スーパーロボット大戦CROSS

第23話「混迷の自由」

 

 

 突如、シンたちとの戦いに乱入してきたフリーダム。ミネルバのタンホイザーを攻撃したのは、フリーダムだった。

「タンホイザー、損傷!使用不能です!」

「消火急げ!ダメージコントロール!」

 メイリンが状況を報告し、タリアが指示を出す。炎上しているタンホイザーの消火に、クルーたちが必死になる。

“ミネルバ、大丈夫ですか!?”

 飛行艇からメイがタリアたちに呼びかける。

「本艦の消火はこちらで行います。あなたたちは他の勢力をこちらに近づけさせないようにしてください・・!」

“了解!任せて!”

 タリアが指示を送り、メイが答えた。

「レイとルナマリアも出撃して、本艦の防衛に回して!」

「はい!」

 タリアがさらに指示して、メイリンが答えた。

(フリーダム・・またザフトの前に立ちはだかるの・・・!?

 モニターに映っているフリーダムの姿を見て、タリアが激情を募らせていた。

 

 フリーダムの乱入に、シンたちは緊張を感じていた。特にアスランの動揺は大きかった。

「おい・・何だよ、ありゃ・・!?

「モビルスーツみたいだけど・・・」

 ロザリーとクリスがフリーダムを見て呟く。

「いきなり出てきて攻撃してくるとは、いい度胸じゃねぇか・・!」

 孝一もフリーダムを見て、敵意を込めた笑みを浮かべる。

 さらに1隻の戦艦が現れ、フリーダムに追いついた。先の大戦で活躍した戦艦「アークエンジェル」である。

「カガリ・ユラ・アスハ、ストライクルージュ、行くぞ!」

 アークエンジェルから1機のモビルスーツが発進した。かつてキラが登場していた機体「ストライク」。その同型で赤い体色をしたカガリの専用機「ストライクルージュ」である。

「あ、あれは!」

「アスハ家の紋章・・カガリ様の機体、ストライクルージュです!」

 ユウナが動揺をあらわにして、オーブの軍人も声を荒げる。さらわれたはずのカガリが戦場に現れたことに、彼らは驚きを隠せなかった。

「私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ!オーブ軍、この戦いは、我らが果たすべき戦いではない!直ちに戦闘を停止し、軍を退け!」

 カガリの呼び声がオーブ軍に向けて響き渡る。ストライクルージュに乗っているのは、彼女だった。

「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない!それが我らオーブの理念!地球連合と同盟を結び、このような戦いをすることは、我らの理念に反することとなる!オーブ軍、直ちに戦場から撤退せよ!」

 カガリが再びオーブ軍に向けて呼びかける。さらわれたはずの代表が戦闘停止を訴えていることに、ムラサメのパイロットたちや他のオーブの軍人たちにも動揺が広がっていた。

「あの人、オーブ軍を止めようとしている・・・?」

「それじゃ、オーブ軍が代表の指揮から離れて、勝手に連合に味方しているってこと・・!?

 海潮と魅波がカガリとオーブ軍に戸惑いと疑問を感じていく。

「勝手ね、オーブの代表も・・いきなり出てきて攻撃してきたアイツもだけど・・」

 夕姫が不満を口にして、ストライクルージュからフリーダムに視線を戻す。

「ユウナどの、これはどういうことですかな?」

 ネオがユウナに向けて声を掛けてきた。ユウナの動揺が一気に大きくなる。

「あれは本当に、あなた方の代表なのですか・・?」

「それは・・・!」

「代表は誘拐されたと聞いています。それがなぜ今頃、あんなものに乗って現れて、軍を退けと言い出すのですか?」

「いや、だから、その・・・!」

「事と次第によっては、あなた方も少々面倒なことになってしまいますが・・・」

 ネオに忠告を送られて、ユウナが言葉が出なくなる。

「ち・・違う!あれはカガリなんかじゃない!」

 ユウナが声を張り上げて、ネオに言い返す。その返答に、オーブの軍人たちが驚きを隠せなくなる。

「ユウナ様、何を仰いますか!?あの機体は紛れもなくストライクルージュ!カガリ様の機体です!」

「我々に向けて呼びかけてきた声も、確かにカガリ様のものです!」

 軍人たちがたまらずユウナに向かって呼びかける。

「だからって、本物のカガリだってことにはならない!偽者かもしれないし!」

「ユウナ様!」

「でなければ、操られているんだ!きっと、アークエンジェルの連中に脅されて!・・ホントの、ちゃんとしたカガリだったら、こんなバカげたことをするはずないだろ!」

 オーブの戦いを止めようとしているのがカガリだと認めないユウナに、軍人たちは愕然となる。ユウナが自分の保身を優先させていることは、軍人たちの目にも明らかだった。

「アイツらも撃て!ザフト諸共!僕たちは地球連合と同盟を結んでいるんだ!それを今さら、この戦いをやめられるか!」

「あなたという方は・・・!」

 命令を下すユウナに、軍人たちは困惑するばかりになった。

「あの偽者に攻撃しろ!ミサイル発射だ!」

「ユウナ様・・・分かりました・・・!」

 ユウナの命令に指揮官が答える。

「しかし、それでは・・!」

「ヤツらも我らの敵だ・・ヤツらもせん滅する!」

 反論する軍人に言い返して、指揮官がさらに指示を出す。オーブの軍艦がストライクルージュに向けて、ミサイルを発射した。

 そこへフリーダムが前に出て、放たれたミサイルに対して全てロックオンして、全ての砲門からビームを一斉発射した。ミサイルが全て狙撃されて爆破した。

「アイツ・・ミサイルを全部撃ち落とした・・!?

 正確な迎撃を見せたフリーダムに、ユウナやオーブの軍人たちだけでなく、シンたちも驚きを感じていた。

「全てを正確に射抜くなんて・・信じられない・・・!」

「だけどいきなり出てきて勝手に攻撃してくるんじゃ、感心する気にならないわ・・!」

 フリーダムの射撃にサリアが脅威を感じて、アンジュが不満を浮かべる。

「な・・何をするんだ、オーブ軍!?

 カガリは驚愕しながら、オーブ軍に向かって呼びかける。しかしオーブ軍は引き下がろうとしない。

「そうだよ!ミネルバもあの連中もやっつけるんだよ!」

 ユウナが命令を下して、オーブ軍に攻撃させる。ムラサメがインパルスたちへの攻撃の再開だけでなく、フリーダムたちにも戦闘を仕掛ける。

「その調子でバンバンやってくれたまえ!僕たちは地球軍の味方なんだからね!」

 高らかに軍に指示を出すユウナ。彼の態度に不満を感じながらも、オーブ軍はインパルスたちとフリーダムたちへの攻撃を続けた。

「オーブ軍、戦闘をやめろ!私の声が聞こえないのか!?

 カガリがさらに呼びかけるが、オーブ軍は戦闘をやめない。

「オーブ軍、すぐに引き上げろ!こんな戦いをしてはいけない!オーブ軍!オーブ軍!」

「カガリ、もうダメだ・・・」

 呼び続けるカガリを呼び止めたのはキラだった。

「残念だけど、もうどうしようもないみたいだね・・」

「そんなことは・・!」

「カガリはもう下がって・・後は僕がやるから・・・」

 困惑しているカガリに呼びかけて、キラが戦闘に意識を傾ける。戦闘を再開したインパルスたちと連合軍、オーブ軍に向かって、感覚を研ぎ澄ませたキラの駆るフリーダムが加速した。

 

「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」

 ルナマリアとレイのザクが発進して、ミネルバの防衛につく。ミネルバに迫る連合、オーブの機体に対して、インパルスたちは防戦一方となる。

「フリーダム・・また、オレたちの前に・・・!」

 シンがフリーダムに対する怒りを感じていく。彼の脳裏に、両親とマユが死んだときのことがよみがえる。

「シン、今はミネルバの防衛に専念するんだ!あの状態じゃ反撃もままならないからな・・アスランもいいな!」

 そこへハイネが呼びかけてきて、シンが我に返る。

「いいぜ、いいぜ!何だか分かんないけど、このチャンスを利用させてもらうぜ!」

 アウルが高らかに叫んで、アビスが海中を進んでミネルバに迫る。シンたちがアビス、そしてカオスたちへの警戒を強める。

 そこへフリーダムが駆けつけ、海に向けてレールガン「クスィフィアス」を発射した。クスィフィアスのビームがアビスの両肩のビーム砲を破壊した。

「何っ!?

 アビスの武器を破壊されて、アウルが驚愕する。

「アビス!・・あのヤロー・・!」

 スティングがいら立ちを浮かべて、カオスがビーム砲を発射する。キラは即座に反応し、フリーダムがビームをかわして一気にカオスに詰め寄る。

「コイツ!」

 スティングが目を見開き、カオスがビームサーベルを手にする。しかしこの瞬間、フリーダムは既にビームサーベルを手にして振りかざしていた。

 フリーダムの繰り出した一閃が、カオスの腕を切り裂いた。

「ぐっ・・!」

 カオスも損傷し、スティングがうめく。しかしフリーダムはカオスに追撃せず、上昇して離れていった。

「何だとっ!?・・アイツ、とどめを刺さない・・!?

 追撃してこないフリーダムに、スティングがさらに驚愕する。

 フリーダムは今度はミネルバを防衛している2機のザクに向かって加速してきた。フリーダムがビームライフルで速射し、ザクのビーム銃とビーム砲を破壊した。

「くっ!」

「そんな!?

 瞬く間に武器を破壊されて、レイがうめき、ルナマリアが驚く。

「アイツ、オレたちも連合も見境なく・・!」

「ったく、冗談じゃないぜ・・!」

 フリーダムの行動に、シンとハイネが毒づく。フリーダムは今度はムラサメに攻撃を加えていく。

 フリーダムはザフト、連合軍、オーブ軍問わず、この場にいる戦力に無差別に攻撃していく。ただし武装を破壊するだけで、撃墜や完全破壊は避けていた。

「艦長、これはいったい・・!?

 フリーダムへの疑問を感じて、アーサーが声を荒げる。

(どういうことなの!?・・始めはこちらを撃っておきながら・・・!)

 タリアもフリーダムの行動を疑問視していた。

(相手構わずに攻撃をしている・・しかも武器だけを正確に破壊している・・まさかただ単に、戦いを止めたいだけだなんて馬鹿げたことじゃないでしょうね・・・!?

 戦いを止めるための戦い方をするフリーダムに、タリアが眉をひそめる。彼女はフリーダムのこの戦い方も不審に思っていた。

「キラ・・・キラ!」

 アスランが動揺しながらキラに呼びかける。しかしアスランの声はキラに届いていないのか、フリーダムの攻撃は続く。

「アイツ・・いつまでも調子に乗ってんじゃないよ!」

 ヒルダが怒鳴り、ロザリーもいら立ちを膨らませていく。2機のグレイブがアサルトライフルを構えて、フリーダムを狙う。

 キラが反応し、フリーダムがグレイブの射撃をかわす。フリーダムが加速して、ビームサーベルを振りかざしてグレイブたちの腕を切り裂いた。

「ぐっ!」

「このっ!」

 グレイブが損傷し、ヒルダとロザリーがうめく。

「クリスちゃん!」

「分かっている・・・!」

 エルシャが呼びかけて、クリスが頷く。2機のハウザーがロングバレルライフルを構えて、フリーダムに向かって発射する。

 キラが気付き、フリーダムがビームをかわし、レールガンを発射してロングレンジライフルを撃ち抜いた。

「そんな!?・・こっちは当たらなかったのに、何であの距離を正確に・・・!?

「機体の性能だけじゃない・・パイロットの操縦レベルも高いってこと・・・!?

 クリスとエルシャがフリーダムとキラに驚愕を覚える。

「こうなったらー!行くよ、ブンブン丸!」

 ヴィヴィアンがいきり立ち、レイザーがブーメランブレイドを持ってフリーダムに向かっていく。フリーダムがすれ違いざまにビームサーベルを振りかざして、レイザーの腕を切り裂いた。

「ウソっ!?やられた!?

 レイザーも腕をやられて、ヴィヴィアンが驚く。

「ヴィヴィアン、離れて!」

 サリアがヴィヴィアンに呼びかけて、アーキバスがドラゴンスレイヤーを持ってフリーダムを迎え撃つ。

 フリーダムが加速して突っ込んできたところを、アーキバスがドラゴンスレイヤーを振り下ろす。フリーダムがこの一閃を紙一重でかわし、アーキバスの腕を切り落とす。

(私でも、あの機体に全然敵わない・・!?

 サリアが力の差を痛感して愕然となる。

「アイツ、いつまでも勝手なことをして・・!」

 アンジュが不満を膨らませて、ヴィルキスがフリーダムを追う。

 ヴィルキスがラツィーエルを手にして、フリーダムのビームサーベルとぶつけ合う。キラが反応し、フリーダムがもう1本のビームサーベルを振りかざすが、アンジュも反応して、ヴィルキスが回避した。

「コイツ、ホントにイヤな戦い方してくるわね・・!」

 アンジュが毒づき、ヴィルキスがさらにラツィーエルをフリーダム目がけて振りかざしていく。

 再びヴィルキスとフリーダムがラツィーエルとビームサーベルをぶつけて、つばぜり合いを繰り広げる。するとフリーダムがクスィフィアスでヴィルキスを狙撃した。

「うっ!」

 ヴィルキスが吹き飛ばされて、アンジュが衝撃に襲われてうめく。

「アイツ・・どこまで勝手なことを・・・ランガ!」

 キラの行動に夕姫も不満を膨らませた。彼女の意思を受けたランガが翼をはばたかせて、フリーダムに向かって左手からの砲撃を放つ。

 フリーダムがレールガンを発射して、ランガの左手に当てた。

「ランガ!」

 ランガが左手を負傷して、海潮が叫ぶ。再生力を有しているランガだが、すぐには元通りになるわけではない。

「やめろ!こっちは攻撃してくる連合軍を迎え撃っているだけなんだ!」

 カナタがキラに向かって呼びかける。フリーダムが向かっていて、イザナギとビームサーベルをぶつけ合う。

「オレたちも向こうも無差別に攻撃して・・アンタの目的は何なんだ!?答えろ!」

「僕は、戦いを止めたいだけなんだ・・誰かが傷つくのは、もうイヤだから・・」

「傷つくのがイヤなのに、こんな戦いをするなんて、矛盾している!」

「そう言われるのは分かっている・・でも戦いを止めるには、こうするしかないんだ・・・!」

 カナタの呼びかけをキラがはねつけて、フリーダムがイザナギを突き放す。

「そうやって自分の思い通りにしようと、力任せに攻撃してくるのか・・!?

 自分の行動を押し通そうとするキラに、カナタが憤りを感じていく。

「今度はオレたちが相手だ!」

 孝一の駆るダイミダラーが飛行艇の上から大きくジャンプして、フリーダムに突っ込んできた。その左手には、ハイエロ粒子が集められていた。

「くらえ、指ビーム!」

 ダイミダラーが左手から光線を放つ。フリーダムが光線をかわして、ビームサーベルでダイミダラーの左手を切りつけた。

 切り落とされなかったが、ダイミダラーの左腕に損傷が付けられた。

「アイツ、ダイミダラーまでやりやがった!」

「これじゃハイエロ粒子をうまく集中できない・・戻るしかないわ・・!」

 孝一が驚愕して、恭子が危機感を覚えて撤退を訴える。

「連合だけじゃない・・クロスの機体やランガが手も足も出ない・・・!」

 フリーダムが一方的に攻め立てる事態に、ラブが困惑していく。

「フリーダム・・何を考えてるんだ!」

 シンがフリーダムに対して激情を膨らませていく。インパルスがビームライフルで射撃するが、キラは反応し、フリーダムがビームを回避する。

 フリーダムが加速して詰め寄り、ビームライフルごとインパルスの左腕を、ビームサーベルで切り裂いた。

「なっ!?

 瞬く間にインパルスがやられたことに、シンが驚愕する。同時に彼はフリーダムに対する怒りを募らせる。

「アイツ・・・アイツ!」

 ステラがフリーダムにいら立ちを感じて、ガイアがビームライフルを発射する。フリーダムはビームをかわして、間髪入れずにビームライフルでガイアのビームライフルを狙撃した。

「ぐっ!」

 ガイアがビームライフルの爆発の衝撃で体勢を崩して、ステラが揺さぶられてうめく。

「手当たり次第かよ・・このヤロー、生意気な!」

 ハイネが激高して、グフもビームガンで射撃する。回避して迫るフリーダムに向けて、グフは続けてビームウィップを振りかざす。

 フリーダムはビームウィップもかわして、ビームサーベルでビームガンとビームウィップを腕ごと切り裂いた。

「何っ!?

 手も足も出ずにグフがやられたことに、ハイネも驚愕する。

「お前はどこまで・・オレたちをかき乱せば気が済むんだ!?

 シンが怒りを募らせて、インパルスは損傷したまま右手でビームサーベルを手にして、フリーダムを追いかける。

 それでもインパルスは止まらず、フリーダムを突き飛ばす。さらに突っ込もうとするインパルスに対して、フリーダムがバラエーナを発射する。

 フリーダムに向かって突っ込んでいたインパルスは、回避がままならない。

「シン!」

 そこへハイネのグフが飛び込み、インパルスを横に突き飛ばした。インパルスを庇ったグフが、ビームに胴体を貫かれた。

 致命傷を受けたグフを目の当たりにして、シンが目を見開く。

「ハイネ・・シンを守ろうとして・・・!?

 カナタもグフの負傷に驚愕を隠せなくなる。

「な、何で・・・どうして、オレを・・・!?

「何でだろうな・・どうしても、お前をほっとけなかった・・・」

 声と体を震わせるシンに、ハイネが声を振り絞って言いかける。ビームを貫通されたグフの損傷はコックピットにも及び、ハイネも負傷していた。

「シン・・お前なら、無敵のエースになれるはずだ・・だから、迷わずに突き進め・・・」

「早く離脱してください!コックピットから脱出を・・!」

「このザマじゃ、脱出しても助からない・・オレは、お前を助けられて、本望だ・・・」

「死んじゃダメだ!オレが助ける!」

 力を入れられず脱出も絶望的となっているハイネに、シンが呼びかける。

「シン・・・オレのこと・・お前に任せたからな・・・」

「ヴェ・・ヴェステンフルス隊長・・・!」

 笑みをこぼすハイネに、シンが動揺を募らせていく。

「だから・・“ハイネ”だって・・・」

 言いかけるハイネを巻き込んで、グフが爆発を起こした。

「あぁぁ・・・ハイネェ!」

 激情の込み上げるシンの悲痛の叫びが戦場にこだました。

「ハイネが・・・キラ・・!」

 アスランがキラの行動に対する不信感を募らせていく。

「ハイネが死んだ!?・・そんな、バカな・・!?

「そんな・・そんなことって・・!?

 孝一と海潮がハイネの死に愕然となる。

「アイツが出てこなければ・・ハイネは・・!」

 ハイネを手に掛けたフリーダム、キラに対してカナタが怒りを覚える。

「アンタ・・・よくも・・よくもハイネを!」

 同じく怒りを爆発させたシンの中で何かが弾けて、感覚が研ぎ澄まされた。

「メイリン、チェストフライヤーを!早く!」

「は、はいっ!」

 シンが呼びかけて、メイリンが答える。ミネルバから新たにチェストフライヤーが射出された。

 インパルスが分離してコアスプレンダー、フォースシルエット、レッグフライヤー、もう1機のチェストフライヤーと再合体を果たした。

「フリーダム!」

 シンが叫び、キラがインパルスの接近に気付く。インパルスが突き出したビームサーベルをかわして、フリーダムがビームサーベルで反撃しようとした。

 だがフリーダムの振りかざしたビームサーベルを、インパルスは紙一重でかわした。この瞬間にキラが一瞬驚きを覚える。

 次の瞬間、インパルスが再びビームサーベルを突き出してきた。フリーダムがビームサーベルを掲げて、インパルスの突きを防ぐ。

「シンの動きがまたよくなった・・!」

 海潮がインパルスの動きを見て、オーブ近海での戦いを思い出して戸惑いを覚える。

「海潮、シンのあの動き、知ってるの!?

「うん・・追い込まれて危なくなったシンの動きがものすごくよくなったの。それで私もミネルバのみんなも助かったの・・」

 夕姫が問いかけて、海潮がインパルスの戦いを見守りながら答える。

「シンもカナタみたいに、すごい力を持っていたってこと・・・!?

 シンも体現した覚醒に、魅波も驚きを膨らませていた。

「お前さえ出てこなきゃ、ハイネは死ななかった!お前が出てこなきゃ!」

 シンが怒りの叫びを言い放つ。彼の言葉を聞いて、キラが動揺を覚える。

「だけど・・だけど僕は、戦いを止めたいんだ!」

 キラが動揺を振り切ろうとして言い返し、フリーダムがインパルスのビームサーベルを押し返す。フリーダムがビームサーベルを突き出すが、インパルスはまたも回避して反撃を仕掛ける。

 2機のビームサーベルが激しくぶつかり合い、火花を散らす。

「見境なくみんな攻撃して命を奪うことが、戦いを止めることだって言いたいのか!?

「違う!僕は命を奪おうとまではしていない!」

「ふざけるな!お前の攻撃で、ハイネが・・ハイネが!」

 キラの反論を押しのけて、シンが怒号を放つ。インパルスが徐々にフリーダムを押し始める。

 キラがインパルスの発揮する強さに脅威を覚え、フリーダムが左手のビームサーベルを振りかざす。シンが反応し、インパルスが後ろに下がってサーベルをかわす。

「アイツ・・・私をよくも・・・!」

 ステラがフリーダムに対するいら立ちを膨らませる。ガイアが四足型に変形して、フリーダムを狙って飛び出す。

 シンがガイアに気付いて、インパルスが迎撃態勢に入る。

「邪魔だ!」

 ステラとシンが同時に叫び、ガイアのビームブレイドを発しての突進を、インパルスがビームサーベルで受け止める。衝突が相殺されて、2機が体勢を崩す。

 そこへフリーダムがクスィフィアスを発射して、インパルスの腕とガイアのビームブレイドを破壊した。

「ぐっ!」

 またしても武器を破壊されて、シンとステラがうめく。

「シン!」

 ガイアとともにインパルスが海に落ちて、アスランが叫ぶ。

「アイツ・・どこまで勝手なことをするつもりだ!」

 カナタもフリーダムに対して怒りを爆発させた。彼の体とイザナギから光があふれ出した。

「カナタ!?

「まさか、また暴走したのでは・・!?

 ラブが驚愕して、モモカが息をのむ。

「シンたちを傷付け、ハイネを殺した・・お前は!」

 カナタが怒号を放ち、イザナギがビームサーベルの出力を上げてフリーダムに向かっていく。キラが気付き、フリーダムが銃砲を一斉に放つ。

 イザナギが巨大なビームサーベルを振り下ろす。この一戦はビームを撃ち破り、フリーダムの手からビームサーベルを弾き飛ばした。

「なっ・・!?

 自分の力が圧倒的な力で押し返されたことに、キラが驚愕を覚える。イザナギが再びビームサーベルを振り上げて、フリーダムを狙う。

「カナタくん!」

 たまらずカナタに向かって叫んだラブ。その瞬間、カナタが我に返り、イザナギの攻撃が止まった。

「オ、オレ・・また自分を見失って・・・!?

 怒りで我を忘れたことに動揺するカナタ。その隙にフリーダムが離脱して、ストライクルージュ、アークエンジェルとともに去っていった。

「アークエンジェルは追わなくていいわ・・私たちも戦場を離脱。連合軍を振り切ります・・!」

「り、了解・・!」

 タリアが冷静に指示を出し、アーサーが困惑したまま答える。イザナギたちが帰艦しながら、ミネルバと飛行艇からネオたちから離れていく。

「まだ戦える戦力が残っているのは向こうだ・・一時撤退する・・!」

 ネオも毒づきながら呼びかける。連合軍もカナタたちを追うことができず、引き上げるしかなかった。

 

 バロウ島での戦いから引き上げて、とある施設に戻ってきたカンナとアブル。カナタとイザナギが見せた驚異の力に、カンナは脅威と期待を感じていた。

「イザナギにあれほどの力があったとは・・ということは、イザナミにも同等の力が秘められているはず・・」

「でもイザナミを調整できるのは、シクザル博士だけなんだよね?・・でも博士の居場所はまだ・・」

 カンナが呟き、アブルがゼロスのことを考える。

「こっちも博士の居場所は分かってはいない。」

 そこへ1人の青年が現れ、カンナたちに声を掛けてきた。

「あなたでもまだ見つけられていないのね、ヘクト・・」

 カンナが青年、ヘクト・ロイアの報告を聞いて、表情をさらに曇らせる。

「カンナ、アブル、イザナミと黒龍神が負傷していたな。それだけの力と戦力を相手にしてきたのか?」

「えぇ。イザナギが潜在能力を発揮して・・だからイザナミもきっと同じような力があるはずなのだけど・・」

 ヘクトが問いかけて、カンナが小さく頷いた。

「それぞれのボディは修理することができる。しかしイザナミも黒龍神も、エネルギー源に関しては専門家が手を加える必要がある。」

「そういう意味でも、ゼロス博士を見つけ出さないといけないということね・・」

「私は私で黒龍神に関して頭に入れているからいいけど・・」

 ヘクトの口にした注意を聞いて、カンナとアブルが答える。

「ところで、他の2人はどうしたの?」

神村(かみむら)カグラは博士の捜索を続けている。アムダは気まぐれに動いている。」

 カンナが問いかけて、ヘクトが答えながら肩を落とす。

「アムダは勝手だね・・でもやる気になったら必ず成果を上げるから・・」

 アブルがアムダのことを考えて、ため息をつく。

(カナタ、私はまだまだ強くなるわ・・そしてイザナミに秘められた力も引き出してみせる・・・!)

 力への渇望とカナタへの敵対心を強めて、カンナは笑みをこぼしていた。

 

 

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