スーパーロボット大戦CROSS
第22話「戦士の意志」
特異の力を発揮して意識を失ったカナタとラブ。身体検査が終わったところで、2人は目を覚ました。
「オレ、どうしてたんだ?・・気絶してしまったのか・・・?」
カナタが寝台から体を起こして、周りを見回す。
「カナタくん・・体は、大丈夫なの・・・?」
ラブも起き上がり、カナタに声をかけてきた。
「ラブちゃんこそ・・いったいどうしたんだ、あの光は・・・!?」
「光・・・私から、何であんなのが出てきたのかな・・・?」
カナタが問いかけると、ラブが自分が出した光に疑問と不安を感じていく。
「カナタくんも、光を出して強くなったよね・・・?」
「オレもなのか?・・オレ、カンナが許せなくなって、怒りで我を忘れたみたいなんだ・・・」
ラブも問いかけるが、カナタは首をかしげる。自分が光を発してカンナとイザナミを脅かしたことに、2人とも自覚がなかった。
「2人とも気が付きましたね。」
カナタたちのいる医務室にメイリンが入ってきた。
「メイリンさん・・私たち、どうしたのですか?・・私たちの体、どうしたのですか・・?」
「詳しい結果はこれからですが、体や脳波には異常はないとのことです。ですが念のためにまだ安静にしたほうがいいと思います・・」
ラブが質問して、メイリンが医務官からの話を2人に伝えた。
「オレたち、体が落ち着いても、また普通に生活できるのかな?・・あの力が何なのかが分かんないと、自分で抑えることが・・・」
カナタが自分の胸に手を当てて、これからの自分たちに不安を感じていく。光の力をコントロールできなければ、敵を倒すだけでなく、味方まで傷つけかねない。彼はそう考えていた。
「今もそのことは調査中です。シクザル博士の行方も・・」
「博士・・ゼロス博士は!?・・・まだ見つかっていないんですね・・・」
答えるメイリンに問いかけて、ラブが落ち込む。
「今も捜索を続けています。これからも力になります。」
「ありがとうございます、メイリンさん。みなさんにも感謝です。」
協力するメイリンに、ラブが感謝した。
「グラディス艦長たちはどうしているんです?」
「これからの進路について話をしています。もう少しで、デュランダル議長が連絡をして、話し合いに参加してきます。」
カナタが聞いて、メイリンがこれからのことを答える。
「デュランダル議長・・シンたちのいるプラントのトップでしたね。」
「魅波さんたちも議長と話をするそうです。カナタくんとラブさんも参加しますか?」
「はい。たとえ画面越しでも、面と向かって話をしたいと思います。」
「分かりました。2人とも、ミネルバの指令室へ。」
正直な考えを言うカナタを、メイリンが案内する。カナタとラブが目を合わせてから、メイリンについていった。
ミネルバの指令室にはタリアとアーサー、シンたちだけでなく、海潮たち、アンジュたち、孝一と恭子が集まっていた。
「グラディス艦長、カナタくんとラブさんを連れてきました。」
そこへメイリン、カナタ、ラブがやってきた。
「カナタ、ラブ・・体のほうは大丈夫なの・・?」
「あぁ。もう何ともない・・心配をかけてしまってすみませんでした・・」
心配の声を掛ける海潮に答えて、カナタがタリアたちに頭を下げた。
「気にしなくていいわ。それよりも、あなたたちも議長とのお話をするのですね?」
「はい。あなた方のトップにも、オレたちの考えを伝えられたら・・」
本題を切り出すタリアに、カナタが真剣な面持ちで頷いた。
「そろそろ時間です、艦長。」
アーサーが声をかけて、タリアが頷いた。ミネルバに通信が入り、指令室のモニターにギルバートの姿が映し出された。
「デュランダル議長!」
ハイネが声を上げて、シンたちとともにギルバートに向けて敬礼を送る。
「この人が、デュランダル議長・・」
「インテリって感じがして、頭の悪いオレには苦手そうだなぁ・・」
カナタがギルバートを見て戸惑いを覚え、孝一が苦笑いを浮かべる。
“あなた方と顔を合わせるのは初めてになりますね。プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。”
ギルバートがカナタたちに挨拶をする。
“アルゼナルのサリアさんとアンジュさん、島原家の3姉妹、プリンスの楚南恭子さんと真玉橋孝一くん、そして天命カナタくんと愛野ラブさんですね。”
「オレたちのことも知っているんですか?」
声をかけていくギルバートに、カナタが戸惑いを覚える。
“艦長たちや私たちと同盟を結んでいる人たちだ。知っておくのは当然のことですよ。”
「オレのことまで知ってくれて、光栄って思うところだな・・!」
淡々と語るギルバートに、孝一が照れ笑いを見せた。
「デュランダル議長、あなたに直接聞きたいことがあります。」
魅波がギルバートに質問を投げかけた。
「あなたは私たちと協定を結び、大きな戦力となることを勧めた。私たちやサリアさんたちに資金や報酬を提供してくれた・・あなたは私たちに対して、何を求めているのですか?」
“それはあなたたちの力が、この世界の混乱を鎮めるカギになっているからです。”
魅波に対して、ギルバートが協定の意図を話した。
“世界の融合によって、各地で混乱が起きている。それに乗じるかのように、争いや支配を望む勢力が動き出し、同盟を結んで我々の前に立ちふさがっている。その脅威を打ち破る力を、君たち1人1人が持っている。”
「それで私たちに協定の話を持ちかけたのですね。私たちの敵が同盟を結んだから・・」
語りかけるギルバートに、サリアが納得する。
“強大となった敵を前にして、君たちがバラバラのまま倒れてしまうのは辛い。だから君たちの力を1つに集めて、強大な敵を退け、平和と安定をもたらしてほしいと、私は考えたのだ。”
「そうやって扇動して、自分の思い通りにしようっていう魂胆なの?だとしたらそうはいかないわ。」
「私も、私の思うように戦っている。誰かの駒になるつもりはないわ。」
夕姫とアンジュがギルバートに対して不信感を見せてきた。
“確かに君たちには資金を提供する代わりに協力してほしいと言った。我々がいいように使っていると思うのも不思議ではない。だが私としては、君たちを信頼しているのだ。君たちの目指す平穏を。”
ギルバートが自分の考えをカナタたちに伝えていく。
“平和や平穏の形も人それぞれだ。だがそれを目指すために戦う姿勢に違いはない。その意思を1つにすれば、どのような困難も乗り越えることもできる。1人でできないことも、多くの人がいれば・・”
「だから手を取り合って困難に立ち向かおうってことですね。」
ギルバートの話に答えて、海潮が微笑んだ。
“私もできる限りのことを全力で果たそう。だから君たちに今を精一杯がんばってほしいのだ。”
「自分のできることを全力で・・・」
ギルバートの言葉に励まされて、シンが戸惑いを感じていく。
「議長、あなたはオレたちや世界の今について把握しているそうですが、ゼロス・シクザル博士がどこにいるか知りませんでしょうか?」
カナタがギルバートにゼロスのことを聞いてみた。
“ゼロス博士のことは我々も行方を追っている。しかしまだ行方は分からない・・”
「そうでしたか・・どこかで生きているとは聞いたのですが・・・」
“捜索は続ける。見つかり次第、君たちにすぐに知らせよう。”
「ありがとうございます、議長!よろしくお願いします!」
協力を続けるギルバートに、カナタが感謝した。
「デュランダル議長、私たちが暮らしている武蔵野は・・いいえ、日本は虚神会という連中によって裏から支配されています。私たちの手で日本を解放したいと思っているのですが・・」
魅波がこれからの行先について話をしてきた。
“虚神会という存在は我々も存在をつかんでいた。彼らも同盟軍に協力をしている。”
「面白いように、私たちの敵が1つにまとまっていくわね・・」
ギルバートの答えを聞いて、アンジュが肩を落として呟く。
“グラディス艦長、日本の解放に協力してほしい。私も日本政府へコンタクトを取ってみる。”
「分かりました。我々も再び日本へ向かいます。」
ギルバートからの要請を聞いて、タリアが敬礼した。
“艦長、耳に入れておきたいことが1つ。君たちの追撃隊の中に、オーブ軍が加わったという情報が入った。”
「オーブ軍が・・!?」
ギルバートが口にした言葉に、アスランが驚きを覚える。
「オーブって、グラディス艦長たちの世界の国の1つでしたよね・・?」
「うん。中立を謳っていたけど、今は連合と手を組んでいるのよ・・」
海潮がオーブのことを考えて、ルナマリアが答える。
「同じ人間なのに、どうしてここまで争わなくちゃならないの・・・!?」
「人間なんてそんなものよ。ちょっと違うってだけでも、相手の言うことをまるで聞かないくらいに敵視して、醜い感情をぶつけ合う・・」
争いに対して辛さを感じていく海潮に、アンジュがため息まじりに言いかける。
「私たちの国でさえも、あの有様だったのだから・・・」
「えぇ・・あんな馬鹿げた差別とわがままは、私が見てきた中でも1番かも・・」
アキホたちの言動と理不尽を思い出すアンジュに賛成して、夕姫が肩を落とした。
「そんな・・分かり合えないことがあるなんて・・・!」
人は分かり合えると信じたいと思いながらも、海潮はアンジュたちの抱える憤りをなだめることができなかった。
クロスへの攻撃にオーブ軍も乗り出してくる。この事態にアスランは迷いと苦悩を感じていた。
浜辺から黄昏を見つめている彼のところへ、ハイネがやってきた。
「こんなところに1人でいたのか、アスラン。」
「ハイネ・・」
ハイネに声を掛けられて、アスランが振り向いた。
「大規模な戦いになりそうだな。向こうもこっちも規模がデカいからそうなるな・・」
ひと息つくハイネに、アスランが返す言葉が見つからず思いつめる。
「そういえばお前、オーブにいたんだったな。あそこはいい国だな。オレもあそこには恩義は感じてるんだけどな・・」
ハイネがオーブのことを話して、アスランがさらに思いつめる。気さくに振る舞っていたハイネが、真剣な面持ちを浮かべる。
「戦いたくないか、あそことは・・」
「あ・・はい・・」
ハイネが口にしたこの言葉に、アスランが初めて答えた。
「だったらお前、どことなら戦いたいんだ?」
「どことならって・・そんなことを考えるのは・・」
ハイネの問いかけに、アスランが口ごもる。
「イヤか。オレもだ。きっとまともなヤツは誰だって同じ気持ちだろうな・・」
一瞬苦笑をこぼすハイネだが、また真剣な面持ちを浮かべる。
「だけど、戦いになっちまったら、ちょっとの油断や迷いが命取りになる。だから、割り切れよ・・でないと、死ぬぞ・・・!」
ハイネからの忠告に、アスランが心を揺さぶられる。迷いが命取りになると自分に言い聞かせようとするも、アスランはオーブへの思いとザフトとしての責務の板挟みにあって、苦悩を深めるばかりになっていた。
「だから、戦いをしようっていうんですか?・・あなたたちは、同じ人間と・・・」
そこへ海潮がやってきて、アスランたちに声をかけてきた。
「お前も戦いたくはないって考えか?」
「だって同じ人間なんですよ!ドラゴンやペンギンとは違うんですよ!」
ハイネに問われて、海潮が感情を込めて言い返す。
「お前はオレたちみたいな軍人ってわけじゃない。だけど1国の王様に選ばれたって聞いてる。」
ハイネが真剣な面持ちで海潮に話しかける。
「日本やバロウも裏の組織から狙われている。お前たちだって危険と隣り合わせなのが現状だ・・覚悟を決めるときは決めないと・・」
「でも・・それでも・・・!」
さらに忠告するハイネに、海潮は言葉を返せなかった。それでも納得はできず、彼女もやるせない気持ちを膨らませていた。
「まだ時間はある。その間に吹っ切れればいいんだからな・・」
ハイネは海潮にも激励を送り、浜辺を後にした。
一方、シンはミネルバの自室で、インパルスのシュミレーション練習をしていた。しかし気負っている彼は焦りを膨らませて、余計なミスを重ねていた。
「どういうことなんだよ・・この前はクリアできたとこなのに・・・!」
シンが不満を感じて愚痴をこぼす。彼は腰かけている椅子の背にもたれて、ため息をつく。
そのとき、部屋のドアがノックされて、シンがドアに目を向ける。
「どうしたんだ、シン?何かあったのか?」
ドアが開いて、孝一が部屋に入ってきた。
「またシュミレーション練習をしてるのか?熱心なことだな。」
「何か用か?邪魔をする気なら怒るぞ・・」
気さくに言う孝一に、シンが不満を見せる。
「オレもダイミダラーを乗りこなせるように、師匠に厳しく鍛えられたもんだぜぇ・・あ、師匠っていうのは又吉長官のことだけどな。」
孝一が一雄から受けた特訓の数々を思い出して、笑みをこぼす。その多くがいやらしいものばかりだった。
「けど、モビルスーツとは勝手が違うからな。大したアドバイスはできそうにねぇや。」
「今は出てってくれないか?オレはもっと強くならなくちゃならないんだ・・!」
肩を落とす素振りを見せる孝一に対し、シンが不満を膨らませた。
「確かに強くならないといけないわね。厄介な敵が増えてきているからね・・」
アンジュもやってきて、肩を落とす素振りを見せてきた。
「アンジュも来たのか・・モビルスーツの操縦はパラメイルとも違うぞ・・」
シンがアンジュにも不満の態度を取る。
「そうね。だからモビルスーツの操縦は、アンタたちのほうがお得意ってわけね・・」
アンジュも気のない素振りを見せて言い返す。
「だからオレ自身で強くなるしかないんだ・・!」
「なるほどな・・それで、誰か参考になるモビルスーツ乗りはいねぇのか?そいつの戦い方を意識すりゃ強くなれるかもしれねぇし。」
力への渇望を口にするシンに、孝一がアドバイスをする。
「誰かを参考に・・隊長は前の大戦で活躍した1人だけど、少し前までオーブにいたからな・・」
シンがアスランのことを考えて不満を口にする。
「隊長だけど、オーブにいたから信用できないのね。」
「あぁ・・他はジュール隊のパイロットか、あとはヴェステンフルス隊長・・」
アンジュが口にした言葉に頷いて、シンは他のパイロットのことを考えていく。
同じく以前の大戦で前線で戦ってきたモビルスーツパイロット、イザーク・ジュールとディアッカ・エルスマン。イザークはジュール隊の隊長として、ディアッカを含む隊員たちを指揮している。
「オレたちの噂でもしてるのか、お前たち?」
そこへハイネが通りがかり、シンたちに声をかけてきた。
「ヴェステンフルス隊長・・」
「“ハイネ”って言えって言ってるだろ・・お前もかなり強情だな・・」
不満げに言うシンに、ハイネが肩を落とす。
「ハイネ、こっちに戻ってきたんだな。ハイネだったら、シンが強くなるお手本になるんじゃねぇのか?」
孝一がハイネに気さくな笑みを見せて、シンに提案する。
「強くなる?・・あぁ、ちょっといい成績とは言えないな。このシュミレーションの結果を見る限りじゃ・・」
ハイネがシンのシュミレーションの映像を見て、ため息まじりに言う。
「シン、お前は慌てることはないぞ。インパルスをすごくうまく乗りこなしているし、みんなのピンチを救ったこともあるんだからな。」
「しかし、オレよりも強い敵はたくさんいます・・アルゼナルに出てきた赤い機体や、この前の虚神というヤツも・・」
称賛を送るハイネだが、シンが無力さに打ちひしがれていた。
「だから強くなるために、強いってことを証明するために突っ込んでいくってわけか。そうやってもかえっていい結果は出ないぞ・・」
「ですが、攻めなくちゃまず勝てないじゃないですか・・」
「そりゃそうだけど、無闇に突っ込んでもやられるだけだぜ。」
ハイネの投げかける言葉に、シンが動揺を浮かべる。
「戦いに迷いや油断は禁物だが、冷静な判断も必要だ。何が起こっても自分を見失わず、臨機応変に対応するのが大事だ。」
「冷静な判断、ですか・・」
「目の前の敵を倒すのはもちろんだ。だけど1番の敵は自分自身だってことさ。」
ハイネの話を聞いて、シンが戸惑いを覚える。
「お前の腕っぷしは強いって、オレも認めてるんだ。だから自分を見失わなければ、無敵のスーパーエースになること間違いなしだな。」
「オレが、スーパーエース・・・!?」
ハイネの激励を受けて、シンが心を動かされる。
「すげぇじゃんか、シン!ハイネからも認められてるじゃんか!」
孝一がシンに感動を見せる。
「1番の敵は自分自身・・私にもみんなにも言えるわね・・」
アンジュも皮肉を感じて笑みをこぼした。
「それと、ないとは思いたいけど、もしオレに何かあったときには、新型をお前に託すようにとも、議長に頼んであるんだ・・」
「何かあったときって・・そんな縁起の悪い・・」
ハイネのこの話に、シンが気まずさを覚える。
「もちろんオレも戦いで死ぬつもりなんて全くない。1番の理想は、新しい部隊でお前やレイたちとまた組んで戦うことだな。」
「オレたちがまた・・ヴェステンフルス隊長と・・・!」
「だから“ハイネ”って呼べって何度言えば分かるんだよ・・」
「でもやっぱり、隊長は隊長ですから・・」
隊長と呼び続けるシンに、ハイネは呆れ果てていた。
「お前ってヤツは・・・そこまで言うなら、もし今度ハイネって呼ばなかったら、フェイスの権限使って、お前にミネルバの掃除を命令するからな!」
「ちょっと、そんな横暴な・・!」
ハイネからの注意に、シンが不満の声を上げる。
「だったらいい加減に慣れることだな、シン。」
言いかけて笑い声を上げるハイネに、シンは滅入って肩を落とした。
「ま、オレたちはこれからも今もザフトの、そしてクロスの仲間だ。息合わせてバッチリ行こうぜ。」
「は、はい・・!」
ハイネが気さくに呼びかけて、シンが笑みを浮かべて答えた。
翌朝になり、カナタたちは武蔵野を目指して出発することになった。
「ありがとうございます、グラディス艦長。私たちをクロスの一員にしていただいて。」
「私たちもあなた方に助けられました。お互い、これからの苦難を乗り越えていきましょう。」
エリナとタリアが互いに感謝する。
「エース部隊、クロスに加入します。といっても、海の上ではエースは移動できないんですけどね・・」
穂波が挨拶して、自分たちのできることの制限に苦笑を浮かべる。
「クロスのメンバー、ミネルバクルー、サリア隊、搭乗完了。魅波さんたちと孝一くんたち、カナタくんとラブさんも準備ができています。」
メイリンがミネルバと飛行艇の状況を報告する。
「目標、日本、武蔵野。クロス、発進します。」
タリアの号令を合図にして、ミネルバと飛行艇がバロウ島から発進した。
ミネルバと飛行艇が動き出したことを、連合軍が捉えた。
「ついに動き出したか・・我々も出撃準備だ。」
ネオが兵士たちに指示を出す。彼らの乗る戦艦には、オーブ軍の指揮を務めるユウナの姿もあった。
「よろしくお願いします、ユウナ殿。あなたたちオーブの力、頼りにさせていただきます。」
「任せておきたまえ!我らオーブが味方になるのだから、もうあなた方が負けを喫することはありませんよ!ハッハッハ!」
信頼の言葉を掛けるネオに答えて、ユウナが勝ち誇って笑い声を上げる。
「さぁ来るがいい、ザフト!オーブ軍と連合軍が手を組めば、向かうところに敵はなーし!」
自信満々に振る舞うユウナに、オーブの軍人たちは呆れ果てているのを表に出さないようにしていた。
「進路上に多数の熱源あり。連合軍です。」
メイリンがレーダーを確認し、連合軍の出現を報告する。
「こちらの予想通り、この進路で待ち伏せていたわね・・」
タリアはひと息ついてから、連合軍との戦闘に備える。
「みなさん、発進の準備はよろしいですか?」
タリアがドックに待機しているカナタ、飛行艇にいる海潮たちに呼びかけてきた。
“私たちはいつでも出られます。”
“オレと恭子も、いつでも出られるぜ!”
“ランガも空を飛べます!みなさんを援護できます!”
サリア、孝一、海潮がタリアに答える。
“オレも戦います・・また暴走する危険は残っていますが、それでも・・・!”
カナタも不安を抱えながらも、シンたちと戦う決意をしていた。
「分かりました・・総員、第一種戦闘配備!各機、発進準備!」
頷いたタリアが号令を出す。クロスが連合軍に対し、臨戦態勢に入った。
ミネルバのドックにて、シンたちとカナタはそれぞれの機体に乗り込んだ。アンジュたちも飛行艇から出る準備を整えていた。
「アスラン、シン、カナタ、まずはオレたちで先陣を切り、連合の戦力をそぐ。サリア隊とランガがその後に続く。」
“そして連合艦隊に向けて、タンホイザーを撃ち込み針路を確保するわ。”
ハイネが指示を出して、タリアも通信を送ってきた。
「了解です。発射の直前に退避します。」
アスランが答えて、シンたちとともに発進に備えた。
「私たちも出撃して、あなたたちを援護するわ。」
「あぁ。お前たちも頼りにさせてもらうぜ。」
サリアも声をかけて、ハイネが気さくに答えた。
「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」
「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」
「ハイネ・ヴェステンフルス、グフ、行くぜ!」
シンのコアスプレンダー、アスランのセイバー、ハイネのグフがミネルバから発進した。続けて射出されたフォースシルエット、チェストフライヤー、レッグフライヤーがコアスプレンダーと合体して、フォースインパルスとなった。
「シン、ガムシャラばっかになるなよ。こっちは攻撃するだけじゃなく、アイツらの注意を引き付けることを優先するんだ。」
「はいっ!」
ハイネが呼びかけて、シンが落ち着きを払いながら答える。連合の艦隊からウィンダムだけでなく、オーブ軍のモビルスーツ「ムラサメ」も出撃してきた。
ウィンダムやムラサメが出撃していく中、それぞれの機体に乗って待機していたスティング、アウル、ステラも発進準備に入る。
「スティング・オークレー、カオス、発進する!」
「アウル・ニーダ、アビス、出るよ!」
「ステラ・ルーシェ、ガイア、出る・・」
スティングのカオス、アウルのアビス、ステラのガイアが発進した。
「今度こそアイツらを仕留めてやるぜ!」
アウルがいきり立ち、アビスが海中を進んでインパルスたちに近づいていく。ガイアがそばの陸地に着地して走っていく。
「おっと!お前の相手はオレだぜ、ガイア!」
ハイネのグフが着地して、ガイアの前に立ちはだかった。
「じゃまだ!」
ステラが叫び、ガイアがモビルアーマーからモビルスーツに形態を変化させた。ガイアがビームライフルを手にして発射するが、グフは素早くビームをかわす。
「ザクとは違うんだよ・・ザクとは!」
ハイネが言い放ち、グフが左腕から鞭「スレイヤーウィップ」を伸ばして、ガイアのビームライフルの銃身に巻きついた。スレイヤーウィップから電撃が放たれ、ビームライフルを破壊した。
「わたしを・・わたしをよくも!」
ステラが怒りの声を上げて、モビルアーマー形態になって、ビーム突撃砲を発射する。グフが飛翔してビームをかわし、ビームガンを覇者してけん制する。
「オレがいることを忘れるなよー!」
孝一が言い放ち、ダイミダラーがガイアに向かって降下してきた。
「くらえ!指パーンチ!」
ダイミダラーがハイエロ粒子を集めた左手を握りしめて振り下ろす。ガイアが後ろに跳んで、ダイミダラーの拳をかわす。
「どれだけ数が多くても、海の中じゃオレが有利だ!」
アウルが笑みを浮かべて、アビスが海中からインパルスたちを狙い撃ちしようとした。そこへランガが胸の紋様から剣を出して、急降下してきた。
「何っ!?」
アウルが驚きの声を上げて、ランガが振り下ろした剣をアビスが紙一重でかわした。
「アイツ、オレのことに気付いたのかよ!」
アウルが不満を覚えて、アビスがカリドゥスを発射してランガを引き離す。
後方に下がっていくアビスだが、その先にビームサーベルを手にしたイザナギが待ち構えていた。
「このっ!」
アウルが不満の声を上げ、アビスがビームランスを振りかざして、イザナギのビームサーベルとぶつけ合う。
(まだ暴走はしていない・・だけど気を付けないと・・・!)
イザナギの状態に気を配りながら、カナタは戦闘に集中する。
カオスもインパルスとセイバーの連携の射撃で防戦一方となる。ウィンダムとムラサメも、ヴィルキスたちによって撃ち落とされていく。
スティングたちを援護しようと、連合の戦艦が前方に出てきた。
「敵軍が本艦の前方に集まってきました!」
「タンホイザー、起動。目標、敵護衛艦群。」
アーサーが声を上げて、タリアが冷静に指示を出す。ミネルバがタンホイザーを起動して、エネルギーを集めていく。
「始まったか・・シン、離れるぞ!」
「はい!」
アスランが呼びかけて、シンが答える。インパルス、セイバー、グフがタンホイザーの射線軸上から離れる。
「ってぇ!」
エネルギー充填が完了し、アーサーが発射の号令をかけた。
そのとき、一条の光線が飛び込み、タンホイザーの発射口が貫かれて爆発を起こした。
「な、何っ!?」
ミネルバの艦内で揺さぶられるルナマリアが、突然のことに驚きの声を上げる。タンホイザーが損傷して、ミネルバから煙が出ていた。
「ミネルバが撃たれた!?」
「いったい、どこから・・!?」
シンとハイネが声を荒げて、周りに視線を向ける。連合やオーブがミネルバを攻撃した様子はない。
次の瞬間、1機の機体が空から降下してきた。
「あ、あれは・・!」
シンがその機体を見て目を見開く。
「フリーダム・・キラ・・・!?」
アスランも今の瞬間に目を疑っていた。インパルスたちの前に現れたのは、フリーダム。シンたちの世界で、前の戦争の終結に貢献した機体だった。