スーパーロボット大戦CROSS

第34話「衝動と自由」

 

 

 ギルバートからクロスに、アークエンジェル討伐の指令が下された。そのことはカナタたちにも伝えられた。

「正式に、アークエンジェルを討てと言ってきたのですか?」

 カナタが戸惑いを感じながら、タリアに聞き返す。

「えぇ。戦闘に乱入する彼らを野放しにするわけにいかないので。」

「これで心置きなく、アイツらを討てる・・・!」

 タリアの答えを聞いて、シンが右手を握りしめる。

「ただし戦闘に入る前に、1度だけ彼らに警告します。かつては先の大戦を終わらせた英雄ですから・・」

 タリアはさらに自分の考えをカナタたちに伝えた。

「そんな甘い考えをしても勝てないわよ。相手は問答無用で攻撃してくるんだから・・」

「そうね。英雄だろうと救世主だろうと、人の話を聞かないわがままな敵になっているんだから・・」

 アンジュと夕姫が警告することに不満を感じていく。

「分かっているわ・・だから、警告は1度きり。聞き入れられない場合は、以後はためらいません。」

「分かり合えるなら、戦わずに済んだら、それに越したことはない、と・・」

 決意と覚悟を口にするタリアに、霧子が戸惑いを見せる。

「やっぱりいけないですよ・・これ以上争って傷つけ合うなんて・・・!」

 海潮が感情を込めて、タリアに反論してきた。

「あなたたちは違いますが、私たちザフトは軍事組織。戦いを終わらせるために、私たちは上の命令に従い、戦場に赴くのよ。」

 タリアは冷静な態度で海潮に言葉を返していく。

「それで誰かを傷つけたり殺したりしていいことにならないです!向こうにだって事情があるはずですから!」

「事情があるのはお互い様よ。でも向こうは私たちや他の者の言い分を聞かず、一方的に攻撃をしてくるのだから・・」

「でもだからって、人殺しはダメです!命を奪った平和なんて、ホントの楽園にはないです!」

「いい加減にしなさい!これは命令なのよ!プラント最高評議会からの命令で、それを実行している!それが私たちザフトなのよ!」

 戦うことへの反発を続ける海潮に、タリアも感情をあらわにしてきた。彼女に怒鳴られて、海潮が言葉を詰まらせる。

「戦いがイヤなら部屋にこもっていなさい!これは個人的な感情で止まる事態ではないのよ!」

「そんな・・・!」

 タリアの言葉に反論できなくなり、海潮が愕然となる。

「何もできないのが悔しいのは、私たちも同じよ。でもランガがいない私たちには、邪魔をすることもできないのよ・・」

 魅波になだめられて、海潮はただ頷くしかなかった。

「海潮ちゃん・・・」

 海潮の心境を察して、ラブも困惑していた。

「別働隊がアークエンジェルの行方を追っているわ。発見の連絡が入り次第、クロスも発進します。」

 タリアがクロスのこれからの行動について告げて、カナタたちが頷いた。

 

 束の間の時間ができて、カナタとシンはレイが分析したフリーダムの戦闘データに目を通していた。ラブ、ルナマリア、アンジュ、霧子、将馬も立ち会っていた。

「それでレイ、フリーダムの弱点か何か分かったのか?」

「あぁ。それはフリーダムの戦い方によるものだ。」

 カナタが問いかけて、レイが頷いた。

「フリーダムは確かに動きが速い。射撃も正確だ。だがあの機体は、絶対にコクピットを狙わない。」

 レイが映像を再生、一時停止して、フリーダムの戦いについて指摘する。

「撃ってくるのは、決まって武装かメインカメラ。あくまで戦いを止めるための戦い方なのだろう。だがそれを逆手に取れば、フリーダムは絶対に勝てない相手ではなくなる。」

「そうか!それならフリーダムの攻撃をかわせる・・!」

 レイの説明を聞いて、ルナマリアが戸惑いを覚える。

「それでもフリーダムに勝るとも劣らない動きをしなければならない。だがシン、お前ならやれると、オレは信じている・・」

「レイ・・・」

 レイからの励ましを受けて、シンも戸惑いを見せた。

「そんなに抱え込むことはないわよ。私もフリーダムと戦う。たくさん借りがあるからね。」

 キラへの不満を抱えていたアンジュが、シンに協力することを言ってきた。

「それならオレも!力を合わせれば、確実にフリーダムとアークエンジェルを止められる!」

 カナタも意気込みを見せて、霧子と将馬も頷いた。

「みんな・・悪いけど・・フリーダムを倒すのは、オレ1人でやらせてくれ・・・」

 シンが真剣な面持ちで、カナタたちに呼びかけてきた。

「シン・・いくらなんでも、お前1人だけじゃ・・!」

「そうだよ!私たちと力を合わせれば、勝てる可能性が増して・・!」

 カナタと霧子がシンを気遣う。

「分かっている・・でもこれは、オレが決着を付けなくちゃならないことなんだ・・・!」

 それでもシンは自分の意思を貫こうとする。

「元々はオレたちの世界で起こっているはずのことだ。そこまで全部、違う世界のみんなに任せ切りにして甘えるわけにいかない・・・!」

「シン・・そこまで本気になって・・・」

 シンの強い決意に、カナタは戸惑いを覚える。

「分かったよ、シンくん・・でも、危なくなったら遠慮しないで、私たちを呼んで・・」

 霧子が聞き入れながらも、シンをサポートする考えを伝えた。

「のんびりやっていると、私が代わりにアイツを撃ち落とすわよ・・」

 アンジュが憮然とした素振りを見せて、シンに言いかける。

「私たちはアークエンジェルと他の機体の相手をするわ。」

「シン、お前はフリーダムを討つことだけに専念するんだ。お前ならやれる。」

 ルナマリアとレイもシンを激励した。

「みんな・・すまない・・ありがとう・・」

 シンがカナタたちに感謝して、すぐに気を引き締めなおした。

「最後にもう1度、シュミレーションをやるぞ、シン。」

「あぁ、カナタ。」

 カナタとシンが声を掛け合い、戦闘シュミレーションを再開した。

「カナタくん・・・シン・・・」

 かつてない激しい戦いに赴こうとするカナタたちに、ラブは戸惑いと不安を感じていた。

 

 ギルバートの放送によって、世界の敵と見なされたジュリオとミスルギ皇国。彼を含む各国の国家元首たちによる会談が行われ、クロスやプラントへの対処について話し合われていた。

「連合軍の一員となっているだけで世界の敵だと決めてかかるとは、愚の骨頂だ!」

 ジュリオがギルバートたちへの不満を、他の元首たちに伝える。

「異世界の者だから、我らがどれほど重要な存在であるかと理解していないと見える。」

「これは世界に、我らこそが正義であることを知らしめなければならない。」

「正しき心を持つ大衆ならば、そのことを理解しているはずだ!」

 元首たちがギルバートへの批判も込めて、言葉を交わしていく。

「しかし我々の敵はクロスやプラントだけではない。異次元から現れるドラゴンも、ペンギン帝国なるおかしなヤツらもいる。」

「我々の味方は増えたが、それは敵も同じだ・・!」

「我々の果たすべき使命は山積みだ・・・!」

 他のことも語り合って、元首たちが苦悩していく。

「どうすればよいのだ・・どれから片づけていけば・・・!?

 元首の1人が頭を抱えて悲鳴を上げる。会談の場の傍らには、椅子に腰を下ろして本に目を通していたエンブリヲの姿があった。

「どうしようもないな・・本当にどうしようも・・・」

 エンブリヲが読みかけの本を閉じて、ため息まじりに呟く。彼の言葉に元首たちが眉をひそめる。

「我々にある選択肢は3つ。1、敵に全面降伏する。2、敵を全滅させる。3、世界を作り直す。」

 エンブリヲがジュリオたちに悠然とした態度で進言していく。

「世界を作り直す?・・どういうことですか・・?」

「つまり、全部壊してリセットする、ということだ。害虫を駆除し、土を入れ替え、正常な世界にする・・」

 元首の1人からの疑問に、エンブリヲが答えていく。

「正常な世界に・・・すばらしい!作り変えましょう、今すぐに!」

 ジュリオが感動して、彼の言葉に賛同する。

「そもそも間違っていたのです!忌々しいノーマという存在も、ヤツらに味方する愚か者も、混迷を極めるこの世界も!このような忌まわしきものは全て壊して、正しき世界にリセットするのだ!」

 エンブリヲの言葉に完全に心を動かされているジュリオ。

「地球連合、虚神会とも協力して、クロスを確実に仕留めてみせる!皆様方、ここは我々にお任せを!」

「あぁ・・ここは信じさせていただきますよ・・エンブリヲ殿とジュリオ殿を・・」

 自信を見せるジュリオに、元首たちはクロスの討伐を任せた。

「ではみなさん、ご武運を。」

 エンブリヲが挨拶をして、立体映像と通信による会談が終了した。会談の場となった花園には、エンブリヲだけが残った。

「本当にどうしようもないな・・敵対する勢力も、各国を治める者たちも・・」

 エンブリヲが頭に手を当てる素振りを見せて呟く。彼の悩みとなっていたのは、クロスやギルバートだけでなく、ジュリオたち国家元首も含まれていた。

 

 ザフトの探索部隊がアークエンジェルを発見した。功を焦った別部隊が戦いを仕掛けるが、アークエンジェルとフリーダムの迎撃で逆に追い込まれていた。

 この事態はすぐに、ミネルバにも伝えられることになった。

「クロスもアークエンジェルの追撃に出ます。」

“こっちも準備OKですよ。”

 タリアが呼びかけて、飛行艇にいるメイも通信を送ってきた。

(もしも戦うことになったら、決着を付けさせてもらうわ・・)

 アークエンジェルへの思惑を胸に秘めるタリア。ミネルバと飛行艇がベルリンから発進して、アークエンジェルを追う。

「シン、お前もオレも強くなったはずだ。だからお前が勝つと、オレは信じているよ。」

 カナタが自信を込めて、シンに信頼を送る。

「協力してくれてありがとう、カナタ・・レイもサポートしてくれて、感謝してる。」

「お前ならやれる。それだけの力も術も身に着けているのだから。」

 

 

 

 ミネルバと飛行艇はついにアークエンジェルを視認できるまで距離を詰めた。

「アークエンジェル、発見しました!」

 メイリンが報告して、タリアが真剣な面持ちで頷いた。

「メイリン、国際救難チャンネルで回線を開いて。」

「艦長・・!?

 タリアの指示に、アーサーが声を荒げる。

「議長からはこのことは許可をいただいているわ。メイリン、お願い。」

「分かりました・・」

 タリアが言いかけて、メイリンが戸惑いながらも指示に従った。

「ザフト艦ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。アークエンジェル聞こえますか?」

 タリアがアークエンジェルに向けて呼びかける。

「本艦は現在、司令部より貴艦の撃沈命令を受けています。ですが、貴艦が搭載機を含めた全ての武装を解除し、投降するなら、貴艦への攻撃を中止します。警告は1度です。以後の申し入れには応じられません。乗員の生命の安全は保証します。貴艦の賢明な判断を、望みます・・」

 アークエンジェルに向けて警告を投げかけたタリア。彼女はアークエンジェルの乗員が平和のため、戦いを終わらせるために尽力していると思い、わずかな希望を信じていた。

 

 タリアから投げかけられた警告は、アークエンジェルに伝わった。そのクルーたちも、彼らが保護したオーブ軍の軍人たちも、警告の通信でタリアの顔をモニターで見て戸惑いを感じていた。

「さすがグラディス艦長。冷静沈着で誠実。できることなら敵に回したくはないわね・・」

 アークエンジェルの艦長、マリュー・ラミアスがタリアに対して評価と警戒を抱く。

「しかし、ここでザフトに投降などすれば、カガリ様が・・!」

 オーブの軍人の1人がカガリの身を案じて苦言を呈する。

「私としては、それでも今のザフトの言うことを聞くことはできない。でもカガリさんの信じる道を、私は信じることにするわ・・」

 マリューが自分の考えをカガリに告げる。

「私もラミアス艦長と同じ思いだ。ここで今のザフトに、デュランダル議長に従うことになれば、オーブの理念から外れることになる。」

 カガリが自分の正直な思いを口にした。それを聞いてオーブの軍人たちが感嘆の笑みを浮かべて、マリューが頷いた。

「分かったわ・・キラくんはいつでも出られるようにしていて。」

「はい、マリューさん。」

 マリューの呼びかけに答えて、キラがドックへ向かう。マリューがミネルバに向けて呼びかけた。

「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです。貴艦の申し入れに感謝します。」

 マリューの返答がミネルバに届く。

「しかし残念ながら、その申し入れを受け入れることはできません。本艦にはまだ仕事があります。この混迷が広がる世界の中で、私たちはただ、邪魔な色なのかもしれません。ですがだからこそ、今ここで消えるわけにはいかないのです・・願わくば、脱出を許されんことを・・・」

 マリューは自分たちの意思を告げて、応答を終えた。彼女もキラもカガリたちもタリアの申し出を聞き入れるつもりはなかった。

 

 タリアからの警告を拒絶したマリュー。モニターで彼女の顔を見て、タリアたちは複雑な気分を覚える。

「やはり応じなかったわね・・その信念の強さ、並みでないようね・・・」

「艦長・・・!」

 深刻な面持ちを浮かべるタリアに、アーサーが動揺を見せる。

「コンディションレッド発令!本艦はこれより、アークエンジェルへの攻撃を開始します!」

 タリアが指示を出して、ミネルバが戦闘態勢に入った。

「今度こそフリーダムとアークエンジェルを止める・・アイツらから受けた仕打ちへの屈辱を味わうのは、オレたちで最後にしないと・・」

 シンが言いかけて、カナタ、ルナマリア、レイが頷いた。

「シンがフリーダムと一騎打ちする。アークエンジェルや他の連中をオレたちが引き離す。」

「これでお前の戦いに邪魔が入ることはなくなる。」

 カナタとレイが作戦の確認をする。

「私たちはシンの援護。アークエンジェルに集中砲火するのよ。」

「ヘッ!ドラゴンみたいに撃ち落としてやるよ、あんな堕天使戦艦なんて!」

 サリアも指示を出して、ロザリーがキラたちへの敵意を募らせる。

「そのドラゴンやペンギン帝国、連合軍が介入してくる可能性はあるわ。十分に注意して。」

「分かっている・・・」

 エルシャが注意を投げかけて、クリスが頷く。

「ヴィヴィアン・・出撃できる・・?」

 アンジュがヴィヴィアンを気に掛けて、声を掛けてきた。

「うーん・・ちょっとだるい気がするけど〜・・何とか動けるかな♪」

 ヴィヴィアンが自分の状態を確かめてから、無邪気に笑って答えた。彼女がいつまたドラゴンになってしまうのではないかと、アンジュは気にしていた。

「インパルス、発進!」

 タリアが呼びかけて、ミネルバのハッチが開く。

(アイツのせいでハイネとアスランが死んだ・・ステラも殺されてしまったかもしれない・・アイツを倒さなくちゃ、悲劇が繰り返される・・・!)

 シンがフリーダムの行動を思い出して、自分に言い聞かせる。彼の脳裏に、両親とマユが死んだときのことがよみがえる。

(オレがやってやる・・フリーダムは、オレが倒す・・!)

「シン・アスカ、コアスプレンダー、いきます!」

 決意を固めたシンがコアスプレンダーでミネルバから発進した。続けて射出されたチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットがコアスプレンダーと合体して、フォースインパルスとなった。

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 ルナマリアとレイのザクも発進して、ミネルバの艦上で防衛に当たった。

「天命カナタ、イザナギ、いきます!」

 カナタの駆るイザナギがミネルバから発進して、アークエンジェルに向かう。

「サリア隊、発進!アークエンジェルに攻撃!」

 サリアの号令で、アーキバス、ヴィルキス、グレイブ、ハウザー、レイザーが飛行艇から出た。

「ダイミダラー6型・霧子、出ます!」

 霧子と将馬の乗るダイミダラーも飛行艇から出て、その上に乗った。

(今日こそアンタたちを止めるぞ、フリーダム、アークエンジェル・・!)

 決意と意思を強くして、シンがキラとの対決に臨んでいた。

 

 一方、キラもフリーダムに乗って発進に備えていた。彼はカガリやマリューたちの思いを汲み取って、自分たちの意思を貫こうとしていた。

(僕は戦う・・オーブを守るために・・戦いを止めるために・・・!)

「キラ・ヤマト、フリーダム、いきます!」

 キラが改めて決意を固めて、フリーダムで出撃した。フリーダムの前にインパルスが立ちふさがった。

「ザフトの新型・・でも、ここでやられるわけにいかない・・・!」

 キラがインパルスを視認して、気を引き締める。

「アンタたちが割り込んできたせいで、みんな傷ついたんだぞ!ハイネもアスランも!」

「アスラン・・!?

 シンが怒りの叫びを上げて、キラが動揺を覚える。

「これ以上はやらせない!ここで決着を付ける!」

 シンが言い放ち、インパルスがビームライフルを手にして、フリーダムに向けて射撃を放つ。

 キラが即座に反応し、フリーダムが一気にスピードを上げてビームをかわした。フリーダムもビームライフルを手にして反撃を仕掛ける。

 シンが反応し、インパルスがビームライフルを持つ手を引いた。その直後、その手があった地点を、フリーダムのビームが通り過ぎた。

 この瞬間にキラが一瞬動揺を浮かべる。フリーダムがすぐに射撃を仕掛けるが、インパルスはまた紙一重でビームをかわしてみせた。

「いつもそうやって、やれると思うな!」

 キラに向けて言い放つシンの中で、何かが弾けた。彼の感覚が研ぎ澄まされて、インパルスの動きがさらに機敏になった。

 キラも集中力を高めて、同様に感覚を研ぎ澄ませた。インパルスとフリーダムがビームライフルの打ち合いを繰り広げる。

 キラがインパルスを狙って射撃を繰り返す。しかしインパルスにかわされ、さらに盾でビームを防がれた。

(みんなが教えてくれた通りだ・・アイツの攻撃が読める・・・!)

 フリーダムの攻撃の予測ができて、シンが勝機を見出していた。

 

 インパルスがフリーダムと交戦する中、イザナギたちはアークエンジェルへ攻撃を仕掛けていた。

「ゴッドフリート、ヘルダント、発射!本艦に近づけさせないで!」

 マリューがアークエンジェルのクルーたちに指示を出す。

「しかし、これでは多勢に無勢!脱出は厳しいです!」

 アークエンジェルの操舵士、アーノルド・ノイマンが苦言を呈する。

「それでも脱出するのよ!ここで落とされるわけにはいかないわ・・!」

「分かりました・・振り切ります!」

 マリューから激励されて、ノーマンが答えた。アークエンジェルが転進して、イザナギたちの攻撃から退避していく。

「割り込んできてムチャクチャやっておいて、そのまま何度も逃げられてたまるかよ!」

「今までの借り、利子付けてまとめて返してやるよ!」

 ロザリーとヒルダが言い放ち、2機のグレイブがアサルトライフルをアークエンジェルに向けて発射する。

「いっけー、ブンブンまるー!」

 ヴィヴィアンが叫んで、レイザーがブーメランブレードを投げつける。回転して飛んでいくブーメランブレードが、アークエンジェルの艦体に当たって、レイザーに戻ってきた。

「このまま一気に畳み掛けるわよ!ただしアークエンジェルにも、ミネルバのような陽電子砲があるから、油断しないように!」

 サリアが指示を出して、アークエンジェルの反撃を警戒する。

「弾膜を張って距離を稼ぐわ!ヘルダート、イーゲルシュテルン、てぇ!」

 マリューが指示して、アークエンジェルから射撃とミサイルが放たれて爆発する。その煙でカナタたちは視界を遮られる。

「オレに任せろ!ディメンションインパクト!」

 カナタが呼びかけて、イザナギがハイブリッドディメンションを小さな出力で発動させた。その衝撃波が煙を吹き飛ばした。

「逃がしはしないわよ!フリーダムの代わりに、アンタたちを撃ち落とすわよ!」

 アンジュが言い放ち、ヴィルキスがアサルトライフルを発射して、アークエンジェルに命中させた。

「うっ!」

 艦体が揺さぶられて、マリューたちがうめく。

「ラミアス艦長、我らムラサメ隊も出撃します!カガリ様とアークエンジェルを守らねば!」

 オーブ軍の兵士の1人が、マリューに進言してきた。タケミカヅチから脱出した彼らは、カガリのいるアークエンジェルに合流していたのである。

「ダメです!ここはキラくんのフリーダムとこの本艦だけで対処します!」

 マリューはオーブ兵の出撃を許可しない。

 そのとき、マリューたちのいる指令室に入ってきたのはアスランだった。セイバーはフリーダムに破壊されたが、その直前にキラはそのコックピットからアスランを連れ出していたのである。

「オレがミネルバに呼びかけます!そうすればザフトとクロスは攻撃を中止するはずです!」

「言っても攻撃をやめないわ・・こちらが欺こうとすると判断するだけよ・・!」

 アスランがカナタたちに呼びかけようとするが、マリューに止められる。

「ですが、このままではアークエンジェルが落とされてしまいます!」

「振り切るのよ!必ずこの包囲網を脱出します!そしてムラサメ1機、オーブ軍1人欠かさず、オーブへ送り届けます!」

 アスランの反論に言い返して、マリューが意志を貫こうとする。

「キラ・・・シン・・・!」

 フリーダムとインパルスの対決に目を向けて、アスランは困惑を募らせていた。

 

 インパルスとフリーダムの対決は、さらに激しさを増していた。シンが反応し、インパルスがフリーダムの射撃を回避していく。

 フリーダムのビームを盾で防いだ直後、インパルスがその盾を投げつけて、即座にビームライフルを発砲した。放たれたビームが盾で反射して、フリーダムの右肩をかすめた。

 フリーダムの右肩が焼き付き、キラが一瞬息をのむ。その直後、フリーダムがビームライフルを速射し、インパルスの持っていたビームライフルを撃ち抜いた。

「くそっ!」

 シンが毒づき、インパルスがビームサーベルを手にして、フリーダムに飛びかかる。インパルスが振りかざすビームサーベルをかわして、フリーダムがビームサーベルでインパルスの右腕と頭部を切り裂いた。

「メイリン、チェストフライヤー、フォースシルエットを!」

 シンがミネルバのメイリンに呼びかけ、インパルスが分離して、上半身がフリーダムに突撃した。コアスプレンダーが機関砲を発射して、フリーダムと密接しているインパルスの上半身を攻撃、爆発させた。

「ぐっ!」

 フリーダムが雪原に落下して、キラが揺さぶられてうめく。その間に、分離したコアスプレンダーとレッグフライヤーが、ミネルバから新たに射出されたチェストフライヤー、フォースシルエットと合体して、再びインパルスとなった。

 雪原から上昇してアークエンジェルに向かおうとしたフリーダムを、インパルスはビームライフルで射撃して回り込んだ。

「逃がさないぞ、フリーダム!」

「ぐっ・・!」

 シンが言い放ち、キラが毒づく。インパルスがビームライフルを発射して、フリーダムを追い込んでいく。

「お前を倒さないと、お前達も身勝手で苦しむ人が増えることになる!そんなこと、オレがさせない!」

 シンがさらに感情を込めて言い放つ。

(僕の戦いが、僕の敵を呼んでしまったんだろうか・・僕自身が、敵を・・・!?

 シンの言葉を聞いて、キラが心を揺さぶられる。彼が迷いを振り切ろうとして、フリーダムがビームサーベルを突き出す。

 次の瞬間、インパルスの上半身が下半身から離れて、フリーダムのビームサーベルが外れた。フリーダムの頭上を飛び越えたインパルスの上半身が、手にしていたビームライフルを発射して、フリーダムの背部にビームを当てた。

「うあっ!」

 フリーダムがビームの爆発で押されて、キラがうめく。フリーダムが即座に体勢を整えて、インパルスが再合体を果たす。

(ここで倒れるわけにはいかない・・僕が倒れたら、みんなが、オーブが・・・!)

 キラが自分に言い聞かせて、アークエンジェルに目を向ける。アークエンジェルが離脱しようとしているのを見て、フリーダムが加速して合流しようとする。

「逃がさない!アンタはオレが討つんだ・・今日、ここで!」

 シンが言い放つ、インパルスがフリーダムを追った。

 

 イザナギたちの攻撃から逃れようと、アークエンジェルが海岸線に向かっていた。イザナギたちもミネルバも追撃に向かった。

「クロス、本艦に接近!ミネルバも近づいています!」

 アークエンジェルのオペレーターを務めるミリアリア・ハウが報告をする。

「ルージュを出せ!私が行く!」

「いや、オレが行ってザフトを止めます!」

 カガリとアスランも呼びかけて出ようとする。

「ダメよ、2人とも!ここはキラくんを信じましょう!」

「しかし、このままでは・・!」

 マリューはこれも拒否して、アスランが焦りを募らせていった。

 

 加速を続けてザフトの包囲網を突破しようとするアークエンジェル。それを追走するイザナギたち。

“ミネルバ、ソードシルエット!”

 シンの指示がミネルバに伝えられる。ミネルバからインパルスに向けて、ソードシルエットが射出された。

「進行方向に海岸線あり!潜航する模様です!」

「潜られたら逃げられてしまいます!艦長・・!」

 メイリンが報告して、アーサーが声を荒げる。

「・・・タンホイザー、起動・・目標、アークエンジェル!」

 タリアが沈黙を置いてから指示を出した。ミネルバがタンホイザーの発射体勢に入った。

「クロスは本艦の射線軸上から退避!」

「グラディス艦長・・了解!」

 タリアが指示を送り、カナタが答える。イザナギたちがミネルバの前から離れた。

「非常隔壁閉鎖!潜行用意!」

 マリューが指示を出し、アークエンジェルが海中への侵入を始める。

「ってぇ!」

 ミネルバの陽電子砲が発射されて、ビームがアークエンジェルのいる海上に飛び込んだ。

 

 同じく海岸線に向かっていたフリーダムを、インパルスが追走する。インパルスとフリーダムが同時にビームライフルを発射して、互いにライフルを当てられて破壊される。

 インパルスが直後にビームサーベルを投げつけて、フリーダムが構えたもう1つのビームライフルを破壊した。

 シンの指示を受けたミネルバから、ソードシルエットが射出された。インパルスはソードシルエットと合体せずに、ビームブーメランをつかんで投げつけた。

 フリーダムがビームサーベルでビームブーメランを弾くが、その衝撃で体勢を崩す。

 インパルスが続けてエクスカリバーをつかんで、フリーダムに向かって加速する。

「アンタはオレが討つ・・今日、ここで!」

 シンが言い放ち、インパルスがフリーダムに突っ込み、エクスカリバーを突き出した。

 エクスカリバーがフリーダムの胴体を貫いた。その瞬間、フリーダムが突き出したビームサーベルが、インパルスの胸元に突き刺さった。

 2機の激突による爆発が、海上で巻き起こった。

「シン・・シン!」

 爆発に巻き込まれたインパルスに向けて、カナタが悲痛の叫びを上げた。

 

 

第35話へ

 

その他の小説に戻る

 

TOPに戻る

inserted by FC2 system