スーパーロボット大戦CROSS

第19話「黄昏の戦士」

 

 

 突如現れたミナカタに、暴走したランガが攻撃を仕掛けた。しかしミナカタの水を操る能力によって放たれた氷の刃が、ランガの体を貫いた。

「ランガー!」

 体勢を崩すランガに、海潮が悲痛の叫びを上げる。

「やめさせて、藤原さん!このままじゃランガが・・!」

 彼女がたまらず和王に詰め寄る。

「もはや止めることは難しいよ。ランガもミナカタも、いや、彼女の心も・・」

 和王が冷静に答えて、海潮が愕然となる。

「ランガを鎮める役目を果たす者ではあるが、彼女はまだ幼い少女。喜怒哀楽を制御できず、何をきっかけにして心を揺さぶられるか分からない・・」

「藤原さん、あなたがそれを逆撫でして、アレに乗せたってわけね・・!?

 語りかける和王に、魅波が鋭い視線を向ける。

「見損なったわ・・あなたが、そんな人だったなんて・・・!」

 夕姫も和王に軽蔑の眼差しを送る。

 そこへ武装した軍人の集団が現れて、持っていた銃を構えて海潮たちに銃口を向けた。

「何なの、あなたたちは!?

 魅波が問いかけるが、軍人たちは構えを取ったまま答えない。

「君たちを拘束させてもらう。あの巨人を再び動かせるようになっては敵わんからな・・」

 芳幸が軍人たちに目を向けて、海潮たちに言いかける。軍人たちは芳幸と和王に協力していた。

「私たちを捕まえて、いいように利用しようというのね・・・!」

「これも日本のため、そして君たちのためだよ。」

「あなたも身勝手な大人の1人にすぎなかったのね・・そうやって、私たちを飼い殺しにするのね・・・!」

「飼い殺しだなんて・・・」

 敵視してくる夕姫に、和王が肩を落とす。

「早く彼女たちを保護してください。ミナカタがランガを押さえている間に。」

 和王が芳幸に目を向けて呼びかける。

「そうはさせるかよ!」

 孝一の駆るダイミダラーが海潮たちを助けに向かうが、エースが行く手を阻んできた。

「どきなさい!あなた、あのような怪物の味方になるつもりなの!?

「あの黒いのもバケモノじゃない!しかも思いっきり見境なくしちゃってるし!」

 恭子が呼びかけると、翔子が抗議の声を上げる。

「私たちはエースのパイロット・・日本を守るために、MMを、ランガってヤツを討つのよ・・!」」

「そうやって言いなりになって利用されて、お前らは満足なのかよ!?

 穂波も自分たちの任務を遂行しようとして、孝一が不満をぶつける。

「オレはオレの道を行く!そして心を動かされたものにしか、オレは振り向かねぇ!」

「そんな勝手な考えで、国や世界をかき乱されたくないわ・・!」

 自分の考えを口にする孝一に、穂波が言い返す。

「かき乱しているのはお前らのほうだ!オレたちにいきなり戦い挑んできて!あんなわけ分かんないヤツまで出してきて!」

「あのような怪物に、あなたたちも付き従うつもりなの!?

 孝一と恭子に言われて、翔子と穂波が心を揺さぶられる。2人がミナカタに目を向けて、動揺を膨らませていく。

 その動揺は隼人とエリナも持っていた。

 

 その頃、シンたちも海潮たちを援護するため、出撃に備えていた。

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

 シンの駆るコアスプレンダーがミネルバから発進した。続けてチェストフライヤー、レッグフライヤー、フォースシルエットが発進して、コアスプレンダーと合体してフォースインパルスとなった。

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

 アスランのセイバーも発進して、インパルスとともにミナカタに向かっていく。

 インパルスとセイバーがビームライフルを手にして、ミナカタの足を狙う。しかしミナカタが操る水流にビームがさえぎられる。

「くそっ!何だ、あの力は!?

「あれでは攻撃を当てられない・・・!」

 シンが声を荒げて、アスランが毒づく。ミナカタがインパルスたちに振り向いて、水流から氷の刃を飛ばしてきた。

 シンたちが反応し、インパルスたちが氷の刃を素早くかわす。

「近づくこともできないとは・・!」

「それに、まずはあの子を助けないといけないんでしょ!?海潮たちの知り合いみたいだし・・!」

 焦りを膨らませるアスランと、ラブレのことを気にするシン。

「せめて3人を救出するまでの時間を稼ぐんだ。あの子の救出を本格的に踏み切るのはその後だ・・!」

 アスランが最善手を模索して、シンがランガとミナカタの交戦を見届けるしかなかった。

「3人を連れていけ!ただし発砲は極力行わないように!」

 芳幸が命令して、軍人たちが海潮たちを捕まえようとする。

「そうはさせないわ!」

 そのとき、ルナマリアの乗るザクがミネルバから飛び出してきて、海潮たちの近くに着地してきた。

「な、何っ!?

 ザクの介入に芳幸が驚き、軍人たちが身構えてザクに銃口を向ける。

「3人とも大丈夫!?

「ちょっと!もうちょっと安全に降りてきなさいよ!」

 ルナマリアが呼びかけて、夕姫が文句を言う。

「ためらうな!撃て!」

 芳幸が命令して、軍人たちがザクに発砲する。しかしザクは射撃を当てられても傷1つ付かない。

「早く3人を捕まえれば・・!」

 軍人たちが海潮たちを捕まえようとしたときだった。ビッグエースが駆けつけて、彼らと海潮たちの間に割って入った。

「逃げろ!3人ともここから早く逃げろ!」

「鉄さん・・!」

 呼びかけてきた隼人に、海潮が戸惑いを見せる。

「私たちを助けている・・ランガと敵対していたあなたたちが、どうして・・!?

「オレたちはわけの分かんないヤツらに利用されてた!オレたちがこの国を守るのは、そんなヤツらのためなんじゃない!」

 魅波が問いかけて、隼人が今の自分の正直な思いを口にする。真に守るべきものが何なのか、彼は気付いた。

「オレたちがまず守るのは、みんなのいるこの町だ!」

「鉄!お前ら、我々を裏切るつもりか!?

 言い放つ隼人に、芳幸が怒鳴る。

「アンタたちがオレたちを利用したんだろうが!」

「私たちを騙した礼は、たっぷりとしてあげないとね!」

 隼人とエリナが芳幸に怒鳴り返す。

「2人とも・・・!」

 隼人たちの決心を耳にして、翔子が心を動かされる。

「穂波、私もあの子たちの味方をしたいんだけど・・ついてきてもらっていい・・!?

「・・聞かれるまでもないことよ、翔子・・私も、アンタと同じ気持ちよ・・!」

 翔子が聞いて、穂波が笑みをこぼして頷いた。

「それじゃ、遠慮なく行くよ!」

 翔子が思い立って、エースが銃砲を発射して、軍人たちをけん制して引き離す。

「翔子、穂波!あなたたちも私たちについてきてくれるの!?

「私たちも怪しい連中の味方はしたくないですからね!」

 エリナが戸惑いを感じて、翔子が答える。

「オレたちもアンタたちに協力する!海潮ちゃんたちを助けてやってくれ!」

「分かりました!協力、感謝します!」

 隼人の呼びかけにルナマリアが答える。ザクがオルトロスを振りかざして、芳幸と軍人たちを遠ざける。

「魅波さん、手の上に乗ってください!」

 ルナマリアが呼びかけて、ザクが海潮たちに左手を差し伸べてきた。海潮たちがその手の上に乗った。

 ザクがブーストを噴射して浮上して、ミネルバに乗り込んだ。

「魅波さんたちを回収しました!」

「ミネルバ、浮上!ランガと対峙する巨人への攻撃を続行する!」

 ルナマリアが報告して、タリアが指示を出す。

「待ってください、グラディス艦長!アレにはラブレがいるんです!傷つけないでください!」

 海潮がラブレのことを心配して、タリアたちを呼び止める。

「ランガは今はあなたたちの声も聞かない暴走状態にあります。このまま交戦が続けば、日本の被害が拡大します。」

「ですが・・!」

 状況を把握して対処しようとしているタリアだが、海潮はそれでもラブレを見捨てることができなかった。

 そのとき、ミナカタが放った氷の刃が、ランガの体に突き立てられた。ランガが絶叫を上げながら、川の中に倒れた。

「ランガ!」

 川に沈んだランガに、海潮が叫ぶ。

「くっ!・・やられてしまったか・・・!」

 川に沈んで姿が見えなくなったランガに、アスランが毒づく。

 ミナカタがインパルスたちに狙いを変えて、氷の刃を飛ばしてきた。

「くっ!」

 シンが毒づき、インパルスとセイバーが刃を回避する。かわされた刃のうちの数本が地上に落下して、道路や建物に当たった。

「これ以上、ここで戦闘を続ければ、被害が増えることになる・・1度撤退するぞ・・!」

「しかし、あの子をほっとくわけには!・・それに、町の人たちも・・!」

 指示を出すアスランだが、シンが町や商店街の人々を見て、指示を聞こうとしない。

「あの巨人の今の狙いはオレたちだ・・オレたちが離れれば、攻撃を中断するはずだ・・!」

「だからって、みんなを放っておいて、オレたちだけで逃げるわけには・・!」

 アスランがさらに呼びかけるが、シンは反論を続ける。

「こちらに近づく熱源多数!これは・・地球連合です!」

 そのとき、メイリンがレーダーに表示された反応を確認して、声を荒げた。ミネルバのモニターに、数隻の飛行艇とウィンダムの部隊が映し出された。

「こんなときに出てくるなんて・・・!」

「これではただ退避すればいいということじゃなくなったわね・・・!」

 アーサーが慌てて、タリアが毒づく。

「グラディス艦長、イザナギも出ます!」

 カナタがタリアたちに呼びかけて、イザナギでミネルバから出撃した。

「サリア隊も出て、インパルスたちを援護します!」

 サリアも飛行艇から呼びかけてきた。アーキバスたちも出撃して、インパルスたちと合流する。

「今は私たちが連合の相手をします!その間に2人はデュートリオンビームで!」

「すまない!すぐに戻る!」

 エルシャが呼びかけて、アスランが感謝する。インパルスとセイバーがミネルバに向かう中、ヴィルキスたちがアサルトモードになって連合軍の迎撃に備えた。

 

 ミネルバを追ってきたネオたちが、インパルスたちを目撃した。

「よし。追いついたぞ。スティング、アウル、ステラ、出撃だ!」

 ネオがスティングたちに呼びかけて、自らもドックへ向かう。スティングたちは既に発進準備を整えていた。

「何なんだよ、あそこにいるヘンテコなヤツは・・!?

 アウルが地上にいるミナカタを目にして、疑問符を浮かべる。

「あれも同盟の戦力。つまりオレたちの味方だとよ。」

「何だよ、そりゃ?あんなのに頼らなくても、ザフトもクロスもやっつけられるって!」

 スティングが説明をして、アウルがため息をつく。

「ま、オレらがアイツらをやっつけることに変わりはねぇけどな!」

「うん・・こんどこそ、わるいヤツをやっつける・・・」

 アウルが気を取り直して、ステラが小さく頷いた。

「スティング・オークレー、カオス、発進する!」

「アウル・ニーダ、アビス、出るよ!」

「ステラ・ルーシェ、ガイア、出る・・」

 スティングのカオス、アウルのアビス、ステラのガイアが発進して、ミネルバに向かって前進を始めた。

「今度こそ仕留めてやるぜ、新型!地上に叩き落としてやる!」

 アウルが敵意を強めて、アビスがインパルスたちを狙ってバラエーナを発射する。インパルスとセイバーが回避するが、カオスとウィンダムたちが距離を詰めてくる。

「くそっ!こんなときに!」

 シンがいら立ち、インパルスがビームライフルを撃って、ウィンダムたちを引き離す。しかし他のウィンダムが次々に詰め寄ってくる。

「シン!」

 アスランが叫ぶが、セイバーもカオスの振りかざすビームサーベルをかわすのに手一杯になっていた。

「隊長機、今度こそ撃ち落としてやるぞ!」

 スティングが言い放ち、カオスがセイバーを執拗に攻め立てる。そこへエルシャのハウザーがロングバレルライフルを発射し、カオスをセイバーから引き離した。

「その2機には手出しさせないわ!」

「邪魔をする気か!?・・だったらお前から討つ!」

 言い放つエルシャに、スティングが苛立つ。カオスがカリドゥスを発射して、ハウザーがスピードを上げてビームをかわす。

 エルシャのハウザーへの追撃を続けるカオス。その前にクリスのハウザーが割って入り、ロングレンジライフルを撃ってカオスを迎撃する。

「アンタは私が落とす・・・!」

「また邪魔なヤツが出てきたか・・まとめて撃ち落としてやる!」

 クリスが鋭く言って、スティングがいら立つ。カオスが2機のハウザーに向けて、カリドゥスを発射していく。

 ミナカタの放つ氷の刃を、ヴィルキスとアーキバスがかいくぐる。

「あんまりしつこいと、容赦できなくなるわよ・・!」

 アンジュが文句を言って、ヴィルキスがアサルトライフルを発射しながら、ミナカタに向かっていく。ミナカタが氷の刃を連射するが、ヴィルキスは左手を突き出して凍結バレットを放って刃を押し返した。

 ヴィルキスの左手をミナカタが水流の壁で防いだが、凍結バレットの効果で水流が凍りつき、さらにミナカタの右肩も凍てつかせた。

「これで少しはおとなしくなるはず・・・!」

 サリアがミナカタの動きをうかがう。アンジュも警戒を強めたままだった。

「こっちは数が多くて参っちまうよ!」

「泣き言言う暇があったら、1機でも落とすんだよ!」

 ため息まじりに言うロザリーに、ヒルダが注意する。2機のグレイブがアサルトライフルを撃って、ウィンダムたちを撃ち落としていく。

「インパルスとセイバーがミネルバに近づけない・・これじゃエネルギーがなくなる・・!」

 カナタがインパルスたちの危機に焦りを感じていく。そのとき、イザナギの前に赤紫の胴体をしたウィンダムが現れた。

「色の違う連合の機体・・隊長機か!?

 カナタがそのウィンダムを警戒する。赤紫のウィンダムに乗っていたのはネオだった。

「ザフトのエースや隊長にも興味があるが、お前の力も直接確かめておきたいと思っているのでな・・!」

 ネオが言いかけて、ウィンダムがビームライフルを手にして発射する。イザナギもビームライフルを撃って、ビームをぶつけ合う。

「アスラン隊長たちの援護に行けない・・!」

 イザナギがウィンダムに行く手を阻まれ、カナタが焦りを膨らませていく。

 ウィンダムたちから遠ざかろうとして、インパルスが地上に降下する。そこへアビスとガイアが待ち構えて、インパルス目がけてビームを発射する。

「やっと降りてきたな!オレが仕留めてやるよ!」

 アウルがいきり立ち、アビスがビームランスを手にしてインパルスに飛びかかる。インパルスがビームサーベルを手にして、アビスが振り下ろしたビームランスを受け止めた。

「エネルギーが少ない・・早く離脱しないと・・・!」

 危機感を募らせていくシン。インパルスのフェイズシフトを維持するエネルギーは、残りわずかとなっていた。

「あいつをたおす・・ステラがやっつける・・!」

 ステラもインパルスを敵視して、ガイアがモビルアーマー形態となって飛びかかる。シンがガイアに気付き、インパルスがビームサーベルを振りかざしてアビスを横に振り払う。

「うあっ!」

「キャッ!」

 アビスとガイアがぶつかり、アウルがうめき、ステラが悲鳴を上げる。

「イテテ・・アイツ、やりやがったな・・!」

 痛がるアウルがインパルスへのいら立ちを募らせる。

「これ以上戦えば、エネルギーが尽きてしまうぞ・・・!」

 窮地に追い込まれたシンが、激情を強めていく。アビスがビームランスを構えて、インパルスに飛びかかった。

 そこへビームが飛び込み、アビスが行く手を阻まれた。

「な、何だ!?

 突然のことにアウルが声を荒げ、ステラとともに空を見上げる。1機のオレンジ色の機体が降下してきた。

「この機体は!?・・ザクとはちょっと違う・・・!」

 シンもその機体を見て戸惑いを覚える。

「危ないとこだったな、インパルス!オレもザフトの一員だ!」

 オレンジの機体のパイロットがシンに声をかけてきた。

「ミネルバ、応答してくれ!オレはフェイスのハイネ・ヴェステンフルス!貴艦に加勢する!」

 機体「グフイグナイテッド」のパイロット、ハイネがミネルバに目を向けて呼びかけた。

「やはり、あれはザフトの新しいモビルスーツ!」

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。協力、感謝します。」

 アーサーが喜びを見せて、タリアがハイネに感謝する。

「アビスとガイアはオレが食い止める!お前はその間にミネルバに戻れ!」

「は、はい!」

 ハイネが指示を送り、シンが答えた。インパルスがミネルバに向けて上昇した直後に、フェイズシフトダウンを起こして、装甲から色が消えた。

「ミネルバ、デュートリオンビームを!」

「はい!デュートリオンビーム、照射!」

 シンからの指示にメイリンが答える。ミネルバからデュートリオンビームが放たれて、インパルス、そしてセイバーのエネルギーを回復させた。

「ここでの戦闘を続ければ、日本の被害が増すばかりになる!引き付けて迎撃するぞ!」

「了解!」

 ハイネが呼びかけて、シンとアスランが答える。グフがビームガンを発射してアビスたちを攻撃しながら、飛行して草原から離れていく。

「アイツ、邪魔をしておいて逃げるつもりかよ!?

「アイツも、たおす・・・!」

 アウルとステラがグフを鋭く睨みつける。しかし飛んでいるグフに対し、アビスもガイアも飛んで追うことができない。

「逃がすわけにはいかない・・アウルとステラは1度艦に戻れ!」

 ネオがアウルたちに呼びかけて、ウィンダムたちがインパルスたちを追う。

「ミネルバには近づけさせないよー!」

 ヴィヴィアンが快活に言って、レイザーがブーメランブレードを投げ飛ばして、ウィンダムたちを切りつけていく。

「1度日本を離れます。ランガの救出は連合軍を振り切った後で・・」

 タリアが指示を出して恭子、魅波、サリア、カナタが頷いた。

「だったら、行ってほしいところがあるんです・・!」

 海潮が気を落ち着けてから、タリアに提案を伝えた。

「それはどこですか・・?」

「バロウ王国の島・・バロウ島なら、しばらくは休めると思うんです・・・!」

 タリアが聞いて、海潮がバロウ島のことを話した。魅波たちが戸惑いを覚える中、メイリンがレーダーでバロウ島の位置を確認する。

「ジョエルくん、私たちがバロウ島に来て、問題はある・・?」

「いえ、構いません。バロウはみなさんを歓迎します。」

 タリアが問いかけて、ジョエルが真剣な顔で頷いた。

「分かりました。本艦は武蔵野を離れ、バロウ島へ向かいます。連合軍の追跡を迎撃すること。」

 海潮たちの意思を聞き入れて、タリアがシンたちに指示を送った。

「美女たちに手を出すヤツらは、オレたちがブッ飛ばしてやるぜ!」

 孝一が言い放ち、ダイミダラーがハイエロ粒子を左手から放出して飛び上がり、ウィンダムを叩きながら飛行艇に辿りついた。

「180度回頭。タンホイザー起動。」

 タリアの指示で、ミネルバがウィンダムたちのいるほうへ方向を変えた。同時にタンホイザーの発射体勢に入り、日本の陸地に影響が及ばないよう、艦首を上向きに調整する。

「目標、敵モビルスーツ部隊!タンホイザー、ってぇ!」

 タリアの号令で、ミネルバのタンホイザーから閃光が放たれた。ネオのウィンダムやカオスは回避したが、他のウィンダムの多くが砲撃を受けて爆発した。

「チッ!・・これでは追撃は厳しいか・・・体勢を立て直すぞ!」

 毒づくネオがミネルバへの追撃を断念して撤退していった。

「何とか追撃を振り切ったみたいね、海潮ちゃんたち・・」

 エリナがミネルバを見送って、安堵の笑みを浮かべた。

「オレたちも引き上げたほうがいいな・・いろいろ面倒になりそうだし・・」

 隼人がため息をついて、ビッグエースが草原から走り去っていく。

「あっ!待ってよ、2人ともー!」

 翔子が悲鳴を上げて、彼女と穂波の乗ったエースがビッグエースを追いかけていった。

「おい!待て、お前ら!」

 芳幸が呼び止めるが、ビッグエースたちが止まることはなかった。

「あの馬鹿者どもが!」

「しかしランガは敗れた。仮に復活したとしても、島原家はランガを制御することができない。」

 隼人たちの離反に憤る芳幸だが、和王は状況を把握して、自分たちの優勢を実感していた。

「連合軍が振り切られても、彼らの行先は必ず突き止められる。そのときこそ、彼らの終わりのときだ。」

 すぐにクロスを見つけられると確信して、和王は笑みを絶やさなかった。

 

 ミネルバに戻ったインパルス、セイバー、グフ、イザナギ。ヴィルキスたちとダイミダラーも飛行艇に戻ってきた

 インパルスから降りたシンが、グフから降りてきたハイネを目にした。

「あなたがオレを・・自分を助けてくれたのですか・・・!?

 シンがハイネに歩み寄り、声をかける。

「お前がインパルスのパイロットか。で、アイツとそこの嬢ちゃんがザクで、アイツがセイバーか。」

 ハイネがシンに答えて、レイ、ルナマリア、アスランへと指を差していく。

「オレはフェイスのハイネ・ヴェステンフルスだ。」

「あなたも、フェイス・・!?

 自己紹介をしたハイネに、シンが驚きを見せる。彼がレイ、ルナマリアとともに敬礼する。

「そんなかしこまらなくてもいいぜ。オレはそういうの、あんまり気にしないほうだからな。」

 ハイネは気さくに答えると、イザナギから出てきたカナタに目を向けた。

「違う世界のヤツらが手を組んだ部隊、クロスか・・面白いヤツらと機体がそろってるな。」

 ハイネはカナタとイザナギだけでなく、飛行艇にいるアンジュたちやヴィルキスたちのことを思い出す。

「ま、みんなとの挨拶は、ひと息ついてからだな。」

 彼はアンジュたちと話をすることに期待を持つ。

「まずはグラディス艦長にも挨拶に行かないとな。みんな、後でな。」

 ハイネは気持ちを切り替えて、ドックを後にした。

「フェイスがもう1人、オレたちに加わるなんて・・!」

「心強い味方がまた増えたよー♪」

 ヨウランがグフを見つめて戸惑いを感じて、ヴィーノが感動する。

「ヴィーノのヤツ、調子に乗って・・戦うのはオレたちだっていうのに・・」

「でも、フェイスがここに3人も集まるなんて、ホントにすごいことじゃない。」

 ヴィーノの態度に呆れるシンに、ルナマリアが微笑みかける。

「でも、ランガはやられて、あの川の中に沈んでしまった・・無事だといいけど・・・」

「無事だったとしても、島原家の言葉を受け付けなくなっている。再び3人の言葉に従うようになるかどうか・・」

 ルナマリアがランガと海潮たちを心配して、レイが冷静に状況を判断する。

「ランガ・・・」

 ランガを失った悲しみに打ちひしがれて、海潮は深く落ち込んでいた。

 

 ミネルバの指令室に赴いたハイネが、タリアに向けて敬礼を送る。

「ハイネ・ヴェステンフルス、ただ今到着しました。といっても、戦闘中の介入になりましたが。」

「議長から話は聞いているわ。あなたのおかげで助かったわ、ヴェステンフルス隊長。」

 挨拶をしたハイネに、タリアが微笑んで答えた。

「“ハイネ”でいいですよ。少しの間だけ、オレもミネルバに同乗することになったので、よろしくお願いします。」

「それで、あなたから見てここのパイロットはどう?」

 タリアがハイネにシンたちのことを聞く。

「初々しいけど力があるのは確かです。これからの成長が楽しみですよ。」

 ハイネがシンたちのことを考えて笑みをこぼす。

「特にインパルスのパイロットに期待ですね、オレとしては。」

「シンは日に日に強くなってますよ。アイツのおかげで危機を乗り越えたこともありましたし・・!」

 ハイネがシンのことを口にして、アーサーが笑みをこぼす。

(士官学校での成績は、シンはレイよりも下だった。インパルスのパイロットに選ばれたのがレイではなくシンになったことに、私には疑問があった・・)

 タリアが心の中でシンに関する疑問を感じていた。インパルスのパイロットにシンを選んだのは、ギルバートだった。

(でもその答えが、シンのポテンシャルにあると分かった・・ギルバートは、このことを分かっていたのかしら・・?)

 ギルバートの考えと選定について、タリアがさらなる疑問を感じていく。

 ギルバートは遺伝子工学に深く精通している。シンの潜在能力を遺伝子を調べて見出したのではないかと、タリアは推測した。

「ここのパイロットの指揮はアスランが一任しているわ。ハイネ、あなたもここに滞在するというのなら、アスランのサポートとシンたちの指揮をお願いしてもいい?」

「それはもちろんです。オレもアイツらと一緒に戦えることを嬉しく思ってますので。」

 タリアの投げかけた言葉に、ハイネが笑みを見せたまま答える。

「宇宙からの長旅で疲れているでしょう。すぐに部屋に案内するわ。」

「ありがとうございます、艦長。では、オレはこれで。」

 タリアの言葉に感謝して、ハイネは指令室を後にした。

(これで、シンたちがどう成長していくか・・)

 シンたちのことを考えるタリア。彼らの成長と活躍が作戦や戦局にどう影響するかを、彼女は気に留めていた。

 

 ミネルバと飛行艇がバロウ島に到着した。島民は海潮たちだけでなく、カナタたちもあたたかく迎えてくれた。

 カナタたちはこのバロウ島で体勢を整えることになった。

 

 

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