スーパーロボット大戦CROSS
第42話「殲滅の歌」
ジュリオにとどめを刺そうとしたアンジュたちの前に、エンブリヲとヒステリカが姿を現した。
「誰だ、お前は!?連合軍か!?」
シンがエンブリヲに向かって問いかける。
「私はその程度の存在ではないよ。だが知らないままというのも私が困るな・・私はエンブリヲ。多くの者が神だと呼んでくるが、私としては好ましくない・・“調律者”とでも呼んでもらおうか・・」
エンブリヲが答えて、悠然とした態度を見せる。
「神?調律者?何をわけの分からないことを・・!」
彼の言ったことが分からず、シンがいら立ちを浮かべる。
「エ、エンブリヲ様!コ、コイツを、アンジュリーゼをぶっ殺してください!今すぐに!」
ジュリオがエンブリヲに助けを求めて、ヴィルキスを指さした。
「私がやろう。アンジュ、君の罪は、私が背負う。」
エンブリヲが言いかけて、ジュリオが笑みをこぼした。エンブリヲが目を閉じて、歌を口ずさむ。
「この歌・・永遠語り!?・・なぜ、アイツが・・・!?」
アンジュがエンブリヲの歌に耳を疑う。永遠語りを受けて、ヒステリカが両翼を広げて、エネルギーを集めていく。
「あのときと・・アンジュとあのドラゴンの機体が使ったのと同じ・・・!」
カナタがヴィルキスの砲撃と焔龍號の収斂時空砲の撃ち合いを思い出した。
「みんな、離れろ!あの機体、すごい出力で撃ってくるぞ!」
カナタがとっさに呼びかけて、イザナギがデスティニー、ヴィルキスと共に後退していく。ヒステリカが次元破壊砲「ディスコードフェイザー」を発射した。
だが砲撃が放たれた方向はイザナギたちのほうではなく、ジュリオのいる戦艦のあるほうだった。
「そ、そんな!?エンブリヲさまー!」
断末魔の叫びを上げるジュリオが、砲撃の閃光に襲われて、戦艦諸共消滅した。
「どうしてアイツを!?・・仲間じゃなかったのか!?」
「仲間?実に愚かしい男だったよ。そんな愚か者を手に掛ける愚かさを、彼女が犯してはいけない・・」
憤りを浮かべるシンに言い返して、エンブリヲがヴィルキスに、アンジュに視線を移す。
「アンジュ、君は美しい。君の怒りは純粋で白く、そして何よりも熱い。理不尽や不条理に立ち向かい焼き尽くす炎のように、気高く美しい炎・・だから、つまらないものを燃やして、その炎をけがしてはいけない・・」
「何を言っているのよ・・いきなり出てきておかしなマネをして、しかも口説いてきてるんじゃないわよ!」
絶賛を送るエンブリヲを気色悪く思い、アンジュが怒鳴る。
「ジュリオも気に入らなかったけど、アンタもアンタで最低のようね!」
アンジュが言い放ち、ヴィルキスがアサルトライフルを発射する。ヒステリカが飛翔して射撃をかわす。
「逃がすか!」
シンもエンブリヲを敵視し、デスティニーとイザナギもビームライフルを発射する。ヒステリカは素早く動いて、ビームをかいくぐる。
「なかなかの力の持ち主のようだ。だがお前たちはその力を利用されている。」
「何っ・・!?」
笑みをこぼすエンブリヲの言葉に、カナタが疑問を覚える。
「これはオレたちの意思で使っている力だ!誰かにいいように操られているわけじゃない!」
「それはどうかな?お前たちの力は、誰かから与えられたものだ。それを自分が使いこなしていると思い込んでいるだけだ。」
言い返すカナタを、エンブリヲが嘲笑を送る。
「確かにイザナギを開発したのはゼロス博士だ・・だが、博士はオレやラブを信じてこのイザナギを託してくれた・・オレたちなら、この力を最大限まで引き出して、正しいことに使えるって信じて・・!」
正直な思いを口にするカナタ。彼はゼロスたちのイザナギに対する思いを受け止めていた。
「君も度し難いものだ・・・やはり招き入れるのは、アンジュだけだ・・・」
エンブリヲがため息をついて、ヴィルキスに目を向けた。
「私をどうかしようとしても、思い通りにはならないわよ!」
アンジュが言い放ち、ヴィルキスがラツィーエルを構えた。
ヒステリカの介入での戦いの激化に、サリアたちもアムダも気付いていた。
「またあの破壊力の敵が現れた・・・!?」
サリアも焔龍號のことを思い出して、危機感を募らせていく。
「アハ〜♪あっちのほうが面白そうかも♪」
アムダが喜びを浮かべて、ピンギーがイザナギたちのところへ移動を始める。
「待ちなさい!お前の相手は私たちよ!」
サリアが言い放ち、アーキバスがピンギーに向かってドラゴンスレイヤーを振りかざす。しかしピンギーに軽々とかわされる。
「君たちじゃ僕の相手は務まらないよ。もう楽しむ点なんてないよ。」
アムダがため息をついて、ピンギーが高速でアーキバスに突っ込む。アーキバスが回避も迎撃もできずに、ピンギーの突撃に翻弄されていく。
「遊びのために戦いを起こすなんて・・お前もふざけないで!」
サリアが不満を浮かべて、アーキバスがドラゴンスレイヤーを振り下ろす。だがピンギーの光を宿した両手にドラゴンスレイヤーが挟まれて受け止められた。
「そんな!?・・アーキバスの・・私の力が通じない・・・!?」
自分の力が止められたことに、サリアが驚愕する。
(私はジルのため、この世界のために戦っている・・この気持ちは強く、力になっているはずなのに・・・!?)
自分の信念までも揺さぶられて、サリアは困惑していく。
かつてジルもメイルライダーとして戦線に出ていた。しかしヴィルキスを使いこなすことができず、彼女は負傷して右手を失った。
ジルに代わって使命を果たすことを、サリアは幼少の時に誓った。司令官となったジルの指揮下で、サリアはメイルライダーとなって戦ってきた。
自分がジルに認められたい。その願望もサリアの中にはあった。
だがアルゼナルで最高の機体であるヴィルキスを与えられたのは、サリアではなくアンジュだった。自分がアンジュよりも劣っているとジルに思われているという劣等感が、サリアの胸を締め付けた。
それでもいつかジルが認めてくれる。その気持ちがサリアの心の支えになっていた。
しかしこの希望がピンギーの力の前に打ち砕かれたかのように、サリアの心は折れてしまった。
「やっぱりつまんないよ・・単純な強さも僕とピンギーには全然敵わないし・・」
アムダがため息をついて、ピンギーが両腕を振ってドラゴンスレイヤーをはじき飛ばした。
「サリア!」
「危ない!逃げて!」
ヒルダと霧子がサリアに向けて呼びかける。
「ピンギービーム!」
ピンギーが口から高出力の光線が放たれ、アーキバスが至近距離から受けた。アーキバスが腕と足を吹き飛ばされ、海中に落下した。
「ウソだろ!?・・クリスだけじゃなく、サリアまで・・・!?」
ロザリーがピンギーに脅威を覚えて、愕然となる。
「君たちにももう興味がないんだよね。邪魔しなきゃやっつけないから、バイバーイ♪」
アムダが明るく手を振って、ピンギーがグレイブたちの前から去っていった。
「サリアとクリスを捜しに行くぞ・・!」
「あ、あぁ・・!」
ヒルダが憤りを噛みしめながら呼びかけ、ロザリーが頷いた。グレイブがサリアたちを捜しに、海上まで降下した。
サリアたちが海に落ちただけでなく、エルシャもアルゼナルから出てこないことに、ラブたちは不安を膨らませていた。
「ヴィヴィアンちゃんはあのタスクさんって人が助けてくれたけど、まだエルシャさんが・・・!」
ラブがアルゼナルを見つめて、メイに振り向いた。
「メイさん、私もアルゼナルに下ろしてください!エルシャさんを連れ戻さないと!」
「ムチャだよ!戦闘の真っ只中に何の機体も乗らずに行くなんて、死にに行くようなもんだよ!」
呼びかけるラブをメイが呼び止める。
「だって、あのままアルゼナルにいたら、エルシャさんもみんなも・・!」
アルゼナルで繰り広げられている戦いに、ラブが悲しみと辛さを膨らませていた。
「これ以上・・大切な人がいなくなるのはイヤ・・・!」
ラブの脳裏にハイネやタマキの死がよみがえってくる。大切な人の死が、彼女の心を突き動かしていた。
「イヤなんだよ、もう!」
悲痛の叫びを上げた瞬間、ラブの体から光があふれ出した。
「この光・・ミスルギ皇国で出した・・・!」
夕姫が光を見て記憶を呼び起こす。
「ドアを開けて・・でないと壁を壊してでも、外へ出る・・」
ラブが壁に手を当てて、メイに呼びかける。彼女の先程までの感情が消えて、無表情となっていた。
「いい加減にしなさい!そんなことをしたら、この飛行機が落ちるのよ!そうなったらあなたも私たちもみんなおしまいよ!」
魅波が声を荒げてラブを呼び止める。
「だから見捨てていいことにはならない・・・」
ラブが飛行艇のドアに近づいて手を当てた。するとかかっているはずのロックが外れて、ドアが開かれた。
吹き込んでくる風の圧力に魅波たちが煽られる中、ラブが飛行艇から1人飛び降りた。
「ラブ!」
夕姫が叫ぶ先で、全身から光を発しているラブが、ゆっくりと降下してアルゼナルに向かっていく。
そのとき、近くにビームが飛び込み、ラブが体勢を崩して海に落下していく。
「危ない!」
「マナの・・!」
隼人が叫び、モモカがマナを使ってラブを助けようとした。そこへ海潮とタスクの乗るボートが駆けつけて、海潮がラブを受け止めた。
「ラブ、大丈夫!?」
「う、海潮!・・あ、あなたはあのときの・・!」
心配の声を掛ける海潮だけでなく、ラブはタスクにも驚く。
「今は厄介な相手がいる・・残念だけど、今はアルゼナルを離れるしかないよ・・・!」
タスクがラブたちに告げて、焦りを噛みしめる。彼はイザナギたちと交戦しているエンブリヲとヒステリカを見ていた。
「でもエルシャさんや他のアルゼナルの人たちがまだ脱出していないですよ・・!」
「アレクトラなら・・ジルなら脱出しているはずだ・・他のみんなを連れて・・・!」
不安を募らせるラブに、タスクがジルのことを考えて答える。
「これ以上アルゼナルにいるのは危険だ!早く脱出するんだ!」
タスクが飛行艇を見上げて、戦線離脱を伝える。
「グラディス艦長、ジルならアウローラで脱出しているはずです!私たちも撤退しましょう!」
彼の意思を汲み取ったメイが、タリアに呼びかける。
「全機、帰艦!アルゼナルから撤退する!」
タリアが指示を出し、レジェンド、ダイミダラー、グレイブがミネルバと飛行艇に戻っていく。
「シン、戻れ。帰還命令が出たぞ。」
レイが帰艦を促すが、シンたちはエンブリヲとの交戦を続けていた。
「艦長、デュートリオンビームを!私がシンたちを連れ戻します!」
ルナマリアがシンたちを助けようと考えて、タリアに呼びかけてきた。
「いや、オレが連れ戻す。ルナマリアは戻れ。」
「レイはミネルバを守って!私が連れ戻すから!」
口を挟むレイにも、ルナマリアが言いかける。
「艦長、インパルスにデュートリオンビームを。自分がミネルバを護衛し、ルナマリアがシンたちを連れ戻すほうが、効率がいいと思います。」
レイがルナマリアの意思を汲み取り、タリアに進言した。
「レジェンドとデスティニーはデュートリオンと核のハイブリッドエンジン。インパルスにデュートリオンビームを発して、エネルギーを送ることも可能です。」
「分かったわ、レイ・・ビーム照射はこちらからするわ。レイは下がって。」
レイの言葉を聞き入れて、タリアが改めて指示を送った。ミネルバからのデュートリオンビームを受けてエネルギーを回復させたインパルスが、デスティニーたちの援護に向かった。
イザナギたちの攻撃をかいくぐっていくヒステリカ。エンブリヲがアルゼナルの戦況を確認して、ミネルバと飛行艇も目撃した。
「向こうも引き上げるようだ。ならば私も話を進めるとしよう。」
エンブリヲが顔から笑みを消して、ヒステリカがヴィルキスに近づいていく。
「そんなに私にやられたいの!?」
アンジュがいら立ちを募らせ、ヴィルキスがラツィーエルを構える。ヒステリカが右腕からビームソードを発して、ラツィーエルとぶつけ合う。
「アンタの思い通りにはならない!私は、誰かのいいようにはならない!」
アンジュが怒りを燃やしたとき、彼女の身に着けていた指輪が光り出した。同時にヴィルキスの胴体が赤く染まった。
ヒステリカがヴィルキスに押され出す。
「久々に秘められた力を引き出したか・・“ビルキス”。」
ヴィルキスの変化を目にして、エンブリヲが喜びを感じる。ヴィルキスに突き飛ばされるも、ヒステリカは上空で留まった。
「ヴィルキスが変わった!?・・力が増している・・・!?」
アンジュもヴィルキスに対して驚きを感じていた。
ヴィルキスは秘められた能力の1つ「ミカエルモード」を発動した。赤色のミカエルモードになったヴィルキスは、攻撃力が飛躍的に増していた。
「すばらしい・・ますます楽しみが増えたというものだ。」
エンブリヲが笑みをこぼして、ヒステリカが再びヴィルキスに近づいていく。
「しつこいヤツめ!」
「これ以上、お前に戦いをかき回されてたまるか!」
カナタとシンが言い放ち、イザナギとデスティニーがビームサーベルとアロンダイトを突き出した。ヒステリカが2機の突撃を飛翔してかわす。
「他には用はないのだが・・・」
カナタたちを邪魔に思い、エンブリヲがため息をつく。
「私の邪魔をしないでもらおうか。さもなければ、この少女が危険にさらされることになる・・」
エンブリヲが忠告して両腕を掲げた。突然現れたステラが、彼の腕に抱かれた。
「ステラ!?」
「何であの子がここに!?」
シンとアンジュがステラを目の当たりにして、驚愕する。
「その子に何をしたんだ!?ジブラルタルから連れ出したのか!?」
「これも保険というものだ。君たちを思い通りにするためのね。」
カナタが問い詰めて、エンブリヲが悠然と語っていく。
「お前・・ステラを放せ!」
怒りを覚えるシンの中で、何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされて、デスティニーのスピードがさらに速まった。
「頭に血が上ると、この娘が無事では済まなくなるぞ。」
エンブリヲが忠告するが、デスティニーは止まることなくヒステリカに組み付いてきた。その衝撃を感じたエンブリヲが、ステラを手放して落とした。
「ステラ!」
シンが呼びかけ、デスティニーがヒステリカから離れて、手を伸ばしてステラを受け止めた。
「ステラ、大丈夫か!?ステラ!」
シンが呼びかけるが、ステラは眠ったままである。
「アンジュ!」
タスクたちもヴィルキスに近づいてきて、アンジュに声を掛けてきた。インパルスも直後に駆けつけて、デスティニーに合流した。
「ステラちゃん!?何でここに!?」
海潮もステラを見て驚きを覚える。
「海潮、ラブ、ステラを頼む!」
「あ、うん!」
シンの呼びかけに頷いて、海潮がデスティニーからステラを受け取った。
「ステラちゃん、大丈夫!?」
「眠っているだけで、特に何もされていないようだ・・!」
海潮が呼びかけて、タスクがステラの様子を見る。
「愚かしい存在が集まってくる・・・ならば・・」
エンブリヲが肩を落としてから、また詠唱を始めた。
「いけない!またあの攻撃をしてくるぞ!」
「離れるぞ!いくら強い機体でも、受けたらひとたまりもない!」
カナタとシンが警戒して、アンジュたちに呼びかける。
「タスク!」
「ラブ!海潮!」
そのとき、アンジュとカナタがボートに乗っているラブたちを目にした。
「逃げ切れない・・全力で迎え撃つしかない・・ディメンションバースト!」
カナタがラブたちを守るため、ディメンションバーストを発動させた。
「ディメンションバーストを使った上にディメンションブレイカーを撃ったら、また次元が歪んで、最悪破壊してしまうかもしれない・・だけど、このままアイツにラブたちが消されてしまうくらいなら・・!」
かつてない時空の歪みを引き起こしかねない不安を感じていたカナタ。それでもラブたちを見殺しにできないと思い、彼は迷いを振り切った。
ヒステリカがイザナギたちに向けて、ディスコードフェイザーを発射した。
「ディメンションブレイカー!」
イザナギもディメンションブレイカーを放ち、2つの強力な砲撃がぶつかり合い、周囲を大きく揺さぶる。
「これじゃ食い止められても、ラブたちが危険だわ!」
ルナマリアが声を荒げて、デスティニーとインパルスがラブたちを助けに向かう。
「タスク!」
アンジュがタスクたちを助けようと、ヴィルキスがボートに向かって手を差し伸べた。
そのとき、ヴィルキスの姿が赤から青に変わった。
「ま、また姿が変わった!?」
海潮がヴィルキスを見て声を荒げる。ヴィルキスからも透明な球状のエネルギーが発せられた。
「く、空間が歪む!?」
「まさかヴィルキスも、空間を超える力を持っている!?」
ラブとカナタが空間の歪みを目の当たりにして、驚きを覚える。エネルギーの球が大きくなり、イザナギもデスティニーたちも包み込んだ。
ヒステリカの力がイザナギの力を押し込んで、海に直撃した。海に大きな渦が巻き起こり、イザナギたちは姿を消していた。
「まさか空間を飛び越えるとは・・実にすばらしい。」
エンブリヲが渦を見下ろして笑みをこぼす。彼はカナタたちがディスコードフェイザーで消滅したのではないことを理解していた。
「デスティニー、インパルス、イザナギ、ヴィルキス、シグナルロスト・・・!」
レーダーからイザナギたちの反応が消えて、メイリンが目を疑う。
「まさか、あの機体の攻撃に巻き込まれて・・・!?」
「シンたちを探索しながら、本艦はアルゼナルから離脱。体勢を立て直します・・!」
アーサーが不安をあらわにするそばで、タリアが指示を出す。
「しかし、それではシンたちが・・!」
「あの機体の前では、私たちも危険にさらされていることは同じよ・・全滅という最悪の事態は、避けなければならないわ・・・!」
アーサーが反論するが、タリアが冷静さを保って判断を伝える。
「レイはあなたは本艦のそばについて護衛を。」
“了解。”
タリアが通信を送って、レイが答える。グレイブ2機とダイミダラーが飛行艇に戻ってきた。
「くそっ!サリアもアンジュも、クリスも助けらんなかった・・・!」
ヒルダが悔しさをあらわにして、そばの壁に握った手を叩きつけた。
「エルシャもジルたちも、無事に脱出しているはずだよ・・向こうから連絡が来たら合流しよう・・・!」
メイがタリアたちと連絡を取り合いながら、ヒルダたちに言いかける。
「すみません・・私たちがうまく戦っていたら・・・」
霧子が魅波とモモカに謝って頭を下げてきた。
「あなた方のせいではありません。アンジュリーゼ様もみなさんも、きっとご無事ですよ。」
「そうよ・・海潮がいなくなるなんて、絶対にありえないんだから・・」
モモカが霧子を励まして、魅波が海潮の無事を信じる。
「すぐに捜しに戻るんだからね・・・!」
夕姫が窓越しから外を見て、海潮のことを考えて思いつめていた。
ミネルバと飛行艇はアルゼナルから離れた。ヒステリカも姿を消して、戦闘は終了した。
エンブリヲとの戦いの中、ヴィルキスの発動した力による空間の歪みに巻き込まれたカナタたち。
カナタたちは古びた廃墟にいた。カナタたちは倒れたイザナギたちの中で意識を失っていて、ラブ、海潮、タスクも地面の上で倒れていた。
「あ・・私たち、眠っていたの・・・?」
ラブが最初に目を覚まして、ゆっくりと目を開いた。
「あれ?・・ここは、どこ?・・アルゼナルでもないし、近くにこんな広い場所のある島はなかったはず・・・」
彼女が周りを見回して、驚きを感じていく。その場所は彼女の知らない場所だった。
「海潮、起きて!タスクさんも!」
ラブが呼びかけて、海潮たちも目を覚ました。ステラはまだ眠り続けている
「ラブ・・・あれ?ここはどこ・・!?」
海潮も自分たちがいる場所に疑問を覚える。
そのとき、差していた日の光がさえぎられて暗くなり、ラブたちが後ろに振り向いた。その先にいたのは、1体のドラゴン。
「ド、ドラゴン!?」
タスクがドラゴンに驚き、ナイフを手にして構えた。
「待って、タスクさん!・・このドラゴン、もしかして・・・!?」
ラブが彼を呼び止めて、ドラゴンを見つめる。ドラゴンも暴れることなく、彼女たちを見つめていた。
「ヴィヴィアンちゃん?・・ヴィヴィアンちゃんでしょ・・!?」
海潮が問いかけると、ドラゴンが大きく頷いた。
「まさかアレクトラ、ドラゴンをメイルライダーに仕立てていたのか・・・!?」
タスクがヴィヴィアンがドラゴンだったことに、驚きを感じていく。
「カナタくん・・みんなを起こさないと・・!」
ラブがイザナギに駆け寄って、コックピットのハッチを開けた。
「カナタくん、聞こえる!?目を開けて、カナタくん!」
コックピットで意識を失っているカナタに近寄り、ラブが呼びかける。
「ん・・んん・・・」
カナタも意識を取り戻して目を開ける。
「ラ、ラブちゃん・・・」
「カナタくん・・よかった・・!」
声を発するカナタに、ラブが喜んで抱き付いた。
「ラブちゃん、苦しいって・・」
「あっ!ゴメン・・」
カナタが悲鳴を上げて、ラブが動揺しながら離れる。
海潮とタスクもデスティニーとヴィルキスに近づいて、シンとアンジュに呼びかけていた。
「何・・どうしたの・・・?」
アンジュが意識をはっきりとさせて、シンが自分たちの居場所を確認しようとする。
「どうしたんだ?デスティニーは正常なのに、レーダーにミネルバの反応がない・・!?」
現状が理解できず、シンが声を荒げる。
「ミネルバ、応答してください!グラディス艦長!」
カナタが通信で呼びかけるが、タリアたちからの応答がない。
「オレが呼びかけても全然応答がない・・ホントにどうなってるんだ・・!?」
シンもデスティニーから通信を送るが、これにも応答がない。
「いくらかなり吹き飛ばされたとしても、連絡が取れず、どこにいるのかも分からないはずはないのに・・・!?」
ルナマリアもインパルスから通信を試みるが、連絡が取れない原因が分からず苦悩する。
「私たちが気を失う前、ヴィルキスが青い色になっていたよ・・」
「何だって!?」
ラブが記憶を呼び起こして、タスクが声を荒げる。
「そのときに周りの空間が歪んで・・イザナギもみんな巻き込まれて・・・」
「まさかオレたち、別の空間に移動してきたんじゃ・・!?」
ラブの話を聞いて、カナタが推測して息を呑む。
「私も、ヴィヴィアンやラブたちを守ろうとして、無我夢中だったから・・」
ヴィルキスの空間移動の能力について考えるアンジュだが、答えを見つけることができない。
「イザナギやイザナミだけじゃなく、ヴィルキスも空間を超える力があったなんて・・・!」
「でもアンジュはその力を思うように使えるわけじゃない。イザナギも空間を歪めることはできるけど、今オレたちがどこにいるのかも、どの空間を辿れば元に戻れるのかも分かっていない・・」
ラブがヴィルキスに対して戸惑いを感じるが、カナタは元の世界に戻る方法が分からなくて肩を落とす。
「まずはここがどこかを把握することだね。」
ルナマリアが言いかけた言葉に、カナタとシンが頷く。
「ルナ、インパルスのエネルギーは十分か?」
「うん。少し消耗しているだけ。」
「デスティニーからデュートリオンビームを出して、インパルスを全回復させる。」
「ありがとう、シン。」
シンの親切にルナマリアが感謝する。デスティニーから照射されたデュートリオンビームを受けて、インパルスのエネルギーが全快した。
「ラブたちはこの辺りを見回ってくれ。オレとシンとルナマリアはもっと広い範囲を見てくる。」
カナタが提案を伝えて、ラブが頷いた。
「待って。私もあなたたちと一緒に行くわ。」
「ヴィルキスの燃料は無限じゃないし、補給する方法もない。揃って移動する必要も出てくるし、迂闊に動かせないよ・・」
アンジュも一緒に行動しようとするが、カナタに注意される。
「ヴィルキスじゃなくて、ヴィヴィアンに乗っていくから。」
アンジュが笑みをこぼして、ヴィヴィアンの顔に軽く手を当てる。ヴィヴィアンもアンジュと共に探索に乗り出すつもりでいた。
「しょうがないな・・1時間後に1度ここに戻ろう。」
シンがアンジュたちの考えを聞き入れて、指示を出した。
ラブ、海潮、タスクが目を覚ました場所とその近くを、カナタ、シン、ルナマリア、アンジュとヴィヴィアンがその周辺を探索することになった。
周囲の建物はどれもかなりの時間が経過したかのように古びており、蔦や埃を被ったものもあった。
「どうなっているんだ?・・どこかの遺跡か何かか・・・?」
目覚めた場所のことを考えて、カナタが疑問を膨らませていく。
「融合した世界にある場所なのか?・・だけど、みんなと連絡が取れないのはどういうことなんだ・・?」
シンも探索を続けて、さらに疑問を感じていた。
「連絡が取れないだけじゃない・・この辺り、人のいる感じが全然しない・・・」
ルナマリアの周囲の地区の様子を気にする。
「私たちはホントに、別の世界に来てしまったというの・・・!?」
自分たちが空間を超えてしまったことを、アンジュが痛感する。困惑する彼女を気にして、ヴィヴィアンが目を向ける。
「必ず元の世界に戻るわよ、ヴィヴィアン・・!」
アンジュが笑みを見せて、ヴィヴィアンが大きく頷いた。
探索から1時間後、カナタたちはラブたちのところに戻ってきた。着地したヴィヴィアンがアンジュを降ろすと、疲れを感じてひと息ついた。
「この辺りは土地は広いけど、すっかり廃墟って感じだ。人も1人もいない・・」
カナタが報告をして、シンたちも頷いた。
「こっちにも人はいなかった・・それだけじゃなくて、年月が500年も先になっているみたいなの・・・!」
「何だって!?」
ラブの報告を聞いて、カナタが驚く。
「ある建物の案内コンピューターが言っていたんだ。」
「私たちの世界の年で、大体500年後だって・・・」
タスクと海潮がカナタたちにこの世界のことを語る。
この世界では大規模な国家間戦争が勃発し、世界全土が壊滅的な被害が出た。コンピューターからの説明によると、人口も激減して、この近辺は長い年月、人が存在したデータはない。
「それじゃ、人類が滅んだ世界に来てしまったってこと・・!?」
「冗談じゃない!こんなことで死んでたまるか!」
ルナマリアが不安を覚えて、シンが憤りを覚える。
「イザナギで空間を歪めて、別の空間に移動しよう。」
カナタがイザナギの力を使うことを決める。
「ディメンションブレイカーを使うつもり!?でもどの世界に通じるか分かんないのに・・!」
「このまま人もいなくて食べ物も見当たらないところにじっとしていても、飢え死にするのを待つだけだ・・だったらこのくらいの抵抗はしてやる・・・!」
ラブが不安を口にするが、カナタは迷いを振り切っていた
「みんな、何が起こるか分からない・・吹き飛ばされないように注意してくれ・・!」
カナタが呼びかけて、ラブたちとシンたちが衝撃に備えた。ヴィヴィアンがラブたちを守ろうと前に出ていた。
「ハイブリッドディメンション、エネルギーチャージ!」
カナタがイザナギを操作して、ハイブリッドディメンションにエネルギーを集めていく。
「待て!こっちに何か近づいてくるぞ!」
そのとき、シンがデスティニーのレーダーに映った反応を見て声を上げた。
「えっ!?」
カナタが驚きの声を上げて、イザナギがエネルギーのチャージを中断した。
「反応は2つ・・ドラゴンと一緒にいた機体に似ている・・・!」
カナタもイザナギのレーダーで反応を確かめる。
「敵ならこの状況、厄介になりそうだ・・・!」
カナタが焦りを噛みしめて、デスティニーがアロンダイトを手にして身構える。彼らのいる場所に2機の機体が現れ、近づいてきた。
それは龍神器、蒼龍號と碧龍號だった。
「本当に、ドラゴンと一緒にいた機体が出てくるなんて・・!」
ラブが動揺を見せてイザナギ、デスティニー、インパルスが蒼龍號たちの出方を伺う。
「お前たち、クロスという集団だな。」
ナーガがカナタたちに声を掛けて、蒼龍號の操縦席のハッチを開けて姿を見せた。
「人間・・人間が動かしていた・・・!?」
彼女を見てラブが声を荒げる。
「いや、真人間ってわけじゃなさそうね・・翼と尻尾があるわ・・・!」
アンジュが言いかけて、ラブたちがナーガを注視する。体に収められているが、ナーガには翼も尻尾もあるのを、ラブも気付いた。
カナタもイザナギから出て、ナーガの姿を直接視認した。
「アンタたちは何者だ?ドラゴンの仲間なのか?」
「お前たちの世界では、我が同胞をそのような名で呼んでいるのだな。」
問いかけるカナタに、カナメが冷静に言いかける。
「ナーガ、ここで話をしてないで、早くクロスを案内しよう。」
碧龍號のハッチも開いて、カナメも姿を見せた。
「もう1人も人の姿をしている・・!」
「あなたたちは誰なの?ここはどこなの・・!?」
シンが声を荒げて、海潮が問いかける。
「その問いに答えるのは、場所を変えてからだ。我々と来てもらう。もしも刃を向けるなら、容赦しないと言っておく。」
ナーガが言葉を返して、カナメが碧龍號に戻った。
「場所を変えるって、どこに行くっていうんだ・・!?」
「我ら“アウラの民”の住む所だ。そこでお前たちはお会いになってもらう。我が主君と、大巫女様に。」
カナタがさらに問いかけると、ナーガが行先を伝えた。
行くあてが分からないカナタたちは、警戒心を抱いたままナーガたちについていくことにした。