻な面持ちを浮かべていた。
 
 
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