スーパーロボット大戦CROSS

第36話「スーラ」

 

 

 勝流がバロウに旅立ったとき、夕姫は幼かった。魅波、海潮と比べて勝流の面影をあまり覚えていない。

 スーラの眠る部屋を訪れた夕姫。スーラとそっくりな勝流の面影を確かめて、彼女は戸惑いを感じていた。

「お兄さん・・・」

 スーラに向かって呼びかける夕姫。しかしスーラは眠り続けている。

「お久しぶりですわ、兄君様♪」

 夕姫が上品に振る舞うが、スーラは反応しない。夕姫がスーラの隣に横たわって寄り添った。

「起きて、お兄ちゃん♪」

 無邪気な妹を装って呼びかける夕姫。

 そのとき、ラブレが部屋の中を覗いていたことに気付いて、夕姫が恥じらいを覚えた。立ち去ろうとしたラブレを、夕姫が腕をつかんで止めた。

「誰かに言ったら・・ただじゃおかないから・・・!」

 夕姫に鋭く睨まれて、ラブレが小さく頷いた。

 

 ラブ、アンジュ、モモカは動かないランガの様子をうかがっていた。

「あの人が出てきてから、ランガは全然動かなくなった・・ということは、あの人がランガを動かしていたということでしょうか・・?」

「さぁね・・だとしたら、アイツが海潮たちの言いなりになっていたってことになるわね・・」

 モモカとアンジュがランガとスーラについて推測する。

「ということは、ランガは神様というよりは、あの人が動かしていた乗り物ということになりますね・・」

「もしかして、私たちでも動かせたりできるのかな・・?」

 モモカがさらに考えを巡らせて、ラブが疑問を感じていく。

「軽はずみでそういうことはしないほうがいいわよ。大いなる災いっていうのを封じてきたんだもの。ランガに入れる人は、何か条件じゃあるんじゃないの?」

「あぁ・・・そうかもしれないね・・・」

 アンジュからの注意を聞いて、ラブが気まずくなった。

「みなさん、グラディス艦長たちのほうは・・?」

「まだ動きはないです。何かあれば連絡するとのことです。」

 ジョエルがタリアたちのことを聞いて、モモカが顔を横に振った。

 

 スーラの眠る部屋に、今度は海潮が訪れた。彼女の見つめる先で、スーラが寝返りを打った。

 そのときのスーラの体勢が、海潮には「う」に見えた。

 スーラはそこから体を後ろに反らした。それを見た海潮は枕をどかして、「し」と読めるようにした。

 さらに海潮はスーラの体を動かして、「お」の形にしようとした。しかしどうしても「お」にできないと思い、彼女はそばにあった新聞紙を丸めて棒状にして補おうとした。

 そのとき、ラブレが部屋の中のその様子を覗いてきていたことに気付いて、海潮が赤面した。立ち去ろうとしたラブレを、海潮が腕をつかんで止めた。

「今のことは、忘れて!・・・お願いだから〜!」

 鋭く言いかけた海潮だが、すぐに涙目になって懇願してきた。ラブレは表情を変えずに、小さく頷いた。

 

 その頃、サリアは島原家の別室にいた。彼女は密かに持ってきていたプリティ・サリアンのコスチュームを着用していた。

「ここなら周りにいる人が少ないし、今はみんな外にいるはずだから・・」

 廊下に顔を出して、近くに人がいないことを確かめる。サリアは部屋に戻って気を落ち着ける。

「愛の光を集めてギュッ♪恋のパワーをハートでキュン♪美少女聖騎士、プリティ・サリアン♪あなたのとなりに突撃よ♪」

 サリアが明るく名乗りを上げてポーズを決めた。

(決まったわ・・今度はしっかりと決まった・・・!)

 手応えと満足を感じて、サリアが頷いた。

 だがそのとき、ラブレが廊下から見ていたことに気付いて、サリアが顔から笑みを消した。

(ま、また見られた・・!?

 驚愕するサリアの前から、ラブレが立ち去ろうとした。

「待ちなさい・・・!」

 サリアがラブレの背後に詰め寄り、持っていた杖を彼女の首に掛けた。

「このことを誰かに言ったら、命はないわよ・・・!」

 脅しをかけるサリアに、ラブレが表情を変えずに頷いた。

 

 スーラの眠り続ける部屋に、忍び込んできた人物がいた。それは彼の正体を直接確かめに来た和王だった。

 和王は小さなペンライトを付けて、スーラが掛けている布団の中に潜り込んだ。そこで彼はあるものを確認しようとした。

「な・・ない・・・!?

 確認しようとしたものがないことに、和王が驚愕を覚えた。

 次の瞬間、和王が潜んでいた布団が持ち上げられた。彼が振り向いた先に、布団を持っているラブとモモカの姿があった。

「あっ・・・!」

 動揺を浮かべる和王の前には、ラブたちだけでなく、海潮と夕姫、アンジュもいた。

「あああーーーっ!!!

 海潮が悲鳴を上げて、そばにあった箒を持って身構えた。アンジュも銃を、モモカもフライパンを手にして、和王が慌てて庭へ飛び出した。

「あなたはあのとき、ラブレちゃんを捕まえた虚神を操っていた・・!」

「アンタ、何をいやらしいことをしてんのよ!?

 ラブが驚きの声を上げて、アンジュが和王を問い詰める。

「ちち、違う!誤解だ!」

「何が誤解よ!寝てるのをいいことにお兄ちゃんの体を弄ぼうとするなんてー!」

 反論する和王に海潮が怒鳴る。

「弄ぶ!?ぼ、僕がそんなことするわけないだろ!」

「してたじゃん!」

「僕はただ、本物の勝流かどうか、確かめようとしただけだ!」

「えっ・・!?

 話を打ち明ける和王に、海潮が戸惑いを見せる。

「大学に通っていた頃、僕と勝流が仲間と飲み会をしていたときだった・・酔っていた勝流は突然、自分の股の間にどれだけビール瓶を挟めるかの勝負を持ちかけてきたんだ・・」

「は、はい・・!?

 和王が昔のことを語るが、海潮が眉をひそめて、ラブたちも疑いの眼差しを送る。

「勝負は勝流の勝ちだった・・だけど勝流は、世界記録に挑戦すると言って、無理にビンを押し込んで・・・」

 話を続ける和王が、当時の悲惨な光景を思い出した。挟んでいたビンが落ちて割れて、勝流は負傷した。

「足の付け根に、5針縫うケガを負ってしまったんだ・・・!」

 深刻な面持ちで語った和王だが、海潮もアンジュたちも呆れていた。

「どこまでもふざけたことを・・そんなバカな話、信じられるわけないでしょうが!」

「こんなバカな話、作るかー!」

 アンジュが文句を言うと、和王が感情をあらわにして言い返した。

「それで、傷はあったの・・?」

 夕姫が落ち着いた態度で和王に問いかける。

「・・・なかった・・・」

 和王が愕然となってから答えた。彼もラブたちも、勝流ではない別人であることを痛感した。

 

 連合軍の上層部のメンバーが次々と拘束されていく中、ジブリールは地球連合の最高司令部「ヘブンズベース」に逃げ込んでいた。

「おのれ、デュランダル・・我々をここまで追い込むとは・・・!」

 ジブリールがデュランダルに対して、怒りと屈辱を募らせていく。

「だがこれで勝ったと思うなよ、デュランダル・・最後に笑うのは貴様らではない!我々だ!」

 ジブリールが笑みを浮かべて見上げる。彼のいる格納庫には、巨大な機影があった。

 

 島原家を離れた和王は、芳幸とともに船で海を渡っていた。行先は津軽海峡にある発掘現場。

 そこでは1体の虚神が発見されていた。和王たち虚神会が発見した中で最強の能力を備えた虚神で、完全な形で発見されていた。

「これが虚神“イブキ”か・・いや、イブキは虚神ではなく、この荒んだ世界の新たな神となるのだ。」

 地下倉庫に運ばれていた虚神、イブキを見上げて、和王が決意と覚悟を決める。

「現在、このイブキと共に発掘されたものの調査を終えて、改良を進めています。古代当時を上回る性能を発揮するでしょう。」

「そうか・・これで抵抗することができる。ランガにもクロスにも・・」

 芳幸の説明を聞いて、和王が頷いた。

(夕姫、君を救うことができる・・君をランガやクロスから連れ出すことが・・・)

 夕姫への想いを胸に秘めて、和王が笑みを浮かべた。

 

 キラとの戦いでの消耗で眠りについていたシン。彼は意識を取り戻して、ベッドから体を起こした。

「シン、意識が戻ったか・・!」

「ここは・・・」

 医務官が声を上げて、シンが周りを見回す。

「ステラ・・・!」

 隣のベッドにステラがいることに気付いて、当惑を見せる。

「ここで打てる手は全て打った。しかし薬や調整、それらによる後遺症がひどく、ここで治療することはできない。プラントに運んで、精密な検査をしなければ・・」

「そんな・・・ステラを、プラントに・・・!」

 医務官の話を聞いて、シンが動揺を見せる。

「グラディス艦長が申請して、デュランダル議長もシャトルでプラントに運ぶよう手配している。無事にプラントに行くことはできる。」

「そうですか・・よかった・・・」

 医務官が話を続けて、シンが安心を見せる。

「シン、君はまだ休んだほうがいい。任務や激しい運動は避けるんだ。」

「ですが、ザフトやミネルバはこれから新しい任務や戦闘があるんじゃ・・・!」

「それはレイたちに任せるんだ。それに、ミネルバに新しく機体が導入されたそうだ。」

「新しい機体・・・!?

 医務官の話を聞いて、シンが戸惑いを覚える。

「その中の1機にレイが乗ることになった。もう1機には君が乗ることになるだろう・・」

「オレが・・だったら戦いに備えて慣れておかないと・・!」

「だから今の状態での戦闘は厳禁だと・・」

 次の戦いに備えようとするシンを、医務官が呼び止める。

「艦長やみんなを信じるときだ。分かってくれ、シン・・」

「・・・はい・・・」

 医務官に咎められて、シンは聞き入れるしかなかった。

「シン・・・シン・・・」

 そのとき、ステラが声を振り絞って、シンが振り向いた。

(ステラ・・こうしてステラを助けられたけど・・このままだと死んでしまうかもしれない・・そうならないために、ステラみたいな子をこれ以上増やさないために、オレは戦わなくちゃならない・・・!)

 これからもステラやみんなを守り、戦いを止めなければならない。シンは決意と信念を強めて、次の戦いに備えようと考えていた。

 

 芳幸の指揮する部隊によって、イブキと共に発掘された物体の改良が完了した。

 和王は身に着けているものを全て外して、イブキの前に立っていた。彼はイブキとの契りを交わそうとしていた。

(夕姫、僕は君と世界を守る・・そのための神となろう・・・)

 心の中で決意を呟く和王が、左手で持ったナイフを右の掌に突き立てた。右手から血があふれ出す。

(勝流、君との約束を今、果たそう・・・)

 彼がその右手をイブキの足に当てた。

「目覚めよ、イブキ!」

 和王がイブキに右手を押し当てた。彼の血が付くと同時に、イブキの目に輝きが宿った。

 その直後、和王がイブキの中に入り込んだ。彼はイブキと一体化したのである。

「全員退避!イブキ神が動き出すぞ!」

「はい!」

 芳幸が呼びかけて、隊員たちと倉庫から出た。全身からまばゆい光を発して、イブキが上昇して外へ出た。

 

 眠り続けていたスーラが、突然目を開いた。彼が力を放出して、部屋で爆発が起こった。

「な、何っ!?

 ラブたちが驚いて振り返る。煙の中から出てきたスーラが、ランガに向かっていく。

「もしかして、ランガに乗り込むつもりじゃ!?

「大いなる災いのアイツが乗り込んだら、ランガは・・!」

 ラブが声を荒げて、サリアが不安を口にする。

「待って!」

 海潮がスーラを止めようとするが、スーラが発した衝撃波で押し返されてしまう。

「なんてパワーあの、アイツ!?

 スーラの力を目の当たりにして、アンジュが驚愕する。スーラが入り込んだランガが起き上がり、前進を始めた。

「ランガ、止まって!私の言うことを聞いて!」

 海潮が立ち上がって追いかけて呼びかけるが、ランガは止まらない。海潮は意識を傾けるが、ランガは彼女の意思も受け付けない。

「ランガ、止まりなさい!」

 海潮がランガの前に回り込んで、両手を広げて呼び止めた。するとランガが左手を振り上げて、彼女を攻撃しようとした。

(ランガ・・・!?

 言うことを聞かないばかりか牙を向いてきたランガに、海潮が目を疑った。彼女の目から涙があふれ出した。

 そこへジョエルが駆け込んで、海潮に飛びついた。ランガが振り下ろした左手から、2人は辛くも逃れた。

 ランガは海潮たちを追撃することなく、再び前進していった。

「海潮!ジョエルくん!」

 ラブが叫んで、海潮たちに駆け寄る。魅波と夕姫、アンジュたちも続く。

「海潮、ジョエルくん、大丈夫!?

「僕は大丈夫です・・でも、海潮さんが・・・」

 ラブが心配して、ジョエルが答えて海潮に目を向けた。

「私を・・・私を殺そうとした・・・ランガが・・私を・・・!」

 ランガに裏切られたことにショックを受けて、泣きじゃくる海潮。絶望する彼女を見て、アンジュがヴィルキスに乗り込んだ。

「アンジュ、どこへ行くつもり!?

「ランガを止めるのよ!アイツに勝手に動かれたら迷惑だからね!」

 サリアが問いかけて、アンジュが答える。彼女はヴィルキスでランガを攻撃して止めようとしていた。

「モモカ、ミネルバに連絡して、対策打つように呼びかけて!」

「わ、分かりました!」

 アンジュの呼びかけに答えて、モモカが飛行艇に行って連絡をした。

「仕方がないわね・・私も行くわ!」

 サリアがため息をついてから、アーキバスに乗り込んだ。ヴィルキスとアーキバスが飛翔して、ランガを追いかけた。

「海潮、私たちもグラディス艦長の指示を仰ぐわよ・・・!」

 魅波が呼びかけるが、海潮はうなだれていて答えない。

「海潮、しっかりしなさい!」

 魅波が海潮の肩をつかんで呼びかける。それでも海潮は落ち込んだままである。

「海潮!」

 魅波が海潮の頬を叩いた。海潮が我に返って、叩かれた頬に手を当てた。

「いつまでも落ち込んでいる場合じゃないでしょ!大変なときだからこそ、しっかりしなくちゃならないのよ!」

 魅波に叱られて、海潮は小さく頷いた。

 

 前進を続けるランガは、建物や車を踏みつけるのも構わずに、独立領と外の境界をも超えた。暴走するランガの前に、ヴィルキスとアーキバスが回り込んできた。

「いつまでも調子に乗らないでよね・・!」

 アンジュがランガに向かって鋭く言い放つ。

「救援は期待できないから、私たちだけで食い止めるわよ!」

「言われなくてもそのつもりよ!」

 サリアが呼びかけて、アンジュが言い返す。ランガが体から剣を引き抜いて、ヴィルキスとアーキバスがフライトモードからアサルトモードに変形した。

 ランガが駆け込んで剣を振りかざす。ヴィルキスとアーキバスが回避して、アサルトライフルを発射する。

 ランガが射撃をものともせずに、左手から砲撃を発射する。ヴィルキスたちが上空に飛翔して、砲撃をかわしていく。

「こうなったら・・!」

 アンジュがいきり立ち、ヴィルキスがラツィーエルを手にして、加速してランガに向かっていく。ランガが砲撃を繰り返すが、ヴィルキスが素早くかわして一気に詰めてきた。

 ヴィルキスが振りかざしたラツィーエルと、ランガの剣が強くぶつかり合う。

「強い・・ランガ、こんなに強かったの・・・!?

 スーラの駆るランガの荒々しい力に、アンジュが脅威を覚える。そのとき、ランガが左手の砲門をヴィルキスの胴体に当てて発砲した。

「うあっ!」

 ヴィルキスが吹き飛ばされて、アンジュがうめく。

「アンジュ!」

 サリアがアンジュに向かって叫び、アーキバスがドラゴンスレイヤーを手にして飛びかかる。

 ランガの砲撃と剣をかわして、アーキバスがドラゴンスレイヤーを突き出した。ランガが突き飛ばされて、剣を手放してしまう。

「今のうちにランガを拘束して・・!」

 サリアが思い立ち、アーキバスがランガの追撃に向かう。アーキバスがドラゴンスレイヤーを構えて、ランガの足に突き立てて動きを封じようとする。

 そのとき、ランガの右手が刃に変化して、アーキバスの右腕を切り裂いた。

「何っ!?

「あのランガ、海潮、魅波、夕姫の入ったときの能力を全部使えるの・・!?

 サリアとアンジュがランガの発揮する能力に驚愕する。ランガの左手からの砲撃を、アーキバスが後退して回避した。

「詰めが甘いじゃない、サリア・・!」

「あなたも苦戦をしているじゃない、アンジュ・・!」

 互いに文句を言い合うアンジュとサリア。しかしヴィルキスもアーキバスも、ランガに対して悪戦苦闘をしていた。

 立ち上がったランガが、ヴィルキスたちを攻撃しようと右手を構えた。

 そのとき、ランガが突然動きを止めて攻撃をやめた。

「ど・・どうしたの・・!?

 ランガの異変に疑問を覚えるサリア。ランガが背中から翼を広げて、ヴィルキスたちの前から飛び去った。

「何があったっていうのよ・・・!?

 ランガの行動に疑問を膨らませていくアンジュ。

“アンジュリーゼ様、ご無事ですか!?

 そのとき、ヴィルキスにモモカからの通信が入った。

「モモカ・・ランガに逃げられたわ・・グラディス艦長からの連絡は?」

 状況を伝えたアンジュが、モモカに問いかけた。

 

 モモカからランガの暴走を聞いたタリア。メイリンが他の部隊との交信を併用しながら、レーダーでランガの行方を捜索していた。

「ランガは現在、武蔵野から飛行を開始、北上しています!」

 メイリンが通信を聞いて、タリアに報告する。

“グラディス艦長、移動と戦闘の準備は万全か?”

 ギルバートからの通信が、タリアに向けて伝わる。

「もちろんです。新型2機の導入も済んでいます。」

“ミネルバもランガ追跡に向かってくれ。ただし連合軍を発見次第、そちらに連絡が入ることを頭に入れてほしい。”

「分かりました・・クロス、発進します。」

 ギルバートからの指令にタリアが答えた。

“ミネルバ、応答してください!モモカです!”

 その直後にモモカからの通信がミネルバに入ってきた。

「モモカさん、状況はどうなっていますか?」

“ランガは独立領を突破した後、アンジュリーゼ様とサリアさんと戦闘。お二方を追い詰めますが、突然空へ飛び去ってしまいました・・!”

 タリアの問いかけを受けて、モモカが現状を伝えた。

「これからそちらへ向かいます。ただし別名があれば、私たちはそちらへ向かうことになりますので・・」

“はい・・私たちもアンジュリーゼ様とサリアさんを回収して、ランガを追います。”

 モモカと連絡を取り合ってから、タリアは通信を終えた。

「クロスはアンジュさんたちと合流して、ランガを追います!」

「はい!」

 タリアの号令にアーサーが答える。ミネルバと飛行艇がジブラルタルを離れた。

 

 モモカたちもランガを追うため、小型飛行艇を発進させようとしていた。

「みなさん、乗ってください!」

 ラブが飛行艇から顔を出して、海潮たちに呼びかける。

「海潮、いい加減にして行くわよ!」

 夕姫が不満を膨らませて、海潮に言い放つ。

「全員その場を動くな!」

 そこへ銃声とともに男の声が飛び込んできた。ラブたちの前に軍人が数人現れた。

「何よ、あなたたちは!?

「我々についてきてもらう。君たちに見せたいものがある。」

 夕姫が問い詰めて、軍人の1人、藤崎(ふじさき)恒彦(つねひこ)が呼びかけてきた。

「みんな、早く飛行機に乗って!」

 ラブが呼びかけて、魅波たちが慌てて飛行艇に乗り込んだ。だが海潮が足をつまずいて転んでしまう。

「海潮!」

 ラブがたまらず飛び出して、海潮に駆け寄って起こした。だが銃を構えた軍人たちに囲まれた。

「私たちに構わずに、早く発進して!」

「ラブさん!海潮さん!」

 ラブが呼びかけて、ジョエルが動揺する。他の軍人たちが魅波たちのいる飛行艇にも向かってきた。

「マナの光よ!」

 そのとき、モモカが飛行艇から顔を出して、マナを発動して軍人たちの足に光の足枷を掛けた。軍人たちが体勢を崩して倒れていく。

 モモカがさらにマナを使って、ラブと海潮を助けようとした。

「うっ!」

 そのとき、軍人が放った銃撃が左腕をかすめて、モモカが痛みを覚える。彼女はその勢いで飛行艇の中に倒れて、痛みで集中力を乱されてマナを使うことができない。

「モモカ!・・これじゃ、みんな捕まる!」

 夕姫が最悪の事態を避けようとして、飛行艇のドアを閉じて発進のスイッチを押した。

「夕姫、まだ海潮が!」

 魅波が呼び止めるのもむなしく、飛行艇はラブと海潮を置いて上昇した。

「戻って!海潮を助けに行かないと!」

「いけません・・このまま、アンジュリーゼ様と合流しましょう・・・!」

 飛行艇を操縦して引き返そうとする魅波を、モモカが声を振り絞って呼び止める。

「何を言っているの!?海潮たちを見捨てるつもり!?

「ランガもアンジュリーゼ様もそばにいないのに、行っても全員が捕まるだけです・・!」

 怒鳴る魅波をモモカが制止する。

「海潮・・・!」

 海潮を助けられない悔しさを噛みしめながらも、魅波はモモカの言う通りにするしかなかった。

 ラブと海潮を置いて、飛行艇は島原家から飛び去っていった。ラブたちは恒彦たちに連れていかれた。

 

 ラブと海潮がさらわれたことは、モモカからアンジュに伝えられた。

“申し訳ありません・・脱出が精一杯でした・・・!”

「いいわ・・私たちもそっちへ行くわ・・」

 謝罪するモモカにアンジュが言いかける。

「ここからじゃ2人もその軍隊も見えないわ・・・!」

 サリアが周囲を見回すが、ラブたちも恒彦たちも見つけられない。

「仕方ないわね・・モモカのところへ戻るわよ・・」

 アンジュがため息をついて、サリアとともに飛行艇に戻っていった。

 

 移動する飛行艇の中で、モモカが夕姫からの手当てを受けて、左腕に包帯を巻かれていた。

「申し訳ありません・・私が手傷を負わなければ・・・」

「気にしなくていいわよ・・こうしなかったら、私たちは全滅していたところよ・・」

 謝罪するモモカに、夕姫がため息まじりに言う。

「それにしても何なの、あの連中は・・!?

「海潮さんたちを捕まえただけで、これ以上傷つけるようなことはしませんでした・・・」

 夕姫が恒彦たちのことを気にして、ジョエルがラブと海潮のことを気にする。

「ヴィルキスとアーキバスが戻ってきたわ・・」

 魅波がアンジュたちを見つけて指さした。戻ってきたヴィルキスとアーキバスが、飛行艇に収容された。

「ランガ、ずいぶんと物騒になったものね・・私とヴィルキスが押されるなんて・・・!」

 アンジュがランガとスーラのことを思い出して、悔しさを噛みしめる。

「スーラがランガに入って、自分の敵、自分の邪魔をする者を徹底的に排除しようとする・・」

 ジョエルも深刻な面持ちで、スーラのことを話していく。

「そのスーラの敵って何なの?ランガに乗ってどこを目指しているの?」

「分かりません・・ランガの向かった方向に何かあるか、分かりますか?」

 サリアの問いかけに答えて、ジョエルが疑問を投げかける。

「この方向だと・・東北地方になるけど・・・」

 魅波がモニターに映された地図を見て推測する。

「そこへ向かいます。ミネルバも向かっているはずですから。」

 モモカが言いかけて、魅波とサリアが頷いた。小型飛行艇はランガを追って加速した。

 

 恒彦たちに捕まって、トラックに乗せられたラブと海潮。彼女たちが連れてこられたのは、TV局。既にTV局も、恒彦の指揮する別部隊によって掌握されていた。

「あっ!海潮ちゃん、ラブちゃん!」

 スタジオまで来たラブたちに、茗が声を掛けてきた。

「大森さん!」

「これ、どういうことなのー!?いきなりこの人たちが来て、ある場所を中継しろって脅迫してきてー!」

 海潮が声を上げると、茗が必死に状況を話す。

「おとなしくしろ!」

「ち、ちょっといいじゃない、話をするぐらい!」

 軍人に怒鳴られて、茗が不満に声を上げる。

「あなたたちは誰なの!?何でこんなことをするのよ!?

 茗が問い詰めてくると、恒彦が彼女に振り向いた。

「真の正しき日本を築くのだ。我々と、真の導き手によって。」

 すると恒彦が毅然とした態度で答える。

「でもそれを実力行使するなんて、クーデターってヤツじゃない!」

「それは違う。これは我々が真の自由をつかみ取るための戦いだ。政治家どもは諸外国と対等に口も利けず、若者は理念と摂理を失い、ただ自分たちだけが幸せであろうとする。こんな国に未来があると思うか・・!?

 不満を言い放つラブに、恒彦が日本への不満を口にしていく。

「だからって、軍事政権になっていいわけがない!いくら戦争を知らない人でも、戦争が起こっていいなんて思ってない!」

「違う!我々が目指すのは、イブキ神を中心とした国作り!虚神政権の樹立こそ、我々の目的なのだ!」

「虚神政権!?・・イブキ神・・!?

「そうだ・・この国には、我々には、信じられる確かなものが必要なのだ!」

 動揺を膨らませるラブに、恒彦が高らかに言い放つ。彼らはイブキを心酔していて、心からの笑みを浮かべていた。

「バロウの代表にも是非見ていただきたい!我らを導く真の神、イブキ神のお姿を!」

 恒彦が高らかに言い放ち、ラブたちが画面に目を向けた。その画面に映し出されていたのは、地上に出たイブキの姿だった。

 

 

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