スーパーロボット大戦CROSS
第41話「兄妹の亀裂」
シンやタリアたちから事情を聴いたギルバートは、ステラをジブラルタルの医務室で休ませていた。プラントでの治療の準備も同時に進められていた。
このとき、医師が2人医務室に滞在して、ステラの様子を見ていた。
その医師たちが突然意識を失って倒れた。
「エクステンデッドの少女。彼女の存在も、こちらの手札の1枚になる。」
医師たちの意識を奪い、ステラを見下ろしていたのは、音なく医務室に現れたエンブリヲだった。
「ザフトが開発した新兵器。ヴィルキスに勝るとも劣らない戦闘力を備えている。1機だけでも破壊しなくてはならない・・そのために、シン・アスカのよりどころとなっている彼女を・・・」
エンブリヲがベッドで眠っているステラを抱えて姿を消した。ステラがさらわれたことがギルバートに伝わったのは、10分後に兵士が医務室に立ち寄った後だった。
ジュリオ指揮下の陸戦部隊が、アルゼナルの内部にまで侵入した。非戦闘員までもが兵士に射殺され、年少組にも被害が及んだ。
「兵力は圧倒的に敵が上です!アルゼナルが制圧されるのは時間の問題です!」
「メイルライダー各隊がパラメイルで出撃しましたが、敵兵士の進攻の阻止には至っていません!」
オリビエとヒカルがジルに現状を報告する。
「ジル、ここは脱出して体勢を整えたほうがよさそうだよ・・」
ジャスミンがバルカンを連れて現れ、ジルに進言してきた。
「バカを言うな・・リベルタスの決行まで目前に迫っているというのに、このアルゼナルを敵に明け渡せというのか!?」
「リベルタスのためにも、ここを切り捨てる覚悟を決めなきゃならんのよ・・」
反論するジルに、ジャスミンがさらに呼びかける。
“それに、これ以上ケガ人と死人を出すつもりかい!?手に負えなくなるよ!”
医務室にいるマギーもジルに抗議の声を上げた。
「やむを得ん・・非戦闘員は全員、“アウローラ”に乗艦!メイルライダーは防衛に全力を尽くし、敵を近づけさせるな!」
ジルが渋々聞き入れて、大型空母であるアウローラへ向かうように呼びかけた。
「敵戦艦から円盤状の物体が多数射出されました!」
パメラが戦況を報告して、ジルたちも外の戦闘に目を向けた。
戦艦から射出された物体「ピレスロイド」が群れを成して突っ込んできた。
「うあっ!キャッ!」
メイルライダー、ターニャが搭乗しているアーキバスにピレスロイドをぶつけられて悲鳴を上げる。ピレスロイドにはチェーンソーが仕込まれており、機体にも傷を負わせていた。
ピレスロイドからワイヤーが射出されて、アーキバスが腕と足を縛られて動きを封じられる。
「ターニャ!」
メイルライダー、イルマの駆るグレイブがターニャを助けに行くが、多数のピレスロイドに囲まれて、ワイヤーに捕縛されてしまう。
「あの円盤、私たちを捕まえてくるよ!」
「じっとしていたらやられる!速いスピードを維持するんだ!」
メイルライダーたちが緊張を膨らませながら、ピレスロイドや戦艦の攻撃を警戒する。
その間にも兵士たちがアルゼナルの奥へ進んでいた。アルゼナルの少女たちが迎撃して兵士の十数人を射殺したが、兵士たちの射撃で次々に倒れていく。
「もう終わりなの!?・・こんなことで死んじゃうの・・!?」
「冗談じゃねぇ!もっと金稼いで、幸せになってやるってのに!」
他のメイルライダーたちが緊張を膨らませて声を荒げる。
「おい・・あれって・・・!?」
メイルライダーの1人が恐る恐る振り向いた。彼女たちの前に現れたのは、ウィンダムの部隊だった。
アルゼナルへ急ぐカナタたち。サリアはジルたちのことを思って深刻さを募らせ、エルシャは年少組の心配をして冷静さを保てなくなっていた。
「まだなの!?・・まだつかないの、メイ!?」
「これでも全速力なんだよ・・!」
たまらず声を荒げるエルシャに、メイが慌てて言い返す。
“アンジュさん、ヴィルキスで発進、先行して。シンとカナタくんも発進するわ。”
ミネルバからタリアの声がアンジュに伝わった。
「デスティニーとイザナギ、そしてヴィルキス・・スピードのある3機が切り込み隊長をするってことね。」
タリアの判断を理解して、魅波が頷いた。
「やるわ、私も・・ミスルギ皇国のやり口にウンザリしていたからね・・・」
タリアの指示を聞き入れて、アンジュがヴィルキスに向かう。
「アンジュリーゼ様・・おそらく艦隊を指揮しているのは、ジュリオ様・・・」
モモカがジュリオのことを考えて、深刻な面持ちを浮かべる
「好都合だわ・・今までの恨みを晴らす絶好の機会ね・・・!」
アンジュが笑みをこぼして、ヴィルキスに乗り込んだ。飛行艇のハッチが開かれた。
「出られるよ、アンジュ!」
「えぇ!ヴィルキス、行くわよ!」
メイが呼びかけて、アンジュがヴィルキスで飛行艇から出撃した。
同じ頃、カナタとシンもイザナギとデスティニーで先行しようとしていた。
“私たちもすぐに駆けつけるから、ムチャはしないようにね。”
「分かっています!」
「気を付けます、グラディス艦長!」
タリアが激励を送り、シンとカナタが答えた。
「天命カナタ、イザナギ、行きます!」
「シン・アスカ、デスティニー、行きます!」
カナタのイザナギ、シンのデスティニーがミネルバから発進し、ヴィルキスと合流した。
「急ぐわよ、2人とも!のんびりしていると置いていくから!」
「おい、待てよ、アンジュ!」
呼びかけるアンジュにシンが言い返す。ヴィルキスとデスティニーがスピードを上げる。
「これじゃある意味、気が抜けないな・・」
カナタが苦笑いを浮かべて、イザナギを加速させた。3機がジュリオたちに攻め込まれているアルゼナルに辿りついた。
「アルゼナルが・・みんなが攻め込まれている・・・!」
「くそっ!やめろ!」
カナタが息を呑み、シンが怒りを覚える。
デスティニーが飛び出してビーム砲を展開し、ウィンダムに向けてビームを発射した。ウィンダム3機がビームを浴びて負傷し、落下する。
「あれはザフト!?・・いや、クロスか!」
「ヘブンスベースを押さえたザフトの新型もいるぞ!」
他のウィンダムのパイロットたちが、デスティニーたちを見て驚く。
「あれは、アンジュリーゼが使っている機体・・・!」
戦艦にいたリィザがヴィルキスを見て声を上げる。
「何だと!?・・アンジュリーゼ・・わざわざ僕の手に掛かりに来るとはな・・・!」
ジュリオが声を荒げるも、アンジュを葬ることを考えて笑みをこぼす。
「それにザフトの新型も捕まえて我らの戦力にすれば・・・あの3機も捕まえろ!そしてアンジュリーゼを私の前に連れてこい!この私自ら引導を渡してやるぞ!」
ジュリオが部隊に命令を下す。アンジュへの憎悪に駆り立てられたジュリオは、アンジュに付けられた顔の傷に手を当てていた。
ピレスロイドがイザナギたちを捕らえようと迫ってきた。
「何だ、あれは!?」
「そんなもので、私たちをどうにかできると思っているの!?」
カナタが驚きの声を上げて、アンジュが不満を口にする。迫り来るプレスロイドを、ヴィルキスがアサルトライフルで、イザナギとデスティニーとビームライフルで撃ち抜いていく。
ピレスロイドが集まり出したところで、デスティニーがビーム砲を発射して一気に破壊した。
「オレとシンで活路を開く!あんじゅはその間にアルゼナルへ!」
カナタがアルゼナルに目を向けて、アンジュに呼びかける。
「いいわ・・あの丸いのとモビルスーツは任せたわよ!」
アンジュが頷いて、ヴィルキスがジュリオたちのところへ向かった。
イザナギがさらにビームライフルを連射し、デスティニーが2本のスラッシュエッジを投げつける。ピレスロイドが次々に破壊されて、数を減らしていく。
「キリがない・・これじゃオレたちも痛めつけられてしまう・・!」
「弱音を吐くな!オレたちは強いんだ!こんなことでやられてたまるか!」
焦りを噛みしめるカナタに、シンが激励をする。イザナギとデスティニーの行く手を、ピレスロイドの大群が阻んだ。
そのとき、イザナギたちの後方からビームが飛んできて、ピレスロイドを撃破した。
「ミネルバだ!ミネルバが来た!」
追いついてきたミネルバと飛行艇を見て、カナタが笑みをこぼした。
「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー、行くわよ!」
レイ、ルアマリアがレジェンド、コアスプレンダーに乗ってミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが射出されて、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。
「サリア隊、発進するわよ!」
飛行艇からもサリアの号令でアーキバス、グレイブ、ハウザー、レイザーが発進した。
「ダイミダラー6型・霧子、行きます!」
霧子も将馬と共にダイミダラーで発進して、アルゼナルの湾岸に着地した。
「アンジュはアルゼナルに行っちゃったみたいだよー!」
ヴィヴィアンがヴィルキスのいるほうを指さして叫ぶ。
「私たちもアルゼナルへ急行!みんなを救出するわよ!」
サリアがアルゼナルに目を向けて指示を出す。
「子供たちが・・みんなが・・・!」
エルシャが年少組の安否を気にして、冷静さを保てなくなる。
「ゴメンなさい・・私、行くわ!」
「エルシャ!」
アルゼナルへ急ぐエルシャを、ヴィヴィアンが慌てて追いかける。
「あたしらも行くぞ!」
「あぁ!」
「うん・・・!」
ヒルダの呼びかけにロザリーとクリスが答える。グレイブとハウザーもアルゼナルへ向かう。
「オレたちは敵の排除だ。止まれば捕獲されることになる。スピードを落とすな。」
「分かったわ、レイ!」
レイが指示を出し、ルナマリアが答える。レジェンドとインパルスもピレスロイドの迎撃に当たる。
「クロスまで来てしまったぞ!」
「怯むな!全機、撃破か捕獲をすればいいだけだ!」
ウィンダムのパイロットたちがイザナギたちを見て声を荒げる。ウィンダムたちがアルゼナルのパラメイルからイザナギたちに狙いを変えて、ビームライフルを発射した。
デスティニーが突撃してウィンダムたちに向かっていく。残像を伴う高速で、デスティニーは射撃をかいくぐる。
デスティニーが右手でビームライフルを発射して、ウィンダムを撃ち落とす。さらにデスティニーは左手を突き出して、パルマフィオキーナでウィンダムの頭部を破壊した。
「あそこにいるのが母艦か・・撃沈してやる!」
シンがジュリオたちの戦艦に目を向けて、デスティニーが前進しようとした。
「シン、止まれ!」
カナタがとっさに呼びかけて、シンが反応してデスティニーがスピードを弱めた。その眼前をビームが通り抜けた。
「反応がいいな。さすがはザフトのエースと新型というところか。」
デスティニーの前にアンチェーンが現れ、ヘクトが声を掛けてきた。
「お前はディメントの・・!」
「表向きには連合軍の援軍として来たが、1番の目的は、お前たちクロスを排除することだ。」
シンが声を上げて、ヘクトが冷静に答える。
「他にも新型がいるようだが、戦力が増したのはお前たちだけではない。」
ヘクトが語りかけて、アンチェーンが両腰にあるレールガンを展開した。
「あれは、まさか・・!?」
今のアンチェーンの武装を見て、レイが目を見開く。アンチェーンがレールガンから発射したビームを、デスティニーたちが回避する。
「フリーダムの武器・・自分の機体にも搭載したのか・・!?」
「過去のザフトのデータを参考にした・・オリジナルと全く同じというわけではないが、アンチェーンの元々の性能もあって、より強力にすることができた・・」
シンが息を呑み、ヘクトがアンチェーンの改良について語っていく。
「お前たちもフリーダムも、強大な力を持ちながらそれを完全な形にまで昇華するには至らない。それができるのはオレだけだ。」
「ふざけるな!そんな自分勝手な目的で、世界をムチャクチャにしてもいいっていうのか!?」
自分の駆るアンチェーンが最高の機体であることを証明しようと企むヘクトに、シンが怒りを覚える。
「絶対無比の力が圧力となり、争いの終結を呼び込む。争いのない世界か、血塗られた争いか。お前たちの望みはどちらか?」
問い詰めてくるヘクトに、シンが怒りを募らせていく。
「シン、熱くなるな。争いのない世界を目指している。デュランダル議長も、オレたちもお前も。」
レイがなだめて、シンが落ち着きを取り戻していく。
「ギルバート・デュランダル・・ヤツの謳う平和が真の平和でないことを、お前たちも思い知るのだな・・・!」
ヘクトがギルバートのことを考え、いら立ちを噛みしめる。
「オレたちが戦いを終わらせる・・アンタたちのように、戦いを広げるヤツと、オレは戦う!」
シンが言い放ち、デスティニーがアロンダイトを手にした。戦いを終わらせるために戦うという揺るぎない意思を、シンは示していた。
「いっけー!ブンブンまるー!」
ヴィヴィアンが言い放ち、レイザーがブーメランブレードを投げつけてウィンダムたちをアルゼナルから遠ざける。
「エルシャ、今のうちにアルゼナルに行っちゃってー!」
レイザーがブーメランブレードを手にして、ヴィヴィアンが呼びかける。
「ありがとう、ヴィヴィちゃん!」
エルシャが感謝して、ハウザーをアルゼナルの施設のそばに着陸させた。
「よーし!エルシャとみんなを守って、悪者をやっつけちゃうよー!」
ヴィヴィアンが意気込みを見せて、レイザーがブーメランブレードを構えた。
「ピンギー体当たりー!」
そのとき、アムダの叫び声と共にピンギーが空から急降下してきた。ピンギーに突撃されて、レイザーが強く突き飛ばされた。
「ヴィヴィアン!」
ヒルダがヴィヴィアンに向かって叫ぶ。レイザーが地上に落下して、ヴィヴィアンが意識を失った。
「あなたは、ディメントのペンギンロボ・・!」
「君たちとダイミダラーは、僕が遊んであげるよ♪」
サリアが緊張を強めて、アムダが無邪気に声を掛けてきた。
「やってくれたな、ペンギンヤロー・・!」
「テメェもあたしらが仕留めてやるよ!」
ヒルダとロザリーがアムダへの怒りを膨らませる。2機のグレイブがアサルトライフルを同時に発射する。
「そんなの、僕とピンギーには通じないよー!」
アムダが言い放ち。ピンギーが回転して射撃をはじき飛ばした。
「ちくしょう・・なんてヤツだよ・・!」
「今度は私が・・・」
ロザリーが毒づき、クリスのハウザーがロングバレルライフルを構えて発射する。しかし開店するピンギーはこの射撃も弾いた。
「だから効かないってー!それじゃこっちから行くよー!」
アムダが言い放ち、ピンギーが回転を止めてグレイブたちに突っ込んできた。
「危ねぇ!」
ヒルダが声を荒げて、グレイブとハウザーがピンギーの突撃をかわした。
「ピンギービーム!」
振り返ったピンギーが前しっぽと嘴からビームを放射した。いくつにも分かれて飛んでくるビームを、ヒルダたちが必死に反応して、グレイブたちがビームを回避する。
「ムチャクチャ撃ってきやがる・・近づいてブッ叩くしかねぇな!」
「でもその前にこっちがやられる・・どうしたらいいの、ヒルダ・・・!?」
毒づくヒルダにクリスがいい方法を求める。
「私とヒルダが近づいて攻撃するわ!ロザリーとクリスは援護して!」
「あぁ!あたしたちなら打撃が強いからな!」
サリアが指示して、ヒルダが不敵な笑みを浮かべる。アーキバスとヒルダのグレイブがドラゴンスレイヤーとパトロクロスを手にして、ピンギーに向かっていく。
ロザリーのグレイブとクリスのハウザーがアサルトライフルとロングバレルライフルを撃って、ピンギーをけん制する。
「その調子でアイツを追い込むよ!」
「うん・・!」
ロザリーが呼びかけて、クリスが頷く。ハウザーが再びロングバレルライフルを構えた。
そのとき、クリスのハウザーの背部から爆発が起こった。
「うあっ!」
「クリス!?」
悲鳴を上げるクリスに、ロザリーが声を荒げる。他のウィンダムたちがザムザザーを伴って駆けつけ、ビームでハウザーを攻撃したのである。
ウィンダムがさらにビームライフルを発射して、振り向いたハウザーの胴体に直撃させた。飛行できなくなったハウザーが力なく落下する。
「クリス!」
ロザリーが叫び、グレイブがハウザーを救出しようとする。しかしその前にザムザザーが立ちはだかり、伸ばしてきたハサミからグレイブが回避する。
グレイブたちの救援も間に合わず、クリスのハウザーが海に落ちた。
「クリス!・・そこをどけ!クリスを助けなきゃなんねぇんだ!」
ロザリーが怒号を放ち、グレイブがアサルトライフルを発射する。しかしザムザザーが展開した陽電子リフレクターに弾かれる。
ザムザザーがグレイブに迫り、ハサミを伸ばしてきた。
「やあっ!」
そこへダイミダラーが飛翔して、ハイエロ粒子を集めた右手を繰り出した。打撃は陽電子リフレクターに阻まれるも、ダイミダラーはそのままザムザザーを押し込んで突き飛ばした。
「大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ・・ここは任せるぞ!クリスを助けに行く!」
霧子の呼びかけに答えて、ロザリーがクリスの救出に向かう。
「僕たちも全力を出して、連合軍を追い払おう、霧子ちゃん!」
「うん・・私たちが力を合わせれば、どんなことにも負けないよね、将馬くん・・・!」
将馬と霧子が声を掛け合い、手を取り合って想いを深める。この愛情が彼女のハイエロ粒子を高めて、ダイミダラーに力を与えた。
アルゼナルの年少組の安否を気にして、エルシャは1人施設の中へ駆けつけた。
(お願い、みんな・・無事でいて・・・!)
みんなが無事でいることを強く願いながら、エルシャは年少組の行方を追った。
だがエルシャが目の当たりにしたのは、傷つき倒れた少女たちの姿だった。
「イヤ・・イヤアッ!」
激しい絶望と悲しみに襲われて、エルシャは泣き叫んだ。少女たちから離れて戦ったことを、彼女は後悔した。
カナタたちとジュリオたち連合軍の戦いが激化して、海潮たちは撃墜されたヴィヴィアンを心配していた。
「メイさん、早く着陸してヴィヴィアンちゃんを!」
「分かってる!すぐに近くに下りるから!」
海潮が呼びかけて、メイが慌ただしく答える。飛行艇がレイザーの落ちた草原に下りていく。
しかし海潮は着陸するのを待たずに、飛行艇から降りた。
「海潮、待ちなさい!」
魅波が呼び止めるのも聞かずに、海潮はレイザーに向かっていく。
(ランガがいなくて、私たちにできることはないかもしれない・・でもせめて、誰かを助けるぐらいは・・・!)
迷いと苦悩を振り切ろうとして、海潮は突っ走る。彼女はレイザーに駆け寄って、コックピットのハッチを開けた。
「ヴィヴィアンちゃん!大丈夫、ヴィヴィアンちゃん!?」
海潮がヴィヴィアンをコックピットから出して呼びかける。しかしヴィヴィアンは気絶していて、目を覚まさない。
「一旦、みんなのところに行って手当てを・・・!」
海潮がヴィヴィアンを背負って、飛行艇に戻ろうとした。
「動くな!」
そこへ兵士が3人来て、海潮たちに銃口を向けてきた。
「あなたたちは、連合軍!?・・私たちを、どうしようっていうの・・・!?」
海潮が恐る恐る兵士たちに振り向く。
「貴様はクロスの一員だな。捕獲すれば我々の有益となる。」
「おとなしくついてきてもらおう。逆らえばそのノーマ諸共、この場で処刑することになるぞ。」
兵士たちが彼女に忠告を投げかける。
(逃げ切れない・・逃げようとしたら、私もヴィヴィアンちゃんも・・・!)
兵士たちを振り切る方法が見つからず、海潮が絶体絶命を痛感する。
「では、我らについてきてもらうぞ。」
兵士の1人が呼びかけて、他の2人が海潮たちを捕まえようと歩き出した。
そのとき、後方にいた兵士が激痛を覚えて、突然倒れた。
「なっ!?」
「おい、どうした!?」
2人の兵士が振り返って驚愕の声を上げる。倒れた兵士の後方に、1人の青年がナイフを持って構えていた。
「何だ、貴様は!?」
兵士たちが声を荒げて銃を構えるが、飛びかかった青年が振りかざしたナイフに切りつけられて、血をあふれさせて倒れた。
「危ないところだった・・大丈夫か、君?」
青年が海潮たちに近寄って声を掛ける。
「は、はい・・ありがとうございます・・」
海潮が戸惑いを感じながら、青年にお礼を言う。
そのとき、海潮たちの周辺に爆撃が飛び込んできた。レイザーや飛行艇のいる場所との間を炎が駆け抜け、海潮たちはどちらにも行けなくなってしまう。
「しまった・・これじゃ戻れない・・!」
退路を断たれて青年が焦りを噛みしめる。
「オレのボートに乗るんだ!そこまでなら火は届いていない!」
「はい!」
青年の呼びかけに海潮が答える。2人はヴィヴィアンを連れて、海岸につけているボートに向かった。
「ジルからクロスのことは聞いている。確か君は、島原海潮だね?」
「はい。そうです・・!」
ボートに乗ったところで青年に声を掛けられて、海潮が慌ただしく答える。
「オレはタスク。アンジュが世話になっているね。」
「アンジュの知り合い・・・」
青年、タスクが名乗って海潮が戸惑いを募らせていく。
「飛ばすからしっかりつかまっていて!」
タスクが海潮に呼びかけてから、ボートを動かしてアルゼナルから離れた。
カナタたちの加勢とヘクト、アブルの乱入によって、アルゼナルの戦況は混乱していた。ジュリオはアンジュを見失い、いら立ちを膨らませていた。
「アンジュリーゼはどこだ!?早く見つけて仕留めるのだ!」
ジュリオが怒鳴り声を上げて、オペレーターが慌てて索敵する。ジュリオはアンジュに対する憎悪を強めていた。
「クロスの機体がこちらに近づいてきます!」
「撃ち落とせ!こちらに近づけるな!ピレスロイドを使い、動きを封じろ!」
オペレーターが報告して、ジュリオが命令する。彼らのいる艦隊にイザナギ、デスティニー、ヴィルキスが近づいてきた。
ピレスロイドがイザナギたちに迫るが、回避された上に次々に射撃で撃破されていく。
「シン、カナタ、艦を落として!遠慮はいらないわよ!」
アンジュがジュリオの戦艦を見つめたまま、カナタたちに呼びかける。
「いいのか、アンジュ!?あの部隊を指揮しているのは、君の兄さんなんだろう!?」
「もう兄じゃない・・醜い愚か者の1人よ・・・!」
カナタが気を遣うが、アンジュはジュリオに対して怒りを燃やしていた。
「分かった・・オレもアイツらを倒す・・アイツらをいい気にさせるか!」
シンが頷いて、デスティニーがアロンダイトを構えた。ヴィルキスもラツィーエルを手にして、デスティニーと共に艦隊に突撃した。
「何をやってるんだ!?早くアイツらを撃ち落とせ!」
ジュリオが怒鳴り声を上げて、戦艦から砲撃が放たれる。ヴィルキスたちが回避して、ラツィーエルとアロンダイトで戦艦を切りつけていく。
「ぼ、僕の部隊が・・!」
アンジュたちに圧倒されて、ジュリオが絶望を覚える。
「ダメです!あのスピードでは退避も間に合いません!」
オペレーターが冷静さを失い、声を荒げる。デスティニーがスラッシュエッジを投げつけて、戦艦のブリッジの壁と窓がなぎ払われた。
「ひ、ひぃぃ!」
オペレーターや兵士たちが恐怖して、ブリッジから逃げ出す。
「おい、馬鹿者!逃げずに戦え!」
ジュリオが呼び止めるが、兵士たちは聞かずに逃げ去った。
「ぼ、僕も早く逃げなければ・・!」
ジュリオも不満と恐怖を膨らませながら、ブリッジから出ようとした。
その戦艦の前にヴィルキスが来て、アサルトライフルを構えた。ヴィルキスのハッチが開き、アンジュが出てきた銃を手にした。
「ア、アア、アンジュリーゼ!・・お前、自分が何をしているのか分かっているのか!?」
ジュリオが慌ただしくアンジュに呼びかける。
「僕はミスルギ皇国の皇帝にして、お前の兄だぞ!この僕を、お前は手に掛けようというのか!?」
「私はアンタを兄だとは思っていないわ・・醜く汚く下劣な存在が・・・!」
自己保身を考えるジュリオに、アンジュが敵意を向ける。彼女が銃を発砲して、ジュリオの左腕に当てた。
「ぐあぁっ!」
ジュリオが激痛を覚えて絶叫を上げる。
「た、助けて!誰か助けてー!」
彼は涙ながらに助けを求めて、ブリッジから逃げ出そうとした。
「そう言った私やノーマに、アンタたちは何をしたのかしら・・・!?」
アンジュがため息をついてから、再び銃を撃つ。ジュリオが左足を撃たれて、体勢を崩して倒れる。
「や、やめろ!僕にこのようなことをして、許されると思っているのか!」
「アンタの許しなんてまっぴらゴメンよ・・・!」
目を見開いて怒鳴るジュリオだが、冷徹に告げるアンジュに右足も撃たれた。
「があぁっ!」
ジュリオが悶絶して、恐怖と絶望を膨らませていく。
「アンジュ、もうなぶり殺しはよすんだ!」
カナタがたまらず呼び止めるが、アンジュはジュリオに銃口を向けたままである。
「アンジュ、いい加減にしろ!」
「チッ!・・今すぐ攻撃を中止しなさい・・アルゼナルやクロスへの攻撃を・・!」
感情を強めるカナタに舌打ちして、アンジュがジュリオに要求する。
「わ、分かった!やめるから撃たないでくれ!」
ジュリオが必死に答えて、体を引きずって通信機器に近づいた。
「全員に通達する!直ちに攻撃を中止!アルゼナルから離れろ!」
彼が必死に呼びかけると、生き残った戦艦とウィンダムたちが攻撃をやめて、アルゼナルから離れていく。
「さぁ、やめさせたぞ!僕を助けてくれ!」
ジュリオがアンジュに視線を戻して、再び助けを請う。
「その程度でアンタの罪が消えると思っているの・・・!?」
アンジュがため息をついて、ヴィルキスのコックピットに戻った。するとヴィルキスがラツィーエルを振り上げた。
「ま、待て!話が違う!攻撃をやめれば殺さないはずだろ!?」
ジュリオが再び恐怖を膨らませて、声を張り上げる。
「は、早まるな!要求は何でも聞く!そ、そうだ!アンジュリーゼ、お前の皇室復帰を認めてやる!どうだ、悪くない話だろう!?だから、殺さないでくれー!」
ジュリオは助かろうとして、なりふり構わずに命乞いする。あくまで自分たちのことしか考えていない彼の言動は、アンジュの逆鱗を逆撫でする。
「見苦しい・・生きる価値のないクズが・・くたばれ!」
アンジュが怒りを込めて、ヴィルキスがラツィーエルを振り下ろした。
「ギャアッ!」
絶望が頂点に達して、ジュリオが絶叫を上げた。
「アンジュ、危ない!」
そのとき、カナタがアンジュに向けて呼びかけてきた。ヴィルキスが攻撃を中断して後方に下がると、直前までいた場所にビームが飛んできた。
ヴィルキスたちの前に1体の機体が現れた。
「あ、あれは・・!?」
カナタがその機体を見て声を荒げる。
「まったく・・ひどいことをする・・こんなことを許した覚えはないのだが・・・」
機体「ヒステリカ」の肩の上に乗っていたエンブリヲがため息まじりに呟く。彼はアンジュたちの前に姿を現した。