スーパーロボット大戦CROSS
第25話「西東京暫定独立領」
ヴィヴィアンが突然ドラゴンに変貌した。ドラゴンの出現を探知していたタリアたちだったが、ドラゴンの正体がヴィヴィアンであることをカナタたちから聞いて、驚きを感じていた。
「まさか、ヴィヴィアンさんがドラゴンになるとは・・!?」
「はい・・1匹のドラゴンがオレたちの前に現れて・・でも破壊をすることなく、アンジュが歌を聞かせたら、元に戻って・・」
タリアが緊張を膨らませて、シンが事情を話していく。
「今、医務室で休ませながら診察しています。アンジュも同行しています。」
レイがヴィヴィアンたちのことをタリアに伝える。ヴィヴィアンは医務室のベッドで眠り続けていて、アンジュも隣のベッドで横になっていた。
「ドラゴンが人間・・ということは、私たちもドラゴンになる可能性があるのでしょうか・・!?」
「それは分からないわ。ヴィヴィアンさんだけの変異かもしれない。」
不安を浮かべるアーサーに、タリアが冷静さを保ちながら答える。
「サリアさん、あなたたちはこのことを知っていたのですか?」
「いいえ。ドラゴンが人間が変身したものだとは、私たちも知らなかったです・・」
タリアに問いかけられて、サリアが顔を横に振る。
「でももしかしたら、ジルが知っているかもしれません・・」
サリアが深刻な面持ちで言って、タリアが頷いた。
「メイリン、アルゼナルに通信回線を開いて。」
「はい。」
タリアが指示して、メイリンがアルゼナルに向けて通信を送った。
「こちらミネルバ。艦長のタリア・グラディスです。アルゼナル、応答してください。」
タリアもアルゼナルに向けて呼びかけた。
“こちらはアルゼナル司令官、ジルだ。グラディス艦長、何か用件ですか?”
「ジル司令、ドラゴンについて聞きたいことがあります。」
ジルが応答して、タリアが話を切り出した。
「あなた方やサリアさんたちが交戦、討伐しているドラゴンは、元々は人間でドラゴンに変身していたのではないでしょうか?」
“ん?なぜそのようなことを?”
「ヴィヴィアンさんが突然ドラゴンに変わったのです。幸い元に戻りましたが・・もしかして、私たちもドラゴンになる可能性があるのでしょうか?」
思わせぶりな返事をするジルに、タリアがヴィヴィアンに起こったことを説明した。
“なるほど・・ついにあなたたちも知ることになりましたか。”
「ジル・・あなたたちは知っていたの・・・!?」
ジルの答えを聞いて、サリアが目を見開いた。
“ドラゴンの正体が何だろうと、ヤツらが我々の世界を脅かす存在であることに変わりはない。つまらない情に動かされて戦えなくなっては困るからな。”
「綺麗事を言うな!アンタたちが人殺しをさせたことに変わりはないんだから!」
嘲笑を送るジルに、シンが怒りをあらわにする。
“フン。お前は自分の身分が分かっていないようだな。ダイミダラーとイザナギのパイロット、バロウの者はともかく、お前たちザフトは軍人。機体諸共人殺しをしているのだぞ。”
「それは・・だけど、それを黙っているなんて・・!」
“言ったはずだ。つまらない情で戦えなくなっては困ると。”
ジルからの指摘に不満を感じるも、シンは反論できず体を震わせる。
「確かに私たちは軍人です。命を奪うことにためらってはいけない。その覚悟はできています。しかしその重要な情報は申していただかなくては困ります。ドラゴンも意思のある生物で、さらに心があるならば対処が変わってきます。」
タリアが冷静にジルに注意を告げた。
「それで、私たちがドラゴンになる可能性は・・!?」
アーサーが動揺しながら、ジルに問いかける。
“我々の世界に限定するが、その可能性はない。ドラゴンは空間を超えて我々の世界に現れる。ヴィヴィアンもその中の1体だったのだ。”
「何だって!?」
ジルの説明を聞いて、アーサーが驚きの声を上げる。
“我々が発見したときには、ヴィヴィアンは記憶を失っていた。ドラゴンに関する情報は得られなかったが、我々はメイルライダーの一員にすることを決めた。”
「そうだったのか・・それで、ヴィヴィアンちゃんがドラゴンになったことは、以前にもあったのですか?」
ジルが話を続けて、カナタが問いかける。
“あぁ。そのために定期的にドラゴン化を抑制する薬を投与してきた。まさか遠征がここまで長期化するとは・・”
「あなた・・自分の部下を何だと思っているんですか・・!?」
“我々の目的のためには手段を選ばない。使えるものは全て使う。そうしなければドラゴンを倒す勝機を逃すことになる。”
「そんな考え方は、必ず悲劇を生み出すだけだ・・!」
あらゆる手を使おうとするジルに、カナタが怒りを覚える。彼の体から光が淡くあふれ出す。
「カナタ、落ち着いて・・また暴走しちゃうよ・・!」
ラブが慌ててなだめて、カナタが落ち着きを取り戻していく。
「私たちもあらゆる任務を遂行する軍人です。しかし他者を蔑ろにすることを前提にするつもりはありません・・我々は、あなたの非人道的な考えを受け入れるつもりはありません。」
「グラディス艦長・・・」
タリアがジルに対して毅然とした態度を示し、カナタが戸惑いを覚える。
「ヴィヴィアンさんの薬を送ってください。我々が投与します。」
“いや、ヴィヴィアンをアルゼナルに移送していただこう。そうすればより適切な対処ができる。”
タリアが申請をするが、ジルが拒否する。
“それともあなたたちは、いつドラゴンになるか分からないヴィヴィアンを抱えたまま行動するつもりなのかな?”
ヴィヴィアンを引き戻そうと挑発するジル。しかしタリアは動じず、冷静に判断した。
「シン、ルナマリア、ドラゴンになっていた間のヴィヴィアンさんはどのような様子でしたか?」
「自分から暴れたり人を襲ったりする様子はなかったです。ドラゴンになったときの感覚を忘れていたのか、うまく動けなくて波を起こしてしまいましたが・・」
タリアが質問をして、ルナマリアがヴィヴィアンに対する自分の見解を話した。
「言葉を出すことはできませんでしたが、アンジュやオレたちのことは分かっていました。心や記憶は失われていなかったと思います。」
シンも続けてヴィヴィアンのことを答えていく。
「しばらく様子を見ます。我々の方で対処法が見つかるかもしれません。」
“我々の世界でも把握しきれていないドラゴンのことを、さらに別の世界のあなたたちが突き止めるというのか?”
タリアの判断をジルが嘲笑する。
“考えを改めたらまた連絡をいただこう。我々は引き続き、アルゼナルでの任務を続ける。”
タリアたちに告げて、ジルは通信を終えた。
「勝手ね、アルゼナルの司令官は。私たちと協定を結んでいるというのに・・」
夕姫がジルの態度に不満を感じていく。
「どうするんですか、艦長?・・あのまま、いつまたドラゴンになるか分からない彼女を連れていくつもりですか・・!?」
「えぇ。ただ、ヴィヴィアンさんの身体チェックを詳しくする必要があります。もちろん、ヴィヴィアンさん本人の了承を得た上ですが・・」
動揺を膨らませるアーサーに、タリアが進言する。
「申し訳ありません、サリアさん。あなたたちを辛い立場に追いやることになってしまって・・」
「いいえ。ジルが私たちに隠していることがありましたので・・立場上、私たちにそれを聞く権利はないですが・・」
謝るタリアに、サリアが微笑んで答えた。
(私はどうすればいいの?・・私はジルのために戦ってきた・・でもジルは私じゃなくアンジュに入れ込んでいる・・このままここに留まるべきか、アルゼナルに戻るべきか・・・)
決断することができず、サリアは苦悩を深めていた。
「たとえ相手が誰だろうと、私たちの世界を狙う敵ならば戦い倒す。それが私たちの役目です。」
冷静を装うサリアに、タリアが小さく頷いた。
補給と修繕を完了して、ミネルバと飛行艇は港から浮上して武蔵野へ向かった。アンジュは落ち着きを取り戻したが、ヴィヴィアンは眠ったままである。
「ここが武蔵野・・海潮たちの暮らしている町か・・」
「ミスルギ皇国と比べると栄えてはいないですが、安らぎは感じますね。」
シンとモモカが武蔵野を見下ろして呟く。
「あの丘の上にあるのが、私たちの家だよ。」
海潮が島原家を指さして、カナタたちが視線を移した。
「相変わらずみすぼらしい家ね。さすがに私たち全員は入れないわよ・・」
「悪かったわね・・でもお姉ちゃんがたくさん儲けているから、そのうちよくするんじゃないかな。」
アンジュがため息まじりに言って、夕姫が不満を見せる。
「あれ?あそこ、大きな水たまりがある・・」
海潮が家のそばに水たまりがあることに気付いて、疑問符を浮かべる。
「しかも何だか煙が・・・これって、湯気・・!?」
彼女が目を凝らして、たまっていたのがお湯であることに驚く。
「おいおい!まさか温泉が湧いてるんじゃねぇだろうな!?」
「温泉!?まさか!?」
孝一が声を荒げて、海潮がさらに動揺する。ミネルバと飛行艇が島原家のそばに着陸した。
「茗、これはどういうことなの!?」
魅波が飛行艇から降りて、島原家に来ていた茗に声を掛けてきた。
「魅波、帰ってきたのね!・・実はここにペンギン帝国のペンギンコマンドが来て・・」
茗が事情を話して、湯のあるほうに目を向けた。湯ではペンギンコマンドたちがくつろいでいた。
「あなたたちを待ち伏せていて、その間に退屈になったみたいで、突然財宝探しをしようと言いだして、庭を掘り出していったら・・・」
「まさか、家の庭から温泉が出てくるなんて・・!」
茗の話を聞いて、魅波が動揺を膨らませて温泉をじっと見つめる。
「おっ!帰ってきたか、クロスの連中!」
ペンギンコマンドが魅波たちを見て声を掛けた。
「アンタたち、人の家で何をやっているのよ!?そんなマネして、無事に帰れると思っていないわよね!?」
魅波が怒りをあらわにして、ペンギンコマンドたちに近づいてきた。
「うお〜!べっぴんさんが来てくれたぞー!」
「これで目の保養にもなるぜ〜♪」
「なぁなぁ、オレたちと一緒に入ってくれよ〜♪」
ペンギンコマンドたちがさらに歓喜して、魅波たちを温泉に誘う。彼らの態度に魅波がさらに憤る。
「ランガー!」
魅波が叫び声を上げて、ランガが飛行艇から出てきた。ランガの表情は変わっていて、右手を刃に変化させた。
ランガが右手を横薙ぎに振って、ペンギンコマンドが慌てて温泉に頭まで入って刃をよけた。
「ひ〜!これじゃくつろげない〜!」
「ここは逃げたほうがいいぞ〜!」
「お、覚えていろよー!いい気になってられるのも今のうちだぞー!」
ペンギンコマンドたちが慌てて温泉から飛び出して、一目散に逃げ出していった。
「相変わらず困ったペンギンたちね・・」
夕姫が魅波のそばに来て、ペンギンコマンドたちに呆れる。
「ペンギン帝国の打倒も、私たちの果たすべき使命ね。」
恭子もペンギン帝国を倒す決心を強めていた。
「ところで、この温泉どうするの、お姉ちゃん?・・・お姉ちゃん?」
問いかける夕姫が、魅波の様子に違和感を覚える。
「魅波さん、どうしましたか・・?」
恭子も気にして声を掛けると、魅波が突然笑い声を上げてきた。
「お、お姉ちゃん・・!?」
「温泉・・この温泉を使えば、お金儲けができるわ!」
疑問符を浮かべる夕姫の隣で、魅波が目を輝かせる。彼女は温泉で商売をすることを考えていた。
「もう、お姉ちゃんったら・・・」
海潮も魅波の様子に呆れて肩を落としていた。
魅波はランガを使って囲いを設置して、温泉を簡易の浴場にした。先に女性陣が入浴することになった。
「ふぅ〜・・まさかここで外のお風呂に入れるとはなぁ〜・・」
ロザリーが温泉につかって笑みをこぼす。
「こうしてみんなで裸の付き合いができるのはいいことだ。ま、同性同士に限るけどな。」
ヒルダが満足げに言ってから、入浴しているラブや海潮たちを見回していく。
「それにしても、あたしら以外にもいい体してるヤツがいっぱいいるじゃん・・」
ヒルダがにやけて恭子に近づいていく。
「な、何よ、ヒルダさん・・!?」
緊張を見せる恭子にヒルダが手を伸ばした。彼女が恭子の胸に触って、その感触を確かめる。
「ちょ・・いきなり何をするのよ!?」
「ん〜、なるほどねぇ・・あの孝一ってヤツが気に入るのも納得かもねぇ・・」
たまらず胸を押さえて離れる恭子に、ヒルダがにやける。
「ちょっと、ヒルダだけずるいぞ!あたしにも味わわせろ!」
ロザリーが口を挟んで、後ろから恭子の胸をわしづかみにした。
「だ、だからやめなさいって!」
恭子が不満を膨らませて、ロザリーを引き離す。
「あなたたちまでそういうことをやらないでよ、もう!」
「女湯なんだから気にすることはないと思うんだけど・・」
顔を赤くする恭子に、クリスも近づいてきて不気味に微笑んできた。
「アンタら2人もいい体してるねぇ〜。」
ヒルダは今度はルナマリアとメイリンに視線を移した。
「いくら女同士でも、セクハラはやめてくれない!?」
「そうですよ!不謹慎です!」
ルナマリアとメイリンも顔を赤くして反論する。
「でも正直言うと私、お姉ちゃんに嫉妬しちゃうなぁ。私、デスクワークばかりで運動する時間がなくて・・」
メイリンがルナマリアに嫉妬を込めた愚痴をこぼす。メイリンが自分とルナマリアの体を比較して落ち込む。
「気に病むことはないわよ、メイリン。あたしがいろんな運動を教えてやるよ。いろんなのを、な。」
ヒルダがメイリンに囁くように言うと、ルナマリアがメイリンを引き寄せる。
「メイリンに変なことを教えないように!」
「もう、物足りないなぁ・・」
ルナマリアに注意されて、ヒルダがふくれっ面を見せた。
「魅波さんも綺麗な体をしていますね。モデルとかをやっても通用すると思いますよ。」
ラブが魅波を見て感心をする。
「そんなこと、やれたら嬉しいけどね。仕事が忙しくてそんな時間もないっていうか・・」
魅波が肩を落とす素振りを見せて答える。
(似たような仕事はしているのだけどね・・)
キャバクラ勤めや水商売をしていたことを思い出して、彼女は心の中で呟いた。
「海潮ちゃんも中3なのにスタイルいいね。いいなぁ、私もみんなみたいによくならないかなぁ〜・・」
ラブが海潮を見つめてから、みんなへの憧れと僻みを口にする。
「そんなことないよ。ラブちゃんのほうがいいスタイルだって・・」
海潮が苦笑いを浮かべて、ラブを褒める。
「ところで・・男の人って、胸が大きいのがいいのかな・・・?」
ラブが自分の胸に手を当ててから、ふと質問をした。
「そりゃ大きいほうがいいんじゃねぇか。少なくても、孝一は恭子の巨乳を気に入ってるみてぇだし。」
「ヒルダさん、いやらしいことを言わないで!」
にやけるヒルダに、恭子が赤面して怒鳴る。
「で、でも人はやっぱり中身!性格とか言葉遣いとか行動とかですよ!見た目はきっかけですけど、最終的には中身になってきます!」
海潮が戸惑いを見せながら発言する。
「性格ねぇ・・こればっかりは、今さら変えようがねぇよ。」
「気の合う人とうまく会えることを願うしかない・・」
ヒルダがため息まじりに言って、クリスが呟くように言う。
(私は誰と仲良くなっていくのかな?・・カナタくんなのか、別の人なのか・・)
ラブがカナタのことを考えて思いつめていく。
「ラブ、もしかしてカナタのことを考えている?」
「えっ!?」
ルナマリアから声を掛けられて、ラブが我に返る。
「わ、私は、その・・!」
「もしかして、カナタのことが好きだったりして・・」
動揺するラブに、ルナマリアがカナタのことを聞く。
「そ、そんなことを言われても!・・ルナマリアだって、好きな人がいるんじゃないの・・!?」
「そ、それは・・・!」
ラブが言い返した言葉に、今度はルナマリアが動揺を見せる。
「そうね。例えばシンくんとかレイくんとか、アスラン隊長とか。」
「シン・・アスラン・・・!」
エルシャが投げかけた指摘を聞いて、ルナマリアの心が揺れる。
「シンは子供っぽくて誰彼構わずに突っかかるからほっとけなくて、レイは無愛想だし・・アスランもあまり私たちに関わろうとしていないし・・」
「確かにみんな当たっているかも・・でもアスラン隊長は、そういう雰囲気がいいかもって、私は思うよ・・」
ルナマリアがシンたちのことを口にして、メイリンもアスランのことを考える。
「いい人ね・・・」
ラブたちの会話を聞いて、魅波が表情を曇らせる。彼女は勝流のことを考えて、切なくなっていた。
「魅波さん・・?」
エルシャが気に掛けて、魅波に声を掛けた。
「さぁ、そろそろ上がらないと、のぼせちゃうわよ!」
魅波は気丈に振る舞って、温泉から出た。
「私たちもそろそろ出ましょう。」
「そうだな。久々にこんなにくつろげたしな。」
恭子が声を掛けて、ヒルダが頷いた。彼女たちは順番に温泉から出ていった。
ラブたちが温泉に入っていた頃、アンジュ、夕姫、ジョエルはそれぞれヴィヴィアンとラブレを見舞っていた。
「2人とも落ち着いているみたいね・・」
「はい。目を覚ませば元気になるはずです。」
アンジュが言いかけて、ジョエルが微笑んで答えた。
「僕はクロスに留まりすぎて、ジョエルにさびしい思いをさせてしまった。そこを虚神に付け込まれて・・」
「そんな思いつめることはないわよ。その頃は私たちも世界も大変だったんだから・・」
自分を責めるジョエルを夕姫が励ます。
「これからは一緒にいてやれば、さみしいなんてことはない。ジョエルだけじゃなく、私たちもついているんだから・・」
「夕姫・・・ありがとう・・アンジュさんたちもみんなも、ありがとう・・」
夕姫の言葉に元気付けられて、ジョエルが感謝した。
「別にお礼を言われることじゃないわ。勝手に一緒に行動しているだけなんだから・・」
アンジュが憮然とした態度を取って、ジョエルから目を背ける。
「そんなこと言って、アンタも他の人もまだ私たちのところにいるじゃない。イヤならアンタの司令官みたいに、クロスがイヤだって言えばいいのに・・」
「私もジルに入れ込んでいるわけじゃないし、クロスでの時間も悪くないと思っている。サリアたちがどう思っているかは分かんないけど・・」
夕姫が言いかけて、アンジュが正直な考えを口にする。
「私もよ。あなたたちと一緒にいれば、世界の愚かさをどうにかできる。私はそう思っているのよ・・」
夕姫が口にしたこの言葉を聞いて、アンジュが戸惑いを覚える。
「あなたも、世界をひっくり返そうって考えているのね・・私も、馬鹿げたこの世界を壊して、もっといい世界にしようって考えているのよ・・」
「アンジュも・・これは面白くなるかもしれないわね・・」
アンジュが共感して、夕姫も彼女と分かち合っていた。
「2人とも、みんなに迷惑を掛けるのは・・」
するとジョエルが不安を感じて、夕姫たちを呼び止める。
「何言ってるのよ、ジョエル。そのみんなをよくするために、私たちが行動しなくちゃならないんじゃない。」
「それに、迷惑を掛けてきているのは向こうのほう。私はそのバカさ加減を思い知らせているだけよ・・」
すると夕姫とアンジュがジョエルに言い返してきた。2人ともミスルギ皇国でのアキホたちの身勝手を知っていた。
「でも世界はそんな人たちばかりじゃない・・夕姫の知り合いも、僕たちのことを受け入れているよ。」
「それは、そうだけど・・・」
ジョエルから言われて、夕姫が戸惑いを浮かべる。
「でも全員がそうというわけじゃない・・何かあればきっと手のひらを返すわ。ミスルギ皇国のように・・・」
「あなた、相当強情なのね。見習いたいくらい・・」
疑心暗鬼を消さないアンジュに、夕姫がため息をついた。
「出たよ、ゆうぴー、アンジュ。」
海潮がエルシャとともに来て、アンジュたちに声を掛けてきた。
「今度は女子の2組目の番よ。ヴィヴィアンちゃんたちは私たちに任せて。」
「分かったわ。気晴らしに入ってくるわ。温泉ってヤツをね。」
エルシャがヴィヴィアンたちの面倒を引き受けて、アンジュが夕姫とともに温泉に向かった。
「2人はまだ目を覚まさないの?」
「はい。でも落ち着いていますので・・」
海潮がヴィヴィアンとラブレのことを聞いて、ジョエルが答えた。そのとき、ヴィヴィアンとラブレが同時に目を覚ました。
「ラブレ!」
「ヴィヴィちゃん!」
ジョエルとエルシャが2人の目覚めを喜ぶ。
「あれ?ここはどこ?ミネルバでも飛行艇でもないよ〜?」
「ジョエル・・私・・・」
ヴィヴィアンが周りを見回して疑問符を浮かべて、ラブレがジョエルを見て悲しい顔を浮かべる。
「ラブレ、僕は君のそばにいるよ。君もこっちで暮らせばいいだよ。」
「ジョエル・・ここで、ジョエルと、みんなと一緒に・・・」
ジョエルに励まされて、ラブレが彼と海潮たちに目を向ける。
「私、島原海潮、よろしくね。」
海潮が自己紹介をして、ラブレに手を差し伸べてきた。
「島原・・ファラオ・・・」
ラブレがバロウの王である海潮に戸惑いを感じていく。
「あれ?私、どうしちゃったの?」
「後で説明するわね。」
疑問符を浮かべているヴィヴィアンに、エルシャが優しく言葉を返した。
フリーダムの武力介入により損害を被った連合とオーブ軍。機体と戦艦の修繕を終えて、彼らはミネルバへの攻撃を再開しようと考えていた。
「あの時は突然の乱入者によって混乱を来たしてしまったが、今度はそうはいかんぞ。たとえまたヤツらが現れようと、我らにとってもはや想定の範疇にある。」
ネオが現状を告げて、連合の軍人たちに呼びかける。
「先日の戦闘、不甲斐ないところを見せてしまい、申し訳ありません。そちらも突然のことで驚かれたでしょう。」
ネオがユウナたちのいるオーブ軍母艦「タケミカヅチ」に向けて連絡を取る。
“えぇ。さすがの私もあのときは驚かされましたけど、ご心配なく。あの連中も敵だということはハッキリしているのですから。”
ユウナが自信満々の口調で、ネオに答える。
“今度こそ我らオーブ軍が、ミネルバを打ち倒してみせよう。”
「頼もしい限りです。我々もその頼もしさに負けぬよう、尽力させていただきます。」
宣言するユウナにネオが称賛を送る。
「ジュリオ殿、あなた方ミスルギ皇国の助力にも感謝しています。」
ネオが別のモニターに視線を移して、ジュリオに声を掛ける。
“これからは我々も加勢する。これだけの戦力を有していれば、たとえどのような敵勢が相手でも、勝利は確実だ。”
ジュリオも自信満々の態度でネオに答える。
“クロスという連中も、この前乱入した勢力も、まとめて撃ち落として御覧に入れよう。”
「本当に心強い限りです。では後程。」
ジュリオの言葉を受けて、ネオが笑みを浮かべた。彼はジュリオ、ユウナとの通信を終えた。
「やれやれ・・両国の代表の尊大な振る舞いには頭が下がるな・・あの態度をいつまでも見ないためにも、今度こそザフトとの決着を着けねば・・」
ネオの呟きを聞いて、近くにいたオペレーターたちが深刻な面持ちを浮かべる。
「クロスの動きはどうなっている?」
「日本、武蔵野に滞在しています。」
ネオの問いかけにオペレーターがレーダーを確認して答える。
「スティングたちの様子は?」
「調整は完了しています。ただステラの精神状態が、以前と比べて変化が生じています。」
ネオがさらに問いかけて、軍人が答える。
「変化?」
「はい。脳波にも違いが出ています。戦闘面で悪影響が出なければよいのですが・・」
ネオの投げかける疑問に、軍人が深刻さを込めて答える。
「予定通り、3人を出撃させる。問題が見られたら呼び戻せ。万が一の時は、オレも出撃して連れ戻す。」
「了解しました。そのように致します。」
ネオの指示に軍人が答えた。
(1人になったときに何かあったのだ。それがステラに影響を及ぼすことに・・)
ステラの異変を気に掛けるネオ。
(足かせにしかならない記憶は、戦いの邪魔になるだけだ・・そう。空っぽの私としても・・)
心の中で自分に言い聞かせて、ネオも迷いを振り切った。
「ノアローク大佐、全艦、全機体の修復、完了しました。いつでも出撃できます。」
別の軍人がやってきて、ネオに報告をしてきた。
「よし!我々はこれからミネルバの追撃に向かう!アークエンジェルの接近にも注意しろ!」
「はっ!」
ネオが指示を出して、軍人たちが返答した。
シン、レイ、アスランはタリアとともにこれからの行動について話し合っていた。
「連合軍は我々を狙って再び攻撃に踏み切るでしょう。このままここにいては、日本が巻き込まれることになります。」
レイが日本からの出発を進言する。
「この武蔵野だけでも、多くの一般人がいます。こちらのために危険にさらしては、申し訳がないです・・」
アスランも続けてタリアに考えを伝える。
「私もそう思うわ。一晩休み、明け方に出発することにします。」
タリアが賛同して頷いた。そのとき、温泉から戻ってきたルナマリアとメイリンがシンたちと合流した。
「ただいま戻りました、艦長。」
ルナマリアが挨拶してメイリンとともにタリアに敬礼した。
「我々は明朝に日本を発ちます。最悪、海上で連合軍を迎え撃つことも想定に入れるように。」
「はい。それで、次の私たちの目的地は・・?」
タリアの指示に答えるルナマリアが、質問をする。
「先程、本艦に暗号通信が送られてきたわ。発信地を特定したら、カナタくんに心当たりがあったわ。」
「シクザルドーム・・ゼロス博士の研究所のあったところです・・・!」
タリアに続いてカナタも説明をしていく。
「もしかしたら、博士はシクザルドームに戻っているかもしれない・・連絡をしてみたけど、応答はなかった・・・」
「今の世界の融合による混乱を鎮静化するには、シクザル博士の力が必要よ。罠の可能性も否定できないけど、行くしかないわ。」
カナタがゼロスとの再会を希望のカギと考えて、タリアが賛同した。
「了解しました。我々を攻撃してくる者がいるなら、迎撃するまでです。」
「あぁ・・今度こそアイツらを倒して、戦いを終わらせる・・・!」
レイが聞き入れて、シンが連合軍に対する怒りを燃やす。
「それと、フリーダムとアークエンジェルについてですが・・」
レイが投げかけた言葉に、アスランが一瞬当惑を浮かべる。
「先日の戦闘・・再びヤツらが乱入する可能性は十分考えられます。一方的にやられるわけにはいきません。」
「迎え撃つっていっても、フリーダムは強すぎるわよ・・」
レイに続いて、ルナアリアがフリーダムに対する不安を口にする。
「今度はやられない・・今度は返り討ちにしてやる・・・!」
シンがフリーダムに対する敵意を見せる。深刻さを募らせるアスランが、沈黙を置いてから話を切り出した。
「フリーダムのことだが・・オレが呼びかけて、戦いをやめさせる・・」
「やめさせるって、フリーダムをですか・・!?」
アスランが口にした言葉に、ルナマリアが声を荒げる。
「フリーダムのパイロット、キラ・ヤマトはアスランの親友でしたね。あなたの言葉なら聞き入れるかもしれないですね。」
「信用できるものか・・いきなり攻撃してきた連中なんだぞ・・・!」
レイが冷静に言いかけるが、シンは不満を絶やさない。
「アスラン、もしあなたの説得に応じなければ・・?」
レイが表情を変えずに、アスランに問いかける。
「そのときは、オレがアイツを討つ・・・!」
アスランがシンたちに向けて、決意と覚悟を告げた。