スーパーロボット大戦CROSS
第17話「生じる亀裂」
シンたちがステラたちと激闘を繰り広げていく中、アウルのアビスがミネルバに狙いを定めていた。
「そら!僕が落としてやるよ!」
アウルがいきり立ち、アビスがミネルバの後ろに飛び出して、胸部の服装ビーム砲「カリドゥス」を撃とうとした。
「ミネルバ!」
そこへカナタのイザナギが駆けつけ、ビームライフルを撃ってアビスの左腕に当てた。
「うわっ!」
アビスが体勢を崩して、アウルがうめく。カリドゥスからビームが放たれるが、ミネルバから大きくそれた。
「危ないところだった・・海の中にいるのに気付かなかったら・・・!」
カナタがアビスを見据えてひと息つく。
海の流れが微妙に違うことに違和感を覚えたカナタは、海中にアビスが潜んでいたことに気付いた。そこをイザナギが攻撃して、ミネルバを守ったのである。
「大丈夫ですか、グラディス艦長!?」
「ありがとう、カナタくん。本艦は前進を続けます。」
カナタが声をかけて、タリアが礼を言う。
「アイツ、邪魔しやがって・・お前から落としてやるよ!」
アウルがいら立ち、アビスがビームランスを手にしてイザナギに飛びかかる。イザナギがビームサーベルを手にして、アビスが振りかざしたビームランスを受け止める。
イザナギが右足を突き出して、アビスを蹴り飛ばして引き離す。
「このっ!」
アウルが叫び、アビスが着水の直後に飛び上がり、両肩の3連装ビーム砲を発射する。イザナギがビームをかわすと、左手でビームライフルを手にして発射した。
「うわっ!」
アビスが右肩のビーム砲を撃たれて破壊され、アウルがその衝撃でうめく。
「沈めてやる・・沈めてやるぞ、お前!」
アウルが怒りをあらわにして、ビームランスを構えてイザナギに飛びかかる。
「指ビーム!」
そのとき、飛行艇から飛び上がったダイミダラーが、右手からビームを放ってきた。アウルが反応し、アビスがかろうじて多数のビームをかいくぐった。
「孝一くん、恭子さん!ダイミダラー、飛べるのか!?」
「飛行しているんじゃなくて、ジャンプしたんだけどね・・」
カナタが声を上げると、恭子が苦笑いを浮かべて答える。飛行艇からジャンプしたダイミダラーは、アウル目がけてビームを放った後、続けて出したビームの反動を使って宙を浮き、インパルスたちのいる海岸に着地した。
インパルス、ヴィルキス、レイザー、ランガに包囲されたガイア。追い込まれるステラが不安に襲われていく。
「もうやめて!ムリに戦うことはないよ!」
「こわいもの、なくす・・わるいのは、やっつける・・・!」
海潮が停戦を訴えるが、ステラは退かない。
「こんな勝ち目がない戦況で戦ってもやられるだけなのに・・そんなに死にたいの、あなた!?」
アンジュがステラに向けて不満をぶつけてきた。そのとき、ステラが恐怖を覚えて体を震わせた。
「し、しぬ!?・・イヤ・・イヤアッ!」
ステラが自分を抱きしめて悲鳴を上げる。彼女は恐怖を膨らませて、戦うどころでない不安定となっていた。
「どうしたんだ!?アイツ、動きが変だぞ!」
「機体が故障したわけじゃないみたい・・何かに怯えているようだけど・・・」
孝一と恭子もガイアの異変を見て、戸惑いを感じていく。
「しぬのはダメ・・こわい・・こわい!」
ステラがさらに悲鳴を上げて、インパルスたちから離れていく。
「いきなり私たちに恐れをなしたってことなのかしら?」
夕姫がガイアを見つめて、疑問を感じていた。
スティングたちが苦戦を強いられている戦況を見て、ネオが肩を落とした。
「撤退だ。体勢を立て直す・・スティングたちを呼び戻せ。」
「了解・・!」
ネオが指示を出し、兵士が歯がゆさを感じながら答えた。撤退を知らせる信号弾が打ち上げられ、スティングたちが目を向けた。
「チッ!ここまでか・・覚えてろよ、隊長機!」
舌打ちをするスティングが、セイバーに向けて捨て台詞を吐く。カオスがセイバーから離れて、ガイアをつかんで引き上げた。
「帰るぞ、ステラ!アウル、引き上げるぞ!」
「ったく!しょうがねぇな、もう!」
スティングが呼びかけて、アウルが不満の声を上げながら聞く。アビスも海中を進んで、イザナギたちの前から去っていった。
「いなくなったか・・けど・・・!」
「また、あの人たちと戦わなくちゃならない・・・!」
ネオたちに対して孝一が毒づき、海潮が不安を感じていく。
そのとき、シンたちの耳に銃声が聞こえてきた。彼らが視線を向けた先では、兵士に追われる人々の姿があった。人々は捕虜であるが、インパルスたちの戦闘の飛び火で壁が壊れ、そこから逃げ出したのである。
「アイツら・・なんてことを!」
シンが兵士たちに怒りを覚える。
「ランガー!」
見過ごせないと思った海潮の叫びで、ランガが動き出す。ランガが左手を伸ばして、人々と兵士を分断させた。
「な、何だ、コイツは!?」
「まさか、ザフトに味方するヤツらか!?」
兵士たちがランガを見上げて緊迫を覚える。彼らがランガに向けて、持っていたマシンガンを発射した。
ランガは射撃を受けても、全くダメージを受けず平然としている。
「やめろ!」
シンのインパルスも駆けつけて、兵士たちを追いかけていく。
「シン、何をやっている!?ミネルバに戻るんだ!」
アスランが呼び止めるが、シンは兵士を追い立てるのをやめない。
兵士たちを追い払ったインパルスが、人々を閉じ込めている格子を引き抜いて逃げ道を作った。人々がインパルスとランガを見上げて、戸惑いを覚える。
「よかった・・助けられた・・・」
人々の無事を確認して、海潮が安堵の笑みをこぼす。シンも人を救えたことに安らぎを感じていた。
そんなシンの行動を、アスランは快く思っていなかった。
現状の確認のため、海岸に着陸したミネルバと飛行艇。アンジュと孝一、海潮たちが訪れたミネルバのドックで、アスランがシンを咎めた。
「なぜオレの指示を無視して、あのような勝手な行動をとった?」
「目の前で人が襲われているのに、放っておくことはできません・・!」
アスランが問い詰めて、シンが不満を覚える。
「確かに指示に従わなかったのは悪いと思ってますが・・オレのあの判断は間違っちゃいない!あそこの人たちは、それで助かったんだ!」
感情を込めて自分の正当性を主張するシン。その彼の頬をアスランが叩いた。
「戦争はヒーローごっこじゃない!自分だけで勝手な判断をするな!力を持つ者なら、その力を自覚しろ!」
叱責をするアスランに、シンが鋭く睨み返す。
「私も、シンくんのあの判断は間違ってないと思います。私も同じように考えましたから・・」
海潮がシンの考えに賛成して、アスランに言い返してきた。
「オレたちがしているのは戦争だ。戦いを終わらせるために動いているが、使い方を間違えれば、その力で悲劇を生むことになるんだぞ・・!」
アスランが海潮に対しても注意を投げかける。
「君たちもランガという巨人の力を得たが、力を手にしたときから、いつかは誰かを泣かせることになる・・勝手な理屈と正義で、ただ闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者だ・・!」
「勝手な理屈と正義・・それは私たちの敵の方がやらかしてるんじゃないの?」
海潮たちにも忠告するアスランに、アンジュがため息まじりに言い返してきた。
「あなたがどんな経験をしてきて、ああたたちの世界で何があったのかは私は知らない。でも隊長相手だからって何でもかんでも言いなりってわけじゃないでしょ?」
「何を言っているんだ、君は!?勝手な行動を取れば、部隊全体が危険にさらされることになりかねないんだぞ・・!」
「少しは調べてきていると思ったけど、何も分かっていないようね、あなたは・・私たちはそれぞれ事情があるけど、馬鹿げたことを終わらせるために動いているの。あなたたちにとってそれが戦争だけど、私はこの馬鹿げた世界なのよ・・」
「馬鹿げた世界・・・!」
アンジュが不満を込めて語って、アスランが困惑を覚える。
「いくら命令違反になるからって、危ない目にあってる人を見捨てられるわけないですよ!」
海潮がアスランに向けて、さらに正直な考えを口にする。
「オレもそう思うな。特に美女ならなおさら見過ごせねぇ〜!」
「あなたは黙ってて・・」
孝一が続けて言って、恭子が呆れながら注意する。
「アスランさん、軍人は上官の命令は絶対だという認識は、オレも理解しています・・だけど、その命令のために見殺しにしていいわけじゃないのは、あなたも分かるはずです!」
カナタもアスランに反論をしてきた。カナタも危険にさらされている人を見過ごせないという考えを持っていた。
「だからといって、単独での勝手な判断が軽率であることは否めないわ。」
カナタたちの前に来たのはタリアだった。
「グラディス艦長・・・」
「軍人は任務を確実に遂行し、上官の命令に従うのが鉄則。部下が上官に従うことで、統率や連携が成り立つのよ。1人の勝手な行動でそれらが崩壊することになることを、あなたたちも心に留めておいて・・」
カナタが戸惑いを覚える中、タリアが軍人のあるべき姿について語っていく。
「特に協定の間柄にある私たち全員も同じことが言えるわ。みなさんも、それを忘れないように・・」
タリアはそう言うと、カナタたちの前から去っていった。
「グラディス艦長まで・・・」
「オレたちはまだ、手を組んでいるだけってことなのか・・まだお互い、心から分かち合っているわけじゃない・・・」
海潮が落ち込み、カナタがタリアの言葉を重く受け止める。シンもアスランもアンジュも不満が入り混じった複雑な気分を抱えていた。
カナタとシンたちがわだかまりを感じたことは、ルナマリアたちやサリアたちにも知れ渡っていた。
「ヒーローごっこねぇ・・あたしらは正義の味方を気取ったこともないね・・」
「むしろ悪者扱いされてたからね、世界から・・」
ヒルダとロザリーがアスランの言ったことに対する皮肉を口にする。
「でもアスラン隊長やグラディス艦長の言い分は分かるわ。部隊は連携が重要になるから。」
サリアがアスランたちの考えに賛同する。
「何よ?私に不満があるっていうの?」
アンジュが文句を言って、サリアが肩を落とす。
「シンは力を求めてきた。戦いを終わらせるために、2度と戦いを起こさせないために。」
レイがシンのことをアンジュたちに語る。
「ザフトの一員となって力を得たという確信を持って、今回、危機にさらされた人を救った。そうした自分の功績を非難されて、シンは不満を感じているのだ。」
「自分の力を認められたいってわけね・・あんな世界の連中に認めてもらおうとしても、何の意味ないのに・・」
レイからシンのことを聞いて、アンジュが呆れてため息をつく。アキホたちの言動で、アンジュは見知らぬ人を守ろうとする意思が持てなくなっていた。
「私は分かる気がするよ・・感謝されたら、認めてくれたら、やっぱり嬉しいですし・・」
海潮はシンに共感する。力を手にしてできるようになったことや力を持つ者の責任を、彼女は考えていた。
「そういやオレも、ただペンギンロボや敵をやっつけることを気にして、正義とか平和とかちゃんと考えてなかったな・・」
孝一も腕組みをして考えを巡らせる。
「後は美女とエッチなことぐらいね・・」
「そうだ!オレからエロを取り上げたら何も残んねぇ!」
恭子が肩を落とすが、孝一が誇らしげに言い放つ。
「この変態男にはついていけないわよ・・」
夕姫が有頂天になっている孝一に呆れ果てていた。
「ところで魅波さん、あなたたちが住んでいる武蔵野はどういうところですか?」
エルシャが武蔵野のことを魅波に聞いてきた。
「どういうところって、普通の町よ。田舎ってわけでもないけど、都会みたいににぎやかというわけでもない。」
魅波が武蔵野の町や自分たちの家を思い出していく。
「普通の町、普通の日常・・私たちは、それさえも手に入れることが許されなかった・・・」
サリアが物悲しい笑みを浮かべて、日常に対する憂いを感じていく。
ノーマというだけでマナを持つ者と同じように日常を過ごすことができなくなる。アルゼナルでの時間や戦いが自分の居場所になったが、日常に対する思いは彼女の心の奥底にもあった。
「まぁ、アルゼナルよりは自由に過ごせるかなとは思うけどね・・」
夕姫が続けて武蔵野のことを話していく。
「ま、こうして移動できるってだけでも十分自由だけどね。」
ヒルダが笑みをこぼして皮肉を口にした。
「でも気になるのは武蔵野が、日本がどうなっているかね・・」
魅波が深刻な面持ちを浮かべて、懸念を覚える。
「連合と同盟は結んでいないけど、その結果どういうことになっているか・・・」
「連絡を取りたいけど、ここからじゃ携帯がつながらなくて・・・」
レイが現状を話して、魅波が茗たちのことを気にする。
「プリンスからの連絡だと、日本が同盟軍に制圧されたという話も出ていないわ。それでも狙われているのは間違いないでしょうから、急いだほうがいいのは変わらない・・」
恭子も現状を話して、ルアマリアたちが深刻な面持ちを浮かべる。
「そういえばラブちゃんとカナタくんは?」
「外の風に当たりに行くって言っていたけど・・シンくんも・・」
ルナマリアからの問いに答えて、海潮がカナタたちのことを気に掛けた。
アスランから叱責され、タリアからも苦言を呈され、シンは不満を拭えずにいた。その彼のそばにカナタとラブがやってきた。
「人助けをしたのに注意をされたら、いい気がしないよな・・」
カナタが声をかけて、シンが目を向ける。
「オレもカンナを連れ戻したいと思ってる・・気持ちが伝わらないことに、納得がいかないと思うことがある・・」
「それってアンタたちだけのことじゃないか・・オレはみんなのために・・・」
「認められたいって気持ちがあることは共通しているじゃないか・・」
「いや、それだけじゃないか・・・」
自分たちのことを話すカナタに、シンがため息をつく。
「納得いかないこと、誰でも感じることだよね・・それでも納得しようと、納得できるようにしようとするのも・・」
ラブもシンに向けて語りかけていく。
「お姉ちゃんに戻ってきてほしい・・たとえ綺麗事だと言われても、夢みたいな話だと言われても、それが私の正直な気持ち・・」
ラブが真剣な面持ちでカンナへの思いを口にする。
「世界を元に戻したい、この戦いを終わらせたい。他にもやらなくちゃって思うことはたくさんあるけど・・」
「そんなわがままで、戦いを終わらせられると思ってるのかよ・・」
「よく考えたら、戦いを終わらせようとするとか、正義とか平和を取り戻そうとか・・それも結局はわがままの集まりだよね・・」
「オレは別にわがままでこの戦いを終わらせようとしているわけじゃ・・・!」
ラブに言葉を投げかけられても、シンは不満を解消できずにいた。
「オレはあのときシンくんがしたことに賛成しているよ。もし目の前で誰かが襲われていたら、オレも黙って見ているなんてできなかった・・」
カナタが口にしたこの言葉を聞いて、シンが戸惑いを覚える。
「たとえ行くなと命令されても、その後の結果が悪いものになるとしても、オレは助けに行った・・自分より強い敵がその前に出てきても・・・!」
「私も・・できることが少なくても、何とかして助けたいって気持ちがあるよ・・」
正直な考えを口にするカナタとラブ。他から何と言われても、その気持ちとカンナを連れ戻したいという思いは、どうしても捨てることができないと、2人とも思っていた。
「オレも、戦いを終わらせたい、戦いのない世界を実現させたいって気持ちはある・・・」
シンも捨てられない願いを確かめていく。
「あの隊長は勝手だと言っていたけど、やっぱりオレは間違ったことはしていないと思う・・」
「人を助けたことには自信を持っていいって、私も思うよ。」
カナタとラブが自分たちの意見を込めて、シンの行為を称賛した。
「2人とも・・ありがとうな・・」
戸惑いを感じたシンが2人に感謝した。
「オレだって戦える・・オレだって守れる・・もう何もできなかった無力なオレとは違う・・・!」
シンが昔を思い出して、今の自分に自信を持つ。
「そうだ・・オレもあのときの、災害の中で何もできなかったときのオレじゃない・・力を手にして何もかもできるってわけじゃないけど、必ずカンナを連れ戻してやる・・・!」
カナタも決意を強めて、両手を握りしめる。
「アンタの守るって気持ちも本物ってことか・・・」
シンがカナタの真剣さを受け止めて、共感を感じていく。
「改めてよろしくな、カナタ、ラブ。」
「うん。こちらこそよろしく、シンくん。」
シンとカナタが挨拶して、握手を交わした。2人のその手にラブが手を乗せてきた。
「私たちの結束が深まった瞬間だね。」
ラブが笑顔を見せて、カナタとシンが安らぎを感じた。3人は互いに認め合える仲間ができたと実感していた。
シンに叱責したことをカナタたちに反論されて、アスランは腑に落ちない気分を感じていた。
「勝手気ままに振る舞う部下がいるのは悩みの種ね。」
サリアが魅波とともにやってきて、アスランに声をかけてきた。
「あなたたちは・・」
「きちんと挨拶するのは初めてになるわね。私はサリア。パラメイルのメイルライダーの中隊の隊長よ。」
振り向いたアスランに、サリアが自己紹介をする。
「私は島原魅波。海潮と夕姫の姉で、私たちがランガの持ち主よ。」
「オレはザフト所属、フェイスのアスラン・ザラです。オレに何か用ですか?」
魅波も自己紹介をして、アスランが問いかける。
「私たちも、他の人をまとめるのが大変だから・・」
「えっ・・?」
魅波の言った言葉に、アスランが当惑する。
「私たちの妹はどっちも個性が強いからね。まとめるのが大変。特に今はランガもいて、2人とも我が強くなって・・」
正義感の強い海潮と社会への反発を抱いている夕姫のことを考えて、魅波が苦笑いを浮かべた。
「私もアンジュもヒルダたちも勝手で、彼女たちをまとめるのに苦労しているわ・・」
サリアもアンジュたちのことを思い出して肩を落とす。
「恭子さんも孝一くんの面倒に苦労しているし、シンくんもトゲがあるから、あなたもまとめるのに苦労しそうね。」
「はい・・オレはあまり得意な方じゃないですから。人付き合いとか・・」
魅波からさらに言われて、アスランが自分のことを打ち明けた。
「あんまり自分の考えを押し付けようとしても、お互い反発することになるから・・私も我が強いみたいだし・・」
魅波が話を続けて、アスランの肩に手を乗せてきた。
「自分の考えを言うのはいいけど、相手の言い分もある程度は聞き入れないとね。」
「はぁ・・」
彼女に励まされるも、アスランは理解しきれずに吐息をもらす。
「でも、放置したままにするのもよくないと思うわ。調子に乗ることがあるからね・・」
サリアは仲間の勝手な行動に対して苦言を呈した。それには彼女自身のアンジュへの対抗心が込められていた。
「その押し引きも考えないといけないということか・・・」
サリアの言葉も聞き入れたアスランだが、悩みは深まるばかりとなってしまった。
「お互い苦労が絶えないけど、乗り切るしかないわね。これから支え合ってがんばるわよ。」
「はい・・オレも、オレのできることをやります。」
魅波からの激励を受けて、アスランが頷いた。彼は苦悩と迷いを抑えて、次の任務に備えるのだった。
TV局での仕事をこなしながら、茗は世界の情報を集めていた。彼女たちは魅波たちと連絡を取ることができていないが、ミネルバの動きはニュースやネットを通じて、ある程度は把握していた。
「すっかりおかしなことになっちゃったわね・・でも魅波たちが無事だって分かって、とりあえずはひと安心ね。」
茗が情報を整理して笑みをこぼす。
「でもこっちも楽観視できる状況じゃないんだよね・・」
茗がTV局の窓から外を見た。彼女の前を通りがかったのはエースだった。
それも以前にランガと対峙したエースではない。以前のデータと提供された情報を元にして改良された新型「ビッグエース」である。
(エース部隊の新しい戦力。日本防衛のための導入だけど、ランガに対抗する意味合いが強い・・もしも魅波たちが武蔵野に戻ってきたら、ランガが・・・)
ビッグエースがランガに攻撃してくるものと予想して、茗は深刻さを募らせていた。
「ザフトの戦艦、ミネルバが武蔵野に入るとの情報です!」
そのとき、スタッフの1人がミネルバのことを報告してきた。
「撮影の準備をして!すぐに出るわよ!」
茗が撮影スタッフを連れて、ミネルバの撮影とカナタたちへの取材のために出動した。
日本防衛のための戦力増強という名目で、自衛隊はビッグエースという新たな戦力を導入した。
「このビッグエースさえありゃ、今度こそランガに負けねぇぜ・・!」
隼人が自信と高揚感を抱いて意気込む。
「そうやる気になるのはいいけど、あくまでこの国を守るのが1番の目的なんだからね。世界は今はごっちゃごちゃで、何が起こるか分かんない状態なんだから・・」
「分かってるって・・オレもわけが分かんなくなってるんだから・・」
エリナが注意して、隼人がため息まじりに答えた。2人とも混じり合った世界について、頭の中で整理しきれていなかった。
“鉄、天城、聞こえるか!?”
隼人たちのいうビッグエースのコックピットに、芳幸からの通信が入ってきた。
「竹末さん、どうしましたか?」
“プラントというところの戦艦が、ここに近づいてきている。MMもその戦艦に乗っているとのことだ。”
隼人が応答して、芳幸がミネルバの接近を知らせる。
「アイツが!?・・よーし!この新しいエースで、あのランガを止めてみせる!」
隼人がランガとの戦いを予感して、真剣な面持ちを浮かべる。
「あんなものがいなくても、世の中は平和なんだ・・アイツがいると、いつもの平和じゃない・・!」
「やってやろう!この国を守るのは私たちだってこと、みんなに見てもらおう!」
ランガを倒す決意を強める隼人に、エリナも意気込みを見せる。
「この近くで、あの戦艦が着陸可能なのは・・・!」
エリナがモニターの地図を確認して、ミネルバが降りられる広場を捜した。ビッグエースはその場所に向けて移送された。
ミネルバと飛行艇が日本に入り、武蔵野を目指して進行していた。
「やっと戻ってこれたよ、日本に・・!」
「ふぅ〜!生まれ故郷に戻ってくると、心は休まるぜ〜!」
海潮と孝一が窓から地上を見下ろして、安心を見せる。
「ここが日本ってところかぁ。王国ほど派手じゃないけど、穏やかそうだな。」
「牢獄暮らしよりはマシってとこだな。」
ヒルダとロザリーも日本の景色を見て呟く。
ミネルバの艦内では、メイリンが艦に向けて通信が届くのに備えていた。
「日本政府や各機関からの連絡はまだ来ません。」
「日本の領土内に入っているのよ。必ずどこかから連絡が入るはず。」
メイリンが現状を言って、タリアが周辺への注意力を維持する。
「魅波さん、もう少しで武蔵野に差し掛かりますが・・近くの広場に1度着陸します。」
“分かりました。そこでランガを下ろします。”
タリアが飛行艇に連絡して、魅波が答えた。ミネルバと飛行艇が武蔵野銀座に1番近い、平地の広い草原に着陸した。
「周辺の熱源は?」
「モビルスーツ、機体や機械の類の反応は、周辺にはありません・・」
タリアの問いを受けて、メイリンがレーダーに目を向けて報告しようとした。
「こちらに近づく熱源が1つ!モビルスーツではありませんが、機体の模様です!」
レーダーに現れた反応を見て、メイリンが声を荒げた。
「1機だけで!?どういうこと・・!?」
タリアがこの動きに疑問を持つ。ミネルバと飛行艇のいる草原に、移送されてきたビッグエースが現れた。
「あれは、この前ランガと戦ったメカ・・・!」
「いいえ・・姿かたちが少し違うわ・・改良型かもしれないわ・・!」
アンジュと恭子がビッグエースを見て声を上げる。ビッグエースが輸送車から降りて、ミネルバの前に出てきた。
「ランガ、出てこい!お前がその戦艦の中にいるのは分かってるんだ!」
隼人がカナタたちに向かって呼びかけてきた。
「鉄さん!?」
「あのエースにも鉄さんたちが乗っているの・・!?」
海潮と魅波が驚きの声を上げて、ビッグエースを見つめる。
「ランガを倒して日本に、世界に平和を取り戻す!」
隼人が決意を言い放って、ビッグエースが右手を構えた。彼はランガに挑戦状を叩きつけてきた。