スーパーロボット大戦CROSS

第20話「白き汐」

 

 

 ランガの暴走と連合軍の追撃に見舞われたカナタたちだが、ハイネと隼人たちに救われて窮地を脱した。彼らはバロウ島に身を隠し、束の間の休息を取っていた。

「久しぶりのバカンスってところか。連合軍もドラゴンも出てこないし・・」

「ここの人たちはみんな親切にしてくれるけど・・・」

 島の広場に来て、ロザリーとクリスがひと息つく。

「確かに気が休まるけど・・いつまでも居座ると気分まで萎えそうだ・・」

 ヒルダが気乗りせずにため息をつく。

「おーい♪3人も海で泳ごうよー♪」

 浜辺にいたヴィヴィアンがヒルダたちに手を振ってきた。

「今は気晴らしに思い切り泳ぐとするか。」

「おっ!だったらどっちが速く泳げるか、勝負といくか!」

 乗り気になったヒルダとロザリーが海に向かって走り出した。

「おー♪私も競争するよー♪」

 ヴィヴィアンも大喜びして、ヒルダたちを追いかけていった。

「私は浜辺で海でも見てる・・・」

 クリスは呟いて、浜辺に置かれているビーチチェアに向かった。その1つには、水着姿の夕姫が横たわっていた。

「あなたは泳がないの?」

「・・羽目を外すのは好きじゃない・・・」

 夕姫が声をかけて、クリスがため息まじりに答える。

「私も、あんまり騒がしいのは好きじゃない・・」

 夕姫も自分の考えを口にして、クリスが戸惑いを覚える。

「私たち、どこか似てるかもしれないわね。世の中に不満を持っているところとか・・」

「私たちはノーマ・・ノーマはマナを持つヤツらから嫌われているから・・」

 夕姫とクリスがお互いに共感していく。

「・・ランガがやってきて、私たちもできないことはなくなったと思っていた・・でもランガは言うことを聞かなくなって、私たちの前からいなくなった・・・」

「だったら、次に出てきたときに言うことを聞かせてやればいいんじゃないの?・・ランガはアンタたちに従う神様なんでしょう・・?」

 自分の無力さを痛感する夕姫に、クリスが海に目を向けて答える。

「そうよね・・ランガは今まで私たちの言うことを聞いていた・・今度も言うことを聞くはずよ・・ううん、必ず聞かせてみせる・・!」

「それで、気に入らないものを力で排除する・・・」

「えぇ。身勝手な社会を正して、私たちがいい世界にするんだから・・・私たちは、自由なんだから・・・」

「自由・・・」

 夕姫と決意を確かめ合う中、自分たちが追い求めていたものを確かめて、クリスは戸惑いを募らせていた。

「ゴール!あたしが1番だよー♪」

 浜辺のそばから海岸までの海を泳ぐ競争で最初に辿りつき、ヴィヴィアンが喜ぶ。

「ちっくしょう・・なんて速さだよ、アイツ・・!」

「速いっていうより、元気が格段に上だよ・・!」

 海から出たロザリーとヒルダが、ヴィヴィアンの運動量に対して愚痴る。

「うほー♪水着美女がより取り見取りだぜ〜♪」

 そこへ孝一がやってきて、ヒルダたちを見て興奮する。

「あのヤロー、またいやらしいマネをしに来たな・・!」

 ロザリーが彼に不満を込めた視線を送る。

「コラー!孝一くん、やっぱりここにいたのねー!」

 恭子が孝一を追いかけて、注意を呼びかけてきた。

「何だよ、せっかくの鑑賞タイムだっていうのにー!」

 孝一はふくれっ面を浮かべてから、浜辺を離れて恭子から逃げた。

「相変わらず、水着女性のいるところに顔を出してくるんだから・・」

 孝一の行動に、恭子だけでなく、ヒルダとロザリーも呆れ果てていた。

 

 夕姫たちのいる浜辺から少し離れた海の上に、ゴムボートに乗った魅波とサリアがいた。

「ランガがいなくなって、辛いですか?」

 太陽の輝く空を見上げている魅波に、サリアが声をかけてきた。

「ランガがいなくて辛くないって言ったらウソになるわね・・でも今は、勝流さんのことを思い出していたの・・」

「勝流さん?」

 魅波の話を聞いて、サリアが眉をひそめる。

「あ、みんなには話してなかったわね・・私たちには兄がいたのよ。島原勝流。10年前にこのバロウ島に来て王になって、その後に行方不明になったって・・・」

 魅波がサリアに勝流のことを話す。島原家の仏壇には勝流の写真が置かれている。

「あなたたちも、大事な人を失っていたのね・・・」

 サリアが魅波たちに共感して、悲しい顔を浮かべる。

「みんな、大切な人を失った悲しみがあるのね・・・」

「あなたにも、大切な人が・・・?」

「生きているけど、私の気持ちは伝わっていない・・というところね・・私はあの人のために力を尽くしているのに・・・」

「想いを寄せているけど、それがうまくいっていない、というところね・・」

 サリアの話を聞いて、魅波が微笑む。

「相手が男だったら、すばらしい恋物語だけど、アルゼナルに男の人が来たことは、私たちが来るまではなかったのよね・・」

「からかわないで、魅波さん。私は本気でそう思っているんだから・・」

 魅波が投げかけた言葉に、サリアが不満を見せる。

「女同士というのも悪くないんじゃないかしら?・・私のように、許されない恋心を持つよりは・・・」

「許されないって・・あなた、まさか・・・!?

 魅波が口にした言葉に、サリアが動揺を覚えた。

 そのとき、魅波たちのいる海の底に白い光が淡く浮かび上がった。

「何、この光・・・!?

「私が見てくるから、サリアさんはここにいて!」

 緊張を覚えるサリアに呼びかけて、魅波が海の中に潜った。

「魅波さん!」

 サリアが声を上げて、魅波が海の底へ向かっていくのを見送ることになった。

 

 白い光を発した海の底へ潜った魅波。海の底は深く、光もその奥底で煌いていた。

(あの光ね・・あれは何なの・・・?)

 魅波が光を目指してさらに進んでいく。彼女は光の奥に1つの人影があるのを見つけた。

(あれは・・勝流さん・・・!?

 魅波はその人影が勝流のように見えた。しかしなぜ彼が海の底にいるのか、魅波は疑問を覚える。

(勝流さん、どうしてここに・・・!?

 魅波が心の中で問いかけるが、勝流の影は答えない。

 やがて光が弱まって、奥底にあった岩場が魅波の視界に入った。その形はランガの顔のように見えた。

(ランガ!?

 魅波がたまらず岩場に向かって手を伸ばす。しかしそれは本物のランガではない。

(ランガは、勝流さんだったの!?・・だから、私たちのところに帰ってきて、私たちを守ってくれたの・・・!?

 魅波がランガの、勝流の面影に向かって念じていく。

(だとしたら、勝流さんは今度こそ・・・)

“ランガを信じよ・・ランガは滅びぬ・・・”

 そのとき、絶望を覚えた魅波の脳裏に声が響き渡ってきた。

(この声は・・・!?

 魅波が声の主を捜して、周りに視線を移していく。

(誰なの!?・・どこにいるの!?

“海が白く染まるとき、ランガを呼べ・・”

 問いかける彼女に、声はさらに響いてくる。

(海が白く染まるとき・・!?

 その言葉の意味に魅波が戸惑いを覚えたとき、海の光が一気に強まった。

 

 ゴムボートの上から海の中をのぞいて、サリアは魅波を捜した。そんな彼女に気付いて、海を泳いでいたエルシャが近づいてきた。

 サリアも近づいてきたことに気付いて、海から顔を出した。

「サリアちゃん!?こんなところで何をしているの!?

「エルシャ!・・海で白い光が出て、魅波さんが様子を見に中に潜っていったのよ・・」

 エルシャが驚きの声を上げて、サリアが事情を話す。

「中に入って長く経つけど・・・!」

「ミネルバの人たちに知らせて、魅波さんの救出を・・・!」

 サリアが不安を感じて、エルシャがタリアたちに知らせに行こうとした。魅波が海から出てきて、ゴムボートにすがりついた。

「魅波さん、大丈夫ですか!?

「エルシャ・・えぇ・・大丈夫よ・・」

 エルシャが心配の声をかけて、魅波が呼吸を整えて答える。

「魅波さん、光の正体は分かりましたか・・?」

「詳しくは分からなかった・・ただ、その先にいたのは、ランガと勝流さんの幻だけ・・・」

 サリアが問いかけると、魅波が思いつめた面持ちを浮かべて答えた。

(本当に、ランガは勝流さんだっていうの・・・!?

 勝流は本当にランガになって帰ってきたのか。この疑問で魅波は複雑な心境に陥っていた。

「今は浜辺に戻って休憩しましょう。そこまで潜って疲れているはずだから・・」

 エルシャの投げかけた言葉に、サリアと魅波が頷いた。3人は1度海から戻っていった。

 

 その頃、シンたちはそれぞれの機体のチェックをしていた。休息の時間だと自覚しながらも、シンは強くなろうと必死になっていた。

(オレはまだまだ弱い・・連合相手に負けないようになってきたけど、あの虚神とかいうヤツには歯が立たなかった・・・!)

 ミナカタに敵わなかったことに、シンは悔しさを感じていた。

(もっと強くなる・・どんな敵が来ても負けないくらいに・・・何も守れないのは、もうイヤだ・・・!)

 悲劇の払拭と力への渇望を膨らませて、シンはインパルスのチェックに集中した。

「シンくん・・・」

「シンさん、鬼気迫る感じがするよ・・この前の戦いが悔しかったのかな・・・」

 近くを通りがかったカナタとラブが、シンを見かけて気に掛ける。

「思いつめてるのは、あの子も同じみたいね・・」

 アンジュが2人のところに来て、ドックの片隅で落ち込んでいる海潮に目を向けた。

「海潮ちゃん・・ランガがいなくなって・・まるで、心に穴が開いたみたい・・・」

 ラブが海潮を心配して、悲しみを膨らませていく。

「ランガは戻ってくる・・だってずっと海潮ちゃんたちに力を貸してくれたじゃないか・・分かんないことはたくさんあるけど、それは確かだ・・・」

 カナタがランガの帰還を信じて、真剣な面持ちを浮かべた。

「そうね・・それでもしまた言うことを聞かなかったら、言うことを聞くように刺激してやればいいのよ・・」

「そんな物騒なことを・・・」

 不機嫌そうに言うアンジュに、ラブが呆れる。

「おっ!噂のインパルスのパイロットだな。」

 インパルスの前にハイネがやってきて、シンに声を掛けた。

「あなたは・・」

 シンが戸惑いを覚えて、コアスプレンダーから降りた。

「そういえばちゃんと挨拶をしてなかったと思ってな。ちょっとこっちに来てくれ。」

 ハイネが手招きをして、シンとルナマリアたちが彼のそばに来た。

「改めて自己紹介だ。オレはフェイスのハイネ・ヴェステンフルス。デュランダル議長のご意向で、オレもミネルバに乗艦することになった。」

 ハイネがシンたちに挨拶をする。

「ミネルバのレイ・ザ・バレルです。」

「ルナマリア・ホークです。」

「シン・アスカです。」

 レイ、ルナマリア、シンがハイネに挨拶をする。

「お前たちのことも聞いているぜ。イザナギって機体のパイロットと、アルゼナルのメイルライダーだったか?」

 ハイネがカナタたちに振り向いて声をかけてきた。

「はい。天命カナタです。」

「愛野ラブって言います。」

「私はアンジュよ。」

 カナタ、ラブ、アンジュがハイネに自己紹介をする。

「おーい!バロウの代表の3姉妹の1人だよなー!?

 ハイネが呼びかけて、海潮が振り返って彼らのところへ来た。

「あなたは、ザフトから新しく来た人ですね・・この前は助けてくれてありがとうございました・・」

 海潮がハイネに感謝して、深々と頭を下げた。

「そんなに気にすることの程じゃないって。みんな無事で何よりじゃないか。」

 ハイネが苦笑いを見せて、海潮をなだめる。

「同じくフェイスのアスラン・ザラです。よろしくお願いします。」

 アスランも続けてハイネに挨拶する。

「1回ザフトを抜けて、最近復隊したんだったな。前はクルーゼ隊だったか。」

「あ、はい。」

 ハイネが投げかける話に、アスランが答える。

「オレはホーキンス隊所属だった。ヤキン・ドゥーエではすれ違ったみたいだな。」

 ハイネが2年前の大戦のことを振り返って語っていく。

「これからよろしくお願いします、ヴェステンフルス隊長。」

 ルナマリアが微笑んで、ハイネに敬礼する。

「“ハイネ”でいいよ。そういう堅っ苦しいのは好きじゃないから。」

 ハイネは気さくな態度のまま答える。

「それでザラ隊長、これからの現場の指揮はどちらが・・?」

 レイがアスランに質問を投げかける。

「それはフェイスの先任のヴェステンフルス隊長が・・」

「ハーイーネ。そりゃアスランだろ。ミネルバでの先任はアスランだし、コイツらの指揮も議長から言われてるんだから。ま、オレもサポートするつもりだけどな。」

 アスランが言いかけると、ハイネが口を挟む。

「それにしてもアスラン、お前、“隊長”って呼ばれてんの?」

「隊長は我々の上官で、ミネルバでの戦闘指揮官でもありますので・・」

 ハイネがアスランに問いかけて、レイが答える。

「なるほどな。けど、隊長だから、部下だからって距離作っちゃうのも、どうかと思うんだよなぁ・・」

 ハイネは頷く素振りを見せるも、腑に落ちない態度も見せる。

「でも隊長は私たちの上官。位が上な相手にそれなりの態度を取るのは・・」

「だからそれが堅苦しいっていうんだよ・・」

 当惑を見せるルナマリアに、ハイネがため息をつく。

「オレたちパイロットは、戦場に出ればみんな同じだろ?フェイスだろうが赤服だろうが緑だろうが、戦いになればみんな同じ1パイロットじゃないか。」

「それは、そうですが・・・」

 ハイネの語ったことに、シンがただただ頷く。

「お前たちのことも聞いてるぞ。ノーマだろうとマナ使いだろうと、王様だろうと一般人だろうと、戦いじゃみんな同じなんだから・・あ、でもパイロットってわけじゃないか。」

 カナタたちにも話を振って、ハイネが苦笑いを見せた。

「とにかく、みんな同じでいいんだよ。隊長とか部下とかさん付けとか、そういうのはなしだ。」

 ハイネは話を続けて、アスランに目を向ける。

「だからお前ら、オレとアスランのことを隊長とか言わずに、呼び捨てでいいからな。あ、議長とかお偉いさんの前のときは呼んだほうがいいか・・」

 自分たちのことを気軽に呼んでほしいことを、ハイネはシンたちに伝えた。

「お前らもみんな、お互い呼び捨てで気軽にやっていこうぜ。」

「気軽にねぇ・・私もあんまり堅苦しくするのもバカバカしいと思ってるし・・」

 ハイネがさらに言って、アンジュがため息まじりに言った。

「それじゃ、改めてよろしくね、アンジュ、海潮、カナタ。」

「すっかりその気になっているな・・オレも言うとするかな。ラブ、アンジュ、海潮。」

 ラブとカナタが気兼ねなく呼びかける。

「私もいいかな・・アンジュ、カナタ、ラブ・・!」

 海潮も思い切って名前を呼んで、カナタとラブ、ハイネが微笑んで頷いた。

「いくらなんでも、上の人を呼び捨てにするわけには・・」

「何言ってんのよ。シン、士官学校のとき、いつも上官に反発してたくせに・・」

 困った顔を浮かべるシンを、ルナマリアがからかってくる。

「ルナ、余計なこと言うなよ・・!」

 シンが彼女に対して不満を口にする。

「何だよ。反抗期ってヤツか。だったらお前も堅苦しいのはいいと思ってないんじゃないか、シン。」

 するとハイネがシンに向かって笑い声を上げた。

「でもだからって、失礼になってしまいますよ、隊長!」

「“ハイネ”だって言ってるだろ・・お前もガンコだな・・」

 あくまで礼儀を尽くそうとするシンに、ハイネはため息をついた。

「それじゃ、改めてよろしくお願いします、ハイネ。アスラン。」

「あ、あぁ。よろしく、ルナマリア。」

 ルナマリアとアスランが手を差し伸べて、握手を交わした。

「では自分は、自機のチェックへ行きます、ハイネ、アスラン。」

 レイはハイネたちに告げて、自分の搭乗するザクへと向かった。

「オ、オレも失礼します・・!」

 シンも敬礼をしてから、アスランたちから離れていった。

「やれやれ、強情なヤツだな・・」

 シンの態度にハイネが肩を落とす。ハイネの気さくな振る舞いに、アスランも戸惑いを感じていた。

「ふぅ〜・・危ねぇ、危ねぇ〜・・」

 そこへ恭子たちから逃げてきた孝一がやってきて、安心を見せてきた。

「おっ!ザフトの新しい隊長か!?オレは真玉橋孝一、よろしくな!」

「ダイミダラーってヤツのパイロットだな。オレはハイネ・ヴェステンフルス。ハイネって呼んでくれ。」

 孝一とハイネが気さくに自己紹介をする。

「そうかー♪話せるなー、ハイネー♪」

「お前こそ、呑み込みが早くて嬉しいぜ。」

 明るく接する2人が握手を交わした。

「何だか、息ピッタリみたいだね、2人・・」

 孝一とハイネを見て、ラブがあ然となり、カナタが頷いた。

 

 芳幸の指揮下から離れた隼人たちは、ビッグエースとエースを連れてバロウ島に辿りついた。

「ふぅ〜・・やっと辿りつけた〜・・」

「ここが、バロウ島・・バロウ王国の島・・・」

 隼人がひと息ついて、穂波がバロウ島の浜辺を見渡して戸惑いを覚える。

「あなたたちもここに来たのね。」

 夕姫がジョエルとともに来て、隼人たちに声をかけてきた。夕姫は水着からバロウ島の民族衣装に着替えていた。

「みんな、ここでくつろいでいてズルいじゃない〜!」

 夕姫たちが海水浴をしていることに、翔子が僻む。

「他のみんなはどこ?島の奥に?」

「ミネルバはあそこに止まってます。」

 エリナが聞くと、ジョエルがミネルバと飛行艇のあるほうを指さした。

「挨拶してくる。あのミネルバって戦艦の艦長さんにな。」

 隼人が夕姫たちに言って、エリナたちとともにミネルバのほうに向かった。

「この島も人が集まって、にぎやかになったものね・・」

「あの人たち、元々悪い人じゃないから・・だからバロウに拒絶されることはないけど・・」

 ため息まじりに言う夕姫に、ジョエルが隼人たちへの信頼を口にした。

「私たちもそろそろ戻るとするわ。鉄さんたちの話も聞きたいし・・」

 夕姫もタリアたちのところに戻ろうとした。

「んぐ!」

 そのとき、夕姫が背後から口を押えられて引っ張られた。

「夕姫!?・・あっ・・!」

 声を荒げるジョエルが目を見開く。夕姫を捕まえたのは、大勢の兵士たちだった。

 

 隼人たちがバロウ島に上陸したのを、タリアたちは把握していた。ミネルバに来た隼人たちを、タリアたちは歓迎した。

「先日は助けていただき感謝しています。あなた方の力がなければ、あの状況の打破は難しかったでしょう。」

「いえ・・オレたちが間違ったことをしていて、すみませんでした・・正義や平和のためと思って任務に当たっていたつもりでしたが、利用されていただけだなんて・・」

 感謝するタリアに、隼人が自分たちの過ちを口にして謝罪する。

「私たちは休息と補給を行った後、このバロウ島を旅立ち、連合軍を迎え撃ちながら日本の救出に向かいます。」

「エース部隊であるあなたたちは、日本やあの巨人について何か知っていますか?他のことでも何でもいいので・・」

 タリアが自分たちのこれからのことを話して、アーサーも隼人たちから話を聞く。

「私たちもあの怪物のことは分からなくて・・こっちへ来るまでの間にも調べてみたけど・・」

「藤原さんはあれを虚神と言っていたが、そのくらいしかオレたちには・・・」

 エリナと隼人が深刻な面持ちで答える。

「ありがとうございます。私たちのほうでも、その虚神についても調べてみます。」

 タリアがお礼を言って、隼人と握手を交わした。

「バロウ島に滞在しているクロスの面々に告ぐ!」

 そのとき、タリアたちに向かって声が響いてきた。

「何だ、この声は・・!?

「夕姫さんたちの行っている浜辺のほうからです!軍の兵士の小隊がいます!」

 アーサーが声を荒げて、メイリンがモニターを確認して報告する。タリアも隼人たちも夕姫とジョエルを捕まえている兵士たちを目の当たりにした。

「島原魅波、島原海潮の2人を我々に差し出せ!そうすればお前たちと島民の安全は保障する!」

 小隊の隊長がタリアたちに向かって要求をしてきた。

「もしかして、竹末さんの指揮する部隊!?

「私たち、後を付けられていたってこと!?

 穂波と翔子が動揺を膨らませていく。

「ゆうぴーとジョエルが捕まったの!?

 海潮も夕姫たちが捕まっているのを目にして、驚愕する。

「早くゆうぴーを助けに行かないと・・でも、抵抗したら島の人たちが・・・!」

 夕姫たちとバロウ島の人々の両方を救う方法を考える。

「私たちが出るしかないわね・・下手に動けば、夕姫が危険だわ・・・!」

 魅波は夕姫を助けるために自ら小隊の前に出ることを決める。

「早まってはいけないわ、2人とも!あなたたちに危害が及ぶだけ!他の人が助かる保証はないのよ!」

 タリアが海潮たちを心配して呼び止める。

「それでもゆうぴーとジョエルを助けないわけにいきません!」

 海潮は夕姫たちを救いに行くことをやめず、魅波とともミネルバから出ていく。

「海潮・・魅波さん・・・!」

 ラブが困惑するも、海潮たちが行くのをただ見送ることしかできなかった。

「第一種戦闘配備!島原3姉妹の救出を遂行するぞ!」

 アーサーがシンたちに指令を出して、海潮たちの救出に備えた。

 

 小隊の前に出た海潮と魅波も、夕姫とともに兵士たちに捕まった。彼女たちは崖の上で磔にされて、兵士たちが構える銃の銃口を向けられていた。

 ジョエルは解放されたが、バロウ島の人々とともに兵士たちに海潮たちから引き離されていた。銃を持つ兵士たちに阻まれて、ジョエルたちは海潮たちに近づくことができない。

 日が暮れて夜が訪れた中、海潮たちの処刑が近づいてきていた。

「お姉ちゃんたちまで捕まることはなかったのに・・・!」

「アンタを見捨てるなんてできないわよ・・!」

 夕姫が言いかけて、魅波が心配を口にする。

「でも、これからどうするのよ?・・これじゃ身動きが取れない・・!」

「グラディス艦長たちを信じるしかない・・今はみんなに頼るしかないよ・・!」

 ため息をつく夕姫に、海潮がタリアたちへの信頼を口にする。

「MMが倒れた今、この姉妹たちを始末すれば我々に仇名す者はいなくなる。我々に離反した4人も連行し処罰する。」

 小隊の隊長が呼びかけて、海潮たちが緊張を覚える。

「何をするんだ!?あの人たちが何をしたというのだ!?

「早く彼女たちを放すのじゃ!」

 人々が兵士たちに向かって叫ぶ。すると彼らを食い止めていた兵士たちが、銃の銃身で殴りつけてきた。

「反抗するならばお前たちにも容赦しないぞ!」

 兵士たちに脅されて、人々は恐怖して押し黙る。

「射撃隊、構え!」

 隊長が指示を出し、そばにいた兵士たちが銃を構えた。

「アスラン、シン、発進して海潮さんたちの救出に向かって!」

「了解!」

 タリアが指示を出して、アスランが答える。

「コアスプレンダーで先行して、兵士を引き離す。その間にアスランが海潮たちを救い出す。お前が切り込み役だぞ、シン!」

「分かっています!やってやりますよ!」

 ハイネが激励を送って、シンが不満げな態度で答える。

「バロウ島に接近するエネルギー源あり!これは・・先日現れた巨人です!」

 そのとき、メイリンがレーダーを見て報告をしてきた。バロウ島の海岸に、海中を移動してきたミナカタが出てきた。

「オレたちに手出しさせないつもりなのか!?

 カナタがミナカタを見て憤りを覚える。

「あのときの子供がまだ、あの中に!」

 ラブがミナカタに取り込まれているラブレを見つけて指さす。

「これじゃ手出しができない・・あの氷の力を突破して、あの子を救い出さないことには・・!」

 恭子がラブレを救出しょうと思考を巡らせる。

(イザナギの力なら、あの虚神の氷の力を突破して近づくことができるかもしれない・・!)

「オレが食い止めます!その間にみんなは海潮たちを!」

 思い立ったカナタが呼びかけて、イザナギが発進体勢に入った。

「待ちなさい、カナタくん!イザナギだけでは危険よ!」

「早くしないと、海潮たちを助けられません!オレに行かせてください!」

 タリアが呼び止めるが、カナタは引き下がろうとしない。

「やむを得ません・・レイ、ルナマリア、カナタくんを援護して・・!」

「はい!」

「了解。」

 タリアがカナタの意思を受け入れて指示を出し、ルナマリアとレイが答えた。

「ハイネ、あなたも援護をお願い・・!」

「分かりました、艦長。」

 タリアが続けて指示を出して、ハイネが答えた。

「天命カナタ、イザナギ、出ます!」

 カナタの乗るイザナギがミネルバから発進した。

 ミナカタが海の水をまきあげて、水流を飛ばす。イザナギがスピードを上げて水流をかいくぐる。

「よし!これで近づける!」

 勝機を見出したカナタ。イザナギが距離を詰めて、ミナカタに後ろから組み付いた。

「今のうちに海潮たちを!」

「シン・アスカ、コアスプレンダー、いきます!」

 カナタが呼びかけて、シンがコアスプレンダーで出撃した。

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

 アスランのセイバーも続けてミネルバから発進した。全速力で向かうコアスプレンダーだが、海潮たちに間に合わない。

「こんなところで死ぬなんて、絶対にイヤ・・!」

 夕姫が磔から抜け出そうともがく。海潮もこの状況を抜け出す方法を考える。

“海が白く染まるとき、ランガを呼べ・・”

 そのとき、魅波が海の中で聞こえた言葉を思い出した。彼女が後ろの海に白く淡い光が浮かんでいることに気付いた。

「海潮、夕姫、ランガを呼ぶのよ!」

「えっ!?

 魅波が呼びかけて、夕姫が声を荒げる。

「でも、ランガは今は・・・」

「いいから呼ぶのよ!」

 当惑する海潮に、魅波が声を張り上げる。

「こうなったらそうするしかないわ!ランガが来ると信じて・・!」

「ゆうぴー・・お姉ちゃん・・・うん・・!」

 夕姫が思い立って、海潮が頷いた。3人がランガのことを思って、意識を集中した。

「ランガー!」

 海潮、魅波、夕姫が声を張り上げてランガの名を呼んだ。

 次の瞬間、海潮たちの後ろの海の水が舞い上がった。その水の中からランガが姿を現した。

「あ、あれは!?

「ランガ!」

 ランガの登場に隊長が驚愕し、海潮が喜びの声を上げた。

 

 

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