スーパーロボット大戦CROSS
第32話「罰なき巷」
デストロイを動かしていたのはステラだった。そのことを知ったカナタたちが、驚愕を隠せなくなっていた。
ステラに向けてひたすら呼びかけるシン。デストロイと対峙するイザナギやインパルスが、完全にスピードを落としていた。
その様子と異変に、レイとルナマリアも気付いていた。
「シン、どうしたの!?どこかやられたの!?」
ルナマリアが声を上げて、レイが冷静のまま戦況を見据える。
「イザナギも動きが鈍っている。巨大兵器に乗っているパイロットを知っているのか・・?」
レイがデストロイにいるステラを確認して、疑問を感じていく。
「私たちも援護に行ったほうが・・」
「いや、オレたちはこのままミネルバのそばについて、敵機の迎撃だ。シンなら必ずあの兵器を討つことができる。」
シンたちを心配するルナマリアに、レイが冷静に呼び止める。
「シン・・信じているからね・・・!」
シンが戦意を取り戻すことを信じて、ルナマリアは戦いに集中した。
ステラの動かしているデストロイに攻撃できず、カナタもシンも困惑していた
「アイツら、攻撃を中断している・・しかも無防備だぞ・・」
デストロイを前にして動きを止めているイザナギとインパルス。それを見たネオが、インパルスへ攻撃することを決めた。
「どういうことかは知らんが、アイツを討つ絶好のチャンスというヤツだな・・・!」
ネオがウィンダムを動かし、インパルスに向かっていく。
「シン、連合のモビルスーツが行ったぞ!」
カナタが呼びかけて、シンがウィンダムの接近に気付く。インパルスとウィンダムがビームサーベルを手にしてぶつけ合う。
「アンタか、ステラを戦わせているのは!?」
「ステラを知っているのか!?・・あの子はオレと同じ部隊の人間。これも任務なのでな。」
問い詰めるシンに、ネオが冷静に答える。
「あの子は死を恐れている!戦わせちゃいけないんだ!それなのにお前たちは・・!」
「それをオレに決める権利はないのでな。」
「それがステラを戦わせていいことになるか!」
「それをオレが決めることはできないのでな!」
感情をむき出しにするシンに、ネオが言い返す。インパルスとウィンダムがビームサーベルをぶつけ合う。
「ネオ!」
インパルスに攻められるネオをステラが見かねて、デストロイがインパルスに向けてスプリットビームガンを発射する。インパルスがウィンダムから離れて、デストロイのビームをかわす。
「やめるんだ、ステラ!コイツは君を戦わせているんだぞ!」
「ネオの邪魔をしないで・・私がネオを守る・・!」
シンが呼びかけるが、ステラはネオのために戦おうとする。
「アンタはステラを・・これ以上、ステラをいいようにさせない!」
ネオに対する怒りを爆発させたシン。彼の中で何かが弾け、感覚が研ぎ澄まされた。
インパルスが加速して、ウィンダムへ攻撃を仕掛ける。ビームサーベルがぶつかり合うが、インパルスがウィンダムを押し切る。
「ネオ!」
ステラが叫び、デストロイがインパルスに近付こうとする。
(ステラちゃんを傷付けないように、周りを攻めるしかない!)
カナタがステラを守ろうとして、イザナギがデストロイの両腕をビームサーベルで切りつける。
「よせ、カナタ!ステラを傷付けるな!」
シンがデストロイに目を向けて、カナタを呼び止める。
「せめて足を攻撃して、動きを止めるぐらいは・・!」
カナタがシンの言葉を聞きながらも、ステラを守りつつデストロイの攻撃を止めようとする。
「やめさせろ!ステラは戦うのも死ぬのもイヤなんだ!」
シンがネオに向けて呼びかける。
「オレにその権利はないと言ったはずだ。オレはファントムペインの指揮官であり、ステラはパイロットなのだから・・」
「これ以上・・これ以上ステラを戦いに利用するな!」
ステラを撤退させないネオに、シンが怒りを膨らませた。
インパルスが立て続けに振りかざしたビームサーベルが、ウィンダムの両腕を切り裂いた。
「何っ!?ギャアッ!」
ウィンダムが落下し、ネオが絶叫を上げる。
「ネオ!」
ネオがやられたことにステラが絶望する。彼女が冷静さを失い、デストロイがインパルスに向かってビームを連射する。
「やめろ、ステラ!もう戦わなくていいんだ!」
「よくもネオを!ネオを!」
シンがさらに呼びかけるが、ステラは完全にインパルスを敵視していた。デストロイのビームは周囲の地面や建物に飛び火していた。
ヴィルキスとの攻防を続けるフリーダム。その最中にデストロイがビームを乱射して被害を拡大させていることに、キラが気付く。
「これ以上やらせない・・!」
キラが毒づいて、フリーダムがヴィルキスから離れる。
「待ちなさい!」
アンジュが言い放ち、ヴィルキスがフリーダムを追っていく。
「くそっ!もうやめろ!」
キラが言い放ち、フリーダムがデストロイに向かっていく。フリーダムがレールガンを発射して、デストロイの胴体に命中させた。
「キャアッ!」
デストロイが損傷して、ステラがコックピットにまで及んだ爆発に悲鳴を上げる。
「フリーダム!・・やめろ!」
シンが激高し、インパルスがフリーダムに向かってきた。インパルスがビームサーベルを振りかざして、フリーダムが回避する。
「何をするんだ!?今はあの機体を止めるのが先だ!」
「何にも分かってないくせに!あれは・・!」
呼びかけるキラに、シンが必死に言い放つ。インパルスとフリーダムが同時にビームサーベルをぶつけ合う。
「あれにはステラが、大切な子が乗ってるんだ!」
シンが言い放った言葉を聞いて、キラが当惑を覚える。インパルスのビームサーベルがフリーダムを突き飛ばした。
「ステラちゃんが移動する・・!」
デストロイが進行していくのを、カナタが目撃する。
「シン・フリーダムはオレが食い止める!その間にステラちゃんを!」
カナタがシンに呼びかけて、イザナギがフリーダムの前に立ちはだかる。
「カナタ・・分かった!すまない!」
シンがカナタに感謝して、インパルスがデストロイを追っていった。
「シンとステラの邪魔はさせない!オレが相手だ!」
「どうして邪魔をするんだ!?・・僕たちは、ただ戦いを止めたいだけなのに・・・!」
言い放つカナタに、キラが声を荒げる。イザナギと対峙するフリーダムに、ヴィルキスが追いついた。
「私から逃げ切れると思わないことね!」
アンジュが言い放ち、イザナギとヴィルキスがフリーダムを挟み撃ちにした。
進攻を続けるデストロイが、海潮たちのほうに近づいてきた。
「巨大兵器が来たぞ!みんな、避難を急げ!」
隼人が周囲の人々に呼びかけてから、ビッグエースを動かしてデストロイに向かっていく。
「ムチャよ、隼人!いくらビッグエースでも、あんなのを止められるわけがないわ!」
「ムチャだろうと何だろうと、人が殺されたり街が壊されたりするのを、黙って見過ごすなんてできるか!」
エリナが呼び止めるが、隼人は止まろうとせず、ビッグエースを前進させる。
「あっ!待って、2人ともー!」
翔子が声を荒げて、エースもビッグエースに続く。
「死ぬのは怖い・・怖いものは失くす・・!」
死の恐怖に襲われて、敵を消すことしか考えられなくなっているステラ。デストロイが顔面口部のビーム砲「ツォーン」を発射して、眼下をなぎ払う。
「うわっ!」
近くで爆発が起こり、エースたちが揺さぶられて、隼人たちがうめく。
「鉄さん!・・ランガ、ステラちゃんを止めて!」
海潮が隼人たちを守ろうとして、ランガに呼びかける。ランガが顔を変化させて、デストロイに向かっていく。
「イヤッ!来ないで!怖い!」
ステラが悲鳴を上げて、組み付いてきたランガをデストロイが引き離そうとする。
「いいよ!このままステラちゃんを連れ出して!」
海潮が笑みを浮かべて、ランガがステラをコックピットから出そうと手を伸ばした。
そのとき、ランガの動きが突然止まり、顔も元に戻った。
「えっ!?」
ランガの異変に海潮が目を見開く。デストロイに突き飛ばされて、ランガが倒れた。
「どうしたの、ランガ!?何があったの!?」
海潮が呼びかけるが、ランガが反応しない。
「立ちなさい、ランガ!何をやっているの!?」
魅波も呼びかけるが、それでもランガは動かない。
「ランガ・・・!」
海潮が困惑しながらも、ランガに意識を傾けた。ランガの顔が変化したが、すぐに戻ってしまう。
「入れない・・!?」
ランガに意識が入らないことに、海潮がさらに驚愕する。
「どうしちゃったのよ、ランガ!?私の言うことを聞きなさい!」
「もしかして、あのメカの中にいる人を傷付けたくなくて・・・!」
ランガに怒鳴る夕姫に、ジョエルが当惑を見せる。
「何を言っているの!?アイツ、あれを使って街をメチャクチャにしてるのよ!バカな大人だけならいいけど、子供まで巻き込んでるのよ!」
夕姫がジョエルに文句を言って、本音も口にした。
(もしかしてランガは、私がステラちゃんを傷付けちゃいけないと思っているのを知って・・・!?)
海潮はランガの中に入ったときに、ランガが自分の思いを感じ取ったと思い、困惑を覚える。
「怖いものは消す・・消えちゃえ!」
ステラが叫び声を上げて、デストロイがツォーンを発射した。
「夕姫、危ない!」
ジョエルが夕姫を抱えて、ビームの爆発から逃れた。
「キャッ!」
海潮と魅波も爆発に押されて倒れる。
「みんなが・・!」
「やめて!危害を加えないで!」
将馬が緊張を膨らませて、霧子が叫ぶ。ダイミダラーが駆けつけて、デストロイを止める。
「来ないで!死にたくない!」
ステラが悲鳴を上げて、デストロイがスーパースキュラを発射する。
「うっ!」
「うあっ!」
至近距離からビームを浴びて、ダイミダラーが吹き飛ばされる。その衝撃で霧子と将馬がうめく。
倒れたダイミダラーだが、発揮していたハイエロ粒子の光で、ダメージが最小限に抑えられていた。
「大丈夫、将馬くん・・!?」
「僕は大丈夫・・でも、早くアイツを何とかしないと・・・!」
霧子が心配して、将馬がデストロイの暴走を危惧する。
「ゆ、夕姫・・大丈夫・・?」
ジョエルが顔を上げて、夕姫に呼びかける。
「ジョエル・・私を守ろうとして・・・!」
「夕姫・・よかった・・・うっ・・!」
戸惑いを覚える夕姫が無事だったことに安心するジョエルだが、右足に痛みを覚えてうめく。夕姫を助けて倒れた時に、ジョエルは右足を痛めたのである。
「ジョエル!・・私のためにケガをするなんてね・・・!」
負傷したジョエルにやるせなさを感じていく夕姫。
「ジョエル、逃げるわよ・・さぁ、進んで・・!」
夕姫がジョエルに肩を貸して、一緒に歩き出す。その2人にデストロイが迫る。
「やめろ!」
そこへインパルスがデストロイの前に駆けつけて、シンがステラに呼びかけてきた。
「ステラ、オレだ!シンだ!シン・アスカだ!」
シンが再びステラに向かって呼びかける。
「もう戦わなくていいんだ!君は、オレが守る!」
「ま・・守る・・・!?」
シンの呼びかけを耳にして、ステラが戸惑いを覚える。
「ステラ・・死にたくない・・死ぬのはイヤ・・・!」
ステラが込み上げてくる感情を口にしていく。
「シン・・シンも、ステラちゃんを助けようとして・・・!」
顔を上げた海潮が、シンの心境を察して戸惑いを覚える。
「君は死なない!オレが君を守るから、君は死なない!」
シンの必死の呼びかけに、ステラの心が揺れる。死の恐怖と絶望で満ちていた彼女の心に、安らぎが戻ってきた。
「死なない・・・シン・・・シン!」
落ち着きを取り戻していくステラが、インパルスの中にいるシンを感じ取った。デストロイも砲撃と動きを止めた。
「あの兵器が攻撃を止めた・・・!?」
「説得を聞いてくれたみたい・・・!」
インパルスとデストロイ、シンとステラの様子を見て、将馬と霧子が戸惑いを感じていく。
「ステラ、その機体から降りるんだ・・早くこっちへ・・!」
シンが呼びかけて、インパルスのコックピットのハッチを開けた。
「シン・・・!」
ステラがシンのところに行こうと、デストロイから出ようとした。
そのとき、ステラの目にフリーダムの姿が入ってきた。攻撃してきたフリーダムを目の当たりにして、ステラの和らいでいた恐怖と敵意が再び込み上げてきた。
「イヤ・・イヤアッ!来ないで!」
ステラが悲鳴を上げて、デストロイが再び動き出す。
「やめろ、ステラ!もう戦わなくていいんだ!」
「イヤ、来ないで!イヤアッ!」
シンが呼び止めるが、ステラは恐怖に囚われていて、彼の声が届いていない。
「ぐっ!」
前進してきたデストロイに突き飛ばされて遠ざけられる。
「シンくん!」
霧子がシンに向かって叫び、ダイミダラーが立ち上がろうとする。
「お前ら、いつまでもいい気になってんじゃないぞ!」
そこへスティングのカオスが飛び込み、ダイミダラーに向けてビームとミサイルを発射してきた。
「危ない!」
霧子がとっさに将馬を守ろうとする意思を強めて、ダイミダラーがハイエロ粒子を放出して、カオスの攻撃を防いだ。
そこへカオスが突っ込み、ダイミダラーと組み付いた。
「こんなときに邪魔をされるなんて・・!」
「霧子ちゃん!」
焦りを募らせる霧子に、将馬がたまらず手を差し出した。2人が手を取り合って、互いへの想いを大きくした。
ダイミダラーがハイエロ粒子の光の放出して、カオスを吹き飛ばした。
「何だ、コイツは!?カオスが、バラバラになる・・!」
破損していくカオスに驚愕するスティング。カオスが動かなくなり、地上に落下した。
「あの巨大兵器は!?」
将馬が声を上げて、霧子がデストロイに目を向けた。その瞬間にデストロイがスーパースキュラを発射して、ダイミダラーが吹き飛ばされた。
「うあっ!」
「霧子!将馬!」
ダイミダラーが倒れて霧子たちが悲鳴を上げて、海潮が叫ぶ。砲撃を終えたデストロイが、再び夕姫とジョエルに近づいてきた。
「ゆうぴー!・・やめて、ステラ!そこにはゆうぴーが、私の妹がいるんだよ!」
海潮がステラを呼び止めるが、デストロイは止まらない。そのとき、海潮がそばにあった銃に目を止めた。
「夕姫、君だけでも逃げて・・!」
「バカ言わないで!アンタを置いて逃げたら、後味悪くなるじゃない!」
声を振り絞るジョエルに怒鳴って、夕姫が彼を連れて行こうとする。速く動けない2人に、デストロイが迫る。
「やめて、ステラちゃん!」
海潮がたまらず落ちていた銃を拾い、構えた。デストロイの中にいるステラを狙って。
「死にたくない!・・怖い・・怖いよ・・!」
ステラが恐怖を募らせて、デストロイがスーパースキュラにエネルギーを集めていく。
海潮はステラを撃つことをためらい、動揺を隠せなくなる。
「撃つのよ、海潮!」
夕姫が海潮に向かって呼びかける。スーパースキュラを発射しようとするデストロイを見て、夕姫とジョエルが緊迫を募らせていく。
「やめて・・ゆうぴーとジョエルを傷付けないで!」
海潮が叫び、銃の引き金に指を掛けた。
「夕姫、ジョエルくん・・ステラちゃん!」
カナタが海潮たちに目を向けて、彼女たちの危機を直感する。しかしイザナギの行く手をフリーダムが阻む。
「くっ!・・ディメンションバースト、発動!」
カナタがイザナギのコンピューターを操作して、ディメンションバーストを起動させた。
フリーダムが全ての銃砲を展開して、イザナギに向かって一斉に発射した。イザナギが高速で動いてビームをかわして、フリーダムを突き飛ばした。
「ステラちゃん!」
カナタが叫び、イザナギがデストロイに詰め寄り、ビームサーベルを振りかざした。デストロイが両足を切りつけられて、体勢を崩して倒れる。その途中にスーパースキュラが発射されたが、閃光は虚空に飛んでいった。
海潮は銃を撃たなかった。絶望を感じた彼女が、持っていた銃を力なく落とした。
「ステラ・・ステラ!」
インパルスが戻ってきて、シンが倒れているデストロイの中にいるステラに向かって呼びかける。
「コックピットは無事だ!ステラちゃんは気絶しているみたいだ!」
「カナタ・・ありがとう!」
カナタが呼びかけて、シンが感謝した。着地したインパルスから出てきて、シンがデストロイのコックピットのハッチをこじ開けて、ステラを引きずり出す。
「ステラ、しっかりするんだ!ステラ!」
シンがステラに呼びかける。意識がもうろうとなっていたステラだが、閉ざしていた目をゆっくりと開いた。
「ステラ、もう大丈夫だ・・助かったんだ・・!」
シンは安心の笑みをこぼすと、メットを外して素顔を見せた。
「シン・・・シン・・・」
ステラがシンの顔を目にして微笑みかける。
「ステラ・・よかった・・・もう少しだけ我慢して・・すぐに手当てするから・・・!」
シンが頷くと、ステラを連れてインパルスに乗った。
「シンくん・・パイロットを連れて、ミネルバに・・・!」
「巨大兵器に乗っていたの、女の子だったみたいだけど・・・」
将馬と霧子がステラを目撃して、戸惑いを感じていた。
フリーダムがヴィルキスの前から離れて、アークエンジェルとともに去っていった。イザナギもディメンションバーストを解除して、発していた光を消した。
ランガが沈黙の状態にある中、海潮はかつてない絶望感に襲われていた。
インパルスとザクがミネルバに着艦した。シンがステラを抱えて、インパルスから出てきた。
「早く医務室へ!この子の手当てを!」
シンが呼びかけて、ステラを連れて走り出す。
「シン!?・・ステラ!?」
彼の行動とステラがいたことに、ルナマリアは驚きを隠せなくなる。
(ステラがあの機体のパイロットだった!?・・シンが助け出して、ここまで連れてきたってこと・・・!?)
シンがステラを助け出してミネルバまで連れてきたことに、ルナマリアは複雑な気分を感じていた。
「お、おい、どういうことなんだ、これは!?」
医務室に飛び込んできたシンに、医務官が声を荒げる。
「お願いです!この子を助けてください!早く手当てをしないと・・!」
シンが呼びかけて、ステラを助けてほしいと懇願する。
「ちょっと待て!このパイロットスーツ、地球連合のものじゃないか!敵のパイロットを助けろというのか!?」
「この子は敵じゃない!敵に利用されていただけなんだ!」
怒鳴る医務官にシンが呼びかける。
「どんな事情や理由があろうとも、連合の手にかかったザフトの者や地球の人は大勢いる!たった今、あの黒い機体にこの周辺が蹂躙されたばかりだ!それを犯した連合の者を助けられるわけがなかろう!」
「早く助けろ!もしもこの子に何かあったら、オレは許さないぞ!」
不満の声を上げる医務官に、シンが怒鳴りかかる。彼に鋭く睨みつけられて、医務官と看護師たちが息をのんだ。
医務官は困惑しながら、指令室への連絡を取った。
「グラディス艦長、アスカが医務室に、敵軍のパイロットを運んできました・・!」
医務官はミネルバを指揮するタリアからの指示を仰ぐことにした。
シンがステラを連れ込んだことは、カナタだけでなく、アンジュたちにも伝わっていた。
「まさかアンジュたちが、あのデカブツのパイロットと会ってたとはな。」
ヒルダがステラのことを考えて呟く。
「アンジュ、なぜ連合軍のパイロットと会ったのを報告しなかったの?」
サリアがアンジュに近づいて問い詰めてきた。
「知らなかったのよ。あの子が連合の1人だったなんて・・」
アンジュが憮然とした態度を見せて、ため息をつく。
「でも、そのパイロットの子を連れ込んで、シンくんは何を考えているのかしら?」
「改めてお友達になるとか?」
エルシャとヴィヴィアンがシンの行動について疑問を感じていく。
「ちょっと見ただけだけど、戦いがしたいというよりは、死ぬのが怖くして、そうしてくると思うものを失くそうとしているように感じたわ・・」
エルシャがステラの心境を推測する。
「確かに、あの子は死ぬことをものすごく怖がっていたわね・・」
港でステラと会ったときのことを思い出して、アンジュが呟く。
「このまま、ステラという子を治療するのかな・・?」
「敵のパイロットだぞ!恩を仇で返されるのが見え見えだぜ!」
ラブがステラの心配をして、ロザリーが不信感を抱く。
「みんな、早く機体の収容を済ませるよ。相手のメカはとんでもなかったからね。」
メイが呼びかけて、アンジュたちが彼女に振り向いた。
「あれ?ランガが戻ってこないよ?」
「えっ?」
ヴィヴィアンがランガのことを気にして、ラブが振り返った。ランガは動き出すようになっていたが、頭を抱えて苦しんでいた。
「ランガ・・!?」
ランガの異変を目の当たりにして、ラブは緊張を膨らませていた。
医務官からの連絡を受けて、タリアがアーサーを伴って医務室に赴いた。
「事情は分かったわ。ただし、彼女は捕虜として扱うこととします。」
タリアが冷静に判断して、シンに告げる。
「捕虜!?何を言ってるんですか!?ステラは敵に利用されていただけです!」
「理由は何であれ、彼女が連合軍の一員であるのは確かです。彼女に殺された仲間もいる。それを自由に艦内にいさせるわけにはいきません。」
シンが声を荒げるが、タリアは決断を変えない。
「この子は怖いものに怯えていて、それから逃げようとしているだけだ・・それを助けずに追い詰めるなんて、認められるわけが・・!」
「彼女を許すことのほうが認められません!あなたは彼女を助けるために、ザフトやクロスの人たちの感情を逆撫でするようなことをしているのよ!」
ステラを助けようとする一心のシンだが、タリアは認めようとしない。
「私からもお願いします、艦長!」
そこへルナマリアもやってきて、タリアに申し出てきた。
「確かにこの子は、ステラは連合の一員でした・・新型機体を強奪して、私たちに攻撃を仕掛けてきて、許せない気持ちもあります・・でもだからって、苦しんでいるのを見捨てていいことにはならないです・・!」
「ルナ・・・!」
ステラを助けてほしいと言ってきたルナマリアに、シンが戸惑いを覚える。
「自分からもお願いします、艦長。我々ザフトは、たとえ敵であろうと、無抵抗の者の命を奪うような組織ではないです。」
レイもタリアに声を掛けてきた。彼らの意思を聞いて、タリアの決断が揺さぶられる。
「グラディス艦長、その子を助けてあげてください!お願いします!」
カナタもタリアたちの前に来て、頭を下げてきた。彼からも頼まれて、タリアが決断した。
「・・・応急措置を行ってください・・ただし、脱走や攻撃を行わないよう、麻酔を忘れないように。徹底して拘束することも・・」
「艦長・・!?」
タリアが口にした指示に、医務官が驚きの声を上げる。
「この件はデュランダル議長にも報告します。シン、これ以上の反論は認めません。」
「艦長・・・はい!ありがとうございます!」
タリアが続けて言って、シンが感謝して頭を下げた。
「ステラ・・よかった・・・」
シンがステラを見つめて、喜びを浮かべる。ステラを心配するシンを見て、ルナマリアは再び複雑な気分を感じていた。
「シン、よかったな・・」
カナタがシンに目を向けて微笑んだ。
「いや・・カナタがステラを傷付けないようにしてあの機体を止めてくれたら・・今だってステラを助けるように頼んでくれたし・・」
シンが戸惑いを感じながら、カナタに感謝した。
「オレだってあの子を助けたいと思っていたし、シンが必死に助けようとする気持ちに、応えないわけにいかないと思って・・・」
「カナタ、ありがとうな・・ルナもレイも・・・」
カナタが正直な思いを口にして、シンが感謝した。
「救える命、救いたい命があるなら救いたいのは、オレも同じだから・・」
レイが冷静に自分の考えを告げる。ルナマリアも同じ気持ちを持っていたが、シンのステラを救おうとする行動力に心を揺さぶられていた。
「カナタくん、ランガが飛行艇に戻らないの・・・!」
そこへラブが駆け込んできて、カナタたちに声を掛けてきた。
「ランガが!?・・そういえばステラちゃんを助けたとき、ランガは動いていなかった・・・!」
カナタがランガのことを考えて、深刻さを感じていく。
「それに、海潮の様子が・・・!」
「海潮が・・・!?」
ラブが海潮のことを言って、カナタが緊張を感じていた。
飛行艇の近くで、ランガが頭を押さえて苦しんでいた。海潮はランガを見つめながら、ステラを撃とうとしたことを苦悩していた。
カナタ、ラブ、シン、ルナマリア、レイが海潮のそばに来た。そこには夕姫、ジョエル、ラブレ、アンジュ、モモカ、霧子、将馬もいた。
「あのとき、カナタが止めてくれなかったら・・私・・ステラちゃんを撃っていたかもしれない・・・」
「何を悩んでるのよ、当たり前でしょ?私たちが殺されてもよかったっていうの?」
自分を責める海潮に、夕姫が文句を言う。
「でもそれじゃ、連合軍と同じ、ただの人殺しになってた・・・」
「アンタは私たちを助けようとしたじゃない。連合軍とは違うじゃない・・」
「でもステラちゃんにも、離れ離れの家族がいて、仲間がいて・・それなのに私、ゆうぴーとジョエルが危険になったとき、そんなこと何も考えられなくなっていた・・・」
夕姫から叱咤されても、海潮は自分を許せないでいた。
「違う人間なんていない・・あの子も、私たちも・・同じなんだ・・・」
誰もが命ある人で、みんな必死に生きていると自覚していなかったことを、海潮はさらに自分を責めていた。
この言葉を聞いてカナタ、シン、霧子、将馬が困惑していく。
「ランガは、ステラという子を傷つけようとしたこと、すごく後悔している・・自分が死を与える存在だとあの子に思い込ませたことを・・」
ラブレがランガを感じ取り、その意思を海潮たちに伝える。
「だから、ステラちゃんのいるあの兵器に手が出せなくなったんだね・・・」
霧子がランガの異変の原因を把握する。
「人は、人を殺してはいけないという掟を作りました。でも世界のどこかで、人は今日も人を殺している。」
「それは仕方なく・・・!」
ジョエルが世界の現実を語って、海潮が言い返す。
「誰でも、誰かを殺したいと思うときがあります。でもランガにとって、それらは、殺すことと同じなのかもしれません・・あの子の戦いを止めるなら、海潮さんたちの戦いも止めるべきだと・・」
「でもランガは、海潮と夕姫が好き。みんなが好き。」
ジョエルが話を続けて、ラブレがランガの意思を伝えて、海潮を励ます。
「だからあの子に手を出すのをやめたの?私たちを裁かないために。最初からあの子の命なんてどうでもよくて・・・そうね・・誰だって人を殺したいと思うし、いつか殺すかもしれない。自分の信じることのためなら・・・」
「そうね・・私たちは、世界をおかしくしているヤツと戦っているのよ・・連合軍もペンギン帝国もね・・」
夕姫が信念を貫くことを考えて、アンジュが共感する。
正しさや仲間のためには、敵の命を奪うこともためらわない。互いに分かり合えるのが1番だが、分かり合おうとしない敵に対してためらいや甘い考えは命取りになると、アンジュたちは思っていた。
「私にステラちゃんを救う権利なんてなかったって言うの・・・!?」
海潮が絶望を大きくして、その場に膝を付いてうなだれる。
「でも私は、誰も殺したくないしそれを許したくもない!誰も殺されたりしない世界にするために、ランガという力があるんじゃなかったの!?」
「建て前はやめてよ!海潮だって現にあのステラって子、殺そうとしたじゃない!」
苦悩を深めていく海潮に、夕姫も感情をあらわにする。
「私は正しい人殺しだってあると思う!ザフトも戦いを終わらせるために敵を倒しているし、それで褒められても不満をぶつけられることはない!」
「そうね。間違っているのは向こうなんだし・・世界中のみんなを助けて仲よくしようなんて、綺麗事でしかないわ・・!」
夕姫に続いてアンジュも世界への不満を口にする。
「正しい人殺しなんてない!あっていいわけがない!建て前で何がいけないの!?綺麗事でもいいじゃない!それが正しいことなら、私何度でも言うよ!殺されるために生まれてきた人なんていない!そうでしょ!?」
顔を上げた海潮が涙ながらに言い消してきた。人を殺すことへの罪深さと辛さを、彼女は必死に訴えてきた。
海潮の悲痛の叫びが、カナタ、ラブ、シン、霧子、将馬の心を揺さぶった。アンジュも海潮の意思と絶望感に気圧された。
シンはステラのことを考えて困惑する。ステラは自分の意思で軍に入ったわけではない。言いくるめられて戦わさせられていただけだと、シンは信じていた。
そのとき、苦しみ続けているランガが絶叫を上げる。ランガの顔が変化して、縦に割れた。
「ランガ!?」
海潮が驚きを隠せなくなり、カナタたちも困惑する。ランガの顔に巨大な1つ目が現れた。
「な、何なんだ、あれは!?」
「気色悪い・・何よ、あの目は・・!?」
シンとアンジュがランガを見て声を荒げる。
「海潮、夕姫、どちらかの意識がランガの中に・・!?」
「違うわ!何もしてない!」
カナタが疑問を投げかけて、夕姫が否定する。ランガが背中から翼を生やして、空へ飛び上がった。
「ラ・・ランガ!」
飛び去っていったランガに向かって、海潮の悲痛の叫びがこだました。