スーパーロボット大戦CROSS

第31話「明けない夜明け」

 

 

 ステラの乗ったデストロイが、ロシアを西に向けて進撃していた。

 地球にもザフトの基地や施設は点在していた。連合軍はその場所の多くを把握して、まずはユーラシア大陸にある基地と施設の破壊を行っていた。

「まずはあの施設を狙うか。」

 ザフトの施設を目にして、ネオが呟く。

「撃つ・・・!」

 ステラが目つきを鋭くして、デストロイがフライトユニットに搭載されているエネルギー砲「アウフプラール・ドライツェーン」を発射する。放たれたビームが施設に直撃し、その場にいた人諸共吹き飛ばした。

「すごい・・これがデストロイの力・・・!」

「ものすごい威力だ・・・!」

 ウィンダムのパイロットたちがデストロイの攻撃を目の当たりにして息をのむ。

「怖いもの・・・失くす・・・!」

 ステラが声を振り絞り、デストロイがプラズマ複合砲「ネフェルテム」を発射して、施設をさらに攻撃する。デストロイとウィンダムたちが進攻を続ける。

「やっつけなきゃ・・怖いもの、全部・・・!」

 自分たちに死をもたらすと思っているものを消そうとするステラ。デストロイによる地球への蹂躙が開始されたのだった。

 

 シクザルドームで休息を過ごすカナタたち。その翌朝に、霧子と将馬が乗ったダイミダラーがやってきた。

「あれが、新しいダイミダラー・・」

「前と同じ、アンバランスな感じがしてくるわね・・」

 ダイミダラーを見て、魅波が呟いて、夕姫が呆れてため息をついた。

 ダイミダラーから霧子たちが降りてきて、ルナマリアとメイリンが迎えた。

「はじめまして、クロスへ。私はザフトのルナマリア・ホークです。」

「管制官のメイリンです。」

 ルナマリアたちが霧子たちに挨拶する。

「はじめまして。ダイミダラー6型のファクター、喜友名霧子です。」

「天久将馬です。よろしくお願いします。」

 霧子と将馬も挨拶して、小さく頭を下げた。

「詳しい話は、このミネルバのグラディス艦長がしてくれるわ。ついてきて。」

 ルナマリアに案内されて、霧子たちが移動していく。2人はミネルバの艦長室に来た。

「喜友名霧子さんと天久将馬くんが到着しました。」

「どうぞ。」

 ルナマリアが声を掛けて、タリアが答えた。ドアが開き、霧子たちが艦長室に入った。

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。はじめまして、霧子さん、将馬くん。」

 タリアが霧子たちに向けて挨拶をした。

「あなた方のことは又吉長官から聞いています。あなた方も自分たちの意思を尊重したいのですね。」

「はい。世界平和とか任務とかよりも、私は将馬くんを守ることを優先します。将馬くんを狙う敵と、私は戦います。」

「僕も霧子ちゃんのお手伝いをします。大したことはできないと思いますが・・」

 タリアが話を伺い、霧子と将馬が正直な思いを答えた。

「自分たちのことを・・私たちの多くも、あなたたちと似た思いを持っているわ。」

「えっ・・?」

 タリアが口にした言葉を聞いて、霧子と将馬が戸惑いを覚える。

「私たちは協力関係にあるけど、それぞれの目的や考えに基づいて行動しているわ。あなたたちのように、自分たちのために動いている人もいるわ。」

「それじゃ、私たちは深く考えすぎることはなかったんですね・・」

 タリアがクロスのことを語り、霧子が苦笑いを浮かべた。

「他の人たちに会って、コミュニケーションをしたほうがいいわ。それと・・」

 タリアが話を続けて、表情を曇らせた。

「私たちはこれから、このシクザルドームを出発するから、着いたばかりだけど、出発の準備をしておいてください。」

「分かりました。ありがとうございます、グラディス艦長。」

 タリアからの進言を聞き入れて、将馬がお礼を言った。

「ルナマリア、霧子さんたちをシンたちのところへ連れていってあげて。」

「分かりました。」

 タリアからの指示にルナマリアが答えた。

「行こう、霧子さん、将馬くん。」

「はい。」

 ルナマリアについていって、霧子と将馬は艦長室を後にした。

 

 霧子たちの到着を、海潮もアンジュたちも耳にしていた。ミネルバから外へ出てきた霧子と将馬を、海潮たちが目にした。

「あなたたちね、新しいダイミダラーの操縦者は?」

「はい。みなさんがクロスのメンバーなのですね。」

 サリアが声を掛けて、霧子が微笑んで答えた。

「私たちはアルゼナルに所属している。本来はドラゴンと呼ばれる異次元からの敵の討伐をしているわ。」

 サリアが自分たちのことを霧子たちに話す。

「ドラゴン?ドラゴンって、ゲームなどに出てくるあのドラゴン?」

「あ、そっちはドラゴンが実在しない世界だったな。」

 将馬が疑問符を浮かべて、ヒルダが苦笑をこぼす。

「はじめまして。私、島原海潮です。」

 海潮も霧子の前に出て挨拶をしてきた。

「はじめまして・・えっと、あなたもパイロットなの?」

「えっ?私はそういうのじゃなくて・・」

 霧子が質問して、海潮が苦笑いを浮かべて答えた。

「うわあっ!何だ、アレ!?

 将馬がランガを見て驚きの声を上げた。

「あれは確かニュースで言っていた・・バロウという国のランガという巨大生物・・・」

 霧子もランガのことを思い出して、当惑していく。

「ランガは王である海潮さんたちのために動くバロウの神です。」

「神様!?神様が戦っているってこと!?

 ジョエルもランガのことを話して、将馬がさらに驚く。

「いろんな世界のいろんな人が集まっているとは聞いていたけど、ここまでだったとは・・・」

 霧子がクロスの面々に驚きを隠せなくなっていた。

「それで、クロスの人たちはこれで全員なの?」

「ううん。あと3人いるんだけど、どこにいるのかな・・?」

 霧子の問いかけに答えて、ラブが周りを見回す。カナタ、シン、レイを捜すラブだが、3人の姿は近くにはなかった。

 

 イザナギと自分の力をうまくコントロールしなければならない。そう考えていてシュミレーションをしようとしたカナタだが、1人でうまくいかず、誰かにシュミレーションの相手を頼もうとしていた。

「シンかレイに頼んでみるかな・・」

 カナタは呟いて、シンたちの部屋を訪れて、ドアをノックした。

「シン、レイ、いるか?」

 部屋から返事がなく、カナタが声を掛ける。それでも返事がない。

「開けるぞ。」

 カナタがドアを開けると、部屋にいたシンがシュミレーションをしていたのを目にした。

「返事がないから入ったけど、悪かったか・・?」

「カナタ・・いや、こっちに集中していたオレたちが返事しなかったのが悪かった。」

 カナタが改めて声を掛けて、レイが目を向けて答えた。

「もしかして、2人ともシュミレーション演習をやっていたのか?」

 カナタがシンのシュミレーションの映像に目を向けた。その内容はフリーダムとの戦闘だった。

「これはフリーダム・・いきなり乱入してきたモビルスーツか・・・!」

「あぁ。これ以上、フリーダムにいいようにされるわけにいかないと、シンが・・オレも助力したいと思っている。」

 カナタが息を呑んで、レイが答える。シンも強くなろうと試行錯誤をしていた。

「くそっ!また攻撃された!」

 またもフリーダムもやられて、シンがいら立つ。

「何であれだけのスピードと反応が出せるんだよ・・!?

「落ち着け、シン。相手の動きを見極めれば、対応できないことはない。」

 声を荒げるシンを、レイがなだめる。

「そうは言うけど、インパルスの性能もあるんだ・・フリーダムの性能はインパルスより上なんだ・・・!」

 シンが焦りを口にして肩を落とす。

「それをここまで使いこなすなんて・・パイロットもそれだけ強いってことなのか・・!」

「だがお前も強い。しかもまだまだ強くなれる可能性がある・・」

 フリーダムを駆るキラの強さ痛感しているシンに、レイが激励を送る。

「レイ、フリーダムのパイロットについて知っているのか?」

「あぁ。確証はないが、先の大戦のときのパイロットと同じだろう。」

 カナタの問いかけにレイが頷いた。

「キラ・ヤマト。フリーダムに乗り、先の大戦を終結に導いた1人。経歴は目覚ましいものがあるが、今のフリーダムは戦局を混乱させる敵でしかない。」

「えっ!?フリーダムは戦争を終わらせた英雄だったのか!?

 レイからキラのことを聞いて、カナタが驚く。

「違う!アイツは英雄なんかじゃない!オレたちを戦火に巻き込んだ張本人の1人だ!」

 するとシンが怒鳴り、握った両手を机に叩きつけた。

「シン・・・そうか・・フリーダムはオーブ軍になっていたんだったな・・今も・・・」

 カナタがフリーダムの所属について思い出し、シンの心境を察した。

「アイルの・・アイツのせいで、ハイネもアスランも・・・!」

 フリーダムに討たれたハイネとアスランを思い出して、シンが怒りを増して体を震わせた。

「シン、オレのシュミレーション演習の相手になってくれないか?」

「えっ・・?」

 カナタが投げかけた誘いに、シンが戸惑いを覚える。

「理由や考え方は違うけど、強くなろうって気持ちは同じのはずだ。だから1人でやるより、対戦しながら対策を練っていけばいいと思うんだけど・・イザナギはフリーダムじゃないから、参考になるかどうか分かんないけど・・」

「カナタ、お前・・・分かった!一緒にやるぞ!」

 カナタの考えを聞いて、シンが笑みを見せて賛同した。

「しかしここでは対戦シュミレーションはできない。艦長にシュミレーターの使用の許可をもらおう。」

 レイもカナタに協力することを決めていた。

「あっ!3人ともここにいたんだね!」

 そのとき、カナタたちを捜していたラブがやってきて声を上げてきた。

「ラブちゃんもこっちに来ていたのか?」

「のん気なこと言ってないで、霧子ちゃんと将馬くんに挨拶しに行ってよ。」

 カナタが答えると、ラブが呆れて肩を落とす。

「顔を見せるだけでもしておこう。」

「分かったよ・・」

 レイが呼びかけて、シンが頷く。2人もカナタ、ラブとともに部屋を出て、霧子、将馬と対面した。

「はじめまして。喜友名霧子です。」

「天久将馬です。よろしくお願いします。」

 霧子たちがシンたちにも挨拶をした。

「レイ・ザ・バレルです。彼はシン・アスカ。」

 レイも自分とシンを紹介する。

「オレは天命カナタ。イザナギのパイロットです。」

 カナタも自己紹介をして、将馬と握手をかわした。

「レイ、早く艦長からシュミレーターを使う許可をもらいに行くぞ。」

「ではオレたちはこれで。」

 シンが呼びかけて、レイが霧子たちに敬礼してから移動した。

「オレもシンの演習に付き合うことになるから、それじゃ。」

 カナタはシンたちを追い掛けて、ラブたちの前から去っていった。

(カナタくん、強くなろうとして・・・シンも・・・)

 ラブがカナタとシンを気に掛けて、表情を曇らせていた。

 

 シュミレーター使用の許可をもらおうと、カナタたちが指令室に来た。

「グラディス艦長、ユーラシア大陸で破壊行為が繰り返されています!」

 管制官が別部隊からの連絡を受けて、タリアに報告する。

「破壊行為?何者の仕業なの!?

「巨大な機動兵器が進攻して、ザフトの施設を攻撃しています。その強力かつ広範囲の攻撃で、周辺の町や住民にも被害をもたらしています・・」

 タリアが問いかけて、管制官が報告を続ける。モニターにベルリンの映像が映し出され、タリアたちがその惨状を目の当たりにする。

「な・・何ということを・・・!」

「これは戦闘でも攻撃でもないわ・・ただの破壊と殺戮よ・・・!」

 アーサーが息をのみ、タリアが静かに憤る。

「何でこんなことを・・誰がこんなことを・・!?

 シンもこの悲惨な事態に怒りを膨らませていく。

「ザフトの基地や施設のある場所を攻撃している。連合軍の仕業だ。」

 レイが冷静に襲撃者のことを推測する。

「グラディス艦長、すぐに行きましょう!あんな兵器を野放しにするわけにいきません!」

 カナタが感情をあらわにして、タリアに進言する。ミネルバに響く警報を聞いて、ルナマリアとメイリンも指令室に戻ってきた。

「指令です!クロスは直ちにユーラシアへ出発せよとのことです!」

 座席に着いたメイリンが、ザフトの上層部からの連絡をタリアに伝えた。

「クロスは発進準備!全員、直ちに乗艦するように!」

 タリアがミネルバ艦内と飛行艇に連絡する。ラブたちも緊張を感じて、ミネルバと飛行艇に乗った。

(行ってきます、ゼロス博士、メイさん・・・)

 タマキに別れを告げて、悲しい顔を浮かべた。

「クロス、発進!」

 タリアの号令で、ミネルバと飛行艇はシクザルドームから発進した。

 

 ステラの動かすデストロイが、ユーラシアを進攻して、ベルリンに向かっていた。デストロイはザフト、プラントの基地や施設だけでなく、周囲をも蹂躙していた。

「すごい・・何という破壊力だ・・・!」

「これならコーディネイターを一掃するのも簡単だぞ!」

「それはいいが、これだとオレたちの出る幕がなくなってしまうな・・」

 ウィンダムのパイロットたちがデストロイの攻撃を見て言いかける。

「消えて・・・怖いものはみんな・・消えちゃえ!」

 ステラが感情を込めて叫び、デストロイが前進しながら砲撃を続ける。逃げようとしていた人々が戦火に巻き込まれる。

 死に恐怖を感じていながら多くの人の命を奪っている。そのことをステラは実感していなかった。

 

 ユーラシア大陸へ急行したミネルバ。その航行中、カナタたちは破壊の惨状を目の当たりにした。

「あれが、地球軍の新しい兵器・・・!」

 アーサーがデストロイの破壊力に対して息をのむ。

「あれを止めなければ、ロシアやベルリンだけでなく、世界中が壊滅状態に陥る・・ここで絶対に食い止め、破壊しなくては・・・!」

 タリアが危機感を募らせて言いかける。

「全パイロット、発進準備!何としてでもあの兵器を止めるのよ!」

 彼女が呼びかけてカナタ、シン、レイ、ルナマリアがドックに向かった。

「ホントは操縦がうまくなってから戦いたかったけど・・・!」

 カナタが悔しさを浮かべて、彼の呟きを耳にしたシンが足を止める。

「それはオレも同じだ・・だけど今は、あのバケモノを倒すことに集中しないと・・!」

「分かっているよ、シン・・オレたちで、世界を守る・・!」

 シンに励まされて、カナタが気分を落ち着かせていく。2人はドックに来て、コアスプレンダーとイザナギに乗り込んだ。

“シン、カナタくんが先陣を切って。レイとルナマリアは援護をして。”

「はい!」

 タリアから指示が届いて、カナタが答えた。

“オレたちエース部隊は、住民の避難誘導をします!”

 エリナが通信でカナタたちに呼びかけてきた。

“待て待て!オレたちも戦うぞ!”

“隼人、ダメだって!飛行できずスピードも速くないエースじゃ、アイツの格好の的になるだけよ!”

 隼人が抗議の声を上げてきて、エリナが呼び止めた。

「行くぞ、カナタ!」

「分かった、シン!」

 シンの呼びかけにカナタが答える。2人がレイたちとともに発進に備えた。

「天命カナタ、イザナギ、行きます!」

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 カナタのイザナギ、シンのコアスプレンダー、レイとルナマリアのザクがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが発進して、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。

 

 飛行艇でもアンジュたちも発進準備を整えていた。

「私たちもあの巨大なメカを攻撃するわ。ただし正面からだと威力の高いビームを当てられる危険が高いから、左右や後ろからの攻撃に専念して。」

 サリアがデストロイの能力を推測して、アンジュたちに指示を送る。

「ドラゴンよりも手応えありそうな相手じゃんか・・!」

「報酬はどれくらいになるかな・・・?」

 ロザリーがデストロイ打倒を喜び、クリスも呟く。

「私たちはランガを出した後に、現地の人たちを避難させるわ。」

 魅波が言いかけて、サリアが頷いた。

「サリア隊、出撃するわよ!」

 サリアの掛け声とともに、アーキバス、ヴィルキス、グレイブ、ハウザー、レイザーが飛行艇から発進した。

「ランガ、あなたも行って!」

 海潮が呼びかけて、ランガも飛行艇から出て、翼を広げて飛翔した。

「ダイミダラーも行きます!」

「エース部隊も出るぜ!」

 霧子と隼人が呼びかけて、ダイミダラー、ビッグエース、エースも飛行艇から出た。飛行艇が着陸して、海潮が人々の避難誘導に向かった。

「みなさん、あっちです!あっちが安全です!」

 海潮が呼びかけて、近くで倒れていた人を起こす。ジョエルとラブレも駆け寄って、海潮を手伝う。

(こんなにみんなが傷ついているのに・・・!)

 目の前で起きている悲惨な現実に、海潮は辛さと絶望を感じずにいられなかった。

 

 ベルリンを進攻するデストロイを、カナタたちが視認した。

「あれが、連合の破壊兵器・・・!」

 カナタがデストロイに対して、憤りを感じていく。

「やめろ!」

 シンが叫んで、インパルスがビームライフルを手にして射撃を仕掛ける。放たれたビームはデストロイに向かっていく。

 しかしデストロイから発せられている陽電子リフレクター「シュナイドシュッツ」に、ビームが弾かれた。

「くっ・・ビームが通じないのか・・!」

 射撃が効かないことに、シンが毒づく。インパルスの登場に対して、スティングがいら立ちを覚える。

「お前を・・お前を今度こそ始末してやるぞ!」

 スティングがいきり立ち、カオスがインパルスに飛びかかる。2機がビームライフルを撃ち合い、ビームをかわしていく。

「早くアイツを止めないと・・これ以上やらせてたまるか・・!」

 デストロイの暴挙に危機感を募らせるシン。

「アイツも倒す・・今度こそ・・今度こそ・・・!」

 ステラがインパルスに気付き、敵意を向ける。デストロイが進行を止めて、インパルスに狙いを変えた。

 

 カナタとシンに続いて、アンジュたちも戦場に駆けつけた。ヴィルキスたちにウィンダムたちが近づいてきた。

「今回もゾロゾロ出てきたもんだね・・!」

「でも数が多ければ勝てるわけじゃないのよ。」

 ヒルダとエルシャが笑みをこぼして、ハウザー2機がロングバレルライフルを発射してウィンダムを撃ち抜いていく。

「アンタたちじゃ私の相手にはならないわ!」

 アンジュが吐き捨てて、ヴィルキスがラツィーエルを手にして、ウィンダムを切りつけ撃墜させていく。

「何をしている!?1機ずつ潰せ!」

 副官からの命令が飛び、ウィンダムがヴィルキスに対して集中砲火を仕掛ける。しかしスピードを上げたヴィルキスに射撃を全てかわされる。

「物分かりの悪い連中ね・・言いなりになるだけの家畜が!」

 アンジュが言い放ち、ヴィルキスがさらにウィンダムを切りつけていく。さらに地上から射撃を仕掛けていたモビルアーマー「ゲルズゲー」もラツィーエルで切りつけていく。

「私があの大きいヤツの相手をするわ!」

 アンジュが呼びかけて、ヴィルキスがデストロイに向かっていく。

「待ちなさい、アンジュ!」

「アンジュ、待ってー!あたしも行くよー!」

 サリアとヴィヴィアンが声を上げて、アーキバスとレイザーがヴィルキスを追いかけていく。

「相変わらず勝手なマネをしやがって、痛姫が!」

 ロザリーがアンジュの行動に不満を覚える。しかし彼女のグレイブとクリスのハウザーの前に、ウィンダムが立ちはだかる。

「邪魔ばかりしてくる・・・!」

 クリスが不満を呟いて、ハウザーがロングレンジライフルを発射して、ウィンダムを撃ち落としていく。グレイブもアサルトライフルで、ウィンダムを撃墜していく。

“戦闘地域に近づいてくる熱源あり!フリーダムとアークエンジェルだよ!”

 そのとき、メイからの通信がヒルダたちに伝わってきた。キラたちもベルリンに駆けつけてきた。

「フリーダム・・またあたしらの邪魔をしに来たのかよ!」

「今度こそ、落とす・・・!」

 ロザリーがキラに対して怒鳴り、クリスも目つきを鋭くする。グレイブとハウザーがライフルを発射するが、フリーダムが加速してかわして、ビームサーベルで2機の腕を切り落とした。

「ちくしょう・・アイツ、また・・!」

 またもフリーダムにやられて、ロザリーが悔しさをあらわにする。フリーダムがスピードを上げたまま、デストロイに向かっていく。

「シン、フリーダムがそっちへ行ったよ!」

 ルナマリアが呼びかけて、カナタとシンが振り向いて、フリーダムとアークエンジェルを目撃した。

「フリーダム、アークエンジェル・・アイツら・・!」

 シンがフリーダムの介入にいら立ちを覚える。

“シン、今はあの巨大な兵器を止めることに専念して!向こうが攻撃してこない限り、今は無視して!”

 タリアがシンに向けて呼びかける。

「くっ・・了解です・・・!」

 シンが渋々聞き入れて、デストロイを止めることを優先させる。

「アイツの相手は私がするわ!もうやられはしない!」

 アンジュがいきり立ち、ヴィルキスがフリーダムに向かっていく。ヴィルキスのアサルトライフルの射撃を、フリーダムが素早くかわす。

 フリーダムがレールガンで反撃するが、ヴィルキスもスピードを上げて回避した。

「何度もやれると思ったら、大間違いよ!」

 アンジュがキラに向かって強気な態度を見せる。

「今はこんなことをしている場合じゃない!あの巨大兵器を止めるのが先だろう!」

「あなたも大きくないってだけで、そいつと大して変わらないじゃない!見境なく攻撃してきて!」

 キラがデストロイを止めることを呼びかけるが、アンジュは彼への不信感を示す。

「周りのことを気にしないくせに、正義の味方気取りだなんて、バカみたい・・」

「戦いが起こることで、誰かが傷ついたり悲しんだりしている・・それがいつまでも続いてほしくないから、僕が戦いを止めるんだ・・・!」

 アンジュから悪く言われても、キラは考えを変えない。

「どこまでもバカね・・分かっているつもりになっただけで、全然分かってない・・分かろうともしていない・・私たちを蔑むブタどもと同じよ・・・」

 呆れ果てたアンジュがアキホたちのことを思い出して、キラと照らし合わせる。

「アンタたちもこの馬鹿げた世界もぶち壊して、新しい世界を築くのよ・・アンタが理想にしている、戦いのない世界にね・・!」

「そんなので、戦いが終わるはずはない・・戦いが広がるだけなのに・・・!」

「アンタのやり方もまさにそれじゃない!いつまでもいい子のつもりになっているんじゃないわよ!」

「違う!僕はそんな・・!」

 アンジュに自分たちの行動を否定されて、キラが必死に言い返す。

「まずはアンタたちから落とさせてもらうわよ!」

 アンジュが言い放ち、ヴィルキスがフリーダムにラツィーエルを振りかざす。フリーダムがビームサーベル2本を交差させて、ラツィーエルを受け止めた。

 そこへアーキバスがアサルトライフルを発射して、ヴィルキスとフリーダムが後ろに下がってビームを回避した。

「ちょっと!撃つ前に声を掛けるぐらいしてよ!」

「そうしたら確実によけられるでしょ!」

 アンジュが文句を言って、サリアが言い返す。フリーダムが体勢を立て直し、ヴィルキスたちの動きをうかがう。

「アイツらも・・やっつける・・・!」

 ステラがさらに敵意を強めていく。直後、デストロイが変形して、人型へと変わった。

「巨大兵器が変形した・・!?

「形だけなら、モビルスーツみたいだ・・・!」

 シンとカナタがデストロイの姿を見て、息を呑む。

「怖いものはみんな、やっつける・・・!」

 ステラが声を振り絞り、デストロイがイザナギとインパルスを狙う。

 デストロイが胸部にあるエネルギー砲「スーパースキュラ」を発射する。イザナギとインパルスが左右に動いて、ビームをかわす。

「全身武器だらけじゃないか・・!」

 数多くのビームの発射口を備えているデストロイに、カナタが毒づく。

 デストロイが両手を分離、射出して指先のビームガンを発射する。イザナギとインパルスが加速して、縦横無尽に飛び交うビームをかわしていく。

「よけてばかりじゃやられる・・一気に倒すしかない!」

 シンが思い立ち、インパルスがビームサーベルを手にして加速する。デストロイの両手からのビームとスーパースキュラの砲撃をかいくぐり、インパルスがデストロイに詰め寄った。

 インパルスが振りかざしたビームサーベルが、デストロイの胴体を切りつけた。

「キャアッ!」

 インパルスの一閃がデストロイのコックピット手前まで及び、ステラが悲鳴を上げる。

「よし!胴体を集中攻撃だ!」

 シンが思い立ち、インパルスがデストロイを追撃しようとした。

 そのとき、デストロイのコックピットの中をシンが目撃した。デストロイの中にステラがいたことに、シンが目を疑う。

「おい・・あの兵器に乗っているのって・・・!?

 カナタもデストロイを動かしていたのがステラだったことに、驚きを隠せなくなる。

「ステラ!?・・どうして君が・・!?

 シンが声を振り絞り、ステラに呼びかける。

「私を・・私をよくも・・・!」

 ステラがいら立ちを浮かべて、インパルスに敵意を向ける。デストロイがインパルスに向けてビームを放つ。

 シンが動揺しながらも反応し、インパルスが紙一重でビームをかわす。

「やめるんだ、ステラ!シンだ!シン・アスカだ!」

「怖いもの、なくす・・怖いもの、やっつける・・!」

 シンが呼びかけるが、ステラはインパルスを敵視する。

「ダメだ、ステラ!こんなことをしたら!」

「消えろ、消えろ!消えちゃえ!」

 シンがさらに呼びかけるが、ステラはインパルスを攻撃することしか考えていない。

「カナタ、シン、どうしたの!?

 ヴィヴィアンがカナタたちに向かって呼びかける。イザナギもインパルスも攻撃に出ないことに、彼女は疑問を感じていた。

「ステラ・・・あの子も連合軍のパイロットだったというの・・・!?

 アンジュもステラの姿を確認して、驚愕を感じていた。

「何をしているのよ、アンジュ!?よそ見をしていると討たれるわよ!」

 サリアが呼びかけるが、アンジュはステラを気に掛けていた。

(戦うのが、死ぬのが怖かったのに、何でそんなものに乗っているんだ、あの子は・・!?

 ステラと戦うことに、カナタも迷いと苦悩を深めていた。

 

 

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