スーパーロボット大戦CROSS
第28話「世界の反逆者」
クロス、連合軍、ドラゴン、ペンギン帝国、アークエンジェル。様々な勢力による大混戦は、リッツカスタムの暴走と爆発で収束した。
この戦いで孝一とアスランが消息不明となった。爆発の影響で、捜索隊を派遣したのはそれから1時間も後となった。
徹底した捜索が行われたが、孝一もアスランも発見できなかった。
「まさか、孝一とアスランさんまで、こんなことになるなんて・・・」
カナタが2人のことを考えて落ち込んでいく。
「しかも恭子さんが目を覚まさない・・九死に一生を得たけど、集中治療が必要だって・・」
ラブも恭子のことを言って苦悩していく。恭子はミネルバの医務室で治療を受けているが、意識は戻らない。
「親友の言葉でも止まらない・・フリーダムは、力ずくで止める以外にないのか・・・!?」
アスランを手に掛けたフリーダムに、カナタが憤りを感じていく。
「カナタくん、落ち着いて。また暴走することになったら・・・!」
ラブになだめられて、カナタが困惑していく。
「どうしたらオレの怒りを止められるのか・・それにオレとラブからなぜあのような力が出て、イザナギに、ハイブリッドディメンションに反応するのか・・」
カナタがさらに考え込んで、イザナギに目を向ける。
「その謎を確かめる意味でも、絶対に博士を見つけなくちゃ・・!」
「うん・・博士もメイさんたちも、無事でいるんだから・・・」
ゼロスたちのことを考えて、カナタとラブが思いを強めていった。
「あれ?あそこにシンくんがいるよ・・」
ラブがインパルスのそばにシンがいるのを見つけた。シンも思いつめている様子だった。
「シンくんもアスランさんがいなくなったことに・・・」
ラブが当惑を覚えて、カナタがシンに近づいた。
「アスラン隊長まで、こんなことに・・・」
「カナタ・・・あぁ・・アスランも孝一も・・・」
カナタが声を掛けて、シンが振り向いた。
「いや、それだけじゃないんだ・・あのガイアのパイロット、ステラだったんだ・・・」
「えっ!?」
シンがステラのことを話して、カナタが驚く。
「カナタくん、ステラって・・?」
「東京湾でオレたちが出会った女の子だよ。死を恐れて・・よほど怖い思いをしたんだと思う・・・」
ラブが疑問を投げかけて、カナタがステラのことを話す。
「その子が連合軍の一員だったなんて・・見間違いだったんじゃないのか・・?」
「そうあってほしいと思うけど・・間違いなく、ステラはガイアに乗っていた・・・!」
信じられないでいるカナタに、シンが声を振り絞る。
「死ぬのが怖いはずなのに、死ぬようなことに参加して・・死ぬのがイヤだって言ったのは、ウソだったのか・・・!?」
「違う・・きっと、ステラを戦わせてるヤツがいるんだ・・そいつに騙されてそそのかされて、ステラは・・・!」
不信感を覚えるカナタだが、シンはステラは悪くないと思っていた。
「その話、本当なの・・!?」
そこへ海潮がアンジュとともに来て、ステラのことを聞いて動揺を見せる。
「まさかあの子供も連合だったなんてね・・敵になっているなら倒すだけよ・・」
「ダメだ!戦いたくないのに戦わさせられているステラを、討つわけには・・・!」
ステラを敵視するアンジュに、シンが怒鳴り声を上げる。
「今度会ったら、オレは助ける・・戦争とかモビルスーツとか、死ぬようなものが何もない、あったかい場所にオレが連れていく・・・!」
「シン・・・」
ステラを思うシンに、カナタが戸惑いを募らせていく。
「そうだよね・・これ以上、みんながいなくなるなんてイヤだよね・・・!」
海潮もシンに共感して、ステラを助け出すことを考える。
「だったら、ステラと私たちの仲間、どっちかが危険なことになったらどうするつもり?」
アンジュが最悪の事態を想定して、シンたちに問い詰める。
「ステラの乗る機体が私たちや仲間に攻撃してきたら、それでもあの子を助けるつもり?仲間を危険に巻き込んででも・・」
「そんなバカなことがあるか!オレはステラもみんなも守る!それだけだ!」
アンジュの言葉に感情を込めて反発するシン。
「私もそう思うよ!ステラちゃんもみんなも守りたい!というより、こんな辛い戦いなんて起こさせない!」
海潮もシンと同じ考えを示してきた。
「アンタもそんな夢みたいなことを言うの?それとも王様だから何でもできると思い込んでいるの?」
するとアンジュが鼻で笑ってきて、海潮が不満を覚える。
「王様でも姫でも、何でもできるわけじゃない。それどころか、王様だからやっちゃいけないことがあるのよ・・」
アンジュの投げかけたこの言葉に、海潮が困惑する。かつての皇女だからこその言葉が、海潮の心に重くのしかかっていた。
「みんな、今はもう休もう。今日は厳しい戦いで疲れているはずだから・・」
ラブが気まずい雰囲気を気にして、カナタたちに呼びかけてきた。
「そうだな・・いつ敵が来るか分からないし・・・」
カナタが答えて、シンたちから離れていった。
「私も戻って休ませてもらうわ・・」
アンジュもため息をついてから、飛行艇に戻っていった。
(みんな、動揺が大きくなっている・・辛いことや許せないことが多すぎて、どうしたらいいのか分からない・・・)
感情のぶつかり合いとなっているカナタたちの心境に、ラブは苦悩を深めていった。
ゼロスの行方を追い続けるカンナたち。自分とイザナミの力を引き上げたいという欲望を、カンナは強めていた。
(博士、どこにいるの?・・私は、カナタに負けたくはないのよ・・・!)
ゼロスにイザナミを調整してもらうことを心から望むカンナ。
「落ち着け、カンナ。今、カグラから連絡が入った。」
ヘクトがカンナに報告を伝えに来た。
「ゼロス博士が拠点としていたシクザルドームから通信が発せられた。何者かは断定できないが、クロスを呼び込むつもりだろう。」
「博士でなくてもシクザルドームの関係者であるのは間違いないわ・・すぐに出る。」
ヘクトの話を聞いて、カンナはシクザルドームに向かうことを決める。
「待て。オレも行く。そろそろ戦闘に加わる。オレの機体の性能と能力も確認しておきたい。」
ヘクトがカンナを呼び止めて、1機の機体に目を向けた。
「1年前の戦争の最後の戦いで激しくぶつかり合ったザフトの機体、フリーダム、ジャスティス、“プロヴィデンス”。その3機を分析して、オレが独自に開発した新型・・」
「しかしその3機と同じく核エンジンを搭載しているその機体は、ザフトで使われることはなかった・・」
ヘクトとカンナが新型の機体「アンチェーン」を見て語っていく。
「オレは断ち切る・・世界を歪ませている鎖を・・・!」
「あなたの・・いいえ、私たちの人生を歪ませた鎖をね・・・」
自分の苦痛の過去を思い出すヘクトに、カンナが言葉を続ける。2人はアンチェーンとイザナミに乗り込んだ。
「イザナミの修理は完了している。システムも問題ない。」
「ハイブリッドディメンションには触れられないが、それ以外の装甲や武装に関しては問題なく修復や補給ができる。」
イザナミのチェックをするカンナに、ヘクトが答える。
「アンチェーンのシステムも良好だ。戦闘ではどのような力を発揮するか・・」
アンチェーンの力を試すことへの期待で、ヘクトが笑みをこぼす。
「クロスを相手にして、存分に確認することね。」
カンナが半ば呆れながら言うが、ヘクトは彼女の様子を気にしていなかった。
シクザルドームへ向かう途中、ミネルバと飛行艇にもり子とそり子が訪れた。2人は恭子をプリンスに連れ帰るために来たのである。
「申し訳ありません。あなた方の機体と孝一くんを失うことになってしまって・・」
「いえ。こちらもペンギンロボの力を侮っていました。まさかあれほどの破壊力を発揮するとは・・」
謝罪するタリアにもり子が弁解する。
「こちらで集中治療をすれば、意識を取り戻す可能性が上がるはずです。」
そり子が恭子の治療について話す。
「それと、新しいダイミダラーを開発して、そのパイロットも連れてくる予定です。」
「新しい・・もしかして、そのダイミダラーとパイロットもこちらに?」
そり子が続けていったことを聞いて、タリアが問いかける。
「断言はできませんが、その可能性はあります。向かうときが来たら連絡します。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
もり子が答えて、タリアが頷いた。もり子とより子は恭子を連れて、ミネルバを後にした。
「恭子さん、大丈夫でしょうか・・?」
「今はプリンスを信じるしかないわ・・私たちはこのままシクザルドームに向かいます。」
心配するアーサーに答えて、タリアが指示を出した。ミネルバは飛行艇とともに、シクザルドームへの飛行を続けた。
シクザルドームも世界の変動で損傷があった。そのドームにて、1人の人物が身を隠していた。
(もう少しでミネルバが来る・・そうすれば希望が出てくる・・世界にも、カナタくんたちにも・・)
人物はクロスが来るのを心から信じた。
ミネルバと飛行艇がシクザルドームの付近まで来ていた。
「見つけました!シクザルドームです!」
ラブがシクザルドームを指さして声を上げる。
「建物に傷が付いている・・初めてイザナギとイザナミが戦ったときの影響で・・・」
カナタがシクザルドームを見て、当惑を覚える。
「博士、みんな・・無事でいてくれ・・・!」
彼がゼロスたちがシクザルドームにいるのを必死に祈っていた。
「シクザルドームのヘリポートへ着陸します。」
「はい。」
タリアが呼びかけて、アーサーが答えた。ミネルバと飛行艇がシクザルドームのそばに着陸した。
「博士を捜しに行きます。」
「待って。中に敵が潜んでいる可能性もあります。シン、レイ、カナタくんたちについていって。」
シクザルドームに向かおうとするカナタを呼び止めて、タリアがシンたちに同行を言い渡す。
“私たちも行きます。二手に別れて捜索しましょう。”
飛行艇からサリアがタリアに通信を送ってきた。
「分かりました。サリアさん、エルシャさん、あなた方はラブさんと行動してください。」
タリアがサリアの提案を聞き入れて、ラブが微笑んだ。
「カナタくん、ラブさん、もしも危険な状態に陥ったら、シンたちの判断と指示に従うように。」
「はい・・シン、レイ、よろしく・・」
タリアの注意を聞いて、カナタがシンたちに真剣な面持ちを見せた。
ミネルバと飛行艇から降りて、カナタたちとサリア、エルシャが合流した。
「オレたちは研究エリアと男子寮のほうを調べてみるよ。」
「じゃ私たちは女子寮と食堂近辺を回ってみるね。」
カナタとラブが声を掛け合って、シンたちが頷いた。彼らは2組に別れて、ゼロスの捜索を開始した。
カナタ、シン、レイはシクザルドームの研究エリアに来た。
「シクザルドームから通信を送るならここからだけど・・」
「今は誰もいない。既に移動したか。それとも別の場所から通信したか・・」
カナタが語りかけて、レイが部屋を見渡していく。
「最近通信した記録がある。ここから通信した後、移動したみたいだ・・」
カナタがコンピューターをチェックして、通信履歴を確かめた。
「ミネルバ、近辺にここからの移動手段が用いられた可能性があります。捜索をお願いします。」
“分かったわ、レイ。”
レイがミネルバに通信して、タリアが答えた。
「オレたちは引き続き、この周辺の捜索をするぞ。」
「オレはもっと通信を調べてみる。もしかしたら行き先を言っているかもしれない。」
レイが呼びかけて、カナタがさらにコンピューターを調べる。
「カナタ、コンピューターに詳しかったのか・・?」
「ゼロス博士の研究を手伝っていたからね。それに最近は自分でイザナギの操縦やチェックをしなくちゃならないから・・」
シンが疑問を投げかけて、カナタが作業を続けながら答える。
(カナタ、ゼロス博士を見つけようと必死になっている・・そのために、カナタなりに強くなろうとしている・・オレも、もっと強くならないと・・・!)
「レイ、博士を捜しに行くぞ。」
カナタの行動力に心を動かされるシンが、レイとともに捜索に向かった。
ラブ、サリア、エルシャもゼロスを捜しに女子寮を回っていた。掃除をした寮の部屋も、再びほこりをかぶっていた。
「みんながここに集まって、にぎわっていたときがあったのに・・・」
「私たちみんな、いろいろな場所へ移動して回っていたからね・・」
アンジュたちが集まったときのことを懐かしむラブに、エルシャが悲しい顔を見せる。
「幼年部のみんな、元気でいるかな・・・?」
アルゼナルにいる子供たちのことを気に掛けるエルシャ。彼女は幼年部の子供たちの面倒を見ているが、アルゼナルから離れているため、子供たちのそばにいることができない。
「またアルゼナルに立ち寄れるかどうか、グラディス艦長に相談してみます・・」
「ありがとう、ラブちゃん・・」
ラブが気を遣って、エルシャが感謝した。
「2人とも、博士の捜索を続けるわよ。」
サリアが呼びかけて、ラブたちとともにゼロスの捜索を再開した。彼女たちは女子寮の部屋を回ってから、食堂に足を運んだ。
「残るのはここだけだけど・・」
「ここにもいなければ、もう移動した後ということになるわね・・」
サリアとエルシャが呟いて、食堂を見回していく。ラブその奥の厨房に入っていく。
「ゼロス博士、いないのですか?・・ゼロス博士・・・!」
声を振り絞るように呼びかけるラブ。不安を感じていく彼女が思わず泣きそうになった。
そのとき、厨房の調理台のほうから音がして、ラブが振り返った。調理台の下の物置場から、タマキが出てきた。
「メ、メイさん!?」
「えっ!?」
ラブが声を上げて、サリアとエルシャも振り返った。
「ラブちゃん、サリアさん、エルシャさん!・・ということは、カナタくんとみんなも・・!?」
「はい!みんな、ドームの外で待っています!」
タマキが喜びを感じて、ラブも笑顔で頷いた。
「メイさん、あなたがここから私たちに通信を送ってきたのですか?」
「えぇ。何とかここに戻ってくることができたの・・あなたたちだけじゃなく、私たちを狙っている人が多くて、私も下手に身動きが取れなかったの・・・」
ラブの問いかけに、メイが今までのことを話した。
「その前にグラディス艦長に連絡をしますね。」
「私はシンくんたちに。」
サリアとエルシャがタリアとシンに連絡を入れた。
「メイさん、ゼロス博士やリョータさんたちは一緒ではないのですか?」
ラブがゼロスたちのことを気にして、タマキに問いかけた。
「ううん・・あのイザナギとイザナミの激突の衝撃で、私たちは離れ離れになってしまって・・博士やあなたたちのことを捜していろんな場所を巡っていたの。連合軍やその協力者の監視や追跡をかいくぐってね・・」
タマキが顔を横に振って、事情を話した。
「そうだったのですか・・だからすぐに連絡を入れられなかったのですね・・」
ラブがタマキの置かれている状況を察して納得する。
「でもここに来る直前で、博士たちの居場所を知ることができたの。」
「博士の居場所が分かったんですか!?」
タマキの打ち明けた話を聞いて、ラブが驚きと喜びを見せた。
「博士も狙われている身だから、確実にそこにいる確証はないけど、ドイツにいるとのことよ。」
「ドイツ・・・!」
タマキがゼロスのことを話して、ラブが緊張を覚える。
「詳しい地図はこのメモリの中にデータで入っているから・・」
タマキはそう言って、1つのメモリをラブにこっそり手渡した。彼女は自分たちを狙う者たちからの監視や追跡を警戒して、大っぴらに言わないようにした。
「分かりました・・すぐにグラディス艦長に届けます・・・!」
ラブも小声で答えて、タマキに頷いた。
「ラブ!」
カナタがシン、レイとともに食堂に来て、ラブたちに声を掛けてきた。
「メイさん!・・よかった・・あなたが生きていて・・・!」
カナタがタマキを見てひと安心する。
「でも博士はここにいなかった・・でもどこにいるかは分かったよ。」
「ホントか、ラブ!?」
ラブがゼロスのことを話して、カナタがさらに喜びを見せる。
「そのデータをグラディス艦長に持っていくね・・メイさん、あなたも一緒に・・」
ラブがタマキをミネルバに連れていこうとした。
“こちらに近づく熱源あり!数は2!”
そのとき、メイリンからカナタたちに通信が入った。
「メイリン、それは連合軍か?」
“分かりません!所属不明です!”
レイが問いかけて、メイリンが返答をする。
「また新たな戦力が介入してきたのか・・?」
レイが推測をして、カナタたちが緊張をふくらませる。
「早くミネルバに戻ろう!メイさん!」
カナタが呼びかけて、タマキに目を向ける。
「ここにあるデータを集めたかったのだけど、仕方がないわね・・・」
タマキが呟いて、カナタたちとともにシクザルドームを後にした。
レイとの連絡の後も、タリアたちは近づく熱源の動向をうかがっていた。
「熱源、さらに接近!映像、来ます!」
メイリンが報告して、ミネルバの指令室のモニターに、2機の機体が映し出された。
「あれはイザナミ!愛野カンナがまた・・!」
アーサーが機体の1機、イザナミを見て緊張を浮かべる。
「もう1機は彼女の仲間の可能性が高いわ。警戒を怠らないで。」
「は、はい!」
タリアが別の機体、アンチェーンを確認して、アーサーが彼女に答える。
「ルナマリア、ザクに搭乗して待機。イザナミが攻撃してきた場合、迎撃して防衛するのよ。」
タリアが指示を出して、ドックにいたルナマリアがザクに乗り込んだ。
“こっちから仕掛けたらいいんじゃないの?”
飛行艇からアンジュがタリアに呼びかけてきた。
「向こうに何らかの思惑があるはずです。焦って攻撃に出れば、状況が悪くなる可能性があります。」
“相手は敵なのは間違いないのよ!すぐに攻撃に出るべきだわ!”
「フリーダムや、ドラゴンと行動を共にする赤い機体に並ぶ強敵よ。だからこそ慎重にならなければならないのよ。」
“そんなことで、敵を倒せるわけが・・・!”
タリアになだめられるも、アンジュは納得がいかなかった。
「そこの機体、応答してください。あなた方がここを訪れた目的は何ですか?」
タリアがイザナミとアンチェーンに向かって呼びかけた。するとイザナミがビームライフルを手にして、銃口を向けてきた。
「ここにゼロス博士はいないの?隠すとためにならないわよ。」
カンナがタリアたちにゼロスの引き渡しを要求する。
「博士は捜索中です。仮に見つけ保護していたとしても、そのような一方的な要求には応じられません。」
タリアは毅然とした態度で、カンナに言い返す。
「あなたたちの目的は何ですか?なぜカナタくんとゼロス博士を狙うのですか?」
「私は力を求めているのよ。カナタを超えるには、このイザナミを最高の力とするには、ゼロス博士による調整が必要なのよ・・」
タリアが問いかけると、カンナが自分の考えと野心を口にする。
「オレは復讐を果たすつもりだ。お前たちプラントと、この世界そのものにな・・」
ヘクトも自分の目的を打ち明ける。
「私たちと、世界に・・・!?」
「それはどういうことだ?・・何があったというのだ!?」
タリアが疑問を感じて、アーサーが問い詰める。
「お前たちも思い知ることになるだろう。自分が愚かな戦いしかしていないことを・・」
ヘクトが言葉を返して、アンチェーンがビームライフルを手にした。
「やらせない!」
ルナマリアのザクがミネルバの艦上に出て、オルトロスを発射した。ビームは横に外れたが、アンチェーンは体勢を乱して、ビームライフルを撃つタイミングを外した。
「まずはあのザクとミネルバを破壊する。そうすればイザナギも出てくるだろう。」
「すぐには破壊はしない。中にイザナギがいるからね・・」
ヘクトが言葉を投げかけると、カンナがミネルバの中にいるイザナギを探知した。
「イザナギに勝ちたいというのだろうが、こちらの状況が悪くなるぞ。」
「分かっているわ。でもイザナギをこの手で倒さなければ、本当の勝利とは言えないのよ・・!」
ヘクトが注意を促すが、カンナはカナタへの敵意を示す。
“グラディス艦長、あたしらもそろそろ出させてくれよ!”
ヒルダも不満を込めてタリアに呼びかけてきた。
「分かりました・・ただしサリアさんがいない以上、彼女が戻るまで私があなたたちを指揮します。」
タリアが呼びかけを聞き入れて、ヒルダが笑みをこぼした。
「サリア隊、発進!ただし私たちとシクザルドームの防衛を最優先に!」
タリアが指示を出して、飛行艇からヴィルキス、グレイブ、ハウザー、レイザーが出撃した。
「待って!これ以上、人同士で傷つけ合うのはよくないよ!」
そのとき、海潮がタリアたちに向かって呼びかけてきた。
「あなたたちも人間なんでしょ!?だったら、人間同士で争うなんて馬鹿げてるって思うはずだよ!」
「甘いことを言うのね。そんなことより、一方的に愚かさを押し付けられて、何もできないままでいるほうがよほど馬鹿げているわ・・」
海潮の必死の訴えを、カンナが嘲笑してはねつける。
「私は力を手にする・・カナタを上回る力を、この手に・・・!」
「そんなことのために、他の人が傷ついてもいいっていうの!?」
「私が絶望するよりはいい・・私は、絶望というべき劣等感に襲われたくはない!」
「あなたという人は・・!」
自分のことを優先させるカンナに、海潮が憤りを膨らませていく。
「邪魔をするならば、誰だろうと容赦しない・・人殺しも世界の破滅も、平気でやってみせる・・・!」
「そんなバカなマネはやめろ、カンナ!」
自分の戦いを続けようとするカンナに呼びかけてきたのは、シクザルドームから出てきたカナタだった。
「カナタ、ラブ・・ドームに立ち寄っていたのね・・」
カンナがカナタたちを見下ろして呟く。
「ゼロス博士はどこ!?このシクザルドームにいるはずよ!」
「お姉ちゃん、博士を捜してどうするつもりなの!?博士にまでひどいことをしようっていうの!?」
ゼロスのことを聞くカンナに、ラブが問い詰める。
「イザナミの力を引き上げるのに、ゼロス博士による調整が必要なのよ・・世界のどこかに生きているのは間違いない・・・!」
「あくまで自分のためだけに・・ホントに見損なったぞ、カンナ!」
ゼロスを狙う理由を口にするカンナに、カナタが怒りを膨らませていく。
「ラブは中で待っててくれ・・オレが、カンナと決着を付ける・・・!」
「カナタくん・・お姉ちゃんを殺さないで・・どうなっても、お姉ちゃんはお姉ちゃんだから・・・!」
カンナと戦おうとするカナタに、ラブが正直な思いを伝える。
「オレは、そのつもりはない・・ただイザナミだけを止められればと思っている・・だけど、また怒りで我を忘れてしまったら・・・」
カナタが力を解き放った自分のことを考えて、不安を感じていく。
「シン、もしもオレがカンナを殺してしまいそうだったら、オレを止めてくれ・・・」
「カナタ・・お前、アイツのことを・・・」
頼みごとをしてきたカナタに、シンが戸惑いを覚える。
「だけど、アイツは自分の意思でオレたちを戦うことを決めている・・戦わされているステラとは違うんだ・・・!」
「それでも、ラブちゃんのお姉さんなんだ・・姉妹なんだ・・可能性がゼロじゃない限り、それに賭けたいと思う・・・!」
咎めるシンだが、カナタはラブのためにカンナを止める決意を変えない。
「そのような悠長な考えをずっと通せると思わないことね・・」
「まぁまぁ、信じるものはそれぞれだから・・」
サリアが苦言を呈して、エルシャが苦笑いを見せて言いかける。
「今はあの2機を退けるのが先決だ。オレたちも行くぞ。」
レイが呼びかけて、カナタたちが頷いた。彼らはミネルバ、飛行艇に戻ってそれぞれの機体に乗り込んだ。
「サリア、アーキバス、出るわよ!」
「エルシャ、ハウザー、出ます!」
サリア、エルシャがアーキバス、ハウザーに乗って飛行艇から出撃した。
「レイはルナマリアとともに本艦の護衛を。シンはイザナミたちを撃退して。」
タリアがシンたちに指示を送る。
「了解。レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
レイが答えて、ザクでミネルバの艦上に出た。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
シンの駆るコアスプレンダーがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが発進して、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。
「天命カナタ、イザナギ、行きます!」
カナタもイザナギでミネルバから発進した。
「出てきたわね、カナタ・・あなたを倒して、私があなたを超える・・!」
カンナがカナタへの憎悪を強めていく。
「そんな戦いを続けさせるわけにいかない・・カンナ、君をラブちゃんのところへ連れ帰る・・・!」
カナタが言い返して、イザナギがビームライフルを手にして構えた。
「オレたちがいることも忘れるな!」
インパルスがイザナギのそばに来て、シンが言い放つ。
「アンジュ、ヒルダ、ここからは私が指揮をするわ。」
アーキバスがヴィルキスと合流して、サリアが呼びかけてきた。
「遅いわよ、あなたたち。アイツの相手は私がするから・・」
アンジュが不満の声を掛けて、アンチェーンに視線を戻す。
「私もいることを忘れてはいけない・・」
そこへアブルの黒龍神が駆けつけて、アンチェーンの隣に降下してきた。
「アブル、お前も来たのか。」
「僕も一緒だよ、ヘクト♪」
そこへもう1機の機体が現れて、パイロットが声を掛けてきた。
「アムダ、お前も来たのか。」
「ズルいよ、ヘクトもカンナも〜!こんな面白いことに首突っ込んでるなら、教えてくれればよかったのに〜!」
「お前がいつも勝手気ままに動いて、オレたちの話を聞かなかったのだろうが・・」
「その前に僕に教えてくれればいいんだよ〜!も〜!」
呆れるヘクトに、機体のパイロット、アムダが不満の声を上げる。
「でもここからは僕も参加するからね♪相手がこんなにいるんだから、僕の分を取っても残りは十分だよね♪」
アムダがイザナギたちを見て、歓喜に湧く。
「あれ、ペンギン帝国のペンギンロボみたいだよ・・!?」
「ペンギン帝国の仲間ってこと・・・!?」
海潮と夕姫がアムダの機体「ピンギー」を見て疑問を感じていく。
「言っておくけど、私たちはどの組織にも協力関係を持ち合わせてはいない。独立した集団ということになるわ。」
カンナがカナタたちに自分たちのことを語っていく。
「私たちは特殊遊撃隊“ディメント”。全ての世界を嫌悪し、新しく世界を築くために戦う者よ。」
「ディメント・・・!」
高らかに名乗りを上げるカンナに、カナタが緊迫を募らせる。クロスの前に、カンナたちディメントが立ちはだかった。