スーパーロボット大戦CROSS
第46話「野心の暴走」
カナタたちとともに空間を超えてきたサラマンディーネたち。彼女たちはタリア、ジル、魅波と話し合いをすることになった。 サラマンディーネは自分たちやドラゴンたちが別世界の地球の出身であり、捕らわれているアウラを救うために戦っていることを打ち明けた。「あのドラゴンが、元々はあなたたちの世界の人間だとは・・・」 タリアがサラマンディーネの話を素直に聞き入れることができないでいた。「でもドラゴンが人間だったことは、私たちも知ったから・・・」 魅波が海潮たちからヴィヴィアンがドラゴンになったと聞かされたことを思い出す。「これは事実です。そしてこの世界でもそのことを知っている人もいた・・あなたもその1人ではないですか?」 サラマンディーネが話を続けて、ジルに目を向けた。「あぁ。私とジャスミン、マギーは知っていた。そしてドラゴンだったときの記憶を失ったヴィヴィアンを、我々はメイルライダーとして利用した。」 ジルが淡々とドラゴンのこと、ヴィヴィアンのことを語っていく。「ドラゴンの・・いえ、アウラの民と同士討ちをさせたのと同じじゃない・・・!」「利用できるものは徹底的に利用する。それが勝利の鉄則だ。」 魅波が不信感を浮かべるが、ジルは冷徹に言い返すだけである。「あなた方アウラの民は、アンジュさんのいた世界に捕らわれているアウラを救出するため、ドラゴンの兵士を伴って潜入。しかしアルゼナルの部隊との交戦が繰り返され、アウラを救出できず、互いに消耗していった・・」「そういうことになります。しかしあなた方の目的も、エンブリヲの打倒にあります。ならばここは、互いに手を取り合うのが最善手だと思うのですが?」 タリアが情報を整理して、サラマンディーネが頷いて、ジルに答えを求める。「確かにその通りだ。あの男、エンブリヲを倒すのが、リベルタス完遂の大きなカギとなる。」 ジルが納得して笑みをこぼした。「ならば力を貸してもらおう。ただし、私の提案したプランに従ってもらう。」「プラン?何を考えているの?」 サラマンディーネたちに条件を突きつけるジルに、魅波が疑問を投げかける。「アウラの姫よ、お前は仲間と共に敵の本拠地に特攻する。消耗したところで我々が突撃し、エンブリヲを叩く。」「待て!それでは我々が囮になれというのか!?」 ジルが口にした作戦に対して、ナーガが不満の声を上げる。「我々と敵が潰し合っているのを利用して、貴様は目的を果たそうとでも言うつもりか!?」「そうだ。お前たちも我々のために使わせてもらうのだ。」 ナーガも不信感を示し、ジルは悪びれる様子もなく答える。「ジル司令、私はそのやり方には反対です。部下や仲間、協力者をそのように扱うなど・・」 タリアがジルのこのやり方に反論してきた。「我々には、エンブリヲ打倒という果たすべき使命がある。そのためにはあらゆるものを利用する。利用できるものは全て。」「私も協力できないわ!私たちまであなたに使われるようなこと、納得できない!」 目的のために手段を選ばないジルに、魅波も反対してきた。「オレたちも賛成できないよ、アレクトラ!」 タスクがアンジュ、シンと共に来て、ジルに声を掛けてきた。「タスク、アンジュ、お前たちも私に従わず、ドラゴンたちに味方する気か?」「みんなを道具のように考えているアンタより、サラ子のほうが信用できるわね、今は・・」 目つきを鋭くするジルに、アンジュが言い返す。アンジュも今のジルの考え方に対して、不満を募らせていた。「ドラゴンの世界に行って、ヤツらに懐柔されたか?それとも腑抜けになったか?」「そんなんじゃないわ。ただ真実と、誰を倒せばいいか分かっただけよ。」 あざ笑うジルに、アンジュが不快に感じながら言い返す。するとジルが呆れてため息をつく。「やはり、あのときお前たちと別れるのは正解だったようだ・・」 アンジュやタスクさえも反旗を翻したことに、ジルが呆れ果てる。「だがお前たちは私に従うしかない。」 ジルが持っていた装置を取り出してスイッチを入れた。シンたちの前に2つの映像が現れた。「あれは!?」 シンが映像を目の当たりにして驚愕する。それぞれ映っていたのは、縛られているステラとモモカだった。「ステラ!」「モモカ!?」 シンとアンジュがステラたちに向かって叫ぶ。「どういうつもりだ、アレクトラ!?まさか2人を人質に取ったのか!?」 タスクが感情をあらわにして、ジルに問い詰める。「あの侍女はアンジュたちが合流してくるときに拘束した。お前の仲間はヒカルとオリビエが連れてきた。」 ジルは不敵な笑みを見せて答える。「モモカさんたちを人質にして、私たちを従わせようというつもりですか!?」「利用できるものは全て利用する。人質や騙し討ち、使える手も全て使うまでだ。」 タリアも叱責するが、ジルは態度も考えも変えない。「2人を放せ!ステラたちに手を出すなんて!」 シンが怒りを覚えて、銃を手にしてジルに銃口を向けた。「私に従わなければ、2人のいる部屋を一酸化ガスで充満させる。心を寄せている人間を見捨てられないことは分かっているぞ。」 ジルが脅しをかけて、シンが射撃を躊躇する。「アンジュ、タスク、私に従え!グラディス艦長もバロウもだ!」「アンタ・・どこまでも勝手なことを・・アンタは指揮官どころか、人としても見損なったわ・・・!」 無理やり従わせようとするジルに、アンジュが失望する。「何とでも言え・・私には必要なのだ。お前とヴィルキス、そしてお前たちの力がな。」 ジルは態度を変えず、服従を要求する。彼女は自らの目的を果たす野心に、完全に突き動かされていた。「さぁ、どうする?アンジュ、タスク、グラディス艦長、島原魅波・・」 ジルに問い詰められて、タリアたちが押し黙る。彼女たちが答えを出さないことにしびれを切らして、ジルが装置に手を伸ばした。「やめろ!」 シンがたまらずジルに向けて発砲した。ジルが義手の右手をかざして弾を止めて、その手でシンの腕をつかんで銃を落とさせた。「お前とは違う。戦いの経験も、殺しの数もな。」「シン!」 不敵な笑みを見せるジルと、シンの危機に叫ぶタリア。ジルの右手に首を締め上げられて、シンがうめく。「くそっ・・!」 シンが脱しようと右足を振り上げたときだった。 1発の射撃がジルの背中に当たった。ジルが意識を揺さぶられて、シンの膝蹴りを体に受けて倒れた。「ど、どうしたんだ・・!?」「オレだけじゃない・・今、誰かが撃ったぞ・・!」 うつ伏せになっているジルを見下ろして、タスクとシンが驚きの声を上げる。「まさかこのようなことになっていたとはね・・」 シンたちの前に現れたのは、恭子だった。駆けつけた彼女が麻酔銃を発射して、ジルの体の自由を封じたのである。「恭子さん!あなた、意識が戻ったのね!」「ご心配をおかけしました。療養とリハビリを経て、こちらに戻ってきました。」 タリアが喜び、恭子が挨拶して頭を下げた。「状況も聞いています。孝一くん、生きていたのですね。」「えぇ。しかし、霧子さんは倒れて、眠りについています・・」 霧子が孝一の無事を喜ぶが、タリアと共に霧子のことを考えて、表情を曇らせる。「くっ・・まさか、このような不意打ちを食らうことになるとは・・・!」 ジルが顔を上げて声を振り絞る。体が麻痺しているため、彼女は立ち上がることもできない。「普通だったら気絶しているはずの麻酔ですよ。それなのに気を失わないでいるなんて・・」 彼女の精神力に恭子が驚かされる。「あなたを拘束させてもらいます。シン、レイたちに連絡して2人の救出を。」 タリアがジルを縛ってから、シンに指示を送る。「はい・・!」 シンが答えて、部屋からレイたちに連絡を取った。「もうアンタは終わりよ、ジル・・アンタは自分の目的のために、みんなを裏切ったんだから・・」 アンジュがジルに軽蔑の視線を向ける。「アンジュ・・いや、皇女アンジュリーゼ、お前なら分かるはずだ・・世界に全てを奪われ、地の底に叩き落とされたお前なら・・私の怒りが!」 ジルが声を振り絞り、アンジュに賛同を求める。「分かりたくもないわ・・アンタの勝手なやり方も考え方も・・・」 しかしアンジュは冷淡にジルの要求を拒絶する。「誰かに自分を託すなんて、からっぽなのね、あなたは・・何が正しいなんて、私には分からない。私が絶対正しいと思っているわけでもない・・でも、あなたのやり方は大嫌いよ、ジル!いや、アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ!」 アンジュが自分の考えを口にして、ジルに嫌悪を向ける。アンジュはジルに従うことを完全に拒絶した。「愚か者が・・私に従わなければ、何もかも終わりだというのに・・・!」 不快感を募らせながらも、ジルは何もできずに悔しさに打ちひしがれていた。 その後駆けつけたジャスミンとマギーに、タリアたちは事情を話した。自分の目的のために周りの全てを利用したジルに、マギーは失望した。「これじゃ、ジルにアルゼナルの司令官を任せるわけにいかないね・・・アルゼナルとアウローラの指揮は、私が代わりにやらせてもらいますよ。」「分かりました。よろしくお願いします、ジャスミンさん。」 ジャスミンがアンジュたちの司令官を請け負い、タリアと握手を交わした。 レイたちと連絡をしてから、シンとアンジュはステラとモモカのところへ向かった。ステラたちはレイたちに救出されていた。「モモカ、無事でよかったわ・・」「申し訳ありません、アンジュリーゼ様・・このような失態をさらすなど・・・」 安堵の笑みを見せるアンジュに、モモカが深々と頭を下げる。「ステラはミネルバの医務室に戻したわ。医務官が今度は目を離さないようにすると言っていたわ・・」 ルナマリアがステラのことをシンに説明する。「それにしてもアイツ、ステラまで利用して・・もう信じられるか・・・!」「それは私も同じよ。指揮官としてはサラ子のほうがまだ上よ・・」 シンとアンジュがジルへの不信感を募らせていく。「んも~!ホントに信じらんないわよ~!」 そこへエマが出てきて、シンたちに顔を近づけてきた。「エ、エマ監察官!?」「お・・お酒臭いよ~・・!」 アンジュが驚きの声を上げて、ヴィヴィアンが自分の鼻をつまむ。エマはお酒に入り浸っていて、泥酔状態になっていた。「何があったのよ、エマ監察官・・?」「エマさんでいいわよ~・・エマさんで~・・」 アンジュが問いかけると、エマがにやけてきた。彼女はすっかり上機嫌になっていて、ろれつが回らなくなっていた。「アルゼナルを出てから、ヤケ酒に走ってこの調子で・・」 モモカが苦笑いを浮かべて、事情を説明する。「だってしょーがないでしょー!殺されかけたのよ、私!・・同じ人間なのに・・何でよ~!」「監察官・・すっかり追い込まれているみたいね・・・」 自暴自棄になって酔いつぶれているエマに、ルナマリアが呆れる。「ほら。部屋に戻るよ、エマ。」 マギーがエマに肩を貸して連れていこうとする。「1つ聞きたいんだけど・・ヴィヴィアンはアウラの民で、アルゼナルに入れたのよね?」「そうよ。それがどうかしたの?」 アンジュが質問して、マギーが足を止めて答える。「アウラの民は人間の姿でもツバサと尻尾が生えていたわ。ヴィヴィアンにもあったんじゃないの?」「おー、そうだ!何で私にはないのー!?」 アンジュに続いてヴィヴィアンも疑問を投げかける。「バレるから切った。」「うわー!ひっでー!」 気のない態度で答えるマギーに、ヴィヴィアンがふくれっ面を見せた。「でもこれで、ヴィヴィアンは私たちと同じ姿かたちということになるわね・・」 夕姫が憮然とした態度でヴィヴィアンに言いかける。「うん・・私たちのほとんどは、姿は普通の人と同じ・・・」 それを聞いたラブが悲しい顔を浮かべる。(でも私は、みんなと違う力がある・・空間も自分の心も、何もかも歪めてしまう・・・) 自分の中にある大きく異質な力に、ラブは困惑していた。この力が世界の運命も左右してしまうもので、自分でもどうにもならないものになるのではないかと、不安を感じていた。「ラブちゃん、気に病まなくていい。ラブちゃんの力が、悪いなんてことはない・・」 カナタがラブに歩み寄り、励ましてきた。「カナタくん・・あなたも、イザナギやお姉ちゃんのことで悩んでいるのに・・・」「確かに悩んでいるのは確かだ・・まだイザナギの底力がどれほどのものなのかも分かっていない・・だからってふさぎ込んでいるわけにいかないからね・・」 戸惑いを覚えるラブに、カナタが正直な気持ちを口にする。「シン、アンジュ、海潮、孝一、みんなが協力してくるなら力を借りようと思っているけど、オレたちで決着を付けないといけないことなのも確かだ・・」「カナタくん・・・うん・・私たちで、お姉ちゃんを・・・」 決意を固めていくカナタとラブ。2人はカンナを止めて世界を元に戻すことを、心に決めていた。 タリアたちは改めて、これからのことを話し合っていた。それぞれの敵が結託している連合軍、ペンギン帝国、エンブリヲ、ディメント、そして融合された世界。対処すべき事案は多かった。「私たちとしてはロード・ジブリールの捜索と光速を急ぎたいところです。ヤツを野放しにすれば、必ずプラントや世界に牙を向けてきます。」「私たちはランガを救い出したいと思っているわ。ランガがいないと、私たちは何もできないから・・」「リベルタスに固執するつもりはもうないが、エンブリヲを野放しにするわけにもいかんよ。」「私たちはペンギン帝国も倒すべきと考えています。もちろん、あなた方の敵と戦うこと、世界を救うことのためにも戦うつもりです。」 タリア、魅波、ジャスミン、恭子がそれぞれの意見を述べる。「ザフトの別部隊がジブリールだけでなく、エンブリヲや他の敵の行方を追っています。発見次第連絡が来ます。」「その間に修理と補給を済ませておかないとね。」 タリアがザフトの動向を伝えて、ジャスミンが頷く。「サラマンディーネさん、あなたたちはこれからも、私たちと共闘していくのですか?」 恭子がサラマンディーネに質問を投げかけた。「そのつもりです。エンブリヲという共通の敵がいる限り。」「その道中、ペンギン帝国や連合軍とも戦うことになります。それをあなたたちはよしと思いますか?」「構いません。連合軍については、エンブリヲの息がかかっている可能性が高いです。それぞれに事情があるでしょうから、無闇に命を奪うようなこともしたくはありませんが・・」「それは私たちも同じ考えです・・戦いには強い意思と覚悟、結束が必要不可欠です。」 サラマンディーネの意思を聞いて、恭子が共感した。「プリンスの楚南恭子。ダイミダラー2型のファクターです。今は超型になっているのですね。」「えぇ。サラマンディーネです。よろしくお願いします、恭子さん。」 恭子とサラマンディーネが手を取り合い、握手をした。 そのとき、タリアたちのいる部屋に通信が入ってきた。「こちらミネルバ。タリア・グラディスです。」“ロード・ジブリールの所在が判明しました。” タリアが応答して、探索部隊の隊員がジブリールのことを報告した。「ジブリールが・・その所在は・・!?」“オーブです。連合軍に組しているセイラン家を隠れ蓑にしています。ジブリールがオーブに入るのも確認しています。” タリアが問いかけて、隊員が答える。それを聞いてタリアだけでなく、魅波と恭子も息を呑んだ。「分かりました。補給を急ぎ、オーブに急行します。」 タリアが答えて、隊員たちとの通信を終えた。「オーブ・・グラディス艦長、確かあなた方の世界の地球にある中立国でしたね?」「えぇ。しかし今は連合軍と同盟を結び、プラントとは敵対関係にあります。」 サラマンディーネがオーブのことを聞いて、タリアが答える。「あくまでジブリールの拘束が目的です。しかしオーブが引き渡しや協力に応じなかった場合・・」「オーブ軍との戦闘、オーブの領土に戦火が飛ぶこともやむを得ない。そう考えているのですね?」「戦いに無関係の国民に被害を及ぼすことを快く思いません。しかしジブリールを逃がすことになれば、それ以上の多くの命が失われることは明らかです・・」「陸上での戦闘は極力避け、海上での戦いを心がけましょう。」 タリアの意見を聞いて、サラマンディーネが助言した。「ありがとうございます。では、みなさんにこのことを伝えましょう。」 タリアが頷いて、カナタたちにジブリールのことを伝えに向かった。 ジブリールがオーブにいるという知らせを聞いて、シンが心を揺さぶられる。「ジブリールがオーブに・・・」「ロゴスもオーブも連合軍の一派だ。ジブリールがオーブに隠れるのも納得だな。」 カナタが呟き、ヒルダが話に頷いていく。「でも、このままオーブを攻撃したら、街や住んでいる人たちも巻き込まれてしまうんでしょ・・!?」「住民にまで攻撃を加えたいとは思っていません。しかしジブリールを捕獲するためには、その最悪の手段に出ることも覚悟しています・・」 海潮が心配して問いかけて、タリアが考えを伝える。「ザフトと連合軍の動きはどうなってるんだ?」「各部隊がオーブに向かっているけど、まだ私たちの方が近い位置にいるわ。行動を起こすなら今のうちね。」 孝一が問いかけて、タリアが答える。「私たちが先に行ってオーブからジブリールを引きずり出せば、オーブへの被害を最小限に抑えられる、ということね。」 魅波がタリアの告げた判断に納得する。「気にすることはないわ。相手は連合軍の味方。ミスルギ皇国に味方していた連中なんだから・・」「そうね。政府が勝手な判断をして、他の人は止めようともしないで勝手気ままに暮らしている。どこの国も同じなんだから・・」 しかしアンジュも夕姫もオーブそのものを邪険に見る。「そうだ・・オーブは何も変わっていない・・アスハが国を離れても、よくなるどころかますます勝手さが悪くなった・・国民がどれだけ犠牲になっても、アイツらは自分たちのことしか考えていない・・・!」 シンもオーブに対する怒りを噛みしめていく。「オーブを討つなら・・オレが討つ・・・!」 彼はオーブ打倒も辞さない意思を示していた。「私たちの目的はジブリールの確保であって、オーブと戦うことが1番の目的ではないわ。シン、それを忘れないで・・」「艦長・・・分かっています・・・!」 タリアに注意されて、シンが渋々頷いた。「これは本来はザフトの任務です。アンジュさん、サラマンディーネさん、海潮さん、孝一くん、カナタくん、あなたたちがこの戦いに加わる必要はありません。納得しないのであれば、待機していて構いません。」 タリアがカナタたちに参戦の是非を問う。「私たちは戦いたくても戦えないです。まだランガが帰ってきていないから・・」「私は戦うわ。狙いはあくまでオーブの政府の本部だけど・・」 魅波とアンジュがそれぞれの考えをタリアに告げた。「オレも戦うぜ!オレたちにケンカを売ってくるヤツは、オレが引きずり出してやる!」「グラディス艦長の言ったように、一般市民を巻き添えにするのはダメだからね。」 孝一が意気込みを見せて、恭子が彼に注意する。「オレも戦います・・ジブリールを捕まえることだけに専念します・・!」 カナタも戦火を広げないようにしながら戦うことを決意していた。「サラマンディーネさん、あなた方はどうしますか?」「ジブリールがエンブリヲに与する、あるいは従っているならば、この戦いに参加します。」 ルナマリアが聞いて、サラマンディーネが自分たちの意思を告げた。“艦長、ミネルバと各機、整備が完了しました。” そこへヨウランからの通信が入り、タリアが頷いた。「クロスはオーブに向けて発進。ジブリールを拘束します。」 タリアが指示を出して、指令室に向かった。ミネルバと飛行艇、アウローラがオーブに向けて発進した。 ザフトやクロスによって追い込まれ、ジブリールは焦りと苛立ちを募らせていた。オーブに来た彼は、ユウナたちにシャトルの発進準備を急がせた。「急げ、ユウナ!早くしなければ、ここにザフトが攻めに来るぞ!」「な、何だって!?」 ジブリールが怒鳴り、ユウナが驚きの声を上げる。「そんな!まずいよ!このオーブが攻撃されるなんて!」「ならばシャトルがすぐに発進できるようにしろ!プラントに私がここに来たことに気付くのも時間の問題!ヤツらが攻め込む前に宇宙へ上がるのだ!」 慌てふためくユウナに、ジブリールがさらに怒鳴った。「こちらに接近する部隊あり!」 そのとき、オペレーターがレーダーに捉えた反応を見て報告してきた。「ザフトが来たのか!?」「これは・・クロスです!」 ユウナが問いかけると、オペレーターがさらに報告した。「クロスだと!?ミネルバだけでなく、ノーマの部隊と戦力がそろっている・・他のザフトよりも厄介なヤツらが来るとは・・・!」 ジブリールがクロスの出現に対して焦りを募らせていく。「ユウナ、貴様は少しでも時間を稼げ!その間に私が宇宙へ行けるよくにな!」 ジブリールはユウナに命令すると、シャトルに向かって移動した。「こ・・こうなれば、僕の威厳を示すしかなさそうだ・・!」 いきり立つユウナが、クロスへの対策を練っていた。 ザフト軍に先駆けて、ミネルバ、飛行艇、アウローラがオーブ領海の前に来た。ミネルバたちを見て、オーブにいる人々が動揺を隠せなくなっていた。 そんな中、タリアはオーブ政府に向けて通信を送った。カナタたちもその様子を見守っていた。「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。クロスを代表して、貴国に逃亡したロード・ジブリールの引き渡しを要請します。彼を放置すれば世界が危機に瀕することは明白です。ご協力をお願いします。」 ユウナたちに向けて要請したタリア。アーサーとメイリンが固唾を呑んで返答を待つ。「聞いてくれるかな、オーブは・・?」「オーブも連合軍の1つよ。また勝手なことを言ってくるんじゃないの?」 海潮も動向を見守るが、夕姫はオーブへの不信感を抱いていた。 タリアからの要請を聞いて、ユウナたちは緊張を募らせていた。「セイラン様、いかがいたしますか・・・?」「今の我々は、ロゴスとつながりのある地球連合との同盟関係にあります。それでもザフトの要請に応じるのですか・・?」 オーブ軍の兵士が、オーブ政府を指揮しているユウナに問いかける。「私に任せてもらおう。私がやれば万事うまくいく。」 ユウナが優雅に振る舞って、カナタたちに向けて呼びかけた。「私はオーブのユウナ・ロマ・セイラン。オーブ政府を代表して、通告に対し回答する。貴官らが引き渡しを要求するロード・ジブリールなる人物は、我が国には存在しない。」 ユウナの告げた回答に、カナタたちだけでなく、彼のそばにいた兵士やオペレーターたちが耳を疑った。「このような武力をもっての恫喝は、一主権国家としての我が国の尊厳を著しく侵害する行為として、大変遺憾に思う。よって、直ちに撤退することを要求する。」 カナタたちやザフト、プラントに対する批判を告げるユウナ。これで誰もが納得するものと思い込んでいた彼だが、彼らの感情を逆撫ですることになるのは、オーブ軍にも明らかだった。 ユウナからのこの返答に、タリアたちは耳を疑った。シンもアンジュも憤りを募らせて、夕姫はため息をついていた。「何を考えているのよ、あのオーブの代表は・・」「お兄様と大差ない・・自分たちのことしか考えていない、最低なトップね・・」 魅波が呆れて、アンジュが呆れ果てる。「ジブリールがオーブに入ったのは、ザフトの別動隊が確認している。そのような嘘が通じないことは、向こうも分かっていると思っていたが・・」「私が今回のような要求をされたら、状況を鑑みて協力も辞さないですよ・・そのような世迷言、絶対に言いません・・」 レイが苦言を呈して、モモカも肩を落とす。「もう話し合いをしているじゃないわ。ヴィルキスで出るわ。」 アンジュがヴィルキスに乗って、発進準備をする。「メイ、あたしの新しいパラメイルの準備はできてるか?」 ヒルダがメイに歩み寄り、新しい機体について聞く。「準備OKだよ!赤いアーキバスが、ヒルダのパラメイルだよ!」「いいねぇ!そいつで思い切り暴れてやるよ!」 メイがアーキバスを紹介して、ヒルダが不敵な笑みを浮かべた。「いや、先陣を切るのは私とヴィルキスよ。」 しかしアンジュがヒルダたちに向かって口を挟んできた。「おいおい、そりゃねぇだろ、アンジュ!あたしらの力を見くびるなよ!」「そういうわけじゃないわ。でも活動時間はヴィルキスのほうが上。だから私が先に出たほうがいいと言っているのよ。」 文句を言うヒルダに、アンジュが進言する。「だったらオレたちが先に出たほうがいい。」 シンがアンジュたちに向けて呼びかけてきた。「デスティニーとレジェンドに活動限界はない。まずはオレたちに行かせてくれ。」「それならオレもイザナギで行くぞ。3機でオーブの政府に乗り込んで、ジブリールの居場所を聞き出す。」 シンに続いてカナタも出撃を買って出る。「仕方ないわね・・でもあんまり遅いと、私たちも行くからね。」「あぁ。分かった。」 アンジュが不満げに言い返して、シンが答えた。「シン、レイ、カナタくん、あなたたちに先陣を任せます。」「はい!」「了解。」 タリアが指示を送り、カナタとシン、レイが答えた。アンジュはヴィルキスに乗ったまま、出番が来るまで待つことにした。「天命カナタ、イザナギ、行きます!」「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」 イザナギ、デスティニー、レジェンドがミネルバから発進した。 イザナギたちがオーブ行政府に攻め込んできたことに、ユウナが驚きをあらわにした。自分の返答で問題が回避できると思い込んでいた彼だが、クロスのこの行動に納得ができなかった。「あー、もー!どうしてこうなるんだー!?彼はいないと言ったのに、何でヤツらは攻めてくるんだよー!?」「ウソだと知っているからです。ロード・ジブリールがオーブに入ったという確かな情報をつかんだ上で、ザフトとクロスは要請してきたのですよ・・!」 不満の声を上げるユウナに、指揮官が苦言を呈する。「なぜあのような馬鹿げた回答をしたのですか!?ジブリール捕獲のため、彼らが強硬手段に出ることになるのは目に見えていたはずです!」「いや、だって、要求のんだら連合を敵に回すし、イヤだって言ったらやっぱり攻撃されるし、こう言っておけば丸く収まるはずじゃないか!」「それですんなり通るほど、今の情勢は単純ではありません!」「え、あ、いや・・・あー、うるさい!とにかく、こっちも防衛体制を取るんだよ!護衛艦軍出動!迎撃開始!モビルスーツ隊発進!ヤツらの侵入を許すな!」 指揮官からの叱責に反発して、ユウナが語気を荒げて命令を出す。あまりにも無責任なユウナの態度や言動に、オーブ軍の兵士やオペレーターは不満を膨らませていた。 オーブへの進撃を始めたクロス。そこに向けられる複数の視線があった。「私が先行するわ。私が侵入したら戦闘開始よ。」 1人の少女が呼びかけて、他に指示を送る。オーブでの戦いに新たな混迷が巻き起ころうとしていた。 第47話へ その他の小説に戻る TOPに戻る