スーパーロボット大戦CROSS

第37話「変革のイブキ」

 

 

 雪原の広がる津軽海峡に姿を現したイブキ。イブキは雪雲の漂う空を見上げた。

「イブキ神が地上に出られた!神葛篭(かみつづみ)の準備はまだか!?

 外に出た芳幸が部隊に指示を出す。イブキの武器「神葛篭」とその砲弾が運ばれていく。

「こちらに接近する反応あり!は、速い!」

 レーダーを見ていた兵士が報告する。飛行するランガが降下して、イブキの前に降り立った。

「ダ、MM・・・!」

 別の兵士がランガを見て緊張を覚える。ランガとイブキが対峙して、重い空気が立ち込めた。

 

 日本に辿りついたミネルバと飛行艇が、アンジュたちのいる小型飛行艇を発見した。

「魅波さんたちを発見しました!」

「こっちで回収するよ!」

 メイリンが報告をして、メイがタリアに呼びかける。飛行艇が小型飛行艇を収容して、アンジュたちが戻ってきた。

「大丈夫、モモカちゃん!?

「はい・・夕姫さんが手当てしてくれて、助かりました・・」

 エルシャが心配の声を掛けて、モモカが答えて夕姫に微笑んだ。

「後味が悪くなるからやっただけよ・・」

 夕姫が突っ張った態度を見せて、モモカたちに背を向けた。

「みんな、ランガの動きが止まったよ!」

 メイが声を掛けて、アンジュたちがレーダーに目を向けた。日本の東北地方の地図を映しているレーダーで、2つの反応が静止していた。

「1つはランガだけど、もう1つは・・?」

「もしかしたら、それがランガの、スーラの敵・・・」

 アンジュとサリアがもう1つの反応について考える。

「おい・・海潮とラブはどうした?」

 ヒルダがラブたちがいないことに気付いて問いかける。

「あ・・そ、それが・・・」

 モモカが深刻さを感じて、表情を曇らせた。

「ランガのいる地点の映像が入ってきたよ!」

 メイが呼びかけて、モニターを切り替えた。ランガとイブキの対峙する映像が入ってきた。

「ランガと・・・もう1体は何・・・?」

「あれも虚神っていうヤツじゃねぇのか?前にそいつを捕まえてたヤツに・・」

 クリスがイブキを見て呟き、ロザリーがラブレに目を向ける。

「ヒルダたちはいつでも出られるように。私がヴィルキスとアーキバスの修理を急ぐよ!」

 メイがヴィルキスの整備とアーキバスの修理に向かった。

「ランガ・・・」

 ランガを見守って、夕姫は戸惑いを感じていた。

 

 重い静寂を打ち破るように、ランガが胸から剣を出して、イブキに向かっていく。ランガが振りかざした剣を、イブキが後ろに下がってかわした。

 ランガが詰め寄り、さらに剣を振りかざす。イブキが両手でランガの両腕を押さえて止める。

「神葛篭砲台、及び第1砲弾、第2砲弾、急げ!」

 芳幸が部隊へ檄を飛ばす。神葛篭の砲台と砲弾2つがトラックで運ばれてくる。

 イブキが両肩にあるノズルから火炎を放ち、ランガが後退してかわした。ランガが飛行しながら、左手の砲門から砲撃する。

 イブキが砲撃をかわしながら、神葛篭の砲台のそばまで下がった。イブキは砲台を手にして、続けて砲弾の1つをつかんで砲台にセットした。

「イブキ神の発掘の際に、共に発見された古代の投弾兵器。損傷の激しかった本体を、我々の技術で修復し、改良を加えた・・さぁ、見せてくれ!古代とエーステクノロジーの融合の威力を!」

 芳幸が神葛篭を見上げて、期待を込めて叫ぶ。イブキが神葛篭を構えて、砲弾を発射した。

 ランガが見切って砲弾をかわした。しかし砲弾は軌道を変えて、再びランガに向かって飛んできた。

 砲弾が側頭部に直撃して、ランガが落下して海に落ちた。

「すごい・・すごいぞ、イブキ神・・・!」

「威力がいだけじゃない・・ホーミングが備わっていて、敵に当たるまでどこまでも追っていく・・・!」

 軍人たちがイブキと神葛篭の力に、脅威と感動を覚えた。

 

「ランガ!」

 砲撃を受けたランガを目にして、海潮が叫ぶ。

「すごい・・・イブキ神・・・!」

 恒彦たちがイブキの力に感嘆、心酔する。

「日本人よ、目を覚ませ。」

 そのとき、イブキの顔に変化が起こり、目が現れた。

「あの目・・あの顔・・・!」

「藤原さん!?

 ラブと海潮がイブキの顔を見て驚く。その目つきは、イブキの中に入っている和王とそっくりだった。

「敗戦から長き年月が経ち、我々の偽りの民主主義は完全に行き詰まった。自由の名の下に、人々は欲望を貪り、平等とは名ばかり。真の目的に生きる者たちを、異端として排斥する免罪符と成り果てた・・」

 イブキと一体となっている和王が、日本中に自分たちの考えを訴えていく。

「我はこの国に、真の正義をもたらすために現れた。失われた自由を取り戻せ。真の目的を思い出せ。我には人々を導く使命がある。それは人々を正しき道を示すことのできる存在、真の神、イブキ神だからだ!」

 イブキとしての使命を語り、人々を導こうとする和王。

 世界の融合と混乱によって、人々の不安は増すばかりとなっていた。彼らに希望をもたらすのは、彼らにとって絶対的な心の支えとなる存在。和王は人々の真の神として、その責務を遂行しようとしていた。

 そのとき、海に落ちたランガが出てきて、陸地に足を付けた。

「ランガ・・!」

 ランガが立ち上がったことに、海潮が安心を覚える。神葛篭の弾丸を受けたことで、ランガは側頭部を抉られていた。

 

 ランガとイブキのいる津軽海峡の近くに、ミネルバと飛行艇が到着していた。

「ランガ、イブキと呼ばれる巨人と交戦中です!」

 メイリンがランガたちを確認して報告する。

「レイ、ルナマリア、出撃準備を。いつでも出られるようにしておいて。」

“了解です。”

 タリアが指示して、レイが答えた。

(虚神会は、イブキは日本の人々の扇動を図っている。そのために、今の日本の注目の的となっているランガを倒そうとしている・・)

 虚神会の動向を推測して、タリアはランガとイブキの戦いを見守った。

 

 負傷しながらもランガはイブキと戦おうと前進する。

「私は負けない・・我こそ真の正義を謳う者・・私は、イブキ神!」

 和王が信念を口にして、イブキが2つ目の弾丸をセットして、神葛篭を構えた。

 ランガが右手を伸ばして、イブキの顔をつかんだ。イブキが左手でランガの右腕をつかんで振り払おうとする。

 ランガが翼をはばたかせて、イブキに突撃した。イブキが押されて倒れて、その弾みで神葛篭を落としてしまう。

 ランガが左手をイブキの顔に叩きつける。それから何度も左手を力任せに打ち付けていく。

 そしてイブキにとどめを刺そうと、ランガがイブキの顔に左手を向けて、砲撃しようとした。

「和王さんが・・!」

「イゾルデ、発射!ランガを引き離して!」

 夕姫が叫び、タリアが指示を出した。

 そのとき、ランガが突然攻撃をやめて、空を見上げた。その上空には1つの巨大な影があった。

 ランガがその影に向かって飛び上がった。

「何よ、アレ・・!?

「虚神・・・!?

 アンジュとルナマリアがその影を見て疑問を覚える。

 影に近づいていくランガの下で、イブキが立ち上がり、神葛篭を拾って構えた。放たれた砲弾がランガの背中に直撃し、爆発を起こした。

 致命傷を負ったランガが落下して、雪原の上に倒れた。

「ランガが・・・倒された・・・!?

 動かなくなったランガを見て、カナタが目を見開いた。イブキの神葛篭によって、ランガは倒された。

 

 ランガの敗北を目撃して、海潮もラブも愕然となっていた。

「ランガ・・・ランガ・・・!」

 目から涙を流した海潮がふらついて、倒れそうなったのをラブに支えられた。

「海潮・・・!」

 絶望に打ちひしがれている海潮を見て、ラブも辛さを膨らませていく。

「勝った・・・イブキ神の勝利だ・・・!」

 恒彦がイブキの勝利を心から喜ぶ。

「虚神政権の誕生だ・・ついに、新しい時代の到来だ!」

 イブキが日本を動かしていくと確信して、恒彦たちがイブキへの心酔を強めていった。

 

 ランガに勝ったイブキが、夕姫の乗っている飛行艇のいるほうに振り向いた。

「夕姫、君の理想を叶えられるのは僕だけだ。僕のそばに来てほしい・・」

 和王が自分の想いを夕姫に向けて告げた。彼の言葉に夕姫は困惑する。

「・・・私は・・イヤ・・・!」

 夕姫がイブキから目を反らして、和王を拒む。彼女は和王の目指す理想を受け入れたくなかった。

「ランガの回収を急いで・・虚神会に、連合軍に渡すわけにはいきません!」

 タリアが指示をして、タリアと飛行艇がランガに近づいていく。

 そのとき、ミネルバたちの前に多数のウィンダムが現れた。さらに地上には多数のビッグエースが配備されていた。

「あれは、ビッグエース!?

「いつの間に正式配備されたの!?

 翔子と穂波がビッグエースたちを見て、驚きの声を上げる。

「レイ、発進して!他のパイロットも可能の限り出て!」

 タリアがレイたちに指示を送る。レイがレジェンドに乗り込んで、システムをチェックする。

(レジェンド・・かつてあの人が乗った“プロヴィデンス”のシステムを継承している・・オレも使いこなしてみせる・・・!)

「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」

 意を決したレイが、レジェンドでミネルバから発進した。

「あたしらも行くよ!」

「OK!」

「うん・・・!」

 ヒルダが呼びかけて、ロザリーとクリスが頷いた。グレイブとハウザーも飛行艇から発進した。

 ウィンダムがレジェンドたちに向かってビームライフルを発射する。ビッグエースたちも一斉にバルカンを連射していく。

 レジェンドが背部に搭載されているビーム端末「ドラグーン」を方向転換して、ビームを放射する。しかしウィンダムの大隊を突破するには至らない。

 その間に他のウィンダムが、ランガを持ち上げて飛翔した。ランガは捕まっても動かず、ウィンダムたちに運ばれていく。

「ランガが・・・私もヴィルキスで出るわよ!」

「ダメだよ、アンジュ!アーキバス程じゃないけど、ヴィルキスも損傷があるんだよ!」

 アンジュも出撃しようとするが、メイに呼び止められる。レジェンドたちの救援も届かず、ランガは遠ざかっていった。

「ランガ・・・!」

 ランガが手の届かないところまで行ってしまったことに、夕姫も魅波も動揺を感じずにはいられなかった。

「これ以上、ここに滞在するのは不利にしかならない・・撤退します!ラブさんと海潮さんの救出に向かいます!」

 タリアが状況を把握して、撤退を指示した。ミネルバと飛行艇、レジェンドたちがけん制しながらイブキたちの前から離れていった。

「構わない・・彼らがこのイブキ神を理解する時が必ず来る。仮に次も拒絶するならば、そのときに・・・」

 和王はクロスを追おうとしなかった。彼はカナタたちが自分たちの思想に賛同すると信じていた。

 

 ランガを連れ戻すことができず、カナタたちは歯がゆさを覚えていた。

「私も早く出ればよかった・・私だって、もう・・・!」

 ルナマリアが出撃が送れたことを悔やむ。

「ヤツらのあの壁を突破するには、オレたちの初動は遅かった・・ランガとイブキという虚神が戦っている間に、オレたちも動き出すべきだった・・」

 レイも自分たちの判断を誤ったことを気にしていた。

「インパルスもデスティニーも出せず、ヴィルキスも損傷していた・・もしもどれかが出れていたら、突破ができたはずだ・・・」

「イザナギでも、あの状況を打破できたと・・・」

 レイが話を続けて、カナタも自分も出遅れたことを気に病んだ。

「もう失態は許されない・・次は今回よりも取り返しのつかないことになるかもしれない・・」

「レイ、いくらなんでも言いすぎよ・・!」

 警告を口にするレイに、ルナマリアが不満を覚える。

「しかし事実は覆せない。これから起こる可能性のある最悪の事態もな・・」

「事実はそうでも、これから悪いことが起こるかもしれないなら、変えることができるはずよ!」

 表情を変えずに告げるレイに、ルナマリアが反発する。

「レジェンドにはレイが、あのデスティニーにはシンが乗るんでしょ?・・だったら、私がインパルスで・・・!」

「ルナマリア・・・」

 決意を新たにしたルナマリアに、レイが当惑を覚える。

「今はラブと海潮を救出するのが先だ・・・!」

 カナタが言いかけて、レイたちの前から去っていった。

(迷っていられない・・オレがカンナと戦うのをためらったら、メイさんのように、誰かが・・・)

 仲間がいなくなることを避けなければならないと、カナタは強く思うようになっていた。

 

 恒彦たちに拉致されていたラブと海潮だが、TV局から追い出される形で解放された。

「どういうつもりですか!?私たちを人質にしたのに・・!?

「我々が君たちを連れてきたのは、イブキ神の偉大さと我々の使命を君たちにも知らしめるため。これ以上、君たちを拘束する理由は、今のところない。」

 疑問を投げかけるラブに、恒彦が自分たちの信条を語る。

「君たち2人は解放する。しかし今は準非常態勢だ。我々の国を勝手に往来するなら、我々は任務を遂行することになる。君たちの国に、君たちの組織に帰るのだ。」

 恒彦がラブと海潮に忠告を送った。

「ランガは、どうなりますか・・・?」

「処分することになるだろう・・」

 海潮の質問に答えて、恒彦はTV局に戻っていった。

「ランガ・・・!」

 ランガがいなくなったことに、海潮が悲しみを膨らませていく。

「海潮、帰ろう・・グラディス艦長に連絡して、海潮の家で待っていよう・・・」

 ラブが海潮の肩を優しくつかんで呼びかける。海潮が小さく頷いて、島原家に戻っていった。

 

 ラブと海潮の救出に向かうミネルバと飛行艇。その最中、ミネルバにラブからの連絡が入った。

「ラブさん!?2人とも無事なのですか!?

“はい・・向こうが目的を果たしたみたいで、私たちを解放してくれたのです・・・”

 タリアが声を荒げて、ラブが状況を話す。

「現在、武蔵野に向かっています。もう少し待っていてください。」

“海潮の家で待っています・・ご迷惑をおかけしてすみませんでした・・・”

 タリアの呼びかけに答えて、ラブが謝った。彼女との通信を終えて、タリアが安心を覚えた。

「別命あるまで、島原家で待機します。すぐに連合軍の本拠地へ向かう指令が届くことになるでしょうけど・・」

 タリアが言いかけて、アーサーたちが頷いた。

 

 ラブと海潮の無事の知らせは飛行艇にも伝わり、魅波、ジョエル、ラブレは安心を覚えた。

「海潮・・よかった・・・」

「もう、みんなに心配かけるんだから・・・」

 魅波が胸を撫で下ろし、夕姫が不満を口にする。

「今のうちにパラメイルの修理と整備を急がなくちゃ!」

 メイが気を引き締めなおして、機体の整備に力を入れた。

「それにしても、ランガは何でいきなり攻撃をやめたんだ?」

「そうだよな・・あのまま攻撃を続けてりゃ、アイツを倒せてたのに・・」

 ヒルダとロザリーがランガが突然攻撃を中断したことを考える。

「上空にいた何かに向かっていったようね・・巨大な人型としか分からなかったけど・・」

「ん〜・・あれは何でしょ〜・・?」

 エルシャが巨人について言いかけて、ヴィヴィアンも腕組みをして考え込む。

「今はラブと海潮と合流して、ランガの行方を追うのが先決よ。」

「そうですね。それに連合軍のこともありますし・・」

 サリアが呼びかけて、霧子が頷いた。ミネルバと飛行艇は武蔵野に辿りつき、島原家の近くに着陸した。

「ラブ!海潮!」

 カナタがミネルバから降りて、駆け込んできたラブと抱き合った。

「ラブ、無事でよかった・・・!」

「カナタくん、ゴメンね・・心配かけて・・・!」

 安心するカナタにラブが謝る。

「海潮!」

 魅波も夕姫たちと一緒に飛行艇を出て、海潮に駆け寄った。

「もう・・心配させて・・・!」

 魅波が目に涙を浮かべて、海潮を抱きしめた。

「でもランガが・・・藤原さんに・・・!」

 海潮がランガのことを気にして、魅波も夕姫たちも困惑を覚える。

「私は、誰かに救われたりなんかしない・・ランガは死んだりしない・・必ず取り戻してみせる・・・!」

 イブキとなった和王の考えを拒絶して、夕姫が自分の意思を貫こうとする。

「そのランガは虚神会の、連合軍の手に落ちてしまった・・居場所を見つけて、早く助けないと・・・」

 エルシャが言いかけて、魅波たちが頷いた。海潮もランガのことを考えるあまり、落ち着くことができないでいた。

“サリアさん、連合軍の居場所を発見したと連絡が入りました。”

 そのとき、ミネルバからタリアの通信が入ってきた。

“補給と整備を受け次第、私たちは現場に向かいます。”

「分かりました!こっちも準備します!」

 タリアの言葉に答えて、メイが通信を終えた。

「やれやれ。立て続けの仕事だ。退屈しないねぇ・・」

 ロザリーがため息をつく素振りを見せて、次の戦いに意識を傾ける。

「さっさとパラメイルの修理をしちゃうよ!」

 メイがヴィルキスたちの修理と整備を急いで、アンジュたちも各々の機体のチェックを行った。

(また、戦いが起こる・・・でも、私には力がない・・何もできない・・・)

 海潮がまた自分の無力さを痛感して、悲しみを募らせていた。

 

 地球連合の最高司令部「ヘブンズベース」に対する包囲網を、ザフトは狭めつつあった。それに気付いたジブリールが、いら立ちを募らせていく。

「おのれ、デュランダル・・・我らの戦力はそろっているか!?

「はい!デストロイ5機、ザムザザー、ゲルズゲー各10機、他の量産型も多数そろえています!」

 ジブリールが問いかけて、兵士が報告をする。

「それとミスルギ皇国を始め、同盟国から軍事支援が来ています。」

 別の兵士がジュリオたちの動向について、ジブリールに伝える。

「他の国にこの力添えは感謝するぞ・・では全機出撃だ!コーディネイターに、デュランダルに思い知らせてやるぞ!我々の目指す道こそが、真に正しき道であることを!」

 ジブリールが野心を募らせて、部隊の出撃の命令を下した。デストロイたちがザフトを迎え撃つべく出撃した。

 

 ジブリールたちの仕向けた機体によって、ヘブンズベースを包囲していたザフトの部隊は、壊滅的な被害を受けることになった。さらに機体の部隊はジブラルタルに向けて前進していく。

「ハッハッハ!どうだ、ザフト!どうだ、コーディネイター!これが我らの力!我らの信念だ!」

 ジブリールがデストロイたちの攻撃を見て、高らかに笑う。

「思い知るがいい、デュランダル!真に世界を導くのは我々だ!」

 ジブリールが勝ち誇って、高らかに笑う。デストロイを筆頭とした部隊が、さらに進攻を続けていった。

 

 ヘブンズベースに向けて発進したミネルバと飛行艇。ジブリールが指揮する部隊との距離を、2隻は徐々に縮めていた。

 シュミレーション練習をこなしたルナマリアは、タリアに出撃を願い出た。

「あなたがインパルスに?」

「はい。レイはレジェンドに、シンはデスティニーに乗ることになります。私もこのままザクに乗り続けるより、性能の高いインパルスに乗ったほうがいいと思います。」

 聞き返すタリアに、ルナマリアが真剣な面持ちで答える。

「インパルスの戦闘シュミレーションはこなしています。私も出撃させてください!」

「ルナマリア・・・分かったわ。あなたは今後はインパルスに乗って。」

 ルナマリアの申し出をタリアが聞きいれた。

「ありがとうございます、艦長!」

 ルナマリアが微笑んで頭を下げた。

「レイ、そしてカナタくん、あなたたち2人に先陣を切ってもらいます。」

 タリアが連合軍との戦いについて、レイたちに伝える。

「レジェンドとデスティニーは活動時間に制限はありません。無限のエネルギーを発揮し続けているハイブリッドディメンションを搭載したイザナギも同じです。」

「だからより長く活動できるオレたちが先陣を切るわけですね。」

 タリアの説明を聞いて、カナタが納得する。

 デスティニーとレジェンドには、無尽蔵のエネルギーを生み出す核エンジン「ニュートロンジャマーキャンセラー」と、インパルスのエネルギー源にもなっているデュートリオンシステムを兼ね備えたハイブリッドエンジンとなっている。活動時間が無制限というだけでなく、より高い性能を発揮することができるのである。

 そしてエネルギーが無限なのは、イザナギも同じだった。

「分かりました。連合軍を止めるために、オレも戦います・・世界を混乱させている戦いを止める・・・!」

「ありがとう、カナタくん。レイと共に出撃して。」

 決意を口にしたカナタに、タリアが感謝した。

「ルナマリアとサリア隊、ダイミダラーの発進は、次に指示を出すときです。」

「はい、艦長!」

 タリアがさらに指示を送り、ルナマリアが敬礼して答えた。タリアのこの指示は、アンジュたちのいる飛行艇にも伝えられた。

 

 連合軍との決戦を目前として、カナタたちはそれぞれの機体に乗って、システムチェックを行っていた。

(ここまでやってきたんだから、シンほどじゃなくても、私も乗りこなせるはず・・!)

 手応えと自信を胸に秘めて、ルナマリアが出撃に備えた。

「カナタ、お前も一緒に戦ってくれることに感謝している。ザフトでなく、オレたちとは別の目的があるというのに・・」

「世界と元に戻したいのと、争いを終わらせたいのは、オレも思っている。オレたちの個人的な事情もあるけど、それで他をほったらかしにしていいことにはならない・・・」

 礼を言うレイに、カナタが自分の正直な気持ちを口にする。

「アンジュたちも霧子たちも、この戦いを終わらせようとしているという考えは共通している。海潮たちも甘さを抱えているだけで、考えは同じのはずだ。」

「だから、自分たちの思い通りにしようとしている連合軍を止める・・戦う以外に止められないなら・・・!」

 レイがアンジュたちと意識を共有させていると信じて、カナタも覚悟を決めていた。

(カンナとも、決着を付けないといけない・・・!)

 これからのカンナとの戦いのことも考えて、カナタの心は揺れていた。

“レジェンド、イザナギ、発進!”

 タリアからの指令がカナタたちに届いた。イザナギ、レジェンドの前のハッチが開かれた。

(戦います、ギル・・そしてシンは必ず、ギルの意思に答えてくれます・・!)

「レイ・ザ・バレル、レジェンド、発進する!」

 ギルバートへの思いを胸に秘めて、レイがレジェンドを駆ってミネルバから発進した。

「天命カナタ、イザナギ、いきます!」

 カナタのイザナギも続けてミネルバから発進した。

 

 ジブラルタルに向けての進攻を続ける連合軍。その前にカナタたちが立ちはだかった。

「クロス!・・あれはもしや、ザフトの新型か!?

「何が出てこようと、こちらはデストロイが5機もいるのだ!負けることはない!」

 パイロットたちが声を荒げて、レジェンドに狙いを定める。

「我らはあの新型を討つ!他はミネルバを落とせ!」

「分かった!」

 パイロットたちが声をかけ合って、デストロイたちがカナタとレジェンドに向けてビームを放つ。2機は加速して、ビームをかいくぐる。

(たとえ巨体でパワーと攻撃力があろうと、レジェンドのスピードには追いつけない。)

 レイは冷静にデストロイの射撃を見定めていく。

(それにこの機体、オレに馴染む・・!)

 レイはレジェンドが思い通りに動かせていることに、不思議を感じていた。

(大気圏内なのでドラグーンは射出できない。だが、通常のビーム兵器としても十分威力はある。)

 ドラグーンは射出しての全方位からの射撃を行えるが、重力のある大気圏内では射出はできない。それでもレイは動じることなく、レジェンドがドラグーンを背部に装備したまま操作して、ビームを発射していく。

「ぐっ!」

 デストロイ2機がビームを受けて怯み、パイロットたちがうめく。しかし2機はすぐに踏みとどまる。

「強力なビームだが、これでやられるデストロイではない・・!」

 デストロイのパイロットが毒づきながらも言い放つ。デストロイ2機がスーパースキュラを発射するが、イザナギとレジェンドが素早くかいくぐる。

「1機を集中的に狙え!そうすればヤツらの戦力が減る!」

 デストロイのパイロットの1人が呼びかけて、集中砲火を狙う。

「どけ、お前たち!オレがまずそいつを倒す!」

 そこへデストロイの1機に乗っているパイロットが呼びかけてきた。ベルリンでカオスを破壊されたスティングである。

 生き延びていたスティングも、デストロイの1機に乗り込んで出撃していた。

「やっとオレもコイツに乗れたんだ・・思う存分やらせてもらうぞ!」

 スティングが歓喜を込めて言い放つ。彼の駆るデストロイが、レジェンドを狙って進行する。

「オレがあの機体を相手にする。カナタは他をけん制してくれ。」

「分かった、レイ!」

 レイが指示して、カナタが答える。レジェンドがスティングのデストロイの相手をして、イザナギは他の機体の注意を引き付けた。

「いいぞ・・このままオレが仕留めてやる!」

 スティングが笑い声を上げて、レジェンドを執拗に狙った。

 

 連合軍との攻防で、ミネルバは揺さぶられていた。その振動は、シンのいる医務室にも伝わっていた。

(行かないと・・オレも、戦いを終わらせるために戦うんだ・・・!)

 ベッドに横たわっていたシンが、意思を強める。彼は体を起こして、ベッドから立ち上がった。

(もう何も失わない・・みんな、オレが守る・・・!)

 

 

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