スーパーロボット大戦CROSS

第29話「世界を壊す者、紡ぐ者」

 

 

 カンナやヘクトたちはディメントだった。それぞれの目的のために手を組んだカンナたちが、カナタたちの前に立ちはだかった。

「ディメント・・新しく世界を築く・・・!?

「そんなバカげたこと、させるわけがないだろうが!」

 カナタが困惑を覚えて、シンが怒りの声を上げる。

「しかしやらなければ世界は混乱したままとなる。世界の融合によって、人間たちは統率もままならない状態になっている。」

「だから僕たちが、みんなをまとめるお手伝いをするってこと♪」

 ヘクトとアムダが世界の状況と自分たちの目的を語っていく。

「アンタたちが、世界の支配者になるつもりなの・・!?

「そんなさせない!私たちがあなたたちを止める!」

 アンジュが不満を口にして、海潮もカンナたちに言い放つ。

「まるで私たちが悪者みたいな言い方・・今この世界を動かしているのは、あなたたちが悪者だと思っている人たちなの・・」

 アブルがため息まじりにアンジュたちに反論する。

「私たちは詳しい事情やいきさつは違うけど、世界に対して不満を持っていることは共通している。だから持っている知識や技術を持ち寄り、お互いの力を強化し合っている。」

「それを、世界を壊すために・・・!」

 ディメントのことを話していくカンナに、カナタが憤りを募らせていく。

「世界を壊して作り直す・・アンタたちも同じ考えを持っていたなんてね・・」

 アンジュがカンナたちの話に共感を示す。

「でも気に入らないのよね・・アンタたちが何もかも思い通りにしようっていうのが・・!」

 しかしアンジュはカンナたちに対する不満を強めた。

「アンジュめ、勝手なことを言ってくれちゃって・・」

 ヒルダがアンジュの言動に呆れるも、笑みをこぼしていた。

「気に入らないから徹底抗戦ってヤツかぁ。僕はそれでも全然構わないけどね♪」

 アムダが無邪気に言って、ピンギーがミネルバに近づいていく。

「そんな勝手、ダメだよ!」

 海潮がアムダたちに言い放ち、彼女の意思の入ったランガが飛行艇から出てきた。

「たとえムチャクチャになってても、この世界でみんな生きているんだよ!それを自分の思い通りにしようなんて!」

「そうしなければ世界そのものが崩壊する・・それぞれの世界を動かしてきた人たちも、他の人たちを思い通りにしようとして動かしてきている・・」

 海潮が不満の声を投げかけるが、アブルがため息まじりに言い返してきた。

「バロウの王様も例外ではない・・世界を動かせる立場になったのだから・・・」

「私たちは自分のことしか考えたりしない!みんなが幸せになれるようにする!」

「綺麗事だね。そんなこと言っても、世界はそんなことにはならないよ・・たとえ具体的な策を持っているとしても・・」

「そんなことはない!みんな分かってくれる!あなたたちだって・・!」

 嘲笑してくるアブルに、海潮が必死に訴える。彼女の言葉にアブルだけでなく、カンナとヘクトも呆れる。

「たとえ他の人があなたたちに共感できたとしても、私たちはそうはいかない・・私たちは私たちの道を進むと決めているの・・」

「オレたちはお前たちと手を取って馴れ合うつもりはない。どうしても止めたければ、力ずくでやるしかない。」

 カンナとヘクトがあくまで自分たちの意思を貫くことを決めていた。

「倒すのよ、海潮!でないと私たちがやられてしまうわよ!」

 夕姫が見かねて海潮に呼びかけてきた。

「でも、戦う度に人が死んでいくなんて・・そんなのイヤだよ・・・!」

 ハイネ、アスラン、孝一がいなくなったことを思い出して、海潮が辛さを噛みしめる。味方も敵も死んでほしくないという思いを、彼女は強めていた。

「カナタ、私はあなたを倒す・・私とイザナミを上回る力は存在しないことを証明するために・・!」

 カンナがカナタへの敵意を募らせ、イザナミがビームサーベルを手にした。

「やるしかないわね・・総員、第一種戦闘配備!」

 タリアがディメントと戦うことを決めて、カナタたちに指示を送る。

「搭乗員は乗艦してください。直ちに発進します。」

 メイリンも彼女の指示を伝達して、ラブたちがミネルバと飛行艇に乗り込んでいく。

「搭乗は完了しましたか?」

「待って!今、確認している!」

 メイリンが問いかけて、メイが答える。ミネルバでも飛行艇でも人数確認が行われている。

「あれ?メイさんは?」

 そのとき、飛行艇に乗ったラブが周りを見回して呟いた。

「えっ?私はここだよ?」

「メイちゃんじゃなくてメイさん!メイ・タマキさん!」

 メイが振り向くと、ラブがツッコミを入れる。

「ラブと一緒ではなかったの?」

「そのはずだったんだけど・・いつの間にか・・・!」

 ジョエルが問いかけて、ラブが動揺しながら答える。

「まさか、1人だけ乗らないで・・・シクザルドームに戻ったんじゃ!?

 ラブが不安を覚えて、窓からシクザルドームを見下ろす。しかしタマキを見つけることができない。

「みんな、メイさんを捜して!またシクザルドームに戻ったみたい!」

「えっ!?

 ラブが呼びかけて、カナタたちが驚きを覚える。

「メイさん、何でまた戻ってしまったんだ・・・!?

 カナタもタマキのことを心配して、ドームを見つめる。

「カナタ、危ない!」

 そこへシンが呼びかけてきて、カナタが視線を前に戻す。イザナミがイザナギを狙って、ビームライフルを発射してきた。

 イザナギが左腕からビームシールドを展開して、ビームを防いだ。

「私の相手をしてもらうわよ、カナタ。よそ見をしている暇がないほどにね・・」

「カンナ・・・今はそんなことをしている場合じゃないのに・・・!」

 微笑みかけるカンナに、カナタがいら立ちを感じていく。

「メイ、あなたたちは着陸して、彼女を連れ戻してきて!」

「わ、分かった!」

 サリアが呼びかけて、メイが答える。飛行艇が再びシクザルドームのそばに着陸した。

「メイさん!」

 直後にラブが飛行艇から飛び出して、シクザルドームに入っていった。

「私たちでラブさんを援護します!敵機をシクザルドームに近づけないで!」

「はい!」

 タリアが指示を出して、カナタが答える。イザナギもビームライフルを手にして、イザナミとビームを撃ち合い相殺させる。

「いいだろう、カンナ・・オレが相手になってやる!」

「そうこなくてはね・・勝つのは私だけど・・・!」

 覚悟を決めるカナタと戦えることに、カンナが喜びを感じていく。イザナギとイザナミがさらにビームを放って、撃ち合いを繰り広げていく。

「カナタ!」

 シンがインパルスで援護しようとするが、アンチェーンが行く手を阻んだ。

「お前の相手はオレだ、インパルス。」

 ヘクトがシンに言って、アンチェーンがビームサーベルを手にした。

「アンタも戦争がしたいのか!?世界の支配者になりたいのかよ!」

 シンが怒号を放ち、インパルスもビームサーベルを手にした。2機がサーベルを振りかざして、激しくぶつかり合う。

「オレたちが戦いを終わらせる!そして2度と、戦いが起こらない世界を目指す!」

「戦いが起こらない世界・・それが平和だと言わんばかりだが、果たして戦いが2度と起こらなければ、平和と言えるのか?」

 決意を言い放つシンを、ヘクトが嘲笑する。

「戦いが起こらない世界が、平和だとは限らない・・お前たちは時期に、そのことを思い知ることになるだろう。」

「そうやって惑わそうとしても、そうはいかないぞ!」

 ヘクトの口にする忠告を、シンが怒りを込めてはねつける。インパルスがビームサーベルに力を込めて、アンチェーンを突き飛ばす。

「ならばその目で確かめ、後悔することだな・・」

 ヘクトがため息まじりに言って、アンチェーンが左腕を振りかざしてビームウィップを伸ばした。ビームサーベルをビームウィップに叩かれて、インパルスを突き飛ばされる。

「くっ!」

 シンがその衝撃にうめき、インパルスが空中で体勢を整えた。

「あの機体、すごいパワーとスピードだ・・・!」

 シンがアンチェーンの強さを痛感して毒づく。

「シン、あの機体の性能はインパルスを上回っている。気を付けろ・・!」

「分かっている!だけど負けるわけにいかない!」

 レイが注意を言って、シンが声を荒げる。インパルスがアンチェーンに向かっていき、ビームサーベルを振りかざしていく。

「このアンチェーンはフリーダムやジャスティスを上回る性能を持つように調整してある。その程度のモビルスーツに、アンチェーンが負ける要素はない。」

 ヘクトが冷静に告げて、アンチェーンが両腰にあるレールガンを展開して発射した。

「うっ!」

 インパルスが射撃を受けて、シンが衝撃に揺さぶられる。

「シン!」

 ルナマリアが叫び、ザクがオルトロスを発射する。ヘクトが反応し、アンチェーンがビームをかわす。

「そのような量産型など、アンチェーンの足元にも及ばない。」

 ヘクトがザクに目を向けて、アンチェーンがレールガンを発射する。ザクがオルトロスを発射するが、アンチェーンのビームを相殺できず、オルトロスに直撃される。

「キャッ!」

「ルナ!」

 ルナマリアが悲鳴を上げて、シンが叫ぶ。

「お前・・よくも!」

 怒りを膨らませたシンの中で何かが弾け、感覚が研ぎ澄まされた。

 インパルスが加速して、アンチェーンに向かっていく。インパルスが振り下ろしたビームサーベルを、アンチェーンがビームサーベルで受け止めた。

 その瞬間、ヘクトがインパルスの力が上がったことを実感した。アンチェーンがインパルスに突き飛ばされるも、空中で踏みとどまった。

「力が増している・・それも爆発的に・・・!」

 ヘクトがインパルスの力に対して警戒をする。

(先の大戦で、“ストライク”とフリーダム、ジャスティスが飛躍的に戦闘能力が向上したというデータがある。そのパイロットはキラ・ヤマトとアスラン・ザラだった・・)

 ヘクトが1年前の戦争について思い出す。彼は戦争に登場した機体やパイロットに関するデータを見たことがあり、頭に入れていた。

(インパルスも、同様の強化を果たしたというのか・・・!?

 ヘクトが警戒心を強めて、アンチェーンがビームサーベルを構えてインパルスを迎え撃つ。

「ヘクト・・・!」

 アブルがヘクトを気に掛けるが、黒龍神の前にヴィルキス、アーキバス、グレイブ、ハウザー、レイザーが囲んできた。

「これだけの数が相手だと、さすがに勝ち目はないよな?」

「それはどうかな?・・私には、大勢の相手に攻撃する方法がある・・」

 勝気に言うヒルダに、アブルが動じることなく言い返す。黒龍神がひし形の物体を数基射出した。

「何、あれ・・?」

「みんな、離れて!狙い撃ちされるわ!」

 クリスが疑問を覚えると、エルシャがとっさに注意を呼び掛けた。

「行って、紅刃(こうじん)・・!」

 アブルが物体、紅刃を操作する。紅刃がヴィルキスたちに向かってビームを発射してきた。その縦横無尽の射撃で、ロザリーのグレイブとクリスのハウザーが撃たれた。

「うぐっ!」

「ロザリー!クリス!」

 うめくロザリーたちにヒルダが叫ぶ。

「あの小さな武器を使って、あらゆる角度から攻撃してくる・・厄介な相手ね・・・!」

 サリアが黒龍神への警戒を強めて、アーキバスがアサルトライフルを構える。

「操っているのはアイツなんでしょ・・だったらアイツを倒せばいいだけのことよ!」

 アンジュが言い放ち、ヴィルキスがラツィーエルを手にして飛びかかる。振り下ろされたラツィーエルをかわして、紅刃を操作する。

 紅刃から放たれたビームを、アンジュが反応し、ヴィルキスが正確にかわしていく。

「おー!アンジュ、全部よけてるよー!」

「でも回避できても反撃ができていない・・このままだといつかは当たってしまうわ・・・!」

 ヴィヴィアンが喜ぶが、エルシャは危機感を感じていた。

「それなら援護が必要になるわ・・敵がヴィルキスに集中しているなら、それが隙だわ・・!」

 サリアが黒龍神を注視して、アーキバスがアサルトライフルを発射した。しかしアブルが気付き、黒龍神が射撃をかわした。

「多数の紅刃を操り、数多くの敵の位置を把握できている私よ。奇襲に気付かないはずがない・・」

 アブルがアーキバスに目を向けて、黒龍神が2組に分けて操作していく。

「サリア、また余計なことを・・・!」

「サリアちゃん、回避するのよ!」

 アンジュが不満を口にして、エルシャがサリアに呼びかける。アーキバスが回避行動をとるが、紅刃の連射を抜け出せず当てられてしまう。

「うっ!」

 サリアが揺さぶられてうめき、アーキバスが空中で体勢を整える。

「サリア!」

「アイツ、調子に乗って・・!」

 ヴィヴィアンがサリアに叫び、アンジュが黒龍神に鋭い視線を向ける。

 ヴィルキスが黒龍神に向かって真っ直ぐに向かっていく。ヴィルキスの振りかざすラツィーエルをかわして、黒龍神が紅刃を操作する。

 ヴィルキスがスピードを上げて紅刃からのビームをかいくぐる。

「回避はできているけど、まだヴィルキスの本当の力を引き出せてはいないようだね・・」

「ヴィルキスの、本当の力・・・!?

 アブルの口にした言葉に、アンジュが疑問を覚える。

「あなた、ヴィルキスについて知っているの!?教えなさい!」

「私が言わなくても、いつか自分で使えるようになるはずよ・・生きていればの話だけど・・」

 問い詰めるアンジュに、アブルが微笑んで言い返した。

 

 アムダの乗るピンギーが縦横無尽に飛び回り、ランガを翻弄していく。

「どうしたの?もうちょっと抵抗してくれないとつまんないよ〜・・」

 アムダがため息をついて、ピンギーがランガへの突撃を繰り返す。

「海潮、やるしかないよ!向こうはこっちを殺すつもりでいるんだから!」

 夕姫が不満を感じて、海潮に呼びかける。

「でも、あれに乗っているのも人なのに・・・!」

「だったら殺さないように落とせばいいのよ。あのフリーダムとかいうのみたいにね・・」

 苦悩を深めていく海潮に、魅波も呼びかけてきた。

「フリーダムのように・・殺さないように・・・」

 海潮がキラの戦い方に共感していく。彼女は殺さないようにして、ピンギーだけを止めることを考える。

 海潮の意思を受けて、ランガが剣を出してピンギーを迎え撃つ。ランガが振りかざす剣を、ピンギーが素早くかわしていく。

「遅い、遅い♪そんなんじゃ僕には追いつけないよ〜♪」

 アムダが無邪気に言って、ピンギーがランガに向かっていく。

「そらそら♪どんどん攻撃しちゃうよ〜♪僕の力、たっぷり味わっちゃいなよ〜♪」

 アムダが言い放って、ピンギーが両腕を鳥の翼のようにして飛行する。その突撃をかわし切れず、ランガがぶつけられていく。

「もう〜。そろそろ反撃してきちゃってもいいんだよ〜。そうしないと面白くなくなっちゃうよ〜。」

 アムダがため息をついて、ピンギーがランガへさらに突撃した。ランガが左手を出して触手を伸ばして、ピンギーを絡め取った。

「何っ!?

「捕まえた!」

 アムダが驚き、海潮が言い放つ。ランガがピンギー目がけて剣を振り下ろした。ピンギーが左腕を剣に叩かれて、体勢を崩す。

「もー!放せ!放せってばー!」

 アムダが不満の声を上げて、ピンギーがランガを引っ張る。しかし逆にランガに引っ張られる。

「このー!」

 アムダが不満を膨らませて、ピンギーが両手からビームを発射する。ランガがビームを当てられて怯み、その間にピンギーが触手から脱出する。

「やってくれたねー!やっつけちゃうからねー!」

 アムダが怒鳴って、ピンギーがランガに向かっていった。

 

 シクザルドームに戻っていったタマキは、研究室に来てコンピューターをチェックしていた。

(間違いない・・ゼロス博士は、イザナギとイザナミの、ハイブリッドディメンションの強化について、研究を終えている・・!)

 タマキが研究データを見て、イザナギの強化につなげられると考えた。

(これを調べれば、カナタくんを助けられるかもしれない・・・!)

 彼女はメモリーをコンピューターに挿して、データのコピーを始めた。

(このデータを組み込めば、イザナギは強くなる・・後は、カナタくんが使いこなせれば・・・!)

 カナタの勝利を信じて、タマキは命懸けで力になろうとしていた。

 

 タマキを連れ戻すため、ラブもシクザルドームに戻ってきた。

「メイさん、どこですか!?返事をしてください!」

 ラブが叫ぶが、タマキからの返事は聞こえない。

「もしかして、研究室の方に・・!?

 思考を巡らせるラブが、研究室へ急ぐ。そこで彼女はタマキを発見した。

「メイさん!」

 ラブが呼びかけると、タマキが気付いて振り向いた。

「メイさん、何をしているんですか!?早くドームから出ないと危険です!」

「ごめんなさい・・でも、これを持っていくまでは、カナタくんのところへ戻れないわ・・!」

 メイが駆け寄ってきて、タマキが事情を話す。

「コピーが完了したわ・・これをイザナギに使えば、イザナギの強化が可能となるわ。」

「イザナギの強化に!?

 コピーを終えたメモリーを取り出したタマキに、ラブが驚きの声を上げる。

「ゼロス博士がそのシステムを完成させていたのよ・・でもその直後にイザナギとイザナミが戦って・・」

 タマキの話を聞いて、ラブが世界が融合する直前の戦いを思い出す。

「カンナさんを止めるには、イザナギがイザナミを超えるしかない・・私は、カナタくんを信じる・・!」

「メイさん・・・」

 カナタに信頼を寄せているタマキに、ラブが戸惑いを覚える。

「心配かけてごめんなさい・・行きましょう、ラブちゃん!」

「はい!」

 タマキが呼びかけて、ラブが答えた。2人は研究室を後にして、外を目指した。

 

 イザナギとイザナミがビームサーベルのぶつけ合いを繰り広げていた。しかし2機の戦いは拮抗して、カナタとカンナは体力を消耗させていった。

(イザナミはイザナギと同じ性能の機体・・優位に立てない・・・!)

(あの力を出していないカナタにも勝てないなんて・・・!)

 焦りを感じていくカナタと、悔しさを膨らませていくカンナ。

(オレの中にある力を使えば・・でも暴走して、カンナを傷付けてしまう・・・!)

 カナタは自分を見失ってしまうことを恐れて、力を発揮することをためらっていた。

(私は負けない・・カナタにこれ以上、負けたくはないのよ・・!)

 彼への敵意を強めて、カンナが操縦桿を握る手に力を込める。

(私にも力があるなら、今すぐ出てきて・・私に勝たせて!)

 カンナが力への渇望を強めて、イザナミがイザナギに向かって突っ込む。イザナミが振りかざすビームサーベルを、イザナギがビームサーベルで防いでいく。

 直後にイザナミが左手でビームライフルを持って、イザナギに向けて発射した。

「ぐっ!」

 イザナギがビームを撃たれて押されて、カナタがうめく。

「もらったわ!」

 カンナが勝機を見出し、イザナミがビームサーベルを突き立てた。イザナギがビームシールドを展開するが、突き飛ばされて地上に落下した。

「くっ!・・イザナミが勢いを増している・・反撃しないとやられる・・・!」

 カナタが危機感を覚えて、イザナギが起き上がる。そのとき、カナタがイザナミがビームライフルを構えているのを目の当たりにした。

 さらにラブとタマキがシクザルドームから外に飛び出してきた。

「ラブ!?メイさん!?

 カナタがラブたちに気付いて緊迫を覚える。

「2人とも、すぐに中に入るんだ!」

 カナタがラブたちに呼びかけて、イザナギがビームシールドを展開した。イザナミがビームライフルを発射して、イザナギがビームシールドで防いだ。

「キャッ!」

 ラブとタマキがビームの衝撃に押されるも、足に力を入れて耐える。

「早くこれを、カナタくんに届けないと・・・!」

 タマキがゼロスの研究データを届けることを考える。

「カナタくん、私たちをイザナギに入れて!」

 ラブがカナタに向かって呼びかけてきた。ラブはイザナギに乗り込んで、データを組み込もうとした。

 イザナミがさらにビームライフルを発射していく。イザナギがビームシールドでビームを防ぐ一方となっていた。

「ビームの出力を上げて、シールドを貫く!」

 カンナが調整をして、イザナミのビームライフルにエネルギーが集まる。

「よせ、カンナ!ラブちゃんとメイさんがそばにいるんだ!」

 カナタが呼び止めるが、カンナは躊躇することなくビームを撃ってきた。

「ちくしょう!」

 カナタが目を見開き、イザナギがビームシールドでビームを受け止めた。

「止め切れない・・・ラブちゃん、タマキさん、ここを離れて・・!」

 カナタが声を振り絞り、ラブたちに呼びかける。その瞬間、ビームシールドに弾かれたビームが、ラブたちに向かって飛んできた。

「ラブちゃん!」

 タマキが持っていたメモリーをラブの服のポケットに入れた。そしてタマキはラブをイザナギの方へ突き飛ばした。

「メイさん・・!?

「これをカナタくんに・・・博士からの希望を届けて・・・」

 戸惑いを覚えるラブに、タマキが笑顔を見せた。その直後、タマキがビームの光にのみ込まれた。

 ビームの爆発によってラブが吹き飛ばされて、倒れていたイザナギの腕にぶつかった。

「メイさん!?・・・メイさん!」

 ラブが爆発の光に視線を戻して、目を見開いた。ビームを直撃されたタマキの亡骸が残っていた。

「メイさん・・・私を庇って・・・私のせいで・・メイさんが・・・!」

 タマキの死を目の当たりにして、ラブは絶望のあまりに体を震わせる。

「イヤ・・・イヤアッ!」

 悲痛の叫びを上げた瞬間、ラブの体から光があふれ出した。

「ラブ・・!」

 力を解放したラブに、カナタが戸惑いを覚える。

「何、この力!?・・・まさか、カナタだけじゃなく、ラブもあの力を出せるというの・・・!?

 カンナがラブを見て、驚きを隠せなくなる。ラブがイザナミに鋭い視線を向けてきた。

「お姉ちゃん、なぜメイさんを殺したの!?・・シクザルドームの仲間に手を出すなんて・・・!」

 ラブがカンナに怒りの声を投げかけた。地上にいるはずのラブの声が、上空にいるカンナにはっきりと伝わってきていた。

「どうしてそんなことをしたの!?そうまでして自分のことを優先させるの!?ひどいよ、お姉ちゃん!」

 ラブが怒号とともに光を放出した。

「うっ!」

 イザナミが光に包まれ、カンナも体の自由が利かなくなる。

(動けない!?・・ラブに止められているというの・・!?

 ラブの発揮した驚異の力を痛感して、カンナが息をのむ。

「許せない・・いくらお姉ちゃんでも、そんなことは許さない・・・!」

 ラブがカンナに強い怒りを向ける。

「このまま押しつぶされるわけにいかない・・私は、カナタに勝たないといけないのよ・・!」

 カンナがラブに抵抗して、力を跳ね除けてイザナミを動かそうとする。

「ラブ、たとえあなたでも、私の邪魔はさせないわ!」

 カンナが力を振り絞り、無理やりイザナギを動かした。ビームライフルから放たれたビームが、ラブに飛んでいく。

 ラブが光をさらに放ち、ビームを跳ね返した。身動きの取れないイザナミが、ビームライフルを撃たれて破壊された。

「なぜあのような力が、ラブやカナタに!?・・なぜ私に、あのような力が出せないの!?

 カンナがいら立ちを膨らませて、イザナミがビームサーベルを手にした。

「ラブちゃん、イザナギに乗れ!」

 カナタが呼びかけて、イザナギがラブに向けて左手を伸ばした。

「私は、メイさんの仇を討つ・・・!」

 ラブはカンナを倒すことしか考えていない。

「無理やり乗せるしかない・・!」

 思い立ったカナタが、イザナギの左手にラブを乗せた。イザナギのコックピットのハッチが開き、カナタがラブに駆け寄った。

「ラブちゃん、来るんだ!」

「放して・・私はお姉ちゃんを倒さないといけない・・・!」

 カナタに腕をつかまれるも、ラブはついていこうとしない。

「言うことを聞いてくれ・・オレは、君まで死なせたくはないんだ!」

 カナタが感情を込めて、ラブの腕をつかむ手に力を入れた。

「早く中に入れ!」

 カナタからも光があふれ出した。彼とラブの光が入り混じり、まばゆい閃光となった。

「わーっ!まぶしいよー!」

「カナタとラブから出ている光が合わさっているの・・!?

 ヴィヴィアンが手で顔を覆って、海潮が緊張を覚える。

「レーダーに異常が・・光の影響と思われます・・!」

 メイリンがレーダーを見て、声を振り絞って報告する。

「カナタ、ラブ・・力を抑えろ・・目を覚ませ!」

 シンが目を凝らしながら、カナタたちに向かって叫んだ。するとカナタとラブが光を弱めて、イザナギのコックピットに倒れ込んだ。

「オ、オレはいったい・・!?

 我に返ったカナタが、周りを見回して現状を確かめる。

「いつの間に、ラブちゃんを連れ込んだのか、オレは・・?」

「カ・・カナタくん・・・」

 カナタが自分たちの身に起きたことを確かめて、ラブも意識を取り戻した。

「ラブちゃん、気が付いたんだね!」

「私・・いつの間に、イザナギの中に・・・」

 喜ぶカナタを見て、ラブが戸惑いを覚える。

「ラブちゃん、いったんミネルバに戻るよ。君を乗せたまま戦うことはできないから・・」

 カナタがラブを気遣い、一時帰艦を考える。

「カナタ、これを使って・・ゼロス博士が完成させた、イザナギの強化データだよ・・」

「イザナギの強化・・!」

 ラブがメモリーを取り出して、カナタが驚きを覚える。

「メイさんがデータを出して、私に託してくれたの・・・」

「メイさん・・・!」

 悲しみを込めて言いかけるラブの言葉を聞いて、カナタもタマキのことを思って辛さを思える。

「カナタくん、私に構わずに使って・・お姉ちゃんと戦って・・・!」

「でも、このまま戦ったら、ラブちゃんにも負担がかかることに・・・!」

「構わないよ・・耐えてみせる!」

「ラブちゃん・・・」

 ラブの決意と覚悟に、カナタは戸惑いを募らせていく。

「分かった・・行くよ、ラブちゃん・・!」

「うんっ!」

 意を決したカナタに、ラブが頷いた。彼女からメモリーを受け取って、カナタはイザナギのコンピューターに挿し込んだ。

 メモリーに収められたデータが、イザナギに組み込まれた。ハイブリッドディメンションから発する光が強くなった。

「これは!?

 イザナギの変化にカンナが驚愕する。イザナギがゆっくりとイザナミに振り向いた。

 イザナギから光があふれ出して、イザナミの前まで一気に移動してきた。

「なっ!?

 カンナがさらに驚愕し、イザナギが右手を突き出した。力と速さを兼ね備えたイザナギの打撃で、イザナミが回避もままならずに突き飛ばされた。

 目にも留まらぬスピードと、それに乗った高いパワー。イザナギの発揮した戦闘力に、カンナは驚愕を募らせて言葉が出なくなる。

 イザナギがさらに高速で動き、両手の打撃をイザナミに連続で叩き込んでいく。

(よけることも逃げることもできない・・私とイザナミが、何もできないなんて・・!?

 やられる一方のイザナミに、カンナが絶望を膨らませていく。

(こんなところで終わるなんてイヤ・・カナタに負けるなんて・・絶対にイヤ!)

 カナタへの怒りと憎しみを増していくカンナ。しかし彼女の意思と裏腹に、イザナミは反撃もできない。

「カンナ、オレたちはお前を止める・・イザナミを、悪いことに使わせない・・・!」

 カナタがカンナに言い放ち、イザナギがイザナミに向かって突っ込んだ。

 そのとき、イザナギからあふれていた光が突然消えた。高速で動いていたイザナギが、その速度を弱めた。

「あ、あれ!?・・動きが鈍くなった・・!?

「イザナギがエネルギーを使い果したんだ・・ものすごい性能を発揮できるが、その分エネルギーも大きく消耗する・・・!」

 ラブがイザナギの異変に驚き、カナタが毒づく。

「アブル、アムダ、今は引き上げるぞ・・!」

 ヘクトがカンナの危機を悟り、アブルたちに呼びかけた。

「まだだよー!面白くなってきたっていうのにー!」

「死に急ぎたければここに残っていろ・・・!」

 ふくれっ面を浮かべるヘクトに、ヘクトが冷たく告げる。

「しょうがないね・・お楽しみは後に取っておくとするかなぁ・・」

 アムダはため息まじりに聞き入れた。黒龍神とピンギーがヴィルキスたちから離れていく。

「カンナ、撤退するぞ・・・!」

 ヘクトがカンナにも呼びかけて、アンチェーンがイザナミを抱えて、シクザルドームを後にした。

「逃げられた・・・いったい何なんだ、アイツら・・・!」

 シンがヘクトたちを倒せなかったことに、悔しさを覚える。

「また1人、私たちの知り合いが・・・!」

 海潮がタマキの死に悲しみを募らせていく。

「ディメント・・そろって調子に乗って・・・!」

 アンジュもアブルたちにいら立ちを感じていた。

「メイさん・・・」

 ラブがタマキの死に対する悲しみを膨らませて、大粒の涙をこぼしていた。

(メイさん、オレたちは戦い続けます・・メイさんが託してくれたこの思い、ムダにはしません・・・!)

 カナタが決意を新たにして、タマキに向けて心の声を送った。

 タマキが託したゼロスの研究データが組み込まれたことで、イザナギは強化形態「ディメンションバースト」を起動できるようになった。

 

 

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