スーパーロボット大戦CROSS
第40話「アルゼナル崩壊」
ヘブンスベースが陥落したという知らせは、移動中のジュリオたちにも届いていた。
「ジブリールも情けないものだ。またもクロスに手ひどくやられるとは・・」
ジュリオがジブリールたちロゴスに呆れてため息をつく。
「だがおかげでクロスに気付かれることなく、我々は移動することができた・・アンジュリーゼはヘブンズベースにいたが、アイツへの見せしめを用意すればいいだけのこと!」
彼が笑みを取り戻して、前を指さして高らかに言い放つ。
「まずはヤツらへの制裁だ!目指すはアルゼナルだ!」
ジュリオの号令で、戦艦の艦隊は速度を上げた。ジルたちのいるアルゼナルへ。
ジュリオたちの艦隊が進行するのを、1機の機体の上にいるエンブリヲが見届けていた。
「これでアルゼナルは壊滅に向かう。到着は翌朝というところか。」
ジュリオたちの動向について考えを巡らせるエンブリヲ。
「クロスがヘブンスベースでの戦いの疲れを癒して一晩。そこから知らせを聞いて駆けつけるには、壊滅までに待ち合うだろう・・」
彼はクロスがアルゼナルに駆けつけることも確信して、機体と共に姿を消した。
シンのデスティニーの出撃で窮地を脱したクロス。連合軍を一掃し、ヘブンズベースは陥落したが、ジブリールを見つけることはできなかった。
別部隊の捜索隊にジブリールの捜索を任せることとなり、ミネルバはジブラルタルに戻ることになった。
デスティニー、レジェンド、インパルスが収容されたミネルバのドックでシン、レイ、ルナマリアがヨウラン、ヴィーノたちから称賛を受けていた。
「すごい!すごいよ、シン!」
「デスティニーにいきなり初めて乗ったのに、あんなにすごい戦いをするなんて・・!」
ヴィーノとヨウランがシンに対して、感動と驚きの声を上げる。
「ヨウランたちがいつでも出せるように整備してくれたからだ・・そうじゃなかったら、オレは出撃できなかった・・」
シンが微笑んで、ヨウランたちへの感謝を口にした。
「それに、ルナとレイ、みんなが戦ってくれなかったら、オレは間に合わなかった・・・」
「シン・・・」
シンが投げかけた言葉を受けて、ルナマリアが戸惑いを覚える。
「オレたちはオレたちのやるべきことをやっただけだ。シン、お前もな。」
「レイ・・」
レイが言いかけて、シンが戸惑いを見せる。
「オレたちは考え方や戦う目的がバラバラだけど、目の前にいる敵を止めて戦いを終わらせようとするのは共通している・・オレたちはそれぞれのやるべきことをやっているだけなんだ。1人1人の意思で・・」
カナタも自分たちのことをシンに伝える。
「オレたち1人1人の意思で・・・」
この言葉にシンが戸惑いを覚える。
シンたちもカナタもアンジュたちも海潮たちも霧子たちも、考え方も目的も違う。しかし彼らが自分の意思でそれを決めていることは同じだった。
自分の意思で軍に入ることを選び、求めていた力を手にしたことを、シンは改めて実感していた。
「オレたちはこれからも戦うんだ・・戦争を終わらせるために、議長の描く平和を実現させるために・・」
「あぁ・・オレたちがやるんだ・・あの新しい力で・・・!」
レイの言葉を受けて、シンが真剣な面持ちで答えた。2人とカナタたちがデスティニーとレジェンドを見上げた。
その直後、シンが突然ふらついて、ヨウランとヴィーノが慌てて支えた。
「お、おい、シン!」
「まだ完全に回復してなかったんだ・・早く医務室に・・!」
ヴィーノが叫んで、ヨウランが呼びかける。2人がシンを連れて医務室へ向かう。
「あんな状態だったのに、戦っていたなんて・・・!」
ルナマリアがシンのことを考えて困惑する。
「私がもっとうまく戦っていたら、シンに負担を掛けないで済んだのに・・」
「自分を責めるな、ルナマリア。シンも言っていただろう。お前がいなければ、オレたちもミネルバも勝てなかった。シンも助からなかった・・」
落ち込むルナマリアに、レイが言いかける。
「シンだけじゃない。お前の力も確実に上がっている・・お前も、戦いのない世界を実現する1人だ。」
「レイ・・そう言ってもらえると嬉しいわ・・」
レイから励まされて、ルナマリアが落ち着きを取り戻していく。
「オレたちも今のうちに休んでおこう。捜索隊が、すぐにジブリールを見つけるはずだ・・」
「そうね・・シンが完全に回復するまで、また私たちが戦わないと・・・」
レイの呼びかけに答えて、ルナマリアがドックを後にした。
(ルナマリア・・・お前、シンのことを・・・)
ルナマリアがシンに思い入れをしているものだと、レイは考えていた。
同じ頃、アンジュたちも霧子たちも飛行艇に戻ってきて、勝利の余韻を感じていた。人々の避難を助けていた隼人たちも帰艦していた。
「みんな、無事で何よりだね。ジブリールってヤツに逃げられたのは残念だけど・・」
メイがサリアとともにアンジュたちを迎える。
「今回はベルリンと比べて犠牲を少なかったみたいだ。」
「ここは敵の基地となっていたからね。一般人はあまりいなかったみたい。」
隼人がひと息ついて、翔子が安心の笑みをこぼす。
「ゴメンなさい、みんな・・私だけ出られなくて・・・」
サリアが自分の非を謝罪する。
「気に病むことはないわ、サリアちゃん。アーキバスが完治していなかったんだから・・」
「ムリをして撃墜されてしまったら、元も子もないですからね・・」
エルシャと霧子が微笑んで、サリアを励ます。
「次は今回の分も戦うから・・」
サリアは言いかけて、エルシャたちから離れていった。今回出られなかったことを彼女が気にしているのを、霧子たちは察していた。
「とりあえず、早くメシ食って休みてぇよ〜・・」
「ジブラルタルに戻ってからになる・・・」
ロザリーが空腹を訴えて、クリスが言いかける。
「それにしても、ザフトのあの新しい機体、かなり強力だったな。」
ヒルダがデスティニーとレジェンドについて口にする。
「特にデスティニーっていうヤツ、あたしらと似た武器を持っていたよな・・?」
「長い剣とか、手からのビームとか・・」
ロザリーとクリスもデスティニーのことを思い出していく。
「戻ったら、デュランダル議長に言ってやらないとね・・!」
「アンジュリーゼ様、落ち着いてください・・」
ギルバートへの不満を浮かべるアンジュを、モモカが苦笑いを浮かべてなだめる。
「私たちは、何もできなかった・・ランガがいないと、何もできない・・・」
サリアだけでなく、海潮も戦えない無力さを痛感して悲しみを膨らませていた。
「海潮・・必ず、ランガを見つけて取り戻すわよ・・・」
夕姫が彼女に歩み寄り、決意を伝える。
「ゆうぴー・・・」
夕姫に檄を飛ばされても、海潮はランガを失った虚無感と無力さを振り払うことができないでいた。
ジブラルタルの基地で現状の把握と各地への指示を行っていたギルバート。彼の耳に、ヘブンズベースの制圧とジブリールが逃げられてしまったことも伝わった。
「そうか・・ジブリールには逃げられたか・・・」
「引き続き捜索隊が行方を追っています。各基地にも捜索を要請しています。」
呟きかけるギルバートに、オペレーターの1人が報告する。
「クロスが帰還したら、すぐに修繕と補給を行ってくれ。次の発進まで、グラディス艦長たちには休養を取ってもらおう。」
「了解。そのように艦長に通達いたします。」
ギルバートが言いかけて、オペレーターがミネルバに向けて連絡を送った。
(これでロゴスはジブリールのみとなった・・だが連合軍の主力はまだまだいる。大詰めになってきているが、まだ・・)
ギルバートが心の中で、期待とともに警戒心を強めていた。追い詰められたジブリールは何をするか分からないと、ギルバートは考えていた。
クロスのヘブンズベースでの戦いから一夜が経った。体の疲労で休息を取っていたシンが目を覚まして、医務室を出た。
「シン、大丈夫なの・・・?」
その廊下にルナマリアが来て、シンに声を掛けてきた。
「ルナ・・オレは大丈夫だ・・この後に検査を受けることになるだろうけど・・」
シンが答えて、ルナマリアが安心して微笑んだ。
「ゴメン、ルナ・・君やレイが必死に戦ってたのに、出てくるのが遅れて・・・」
シンが辛さを噛みしめて、ルナマリアに謝る。
「ううん・・いつもシンが私たちを助けてくれた・・だから、シンが大変なときに、力になりたいと思って・・・」
ルナマリアが微笑んで、シンへの感謝を口にした。
「でも、結局はまたシンに助けられた・・私、やっぱりまだまだだよね・・・」
「そんなことない・・むしろ今回は、オレはルナに助けられた・・ルナがいなかったら、今のオレたちはなかった・・」
物悲しい笑みを浮かべるルナマリアに、シンが感謝する。
「オレはこれからも戦い続ける・・戦いのない世界を実現するために・・大切なものを守るために・・・」
シンがこれからのことへの決意を口にする。
両親とマユ、ハイネ、アスラン、孝一。家族、上官、仲間、大切な人を失ったシン。ステラは救い出せたものの、大切な人を失う悲しみと失いたくないという願いを、彼は膨らませていた。
「その大切なものの中に、私も入っているの・・・?」
ルナマリアが戸惑いを感じながら、シンに問いかける。
「もちろんだ・・オレを守ろうとしているルナも、オレは守りたい・・・!」
シンが頷いて、正直に答えた。彼の言葉にルナマリアが戸惑いを浮かべる。
「シン・・・!」
ルナマリアが心を揺さぶられて、思わずシンに寄り添った。シンも突き動かされて、彼女を優しく抱きしめた。
「一緒にやろう、シン・・私も、戦いのない世界のために立ち向かうよ・・ハイネやアスラン、みんなのためにも・・・!」
「ルナ・・ありがとう・・立ち向かって、そろって生きて戻ろう・・・!」
呼びかけるルナマリアに、シンが感謝した。2人は抱擁を交わして、互いの絆を深めた。
守りたい、失いたくない、傷つきたくない。その思いと願いが、シンとルナマリアの心をより強く結びつけていた。
医務室でのチェックを終えて、シンはルナマリアとともにカナタたちの前にやってきた。
「シン、もう大丈夫なのか・・?」
「もう大丈夫だ。あまりムチャするなって釘は刺されたけど・・」
カナタが心配の声を掛けると、シンが微笑んで答えた。
「シン、あなたが休んでいる間にジブラルタルに戻ってきたわ。私たちも休んで、機体の整備もほとんど終わっているって。」
霧子がシンに今の状況を説明する。
「デスティニーはお前にチェックしてもらうことになるから、まだ完全じゃないけどな。」
「分かった。後でオレも立ち会う。」
ヴィーノがデスティニーのことを伝えて、シンが頷いた。
「シン、お前がフリーダムとの戦いの後に倒れてからはヒヤヒヤもんだったぞ・・」
ヨウランがシンに心配の声を掛けて、胸を撫で下ろす。
「あぁ。これでちゃんと戦える。」
シンが真剣な面持ちで答える。その彼の前にアーサーもやってきた。
「オレはもう大丈夫です。ご心配をおかけしました・・」
シンが言いかけて、アーサーに敬礼をした。
「私も艦長も心配していたぞ・・ムチャしすぎるのも大概にしないとな・・」
アーサーがため息まじりにシンに言いかける。
「シン、デュランダル議長がお待ちだ。行くぞ。」
「議長が・・あぁ・・」
レイが呼びかけて、シンが答える。彼らはギルバートとタリアたちのところへ向かった。
「シン、全快おめでとう。無事で何よりだよ。」
ギルバートがシンをあたたかく迎えて、拍手を送る。
「それに、ヘブンズベースでの戦い、本当にすごかった。万全でない状態で、あそこまで戦い抜けたとは・・」
「いえ、デスティニーの力のおかげです。それに、レイやルナ、クロスのみんながいなかったら、自分もあそこまで戦えなかったです・・」
称賛を送るギルバートに、シンがルナマリアたちへの感謝を口にした。
「そのみんなを救ったのは他ならない君だ。その力は称えられて然るべきだ。」
「ヘブンズベース戦での功績を称え、シン・アスカにネビュラ勲章を授与するものとする。おめでとう。」
ギルバートに続いて将校が言いかけて、シンに勲章を差し出した。
「あ、ありがとうございます・・・!」
シンは戸惑いを見せながら、勲章を受け取った。彼のこの称賛をギルバートたちが称賛する。
「すごい・・ここまで褒められるなんて・・・!」
「シンさんは今まですごい活躍の連続でしたからね。フリーダムには最初は苦戦していましたが、先日に勝つことができましたし。」
将馬がシンに感心して、モモカが語りかける。
「そのシンがデスティニーというすごい機体に乗って、前よりもすごい戦いをしたなんて・・」
ラブもシンの活躍に感動していく。
「ヘブンズベース戦だけでなく、シンとレイは戦闘能力だけでなく、互いに的確な指示を出す指揮能力も高まってる。その点も評価して、2人にこれを渡しておく。」
ギルバートがさらに告げて、シンたちにバッヂを差し出した。それはフェイスのバッヂだった。
「議長・・・!」
シンがフェイスのバッヂを見て、動揺を膨らませる。タリアも驚きを感じながらも、表に出さないようにしていた。
「あ、あれって、アスランが着けていたのと同じ・・」
「フェイス・・ザフトの特殊部隊で、部隊の指揮権も持っているわ。アスラン隊長とハイネ隊長、グラディス艦長もそうだったわ・・」
海潮がバッヂを見て声を上げて、サリアがフェイスについて語る。
「でもいくら強いからって、そんなすぐに特別な隊長格にまで大きく昇進させるなんて、気が早いんじゃないの・・?」
しかし魅波はシンたちの昇進が時期尚早だと思い、疑問を感じていた。
「議長がそこまで評価してくれたことは嬉しいです・・しかしいくらなんでも、フェイスまでとは・・・」
シンがギルバートからの配慮に戸惑いを募らせていく。
「いや、君たちの強さはフェイスに値するまでに飛躍している。我々はそう判断している。」
「議長・・・」
「これは我々が君たちの力を頼みとしている、ということの証だ。どうかそれを誇りとし、今この瞬間を裏切ることなく、今後もその力を尽くしてほしい。」
ギルバートから励まされて、シンは自分の力が確かなものであると感じるようになった。
「ありがとうございます、デュランダル議長・・オレ、これからも頑張ります!」
シンがギルバートに感謝して、フェイスのバッヂを受け取った。
「自分も、ベストを尽くします。」
レイもバッヂを受け取って、シンとともに敬礼をした。
「2人はフェイスになったってことは、もうグラディス艦長にいちいち従わなくてもいいってこと?」
「さすがにそれはないよ。グラディス艦長も同じフェイスだし・・」
夕姫がシンたちのことを話して、ラブが苦笑いを浮かべる。
「これから君たちはフェイスの一員となったわけだが、ミネルバのクルーでもある。別命があるまでは、グラディス艦長の指示に従うように。」
「はい。」
ギルバートが続けて告げて、シンとレイが答えた。ギルバートに気遣われる形となったタリアだが、彼のシンたちに対する処遇に納得していなかった。
ギルバートたちの前を後にしたシンたち。フェイスになったシンとレイに、ルナマリアは感嘆も嫉妬もこもった感情を抱いていた。
「ホントにすごいよね、シンとレイ・・まさかフェイスにまでなっちゃうなんて・・・」
「オレもそこまでとは思ってなかった・・いくらデスティニーを乗りこなせたからって・・・」
声を掛けるルナマリアに、シンがまた戸惑いを見せる。
「謙遜しなくていい。シンの強さが本物であることを、議長が認めたんだ。自信を持っていい。」
レイが冷静にシンに告げる。
「私だけ遅れてる・・まだまだなのかな・・」
「ルナマリアも力が上がっている。このまま精進していけば、時期にフェイスになれるはずだ。」
落ち込むルナマリアに、レイが口調を変えずに言いかける。
「そうだ、ルナ。ルナも強くなってるのは、オレもレイも、みんな認めてることなんだから・・」
「ありがとう、シン、レイ・・」
シンも励ましを送って、ルナマリアが微笑んで感謝した。
その頃、腑に落ちないでいるタリアに、ギルバートが歩み寄ってきた。
「シンとレイをフェイスとしたこと、何か一言あると覚悟していたんだがね・・」
「そのことも含めて、迂闊に言えることでもないので黙ってるんです。お察し願います・・」
声を掛けるギルバートに、タリアが表情を変えずに言い返す。彼女の言葉に不満が込められていることを察して、ギルバートが複雑な気分を覚える。
「シンたちのこと、これからも頼む・・」
「もちろん、そのつもりです・・」
ギルバートが言いかけて、タリアが小さく頷いた。
「デュランダル議長、あなたにいろいろ言いたいことがあるんだけど・・」
アンジュがモモカを伴ってやってきて、ギルバートに不満の顔を見せてきた。
「シンが乗ることになったあのデスティニーっていう機体、ヴィルキスとかに似た武器が備わっているようだけど・・どういうことなの?」
「そのことか・・あなたたちには伝えていなかったが、あなたたちの機体を参考にしたのは事実だ。」
アンジュが不満をぶつけて、ギルバートが淡々と答える。
「勝手なことをしたのはすまないと思っている。しかし私たちはあなたたちとあなたたちの機体を高く評価しているつもりだ。」
「だからって、断りなくやるっていうのは・・・!」
謝意を示すギルバートだが、アンジュは納得していなかった。
「それにしても、ヴィルキスの性能もすばらしいものだ。パラメイルの中でも飛び抜けている。今分かっているだけでも、デスティニーやレジェンドに勝るとも劣らない。」
ギルバートは話を変えて、ヴィルキスに向けて感心を寄せた。
「もしかしたら、まだ判明されていない未知の能力があるかもしれない。」
「未知の能力?」
「その能力が君や我々にとっての切り札の1つになるかもしれない。」
「なるほどね。でもあなたたちにヴィルキスを預けるつもりはないわ。私自身でそれを見つけて使えるようにしてみせるわ・・!」
ギルバートがヴィルキスの解析を進言するが、アンジュはそれを断った。
「そうか・・我々としては残念だが、あなたの機体だ。あなたとアルゼナルに優先権がある。」
ギルバートが微笑んで、ヴィルキスの解析を1度諦めた。彼が何かを企んでいるのではないかと思い、アンジュは不満と疑念を拭い切れなかった。
「デュランダル議長、報告します!」
そこへ1人の兵士が駆けつけて、ギルバートに声を掛けてきた。
「ミスルギ皇国の艦隊がアルゼナルへ進行!攻撃を仕掛けるものと思われます!」
兵士からの報告を聞いて、ギルバートが顔から笑みを消す。
「アルゼナルが!?」
それを聞いたモモカが驚きの声を上げる。
「直ちにミネルバをアルゼナルに向かわせる。アンジュくん、あなたたちもいいかな?」
ギルバートが答えて、アンジュに視線を戻す。
「あなたに言われるまでもないわ・・アルゼナルに戻らせてもらうわ・・・!」
アンジュが言い返して、モモカと共にカナタたちのところへ向かった。
「議長、私も行きます。」
タリアもギルバートに敬礼を送ってから、ミネルバに向かった。
「ロード・ジブリールの捜索も引き続き行う。細大漏らさず情報を集めるのだ。」
「了解です。」
ギルバートが指示を出し、兵士は答えてこの場を後にした。
ジュリオたちがアルゼナルに向かっていることは、ミネルバと飛行艇にいたカナタたちの耳にも入ってきた。
「すぐに出発の準備をするのよ!艦隊規模なら、私たちが行かなければ被害が大きくなるわ!」
サリアが指示を出して、ヒルダたちが発進に備える。アンジュ、モモカ、タリアも戻ってきた。
「全員そろっているわね!?」
「はい!いつでも発進できます!」
タリアが問いかけて、アーサーが現状を報告する。
「アンジュさん、あなたも乗ってください。」
「もちろんよ!」
タリアに答えて、アンジュがモモカと飛行艇に乗り込んだ。
「アルゼナル、応答してください。こちら、ミネルバ。アルゼナル、応答してください。」
メイリンがアルゼナルに向けて連絡を試みる。
“こちらはアルゼナルのパメラです。艦体の接近はこちらも感知しています。アルゼナルに滞在しているメイルライダーが、迎撃に備えています。”
パメラが応答して、アルゼナルの状況をメイリンに伝える。
「待ってください。今から私たちもアルゼナルへ向かいます。それまで過激な行動は避けてください。」
タリアもアルゼナルに向けて進言をした。
“悪いがそういうわけにはいかない。”
ところがジルがタリアの指示を拒否してきた。
“我らには果たさなければならない使命がある。悠長に事を構えて、大人しくやられるわけにはいかない。”
「それでは被害が広がるだけです!私たちが行くまで、防衛に専念してください!”
“これが防衛というものだ。攻撃は最大の防御、というところか。”
「ジル司令・・あなたという人は・・・!」
徹底抗戦に固執するジルに、タリアは納得がいかなかった。
“協力は感謝する。しかし我らは我らの戦いを始めるぞ。”
ジルはそう言って、タリアとの通信を切った。
「対話をせずに戦おうとするとは・・・艦長・・・!」
「最悪な戦況を想定したほうがよさそうね・・・クロス、アルゼナルに向けて発進!」
困惑するアーサーに答えて、タリアが号令を上げた。ミネルバと飛行艇がアルゼナルに向けて発進した。
ジュリオたちの接近を、アルゼナルにいるジルたちがうかがっていた。
「射程範囲内に入ってきたら、即座に攻撃する。メイルライダーは次の命令があるまで待機だ。」
「了解!」
ジルが命令を下し、パメラが答える。
「クロスもアルゼナルに向けて発進しました!」
オリビエがカナタたちの動きについて報告する。
「好都合と言っておくか。しかしグラディス艦長に言ったように、クロスが来るのをのんびり待つつもりはない。」
ジルはジュリオたちと一戦交える考えを変えず、迎撃に備えた。
前進を続けるミスルギ皇国の艦隊。ジュリオたちがアルゼナルを視認した。
「こちらの砲撃射程に入り次第、攻撃を開始せよ!あそこにいるノーマを根絶やしにするのだ!」
ジュリオがアルゼナルを指さして、高らかに言い放つ。
「地球連合の別動隊が、我々への支援のために急行しました!」
オペレーターが救援についてジュリオに報告する。
「いいぞ。これで我らの勝利は盤石揺るぎない!」
ジュリオが勝ち誇り、攻撃を仕掛ける瞬間を待ちわびる。そんな彼の後ろ姿を、リィザは落ち着きを払って見守っていた。
「こちらの攻撃射程に入ります。」
「よし!全砲門開け!ノーマに向けて一斉発射だ!」
オペレーターの報告を聞いて、ジュリオが号令を掛けた。艦体の戦艦の各銃砲が展開され、アルゼナルに向けて射撃とミサイルが放たれた。
直後に、アルゼナルに搭載されている銃砲が発射されて、艦隊の攻撃を相殺した。
「こちらの攻撃、迎撃されました!目標に攻撃は届いていません!」
「ノーマ・・揃いも揃って野蛮なヤツらめ・・問答無用で我らに刃向かうとは・・・!」
オペレーターが報告して、ジュリオがいら立ちを浮かべる。
「このまま前進するぞ!あの兵器も使い、ヤツらの動きを封じる!」
「しかし、このまま正面から突っ込んでも、的になるだけです!」
命令を出すジュリオに、兵士の1人が抗議の声を上げた。
「命令だ!接岸して陸戦部隊も突入させる!」
「り、了解!」
ジュリオに睨まれて、兵士は慌てて答えて、他の兵士たちに伝達しに向かった。
「ヤツらを、ノーマを根絶やしにする!そしてこの愚かな世界を作り変えるのだ!」
エンブリヲからの助言に囚われているジュリオが、アルゼナルの殲滅を宣言する。
地上部隊を乗せた戦艦がアルゼナルの海岸に着岸して、兵士たちが出撃した。
「ここにいるのは全員ノーマだ!見つけ次第、確実に始末するのだ!」
「はっ!」
陸戦部隊の隊長が命令して、隊員たちが答えた。彼らが銃を構えて、アルゼナルの施設内へ進んでいく。
そして部隊がエアポートに足を踏み入れたときだった。銃撃が飛び込み、隊員の数人が撃たれて倒れた。
銃を持った少女数人が現れ、兵士たちを狙って銃を構えた。
「このアルゼナルに入った以上、命はないよ!」
少女の1人が言い放ち、彼女たちが射撃を仕掛けた。
「マナの光よ!」
兵士たちがマナの光で射撃を防ぎ、発砲して反撃する。マナを持たない少女たちは、物陰に隠れて身を守る。
「突き進め!ノーマを1人残らず処刑する!」
隊長が呼びかけて、隊員たちとともに突撃する。ジュリオたちとジルたちの攻防は幕を開け、激しさを増していった。