スーパーロボット大戦CROSS
第35話「伝説の始まり」
シンのインパルスとキラのフリーダム。2機がエクスカリバーとビームサーベルに貫かれて、共に爆発を起こした。
「シン!」
「キラ!」
ルナマリアとアスランがシンとキラに向けて叫んだ。インパルスとフリーダムは海に落ちて、シンもキラも意識を失っていた。
「インパルスの行方は!?捜索して!」
タリアの指示を受けて、メイリンがインパルスの行方を追う。
「インパルス、発見しました!シンからの応答がありません!」
メイリンがレーダーに映ったインパルスの反応を見て、タリアたちに報告する。
「インパルスの回収を急いで!」
“私がシンを連れ戻してきます!”
タリアが指示を出したところで、ルナマリアが呼びかけてきた。
「ルナマリアとレイはシンを連れ戻して!」
“はい!”
“了解。”
タリアが呼びかけて、ルナマリアとレイのザクがミネルバから降りて海へ向かった。
「私たちはアークエンジェルの行方を追うわ。カナタ、あなたも捜索して。」
「分かった!」
サリアが指示を出して、カナタが答える。イザナギたちがアークエンジェルを追って海上へ向かった。
同じ頃、カガリはマリューの制止を振り切って、ストライクルージュでキラのフリーダムの救出に出た。
カガリが海中に沈んだフリーダムを見つけて、ストライクルージュが向かう。フリーダムは破損していて、自力で動くことができなくなっていた。
「キラ、無事か!?返事をしてくれ、キラ!」
カガリが呼びかけるが、キラからの返事はない。ストライクルージュがフリーダムを抱えて、アークエンジェルに戻っていった。
同時にルナマリアも破損したインパルスを発見した。ザクがインパルスに近づいて支える。
「シン、応答して!シン!」
ルナマリアが呼びかけるが、シンからの応答がない。ザクがインパルスを連れて海上へ上昇した。
ルナマリアもカガリも、互いの機体の姿が見えていなかった。そのため、互いに気付くことなく、シン、キラの救出に専念することになった。
インパルスを連れてミネルバに戻ってきたザク。ルナマリアがザクから降りて、インパルスのハッチを開けて、コックピットからシンを引きずり出した。
シンは外傷は見られなかったが、意識を失っていた。
「シン、大丈夫!?答えて、シン!」
ルナマリアが呼びかけるが、シンは目を覚まさない。
「ルナマリア!・・シン!」
ラブがシンたちのそばに駆けつけて、シンの状態を確かめる。
「医務室に連れていくわ!ラブ、てつだって!」
「う、うん!」
ルナマリアが呼びかけて、ラブが頷く。2人はシンに肩を貸して、医務室に向かった。
その後、イザナギとレイのザクもミネルバに戻ってきて、カナタたちも出てきた。
「シンはどこだ!?ルナマリアたちが連れていったのか!?」
インパルスの修繕を行っているヨウランとヴィーノに、カナタが問いかける。
「あぁ!それより、フリーダムとアークエンジェルは・・!?」
「見つからなかった・・大きなダメージは受けたと思うけど、それでもオレたちから逃げ切ってしまった・・・」
ヴィーノも問いかけると、カナタが深刻な面持ちを浮かべた。
「しかし、出ていきたくてもすぐには出てこれないはずだ。フリーダムに決定打を与えたのは確かだから・・」
レイがアークエンジェルの動向について推測する。
「この機に乗じて連合軍が攻撃を狙ってくるかもしれない。今のうちに体を休めておこう。」
「あぁ・・特にシンは意識が戻らないと・・・」
レイが投げかけた言葉に、カナタが頷く。
「でもオレはイザナギのチェックを済ませてからだ。オレがいないと、イザナギは完全には整備できないから・・」
カナタはイザナギに戻って、ヨウランたちと整備に当たった。
「オレは艦長に報告をする。カナタ、負担が掛からないように切り上げておくようにな。」
「ありがとう、レイ・・ムチャしないようにしなくちゃな・・・」
レイがタリアのところへ向かい、カナタが彼に礼を言った。
ラブとルナマリアに医務室に運ばれたシンは、ステラの隣のベッドに寝かされることになった。
「あの・・シンはどうなのですか・・・?」
ルナマリアが医務官にシンの容体を聞く。
「ショックで意識を失っている。それ以外の体の内外に異常はない。」
「そうですか・・よかった〜・・!」
医務官からの報告を聞いて、ラブが胸をなで下ろす。
(シン・・あそこまで必死になって、みんなを守ろうとして・・)
シンの戦いに心を打たれて、ルナマリアが戸惑いを感じていた。
「シンとステラのこと、お願いします・・」
ルナマリアは医務官に言うと、医務室を後にした。
「ルナマリア・・・」
ルナマリアのことを気に掛けて、ラブも戸惑いを感じていく。彼女はルナマリアが新たな強い決意をしたように思えた。
指令室に赴いたレイが、キラたちとの戦いの報告をタリアに報告した。
「申し訳ありません。アークエンジェルとフリーダムの消息はつかめませんでした・・」
「確認はできなかったけど、大きなダメージを与えているはずよ。少なくともフリーダムはインパルスの突撃で大破したのは確実・・」
頭を下げるレイと、現状を把握していくタリア。
「これ以降の捜索は別働隊がすることになったわ。私たちは次の戦闘に備えて、休息と修繕を・・」
タリアがレイにこれからのことを伝えていたときだった。
「上層部より指令です。ミネルバはジブラルタルへ急行せよ、とのことです。」
メイリンが通信を受けて、タリアに報告した。
「ジブラルタルに・・分かったわ。そこで補給を受けましょう。」
タリアが指令に従って、レイが小さく頷いた。束の間の休息のため、ミネルバは飛行艇と共にジブラルタルへ向かった。
クロスがキラたちと交戦していた間、ザフトによってロゴスや連合軍の上層部が捕縛されていった。
しかしジブリールや一部のロゴスメンバーは逃亡。他の連合軍の行方もつかめてはいなかった。
そしてキラたちの行方も捜索隊が探っていたが、発見には至らなかった。
指令によってクロスはジブラルタル基地に到着した。ロゴス討伐の任務を帯びた他の部隊が、基地に集結しつつあった。
ジブラルタル基地にはギルバートがプラントから赴いていた。彼はミネルバから降りてきたタリアとレイ、カナタ、ラブ、飛行艇から降りてきたアンジュ、サリア、海潮、魅波、夕姫、霧子、将馬と対面していた。
「デュランダル議長、ミネルバ、ただ今到着しました。」
タリアが挨拶をして、レイとともに敬礼する。
「やぁ、待っていたよ。ここのところのミネルバの活躍には、驚かされてばかりだよ。」
ギルバートが微笑みかけて、タリアたちに向けて頷く。
「直接対面するのは初めてになりますね。私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。」
ギルバートがカナタたちに目を向けて挨拶をする。
「デュランダル議長、オレたちに援助をしてくれてありがとうございます。」
「議長やプラントの力がなかったら、生活もままならなかったと思います・・」
カナタとラブがギルバートに感謝する。
「あなたたちには、平和と未来を思う心と、それを実現できるだけの力を持っている。我々はそこに共感して、力を貸したいと思っただけだ。」
ギルバートが自分の考えを彼らに伝える。
「協力感謝します、議長。しかし私たちには私たちの戦う理由があります。」
サリアがギルバートに礼を言うも、自分たちの使命を全うする姿勢を示す。
「あなたは勝手な連中とは違う。本当に世界やみんなのことを考えているのは分かる・・でも、この前の放送は納得がいかないわね・・」
アンジュがギルバートに対して、不満を口にした。
「あれではバカな連中をその気にさせて、世の中を騒がせるだけよ・・まぁ、結果的にぶっ壊れてしまえばいいとも思っているけどね・・」
「アンジュ、口を慎みなさい・・!」
嘲笑を見せるアンジュに、サリアが注意を投げかける。
「確かに皆を煽ってしまった形になってしまった・・しかしあの状況で皆が絶望したままでいるよりも、希望が持てたほうが安らぎを持てるはずだと、我々は思ったのだ。」
ギルバートが自分の考えをアンジュに伝えた。
「希望が1つもなければ、人は生きてはいけない。何かにすがるだけでなく、自分の信念を貫くこともまた希望。それは君たちも分かっていると思うのだが・・」
「希望・・・」
ギルバートの言葉を聞いて、海潮が戸惑いを覚える。
「はじめまして、デュランダルさん。ダイミダラー6型の喜友名霧子です。」
「僕は天久将馬といいます。」
霧子と将馬が挨拶して、ギルバートに一礼する。
「君たちのことも聞いているよ。これからもよろしく。」
ギルバートが答えて、2人と握手を交わした。
「真玉橋孝一くんのことは申し訳ないと思う。この戦いで彼の未来を閉ざしてしまった・・」
「いえ・・デュランダルさんが謝ることはないですよ・・」
「話を聞いただけですが、前のダイミダラーはみんなを守るために戦って犠牲になったって・・・」
孝一のことで謝罪するギルバートに、将馬と霧子が弁解する。
「ハイネとアスランのことも残念に思う。シンたちの成長の大きなカギになると考えていたのだが・・」
アスランたちのことを考えて、ギルバートが辛さを見せる。
「自分もそう思います。ですが2人のことを思うからこそ、これからの戦いを乗り越えなければならないと思います。」
レイが真剣な面持ちのまま、ギルバートに告げる。
「ところでデュランダル議長、オレたちを呼んだ理由は?」
「あぁ。これから導入することになる新型を紹介しようと思って・・」
カナタが質問を投げかけると、ギルバートが微笑んで答えた。彼の案内で、カナタたちは格納庫の1つに入り、その奥で足を止めた。
「これは・・!」
タリアがその機体を見て目を見開く。
「プラントにて開発していた2種の機体、“デスティニー”と“レジェンド”だ。」
ギルバートが2体の機体について語り始める。
「プラントで開発を進めていた最新鋭の機体だ。デスティニーに関しては、特殊部隊の主力を想定していた。」
「特殊部隊・・そのパイロットの中にハイネが・・・」
彼の話を聞いて、タリアがハイネのことを思い出して悲しみを覚える。
「デスティニーは元々はハイネが乗るはずだった。しかしハイネが亡くなり、彼の遺言でシンの新しい機体として調整を施すことになった。」
「ハイネの遺言・・ハイネが、自分に何かあったときには、シンが乗るようにと・・」
「あぁ。ハイネはシンの能力とその将来性を高く評価していた。彼ならデスティニーも乗りこなすことができると。」
「では、デスティニーのパイロットはシンに・・」
デスティニーとハイネのことを告げるギルバートに、タリアが納得して頷いた。
「そしてレジェンドは、先の大戦で導入された“プロビィデンス”の発展型の機体だ。性能はプロビィデンス以上であるが、操縦しやすいようにもなっている。」
ギルバートがレジェンドに目を向けて、話を続ける。
「最初はシンかアスランに乗ってほしかったが、シンがデスティニーに乗る以上、レイ、君に託そうと思う。」
「ありがとうございます、議長。この新しい機体で連合軍を討ち、戦いを終わらせてみせます。」
ギルバートからレジェンドを託されて、レイが感謝して一礼した。
「グラディス艦長、デスティニーとレジェンドをミネルバへ。シンが目を覚ましたら、デスティニーのことを伝えてくれ。」
「分かりました。シンにこのことを伝えておきます。ハイネの意思とともに・・」
ギルバートからの言葉を、タリアは聞き入れた。
「それでまた、戦いをするのですか?・・これからも戦いを続けるのですか・・・!?」
海潮が不安を浮かべて、ギルバートに問いかけてきた。
「その戦いの中で、たくさんの人が死ぬんですよ・・そんな辛いことを繰り返しても、ホントの平和なんて・・・!」
「戦いで犠牲が出てしまうことに、我々も心を痛めている。我々がもっとうまく対処していれば、善人が命を落とすことも、悲しみが広がることもなかっただろう・・」
悲しい顔を浮かべる海潮に、ギルバートも深刻な面持ちを見せた。
「それに、あのフリーダムとアークエンジェルだって、話し合えば分かり合えたかもしれないのに・・・!」
海潮はキラたちのことも考えて、戦いをやめるように徹底しなかったことを危惧する。
「そのことは本当に残念だと思っている。アークエンジェルとフリーダム・・もしも我々と力を合わせることができたなら、戦いのない世界にもっと早く近づけたはずだ・・」
ギルバートがキラたちのことを語り出して、思いつめた面持ちを見せる。
「今のこの世界では、我々は誰もが本当の自分を知らず、その力も役割も知らず、ただ時の流れに翻弄されて生きている。もしも本当の自分を知ることができたなら、無益な争いをすることも、互いに手を取り合うこともできたのに・・」
彼が語りかける話に、タリアが疑問と深刻さを覚える。
「それはフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトくんにも言える。実に不幸だと思う。」
「キラ・ヤマトくん・・アークエンジェルのクルーとして、先の大戦を終結させた1人・・」
ギルバートの話を聞いて、タリアがキラのことを思い出す。
「あの高い資質、力・・彼は本来戦士なのだ。モビルスーツパイロットの腕は、これまでのパイロットの中でもトップクラスだ・・なのに誰1人、彼自身すらもそれを知らず、そのためにそう育たないまま、時代に翻弄されて生きてしまった。あれほどの力、正しく使えばどれだけのことができたか分からないというのにね・・」
語りかけるギルバートに、タリアとレイが深刻さを感じて、海潮が困惑していく。
「先の大戦の英雄だった彼が、今回は戦いが起これば現れて、好き勝手に攻撃を仕掛けて戦火を広げる。そのような相手、プラントの最高責任者として野放しにはできない・・」
「それは私も同じです・・できることなら、和解して力を合わせて戦いを終わらせたかったのが本音でしたが・・・」
苦言を呈するギルバートに、タリアが頷く。
「もしももっと早く、高い力を持っていることを知っていたら、その力の正しい使い方を知っていたら、彼自身悩み苦しむことなく、幸福に生きられただろうに・・・」
「高い力と、その正しい使い方・・・」
ギルバートのこの言葉に、海潮が困惑を募らせる。彼女は今の自分の無力さを痛感していた。
「君たちにも言えることだ。バロウの王としての血筋と力、マナを持つ者とノーマの隔てなく、高い潜在能力が備わっていること。それがすぐに分かっていれば、理不尽に翻弄され苦しむことはなかっただろう・・」
「確かに・・バロウの王様だってもっと早く分かっていたら、貧しい生活をせずに済んだかもしれない・・・」
ギルバートの投げかけた言葉に、夕姫が共感していく。
「私は別に不幸とも悲しいとも思っていないわ。むしろ無能なヤツらの愚かさが分かって、もう綺麗事も作り笑顔もいらなくなったからね・・」
アンジュがジュリオやアキホたちのことを思い出して、ため息まじりに言い返した。
「それでも、信じていた人々に裏切られた辛さは否めない。大切なものが何かを見極め、失うことがないようにしなければならない・・」
「それは・・確かにそうだけど・・・」
ギルバートがさらに言いかけて、アンジュが口ごもる。辛いこと、イヤなことをこれ以上押し付けられたくないという気持ちは、彼女の中にあった。
「彼や君たちのような不幸な人を出してはならない。そのためにも今の戦いを終わらせ、新たな世界を実現させなければならない。」
「はい。そのために、我々は戦っていきます。シンも同じ気持ちのはずです。」
決意と自分の思い描く未来について告げるギルバートに、レイが表情を変えずに答える。それでも海潮は納得できず、やるせなさを噛みしめた。
「デュランダル議長、グラディス艦長、報告します!行方不明だったランガを発見しました!」
そこへ1人の兵士が来て、ギルバートたちに報告してきた。
「えっ!?ランガが!?」
それを聞いて海潮が驚き、魅波と夕姫も動揺を隠せなくなる。
「ランガは今どこに・・!?」
「日本、東京武蔵野、島原家です・・!」
タリアが聞いて、兵士が答える。
「えっ!?私たちの家に戻ってきた!?」
ランガの発見と居場所に、海潮は驚きを隠せなくなっていた。
シンとステラが医務室で眠り続けている中、ルナマリアはシュミレーション練習をしていた。インパルスの操縦を想定してのシュミレーションである。
ルナマリアはシンがステラを保護したときの少し後から、インパルスのシュミレーションを始めていた。
「うまくいかない・・シンみたいに動かせない・・・!」
インパルスをうまく動かせないことに、ルナマリアが焦りを口にする。
「ルナマリアさん、何をしているんですか?」
そこへ霧子が将馬、カナタとともに来て、ルナマリアに声を掛けてきた。
「恭子、将馬くん、カナタ・・インパルスのシュミレーションよ。シン以外にもインパルスを動かせる人がいたら、作戦もうまくいきやすいと思って・・」
「シンだけじゃなく、ルナマリアも特訓してたなんて・・・!」
ルナマリアの答えを聞いて、カナタが驚きを感心を覚える。
「だけど、さすがにシンみたいには・・」
「さすがにシンみたいにとはいかないけど、敵に負けないくらいに強くなることはできるはずだから・・」
将馬が苦言を呈するが、ルナマリアは練習を続けようとする。シンに敵わないのは承知の上で、彼女はそれでもシンのために強くなろうとしていた。
「こりゃオレもうかうかしてられないかもな・・シンとレイに新しい機体が送られるし・・」
「えっ?新しい機体!?」
カナタがデスティニーとレジェンドのことを言って、ルナマリアが声を荒げる。
「それならますます、私がインパルスを乗りこなせるようにならないといけないわね・・・!」
シンがデスティニーに乗ると確信して、ルナマリアは確実にインパルスを乗りこなさないといけないと、決意と覚悟を胸に秘めた。
「ところで、アンジュたちはどうしたの?」
「それが、ランガが見つかったって、武蔵野に戻る海潮ちゃんたちについていったんだ・・」
ルナマリアが聞いて、将馬が深刻な面持ちを浮かべて答えた。
「ランガが武蔵野に・・!?」
ルナマリアがランガのことを気にして、困惑を募らせていた。
海潮、魅波、夕姫、ジョエル、ラブレ、ラブはモモカの操縦する小型飛行艇で、ジブラルタルから武蔵野に向かっていた。アンジュとサリアもヴィルキス、アーキバスで飛行艇についてきていた。
「あそこが魅波さんたちの家です。」
「いた!ランガだよ!」
モモカが呼びかけると、海潮がランガを見つけて指さした。ランガは島原家の庭に墜落して、その状態のまま動かなくなっていた。
「もう!今までどこで何をしていたのよ・・!?」
夕姫がランガに向かって文句を言う。飛行艇、ヴィルキス、アーキバスが島原家の近くに着陸して、ラブたちが降りてランガに近付く。
「ランガ・・・?」
魅波が声を掛けるが、ランガは反応しない。
「魅波、みんな!」
そこへ茗がやってきて、魅波たちに声を掛けてきた。
「大森さん、何があったのですか・・・?」
海潮が茗に状況を聞く。
「昨日の夜にランガが落ちてきて・・私が様子を見に来たときに、1つ目になってたランガから、男の人が出てきて・・」
「男の人?」
茗が話を続けて、夕姫が疑問符を浮かべる。
「それが・・魅波、前にお兄さんの写真見せてくれたよね?」
「えぇ。勝流さんのことよ・・でもそれがどうしたのよ・・?」
「それが・・ランガから出てきたその人が、その勝流って人とそっくりだったのよ・・」
「えっ!?」
茗が口にした言葉に、魅波が驚きを隠せなくなる。
「その人は今どこにいるの!?」
「えっと・・家の中にいるわ・・出てきてからずっと眠ったままだけど・・・」
血相を変えて詰め寄ってきた魅波に、茗が動揺しながら答える。
「勝流さん・・・!」
魅波が家に飛び込んで、海潮たちも続く。家の中には布団で眠っている1人の男がいた。
「お・・お兄ちゃん・・・!?」
「間違いない・・勝流さんよ・・・!」
海潮も戸惑いを膨らませて、魅波が頷く。しかしバロウの王である勝流との再会であると思えず、ジョエルは深刻な面持ちを浮かべていた。
それから海潮たちは島原家に留まることになった。ラブとモモカはジブラルタルにいるタリアに、現状を報告した。
“ランガの中から、魅波さんたちのお兄さんが?”
「はい。ただ今も眠り続けていて、詳しいことはまだ分からないです・・」
タリアが疑問を覚えて、ラブが説明をする。
「それと・・ジョエルくんは、この人が勝流さん・・魅波さんたちのお兄さんじゃないというんです・・」
“えっ・・?”
「バロウの言い伝えでは、ランガには邪悪なる者が封印されているそうです。その人が目覚めると、大いなる災いが降りかかるとも・・」
“大いなる災い・・それについて詳しいことは・・?”
「そこまでは分からないです・・あの人が何かしてくるのか・・・」
タリアからの疑問に、ラブが困惑しながら答える。
「私たちはここに留まります。何か動きがあったら連絡します。」
“分かったわ。こちらも動くことがあればそちらに連絡を入れるわ。”
これからのことを伝え合って、ラブはタリアとの通信を終えた。
「眠ったままのシンと、お兄さんのそっくりさんか・・」
「大いなる災いというなら、何か手を打った方がいいのかもしれませんが・・魅波さんたちのお兄さんとそっくりでは、気が引けますね・・・」
シンと男、スーラのことを考えるラブと、困惑を浮かべるモモカ。
「しばらく様子見ということになりそうですね・・・」
ラブが言いかけて、モモカが頷いた。2人は飛行艇から出て家に向かった。
勝流と瓜二つの顔のスーラ。兄の面影を見た魅波は、アルバムを引っ張り出して思い出にふけっていた。
(勝流さん・・・)
勝流への想いを募らせて、魅波が自分の胸に手を当てた。
そのとき、魅波は学生時代の自分が写っている写真に目を向けた。写真の彼女は勝流と寄り添っていた。
「お兄さん・・・」
魅波はさらに思い出に心を動かされていた。彼女は押入れから学生服を出して着てみた。
(ちゃんと着られた・・私もそんなに変わっていないかも・・)
学生服を着た自分を鏡で見て、魅波が笑みをこぼす。彼女が回ってみて、学生時代の感覚を思い出していく。
そのとき、部屋の前にラブレがいたことに、魅波が気付いた。ラブレにじっと見られて、魅波が動揺していく。
「えっと、これは、その・・む、昔の格好とかにおいとかがそばにあれば、目を覚ますんじゃないかと思って・・・!」
必死に言い訳をする魅波。無表情を浮かべたまま立ち去ろうとしたラブレを、魅波が慌てて腕をつかんで止めた。
「お、お願い!このことは誰にも言わないで!ねぇねぇ!」
魅波が必死に頼み込んで、ラブレが小さく頷いた。
勝流が戻ってきたという噂は、武蔵野銀座に広まっていた。そのことは和王とナイエルの耳にも入っていた。
「勝流ではない。あれは、スーラの本質よ。」
ナイエルが冷静にスーラについて語る。
「スーラ・・太古に存在していた神々の総称・・・」
「そうよ。大昔の世界は、スーラと呼ばれる神が存在していた・・」
呟く和王にナイエルが話を続ける。
「しかしスーラは滅亡し、ランガは眠りについた。それからランガはバロウの神として崇められることになった。その中にスーラを封印して・・」
「そのスーラがランガから解き放たれた。眠りから覚めれば、本格的に動き出すことになる・・」
和王とナイエルがスーラの真の覚醒を予感して警戒する。
「虚神はスーラの亡骸を使っている。スーラは自分の仲間の亡骸に、偽りの命を吹き込むことを許さない・・周りの犠牲も顧みずに、虚神を滅ぼすために動く・・」
ナイエルが口にした言葉を聞いて、和王が息を呑む。
「それにしても、なぜあの男は勝流に似ているのだ・・?」
和王が緊張を浮かべたまま、ナイエルに問いかける。
「島原家が、そのスーラの子孫なのよ。」
「そ、そんな!?」
ナイエルの答えを聞いて、和王が驚愕する。
「意外だったか?」
「・・初めて勝流と会ったときから、こういうことがあるんじゃないかって思っていたよ・・・!」
表情を変えないナイエルに、和王が深刻な面持ちを浮かべた。
「それよりも、あの計画は完了に向かっているの?」
「もうすぐ完成との連絡があった・・だがその前に、あのスーラのところへ行く。勝流なのか、スーラなのか、直接確かめる・・」
ナイエルの問いに答えて、和王が彼女のそばから離れた。
「呑み込みの悪いことだ・・・」
和王の行動にため息をつくナイエル。しかし彼女はすぐに笑みを浮かべていた。