スーパーロボット大戦CROSS
第18話「虚ろな王」
クロスに、ランガに戦いを挑んできた隼人。ビッグエースがミネルバの前に立ちはだかった。
「ザフト所属、ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。本艦は島原家のみなさんをこちらへお連れし、補給と整備をするために立ち寄りました。この国で争いごとをするつもりはありません。」
タリアが隼人たちに向けて呼びかけてきた。
「あの黒い巨人はいきなり日本に現れて、武蔵野に居座っちまった!しかも武蔵野のみんながそいつに心を許してしまった!アイツを追い払わないと、日本に平和は戻らないんですよ!」
隼人がランガに対する怒りをあらわにする。
「あなたたちは別の世界の人間なのだろうが、ランガも世の中を騒がせている存在だということを理解してもらいたい・・!」
「魅波さんたちの話を聞く限りでは、彼女たちもランガも武蔵野銀座の方々は認めています。みなさんの意思を無視することはできません。」
ランガの打倒を訴える隼人だが、タリアは慎重な態度を崩さない。
「私たちは日本政府との話し合いを望んでいます。日本の部隊とも協力できればと思っています。」
「そのつもりなら、まずはランガを下ろして戦わせていただきたい・・オレたちの力で、今度こそランガを倒す!」
話し合いを求めてきたタリアだが、隼人はランガと戦う意思を曲げない。
「鉄さん、本気でランガを倒そうとしているの・・・!?」
海潮が隼人の挑戦に困惑していく。
「新しいメカに乗って、ランガにも勝てると思っているんじゃないの?」
夕姫が隼人に呆れてため息をつく。
「だったら身の程を思い知らせてやればいいだけのことよ。」
アンジュが隼人たちに敵意を向けてきた。
「そうだ!オレとダイミダラーの力を見せつけて、世界中にその力を知らしめてやる!」
「孝一くん、ダイミダラーをそんな理由で使わないの。」
孝一も意気込みを見せるが、恭子に注意される。
「早くランガを出してください!それとも、アンタたちもそいつに味方しようっていうのか!?」
隼人がランガを出すよう、要求を続ける。ランガが出てこなければ、彼はビッグエースでミネルバを攻撃することも厭わなくなっていた。
「艦長、いかがいたしますか?・・このままでは、あの機体が攻撃を仕掛けてきます・・・!」
アーサーがビッグエースへの警戒を強めて、タリアの指示を仰ぐ。
「グラディス艦長、私たちとランガが行きます!」
すると飛行艇にいる海潮が、ミネルバにいるタリアに向かって通信で呼びかけてきた。
「しかし、あなたたちだけを行かせるわけには・・」
「向こうは鉄さんたちのロボット1機だけです。私たちもランガだけで相手をしないといけないと思うんです・・!」
タリアが心配すると、海潮が自分の思いを口にする。
「ミネルバは巻き込まれないように1度空に上がってください。」
魅波もタリアに向けて呼びかけてきた。
「分かりました。ただし、あなた方が危険だと判断したときは、加勢させていただきます。」
タリアが海潮たちの意思を汲み取って頷いた。
「私たちはランガと魅波さんたちを降ろしたのち、離陸します。」
「よろしいのですか、艦長!?彼女たちだけを降ろしてしまって・・!」
指示を出すタリアにアーサーが声を荒げる。
「彼女たちを援護するなら、着陸したままより空にいたほうがいいわ。」
彼女が魅波たちのことを配慮して、冷静に判断を下す。
「それとあの機体、連合や同盟軍の新型の可能性はまだ否定できない。十分注意して・・」
「はい・・!」
タリアが注意を促して、アーサーも真剣な面持ちで答えた。
「本艦は直ちに離陸します。シンたちもいつでも出られるように準備して。」
シンたちにも指示が送られて、臨戦態勢が敷かれた。
「3人だけで大丈夫ですか?私たちも外に出て援護を・・」
エルシャが心配して、海潮たちに声を掛ける。
「これは私たちが向き合わないといけないこと・・必ず鉄さんたちを止めて、分かってもらうわ。」
魅波が自分の考えを口にして、エルシャが小さく頷いた。
「ジョエルはみんなとここで待ってて・・」
「海潮さん・・・」
海潮が呼びかけて、ジョエルが戸惑いを見せる。
飛行艇からランガが海潮、魅波、夕姫とともに降りてきて、ビッグエースに近づいていく。飛行艇も発進して空に上がる。
「1対1の真っ向勝負に付き合ってくれるとはな・・!」
「人数的には2対3だけどね。上のも含めたら数じゃ勝てないわね。」
不敵な笑みを浮かべる隼人に、エリナが皮肉を言う。
「鉄さん、どうしてランガを倒そうとするの?・・武蔵野銀座の人たちは、ランガのことを認めてくれたのに・・・!」
海潮が歯がゆさを込めて、隼人たちに問いかける。
「そいつがいるだけで、世界が混乱することになる・・たとえこの町の人たちが認めても、ここの誰もが望んでいなくても、そいつを狙ってここが危険に巻き込まれる・・!」
隼人が声を振り絞るように、海潮たちに言い返す。
「そうなる前にオレたちがそいつを倒して、この町を、この日本を守る!」
「勝手な減らず口を・・私たちを一方的に悪者扱いするなんて・・・」
言い放つ隼人に夕姫が呆れる。
「私たちだって、みんなが平和で幸せなのが1番だと思っている。ランガもそのためにいると、私は思っているよ・・!」
海潮が正直な思いを口にする。
自分たちは考え方も感じ方も違う。それでも武蔵野とその町の人たちを大切に思っている気持ちは、海潮たちにあった。
「みんなが平和で幸せなのがいいと思ってるなら、そいつを手放したらどうなんだ!」
「それはできないよ・・ランガももう、私たちの家族だから!」
隼人の呼びかけを海潮が拒否する。魅波も夕姫もランガを見捨てるつもりはなかった。
「・・だったら、今ここでランガを倒す・・オレたちとこのビッグエースで!」
隼人が怒りを燃やして、ビッグエースがランガに対して両腕を構えた。
「ランガ!」
海潮が魅波たちとビッグエースから離れながら、ランガに意識を傾けた。ランガの顔が変わり、胸の紋様から剣を引き抜いた。
隼人とエリナがランガに向かって、両腕にあるバルカン砲を発射した。ランガが右手に持つ剣と左手を掲げて、連射に耐える。
ランガが剣を振りかざして、ビッグエースに飛びかかる。ビッグエースが後退して一閃をかわす。
「前のエースよりは強力になっているみたいだけど、まだランガには通じないよ・・!」
夕姫がランガが優勢であることを確信する。
「ビッグエースの力は、まだまだこんなもんじゃない!」
隼人が言い放って、ビッグエースがランガに突撃する。ランガが踏みとどまり、ビッグエースと組み付く。
ランガが左手を振りかざしてビッグエースに叩きつける。しかしビッグエースは押されず、ランガを押し込もうとする。
「この巨人に力負けしてない・・さすがエースの新型ね!」
エリナがビッグエースの力と性能に、驚きと感嘆を覚える。
「感心してばかりにはいかねぇぞ!さっさと動きを止めて倒すぞ!」
「分かっているって!もう負けはゴメンよ!」
檄を飛ばす隼人にエリナが答える。
ビッグエースが両腕でランガの手を押し返していく。その直後、ビッグエースが右肩にある銃砲を発射して、ランガが射撃されて押される。
「よし、今だ!ランガの動きを押さえる!」
隼人が好機を見出し、ビッグエースが腹部からミサイルを発射する。さらにミサイルから巨大な網が射出され、ランガがかかって仰向けに倒れた。
「ランガ!」
身動きが取れなくなったランガに、海潮が叫ぶ。ビッグエースが近づいて、ランガの左足を踏みつけた。
「ランガが・・!」
苦戦するランガを見て、ジョエルが動揺を浮かべる。
「しょうがないわね・・私が行くわ!」
アンジュがため息をついてから、ヴィルキスで出撃してランガを援護することを考えた。
「いや、ここはオレたちが出る!パラメイルは球数に限りがあるんだろ!?」
すると孝一が出撃を買って出てきた。
「ダイミダラーの球数は、オレたちのハイエロ粒子だ!」
「胸張って言えることじゃないけど・・」
高らかに言い放つ孝一に、恭子が呆れる。
「そうね。私たちのライフルの弾は有限だから・・」
「ありがとう、サリアさん。行くわよ、孝一くん!」
サリアが納得して、恭子が孝一とともにダイミダラーに乗り込んだ。飛行艇のドックのハッチが開かれた。
「ダイミダラー、発進!」
恭子の掛け声とともに、ダイミダラーが飛行艇から降下してきた。
「エース2号機、発進!翔子、穂波、あのロボットを食い止めろ!」
芳幸がダイミダラーを確認して、エース2号機のパイロット、原翔子と一川穂波に指示を出す。
「私たちは休めると思ってたのに〜・・!」
「愚痴をこぼさないの。それが私たちの任務なんだから。」
翔子がため息をついて、穂波がなだめる。
翔子たちの乗るエースが、降り立ったダイミダラーに近づいていく。
「私たちが相手だよ、ヘンテコロボット!」
「ヘ、ヘンテコ・・確かに変な姿かたちをしてはいるけど・・・」
言い放つ翔子に、恭子が苦笑いを浮かべる。
「もしかして、パイロットは女性か!?たっぷり相手してもらうぜー!」
孝一が興奮して、ダイミダラーがエースに飛びかかる。ダイミダラーが振りかざした左手を、エースが後退してかわす。
「な、何だかけだものの気配が・・・!」
「惑わされないの。おとなしくさせるよ!」
悪寒を覚える翔子を、穂波が注意する。
エースがダイミダラーに向かって機関砲を発射する。
「指バリア!」
ダイミダラーが左手をかざして、ハイエロ粒子の光のバリアでエースの射撃を防いだ。
「その程度じゃ、オレとダイミダラーを止められはしねぇぜ・・!」
「なんてメカよ・・あんなの、どこで作り上げたっていうのよ・・・!?」
不敵な笑みを浮かべる孝一と、ダイミダラーの力に脅威を覚える穂波。
「あのMMだけじゃなく、わけ分かんないのが他にもたくさん出てきて、イヤになってくるわよ!」
翔子が不満げに答えて、ダイミダラーを食い止めることに集中する。
「助かったぜ、2人とも・・この間に、ランガを動けなくする・・・!」
隼人が翔子たちに感謝して、ビッグエースがランガに近づいていく。身動きの取れないランガの左足を、ビッグエースが踏みつける。
ビッグエースが力を入れて、ランガの足を踏み潰してさらに動けなくしようとしていた。
「まさか、ランガの足を・・!?」
「やめて、鉄さん・・ランガ!」
夕姫が声を荒げて、海潮が叫ぶ。ランガの左足が踏みつぶされてちぎられた。
「そんな・・ランガが・・・!?」
負傷したランガに、魅波が驚愕する。
「やった・・これでランガを倒せる・・!」
エリナが笑みをこぼして、隼人が頷いた。ビッグエースがランガの頭部に右腕のバルカン砲を向けた。
「やめて、鉄さん!ランガをこれ以上傷つけないで!」
海潮が飛び出して、隼人たちを呼び止める。
「来るな、海潮ちゃん!君まで巻き込まれることになるぞ!」
「そうはいかないよ!ランガがいなくなるなんて、私はイヤだよ!」
隼人が呼びかけるが、海潮は離れようとしない。
「危険に巻き込めないよ、隼人・・引き離してからじゃないと・・・!」
エリナが海潮を気遣い、隼人が歯がゆさを浮かべる。
「竹末さん、その子をそこから連れ出してください!これではその子が危険です!」
「分かった!お前たちはMM打倒に専念するんだ!」
隼人が通信で呼びかけて、芳幸が答えて出てきた。
「ここから離れろ!ここにいると巻き込まれてしまうぞ!」
芳幸が海潮の腕をつかんで離れようとする。
「放してください!ランガを見捨てるわけにいかないの!」
「バカなことを言うな!あれがあるから、日本も世界も混乱しているんだろうが!」
ランガに近づこうとする海潮を、芳幸が強引に引っ張ろうとする。
「これで終わりだ・・これで、元通りになるんだ・・・!」
ランガが現れる前の日常を取り戻せると確信している隼人。ビッグエースがとどめを刺そうと、バルカン砲をランガに突きつけた。
「海潮ちゃんを放しなさーい!」
そこへ声がかかり、海潮たちと隼人たちが視線を移した。呼びかけてきたのは武蔵野銀座のスーパーのおばさん、斉藤だった。
「ス、スーパーのおばさん・・!」
斉藤を見て戸惑いを覚える海潮。斉藤だけでなく、商店街の人たちが草原に集まってきた。
「海潮ちゃん、がんばれー!」
「君たちもランガも、私たちは応援しているよー!」
「勝手なことをぬかす軍隊なんかに負けんじゃねぇぞー!」
商店街の人たちが海潮たちとランガに声援を送る。彼らは隼人たちエース部隊に従うわけでも傍観するわけでもなく、海潮たちとランガに味方をしていた。
「何を言ってるんだ、アンタたちは!?・・コイツのために日常がおかしくなっちまってるっていうのに!?」
商店街の人たちの考えに納得できず、隼人が不満をあらわにする。
「ランガももう私たちの日常だよ!」
「おかしくしてるのはアンタたちのほうだ!」
「海潮ちゃんたちとランガに何かあったら、承知しないからね!」
人々が隼人たちに文句を言う。
「これじゃ、どっちが正義の味方か分かんなくなっちゃうわね・・」
「いいの?このままだとアンタたちは悪者になってしまうわよ?」
魅波が苦笑を浮かべて、夕姫が芳幸たちに皮肉を投げかける。
「鉄、早くとどめを刺せ!そいつがいなくなれば、みんな目を覚ますはずだ!」
芳幸が呼びかけて、隼人が動揺を振り払う。ビッグエースがランガへの射撃を遂行しようとした。
そのとき、引きちぎられたはずのランガの左足に変化が起こった。足と足先の切られた部分から触手が伸びて、結びついていった。
「こ、これは!?」
「いかん!鉄、早く始末しろ!」
驚愕する隼人に、芳幸が声を荒げて指示する。
「そうはいくか!指ビーム!」
孝一が言い放ち、ダイミダラーが左手からビームを放った。エースがビームを阻止できず、ビッグエースがランガへの攻撃を阻まれた。
「ぐっ!あの変なのまで邪魔を!」
隼人がダイミダラーの介入にも毒づく。その直後、左足の再生を終えたランガが立ち上がった。
「ランガ!?・・復活しちまった・・!」
「ランガ、鉄さんを止めて!ケガをさせたらダメだよ!」
緊迫を覚える隼人と、ランガに呼びかける海潮。ランガが左手でビッグエースの右手を払い、右手で持つ剣を振りかざしてビッグエースの左足を切りつけた。
「おわっ!」
「キャッ!」
隼人とエリナがうめき、ビッグエースが体勢を崩して倒れた。
「左足が損傷!すぐに起き上がることは・・!」
「くそっ!」
エリナがビッグエースの状態を確かめて、隼人が焦りを膨らませる。起き上がろうとするビッグエースに、ランガが近づいていく。
(やられる!・・こんなところで、オレが・・この国が・・・!)
絶体絶命を痛感して、隼人が覚悟を決める。ランガが剣を振り上げて、そこから振り下ろした。
しかし剣はビッグエースの横の地面に当たっていた。
「外れた!?・・ううん・・わざと外したの・・・!?」
この瞬間にエリナが戸惑いを覚える。
「もうこれでやめましょう、鉄さん・・みんなのことを大事に思ってるなら、私たちが争うことはないよ・・・!」
海潮が隼人たちに向かって呼びかけてきた。
「お前・・オレたちを助けるのか?・・オレたちはそいつを倒そうとしてんのに・・!」
「私たちは、ランガと一緒にここにいたいだけなんです・・鉄さんたちを傷付けたいわけじゃないんです・・・!」
歯がゆさを浮かべる隼人に、海潮が正直な思いを口にする。
「ランガも私たちの家族です。みんなに迷惑を掛けないし、みんなに何かあったら力になります。だからランガもいさせてください!」
ランガも大切にしようとする気持ちを訴える海潮。商店街の人たちも海潮たちとランガを受け入れていた。
「ホントに・・みんながコイツを受け入れてるっていうのか・・・!?」
隼人が斉藤たちを見つめて戸惑いを覚える。もはや海潮たちや斉藤たちの日常のあるべき形が今なのではないかと、彼は思うようになっていた。
「今のうちだ、鉄!早く体勢を整えるんだ!」
芳幸が隼人たちに向かって呼びかける。ビッグエースが立ち上がろうとするが、うまくいかない。
するとランガが剣を体に戻して、右手でビッグエースの左腕を持って立たせた。
「とどめを刺さないばかりか、オレたちを助けてくれたのか・・!?」
「鉄さんは、武蔵野銀座の警官。みんなの町で暮らす1人です。」
戸惑いを募らせる隼人に、海潮が微笑んで答えた。人々も隼人たちのことをあたたかく迎えようとしていた。
「何をしているんだ!?鉄、早くMMを攻撃しろ!」
芳幸が不満を膨らませて、隼人たちに向かって指示する。
「そいつを始末しなければ、日本は混乱したままだ!正義も守れないぞ!」
「アンタは黙っててくれ!」
怒鳴り続ける芳幸に、隼人が感情をあらわにする。ビッグエースのコックピットのハッチが開いて、隼人とエリナが出てきて海潮たちに歩み寄った。
「オレたちは・・君たちに悪いことをしていたのかもしれない・・何を守るべきなのか、ちゃんと分かっていなかった・・」
隼人が申し訳ない気持ちを海潮たちに告げる。
「ちゃんと分かってなかったのは、私も同じです・・世の中がどうなっていたのか、ランガを受け入れることがどういうことなのかを・・日常っていうのが、何なのかを・・」
海潮も自分の気持ちを正直に口にした。
平凡な日常を過ごしてきた海潮は、世の中がどのように動いているのかをきちんと把握していなかった。しかしランガと出会い、カナタたちと世界を回ったことで、彼女たちは世界を知ることになった。
「商店街のみんなも、あなたたちじゃなくて私たちのほうを応援してくれている・・ランガのいる今が、私たちの日常だよ・・」
海潮が微笑んで、斉藤たちに振り向いて感謝を感じていく。
「今が、私たちの日常・・・」
「これが、オレたちの守るべき平和か・・」
エリナと隼人が斉藤たちの和気藹々な雰囲気を見て、安らぎを感じていた。
「えーい!こうなったら!翔子、穂波、君たちがMMを倒すんだ!」
苛立つ芳幸が翔子たちに命令を出す。
「そんなー!ビッグエースで勝てないのに、ただのエースが敵うわけないじゃなーい!」
翔子がランガを見て、気まずくなって悲鳴を上げる。
「そんなことを言っとる場合か!やらなければコイツに日本が蹂躙されることに・・!」
芳幸がさらに怒鳴り声を上げたときだった。ミネルバが彼らの近くに降下してきた。
「あなたがその2機の指揮官ですね?これ以上の戦闘継続は、あなた方が不利になるだけです。」
タリアが芳幸に向けて警告を送る。
「私たちは休息と補給のため、日本に立ち寄らせていただきました。日本政府とはすぐに連絡と交渉をします。ここは停戦することを望みます。」
タリアが事情を話して、芳幸が言葉を詰まらせる。自分たちが対立しようとしても、数でも戦力でも圧倒的に不利だと、彼は痛感していた。
「すまなかった!オレたちはエース部隊!オレはビッグエースのパイロット、鉄隼人だ!海潮ちゃんたちを無事に届けてくれて、感謝します!」
隼人がタリアたちに謝罪して、敬礼を送った。
「ここを休息の場にできるよう、オレたちも協力します!オレたちとも詳しい話を聞かせてください!」
「分かりました。本艦は着陸して、あなた方との対話に応じます。」
隼人が呼びかけて、タリアが答えた。ミネルバが再び草原に着陸しようとした。
「うっ!」
そのとき、海潮が頭の中に刺激を覚えてふらついた。
「どうしたの、海潮?」
「わ、分かんない・・いきなり頭に刺激が・・・」
魅波が声をかけて、海潮が頭に手を当てて答える。
その直後、海潮たちの耳に歌声が入ってきた。
「何、この歌・・?」
夕姫もその歌声に疑問を感じていく。
「この声・・まさかラブレが!?」
飛行艇にいたジョエルが、歌声を聞いて驚愕する。
さらに草原の近くにある川が大きく揺らめいた。中から1体の巨人が現れた。
「な、何だ、あれは!?」
アーサーがその巨人を見て驚きの声を上げる。
「モビルスーツ、パラメイル・・どのデータにも該当しません!」
メイリンがデータの照合をして報告する。巨人はランガのいる草原に振り返った。
「私たちに用があるみたいだけど・・何なの、あれは?」
夕姫も巨人に対して疑問を感じていく。
「あれもあなたたちの兵器なの!?」
「い、いや、私もあんなのがあるとは聞いていない!」
魅波が問い詰めて、芳幸が慌てて答える。巨人が草原に向かって前進を始める。
「こっちに近づいてくるぜ・・!」
「敵だっていうなら、今度はオレが相手になって・・!」
隼人が警戒をして、孝一が不敵な笑みを浮かべる。
そのとき、ランガが突然力み出して体を震わせる。
「ランガ?・・どうしたの、ランガ!?」
海潮が呼びかけるが、ランガが巨人に向かって走り出した。ランガは車や家を壊すのも構わずに突き進み、川から出ようとしていた巨人に左手を振りかざしてきた。
巨人は打撃を受けるも、少し押されただけで平然としていた。
「待って、ランガ!落ち着いて!」
海潮が呼びかけるが、ランガは巨人への攻撃をやめない。
「海潮ちゃん、ランガの攻撃をやめさせて!」
ラブも飛行艇から海潮に呼びかけてきた。
「あの大きなものには、ラブレって女の子がいるって!」
「えっ!?」
ラブが呼びかけて、海潮たちが驚きを覚える。
「ラブレはバロウの仲間、巫女の務めも果たしている・・でも何であんなものの中に・・!?」
ジョエルも海潮たちに説明して、巨人を見つめる。巨人の体には1人の少女が体を埋め込まれていて、歌を口ずさんでいた。
「もしかして、あの子の歌があの怪物に力を与えているっていうの・・!?」
「その通りだよ。」
夕姫が呟いたところで、1人の男が彼女たちのところへやってきた。
「ふ、藤原さん・・!?」
海潮が男、藤原和王の登場に驚く。
和王は夕姫の通う学校の教師で、海潮たち3姉妹の兄である勝流の同級生である。
「和王さん、あれは何なのですか?・・ラブレという子に何をしたの・・!?」
「あれは“ミナカタ”。古の神である“虚神”の1体だ。」
魅波が問い詰めると、和王が巨人、ミナカタについて説明する。
「彼女には不思議な力を備えていることが分かった。それは虚神を操ることも可能だということも・・」
「そのためにあの子を利用して、ランガと戦わせようっていうの!?」
語りかける和王に、海潮が怒りの声を上げる。
「戦おうとしているのは虚神だけではないよ。あの子のバロウの少年、ジョエルくんへの想い・・そしてランガ自身も・・」
「えっ!?ランガも・・!?」
和王が口にした言葉に、海潮が驚愕する。彼女がミナカタに襲い掛かるランガに視線を戻す。
「ランガ、やめて!中には女の子が!」
海潮が呼び止めて、ランガの中に意識を入れようとした。しかしランガの顔は白目をむいたままであり、暴走も止まらない。
「どうしたのよ、海潮!?止まんないじゃない!」
「ランガに入れない!?・・ランガを止められない!」
魅波が声を荒げるが、海潮はランガを止められないことに愕然となる。
「ランガは虚神に強い憎しみを抱いているようだ。その怒りに駆られたときは、王である君たちの意思も受け付けない。」
和王がランガの様子をうかがって、話を続ける。
「和王さん、あなたは何者なの?・・あんなの、あなた1人で動かしているわけじゃないんでしょ・・!?」
夕姫が和王に鋭い視線を向けて問い詰める。
「この日本を裏で動かしてきた存在。今では“虚神会”と呼ばれている。」
「虚神会・・そんなものが、この国を・・・!?」
和王の口にした組織、虚神会の存在を聞かされて、海潮たちが困惑していく。
「君たちが使っているそのロボ。それには虚神会が持つ虚神の技術が組み込まれているのだ。」
和王が隼人たちに目を向けて、ビッグエースのことを話す。
「な、何だって!?」
隼人が驚愕して、エリナとともにビッグエースに目を向ける。
「私たちが使っていた機体に、そんなものが加えられているなんて・・!?」
「長官、あなたも知っていたのですか!?」
エリナも愕然となり、隼人が芳幸に問い詰める。芳幸が深刻な面持ちを浮かべて、隼人はそれを肯定だと判断する。
「オレたちは、利用されたっていうのかよ・・国を守るための戦いじゃなかったのかよ!?」
「そうだ。この国を守るためだ・・この国を真に動かしてきたのは、虚神会なのだ・・!」
怒りをあらわにする隼人に、芳幸がエース部隊の本当の役目を告げた。
「そんな・・そんなバカな!」
隼人が怒りを爆発させて、ビッグエースの足に拳を打ち付けた。
「誰か、ランガと虚神を止めて!私たちじゃ止められない!」
海潮がミネルバに振り返って呼びかける。
「インパルス、セイバー、発進!カナタくんと孝一くんも協力を!」
「分かりました!イザナギも発進します!」
タリアが指示を出して、カナタが答える。カナタ、シン、アスランがイザナギ、コアスプレンダー、セイバーに乗り込んだ。
アンジュたちもそれぞれのパラメイルに乗り込んで、いつでも出られるようにした。
そのとき、ミナカタが川の水を操り、水流から氷の刃を飛ばしてきた。氷の刃が体に突き刺さり、ランガが絶叫を上げる。
「ラ・・ランガー!」
海潮がランガに向けて悲痛の叫びを上げた。ランガがミナカタの能力の前に、窮地に追い込まれていた。