スーパーロボット大戦CROSS

第44話「帰還!舞い戻る超人」

 

 

 アンジュとサラマンディーネ、ヴィルキスと焔龍號の1対1の対決が始まろうとしていた。2機が飛翔して、それぞれラツィーエルと天雷を構えた。

「では、始め!」

 ナーガの合図と同時に、ヴィルキスと焔龍號がラツィーエルと天雷を振りかざしてぶつけ合った。2機がつばぜり合いを繰り広げて、ゆっくりと上昇していく。

「やりますね。さすがはアンジュとヴィルキス・・!」

「あなたもなかなかの腕前ね・・でも勝つのは私よ!」

 サラマンディーネとアンジュが互いに不敵な笑みを浮かべる。ヴィルキスと焔龍號が後ろに下がり、距離を取る。

 焔龍號が旋回して、ヴィルキスに仕掛けるチャンスをうかがう。ヴィルキスが真正面から焔龍號に向かっていって、ラツィーエルを振り下ろす。

 焔龍號が紙一重でラツィーエルをかわして、天雷を振りかざす。ヴィルキスがとっさにラツィーエルを掲げて天雷を防いだが、勢いを止められずに押される。

「畳み掛けられたら、場外になるぞ!」

 シンがヴィルキスの不利を予感して声を上げる。アンジュがヴィルキスを操縦し、場外寸前で踏みとどまった。

「そうでなくては面白くありませんわね・・!」

「その余裕がいつまで続くかしらね・・!」

 強気な態度を崩さないサラマンディーネとアンジュ。ヴィルキスと焔龍號が加速して、ラツィーエルと天雷を立て続けにぶつけ合っていく。

「サラマンディーネ様とここまで互角に渡り合えるとは・・!」

「それだけじゃないよ・・あんな楽しそうなサラマンディーネ様は、久しぶりかもしれない・・」

 ナーガとカナメが勝負を見届けて戸惑いを覚える。

 力任せに攻め立てるヴィルキスと、隙を突く焔龍號。的確な攻撃を焔龍號に、ヴィルキスを駆るアンジュが毒づく。

「せこいやり方をしてくるじゃない・・思い切り攻めてきなさいよ!」

「力押しだけが勝利の方法ではありませんよ。」

 文句を言うアンジュに、サラマンディーネが冷静に言い返す。

「ヴィルキス、この前みたいな力を出しなさい!さもないとスクラップにするわよ!」

 アンジュがヴィルキスに呼びかけて、コックピットに握った両手を叩きつけた。するとアンジュが指に付けている指輪が青く輝き、ヴィルキスが青い姿「アリエルモード」となった。

 焔龍號が振りかざした天雷を、ヴィルキスが高速で動いた。焔龍號が左腕からビームを連射するが、ヴィルキスは残像を伴った高速でかわした。

「あれはデスティニーと同じ動き・・!」

「デスティニーの残像は光の翼の効果だ・・ヴィルキスの残像は本当にスピードが速いことによるみたいだ・・・!」

 ルナマリアとシンがヴィルキスのスピードについて推測する。

「それだけじゃない・・あの姿は、空間を超えてこっちに来たときの姿だ・・ただの残像じゃなくて、空間にも干渉しているのかもしれない・・・!」

 カナタもヴィルキスの真の力について推測する。

「そういえばデュランダル議長は、インパルスだけじゃなく、ヴィルキスやダイミダラーも参考にしていたとか・・」

「まさか、デスティニーにも空間を超える能力があるのか・・!?

「いや、オレがチェックした限りじゃそこまでの能力は持っていないし、議長やグラディス艦長もそんなことは言ってなかった・・」

「あくまで参考程度に、というところか・・・」

 シンからの話を聞いて、カナタが頷く。ギルバートはあくまで戦力としてのヴィルキスやダイミダラーの能力を参考にしただけだと、カナタは思った。

 彼らの会話の間も、ヴィルキスと焔龍號の対決は続いていた。

(こっちの動きを正確に狙ってくるわね・・だったら・・・!)

「ヴィルキス、今度はパワーを上げるのよ!この前もできたんだから、やれるわよね!?

 思い立ったアンジュがヴィルキスに向かって呼びかける。今度は指輪が赤く光り、ヴィルキスがミカエルモードに変化した。

「速さを殺して力で攻めるつもりですか?隙が増えるだけですよ・・!」

 サラマンディーネが臆することなく、焔龍號がヴィルキス目がけて右腕の天雷を振りかざしてきた。ヴィルキスが左腕で天雷を止めた。

「肉を切らせて骨を断つ、というものよ・・!」

 アンジュが声を振り絞り、ヴィルキスがラツィーエルを焔龍號に向かって振りかざす。焔龍號が左腕の天雷でラツィーエルを防ぐが、その力に押されて落下していく。

(思っていたよりも力が強い・・・!)

 サラマンディーネが焦りを覚えて、焔龍號がブースターを全開にして踏みとどまろうとする。しかし勢いを止め切れず、焔龍號の左足のかかとがわずかに地上に触れた。

「あっ・・!」

 その瞬間を目の当たりにしたカナタたちが声を上げた。ナーガも目を見開き、カナメが笑みをこぼした。

「勝負あったわね。私の勝ちよ。」

 ヴィルキスが焔龍號に近づいてきて、アンジュが勝ち誇る。

「まだですわ!まだ勝負はこれからですよ!」

「はっ!?今、落ちたでしょ!?勝負は私の勝ちで決まりじゃない!」

「お、落ちてませんし!着地しただけですし!」

「負けは負けじゃない!往生際が悪いわね!」

 負けを認めないサラマンディーネに、アンジュが文句を言う。2人の言い合いにカナタたちが呆れる。

「本当に負けず嫌いなお方だ・・あのアンジュという者もだが・・」

「でも2人とも、お互いの力を認め合ったのも確かね。」

 ナーガがため息をついて、カナメが喜びを感じていた。

 

 勝負が終わり、ヴィルキスと焔龍號から降りてきたアンジュとサラマンディーネ。2人が近づいて向き合うと、アンジュが腑に落ちずに肩を落とす。

「予想以上でしたわ、アンジュ。」

「予想以上?何が?」

 サラマンディーネが口にした言葉に、アンジュが疑問符を浮かべる。

「すごく楽しめました。今まで私と互角に戦える女性はいませんでした・・男性も入れると、孝一も含まれますが。」

 サラマンディーネが感想を口にして、孝一に目を向けた。

「始めは私が軽くあしらっていましたが、私から逃れようと足腰を鍛えて強くなり、私でも手を焼くほどになりました。」

「アイツ・・本当に厄介になったものね、あの変態は・・」

 サラマンディーネがこの世界での孝一のことを話して、アンジュが呆れる。

「戦争でも、このような真剣勝負でも、真正面から全力でぶつかり合うことで分かり合えることもあるのですね・・」

 アンジュと分かり合えたと確信して、サラマンディーネが微笑みかける。

「そうとも限らないわよ・・言葉でも力を尽くしても、分かり合えないことはある・・」

 しかしアンジュは皮肉を感じて肩を落とす。彼女はジュリオと分かり合えず、またアキホたちへの軽蔑も抱いたままである。

「オレも分かり合えない敵がたくさんいた・・連合軍はもちろん、あのフリーダムも・・・」

 シンがアンジュたちに近づいてきて、話に加わった。

「だけど、ステラと仲良くなれた・・ステラを守りたいと思ったし、みんなが力を貸してくれたから、助け出すことができた・・・」

 シンはステラのことを考えて微笑む。敵勢力に身を置いていたステラだが、シンは彼女を助けるために尽力していた。

「あの金髪の少女のことですね。今もドクター・ゲッコーがあなたたちの連れの子と共に治療していますよ。」

「ステラの体を治せるのか!?薬のせいで悪くなった体を・・!」

「あなたの現時点での時間ではごく一部でしか治療法がなかったですが、この世界と時間ではそれが充実しています。」

「そこまで科学が進んでいるのか、この世界は・・!?

 サラマンディーネの話を聞いて、シンが戸惑いを覚える。

「今夜はここで休んでください。彼女、ステラとは明日に会えますよ。」

「そうか・・ありがとう・・ありがとうございます!」

 笑顔を見せるサラマンディーネに、シンがお礼を言って頭を下げた。ステラを救ってくれるサラマンディーネを、シンは信じることにした。

「アンジュ、あなたの勝ちです。あなたの言う通りにしますわ。」

 勝敗の条件を甘んじて受けて、サラマンディーネがアンジュからの要望を聞く。

「アンジュ、あなたがみんなのことを考えているって、信じているからね・・」

 ラブがアンジュへの信頼を送る。

「あなたたちもクロスに入ってもらうわ。おかしくなっている世界を正す。あの変態を倒すのも、その目的の1つよ。」

 アンジュがサラマンディーネにクロスとして共闘することを求めた。2人にはエンブリヲだという共通の目的があった。

「望む所ですわ。よろしく、クロスのみなさん。」

 サラマンディーネが聞き入れて、カナタたちに改めて挨拶をした。

「こちらこそよろしく。私はルナマリア・ホーク。今はインパルスというモビルスーツに乗っているわ。」

 ルナマリアが自己紹介して、サラマンディーネと握手を交わした。

「オレはシン・アスカ。デスティニーに乗っているんだ。」

「オレは天命カナタ。イザナギのパイロットです。」

 シンとカナタも自己紹介をした。

「私は愛野ラブです。よろしく、サラマンダー・・サラマンディー・・あ、あれ・・?」

 ラブも挨拶するが、サラマンディーネの名前をうまく呼べず動揺してしまう。

「あ、そうだ♪“サラ”って呼んでもいいかな?それなら言いやすいかな♪」

「サラ・・なかなか面白い愛称ね。」

 ラブのこの提案を、サラマンディーネが笑顔で受け入れた。

「だったら私もそう呼ばせて。私のことも“ルナ”でいいから。」

「分かったわ、ルナ。」

 ルナマリアとサラマンディーネが声を掛け合い、互いに軽く手を当てた。

「それなら私は“サラ子”と呼ばせてもらうわ。」

 アンジュが不敵な笑みを見せて、サラマンディーネに言った。

「では私も・・アンジュだから“アン”はいかがでしょうか?」

「やめなさい、その呼び方・・・」

「では“アン子”はどうですか?」

「私をバカにしてるの!?

 からかってくるサラマンディーネに、アンジュが文句を言う。2人のやり取りを見て、ラブが笑みをこぼした。

「アイツら、サラマンディーネ様に軽々しい口を・・」

「でも嬉しそうだわ。あそこまで幸せそうなのを見たのは、私も初めてかも。」

 サラマンディーネたちの様子を見て、ナーガが不満を覚えて、カナメが微笑む。

「私は島原海潮です。これからもよろしくね。」

 海潮もサラマンディーネに挨拶をした。

「島原?・・まさかあなた、バロウの王じゃないの・・!?

「えっ?あ、うん。でも今はもう、ランガは・・・」

 サラマンディーネが疑問を投げかけて、海潮が頷いて悲しい顔を浮かべる。

「海潮、あなたにとっては悲しい真実を告げなければなりません・・」

 サラマンディーネが深刻な面持ちを浮かべて、海潮に向けて語り始めた。

「この世界にもバロウ島が、ランガが存在していました。しかし500年前の戦争の中で、バロウもランガも滅んだのです・・」

「そんな・・!?

 サラマンディーネからバロウのことを聞いて、海潮が驚愕する。

「ランガは私たちアウラの民も、かつては神として崇めていました。しかし今では歴史の中でしか語られなくなり、知っているのは大巫女様や私たちなど、ごく一部だけです・・」

「ランガ・・・あなたたちも、ランガを信じていたんだね・・」

 語りかけるサラマンディーネに、海潮は物悲しい笑みを見せた。

「もちろんあなたたちの世界にもバロウ島とランガが存在していることは知っています・・・ランガは、倒されてしまったのですね・・」

「ランガは生きてる!藤原さんから・・虚神会から助け出してみせる!」

「その強い意思に私たちも賛同するわ・・虚神会は連合軍の1集団。エンブリヲと関わりがあるはずです。」

「行きつく先は一緒、ということだね・・」

 サラマンディーネからの助言を受けて、海潮はランガを助ける決意を強くした。

「さぁ、今日はゆっくり休んでください。出発は明日です。」

 サラマンディーネが言いかけて、ルナマリアが頷いた。

 

 それからカナタたちは束の間の休息を取ることになった。

 アンジュとサラマンディーネはラブ、ルナマリア、海潮と共にシャワーを浴びることにした。

「いい体してるね、サラも。私はまだまだって感じがするよ〜・・」

 ラブがサラマンディーネの裸身を見て、戸惑いを感じていく。

「そんなことはないわよ。ラブも海潮もいい体をしているわ。それに成長期ではないですか?」

「成長期・・ということは、もしかしたらサラやアンジュよりも大きくなれたりして♪」

「そうね。龍神器よりも大きくなったりして。」

「ち、ちょっと、ひどいよ、サラ〜!」

 サラマンディーネにからかわれて、ラブがふくれっ面を浮かべる。2人のやり取りを見て、海潮とルナマリアが笑みをこぼす。

「この世界にもランガはいた・・でもそれは、ここでは昔のこと・・・」

 海潮がランガのことを考えて、表情を曇らせる。

「でもあなたたちの世界のランガはまだ生きているはずよ。見つけて助け出そう。」

 ルナマリアが励ますが、海潮は苦悩を払拭できない。

「私たちの敵は同じかもしれないのよ。だったらエンブリヲを倒すついでに、ランガを連れ戻してやるから。」

 アンジュが憮然とした態度で、海潮に言いかける。

「そしてまた暴れるなら、今度はガツンとやって大人しくさせてやるんだから・・」

「アンジュ・・・」

 悪態をつくアンジュに、海潮が戸惑いを覚える。悪ぶっていてもアンジュは気を遣っているのだと、海潮は思った。

「あれ?外が何だか騒がしいよ・・?」

 そのとき、ラブがシャワー室の外が騒がしいことに気付いた。

「悪いオオカミが来たみたいね。心配せずとも、ナーガたちが追い払っているわ。」

 サラマンディーネは慌てることなく、シャワーを止めて体を拭き始めた。

 シャワー室の外では、ラブたちをのぞき見しようと孝一が忍び込んできていた。しかし見張りをしていたナーガとカナメに見つかり、彼は慌てて逃げ出すことになった。

 

 その頃、カナタ、シン、タスクはアウラの民の女性たちに囲まれていた。アウラの民の男性の全員がドラゴンになっているため、彼女たちにとって人の姿の男は珍しい存在だった。

「ちょっと・・いい加減にしてくださいよ・・!」

「オレたちはそういうハーレムは望んじゃいないって・・!」

 シンが不満げに、カナタが慌ただしく女性たちから離れていく。

「あ〜!ちょっと待って〜!置いてかないで〜!」

 タスクが助けを求めるが、女性たちに捕まってしまい逃げられなくなってしまう。

「お〜♪お前もモテモテじゃねぇか、タスク〜♪」

 そこへナーガたちから逃げてきた孝一がやってきて、タスクを見てにやけてきた。

「き、君!笑ってないで助けてくれー!」

「ハッハー♪オレも混ぜてくれー♪」

 慌てて呼びかけるタスクだが、孝一が女性たちの輪に飛び込んできた。

「本当にしょうがないな、孝一のヤツは・・」

「タスクもたまったもんじゃないだろうな・・」

 シンとカナタが孝一たちを見て肩を落としていた。

「そんなことはないわよ、タスクも・・」

 アンジュがラブたちと一緒にシャワー室から戻ってきた。

「孝一ほど表に出してるわけじゃないけど、すごい変態よ。いきなり私のことを裸にして縛って、ハレンチな言葉を連発して・・」

「うわぁ・・ムッツリスケベってヤツだね・・・」

 アンジュがタスクに愚痴をこぼして、ラブが気まずくなる。

「でも、アイツは私のことを助けてくれた・・タスクがいなかったら、私はミスルギ皇国で死んでいたわ・・」

 アンジュがタスクへの想いを感じていく。いやらしいところは不愉快に思っているが、守ってくれたタスクをアンジュは信じていた。

「アンジュー♪」

 そこへヴィヴィアンが1人の女性と共に来て、アンジュたちに声を掛けてきた。

「ヴィヴィアン・・!」

「ヴィヴィアンちゃん、目が覚めたんだね♪」

 アンジュが戸惑いを浮かべて、ラブがヴィヴィアンに近づいた。

「ヴィヴィアンちゃん、体の方は大丈夫なの・・?」

「うん♪もうドラゴンになることはないって♪」

 ラブが心配の声を掛けて、ヴィヴィアンが自分の体を確かめながら答える。

「向こうの世界では、ドラゴンになるのを、薬品によって抑えられていたようです。ドラゴンになったのは、その効果が切れたからです。」

 女性がヴィヴィアンの体について説明をしていく。

「でもあたし、薬を飲んだことなんて全然なかったよ?キャンディならいつも舐めてたよ♪でもドラゴンになったときは舐めてなかったんだよねぇ〜・・」

 ヴィヴィアンが腕組みをして、記憶を呼び起こしていく。

「もしかして、そのキャンディの中に薬が混ぜられていたんじゃ・・!?

「確かにドラゴンになる少し前から、キャンディは舐めていなかったわ・・」

 ラブとアンジュが推測を巡らせる。

 ヴィヴィアンはマギーからキャンディを舐めるように言われて、アルゼナルを離れるときも大量に持たせていた。しかし戦いの疲れでキャンディを口にする余裕もなくなったのが、彼女がドラゴンに変わる引き金となった。

「ですがご心配なく。ドクターが遺伝子操作を施したことで、ドラゴンに変化することは完全になくなりました。」

「そ、そー♪それが大正解♪」

 女性がヴィヴィアンのことをアンジュたちに伝えて、ヴィヴィアンが大きく頷いた。

「それじゃ、ヴィヴィアンちゃんは人の姿のままでいられるんですね。」

「よかったね、ヴィヴィアンちゃん♪」

 海潮が胸を撫で下ろして、ラブがヴィヴィアンと手を取り合って喜ぶ。

「ヴィヴィアン、いえ、ミィ、あなたに会わせたい人がいるわ。」

 そこへサラマンディーネが1人の女性を連れて、ヴィヴィアンに声を掛けてきた。

「ラミア。あなたのお母さんよ。」

「ミィ・・ミィ!」

 サラマンディーネが紹介して女性、ラミアがヴィヴィアンを見つめて目に涙を浮かべる。

「ん?・・お母さんさん?」

 ヴィヴィアンがラミアに対して疑問符を浮かべる。彼女は前にこの世界にいたことを覚えておらず、母親や家族のこともよく分からず、“お母さん”という名前もあると思っていた。

「無事だったのね、ミィ・・よかった・・・!」

「えっ?あたし、ヴィヴィアンだよ?」

 再会を喜ぶラミアだが、ヴィヴィアンは首をかしげていた。

「お母さん?・・あの人が、ヴィヴィアンちゃんのお母さんなの・・!?

「えぇ。間違いないわ。」

 海潮の口にした疑問に、カナメが答える。

「おそらく、向こうの世界で記憶をなくし、ノーマに拾われて育てられたのだろう。竜の翼と尾は、そのときにきれいに切り取られたのだろう・・」

 ナーガも続けてヴィヴィアンのことを説明していく。

「それじゃ、アルゼナルの人たちがヴィヴィアンちゃんを・・!」

「使える人材は使えるだけ使う。ノーマの指揮官は食わせ者のようだ・・」

 ラブが不安を覚えて、ナーガが表情を変えずに言いかける。

(ジル・・・!)

 アンジュがジルのことを考えて、懸念を抱いていた。

「ヴィヴィアンちゃん、この人があなたのお母さん、ママだって。」

 ラブがヴィヴィアンに歩み寄り、優しく言いかける。

「あなたはこの人の子供で、今までずっと離れ離れだった・・でもこうして会えてよかったね。」

 ラブがヴィヴィアンを励ましていく。

 ラブもカナタもブレイクホールで親を失った。母親であるラミアと再会できたヴィヴィアンに、2人とも幸せを感じていた。

「みんなにもお母さんっていうのがいたの?・・ラブも、アンジュも・・」

「もちろん・・今はそばにはいないけど、お母さんにもお父さんにも感謝しているよ・・」

 ヴィヴィアンの問いかけに答えて、ラブが両親、カンナとのひとときを思い出していく。もう過ごせないと理解しながらも、その時間を彼女は大切に思っていた。

「お母さん・・・あの人が、私のお母さん・・・」

 ヴィヴィアンが戸惑いを感じて、ラミアに視線を戻した。

「お母さんさん・・・お母さん!」

 目から涙をこぼしたヴィヴィアンが、ラミアに飛びついて抱きしめられた。失った記憶がもどったわけではない彼女だが、母の思いとぬくもりを思い出していた。

「元の体に戻って、お母さんにも会えた・・よかったね、ヴィヴィアンちゃん・・」

 ラブがヴィヴィアンを喜んで、カナタが頷いた。

「あの・・ステラはまだ治療中なんですよね・・・?」

 シンがステラのことを気にして、女性に問いかけてきた。

「治療は済みました。しかし今は休んでいるので、会うのは明日になってからでお願いします。」

「治るんですね!?・・よかった・・・!」

 女性の答えを聞いて、シンが安心の笑みをこぼした。

「シンったら、すっかりステラって子に入れ込んじゃって・・」

 ステラばかりに気が向いているシンに、ルナマリアが不満を浮かべていた。

「あなたはシンに対して思い入れがあるようね、ルナ。」

 そんな彼女にサラマンディーネが微笑みかけてきた。

「サラ、私はそんなんじゃ・・!」

「ウフフ・・うらやましいことです。私もいつか、想いを寄せる相手を見つけたいものです。もちろん使命を果たした後の話ですが。」

 顔を赤くするルナマリアに、サラマンディーネがさらに笑みをこぼす。

「ヴィヴィアンはこうして故郷に帰れた・・だから、戦いに加わる必要はないのかもしれないわね・・」

 ヴィヴィアンに安息が戻ったと思い、アンジュが微笑んだ。

「それを決めるのは、ヴィヴィアンちゃん次第だよ。あのステラちゃんも・・」

 カナタがアンジュに向けて言葉を返した。

「もちろん戦わなくていいならそれが1番だけど、それをオレたちが押し付けるだけじゃダメだと思う・・」

「自分で判断して自分で決める、ね・・ステラが私たちみたいにそれができればいいけど・・・」

 カナタの助言を聞いて、アンジュがため息まじりに答えた。

 

 その日の夜、村ではカナタたちの歓迎会が盛大に行われた。束の間の休息に、カナタたちは心身を休めていた。

 その最中、カナタたちはタリアたちのことを考えて、元の世界に戻る決心を強めていった。

 そして夜が明けて、カナタたちが目を覚ました。マサキとラブは暁の空を見つめて、考え事をしていた。

「元の世界に戻ったら、また戦い・・お姉ちゃんとも、戦わなくちゃいけないんだよね・・・」

「うん・・でももう、力ずくでも止めなくちゃいけない・・イザナミもイザナギみたいな力を持つ可能性は十分にある・・そうなったら、手加減して戦うこともできなくなる・・・」

 カンナのことを気にするラブに、カナタが覚悟を口にする。

「助けたいって気持ちはオレも同じだ・・だけどそのために世界やみんなに何かあってはいけない・・」

「うん・・メイさんみたいなことが、これ以上あってはいけないよね・・・」

 正直な気持ちを口にするカナタと、タマキのことを思い出して悲しい顔を浮かべるラブ。

 大切な人を取り戻そうとするために、他の大切な人が犠牲になってはいけない。周りのみんなが危険にさらされるなら、その人に固執している場合ではない。カナタはそう自分に言い聞かせていた。

「ゴメン、ラブちゃん・・・オレは・・オレは・・・!」

 カナタがラブに謝って、辛さを募らせていく。ラブが目から涙を流して、カナタを抱きしめてきた。

「カナタくんの辛さが、私にも伝わってくるよ・・だから、カナタくんだけで抱え込まないで・・・」

「ラブちゃん・・・ありがとう・・・オレたちは、オレたちだけじゃない・・みんながいるし、ゼロス博士も世界のどこかにいる・・・!」

 共感し力を貸そうとするラブに、カナタが感謝する。2人はかけがえのない仲間や恩人がいることを、改めて実感していった。

「カナタ、ラブ、こんなところにいたのか!」

 そこへ孝一がシンたちと共に来て、カナタたちに声を掛けてきた。

「2人とも、朝から見せつけてくれるわね・・」

「いつの間にかこんなに急接近してたなんてねえ。」

 カナタとラブを見て、アンジュが呆れて、ルナマリアがからかってきた。

「みんな、別にそんなんじゃ・・!」

「そうだよー!私たちは、お姉ちゃんを止めて、戦いを終わらせて世界を元に戻そうって決めてただけなんだからー!」

 カナタとラブが顔を赤くして、慌てて言い訳をする。

「ここでしゃべっていないで、ステラを迎えに行くぞ。」

 シンが呼びかけて、カナタたちが真剣な面持ちを浮かべた。

「この子のことなら、もう心配いらないわ。」

 ゲッコーが現れて、カナタたちに声を掛けてきた。ゲッコーが連れてきたステラは、元気を取り戻していた。

「ステラ・・もう大丈夫なのか・・・?」

「シン・・うん・・ステラ、もうだいじょうぶ・・・」

 シンが声を掛けると、ステラが微笑んで答えた。

「ステラ・・・よかった・・もう治ったんだな・・・!」

 ステラがこれからも生きられると思い、シンが喜んで涙を流した。

「ステラー♪ステラも元気になったんだねー♪」

 ヴィヴィアンも近づいてきて、ステラと手を取り合った。

「ヴィヴィアン・・ヴィヴィアンもともだち・・みんな、ともだち・・・」

「うん♪みんな友達だよ♪」

 ステラが微笑んで、ヴィヴィアンが大きく頷いた。

「シンくん、ルナマリアさん、あなたたちに伝えておかないといけないことがあるの・・」

 ゲッコーがシンとルナマリアを読んで、ステラから離れる。

「私たちの治療によって、薬を投与しなくても精神が不安定になることは大分なくなったわ。でもそれは完全ではない。不安定になる可能性はまだゼロではないし、死を恐れていることは変わっていないから・・」

「分かりました。十分注意します。」

「わざわざありがとうございます。

 ゲッコーからの注意をシンが肝に銘じ、ルナマリアが感謝した。

「本当はもう1日、大きな運動はしないほうがいいのだけど・・今日、戻るのよね?あなたたちの世界に・・」

「はい・・ただ、ステラはもう戦いに加えないつもりです・・戦いに巻き込んだら、それこそステラを怖がらせてしまう・・・」

 ゲッコーからさらに注意を聞いて、シンがステラを気遣う。

「アンジュも、ヴィヴィアンをここに残そうと考えていたみたいだし・・」

「そのことで2人に聞いたんだけど、2人とも、あなたたちと一緒に行って戦うつもりよ。」

「そんな!?・・ステラが危ないことに首を突っ込むなんて・・!」

「あなたたちを守りたいとか悪者をやっつけたいとか考えているみたいよ。あまり邪険にせずに、2人の気持ちも汲んであげて。」

 動揺を浮かべるシンに、ゲッコーがステラたちの気持ちを伝えた。

「いいのか、ステラ?・・オレたちは危ない戦いを続けるんだぞ・・?」

 シンがステラに近づいて、心配しながら問いかける。

「うん・・だからステラ、シンをまもる・・ルナもまもる・・みんな、まもる・・・」

「ステラ・・・ありがとう・・オレたちのために・・・」

 ステラから気持ちを聞いて、シンが感謝した。

「お母さん、ごめんなさいです・・あたし、行かなくちゃ・・」

 ヴィヴィアンがラミアに謝って、元の世界に行くことを伝えた。

「分かったわ・・でもいつかまた、ここに帰ってきて・・お母さんは待っているから・・」

「うんっ!」

 ラミアが言いかけて、ヴィヴィアンが笑顔で頷いた。

「私もあなたたちの仲間と話をしたいからついていくわ。ナーガとカナメも一緒よ。」

 サラマンディーネが同行を進言して、ナーガとカナメも賛同していた。

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 カナタが挨拶して、サラマンディーネと握手を交わした。

 

 イザナギ、デスティニー、インパルス、ヴィルキス、焔龍號、蒼龍號、碧龍號、そしてダイミダラー2型が改良された「ダイミダラー超型」が発進の時を迎えた。

「サラマンディーネ、異世界の者たちよ、そなたらに全ての世界の命運を託す。」

 大巫女がカナタたちに信頼を送る。サラマンディーネたちから話を聞いて、大巫女はカナタたちを信じることにした。

「だが、リザーディアからの連絡が途絶えた。エンブリヲか、ヤツに組する者に捕獲されたと思われる。」

「リザーディアが!?・・これまで以上の注意を払います。」

 大巫女からリィザのことを聞いて、サラマンディーネが深刻な面持ちで頷いた。

「アウラを救い世界を正す。その行く手を阻む敵を討つ。そのための犠牲となることを覚悟しているはずだ。リザーディアもそなたらも、我が同胞も。」

「心得ています。アウラと世界のために、この身を捧げます。」

 覚悟を問う大巫女に、サラマンディーネが真剣な面持ちを浮かべて答えた。

「では皆と行くがよい。竜の戦士たちもすぐに加勢に向かう。」

 大巫女の言葉を背に受けて、サラマンディーネは焔龍號に乗り込んだ。

 カナタたちもそれぞれの機体に乗り、タスクもエアバイクに乗ってヴィヴィアンも同乗した。ラブはイザナギに、ステラはデスティニーに、海潮はダイミダラーに同乗することになった。

「向こうに戻ったら、まずはみんなと合流しよう。グラディス艦長たちも、オレたちを捜しているはずだ・・」

「できるだけ戦闘は避けたいところだ・・ステラたちもいるし・・」

 カナタとシンがこれからのことを話していく。

「そんときはそんときだ!すぐに割り切るしかねぇ!」

「うん・・戻るって決めたんだから、そうするしかないよね・・」

 不敵な笑みを浮かべて言いかける孝一に、海潮が小さく頷いた。

「ランガがやられたってことは聞いた・・早く助け出して、また力を貸してくれよな!」

「孝一くん・・・うん!ランガは生きてる!ランガは必ず助け出すよ!」

 気さくに声を掛ける孝一に、海潮も微笑んで頷いた。

「“シンギュラー”起動!」

 ゲッコーがシンギュラーを使い、空間を歪めて世界をつなぐトンネルを作り出した。

「アウラの民はあれを使ってこことオレたちの世界を行き来していたのか・・」

「私たちの世界から500年後の未来でもあるからね・・その時間だけ技術が進歩したってことだよね・・」

 カナタとラブがアウラの民の科学力を痛感して戸惑う。

「あの穴の先で戦闘の反応!?・・ミネルバが戦っている!?

 ルナマリアがレーダーに映った反応を見て、緊張を覚える。

「どうやら戻ってすぐに戦闘になりそうだな・・!」

 孝一が言いかけて、海潮が深刻さを感じていた。

「私が先頭に出て、ナーガたちが最後尾であなたたちを誘導します。離れないようについてきてください。」

 サラマンディーネがカナタたちに指示を送る。焔龍號が先頭に出て、蒼龍號と碧龍號が後方に着く。

「よし!クロス別働隊、本隊に合流するぞ!」

 カナタが掛け声を上げて、イザナギたちが空間のトンネルに飛び込んだ。

(頼むぞ、サラマンディーネ。そして、異世界の戦士たちよ・・)

 タリアたちのいる世界に戻っていくカナタたちを見届けて、大巫女はアウラの民と共に彼らに全てを託した。

 

 

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