スーパーロボット大戦CROSS
第43話「アウラの民」
別の世界に転移したカナタたちは、ナーガたちに導かれて居住区に辿りついた。そこには人々が暮らしていたが、その全員が女性だった。
蒼龍號、碧龍號が着陸して、イザナギたちも続く。ヴィヴィアンが乗せていたラブ、海潮、タスクも降りて、ステラも降ろした。
そのとき、周りにいた兵士たちが刀を構えて、数人が切っ先をカナタたちに向けてきた。
「おい!何のマネだ!?」
カナタが怒鳴り声を上げるが、兵士に刀を突きつけられて言葉を詰まらせる。ヴィヴィアンも麻酔を打たれて意識を失い、ドラゴンたちに運ばれていく。
「ちょっと!ヴィヴィアンをどうするつもり!?」
アンジュが目つきを鋭くして、兵士たちに問い詰める。
「あの者もアウラの民。龍の姿から人へ戻れなくなっているようだが、すぐに処置を行う。」
蒼龍號から降りてきたナーガが説明をする。
「処置・・何の処置なの!?」
「もちろん、人に戻すために決まっているじゃない。」
ラブが疑問を投げかけると、碧龍號から降りてきたカナメも答えた。
「そしてお前たちには、大巫女様に会っていただく。」
「大巫女様・・・」
ナーガが口にした言葉に、海潮が当惑を覚える。
「我らアウラの民を束ねるお方。無礼は許されんぞ。」
ナーガに忠告されて、カナタ、ラブ、海潮が息を呑む。彼らは連行されて、居住区の奥の城に通された。
「ここで何をしようというんだ・・・?」
「まさか、ここで私たちを処刑しようっていうんじゃ・・!?」
カナタが緊張を、ラブが不安を膨らませていく。
「異界の女、そして男か。」
壇上の幕の奥から声がした。声色は女性だが、カナタたちはその正体を伺うことができない。
「そなたら、名は何と申す?」
「人に名を尋ねるときは、まずは自分から名乗るものじゃないの?」
問いかける大巫女に、アンジュが不満げな態度で聞き返す。
「貴様、大巫女様になんという無礼を・・!」
ナーガが憤りを覚えて刀を構える。
「特異点は開いておらぬはず。どうやってここへ来た?」
「だから、まずはアンタから名乗りなさいよ!」
構わずにさらに問いかける大巫女に、いら立ちを募らせたアンジュがナイフを手にして飛びかかった。だが彼女の振りかざしたナイフが、幕の前から出てきた刀に止められた。
「フフ・・威勢のいことで。」
別の声が発せられて、聞いたアンジュが目を見開く。彼女が刀に押し返されて、壇上から落とされた。
「アンジュ!」
「大丈夫!?」
タスクと海潮がアンジュに駆け寄る。痛みを感じながら、アンジュが立ち上がって壇上を見上げる。
「まずは私から自己紹介をさせてもらいましょうか。」
「あなた・・!?」
姿を現した声の主に、アンジュが目を見開く。
「真祖アウラの末裔にして、フレイアの一族が姫、近衛中将、サラマンディーネ。」
アンジュたちの前に現れたのは、サラマンディーネだった。
「大巫女様、この者たちの処遇、私に任せてもよろしいでしょうか?」
「よかろう。あの者たちの真意、そなたの目と心で見極めるがよかろう。」
サラマンディーネがアンジュたちへの対応を頼み、大巫女が了承した。
「かしこまりました・・・ということでみなさん、私についてきてください。」
サラマンディーネが礼を言って、壇上を降りてアンジュたちの前に来た。
「何を使用っていうんだ?・・オレたちを処刑するつもりか!?」
カナタがサラマンディーネを警戒して身構える。
「そのような手荒なマネはしませんわ。もっとも、あなた方がそれをお望みなら、それでも構いませんが・・」
サラマンディーネが冷静に答える。そのとき、彼女は眠り続けているステラを目にして、顔から笑みを消した。
「彼女の体、正常ではないようですね。そのために精神も不安定になっているのではないでしょうか?」
「アンタ、ステラのことが分かるのか・・!?」
ステラの状態を見抜いたサラマンディーネに、シンが当惑する。
「彼女もドクター・ゲッコーの元へ。可能な限り治療いたしましょう。」
「治せるのか!?ステラの体を・・彼女が死なないようになるのか!?」
「ドクター・ゲッコーは性格に難はありますが、腕は確かです。それに、この世界の科学力は、あなたたちの世界よりも進んでいるわ。」
問いかけるシンにサラマンディーネが答えると、科学者たちがステラに歩み寄ってきた。
「これより治療室へ運びます。」
科学者がステラをストレッチャーに乗せて運び、シンたちが思いつめた面持ちで見送った。
「ではあなた方はこちらへ。」
サラマンディーネが呼びかけて、カナタは頷いてからラブたちと共についていった。
カナタたちが案内されたのは、1つの和室だった
「えっと・・これって・・日本の和室・・・!?」
ラブが部屋の中を見て、戸惑いを覚える。
「ということは私たち、捕虜じゃなくて客として歓迎されているってこと・・・!?」
ルナマリアが声を荒げると、サラマンディーネが微笑みかけてきた。
「まずは食事にしましょう。しばらく何も食べていないはずですから・・」
サラマンディーネが声を掛けると、和室に食事が運ばれてきた。
「これってもしかして・・おもてなしされている・・・?」
その様子を見て海潮が唖然となる。
「和食はお気に召さなかったかしら?よかったら洋食を用意しましょうか?」
「い、いえ、和食も和室も大丈夫です。だけど、オレたちとアンタたちは敵同士のはずだろ・・!?」
気を遣うサラマンディーネに答えるも、カナタが疑念を投げかける。ドラゴンやサラマンディーネたちは、アンジュたちだけでなく、カナタたちクロスとも対峙していた。
「私たちにもあなたたちにも、戦うべき理由があった。自分自身を守るため、真の平和を取り戻すため、負けることが許されない戦いが・・」
「そのために私たちの仲間を殺したっていうの・・!?」
語りかけるサラマンディーネに、アンジュが不満を募らせていく。
「あなた方も、私たちの同士を手に掛けました。その怒りは私たちの中にもあるのです。」
サラマンディーネは冷静さを保って、アンジュに言葉を返す。
「しかしそうやってただ憎み合い殺し合うだけでは、真の敵の思うつぼです。敵を討つために、私たちが分かり合うこともできません。」
「同じ敵がいるから仲直りしましょうって言うつもり?悪い冗談もいいところよ・・!」
サラマンディーネが提言しても、アンジュは不信感を消さない。
そのとき、お腹の鳴る音が和室に響いた。直後にラブがお腹に手を当てて、顔を赤くする。
「ウフフ。まずは食事にしましょう。冷めてしまうのもよくないし。」
サラマンディーネが笑みをこぼして、並べられた料理に目を向ける。
「でも私たち、この世界のお金を持っていなくて・・・」
「構いません。あえて言うなら、私たちにお付き合いしていただくことが、料金代わりというところかしら。」
困った顔を浮かべるラブに、サラマンディーネが笑顔で答えた。
「それじゃ、お言葉に甘えることにしますね。エヘヘ・・」
「何を考えているの?敵が出すものなのよ。毒でも盛られていたらどうするのよ・・!?」
照れ笑いを見せて誘いに乗るラブを、アンジュが呼び止める。
「このまま何も食べなくたって飢え死にするだけだよ・・どうせ死ぬんだったら、おいしいものを食べてからのほうがいいよ・・・!」
ラブは空腹を訴えて、料理を食べに向かった。
「私たちはそのような卑劣な手段は使いません。さぁ、あなた方もどうぞ。」
「確かにラブちゃんの言う通りだ・・腹が減っては何とやらだ・・・」
サラマンディーネに呼びかけられて、カナタは料理を食べることを決めた。
「おいしい!今まで食べた和食の中で1番おいしいです!」
ラブが料理の味に感嘆する。カナタもシンたちもそれぞれ料理を口にした。
「確かにおいしい。何かが入れられている感じもないな・・」
シンも不信感を弱めていって、ルナマリアも同意していた。
「あなたもどうぞ、アンジュ。」
サラマンディーネに促されて、アンジュが渋々食事をとることにした。
食事を済ませたカナタたちは、小休止を取っていた。最後に食べ始めたアンジュは、まだ食事を続けていた。
「お気に召して何よりだわ。食後の休憩をしてから、場所を変えて話をしましょう。」
サラマンディーネがカナタたちを促す。食事を済ませたところで、アンジュは持っていた箸の1本を持って、サラマンディーネを後ろから捕まえた。
「動かないで!動けばこの女の頭に風穴が空くわよ!」
アンジュがサラマンディーネを人質にして、ナーガたちに忠告する。
「貴様、卑劣なマネを・・!」
すぐに刀を抜けるように構えるナーガだが、サラマンディーネの身を案じて手が出せない。
「他は全員ここから出て!私たちから離れて!」
「ちょっと、アンジュ!そんなことしたらもっと大変なことになっちゃうよ!」
ナーガたちを引き離そうとするアンジュに、海潮が怒鳴る。
「わざわざそのような手に出る必要はないですよ。始めから私はあなたたちに話をするつもりでしたから・・それに・・」
サラマンディーネは冷静に言いかけると、尻尾を振りかざしてきた。眼前を尻尾が横切り、アンジュが不意を突かれて注意を乱された。
その隙にサラマンディーネが箸を突きつけていたアンジュの右手をつかんでひねり上げた。痛みのあまりに持っていた箸を落として、アンジュはさらにサラマンディーネに投げられて、畳に叩きつけられた。
「アンジュ!」
倒されたアンジュにタスクが叫ぶ。
「対人戦闘やつかまれたときの対処は心得ています。」
自信を込めた笑みを見せて、サラマンディーネがアンジュの腕を放した。
「強い・・あの機体の操縦だけでなく、彼女自身も・・・」
「刀も持っていることから、剣術の方もかなりのはずだ・・・」
ルナマリアとシンがサラマンディーネの実力を理解した。
「お騒がせしました。では改めて行きましょう。」
サラマンディーネに呼ばれて、カナタたちが頷く。起き上がったアンジュが、サラマンディーネを鋭く睨みつけていた。
カナタたちはサラマンディーネに導かれて、神殿に奥に来た。そこは洞窟内の大きな空洞の広場で、天井や壁に光り輝く宝石のようなものが点在していた。
「きれい・・宝石やクリスタルみたいだけど・・・」
「それだけじゃない。不思議な力が込められているみたいだ・・」
ラブとカナタが宝石を見て戸惑いを覚える。
「これは“ドラグニウム”。多元世界に干渉する力です。」
サラマンディーネが宝石、ドラグニウムについて語り始める。
「ドラグニウムは500年以上前から存在していました。しかしドラグニウムの暴走によって、この世界の崩壊が引き起こされたのです。」
「その生き残りの子孫が、あなたたちというわけですね。」
説明をしていくサラマンディーネに、カナタが言いかける。
「それから私たち人類は遺伝子を操作して、ドラグニウムを身に宿し、地球の浄化を行っているのです。」
「遺伝子操作・・それであのドラゴンのような姿になったんだね・・」
サラマンディーネが話を続けて、ラブがドラゴンの姿を思い返す。
「それじゃ、私たちが戦ってきたドラゴンはみんな・・この世界の人間だったというんですか・・・!?」
「えぇ。女性はこのように人の姿に戻ることが可能ですが、男は竜の姿のままです。」
海潮が問いかけて、サラマンディーネが頷く。神殿の外には巨大なドラゴンが数体待機していたのを、カナタたちは目撃していた。
「私の乗る焔龍號の収斂時空砲と同等の力を放ったヴィルキス。あの武装や能力にも、ドラグニウムが使われています。」
「何だって!?」
サラマンディーネのこの言葉に、カナタが驚きの声を上げる。
「ヴィルキスだけではありません。あの男、エンブリヲの所有する“ラグナメイル”という機体にも、ドラグニウムが使われていることが分かっています。そしてあなた方の世界で使われているマナという力にも・・」
「マナの光が!?あれは私たちの世界に存在していた力よ!それに何故あなたたちの世界が関わってくるのよ!?」
ヴィルキス、ラグナメイル、マナについても語っていくサラマンディーネに、アンジュが驚愕する。
「あなたの世界では、マナは魔法の力で、その1人1人の能力とされていますが、ドラグニウムの消費によって発動されているのです。私たちの始祖であるアウラを捕獲し、あの方のドラグニウムを供給源としているのです。」
「そんな!?・・マナに、そんなカラクリがあったなんて・・!?」
サラマンディーネの話に、タスクも驚きを隠せなくなる。
「しかしアウラのドラグニウムだけでは、マナを維持することはできません・・私たちはアウラ奪還のため、あなたのいる世界を訪れました。しかしその世界にいるノーマの部隊と交戦となり、討たれた同志の亡骸にあるドラグニウムも利用されたのです・・」
「ということは、ノーマがドラゴンを倒してきたのは、ドラゴンが持っているドラグニウムをマナに利用するためだっていうの・・!?」
深刻な面持ちを浮かべるサラマンディーネの言葉を聞いて、ルナマリアがノーマの戦いの真実を理解する。
「アンジュ、アンタたちはそれを知ってたのか!?ドラゴンたちを倒すのが、そんなことだってことを・・!」
「し、知らないわよ!ただでさえ、ドラゴンが人間だったって聞いて、ドラゴンと戦うのに嫌気がさしてるのに・・そんなことのために、私は戦いたくないわよ!」
シンが問い詰めて、アンジュが感情を込めて反論する。
「そう。あなたは、何も知らなかっただけよ、アンジュ・・いえ、ミスルギ皇国皇女、アンジュリーゼ。」
サラマンディーネがアンジュに視線を移して言いかける。
「私の本当の名前まで・・!」
「あなたのことはよく聞いています、リザーディアから・・あなたの世界ではこう名乗っています。ミスルギ皇国近衛長官、リィザ・ランドッグと。」
サラマンディーネの口にした言葉に、アンジュが困惑する。リザーディアはリィザとしてアンジュやミスルギ皇国、世界の動向をつかんで、サラマンディーネに報告していた。
「まさか、私がノーマであることを暴いて、私をアルゼナルに追放したのは・・!?」
「それはあなたの兄が企てたことです。リザーディアの任務は、情報収集と監視ですので・・」
問い詰めるアンジュに、サラマンディーネが冷静に答える。
「全てはあの男の掌の上で踊らされていることなのです。一部からは神と呼ばれているあの男、エンブリヲに・・」
「エンブリヲ・・もしかして、ミスルギ皇国にアルゼナルが攻撃されたときに現れた・・・!」
サラマンディーネがエンブリヲのことを言って、カナタが彼とヒステリカを思い出す。
「ステラを連れ出して、オレたちを思い通りにしようとしたヤツ・・許してはおかないぞ・・・!」
シンがエンブリヲに対して怒りを感じていく。
「エンブリヲがアウラをさらった張本人。そして偽りの世界を作り上げた人物でもあるのです。」
「えっ!?世界を作った!?」
サラマンディーネが話を続けて、カナタが驚きの声を上げる。
「アンジュの世界を含めて、一部の世界がヤツによって作られたのです。マナの光も、ノーマを憎む人類も・・」
「あの男が、世界や人類までも作ったっていうんですか・・!?」
「しかし全てをヤツが掌握しているわけではありません。先日起こった世界の融合も、ヤツにとっては想定外だったようです。」
「世界の融合・・オレとカンナが、イザナギとイザナミで引き起こした・・・!」
サラマンディーネとの会話の中で、カナタはカンナとの対決も思い出す。
イザナギとイザナミのディメンションブレイカーのぶつかり合いによって、次元が歪められ、あらゆる世界が混ざり合った。エンブリヲが操作したマナの世界も。
世界の融合はエンブリヲの手中の範囲外の出来事だった。
「アンジュたちだけでなく、あなた方と出会えたことは、私たちにとって幸運と言えるでしょう。」
「オレたちの力が、エンブリヲを倒してアウラって人を助ける切り札になるってことか・・」
「もちろんアウラ奪還は、私たちが先陣を切ります。私たちとあなたたちが力を合わせなければ、エンブリヲの思惑通りになってしまいます・・」
「共通の敵を倒すために、協力しろということなのか・・」
微笑みかけるサラマンディーネの考えに、カナタは共感しようとしていた。
「私は反対よ。アンタたちと戦う気は失せているけど、私たちの仲間を殺したという事実は変わらない。たとえお互いに、やり遂げないといけない戦いだとしても・・」
アンジュがサラマンディーネたちとの協力を拒否してきた。
「あの男は私が倒す。ヴィルキスの力をうまく使えるようになれば・・!」
アンジュはヴィルキスが発揮した驚異の力のことを考えていた。彼女はその力を使い、エンブリヲを倒すつもりでいた。
「ムチャだよ、アンジュ。いくらヴィルキスがすごいからって、あなただけで何でもできるわけないでしょ・・!」
「そうだよ!今は私たちがいる!・・今は私はランガがいなくてどうにもならないけど、まだできることがあるはずだよ・・・!」
ルナマリアと海潮がアンジュをなだめる。しかしアンジュはサラマンディーネたちへの不信感を消さない。
「威勢がいいことね。ではこういうのはいかがでしょう?私とあなたで、1対1の勝負をするのです。焔龍號とヴィルキスでの真剣勝負。」
サラマンディーネがアンジュに挑戦状を叩きつけてきた。
「負けた方が勝った方の言うことを聞く。単純なルールです。」
「勝った方の言うことを聞く・・確かに分かりやすいわね・・」
サラマンディーネの誘いにアンジュが乗ってきた。
「ダメだよ、アンジュ!アンジュだけが戦うなんて・・!」
2人の対決をタスクが止めに入った。
「オレはヴィルキスの騎士。そしてヴィルキスに乗るアンジュの騎士だ。アンジュだけを危険にさらすようなことはできない・・!」
「タスクさん・・・」
アンジュを守ろうとするタスクに、海潮が戸惑いを感じていく。
「すばらしい騎士がいるのですね。そこまで入れ込むということは、アンジュに想いを寄せているということですね。」
「なっ・・!?」
サラマンディーネが投げかけた言葉に、タスクとアンジュが驚きの声を上げる。
「あ、あくまで騎士というだけで、そこまで深入りしてしまうのは、アンジュに失礼というか・・!」
「ちょっとアンタ!またいやらしいことを企んでるんじゃないでしょうね!?」
動揺するタスクに、アンジュが文句を言う。2人のやり取りを見て、サラマンディーネが笑みをこぼす。
「タスクさんといいましたか。少しお話をしてもいいでしょうか?」
サラマンディーネに呼ばれて、タスクが眉をひそめる。2人はアンジュやカナタたちから距離を置いて話をする。
「アンジュを傷付けたいわけではありません。あくまで試合の延長線上だと思えばいいのです。」
「それでもオレは許可できない。それにわざわざそんなことをしなくても・・」
自分の意思を伝えるサラマンディーネだが、タスクは苦言を呈する。
「では、これはいかがでしょうか?」
するとサラマンディーネが数枚の写真を撮り出した。
「そ、それは・・!?」
それを見てタスクが目を見開いた。写真に写っていたのはどれもアンジュ。中にはアンジュリーゼだった頃のものもあった。
「もしも勝負のことを了承していただけるなら、これを差し上げましょう。」
「こ、これをオレに!?・・アンジュの写真が・・・!」
「了承していただけますか?」
「あ、あぁ・・・!」
写真を受け取ってサラマンディーネの誘いに乗ってしまったタスク。
(やりました・・計画通りです・・・!)
彼やアンジュたちに見えないように、サラマンディーネは勝ち誇っていた。
「話は済みました。では勝負を始めましょうか。」
「えぇ。でもその前に・・」
振り向いたサラマンディーネに答えて、アンジュがタスクに近づいた。
「アンタ、何をもらっているのよ・・!?」
「えっと、実は、その・・」
アンジュに問い詰められて、タスクが口ごもる。アンジュがタスクが写真を持っていることに気付き、取り上げた。
「あっ・・!」
タスクが慌てる前で、アンジュが写真を見た。
「なっ!?・・・アンタ・・こんなことで懐柔されたっていうの・・・!?」
「あ、いや、それは、その・・アンジュの写真なんて滅多に手に入らないから、つい・・・!」
赤面して怒り心頭に発するアンジュに、タスクが言い訳をする。
「没収!永久に消滅させてやる!」
「あ、あの・・それオレのー・・・」
写真をアンジュに持っていかれて、タスクが大きく肩を落とした。
居住区の傍らにある屋外の闘技場。アンジュとサラマンディーネはそれぞれヴィルキス、焔龍號に乗り込んだ。
「この闘技場から外に出るか、地上に落ちれば負けです。」
「分かりやすいルールね。どんなやり方でも、勝つのは私だけど。」
説明をするサラマンディーネに、アンジュが強気な態度を見せる。
「またお戯れを・・それでいて負けず嫌いのところもあるから、なおのこと手を焼く・・」
「サラマンディーネ様もあの人たちも、お互いに力を合わせようと考えている。でもそう簡単に話が進んでも面白くないと思ったんじゃないかな。」
苦言を口にするナーガに、カナメが笑みをこぼした。2人は緊張の面持ちを浮かべているカナタたちに目を向けた。
「ここまで話が進んでいるなら、あの者を連れ出してもいいかもしれないな。」
「でもドクター・ゲッコーたちと遊んでいるんじゃないかな。」
「手玉に取られていたヤツが、ここにいる女たちを手玉に取ってしまった・・見苦しいほどに・・・」
「サラマンディーネ様が何度かお仕置きをしたけど、全然懲りてないね・・」
ナーガとカナメがある人物のことを話していたときだった。
「おー!お前らー!」
突然大声が響き渡り、カナタたちが振り向いた。彼らの前に現れたのは、女性たちを引きつれた孝一だった。
「えっ?えっ!?こ、孝一!?」
「あっ!おーい!お前らもこっちに来てたのかー!」
カナタが驚き、孝一が彼らに気付いて大きく手を振った。
「ウ、ウソじゃないよね!?・・本物の孝一だよね!?」
「おいおい、何言ってんだよ!オレは本物の真玉橋孝一だぜ!」
海潮が問いかけると、孝一が高らかに答える。
「お前あのとき、ダイミダラーとあのペンギンロボの爆発に巻き込まれて・・・!」
「そうよ!・・恭子さんは生きていたけど、あなたのことは捜索隊が捜し回っても見つからなかったのよ・・!」
シンとルナマリアが孝一が消えたときのことを思い出す。ダイミダラーとともに孝一も爆発に巻き込まれて、生死不明となっていた。
「オレも正直死んだかと思ったぜ。だけどオレは死んでなくて、気が付いたらここの病室で目が覚めたんだ。治療されたんだろうけど、それ以外に何かされたんじゃねぇかって気がしてるんだ・・」
孝一が記憶を呼び起こしながら、今までのことを話していく。
「もしかしてあの瞬間、次元を超えてこの世界に飛ばされたってことなのか・・・!?」
カナタが推測を巡らせて、孝一の経緯について考える。
「でも何かされたって、何を・・?」
「まさか、改造とか調整とかされたってこと・・!?」
海潮とラブが孝一のことを考える。
「いや、目が覚めたときは、あのペンギンロボと戦ってたときと大して変わってなかった・・そんな物騒なマネはされてねぇはずだ・・!」
孝一が答えて、両手を握ったり開いたりして自分の体の感覚を確かめる。
「それにしても、ここはパラダイスだなぁ〜♪美女がより取り見取りで〜♪しかもここは男はみんなドラゴンになっちまってるから、人の姿をした男が珍しくて、オレに面白おかしく寄ってきてくれて〜♪」
孝一がアウラの民の女性たちに対して、大喜びする。彼はいつも美女に囲まれる日々を過ごして、完全に有頂天になっていた。
「孝一ったら・・何なのよ、もう・・・」
「心配した私たちがバカみたいじゃない・・・」
ルナマリアと海潮が孝一の体たらくに呆れ果てる。
「しっかし、あのサラマンディーネとあそこにいる2人は手ごわかったなぁ・・お仕置きされたり逃げ回ったりする間に、オレは前よりパワーアップできたけどな!」
孝一が焔龍號とナーガ、カナメに目を向けて肩を落としてから、鍛えられたことを実感する。
「クロスのことはこっちのみんなから聞いてるぜ。だけどおめぇら、どうやってこっちに来たんだ?」
孝一が落ち着きを取り戻して、カナタたちに問いかけてきた。
「ヴィルキスが変化して、不思議な力を発揮したんだ。空間を歪めて超える能力を・・」
「ヴィルキスもか!?」
カナタが説明をして、孝一が驚きの声を上げる。
「世界を飛び越えるのが、イザナギだけじゃなく、ヴィルキスもだったのかよ・・この世界じゃ特異点ってのを開いて行き来してるっていうのに・・!」
「特異点・・そんなシステムを使って、ドラゴンは、アウラの人たちは空間を超えていたのか・・・」
孝一の話を聞いて、カナタが納得していく。
「ま、今はあの勝負を見ようぜ。サラマンディーネとアンジュの勝負をな。」
孝一が話を切り替えて、カナタたちとともに視線を移した。彼らの見ている前で、アンジュとサラマンディーネ、ヴィルキスと焔龍號の真剣勝負が始まろうとしていた。