スーパーロボット大戦CROSS

第35話「伝説の始まり」

 

 

 シンのインパルスとキラのフリーダム。2機がエクスカリバーとビームサーベルに貫かれて、共に爆発を起こした。

「シン!」

「キラ!」

 ルナマリアとアスランがシンとキラに向けて叫んだ。インパルスとフリーダムは海に落ちて、シンもキラも意識を失っていた。

「インパルスの行方は!?捜索して!」

 タリアの指示を受けて、メイリンがインパルスの行方を追う。

「インパルス、発見しました!シンからの応答がありません!」

 メイリンがレーダーに映ったインパルスの反応を見て、タリアたちに報告する。

「インパルスの回収を急いで!」

“私がシンを連れ戻してきます!”

 タリアが指示を出したところで、ルナマリアが呼びかけてきた。

「ルナマリアとレイはシンを連れ戻して!」

“はい!”

“了解。”

 タリアが呼びかけて、ルナマリアとレイのザクがミネルバから降りて海へ向かった。

「私たちはアークエンジェルの行方を追うわ。カナタ、あなたも捜索して。」

「分かった!」

 サリアが指示を出して、カナタが答える。イザナギたちがアークエンジェルを追って海上へ向かった。

 

 同じ頃、カガリはマリューの制止を振り切って、ストライクルージュでキラのフリーダムの救出に出た。

 カガリが海中に沈んだフリーダムを見つけて、ストライクルージュが向かう。フリーダムは破損していて、自力で動くことができなくなっていた。

「キラ、無事か!?返事をしてくれ、キラ!」

 カガリが呼びかけるが、キラからの返事はない。ストライクルージュがフリーダムを抱えて、アークエンジェルに戻っていった。

 

 同時にルナマリアも破損したインパルスを発見した。ザクがインパルスに近づいて支える。

「シン、応答して!シン!」

 ルナマリアが呼びかけるが、シンからの応答がない。ザクがインパルスを連れて海上へ上昇した。

 ルナマリアもカガリも、互いの機体の姿が見えていなかった。そのため、互いに気付くことなく、シン、キラの救出に専念することになった。

 

 インパルスを連れてミネルバに戻ってきたザク。ルナマリアがザクから降りて、インパルスのハッチを開けて、コックピットからシンを引きずり出した。

 シンは外傷は見られなかったが、意識を失っていた。

「シン、大丈夫!?答えて、シン!」

 ルナマリアが呼びかけるが、シンは目を覚まさない。

「ルナマリア!・・シン!」

 ラブがシンたちのそばに駆けつけて、シンの状態を確かめる。

「医務室に連れていくわ!ラブ、てつだって!」

「う、うん!」

 ルナマリアが呼びかけて、ラブが頷く。2人はシンに肩を貸して、医務室に向かった。

 その後、イザナギとレイのザクもミネルバに戻ってきて、カナタたちも出てきた。

「シンはどこだ!?ルナマリアたちが連れていったのか!?

 インパルスの修繕を行っているヨウランとヴィーノに、カナタが問いかける。

「あぁ!それより、フリーダムとアークエンジェルは・・!?

「見つからなかった・・大きなダメージは受けたと思うけど、それでもオレたちから逃げ切ってしまった・・・」

 ヴィーノも問いかけると、カナタが深刻な面持ちを浮かべた。

「しかし、出ていきたくてもすぐには出てこれないはずだ。フリーダムに決定打を与えたのは確かだから・・」

 レイがアークエンジェルの動向について推測する。

「この機に乗じて連合軍が攻撃を狙ってくるかもしれない。今のうちに体を休めておこう。」

「あぁ・・特にシンは意識が戻らないと・・・」

 レイが投げかけた言葉に、カナタが頷く。

「でもオレはイザナギのチェックを済ませてからだ。オレがいないと、イザナギは完全には整備できないから・・」

 カナタはイザナギに戻って、ヨウランたちと整備に当たった。

「オレは艦長に報告をする。カナタ、負担が掛からないように切り上げておくようにな。」

「ありがとう、レイ・・ムチャしないようにしなくちゃな・・・」

 レイがタリアのところへ向かい、カナタが彼に礼を言った。

 

 ラブとルナマリアに医務室に運ばれたシンは、ステラの隣のベッドに寝かされることになった。

「あの・・シンはどうなのですか・・・?」

 ルナマリアが医務官にシンの容体を聞く。

「ショックで意識を失っている。それ以外の体の内外に異常はない。」

「そうですか・・よかった〜・・!」

 医務官からの報告を聞いて、ラブが胸をなで下ろす。

(シン・・あそこまで必死になって、みんなを守ろうとして・・)

 シンの戦いに心を打たれて、ルナマリアが戸惑いを感じていた。

「シンとステラのこと、お願いします・・」

 ルナマリアは医務官に言うと、医務室を後にした。

「ルナマリア・・・」

 ルナマリアのことを気に掛けて、ラブも戸惑いを感じていく。彼女はルナマリアが新たな強い決意をしたように思えた。

 

 指令室に赴いたレイが、キラたちとの戦いの報告をタリアに報告した。

「申し訳ありません。アークエンジェルとフリーダムの消息はつかめませんでした・・」

「確認はできなかったけど、大きなダメージを与えているはずよ。少なくともフリーダムはインパルスの突撃で大破したのは確実・・」

 頭を下げるレイと、現状を把握していくタリア。

「これ以降の捜索は別働隊がすることになったわ。私たちは次の戦闘に備えて、休息と修繕を・・」

 タリアがレイにこれからのことを伝えていたときだった。

「上層部より指令です。ミネルバはジブラルタルへ急行せよ、とのことです。」

 メイリンが通信を受けて、タリアに報告した。

「ジブラルタルに・・分かったわ。そこで補給を受けましょう。」

 タリアが指令に従って、レイが小さく頷いた。束の間の休息のため、ミネルバは飛行艇と共にジブラルタルへ向かった。

 

 クロスがキラたちと交戦していた間、ザフトによってロゴスや連合軍の上層部が捕縛されていった。

 しかしジブリールや一部のロゴスメンバーは逃亡。他の連合軍の行方もつかめてはいなかった。

 そしてキラたちの行方も捜索隊が探っていたが、発見には至らなかった。

 

 指令によってクロスはジブラルタル基地に到着した。ロゴス討伐の任務を帯びた他の部隊が、基地に集結しつつあった。

 ジブラルタル基地にはギルバートがプラントから赴いていた。彼はミネルバから降りてきたタリアとレイ、カナタ、ラブ、飛行艇から降りてきたアンジュ、サリア、海潮、魅波、夕姫、霧子、将馬と対面していた。

「デュランダル議長、ミネルバ、ただ今到着しました。」

 タリアが挨拶をして、レイとともに敬礼する。

「やぁ、待っていたよ。ここのところのミネルバの活躍には、驚かされてばかりだよ。」

 ギルバートが微笑みかけて、タリアたちに向けて頷く。

「直接対面するのは初めてになりますね。私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。」

 ギルバートがカナタたちに目を向けて挨拶をする。

「デュランダル議長、オレたちに援助をしてくれてありがとうございます。」

「議長やプラントの力がなかったら、生活もままならなかったと思います・・」

 カナタとラブがギルバートに感謝する。

「あなたたちには、平和と未来を思う心と、それを実現できるだけの力を持っている。我々はそこに共感して、力を貸したいと思っただけだ。」

 ギルバートが自分の考えを彼らに伝える。

「協力感謝します、議長。しかし私たちには私たちの戦う理由があります。」

 サリアがギルバートに礼を言うも、自分たちの使命を全うする姿勢を示す。

「あなたは勝手な連中とは違う。本当に世界やみんなのことを考えているのは分かる・・でも、この前の放送は納得がいかないわね・・」

 アンジュがギルバートに対して、不満を口にした。

「あれではバカな連中をその気にさせて、世の中を騒がせるだけよ・・まぁ、結果的にぶっ壊れてしまえばいいとも思っているけどね・・」

「アンジュ、口を慎みなさい・・!」

 嘲笑を見せるアンジュに、サリアが注意を投げかける。

「確かに皆を煽ってしまった形になってしまった・・しかしあの状況で皆が絶望したままでいるよりも、希望が持てたほうが安らぎを持てるはずだと、我々は思ったのだ。」

 ギルバートが自分の考えをアンジュに伝えた。

「希望が1つもなければ、人は生きてはいけない。何かにすがるだけでなく、自分の信念を貫くこともまた希望。それは君たちも分かっていると思うのだが・・」

「希望・・・」

 ギルバートの言葉を聞いて、海潮が戸惑いを覚える。

「はじめまして、デュランダルさん。ダイミダラー6型の喜友名霧子です。」

「僕は天久将馬といいます。」

 霧子と将馬が挨拶して、ギルバートに一礼する。

「君たちのことも聞いているよ。これからもよろしく。」

 ギルバートが答えて、2人と握手を交わした。

「真玉橋孝一くんのことは申し訳ないと思う。この戦いで彼の未来を閉ざしてしまった・・」

「いえ・・デュランダルさんが謝ることはないですよ・・」

「話を聞いただけですが、前のダイミダラーはみんなを守るために戦って犠牲になったって・・・」

 孝一のことで謝罪するギルバートに、将馬と霧子が弁解する。

「ハイネとアスランのことも残念に思う。シンたちの成長の大きなカギになると考えていたのだが・・」

 アスランたちのことを考えて、ギルバートが辛さを見せる。

「自分もそう思います。ですが2人のことを思うからこそ、これからの戦いを乗り越えなければならないと思います。」

 レイが真剣な面持ちのまま、ギルバートに告げる。

「ところでデュランダル議長、オレたちを呼んだ理由は?」

「あぁ。これから導入することになる新型を紹介しようと思って・・」

 カナタが質問を投げかけると、ギルバートが微笑んで答えた。彼の案内で、カナタたちは格納庫の1つに入り、その奥で足を止めた。

「これは・・!」

 タリアがその機体を見て目を見開く。

「プラントにて開発していた2種の機体、“デスティニー”と“レジェンド”だ。」

 ギルバートが2体の機体について語り始める。

「プラントで開発を進めていた最新鋭の機体だ。デスティニーに関しては、特殊部隊の主力を想定していた。」

「特殊部隊・・そのパイロットの中にハイネが・・・」

 彼の話を聞いて、タリアがハイネのことを思い出して悲しみを覚える。

「デスティニーは元々はハイネが乗るはずだった。しかしハイネが亡くなり、彼の遺言でシンの新しい機体として調整を施すことになった。」

「ハイネの遺言・・ハイネが、自分に何かあったときには、シンが乗るようにと・・」

「あぁ。ハイネはシンの能力とその将来性を高く評価していた。彼ならデスティニーも乗りこなすことができると。」

「では、デスティニーのパイロットはシンに・・」

 デスティニーとハイネのことを告げるギルバートに、タリアが納得して頷いた。

「そしてレジェンドは、先の大戦で導入された“プロビィデンス”の発展型の機体だ。性能はプロビィデンス以上であるが、操縦しやすいようにもなっている。」

 ギルバートがレジェンドに目を向けて、話を続ける。

「最初はシンかアスランに乗ってほしかったが、シンがデスティニーに乗る以上、レイ、君に託そうと思う。」

「ありがとうございます、議長。この新しい機体で連合軍を討ち、戦いを終わらせてみせます。」

 ギルバートからレジェンドを託されて、レイが感謝して一礼した。

「グラディス艦長、デスティニーとレジェンドをミネルバへ。シンが目を覚ましたら、デスティニーのことを伝えてくれ。」

「分かりました。シンにこのことを伝えておきます。ハイネの意思とともに・・」

 ギルバートからの言葉を、タリアは聞き入れた。

「それでまた、戦いをするのですか?・・これからも戦いを続けるのですか・・・!?

 海潮が不安を浮かべて、ギルバートに問いかけてきた。

「その戦いの中で、たくさんの人が死ぬんですよ・・そんな辛いことを繰り返しても、ホントの平和なんて・・・!」

「戦いで犠牲が出てしまうことに、我々も心を痛めている。我々がもっとうまく対処していれば、善人が命を落とすことも、悲しみが広がることもなかっただろう・・」

 悲しい顔を浮かべる海潮に、ギルバートも深刻な面持ちを見せた。

「それに、あのフリーダムとアークエンジェルだって、話し合えば分かり合えたかもしれないのに・・・!」

 海潮はキラたちのことも考えて、戦いをやめるように徹底しなかったことを危惧する。

「そのことは本当に残念だと思っている。アークエンジェルとフリーダム・・もしも我々と力を合わせることができたなら、戦いのない世界にもっと早く近づけたはずだ・・」

 ギルバートがキラたちのことを語り出して、思いつめた面持ちを見せる。

「今のこの世界では、我々は誰もが本当の自分を知らず、その力も役割も知らず、ただ時の流れに翻弄されて生きている。もしも本当の自分を知ることができたなら、無益な争いをすることも、互いに手を取り合うこともできたのに・・」

 彼が語りかける話に、タリアが疑問と深刻さを覚える。

「それはフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトくんにも言える。実に不幸だと思う。」

「キラ・ヤマトくん・・アークエンジェルのクルーとして、先の大戦を終結させた1人・・」

 ギルバートの話を聞いて、タリアがキラのことを思い出す。

「あの高い資質、力・・彼は本来戦士なのだ。モビルスーツパイロットの腕は、これまでのパイロットの中でもトップクラスだ・・なのに誰1人、彼自身すらもそれを知らず、そのためにそう育たないまま、時代に翻弄されて生きてしまった。あれほどの力、正しく使えばどれだけのことができたか分からないというのにね・・」

 語りかけるギルバートに、タリアとレイが深刻さを感じて、海潮が困惑していく。

「先の大戦の英雄だった彼が、今回は戦いが起これば現れて、好き勝手に攻撃を仕掛けて戦火を広げる。そのような相手、プラントの最高責任者として野放しにはできない・・」

「それは私も同じです・・できることなら、和解して力を合わせて戦いを終わらせたかったのが本音でしたが・・・」

 苦言を呈するギルバートに、タリアが頷く。

「もしももっと早く、高い力を持っていることを知っていたら、その力の正しい使い方を知っていたら、彼自身悩み苦しむことなく、幸福に生きられただろうに・・・」

「高い力と、その正しい使い方・・・」

 ギルバートのこの言葉に、海潮が困惑を募らせる。彼女は今の自分の無力さを痛感していた。

「君たちにも言えることだ。バロウの王としての血筋と力、マナを持つ者とノーマの隔てなく、高い潜在能力が備わっていること。それがすぐに分かっていれば、理不尽に翻弄され苦しむことはなかっただろう・・」

「確かに・・バロウの王様だってもっと早く分かっていたら、貧しい生活をせずに済んだかもしれない・・・」

 ギルバートの投げかけた言葉に、夕姫が共感していく。

「私は別に不幸とも悲しいとも思っていないわ。むしろ無能なヤツらの愚かさが分かって、もう綺麗事も作り笑顔もいらなくなったからね・・」

 アンジュがジュリオやアキホたちのことを思い出して、ため息まじりに言い返した。

「それでも、信じていた人々に裏切られた辛さは否めない。大切なものが何かを見極め、失うことがないようにしなければならない・・」

「それは・・確かにそうだけど・・・」

 ギルバートがさらに言いかけて、アンジュが口ごもる。辛いこと、イヤなことをこれ以上押し付けられたくないという気持ちは、彼女の中にあった。

「彼や君たちのような不幸な人を出してはならない。そのためにも今の戦いを終わらせ、新たな世界を実現させなければならない。」

「はい。そのために、我々は戦っていきます。シンも同じ気持ちのはずです。」

 決意と自分の思い描く未来について告げるギルバートに、レイが表情を変えずに答える。それでも海潮は納得できず、やるせなさを噛みしめた。

「デュランダル議長、グラディス艦長、報告します!行方不明だったランガを発見しました!」

 そこへ1人の兵士が来て、ギルバートたちに報告してきた。

「えっ!?ランガが!?

 それを聞いて海潮が驚き、魅波と夕姫も動揺を隠せなくなる。

「ランガは今どこに・・!?

「日本、東京武蔵野、島原家です・・!」

 タリアが聞いて、兵士が答える。

「えっ!?私たちの家に戻ってきた!?

 ランガの発見と居場所に、海潮は驚きを隠せなくなっていた。

 

 シンとステラが医務室で眠り続けている中、ルナマリアはシュミレーション練習をしていた。インパルスの操縦を想定してのシュミレーションである。

 ルナマリアはシンがステラを保護したときの少し後から、インパルスのシュミレーションを始めていた。

「うまくいかない・・シンみたいに動かせない・・・!」

 インパルスをうまく動かせないことに、ルナマリアが焦りを口にする。

「ルナマリアさん、何をしているんですか?」

 そこへ霧子が将馬、カナタとともに来て、ルナマリアに声を掛けてきた。

「恭子、将馬くん、カナタ・・インパルスのシュミレーションよ。シン以外にもインパルスを動かせる人がいたら、作戦もうまくいきやすいと思って・・」

「シンだけじゃなく、ルナマリアも特訓してたなんて・・・!」

 ルナマリアの答えを聞いて、カナタが驚きを感心を覚える。

「だけど、さすがにシンみたいには・・」

「さすがにシンみたいにとはいかないけど、敵に負けないくらいに強くなることはできるはずだから・・」

 将馬が苦言を呈するが、ルナマリアは練習を続けようとする。シンに敵わないのは承知の上で、彼女はそれでもシンのために強くなろうとしていた。

「こりゃオレもうかうかしてられないかもな・・シンとレイに新しい機体が送られるし・・」

「えっ?新しい機体!?

 カナタがデスティニーとレジェンドのことを言って、ルナマリアが声を荒げる。

「それならますます、私がインパルスを乗りこなせるようにならないといけないわね・・・!」

 シンがデスティニーに乗ると確信して、ルナマリアは確実にインパルスを乗りこなさないといけないと、決意と覚悟を胸に秘めた。

「ところで、アンジュたちはどうしたの?」

「それが、ランガが見つかったって、武蔵野に戻る海潮ちゃんたちについていったんだ・・」

 ルナマリアが聞いて、将馬が深刻な面持ちを浮かべて答えた。

「ランガが武蔵野に・・!?

 ルナマリアがランガのことを気にして、困惑を募らせていた。

 

 海潮、魅波、夕姫、ジョエル、ラブレ、ラブはモモカの操縦する小型飛行艇で、ジブラルタルから武蔵野に向かっていた。アンジュとサリアもヴィルキス、アーキバスで飛行艇についてきていた。

「あそこが魅波さんたちの家です。」

「いた!ランガだよ!」

 モモカが呼びかけると、海潮がランガを見つけて指さした。ランガは島原家の庭に墜落して、その状態のまま動かなくなっていた。

「もう!今までどこで何をしていたのよ・・!?

 夕姫がランガに向かって文句を言う。飛行艇、ヴィルキス、アーキバスが島原家の近くに着陸して、ラブたちが降りてランガに近付く。

「ランガ・・・?」

 魅波が声を掛けるが、ランガは反応しない。

「魅波、みんな!」

 そこへ茗がやってきて、魅波たちに声を掛けてきた。

「大森さん、何があったのですか・・・?」

 海潮が茗に状況を聞く。

「昨日の夜にランガが落ちてきて・・私が様子を見に来たときに、1つ目になってたランガから、男の人が出てきて・・」

「男の人?」

 茗が話を続けて、夕姫が疑問符を浮かべる。

「それが・・魅波、前にお兄さんの写真見せてくれたよね?」

「えぇ。勝流さんのことよ・・でもそれがどうしたのよ・・?」

「それが・・ランガから出てきたその人が、その勝流って人とそっくりだったのよ・・」

「えっ!?

 茗が口にした言葉に、魅波が驚きを隠せなくなる。

「その人は今どこにいるの!?

「えっと・・家の中にいるわ・・出てきてからずっと眠ったままだけど・・・」

 血相を変えて詰め寄ってきた魅波に、茗が動揺しながら答える。

「勝流さん・・・!」

 魅波が家に飛び込んで、海潮たちも続く。家の中には布団で眠っている1人の男がいた。

「お・・お兄ちゃん・・・!?

「間違いない・・勝流さんよ・・・!」

 海潮も戸惑いを膨らませて、魅波が頷く。しかしバロウの王である勝流との再会であると思えず、ジョエルは深刻な面持ちを浮かべていた。

 

 それから海潮たちは島原家に留まることになった。ラブとモモカはジブラルタルにいるタリアに、現状を報告した。

“ランガの中から、魅波さんたちのお兄さんが?”

「はい。ただ今も眠り続けていて、詳しいことはまだ分からないです・・」

 タリアが疑問を覚えて、ラブが説明をする。

「それと・・ジョエルくんは、この人が勝流さん・・魅波さんたちのお兄さんじゃないというんです・・」

“えっ・・?”

「バロウの言い伝えでは、ランガには邪悪なる者が封印されているそうです。その人が目覚めると、大いなる災いが降りかかるとも・・」

“大いなる災い・・それについて詳しいことは・・?”

「そこまでは分からないです・・あの人が何かしてくるのか・・・」

 タリアからの疑問に、ラブが困惑しながら答える。

「私たちはここに留まります。何か動きがあったら連絡します。」

“分かったわ。こちらも動くことがあればそちらに連絡を入れるわ。”

 これからのことを伝え合って、ラブはタリアとの通信を終えた。

「眠ったままのシンと、お兄さんのそっくりさんか・・」

「大いなる災いというなら、何か手を打った方がいいのかもしれませんが・・魅波さんたちのお兄さんとそっくりでは、気が引けますね・・・」

 シンと男、スーラのことを考えるラブと、困惑を浮かべるモモカ。

「しばらく様子見ということになりそうですね・・・」

 ラブが言いかけて、モモカが頷いた。2人は飛行艇から出て家に向かった。

 

 勝流と瓜二つの顔のスーラ。兄の面影を見た魅波は、アルバムを引っ張り出して思い出にふけっていた。

(勝流さん・・・)

 勝流への想いを募らせて、魅波が自分の胸に手を当てた。

 そのとき、魅波は学生時代の自分が写っている写真に目を向けた。写真の彼女は勝流と寄り添っていた。

「お兄さん・・・」

 魅波はさらに思い出に心を動かされていた。彼女は押入れから学生服を出して着てみた。

(ちゃんと着られた・・私もそんなに変わっていないかも・・)

 学生服を着た自分を鏡で見て、魅波が笑みをこぼす。彼女が回ってみて、学生時代の感覚を思い出していく。

 そのとき、部屋の前にラブレがいたことに、魅波が気付いた。ラブレにじっと見られて、魅波が動揺していく。

「えっと、これは、その・・む、昔の格好とかにおいとかがそばにあれば、目を覚ますんじゃないかと思って・・・!」

 必死に言い訳をする魅波。無表情を浮かべたまま立ち去ろうとしたラブレを、魅波が慌てて腕をつかんで止めた。

「お、お願い!このことは誰にも言わないで!ねぇねぇ!」

 魅波が必死に頼み込んで、ラブレが小さく頷いた。

 

 勝流が戻ってきたという噂は、武蔵野銀座に広まっていた。そのことは和王とナイエルの耳にも入っていた。

「勝流ではない。あれは、スーラの本質よ。」

 ナイエルが冷静にスーラについて語る。

「スーラ・・太古に存在していた神々の総称・・・」

「そうよ。大昔の世界は、スーラと呼ばれる神が存在していた・・」

 呟く和王にナイエルが話を続ける。

「しかしスーラは滅亡し、ランガは眠りについた。それからランガはバロウの神として崇められることになった。その中にスーラを封印して・・」

「そのスーラがランガから解き放たれた。眠りから覚めれば、本格的に動き出すことになる・・」

 和王とナイエルがスーラの真の覚醒を予感して警戒する。

「虚神はスーラの亡骸を使っている。スーラは自分の仲間の亡骸に、偽りの命を吹き込むことを許さない・・周りの犠牲も顧みずに、虚神を滅ぼすために動く・・」

 ナイエルが口にした言葉を聞いて、和王が息を呑む。

「それにしても、なぜあの男は勝流に似ているのだ・・?」

 和王が緊張を浮かべたまま、ナイエルに問いかける。

「島原家が、そのスーラの子孫なのよ。」

「そ、そんな!?

 ナイエルの答えを聞いて、和王が驚愕する。

「意外だったか?」

「・・初めて勝流と会ったときから、こういうことがあるんじゃないかって思っていたよ・・・!」

 表情を変えないナイエルに、和王が深刻な面持ちを浮かべた。

「それよりも、あの計画は完了に向かっているの?」

「もうすぐ完成との連絡があった・・だがその前に、あのスーラのところへ行く。勝流なのか、スーラなのか、直接確かめる・・」

 ナイエルの問いに答えて、和王が彼女のそばから離れた。

「呑み込みの悪いことだ・・・」

 和王の行動にため息をつくナイエル。しかし彼女はすぐに笑みを浮かべていた。

 

 

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