スーパーロボット大戦CROSS
第24話「邂逅と真実」
フリーダムの乱入により、戦況は大きく混乱した。ハイネもフリーダムの手にかかり、命を落とした。
クロスの機体の多くは損傷を被り、ミネルバはタンホイザーの破壊により艦首に大きな被害が起こっていた。
「資材はすぐにディオキアから回してくれるそうですが・・」
「とにかく急ぐしかないわ。この状態で攻撃を受けたら、ひとたまりもないわ・・」
言いかけるアーサーに、タリアが深刻な面持ちで答える。
(フリーダムはあのとき、私たちや連合やオーブの機体や戦艦の武装だけを破壊するようにしていた。武器を壊せば戦いが続くことはないと考えていたというの・・!?)
タリアがフリーダムの行動に疑問を感じていく。
(そんなのは仮に止められたとしても、一時的なものでしかない。それどころか、さらに被害が拡大することになる・・戦う術をもがれた機体は、敵勢力の格好の的になるだけなのに・・)
フリーダムのこの戦い方では、戦いを止めるどころか戦火を拡大することになる。タリアもフリーダムに対する不信感を募らせていた。
フリーダムに対する疑心暗鬼を膨らませていたカナタたと。同時に彼らの心に、ハイネの死が重くのしかかっていた。
「フリーダム、アークエンジェル・・何なんだよ、アイツらは・・!」
シンがフリーダムに対する怒りを募らせて、握った手を壁に叩きつける。
「アスハもアスハだ!連合と手を組んだ自分の軍に、いきなり現れて戦闘を止めろとか・・ホントに何考えてるんだ・・!?」
「そうよね・・もう、ゴチャゴチャって感じ・・あたしたちも向こうも見境なしなんだから・・・!」
シンに続いてルナアリアも不満を口にする。
「おかげでこっちは大惨事だよ!直すのもただじゃねぇのによ・・!」
「パラメイルはメイが中心になって修復している。数が数だから時間がかかることになる・・」
ヒルダもフリーダムに対して不満を感じていて、サリアも手も足も出ない現状に歯がゆさを覚える。
「ダイミダラーも修理しなければならない。今、もり子たちも武蔵野に向かったって連絡を受けたわ。」
「ランガも左手の修復が終わっているわ。すぐに出られはするけど・・」
恭子と魅波もダイミダラーとランガの状態を話す。
「何なのよ、あのムチャクチャなヤツは!?・・アイツが出てこなければ、簡単に連合を蹴散らして先に進めたのに・・!」
アンジュもフリーダムへの不満を膨らませていた。誰もがフリーダムやアークエンジェルに対して不信感を募らせていた。
「アスラン、あなたは先の大戦で、フリーダムやアークエンジェル、オーブと行動を共にしていましたが・・」
レイがアスランにキラたちのことを聞いてきた。
「えっ!?アイツら、アスランの知り合いなのか!?」
孝一が驚きの声を上げて、アスランに目を向ける。
「私たちの世界では、2年前にも戦争があったの。アスランはその戦争を終わらせた1人だったの・・」
「そんなすごい人が、私たちの仲間になってくれたなんて・・」
ルナマリアがアスランのことを語って、クリスが戸惑いを浮かべる。
「でも最後はザフトを離れて、フリーダムやアークエンジェル、オーブ軍、ラクス・クラインが指揮した“エターナル”の元で戦ったの・・」
「それでアスランさんはザフトに戻り、オーブ軍は敵になり、フリーダムが私たち全員の敵に回った・・」
ルナマリアが話を続けて、モモカが困惑を浮かべる。
「オレの仲間だった・・それなのに、なぜあのようなこと・・・!?」
アスランもキラたちに対する疑念を感じずにいられなかった。
「オレとアイツの思いは同じだったはずだ・・それなのに・・・!」
「同じ!?あれのどこが同じ思いなんですか!?こっちの事情も知らずに攻撃してきて!」
キラたちを信じようとするアスランに、シンが怒鳴りかかる。
「違う!・・キラはオレの仲間・・敵じゃないんだ・・!」
「アイツらが余計なことをしてこなきゃ、ハイネは死ななかったんだ!」
言い返そうとするアスランに、シンがさらに言い放つ。この言葉を聞いて、アスランが言葉を詰まらせる。
「あなたの友人だとしても、私たちに攻撃してきたのは事実。ハイネ隊長も、アイツの手に掛かって・・・」
「私たちの知っている人が、目の前で死ぬなんて・・・!」
魅波が事実を口にして、海潮がハイネの死に胸を痛める。
「許せない・・好き勝手に攻撃してきたフリーダムも、アイツらを止められなかったオレ自身も・・・!」
「シン・・・」
フリーダムだけでなく自分の無力さも呪うシンに、ルナマリアが当惑を覚える。シンはいら立ちを抱えたまま、アスランたちから離れていく。
「シン!」
ルナマリアが慌ててシンを追いかける。
「あ、待って!2人とも!」
「おい、おめぇら!」
海潮と孝一もシンたちを追っていく。
「みんな、しょうがないわね・・」
アンジュもため息をついてから、海潮たちに続いていく。
(キラ・・なぜあのようなことをしたんだ?・・そんなことをしても、状況を悪化させるだけだというのに・・・)
シンを気に掛けるアスランだが、キラたちのことも気がかりになり、動くことができなかった。
ミネルバと飛行艇は艦体と機体の応急処置をしながら航行を続けた。そして日本に入り、東京湾に1度着陸した。
「ここで補給と修復を行うことになるのね。」
「うん。直す数が多くて参っちゃうけど、必ず修理を終わらせるからね。」
サリアが確認をして、メイがため息まじりに答える。
「私たちもできる限り手伝わせて、今は人手もいるときだから。」
「ありがとう、サリア。でもライダーもパイロットも、次の戦いに備えて休んでおいたほうがいい。」
サリアが協力しようとするが、メイになだめられる。
「メイちゃんの言う通りよ。いつまた連合やあのフリーダムというのが来るか分からないわ。そのときに疲れて実力を発揮できないことになったら・・」
エルシャも呼び止めて、サリアが小さく頷いた。
「分かったわ・・でも何かあれば遠慮せずに呼んで・・」
サリアが聞き入れて、エルシャとともにドックを後にした。
「物資が入ってきたのが、せめてもの救いかな。さすがデュランダル議長様で・・」
メイが皮肉を口にして笑みをこぼす。彼女は他の整備士たちとともに、機体の修復作業を再開した。
いつも元気に目を覚ますヴィヴィアン。しかしこの日は思うように動けず、頭もすっきりしない状態だった。
(おかしいなぁ・・元気が出ない・・目が覚めて、こんなに眠いなんて初めてだよ・・・)
違和感を抱えたまま、ヴィヴィアンは1人歩く。彼女は飛行艇を出て、ふらつきながら通りを歩いていく。
(どうしちゃったのかな?・・まだ、夢の中なのかな?・・でも夢にしても何だかヘン・・・)
疑問を感じながら、ヴィヴィアンは歩き続ける。彼女は通りを外れて広場に向かっていた。
憤りを抱えたまま、シンはミネルバを降りて東京湾付近の通りを歩いていた。そんな彼をルナマリアが追いかけて、カナタ、アンジュ、海潮、孝一がついてきていた。
「シン、ちょっと待ってよ・・今はミネルバで待機してなくちゃ・・!」
ルナマリアが追いかけて、シンを呼び止める。
「別にいいだろ・・ルナマリアには関係ないことだし・・」
シンが不満げに答えて歩き続ける。
「今はミネルバは大変なときなの・・もしまた連合とか攻めてきたらどうすんのよ・・!」
ルナマリアがさらに呼び止めるが、シンは聞かずに港から離れていく。ルナマリアも不満を浮かべて、彼を追いかける。
「すっかり荒れてるな、シンのヤツ・・」
「我慢がならないのは私以上かもね・・」
孝一がシンを見て苦笑いを浮かべて、アンジュがため息をついた。
「待ってってば、シン・・!」
海潮が困った顔を浮かべて、シンを呼び止める。
「ついてくるなよ、ルナ、海潮・・オレがどうしようとオレの勝手だろうが・・」
「そうはいかないわよ。シンを連れ戻してこなくちゃ、あたしが責任追及されるんだから・・」
さらに文句を言うシンに、ルナマリアが言いかける。
「シンもずいぶんと勝手ね。それでルナマリアが追いかけて止めに入るのがお決まりみたい。」
「もしかしたらそこからもっと仲が深まったりしてな。」
アンジュが呆れて、孝一が期待を口にする。
「もっと仲が深まる・・・」
彼の言葉の意味を考えて、海潮が首をかしげる。
「海潮はまだ中学生だったか。でも来年からは高校生なんだから、分かるときは遠くねぇぜ。」
「アンタは大人になってもいいお相手には巡り会えそうもないけどね。」
海潮を励ます孝一に、アンジュがため息まじりに言う。
「そんなことはないぞ!オレは美女のハートを次々に射止めて、最高のハーレムを築いてやるぜ!」
「ハ、ハーレム・・・」
高らかに言い放つ孝一に、海潮が唖然となる。
「ダメ・・毒気に当てられるわ・・・」
アンジュが孝一に呆れ果てて、カナタが苦笑いを浮かべる。
「カナタは誰か好きなヤツはいるのか?たとえばラブとか!」
孝一から話を聞かれて、カナタが顔を赤くした。
「オレは別に・・オレなんかよりも、ラブには似合いの男が現れるって・・!」
「おいおい、照れちまって、この〜♪」
慌てて答えるカナタを、孝一がにやけてからかう。
「そんなんじゃないって、孝一・・悪ふざけはやめてくれって・・」
「アハハ!この中じゃオレが経験が上ってことかな!」
気が滅入るカナタと、高らかに勝ち誇る孝一。
「つ、ついていけない・・」
「男はどいつもこいつも・・・」
海潮が唖然となって、アンジュがため息をついた。カナタたちは会話を弾ませながら、シンとルナマリアについていく。
「もう・・あんまり遠くに行きすぎると、戻れなくなるわよ・・」
ルナマリアがため息まじりに注意する。直後、立ち止まっていたシンの背中に彼女がぶつかる。
「イタタ・・ちょっと、急に止まんないでよ・・・!」
ルナマリアが顔に手を当てながら、シンに向かって注意する。ところがシンは前方の道路の脇を見ていた。
「あの子は、あのときの・・・」
シンが呟いて、海を見つめている少女、ステラを見つめる。
「シン、知ってるの?」
「あぁ。1回会っただけだけど・・」
ルナマリアが聞いてきて、シンがステラを見たまま答える。
プラントのコロニーの1つ「アーモリーワン」にて、シンはステラとわずかながら会っていた。その後すぐにステラたちはガイアたちを強奪し、アーモリーワンを攻撃したのである。
「こんなところで何をしているの?」
「何だか楽しそうに踊っているみたいだけど・・」
突然舞い始めたステラを見て、アンジュが疑問符を浮かべて、海潮が戸惑いを覚える。
「こんなところで動き回ったら、海に落ちてしまうぞ・・!」
「えっ・・!?」
カナタが心配して、シンが声を荒げたときだった。ステラが道から足を踏み外して、彼らの前から見えなくなった。
「えっ!?落ちた!?」
ルナマリアが驚きの声を上げて、シンが慌てて湾岸へ駆けつける。ステラは湾岸に手を駆けて、下の海に落ちないでいた。
「いた!・・つかまれ!オレが引き上げる!」
シンが手を伸ばしてステラに呼びかける。ステラは怖さを感じていて、手を伸ばすこともできずにいた。
「早くしろ!このままじゃ海に落ちるぞ!」
シンが声と力を振り絞り、さらに手を伸ばす。彼は怯えているステラの腕をつかんだ。
「やった・・!」
ステラを引き上げることができると思い、シンが笑みをこぼした。
「オレたちもシンとあの子を助けなくちゃ!」
カナタが呼びかけて、孝一とともにシンたちを助けに向かった。
だがその時、シンも足を踏み外して、ステラとともに海に落下した。
「シン!」
「シン、どこだ!顔を見せろ!」
ルナマリアと孝一が叫ぶと、シンがステラを抱えて海から顔を出した。
「こっちは平気だ・・これから出る・・!」
「シン・・すぐにロープを持ってくるから!」
声を掛けるシンに答えて、ルナマリアが海潮とともにロープを取りに行った。カナタと孝一は万が一に備えて、シンとステラの様子をじっとうかがう。
少しして、ルナマリアたちが戻ってきて、ロープを投げた。シンがロープをつかんで、カナタと孝一がロープを持って、ステラとともに引き上げた。
「ふぅ〜・・危ねぇとこだった〜・・!」
孝一がシンとステラの無事を確かめて、ひと息つく。
「おい、しっかりしろ!オレの声が分かるか!?」
シンがステラに向かって呼びかける。ステラがせき込んで呼吸をしていく。
「息を吹き返した・・・おい、大丈夫か!?」
シンが再び呼びかけて、ステラが閉ざしていた目を開く。
「・・・あなた・・誰・・・?」
「誰って・・お前なぁ・・さっきあの上から足を踏み外して落ちたんだぞ・・オレたちが助け出したところだけどな・・・」
首をかしげるステラに、シンがため息をついてから事情を話す。
「あなた、何を考えているのよ・・あんなところで浮かれてたら、足を踏み外すって分かってるはずなのに・・・!」
アンジュがステラの行動に対して不満を口にする。
「このまま海に落ちて死んだら、どうするつもりだったのよ・・!」
「えっ!?・・死・・死ぬ!?」
アンジュの言葉を聞いて、ステラが目を見開く。彼女は死の恐怖に襲われて、体を震わせる。
「死ぬ・・死んじゃう・・・イヤ・・怖い・・・!」
「お、おい・・どうしたんだよ・・・!?」
ふらつきながら歩き出すステラに、シンが動揺を覚える。
「死ぬのはイヤ・・怖い!・・死んじゃうはダメ・・!」
「何言ってるんだよ!?死ぬところだったのが助かったじゃないか!」
海に向かっていくステラを、カナタがなだめる。シンがステラを追いかけて、腕をつかんで海から引き離そうとする。
「ど、どうしたんだ、一体・・!?」
「ものすごく怖がっている・・とても耐えられない何かがあるんじゃ・・・!?」
ステラの怯え様にカナタと海潮も困惑する。
(死ぬ・・この子、死ぬことをすごく怖がっている・・ドラゴンと初めて戦ったときの私と同じ・・・)
アンジュが怯えるステラの姿を自分と重ねて、心を痛めていた。
「やめろって!そっちに行くほうが死んじまうって!」
「イヤッ!死ぬの、怖い!怖いよぉ・・!」
シンが呼び止めるが、ステラはさらに怯えて暴れ出す。それでもシンは彼女を離すまいと必死だった。
「君は死なない!怖いものは何もない!オレが君を守る!」
「し・・死なない・・・守る・・・!?」
シンが必死に呼びかけると、ステラが心を動かされる。彼女の体から徐々に震えが弱まっていく。
「死なない・・君は死なない!・・さっきだって、オレが君を助けたんだから!」
「死なない・・死なない・・・!」
呼び続けて手を放すシンに、ステラが戸惑いを感じていく。
「大丈夫だ・・もうすぐオレの仲間が助けに来てくれる。それまであそこで待っていよう・・」
「う・・うん・・・」
シンが微笑んで呼びかけると、ステラが小さく頷いた。
「よかった・・落ち着いたみたい・・・」
「あの言葉は、あの子の前では言わないほうがいいみたいだ・・」
海潮が安心して、カナタが小声で注意を口にする。アンジュもステラに気を配ることを心に決めていた。
「そう言えば君、名前は?」
「名前・・?」
シンが訊ねると、ステラが首をかしげる。
「オレはシン。シンだ。」
「シン・・・」
「そうだ。シンだ・・君は?」
「私・・ステラ・・・」
シンとステラが互いの名前を口にする。
「私はルナマリア。ルナって呼んで。」
「ルナ・・・シン・・ルナ・・」
ルナマリアも自己紹介をして、ステラが言いかける。
「オレはカナタ。カナタだ。」
「私は海潮。海潮。」
「オレは孝一!孝一って呼んでくれ!」
「私はアンジュよ。」
カナタ、海潮、孝一、アンジュもステラに自己紹介をする。
「カナタ・・うしお・・こういち・・アンジュ・・」
ステラがカナタたちの名を呟いて微笑んだ。
「ステラ、君の家族や友達はどこにいるんだ?」
シンが真剣な面持ちで、ステラに問いかける。
「かぞく・・わからない・・・ともだち・・ネオ・・スティング・・アウル・・・」
ステラが戸惑いながら答えていく。
「名前だけじゃ・・だからといって、詳しいことは聞けそうにないわね・・」
彼女から話を聞けないと思い、アンジュがため息をついた。
「警察に話を聞いてみたらどうかな?もしかしたら、ステラのことが聞けるかもしれないし・・」
「そうだな。とりあえず行って話を聞いてみるか!」
海潮が提案して、孝一が頷く。
「ステラ、行こう・・ここだとまた海に落ちちゃうから、少し離れよう・・」
「シン・・・うん・・・」
シンが声を掛けて、ステラが頷く。彼女はカナタたちに連れられて移動しようとした。
そのとき、カナタたちのいる場所の日が突然陰った。同時に突然突風が吹き込んできた。
「な、何・・!?」
海潮が声を荒げて、カナタたちとともに空を見上げた。
「あ、あれは!」
空を飛ぶものを目にして、アンジュが驚愕する。彼女たちの前に現れたのは、1匹のドラゴンだった。
「ドラゴン!?こんなときに出てくるなんて!?」
「ちくしょう!今のオレたちじゃどうにもできねぇぞ!」
カナタと孝一が今の自分たちの状況に焦りを感じていく。彼らのそばにそれぞれの搭乗機がない。
「ランガなら・・私が呼べば来てくれるかもしれない・・・!」
海潮が思い立って、ランガのいるミネルバと飛行艇のあるほうに振り向いた。
「ランガー!」
海潮がランガに向かって叫んだ。飛行艇から外に出ていたランガが、翼をはばたかせて飛んできた。
「な、なに、あれ・・!?」
ステラがドラゴンとランガを見上げて、不安を覚える。
「大丈夫だ、ステラ・・君のことはオレが守るから・・!」
シンが呼びかけて、ステラを守ろうとする。ランガがドラゴンと組み付いて、海に落下した。
「シンはこの子を連れて海から離れるんだ!」
「カナタ・・分かった!ステラ、こっちだ!」
カナタに答えて、シンがステラを連れて港から離れる。ドラゴンがランガから離れて、カナタたちに近づいていく。
「おいおいおい!オレたちを狙ってねぇかー!?」
孝一がドラゴンを見上げて声を張り上げる。カナタとアンジュがドラゴンの動きを見計らう。
ドラゴンはカナタたちに襲い掛かることなく、雄叫びを上げてきた。
「ど、どうしたんだ・・・!?」
「襲ってこない・・!?」
カナタと海潮がドラゴンの様子に疑問を覚える。ドラゴンは襲いかかろうとせず何かを訴えているかのようだと、彼らは思った。
“ねぇねぇ!アンジュ、みんなー!”
そのとき、カナタは聞き覚えのある声が聞こえてきて、目を見開いた。
「い、今のは・・!?」
「どうしたんだ、カナタ!?」
動揺する彼に孝一が問いかける。
「声が聞こえてきたんだ・・この声、ヴィヴィアンちゃんだ・・!」
「えっ!?ヴィヴィアン!?」
カナタがくちにした言葉に、アンジュが驚きの声を上げる。
「何を言っているの!?ヴィヴィアンちゃんは近くにいないし、あそこにいるのはドラゴンなんだよ!」
「でも確かに聞こえるんだ・・それも、あのドラゴンから・・!」
海潮が動揺するが、カナタはヴィヴィアンの声がすると確信していた。
「ヴィヴィアン・・あなた、本当にヴィヴィアンなの・・・!?」
アンジュが声を振り絞って問いかけると、ドラゴンが頷いた。
「頷いた・・マジでアイツなのか・・!?」
「どういうことなんだ!?・・あの子が、ドラゴンになったっていうのかよ・・!?」
孝一とシンがドラゴンを見上げて、驚きを隠せなくなる。彼らの前にいるドラゴンはヴィヴィアンだった。
ヴィヴィアンがカナタたちに向かって声を発する。何かを訴える様子だったが、唸り声を上げるだけで言葉が出てこない。
「何か言おうとしているけど、言葉が出せないみたい・・・」
「アイツ、元に戻れないのか!?・・人の姿になれないのか・・!?」
海潮とシンがヴィヴィアンを見て困惑する。
そのとき、アンジュが目を閉じて歌を口ずさんだ。永遠語りである。
アンジュの歌声を聞いて、ヴィヴィアンが安らぎを感じていく。動揺や不安を浮かべていた彼女が、落ち着きを取り戻していく。
そしてヴィヴィアンの体から煙のような蒸気があふれ出した。その中から人間の体に戻ったヴィヴィアンが現れた。
「ヴィヴィアンちゃん!」
海潮が駆け寄って、意識を失ったヴィヴィアンを支えた。
「ヴィヴィアンちゃん、大丈夫なの・・か・・うわあっ!」
カナタがヴィヴィアンに心配の声を掛けたところで、たまらず目を背けた。ドラゴンから元に戻ったヴィヴィアンは全裸になっていた。
「おいおいおい♪いきなりサービスしてくれるじゃんかー!」
「孝一、興奮するんじゃない!」
興奮する孝一の口を、カナタが手で押さえる。
「ステラ、見たらいけない!」
シンが慌ててステラの目を手で隠して、自分も目を閉じる。
「は、早くコイツを着させて!」
カナタが孝一から上着を脱がせて、目を閉じながらヴィヴィアンに差し出した。
「わ、分かったから、男は離れて!」
アンジュが答えて、カナタから上着をもらってヴィヴィアンに羽織らせた。
「何がどうなってるの?・・ヴィヴィアンがドラゴンになるなんて・・・!?」
海潮がこの事態に疑問を感じずにいられなかった。
「ステラ!」
そこへ2人の青年が現れて、ステラたちに向かって呼びかけてきた。スティングとアウルである。
「ステラ、こんなところにいたのか・・!」
「スティング・・アウル・・・」
スティングがアウルと共に駆け寄り、ステラが微笑みかける。
「もしかして、あなたたちがスティングとアウルですか?」
「あぁ。途中ではぐれてしまって、捜していたんだ・・」
カナタが聞いてきて、スティングが答える。
「ったく、1人で勝手にどっかに行くなっての・・!」
アウルがステラを見て文句を言う。
「ありがとう。ステラを助けてくれて・・」
「危ないところだったけど、助けられてよかった・・」
スティングがお礼を言って、シンが安心を浮かべる。
「シン・・・ルナ・・・」
「ステラ、さよなら・・」
声を発するステラに、シンが別れの挨拶をする。ルナマリアも微笑んで、ステラを見送る。
「ステラ、行くぞ。みんな待ってる・・」
「うん・・・」
スティングが呼びかけて、ステラが頷く。2人とアウルはシンたちに見送られながら、この場を後にした。
「ステラ・・・」
ステラのことを気に掛けるシン。彼を見てルナマリアが小さくため息をつく。
「戻るわよ、シン。ヴィヴィアンちゃんを連れていかなくちゃいけないし・・」
「あぁ。分かってる・・」
ルナマリアの呼び声に、シンが小さく頷いた。カナタがヴィヴィアンを抱えて、シンたちとともにミネルバに向かって歩いていく。
「あの・・思ったことがあるんだけど・・・」
海潮がカナタたちに考えていることを口にした。
「ヴィヴィアンちゃんがドラゴンになったってことは・・アンジュたちや私たちが戦ってきたドラゴンも、人間なんじゃ・・・!?」
「えっ・・・!?」
海潮が口にした言葉に、カナタたちが驚きを覚える。アンジュがドラゴンとの交戦を思い出して、緊張を覚える。
(私たちが戦ってきたドラゴンは、元々は人間で、ドラゴンになっていたというの!?・・だとしたら、私たちは人殺しをしていたというの・・!?)
ドラゴン殺しが人殺しだったことを痛感して、アンジュが強い恐怖を覚える。彼女が気分を悪くして嗚咽する。
「アンジュ!?」
ふらつくアンジュに海潮がルナマリアとともに駆け寄る。
「どうしたの、アンジュ!?落ち着いて!」
ルナマリアが呼びかけて、アンジュの背中をさする。アンジュが呼吸を乱しながらも、落ち着きを取り戻していく。
「大丈夫!?・・気分は・・・!?」
「ハァ・・ハァ・・・えぇ・・もう大丈夫よ・・・!」
ルナマリアが声を掛けて、アンジュが深呼吸をしながら答える。
「ヴィヴィアンちゃんと一緒に休んだほうがいいと思うよ・・またいつ変身するか分かんないし・・・」
「えぇ・・私が見ているから、あなたたちがみんなに説明をして・・・」
海潮が呼びかけて、アンジュが小さく頷いた。
クロスが連合軍との戦いを続けている中、アルゼナルでもドラゴンとの戦いが繰り広げられていた。この日も倒したドラゴンの死体の処理が行われていた。
「サリアたちがミネルバのところに行っても、こっちはこっちでやれているわね・・」
ジャスミンがサリアたちのことを考えて呟く。彼女はドラゴンの死体が入っている穴に、火を放り込んだ。
「バケモノの正体は人間でしたっていうのは、よくある話さ。」
ジルもやってきて、燃え盛るドラゴンを見つめる。炎の中で、ドラゴンの体が人に変わっていく。
「このことは知らないはずだよ。サリアたちも、グラディス艦長たちも・・」
「わざわざ教えてやる必要はないよ。知らないほうがいいこともある。」
「それでも、いつか知ることになるよ。」
「そのときはそのときさ。ドラゴンを倒すことに変わりはないし、サリアたちが使えなくなったら代わりを出せばいい。」
皮肉を口にするジャスミンだが、ジルは全く動じていなかった。
「そろそろ決行を考えておかなければな・・リベルタスを・・」
ジルが真剣な面持ちで言って、ジャスミンが頷いた。彼女たちはアルゼナルで密かに練られていた計画を、発動させようとしていた。